クロスギャザリング   作:K/K

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ダークギャザリングのあれを見たらBLEACHを連想しますよね?
なので書いてみました。


ASH TO DARK

 小学生くらいの幼い少女が黒い──明らかに人毛で綯いた──注連縄で大の大人を締め上げ、地面に叩き付けている。

 この光景を第三者が見れば、ユーモラスな夢か質の悪い夢か判断に迷うだろう。

 だが、投げつけられた大人の男に生気どころか実体も無く半透明。挙句の果てにこの世の全てを呪うかのような恨みの涙を流す形相だと分かれば、誰もが質の悪い夢と判断するに間違いない。男はこの世ならざる者──幽霊だった。

 幽霊など非現実的。しかし、これは紛れもなく現実に起こっていることだった。

 少女は床に叩き付けられて動かなくなった男の幽霊を見る。二つの目。向けられる瞳は四つ。何も矛盾していない。少女の目は二つの瞳を持つ重瞳であった。

 

 助……け……て

 

 幽霊はか細い声で少女に救いを求める。

 

「他の霊の傍まで運んであげようか?」

 

 少女の答えに幽霊は怪訝そうな表情をする。

 

「──分かった。これに入って。そしたら寺で供養してあげる」

 

 少女が出したのは紙の形代。形代を男の幽霊の上に置くと幽霊は形代の中へ吸い込まれていった。

 形代を拾い上げる少女。無表情なのだが、腑に落ちないという雰囲気だけは出ていた。

 

「ど、どうしたの? 夜宵ちゃん?」

 

 少女こと寳月夜宵を心配して声を掛けたのは右手にだけ黒い手袋を填めた青年。だが、青年の方が心配になるほど蒼褪めた表情をしており、今も小刻みに震えている。

 青年の名は幻燈河螢多朗。夜宵の家庭教師であり、非常に強い霊媒体質の持ち主であり、クラスで三番目の美人と例えられるぐらい霊から手を出され易い難儀な青年である。片手の黒手袋も中学生のときに受けた霊障の影響である。

 

「何かおかしなことでもあったの?」

 

 夜宵を同じく心配するのは螢多朗と同じ歳の女性。ウェーブの掛かった薄茶色の長髪が似合う整った顔立ちをしている。彼女の名は寳月詠子。夜宵とは従姉妹であり、螢多朗とは恋人の関係でもある。

 

「おかしい。何体か会ったけど、どれも善霊」

 

 夜宵が捕獲した霊は今ので八体目。霊は四十九日を過ぎるとこの世に留まる為のエネルギーがなくなり、消滅──成仏するのだが、中には成仏することを拒んで現世へ留まることを選ぶ霊もいる。

 無くなるエネルギーを補うにはどうすればいいのか。答えは一つ。他の霊を喰えばいいのだ。そうやって霊を喰い続けてきた霊は悪霊。それを拒んできた霊は善霊と夜宵は分けてきた。

 

「でも、ここで何人も行方不明になったっていう話だし。……夜宵ちゃんが捕まえた霊の中にも……」

「そう。行方不明になった犠牲者もいた。だから、悪霊がもっといてもおかしくない筈」

 

 生粋のオカルトマニアである詠子が手に入れた情報で三人がやってきたのは、とある心霊スポットとなっている廃墟。そこでは廃墟になる前に不審死が相次ぎ、廃墟になった後も何人もの人が行方不明になっていると噂になっており、その噂を聞きつけた心霊探検の有名な動画配信者も行方不明になったことで話の信憑性も高まっていた。

 実際、夜宵が捕まえた霊の中にその動画配信者の霊もいるので、この廃墟には人の命を奪う程の悪霊が存在するのは間違いなかった。

 

「もっと奥へ行く。元凶はいつだって最奥で待つもの」

 

 夜宵はお気に入りの宇宙人のぬいぐるみを抱き締めながら先へ進もうとする。

 

「あ、あの、夜宵ちゃん……一つ質問が?」

「何?」

「僕は、いつまでこれを背負っていれば……?」

 

 螢多朗は布で巻かれた一メートル以上の長さを持つ棒状の物体を背負っていた。結構な重量もあり、元引きこもりであった螢多朗にとっては中々の重労働である。

 

「えー。螢多朗はレディにそんな重い物持たせるの?」

「螢くんひどーい!」

「すぐそんなこと言う!」

 

