トレーナー君はおしまい!–タキオンの薬で『女の子』になった男トレーナーが担当ウマ娘にお世話される話–   作:カンヌシ

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 お待たせしてしまいました……!m(__)m


サトノダイヤモンド:その8『集いし高貴なウマ娘たち』

 

 

 

「シ……シリウス……!」

 

 

 予想外の出来事に目を見開いて、トレーナーは砂浜に乗り上げたクルーザー、その上から彼を見下ろすウマ娘、シリウスシンボリを見上げる。

 

 続けて甲板をカツカツならして更に2人のウマ娘が顔を出した。

 

 

「こんにちは、ダイヤちゃん! 突然お邪魔しちゃってゴメンね!」

 

「ご機嫌よう、ダイヤさん。その……お怪我はございませんでしたか? ビーチに乗り上げる時に巻き込まれそうな場所にいらしたように見えましたが……」

 

 

 ファインモーションが手を振りながら挨拶し、メジロアルダンも『砂浜のウマ娘』を心配する。

 

 

「ファインにアルダンまで、どうしてみんなここに……?」

 

 

 トレーナーは呆気に取られて呟く。

 

 

「そいつは自分の胸に聞くんだな……」

 

 

 シリウスがへりに足をかけてクルーザーから身を乗り出して言った。

 

 

「トレーナーが行方不明になっている事を『お前』が知らないはずがないだろう。さあ、知ってる事を全て吐いてもらうぞ……『サトノダイヤモンド』!」

 

 

 ギン!と効果音が聞こえそうな鋭い眼光でシリウスはトレーナーを睨み付ける。

 

 

「えっ? あ、いやその……」

 

 

 トレーナーは戸惑った。シリウスに刺し殺されるような眼光を向けられる事には慣れきっていたので微塵も動揺しなかったが、自分がサトノダイヤモンドと呼ばれる事の違和感と、どう答えれば良いのかの迷いがあった。

 

 

(突然俺がトレーナーだと言ったら不審に思われるかな……でも、サトノトパーズだと言うのも……)

 

 

「え、えっと……俺は……ダイヤじゃない」

 

「あぁ……?」

 

 

 シリウスが目を細め、呆れたように言葉を紡ぐ。

 

 

「おいおい、ダイヤ……お前はいつからそんなつまらない事を言うようになったんだ? 言うに事欠いて自分はダイヤじゃないだと? ブレーキを外してアクセルをもう1つ追加したダンプカーの様なお前が……」

 

 

 シリウスは途中で言葉を止めた。そして訝しむ目付きで砂状のウマ娘を見つめる。

 

 

「……ファイン、アルダン、ここで待ってろ」

 

「……? シリウスさん、どうなされたのですか」

 

 

 と、アルダンが言い終わる前にシリウスは砂場に飛び降りていた。ザザッと音を立てて着地すると同時にトレーナーに向かって足早に歩き出す。

 

 

「え……シリウス?」

 

 

 威圧的な雰囲気を纏ったまま眼前まで迫ってきたシリウスに、流石のトレーナーも少したじろいだ。

 

 

「……やはりな」

 

 

 シリウスがそう呟いた瞬間、トレーナーの視界から彼女が消えた。

 

 

「え……へぁ!?」

 

 

 グルンッ!!! ザシャアアア!!!

 

 

 そして続けて世界がぐるりと回った。ふわふわと風こごちを感じる事なんてなく、トレーナーは正面から砂に頭を押し付けられる。

 

 更にシリウスはトレーナーの背中から覆い被さり、腕と脚を絡めて彼の全身を拘束した。彼の背中にシリウスの膨らみが押し付けられるが、彼にそれに喜びを感じる余裕など微塵もなかった。それ程にシリウスの動きは『ガチ』だった。

 

 トレーナーは頭の片隅に思い出した。そう言えばシリウスは『サバット』なる護身術を身に付けていると聞いたような……と。

 

 

「わぷっ、ペッ! 砂が! ちょ、シリウス何をするんだ!? イダダダダダダダダダダ!!」

 

 

 グギギッ……とトレーナーは抵抗するが、力量はシリウスの方が勝っている。ファインとアルダンもシリウスの突然の行動に驚愕の声を上げる。

 

 

「「シリウス(さん)!? 」」

 

「アンタらはまだ降りるな!」

 

