トレーナー君はおしまい!–タキオンの薬で『女の子』になった男トレーナーが担当ウマ娘にお世話される話–   作:カンヌシ

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 通ってこその王道……


サトノダイヤモンド:その3『お召し替え』

 

 

 

 

 

 サトノダイヤモンドに手を引かれてトレーナーは再び彼が目覚めた寝室に入る。その面持ちには暗い影がかかっており、不安を隠せていない様子だった。

 

 

(……俺は男だ。トレセン学園であの娘たちを担当するトレーナーだ。何故か『サトノトパーズ』というダイヤの妹になっているけど……)

 

 

 トレーナーはから元気で気合いを入れ直す。身体のあちこちが柔らかく揺れている感覚が、自己同一性の危機を助長させる。だが、とにかく今は気をしっかり持って事態の把握に努める事にした。

 

 部屋の中央まで来ると、ダイヤはトレーナーの手を離してクルッと振り返った。この休暇に心がワクワクしている、とその笑顔から読み取れる。

 

 

「お朝食を食べる前にお着替えしなくちゃね」

 

 

 パンパン!

 

 

 と、ダイヤが手を叩くと突然部屋の扉が開いて4人のメイドが入ってきた。1人だけ格好の違う恐らくメイド長と思しき女性が先導し、残りの3人は着替えを入れたバスケットを抱えている。

 

 4人は『姉妹』の前に一列に並ぶと、ピシッとお辞儀をした。

 

 

「お早う御座います。ダイヤお嬢様、トパーズお嬢様。本日のお召し物をご用意致しております。これよりお召し替えをさせて頂きます」

 

「ええ、お願いしますね」

 

 

 ダイヤは慣れたように両手を広げて、2人のメイドにパジャマを脱がせて貰おうとした。そして、トレーナーの方にはメイド長ともう1人のメイドがやって来て……

 

 

「トパーズお嬢様、両手を広げてお待ち頂けますよう、お願い致します」

 

 

 メイド長の言葉にトレーナーはビクンと後ずさる。彼は見た目はダイヤそっくりのウマ娘でも、中身は自立した成人男性である。幼い子供の頃ならまだしも、今誰かに着替えを手伝って貰っては羞恥心でどうにかなってしまうと思った。

 

 

「だだ、大丈夫っ……です! 着替えくらい自分で出来ますから! だから、服だけ渡して貰えれば……」

 

 

 メイド長はキョトンとした後、少しだけ目を細めて困ったような笑顔になった。

 

 

「トパーズお嬢様……お嬢様がトレセン学園での生活を通じてご自立なさっておられる事を、わたくしは心より喜ばしく、そして誇らしく感じております」

 

 

 それはまるで子供の成長を目の当たりにした母のような寂しさと喜びの入り混じる表情だった。トレーナーもそれを感じ取り、ドキリとする。

 

 

「ですが、わたくしたちメイドはサトノ家にお仕えし、お嬢様たちのお世話をさせて頂く事が至上の名誉であり、喜びに御座います。どうか、トレセン学園より離れたこの場でだけでも、以前と同じ様にお嬢様のお世話をさせて頂けませんか……? 一介のメイドの、切なるお願いに御座います」

 

 

 そう言って、メイド長は再び綺麗なお辞儀をする。それを見たトレーナーはたじろいでしまう。彼女の言葉からは本物の忠義と誇りを感じ取れたからだ。『サトノトパーズ』というウマ娘が愛されているのを、その身で感じてしまった。

 

 

「トパーズちゃん」

 

 

 ダイヤが横を向いて、トレーナーの方を見ていた。トレーナーも彼女を見つめ返す。

 

 

「トパーズちゃんがもう自分で何でも出来る事はみんな知ってるよ? でもサトノ家の人たちしか居ないここでは、色々な事を『任せるままにする』のもいずれサトノを導く者として大切な事なんじゃないかな。今だけは『昔みたいに』……ね?」

 

「う…………」

 

 

 トレーナーは自分自身の事ではないにしても、ダイヤの言葉は正しいと感じた。

 

 

(バカらしい想像だけど、もしかしたら……ここは『サトノトパーズ』というウマ娘が存在する世界で、自分はその子の身体を乗っ取ってしまっているんじゃ? だったら、ここで彼女の振る舞いから大きく外れる事をしてしまうのは避けた方が良いのかもしれない……)

 

 

 まだまだ何も分からない状況だが、今は流れに身を任せる時かもしれない。そうトレーナーは判断した。

 

 

「……うん、分かった……お願いします」

 

 

