トレーナー君はおしまい!–タキオンの薬で『女の子』になった男トレーナーが担当ウマ娘にお世話される話– 作:カンヌシ
マンハッタンカフェのお話はこれで一旦締めとなります。
チュチュン……チュチュ……
朝日の中で小鳥たちが唄う声が聞こえて来る。
窓から差し込む柔らかな光で、部屋の中はぼんやりと明るくなっていた。
入り口から覗いて右手のベッドには黒髪ロングの幼い顔つきの『女の子』がくーくーと可愛らしい寝息を立てていた。そんな彼女の寝顔をマンハッタンカフェは微笑みながら眺めていた。
「くすっ……可愛い……」
カフェは『女の子』の垂れた髪を耳の後ろにそっと掛けてあげると、そのまま彼女の頭をゆっくりと撫でる。
『女の子』を起こさないように、優しく見守るその姿はまさに妹が大好きなお姉ちゃんだった。
カフェが指先で『女の子』の滑らかな髪の感触を楽しんでいると、ピクンとその子の薄瞼が揺れた。
「ん……んぅ……」
「起こしてしまいましたか……? 早朝ですから、まだ寝ていて良いんですよ」
薄らと、その小さな瞼が僅かに上がる。焦点の合わない目で、『女の子』はぼんやりとカフェを見つめていた。
「か……ふぇ……?」
舌足らずな声で『女の子』が呟く。その愛らしさにカフェの母性ならぬ姉性が烈しく揺さぶられた。カフェは反射的に『女の子』を胸の中に抱き締めた。衝動を抑えきれず、ちょっとした出来心で庇護欲のままに行動してしまう。
「カフェじゃくて……『おねえちゃん』って……呼んでください……」
カフェは『女の子』の耳元にそっと囁いた。
「んぅ……おねえ……ちゃん……んん〜」
すりすり……と『女の子』はカフェの胸に顔を擦り付ける。微睡んだ意識では元々の理性は一切働いておらず、その肉体のままの行動を取ってしまっていた。
「っ〜〜〜〜〜!!!!」(キュゥン!)
カフェの耳と尻尾がパタパタと動く。彼女の中に今まで感じたことのない種類のホットミルクのような温かい感情が沸き起こっていた。
「はい……今だけでも、私はあなたの『おねえちゃん』ですよ……♡」
カフェがもう一度ぎゅっと『女の子』を抱き締めて頭を撫でると、再びくーくーと可愛らしい寝息が聞こえてきた。
「……………でも」
彼女には分かっていた。この幸福な時間は有限である事に。タキオンの実験から始まったこの思わぬ事態も灰かぶりの魔法のように今日の夕方で消えてしまう事を。
(……トレーナーさんは今は『女の子』……だったら『良い』……ですよね。今だけ……この時だけ、ですから)
カフェは少し緊張した面持ちで、ゆっくりと『女の子』の顔に自分の顔を近づける。そして『女の子』の前髪をかき上げて、そのおでこにそっと唇を触れさせたのだった……
ーーーーー
「ん……んんっ……眩しい……」
トレーナーはごろんと寝返って、窓から差し込む朝日に背を向ける。すると、ふよんと暖かく柔らかいものにぶつかった。
「んんぅ……?」
トレーナーがぶつかったものを見る。その目の焦点は今はハッキリとしていた。そこには横になって自分を見つめてる担当ウマ娘の顔だった。
「……お早うございます、トレーナーさん。ぐっすりと眠れましたか?」
トレーナーは目を眠そうにパチパチさせる。そしてこの状況を脳が理解した瞬間、目を見開いてパニックを起こした。バッと跳ね起きて、ベッドの上に膝立ちした。
「っ!?!? カ、カカカ、カフェ!? 何で僕の部屋に!?」
「トレーナーさん、落ち着いて下さい」
「あ、あれ!? 声が……手が……寝巻きも僕のじゃないし……身体が変……だ……?」
トレーナーが自身の胸を見やると、パジャマを押し上げる2つの山があった。それを思わず鷲掴みにすると、神経の通った膨らみの感触がトレーナーを襲った。
ムニョン
ムニョニョン
「これ……おっぱ……まさか……!?」
トレーナーは膝立ちのまま更に股間に両手を当てた。そこに朝は元気になっているはずの息子は不在だった。
「な、無、な、無いぃぃぃ!?!?!?」
「トレーナーさんっ!!」
ガシッとカフェがトレーナーの肩を押さえる。彼は涙目で混乱している様子だった。
「カフェ……ぼ、僕、おお、女の子になって……」
「落ち着いて下さい。あなたは昨日の夕方から女の子です。タキオンさんの薬で変身してしまって、その後私の寮の部屋まで来たでしょう? ゆっくりと思い出して下さい……」