 

 飛び降りようとした気配を察知してシリウスは声を張り上げた。その姿勢のまま、彼女は冷ややかな声でトレーナーに話し掛ける。

 

 

「私を気安くシリウスと呼ぶな。お前……『サトノダイヤモンド』じゃねぇな? アイツはああ見えても大企業の令嬢だ。強盗や誘拐への対処法は幼少期から叩き込まれてる。普段の視線や立ち位置、姿勢を見れば分かる。だがお前にはそれが無え、ダイヤと同じ顔をしてるのに気持ち悪りぃ……何者だ、答えろ……!」

 

 

 ギリリ……と拘束が更にキツくなる。

 

 

「ぐっ……シリウス……とにかく離し……」

 

「敵意が無ぇのは分かる。だが、『怪し過ぎる』……今私らには一大事が起こってるんでな。知ってる事全て吐いてもらうぞ」

 

 

 トレーナーは必死でもがくが秒毎に苦しくなる。シリウスは冷徹な態度のまま、多少痛めつけた方が情報を吐き出させやすいかと考えていると……

 

 

 

「シリウスさんッ! その娘を離して下さいッ!!」

 

 

 

 走って息の上がった険しい表情をしたサトノダイヤモンドがクルーザーの側まで来ていた。

 

 

 

「えっ、え? まあ! ダイヤさんが2人……!?」

 

「ええええ!? 本当に2人居たの!? 『あの人たち』がサトノ家の他のウマ娘を見間違えたって思ってたのに!? あ、分かった! これがジャパニーズカゲムシャなんだね!」

 

 

 アルダンは口に手を当て、ファインは目を見開いて驚く。対してシリウスは冷静に目線だけをダイヤに向けていた。

 

 

「……本物のお出ましか。ダイヤ、コイツは何者なんだ?」

 

「っ……その娘は『サトノトパーズ』、私の妹です……」

 

 

 ダイヤは一瞬言い淀んだ。そして、それをシリウスが見逃すはずもなかった。

 

 

「それで『はい、そうですか』って納得させられると思ったのか? トレーナーが失踪してんだ。他ならぬお前がそれを知らないはずがないだろう。知ってる事を話せ、ダイヤ。トレーナーはどこに居る?」

 

「っ……そ、それは……」

 

 

 ダイヤの視線が一瞬、シリウスに組み敷かれているトレーナーに向く。

 

 

(ぐぐ……俺が失踪してる? それはどう言う……)

 

 

 その妙な間をシリウスは敏感に察知した。4人のメンバーの中で最も野生的で勘の鋭い彼女だからこそだった。そして、天性の頭のキレでこの状況を俯瞰していた。

 

 

(……ダイヤの様子からしてトレーナーの失踪に絡んでいるのは間違いねえ。だが、なんだこの妙な雰囲気は? それに何よりも私が押さえつけてるコイツ……何故こんなタイミングで現れた?)

 

 

 シリウスは脳裏にあり得ない解答が浮かぶ。彼女は手足に感じる圧迫感に気を集中する。抜け出そうともがくその謎のウマ娘は間違いなく『本物のウマ娘』だと彼女には分かる。身体の柔らかさもその膂力もそうとしか感じさせなかった。

 

 しかし、彼女の勘が告げていた。このウマ娘は……

 

 

「トレーナー……なのか?」

 

 

 シリウスはそう呟いた。すると、砂に押し付けられたウマ娘は心底驚いた表情をした。

 

 

「っ!? そ、そうだ! 俺だ、シリウス! お前たちのトレーナーなんだ! この姿じゃ信じてもらえないかもしれないけど、本当なんだ!」

 

「…………マジかよ」

 

 

 彼の言葉に偽りは無いと感じたシリウスは、手脚を緩めて彼の拘束を解いた。ふらりと立ち上がって手で頭を押さえて天を仰いだ。このとんでもない現実に脳の処理が追いつかないと感じていた。

 続けてトレーナーも立ち上がって痛む手足を自分で揉む。

 

 

「痛つつ、少しは加減してくれシリウス……と言うか、俺が行方不明ってどう言う事だよ!?」

 

「ちょっと待ってくれ……頭ン中整理させろ……」

 

 

 一方で、ファインとアルダンもビーチに降り立っていた。そして、逃すまいと言う雰囲気でサトノダイヤモンドに詰め寄った。

 