 二人にこう言われると螢多朗は何も出来なくなり、仕方なくそれを背負い続ける。

 

「ところでこれは何なの?」

「秘密兵器」

 

 夜宵はそれしか言わなかった。

 

 

 ◇

 

 

 廃墟探索は不気味な程に順調だった。今まで本気で殺しに掛かってきた悪霊たちと対峙している夜宵たちからすればぬるいと感じる程に。

 だからこそ、若干の不満も募る。夜宵の目的は強力な悪霊を捕獲すること。

 夜宵は元はただの少女だった。重瞳のせいでこの世が二重に見えるという原因不明の障害を持っていること以外は。

 ある日、少女は全てを失った。事故により愛する父と母を。だが、奪われたのはそれだけではない。死んだ母の魂は得体の知れない存在によって連れて行かれ、成仏することも叶わなくなった。

 失った夜宵が得たのは、事故の影響でブレが無くなり現世よ幽世が見えるようになったこと。そしてIQ160の頭脳。それが失ったものと吊り合うかは夜宵にしか判断出来ない。

 夜宵は優れた頭脳を生かし、この世ならざる存在を観察し、生態を理解し、捕獲し、使役する。

 この世ならざる力を使い、この世ならざる怪を喰い殺させる為に。

 その為にはどうしても残酷で、無慈悲で、悪辣で、容赦の無い霊の力が必要なのだ。

 そして、三人は廃墟の最奥に辿り着く。そこで待ち構えていたものは──

 

「じ、神社……?」

 

 廃墟の中に在る筈の無い朽ちた神社。

 

「何でここに、こんなものが建っている──螢くん?」

 

 詠子が見れば、螢多朗は死人よりも青白い顔で隠すことなく音が立つほどの勢いで震えている。

 

「ま、ま、不味いよ、ここは……!」

「どうやら、思い違いをしていた」

 

 夜宵は黒い注連縄を構えて臨戦態勢に入る。

 

「ここに住んでいるのは悪霊じゃなくて神」

「神様!?」

「しかも、信仰を失い、存在意義を失った廃れた神」

 

 朽ちた神社は実際に在る訳では無く、廃れた神が見せる幻。だが、この神社の周りに置かれた干乾びた死体の数々は決して幻ではない。

 

「手当たり次第に人を集めてもう一度信仰を集める気みたい」

「そ、そんなこと出来るの?」

「無理。完全に暴走している。だから無理矢理集めるだけ。放っておけばもっと犠牲が出る」

 

 知性、理性を完全に失い、残滓のような記憶で殺してでも信者を集めようとする。祀られる程の尊い存在が、今は存在するだけで全てを害する存在へ成り果てた。

 

「──多分、捕まえても制御し切れない」

 

 夜宵は冷静に分析をし、廃れた神を捕獲することから排除の方向へと変える。

 

「犠牲者をこれ以上出さないよう──ここで殺す」

 

 神殺しを宣言する夜宵に螢多朗と詠子は戦慄した。

 その言葉に反応したのか、神社の御扉がギギギと耳障りな音を立てて開き始める。開かれた御神体に収まるのは真っ黒な影。影は粘液のように蠢きながら這い出て来る。

 螢多朗だけでなく詠子も冷や汗を滝のように流し出す。悪霊とは異なる圧が心臓の鼓動を際限無く早める。

 頭から地面まで滴り続ける黒い液体の塊。それが第一印象であった。何の為に祀られた神なのか最早見た目からは想像も出来ない。人から忘れられ、信仰を失った神というのはここまで穢れ、悍ましくなるのかと震え上がる。

 

「うっ!」

 

 人一倍霊の影響を受けやすい螢多朗は、猛烈な吐き気を覚える。気分を悪くさせるニオイやグロテスクなものがあるわけではないが、廃れた神の存在感が螢多朗の精神に多大なストレスを与え、摩耗させる。

 

(このままだと螢多朗が廃人になる)

 

 守るべき仲間の為に夜宵は螢多朗に声を掛けた。

 

「今すぐ背負っているそれを──」

『*******』

 

 廃れた神から発せられる悍ましき声。それは最早呪詛となっており、聞いてしまった夜宵たちの体に変化が起こる。

 首、或いは胸に浮かび上がる黒い手形。痣のようなそれは皮膚の上で動き出し、開いていた掌を閉じる。

 瞬間、夜宵が持っていたぬいぐるみの首と胸が裂け、中から綿が飛び出した。

 