 小声でトレーナーは呟くと、それを聞いたメイド長と側に控えるメイドが準備を始める。

 

 

「ではトパーズお嬢様、胸を張って腕をお広げ下さい……」

 

 

 トレーナーは複雑そうな顔で言われた通りのポーズを取ると、メイド長は手際よくパジャマの前ボタンを外していった。トレーナーは出来心でチラッと下を見ると……

 

 

「っ!?」

 

 

 トレーナーは顔を真っ赤にしてバッと上を向いた。自分の胸元からまろび出た2つのたわわが一瞬見えてしまった。感覚で分かってはいたが、ブラは付けていなかった。

 

 

(うう……まずいまずいまずい! 『男』としても……『トレーナー』としても、見えてはいけない光景だぁ!)

 

 

「……トパーズお嬢様、何か至らぬ事がございましたか?」

 

「い、いえっ! 気にしないで下さいっ! 早く終わらせてくれると……ありがたいというかっ……!」

 

「承知いたしました」

 

 

 トレーナーの後ろにいるメイドは肩からパジャマの上着を脱がしにかかり、前にいるメイド長は屈んでズボンを下げる。スルスルという布擦れの音がこそばゆかった。

 

 

「トパーズお嬢様、足をお上げ下さいませ」

 

 

 トレーナーが言われた通りに片足を上げると、メイド長はズボンを手前にズラす、もう片方も同じようにして取り去る。これでトレーナーは下着1枚の姿となった。

 

 

(無心無心無心無心無心〜〜〜っ!!!)

 

 

 空気に触れる肌が身体のいたる箇所の情報を嫌でもトレーナーの脳に伝えてくる。自分の身体が健康な『ウマ娘』である事を分からせられる。しかも、大人なのに着替えを他人に任せている未体験の羞恥により、彼は顔が火照るのを止められなかった。

 

 

「トパーズお嬢様、最後はショーツです。失礼いたします」

 

 

 メイド長は躊躇いなく、スルリと『トパーズお嬢様』のショーツを下げた。

 

 

「ひぃうっ!?」

 

 

 ついに寝起きで少し汗ばんでいた全身が空気に晒されてしまった。トレーナーはキツく目を閉じているが、その全身が他のメイドたちには見られていると思うと脳が沸騰しそうになる。

 

 

「もう、トパーズちゃんったら、そんなに恥ずかしいの? お顔真っ赤だよ」

 

「だ、だって……!」

 

 

 「俺は本当は大人の男なんだぞ!」とトレーナーは心中で叫ぶ。目覚めてから有り得ない事態の連続である。

 

 

「トパーズお嬢様、次はご用意したショーツを履かせて頂きますゆえ、再び片足をお上げ下さい」

 

 

 トレーナーはこの時間が早く過ぎ去って欲しいと願いつつ、片足を上げた。出る所は出ている『サトノトパーズの身体』は、男性だったトレーナーからすると非常にバランスが取りにくいものだった。

 

 

(ヤバい……っ! 胸とお尻と尻尾で平衡感覚が狂わされる。男には無かった感覚で混乱する……っ!)

 

 

 それでも気合いでトレーナーはショーツに両足を通させた。それでホッとしたのも束の間、続けてメイド長はスッとそれを引き上げて、ピッチリと臀部と鼠蹊部を覆う様に調整する。ちなみにだが、ウマ娘のショーツには尻尾穴は無い。トイレの時に不便なので、尻尾穴はズボンやスカートに開けられている。

 

 

「ひゃっ!?」

 

「申し訳ございません、驚かせてしまいましたか?」

 

「い、いえ、だいじょうぶ……です……」

 

(ああ……『無い』……完全に無くなってるのが今分かった……うぅ)

 

 

 新たにピッチリと着けられた下着は、トレーナーの喪失感を増幅させる。尻尾が無意識に動いてしまった。だが、『無い』ならば『有る』……トレーナーの試練はまだ続く。

 

 

「トパーズお嬢様、続けてブラジャーをお着けいたします。お胸の下側から失礼いたしますね」

 

 

 今度は背後のメイドさんがトレーナーに声をかける。声色的にも、メイド長よりも年下な雰囲気がした。

 

 

「え……ぶ、ぶらじゃー?」

 

 

 トレーナーの素っ頓狂な声を無視して、メイドさんは肩紐の無いストラップレスブラを、膨らみを掬い上げるようにして装着させる。

 

 

「ひっ!? うっ!?」

 

「お胸をカップの中に整えますね。失礼します」

 

 

 メイドさんはブラと胸の隙間に手を差し込んで、色々と調整していた。未知の感覚と何をされているか分からない行為に、トレーナーは更に混乱した。

 