 

「ダイヤちゃん? これはどう言う事なのかな〜? トレーナーさんをジャパニーズカゲムシャにしたかったのかな〜?」

 

「ふふふ、じっくりとお話を聞かせて下さいね」

 

「あ、その……えっと、うぅ……」

 

 

 ズイッと近付いて圧をかけてくる2人を前に、ダイヤは耳をシュンと垂らす他なかった。

 

 

 

 

 

…………

………

……

 

 

 

 

 

「はぁ……つまり、アグネスタキオンの薬でトレーナーはダイヤの姿に変身しちまってると。んだそりゃ、どこの漫画の話だよ」

 

 

 シリウスシンボリは砂場に正座しているダイヤの前で、心底理解に苦しむという表情で腕を組んで立っている。

 

 

「すご〜い! 本当にトレーナーさんなの!? 髪もサラサラだし、お肌もスベスベだし、本物のダイヤちゃんと瓜二つだよ!」

 

「まあまあ、これは真に驚嘆と言わざるを得ませんね。こちらの方も本物でございますか? 昨今の技術の進歩は著しいですから、詰め物やシリコンという可能性も……」

 

「うわっ、ま、待て! ファイン、そんな引っ張るな……って、ひゃわあああああ! アルダン! そんなトコ触るなあっ!」

 

 

 そしてトレーナーの方はというと、ファインとアルダンに揉みくちゃにされていた。

 

 

「うぅ、私の計画が……なぜこの島にいるとバレてしまったのでしょう……? 隠蔽は完璧だったはずなのに、もはや宇宙から衛星で探す他ないってくらいに徹底してたのに……ん、衛星? まさか……!」

 

 

 ダイヤが空を見上げていると、そばにファインとアルダンが近づいて来た。

 

 

「ふふん、どうやら気付いたようだね! お父様に『私のトレーナーが行方不明になった』って伝えたらすぐに軍を動かしてくれたの! 軍事衛星を使って日本全国を探査したんだって。そしたらトレーナーさんは見つからなかったけど、ダイヤちゃんは発見できたんだ。2人居るって報告だったんだけど、まさかこんなコトになってるなんてビックリだよ」

 

「ええ、私はその報告を聞いてすぐにメジロ家が贔屓にしている船舶会社様に、クルーザーの中で最もスピードが出る船種を用意して頂きました」

 

 

 続けてシリウスが不敵な笑みを浮かべて言う。

 

 

「そして、免許を持っている私がクルーザーを操縦して来たってわけだ。メジロ家が用意するドライバーじゃかっ飛ばしてくれなかっただろうしな。ま、珍しく私らのチームプレイが功を奏したってわけだ」

 

 

 「うぅ……」とダイヤは耳を垂らしてションボリする。ザ・ロイヤリティーズでないと不可能なジェットストリームアタックには流石のサトノグループも分が悪すぎた。

 

 

「シリウス、ファイン、アルダン、あまりダイヤを責めないでやってくれ」

 

 

 トレーナーはそう言いながらダイヤと他のメンバー3人の間に割って入った。それを見てダイヤは茫然と見上げ呟く。

 

 

「トレーナーさん……?」

 

 

 トレーナーは3人を見渡した後にダイヤに振り返った。

 

 

「ダイヤの事だ、きっと俺に気遣ったつもりがまた暴走したんだろう。最近休みが取れてないって俺もボヤいちゃってたし。ダイヤとそっくりなウマ娘になってたのはサプライズにしては大掛かりで驚いたけど、俺に日頃の疲れを忘れさせたかったって感じじゃないか?」

 

「え、ええっと……そうなんです! その、トレーナーさんには生まれ変わったようにリフレッシュしてもらいたくて……うぅ」

 

 

 流石のダイヤも一抹の罪悪感を覚えたのか、だんだんと声がしぼむように小さくなる。

 

 

「そんな事だろうと思ったよ。でも今度からはウマ娘にするのは止してくれよ。流石に男としてのアイデンティティが崩壊してしまうからな! はっはっはっは」

 

 

