『終わりの始まりは突然に』 作:のーとりあす
◆◇◆
「な、なんで……」
「──あなたが悪いのよ」
とある女ととある男がいた。
男は茶髪のイケメンで、女は黒髪の美人だった。
「わたし以外の女と付き合うなんて、赦せない」
女は思うのだ。
これは当然の報いだと。
男が浮気をしたから、女は男の腹をナイフで刺したのだ。
本当は自殺に見せかけるか、心中するかを考えていたのだが、突然混沌が訪れた。
国家はまともに機能せず、今なら混乱に乗じて彼を殺せると、聡明な彼女はすぐさま思いついたのだ。
「……な、なんで……あんた……となりのクラス、のっ、ぐふ──っ」
男は、女のことを知っていた。
彼女は高校の合同授業にて隣の席だったのだ。
彼は聡明で、人当たりが良く、コミュ力に優れた学校の人気者だった。
だから、彼女のことを知っていた。
知ってはいたが、
彼女でも何でも、なかった。
男は教室の壁に身体をもたれかかり、そうしてその瞳から光が消えた。
「……目が合ったのに。手が触れあったのに。わたしに声をかけてくれたのに。──わたしが先に好きだったのに」
つまり、そう言うことであった。
「あなたの為に化粧を覚えたのに。あなたの為にチョコを作ったのに。あなたの為に邪魔な女を消したのに。あなたの為に、あなたの為にっあぁなぁたぁの為にぃぃぃ」
ポケットから取り出したハンカチを噛みながら女──
まるで狂気、彼女はメンヘラちゃんであった。
「あぁぁあなた、あなたあなたあなた、死んでも愛してる。死んだあなたをちゃんと愛するわ、さ──はやくこの人をゾンビにしないと、腐っちゃう」
女は、狂っていた。
そして、元から狂っているがゆえに、女はいち早くこの混沌に適応した。
そうして、聡明な彼女は気づいたのだ。
ゾンビは腐らないということに。
まるで埒外の思考である。
尋常じゃない。
「ヴあ」
「ああ、ちょうどよかった。ほら、こっちにおいで、鈴木さん」
「あ゛~」
一匹のゾンビがちょうどよく彼女の前に現れた。
鈴木さん──男の彼女であった。
素朴そうな少女、きっと生前は誰からも好かれるタイプの女の子だったに違いない。
「んーあなたを使うのは本当はちょっと嫌なんだけど……ま、わたし、心の広いイイ女だから、そんなことで嫉妬なんかしないわ、あなたで我慢してあげる」
「ヴっ」
タリスは、蹴りを放った。
上履きの先が煌めいた。
その靴先にはナイフが仕込まれていた。
何故そんな凶器を仕込んでいるのか。
いったい何に使うつもりだったのか。
いや、驚くべきはそこではない。
「──しょっと」
タリスは躊躇なく、ゾンビの首を切り裂いた。
美しい蹴り、まるで人の首を切り落とすことに慣れているかのようだった。
胴体と泣き別れした首は宙を舞い、タリスの前まで飛んできたところをその髪を掴んで捕まえた。
「ッう゛…………」
「ふーん、首を取っちゃうと腐っちゃうのね、気を付けないと。ふんふふーんふふん♪」
そう言って、鼻歌を歌いながらその首を彼のもとまで持っていき、
「はい、あーん」
ガブ
顎を外して口を開き、彼の手に噛みつかせたのだ。
「──ば……あ゛……」
すると、死体だった男が動き出したではないか。
「うふふふふふふ、可愛い。可愛いわ……可愛いけど……あぁ──もう飽きちゃった」
嗤い、嘲り、蔑んで、タリスは男の首を切り取った。
「……頭だけあればいいかしら……あ、やだ、取ったら腐っちゃうんだった、あはっ、じゃあイーラナイ」
ポイっと、頭部を窓から捨てた。
そうしてタリスもまた窓に足をかけて、
「うふふ、またいい男探さないと……」
そこから飛び降りて、新たな恋を探しに行くのだった。
彼女はメンヘラ、謎多き、そして恋多き乙女である。
◆◇◆
メンヘラでもいいから彼女が欲しいと思っている勘違い童貞諸君。ワタシもだ。同志よ。