「あ……あぁ……」
トレーナーは思い出した。タキオンの研究室での実験や、カフェの寮まで来て色々なことをした記憶が段々と鮮明に思い出されてきた。
「そ、そっか……僕は……」
「きっと寝起きで感覚と記憶がリセットされたのかもしれませんね……今まで男性として生きてきて、『女の子』の身体で朝を迎えるのは初めてでしょうし……」
トレーナーは身体の違和感が拭い去れないといった風にモジモジする。そして、更に何かを思い出そうとするように頭を抱えた。
「う〜ん、昨日カフェのベッドに引き摺り込まれた所まではハッキリ思い出したんだけど、その後の記憶が無いな……疲れすぎてて直ぐに寝ちゃったのかな?」
「…………はい、きっとそうです。トレーナーさんはぐっすりと眠っていましたから」
「そっかー、確かに昨日は……その……タイヘンだったからね……」
それはトレーナーの肉体の防衛本能だった。昨夜の『あの記憶』を保持したまま男に戻ったら精神や性機能に甚大な影響を及ぼしかねないので、彼の脳はその記憶を封印していたのだ。
マンハッタンカフェも昨夜と今朝の自分の行いを思い返すと顔から火が吹き出そうになるので、敢えて言及はしなかった。だが……
「とりあえず、顔を洗ってスッキリしたいな。カフェ、どっちが先に洗面台を……っ、うわぁ!?」
「っ!? トレーナーさん、危ない!!」
ブカブカのパジャマで膝立ちしていたのがいけなかったのだろう。トレーナーはベッドから降りようとすると、自分でズボンの裾を踏んでバランスを崩してしまった。あわや転落しそうになったところをカフェが抱き止めてベッドに引っ張り戻したのだった。
落ちる恐怖に焦ったトレーナーはカフェに首から抱き付いている状態だった。
「あ、危なかった……ありがとう、助かったよカフェ」
カフェもホッとして、トレーナーを抱きながらその耳元で呟いた。
「ほっ……お怪我はありませんか? 全く……手のかかる『妹』ですね……」
それはマンハッタンカフェの小さな悪戯心だった。ちょっとしたからかいのつもりだった。それを聞けばトレーナーは「妹じゃない!」と怒るだろうと予想していた。しかし、返ってきたのは予想外の反応だった。
そう、記憶が消えていても『身体』は覚えているのだ。マンハッタンカフェという空間に堕ちていったあの夜を……
「ひゃぁうんっ!!! ぅん、んっ……はぁ……んんぁ!!」
ビクンッビクンッ!とトレーナーは身体を震わせて、とてつもなく色気のある声で喘いだ。カフェは驚いて身体を硬直させた。すると……
「うぅん……おねえちゃん……好きぃ……♡」
スリスリスリスリスリスリ……
カフェの胸と鎖骨の辺りにトレーナーは頭を擦り付ける。その様子はさながら甘える子猫のようだった。その愛らしさにカフェはつい悶絶してしまう。しかし、彼の身に何が起こっているのか確かめねばならない。
「はぅっ……!! ト、トレーナーさん……どうしたのですか?」
「うぅん〜……おねえちゃ〜ん……」
トレーナーはカフェの質問に答えずにカフェにしがみつく。どうやら完全に男性としての意識を喪失しているみたいだった。更に続けて衝撃をカフェが襲う。
「おねえちゃん……おしっこ……」
「!? そ、それは……トイレに行って来れば……」
「おねえちゃんが連れてって〜」
トレーナーは更に強くしがみついてきた。カフェもこれ以上は平静を保っていられなかった。
『姉性』を……抑えきれなかった。
「……全く、しょうがないですね……連れてってあげますよ、私は『おねえちゃん』ですから」
カフェはヒョイとトレーナーを抱えたまま立ち上がった。ウマ娘の腕力ならば『女の子』ひとりくらい、ティッシュ1枚と同じようなものなのだ。そしてそのまま、2人は部屋のトイレへと向かった。
ーーーーー
「…………………?」
トレーナーはハッと意識を取り戻した。気絶から目覚めたというより、白昼夢から覚めたような感じだった。彼の目の前にはマンハッタンカフェが居た。周囲を見るとどうやら狭い空間にいるのは分かったようだ。
(僕はこんな場所にいつの間に座っていたんだ? しかし、なぜカフェはかがみ込んでいるのだろう? それに下半身がスースーするような…………っっっ!?!?)