 そんな爽やかな笑顔でダイヤを許すトレーナーの態度に、シリウスとファインとアルダンは「はぁ〜」と呆れたようにため息をつく。皆もちろん、今回の騒動がトレーナーを我がものとする為のダイヤの策略だと気付いていた。しかし、恋愛の事となるとトコトンまで鈍感になるヒト属トレーナー種のこの男にはロイヤリティーズ全員がチーム結成以来ずっとお手上げだったのだ。

 

 

「でも、薬の効果が切れるまではこの島に居た方が良いかな。余計な混乱を引き起こしかねないからダイヤの姿でトレセン学園に帰るわけにはいかないし……」

 

 

 そう呟くトレーナーの背後に、ファインモーションがゆっくりと近付いた。そして肩から覆いかぶさるように背中から抱きついた。

 

 

「あはっ♪ トレーナーさん、捕まえた!」

 

「うわっ!? ファイン、急に抱きつくんじゃな……」

 

 

 続けてファインはトレーナーの『ウマ耳』に吐息がかかるくら口を近付けて悪戯っ子な雰囲気な声で囁いた。

 

 

 

「くすっ♪ ねぇ……トレーナーさんはどうしてこんなにセクシーで可愛い水着を着けてるのぉ?」

 

「ひぃうっ!?」

 

 

 

 思ってもみなかった蠱惑的な美声に、トレーナーは背筋にゾクッと電流が流れるような錯覚に陥った。

 

 

 

「男としてのアイデンティティが崩壊するって言ってたくせに……もしかして趣味なのかなぁ? トレーナーさんはウマ娘になってこんなおヘソも丸出しで上も下も『女の子らしさ』が強調された水着を着たかったのかなぁ? ほれほれ、正直に申してみよ〜その可愛い声で〜」

 

「ばっっっ、そ、そんなワケないだろ! こ、これはダイヤに無理矢理着せられたんだ! 替えられるなら今すぐにでも着替えたいわ!」

 

 

 

 それを聞いてファインがニコリを妖しい笑みを浮かべる。

 

 

 

「言ったな〜、今『着替えたい』って言ったな〜。うん、分かった! そんなトレーナーのために私が別の水着を選んであげるっ♪」

 

「え……いや、そんな意味で言ってな……」

 

 

 トレーナーの言葉を無視してファインは彼の右腕に腕を回してホールドしていた。

 

 

「ダイヤちゃん! ドレッシングルームまで案内してくださる? トレーナーもダイヤちゃんには怒ってないし、『4人』でトレーナーとバカンスしましょう?」

 

 

 ファインは『4人』を強調して言った。内心ではダイヤの抜け駆けをまだ許していない事が彼女には伝わった。トレーナー本人はもちろん微塵も察していない。

 

 

「うぅ……2人きりのバカンスが……(涙目&小声)。はい、こちらの方ですぅ……」

 

「ちょ、ダイヤも案内しようとするな! そうだ、アルダンなら助けてくれる……え?」

 

 

 いつの間にかアルダンはトレーナーの左腕に腕を回してギュッ!とホールドしていた。

 

 

「ふふふ……トレーナーさんには行方不明になって私たちをとっっっっっっても心配させた責任、取ってもらいませんとね。僭越ながら私もトレーナーさんの水着を選ばせて頂きますね♪」

 

「それ俺の責任じゃないよな!? なぁ、シリウス! そうだろ!?」

 

 

 そしてシリウスは新しいオモチャを見つけたと言わんばかりにニヤニヤと妖しい笑みを浮かべていた。

 

 

「考えてみれば、中身が男のウマ娘で遊べるなんざ奇跡でも起こらねえと有り得ねえよなぁ……水着ごときでじゃれつく趣味はねえが、今回は特別だ。私もとびっきりのヤツを選んでやるよ、トレーナー。なに、今は女同士だ……恥ずかしがる事ないだろ……?」

 

 

 四面楚歌、八方塞がり、まな板の上の鯉、トレーナーには超がつくほど高貴なウマ娘たちの着せ替え人形となる運命しかなかった。

 

 

「ひっ……誰か、誰か助けてくれえええええ!!!」

 

 

 トレーナーの叫びも虚しく、彼は衣装小屋の中に連行された。

 

 

 

 

 燦々と輝く陽はまだ高く、トレーナーは羞恥の感情の嵐に飲み込まれながら、たっぷりと水着の着替え地獄(いや、天国か?)を味わうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 次で本当に一旦区切りがつきますので、なるべく早く出すよう頑張ります……!
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