(速い)

 

 この状況の中でも夜宵は冷静であり、廃れた神の能力を分析していた。

 

(声を聞くだけで発動する即効性の呪い。威力は無いけど人を殺すには十分)

 

 夜宵たちは爪や髪などの体の一部を、霊を宿した形代に入れることで霊的攻撃に対する身代わりにすることが出来た。ぬいぐるみが破けたのはその為である。

 

(呪いは継続中。このままだと殺られる)

 

 しかし、未だに黒い手形は夜宵たちに痣となって残っている。このまま攻撃され続ければ、いずれは身代わりを突破されてしまう。

 だからこそ、夜宵が選ぶ手段は一つ。

 

「螢多朗。それを」

「う、うん」

 

 螢多朗は死に掛けのような表情をしながらも、夜宵を信じて背負っていた長物を夜宵へ渡す。

 

「時間は掛けない。一瞬で終わらせる」

 

 夜宵は身の丈程ある長物に巻き付けていた布を解く。中から出て来たのは使い古された一本の刀。

 

「っぁ!」

「っぅ!」

 

 螢多朗はその刀を見た瞬間、味わっている恐怖を全て忘れる程に圧倒された。霊感の無い詠子ですら刀から何かを感じ取っている。声を上げるどころか息をすることすら出来なくなる。

 たった一振りの刀によりこの場所の全てが塗り替えられた。

 

「螢多朗、詠子。絶対に私の傍から離れないで」

 

 夜宵は刀の柄を握る。廃れた神も異変を感じ取り、金切り声のような呪詛を放つ。空中で火花のように炎が刹那に咲いた。放った呪詛が焼き消されたのだ。

 螢多朗と詠子も変化に気付く。あれだけ冷や汗で濡れていた体が乾いている。皮膚も突っ張った感じになり、唇からも潤いがなくなっていた。

 この一帯が急速に暖かく──否、熱くなっている。

 

「一振りで全て終わらす」

 

 夜宵は鞘を持ち、柄を握り締めながら、解放の号をかける。

 

 灰燼にして──

 

 刀が鞘から解き放たれるとき、炎熱の地獄が現世に顕現する。

 

『流刃若火』

 

 そして、宣言通り一振りにてあらゆるものが灰燼と帰す。

 

 

 ◇

 

 

「凄いことになっちゃった……」

 

 広げた新聞の前で螢多朗は頭を抱えていた。

 新聞の見出しには『廃墟にて謎の大火災』と書かれており、昨晩行った廃墟が完全に焼け落ちた写真が載っている。

 

「仕方ない。あの子は強過ぎるから。あれでも加減はしてくれた」

「あれで!?」

「私はこの子の本来の持ち主じゃないから使いこなせない。あの子が協力してくれるから、私は一振りだけあの子を使える」

 

 螢多朗には訊くべきことが多々あった。

 

「あの刀も『卒業生』なの?」

 

 卒業生とは夜宵が捕まえた凶悪な悪霊たちを共喰いさせることで誕生する抑えきれない程の破格の強さを持つ悪霊の別称である。

 

「違う。あの子は『()()()』」

「特待生……?」

「最初から卒業生以上の力を持った存在」

「そ、そんなものが存在するのかい……?」

「悪霊と違って人を害する気は無い。私も契約を結んで協力してもらっている」

「契約?」

「この子の本来の持ち主を探すこと……それがこの子との契約の一つ」

 

 一振りで廃れた神を葬ることの出来る刀の持ち主。本来の使い手ならどれだけの破壊力を生むのか想像も出来ない。

 

「そして、もう一つは──はい」

「ええっ!?」

 

 廃墟一つ焼失させる程の力を持つ刀をあっさりと渡され、螢多朗は悲鳴を上げる。

 

「使った後にはキチンと手入れをすること。それも契約の一つ」

「僕、やったことないんだけど!?」

「道具は準備してある。やり方はググって」

「嘘でしょ!?」

 

 と悲鳴を上げながら何だかんだ言いつつ流され、体を震えさせながら刀の手入れをする螢多朗。

 後日、螢多朗の手入れの仕方を気に入られ、刀直々に手入れ担当に指名されたのを夜宵から聞かされ、螢多朗はまた悲鳴を上げるのであった。

 




最後に一瞬だけ流刃若火を登場させましたが、それだけ強力な力ということで。
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