「こら、動かないで……滴がまだ残っています。しっかり拭き取らないと不潔ですよ……」
ポンポンと何か柔らかい紙が、トレーナーの局部に押し当てられる。そこは人体の中でも特に大事な部分で……
「ひゃわぁあああっ!! カ、カフェ!? 何をやってるんだぁ!?」
突然の声にカフェはビクッとして耳と尻尾がピーンとなる。
「……もしかして、トレーナーさんですか?」
「もしかしなくてもそうだよ! なな、何で一緒にトイレなんかに!?」
「……トレーナーさんが連れて行ってくれと頼んだんですよ?」
「う、嘘だっ! そんな、僕がそんな事を頼むはずが……はっ! もしかして、薬で気づかぬ間に脳に何か影響が!?」
「……そうかもしれませんね。とりあえず、ここまで来たら最後まで済ませますので、トレーナーさん、脚を広げて下さい」
カフェがトレーナーの白く細い両脚に手をかけて、無理矢理開かせる。
「ま、待って、カフェ! 流石にこれは自分でやるから!」
「……いいえ、やはり女の子初心者のトレーナーさんには任せられません。まだ途中ですし、私が女の子の拭き方を丁寧に教えてあげます……」
カフェは再びトイレットペーパーをトレーナーの脚の間に差し込む。
「や……ま、待って! そこは、ダメっ、あっ、ダメェェェェ!!」
トレーナーは懇切丁寧に『ふきふき』されたのだった。
ーーーーー
場面変わって放課後、アグネスタキオンの研究室。何とかトレーナーとカフェたちは1日をやり過ごし、あと少しで薬の効果が切れる時刻となっていた。
そして、タキオンの目の前のソファにカフェとトレーナーが座っているのだが……
「おねえちゃん……そこのクッキー、おねえちゃんが食べさせてぇ」
「もう……自分で食べないんですか、甘えん坊さんですね……」
「だっておねえちゃんがあーんしてくれた方が美味しいんだもん!」
カフェにそっくりな小柄な『女の子』はカフェの指からクッキーをパクリと食べて、幸せそうな笑顔になる。その様子をタキオンは少し引き気味に眺めていた。
「……まるで本当の姉妹みたいだねぇ……ねえカフェ……トレーナー君は大丈夫なのかい? 一体何があったらそうなるんだい?」
カフェはくるりとタキオンの方を向いて言った。
「分かりません……ただ、耳元で私が囁くと少しの間こうなってしまうんです。後数分で戻ると思います」
トレーナーはスリスリとカフェの胸にほっぺを擦り付けていた。
「……だ、大丈夫だろうか? 男性に戻った時に、何か重篤な問題が発生しないか心配だよ……」
暫くしてトレーナーの男性としての意識が戻った後、彼は男性用のブカブカのシャツとズボンを着けて、研究室の3人は『その時』を待つ。
程なくして刻限がやってきた。トレーナーの身体がピンク色に発光を始めると
ボフーーーーン!!!
と、研究室が爆発と共にピンク色の煙で充満する。前日と同じようにタキオンが窓を開けて換気して、カフェは煙の中のトレーナーを探した。
「ケホっ、ケホっ、トレーナーさんっ!? 大丈夫ですか? トレーナーさんっ!」
モクモクとした煙の中に、1つの影があった。それはマンハッタンカフェが初めて心を許した男性で、彼女の唯一の『理解者』であるトレーナーの影だった。
「やった……戻れたぞ!!! お帰り、俺の身体!!!」
トレーナーは自分で自分の身体を抱き締めていた。側から見れば気持ち悪いが、彼は本気で嬉しそうだった。
「……良かったですね、トレーナーさん。本当にお疲れ様でした」
カフェは少しだけ寂しそうに笑った。あの『女の子』の事が少しだけ名残惜しかったのだ。
「ああ、カフェには色々とお世話になっちゃったな。あまり思い出したくない記憶もあるけど……」
「ふふっ、可愛かったですよ。『女の子』のトレーナーさんは……」
とにかく、事態はこれで収まったのだった。ちなみに後日、カフェはどうしても気になってトレーナーの耳元で再び『囁いて』みたのだが、トレーナーはびっくりしただけで特に変化は起きなかったそうな。
だがしかし、それは彼が元の男性の身体に戻ったからである。もしも、彼がまた『女の子』の身体になる事が有れば、その時に思い出すかもしれない。彼がマンハッタンカフェの『妹』になっていた事を……
「ところでタキオンさん、あの薬についてなのですが……」
カフェの言葉にタキオンはビクッとして振り向いた。
「あ、ああ、心配しなくともカフェ、あの薬は封印するよ。だからもう怒らないでくれよ〜」
「そうじゃありません」
カフェは深海へと続いていそうな不思議な目でタキオンを見つめた。そして、少し顔を赤らめて目を逸らす。
「その……あの薬はあなたの研究の中では珍しく非常に有益なものかもしれません。だから……また同じような薬を作るなら……少しならお手伝いしても……良いです」
その言葉にタキオンの顔はパァァと明るくなる。
「そうかい、そうかい! カフェもついに私の研究の価値を分かってくれたか! 良いとも、あの薬の改良は続けていくよ! ところで、それとは別にここに『飲むと透明人間になれるかもしれない薬』があるのだが、ひとつ実験台に……」
「嫌です」
騒動は、まだまだ続く……!?
これにてカフェ編は幕引きです。
現在、筆者の過去作を読みやすくした改訂版が連載中なので、もしよろしければそちらもよろしくお願いします。こっちと違って超シリアスな作品ですが、興味のあるからはぜひ。↓
https://syosetu.org/novel/315782