 

「ううぅぅぅ……………っ!」

 

 

 トレーナーはただただ必死に耐えた。クスッと笑い声が背後から聞こえた。

 

 

「トパーズお嬢様、またお胸がご成長なされましたね。形も綺麗で羨ましいです。そろそろ1つ上のサイズをご用意致しませんと」

 

「こら、余計な事は言わないでよろしい」

 

「は〜い、メイド長」

 

 

 メイドさんとメイド長の会話に、トレーナーはアットホームな雰囲気を感じたが、内心はそれどころではなかった。自分の胸が成長したなんて言われて、どう反応すれば良いのか検討もつかなかった。ピシピシと、彼の中の『男性としての自己同一性』が音を立てて崩れ始めていた。

 

 

「トパーズお嬢様、お下着の着け心地に問題はございませんか?」

 

 

 メイド長の言葉にぶんぶん、とトレーナーは首を縦に振る。

 

 

「では、続けて本日のお召し物を着させて頂きます。こちらのワンピースをご用意致しました」

 

 

 カラカラと移動式のハンガーラックの様な物を他のメイドが押して来た。そこにはレースをあしらったお揃いの純白のワンピースがあった。

 

 

「まあ、素敵! ねえ、トパーズも見てみて!」

 

「んぅ……」

 

 

 トレーナーはチラリと目を開けて、それを確認する。確かに、そこには素敵なワンピースがあった。きっとサトノダイヤモンドにはこの上なく似合うはずだ。それが意味する所は……

 

 

「それでは、お召し替えさせて頂きます」

 

 

 メイド長の一声でハンガーラックからワンピースが取り外され、それを持ったメイドが2人に近づいてきた。

 

 

「こちらのワンピース、お嬢様の魅力を最大限に引き出すデザイン性の維持のためにチャック等は備えておりません。なので、上から羽織る様にお着け頂く事になります」

 

「はい、分かりましたわ」

 

 

 トレーナーの隣でバサッと音がした。トレーナーには正直何が起こってるのか分からなかった。何故なら見ればサトノダイヤモンドの下着姿を拝む事になるからだ。彼女のトレーナーとして、それを自分に断じて許さなかった。

 

 

「トパーズお嬢様、両手を胸の前で組む様にしてお待ち下さい」

 

「………!」

 

 

 トレーナーは言われた通りに手を組むと、途中でプニョンと自らの膨らみに前腕が当たってドキリとしてしまった。何故、ダイヤたちはこんなにも成長が早いのだろうか? ウマ娘によって差があり過ぎるぞ、と彼は心の中で文句を垂れた。

 

 

 そうして待ち構えているとバサッと頭上からフワリとした布の感触が下りてきた。メイドたちに任せるままに大きな穴から頭を出す。

 

 

「トパーズお嬢様、次は腕を肩口にお通し下さい」

 

 

 トレーナーは組んでいた手を開いて、左右の肩口から両腕を出した。

 

 

「お尻尾もお出ししますね。失礼します」

 

 

 背後の若いメイドさんがスカートの中に手を入れて、トレーナーの尻尾を優しく掴む。突然の感覚に、トレーナーはビクッと身体を震わせた。尻尾もバッサバッサと逃げてしまう。

 

 

「ひゃう!!!」

 

「お嬢様はお尻尾が敏感ですね……ですが、ほんの少しだけ我慢して下さい。はい、いち、にー、さんっと!」

 

 

 慣れた手つきでメイドさんは尻尾を腰の後ろの穴から出した。トレーナーはピクピク、と恐る恐る尻尾を動かして、その未知の感覚に驚いていた。

 

 

(な、なんだこれ、なんだこれ!? 服を着てるのに、お尻の上から突き出した尻尾が空気に触れている……!? まるでお尻を一部露出している様な……とにかく滅茶苦茶ヘンな感じがする……!? これが、ウマ娘たちがいつも感じているものなのか!?)

 

 

 一応、トレーナーはさっきのパジャマの時も同じ感じだったはずだが、寝起きでそれを感じる余裕がなかったのだ。今気付いてみると、尻尾が生えてる事の異常さを改めて実感していた。

 

 

(お、落ち着け、落ち着け、たかが尻尾じゃないか……男の『前しっぽ』を失った事に比べれば大した事ない……)

 

 

 トレーナーは即興で組み立てた謎理論でなんとか心の平静を保とうとする。

 

 これで終わりだろうか、それにしては何だかブカブカしているが……とトレーナーが思っていると。

 

 

「では、腰回りのリボンを結びますね」

 

 

 なるほど、そうやって形を整えるのか……とトレーナーが感心している間にリボンはキュッと結ばれた。それにより腰のくびれが強調されて、女性らしい身体つきが顕著になる。

 

 

 流石にもう大丈夫だろう、とトレーナーは目を開ける。視界の下の方に肌色の谷が見える気がするので、彼は気持ち上の方に視線を向けた。

 

 

「出来ました。後は……」

 

 

 背後のメイドさんが小さな収納箱から紫色のシュシュを取り出した。隣の方ではダイヤが緑色のシュシュを付けている所だった。

 

 

「本日は後ほど、ビーチの方で遊ばれる予定との事でしたので、耐水性のある耳飾りをご用意いたしました」

 

 

 メイドさんはそう言って、トレーナーの左耳にシュシュを付けた。

 

 

(ウマ娘たちは皆んな耳飾りをしてるのは知ってるけど……何故だろう。『左耳』にそれを付けられるのは、何だか嫌な感じがする……)

 

 

 トレーナーは男性のアイデンティティが更に崩れていく気がしたのだが、それが何故なのかは分からなかった。

 

 

「はい、お疲れ様です。これでお召し替えは終わりでございます」

 

 

 そうメイド長が言うや否や、サトノダイヤモンドがトレーナーの手を引っ張った。

 

 

「トパーズちゃん、一緒に鏡で確認しよう!」 

 

「えっ、い、いいって、俺は……!」

 

 

 トレーナーは引かれるままに、さっきの大きな鏡の前に来た。現実から目を背けるように、鏡からも目を背けていた。

 

 

「ほら見て見て、トパーズちゃん! とっても素敵!」

 

 

 トレーナーは諦めたように、鏡の方を向いた。そこに映っていたのは……

 

 

「っ……!?!?」

 

 

 トレーナーは思わず息を呑んだ。そこには映っていたのは…………

 

 

 

 純白のワンピースに身を包んだ可憐で清楚な雰囲気の2人のウマ娘だった。

 

 幼さを残しつつ、大人へと羽化する途中の危うい雰囲気を醸し出す2人の美少女だった。

 

 天使が2人を仲間と勘違いして連れ去ってしまわないか心配になってしまう程の、絵画から飛び出してきた2人の乙女がそこに存在していた。

 

 

 

 トレーナーは思わず見惚れてしまった。1人は笑顔で、1人は不安げな顔でこちらを覗いている。2人の違いは表情と左右の色違いの耳飾りだけ。

 

 

「あ……う……これが、俺……?」

 

「ふふっ、とっても素敵なワンピースだよね? トパーズちゃん、似合ってるよ」

 

「ええ、お2人とも、とてもお似合いですよ。可愛らしゅうございます」

 

「本当です、まるで天使のよう! ダイヤお嬢様もトパーズお嬢様も、とてもとても可愛いです!」

 

 

 他のメイドたちも笑顔で手放しに2人の可憐なウマ娘を称賛する。「カワイイ」の嵐に、トレーナーは恥ずかしさで顔を赤くして俯く。普段ならまだしも、今の彼はその言葉を受け流す事ができなかった。

 

 何故なら、彼自身が鏡を見て認めてしまったからだ。サトノダイヤモンドと、彼女と同じ顔と身体をした自分の『可愛さ』を。

 

 

「ま、待って……やめて……可愛いって、言わないでくれ……!」

 

「ふふっ、どうしたのトパーズちゃん? そんなに恥ずかしがってないで、素直に喜んだ方が良いわよ」

 

「喜べるかぁ……!」

 

 

 トレーナーは羞恥心で両手で顔を覆った。しかし、その姿も何もかもが愛らしかった。

 

 彼は自分が囚われているのはこのプライベートアイランドという島だけでなく、この『サトノトパーズ』というウマ娘の肉体でもある事にようやく気付いたのだった。

 

 

(俺……このままこの島にいたら、もっと大変な事にならないか……? 俺が俺じゃなくなってしまうような……)

 

 

 トレーナーは自己同一性の危機を更に強く感じたのだった。サトノダイヤモンドとの姉妹水入らずのバカンスは、まだ始まったばかりだった…………

 

 

 

 

 

 

 

 




 まあ、なんと言う事でしょう。

 さっさとスポポーンと着替えさせて次の場面に行く予定だったはずなのに、気付いたら着替えシーンに6000字使っていたのです。
 
 トレーナーさんの『男性』を削らないといけないと思うと、つい熱が……テンポ悪かったらごめんなさい……
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