一般歌手志望ゆかりんとスーパーシンガーIAちゃん 作:アザミマーン
なんか続きを書きたくなったので投稿。文体変わってそう…
『ここで前方にジャンプ! そう、フロート脚なら水上でも動けるのでこの大型機の鼻先に飛び乗ることが可能なんですよね』
ここのステージ足場狭すぎて無理ゲーかと思った
初見殺しすぎるよね
『そして満を持しての……汚物は消毒だ〜!!』
汚物は消毒だー!!
それにしてもこのゆかりん、ノリノリである
『おおー凄まじい火力ですね、フレイムスローワー! 水上という特殊な地形上、このボスの体力は多少低めに設定されているのですが…それでも10秒足らずで撃破とは』
なお実用性
こいつこんなあっさり勝てるボスだったんか、めっちゃ苦戦した記憶あるんやが
『まぁ知ってる方もいるとは思いますが…このフレイムスローワーという武器、火力は高いのですが、射程が短く、燃費が悪く、範囲も狭く、燃料代も高い上に専用なのでこれ以外には使えず、攻撃の発生も遅く、横方向への振り向き攻撃にはラグがあるので移動している相手に当たらないという…その、はい』
六重苦
汚物は消毒っていうより最早この武器が汚物そのもの
言葉尻を濁すな
『で、でもほら! さんぱ…使い方が難しい武器ですが、こういう場面では輝くんですよ!』
こういう場面(ここ以外ありません)
フロートもこのステージ以外だとほぼゴミだしな
フロートは加速弱いし積載量低いしで普段使いにはキツすぎるんだよなぁ…
『ともかく! これにてこのミッションはクリアです!! 今回はいい時間ですしここまでですかね。次回なのですが、もうストーリーミッションも残すところ僅かとなってきました。なので、次は生放送で最後まで突っ走りたいと思います』
楽しみだけどゆかりんの実況終わるの悲しすぎる
いきがい
『では、また次回の放送でお会いしましょう。ばいばーい』
乙
ばいばーいかわいい
行かないで…
うん、反応は上々だと思う。コメントの一つ一つが嬉しくてニヤけつつ、私はブラウザを閉じた。
実況を始めてからもう4ヶ月ほど経つ。春先に始めたというのにもう随分暑さが厳しい季節になってしまった。空調の効いた部屋に引きこもってする仕事なのであまり関係ないといえば関係ないのだが。ああ、でもランニングするには辛い季節になったとは思う。
成り行きで始まった仕事だけど、今のところは極めて順調だ。最初の生放送が終わってからは、マキさんの打診もあって動画と生放送の頻度を増やした。
私も動画編集の勉強をして、いらない部分をカットしたり、字幕をつけたりして拙いながらも見やすい動画を目指した。その甲斐あってか、動画の再生数や生放送に来てくれる人はだんだん増えていき、今ではPart1の総再生数がなんと10万回、生放送では最大視聴者数1000人を記録している。
実況動画の再生数の平均がどのくらいかは詳しく知らないけれど、路上で自作の曲を歌っていたときは多くても5人くらいが足を止めてくれればいい方だった。それに比べるととんでもない数の人が私の動画を見てくれている事になる。私としてもとても嬉しいし、自信になった。
マキさんがお世辞で言っている訳ではなくて、いろんな人に評価して貰えている。ちゃんと前に進めているという事実が、数字という形で実感できた。
「イアちゃん…まだまだ貴女には及ばないけれど、絶対に追いついてみせます」
部屋の中でひとり呟く。白く輝く想い人は、今日もこの部屋にいない。それもそのはず、イアちゃんは先日から初の海外ツアーへと向かってしまったのだ。アメリカを東から西へ横断する大規模なもので、移動だけでも大変だとチャットで愚痴っていた。それに苦笑しつつ、頑張ってとエールを送ったのは記憶に新しい。アメリカ中でライブを行うということで、日程も過去最長の5ヶ月と少し。
当然その間は会えないから私は非常に寂しい。毎日アメリカの方角を30分は眺めてしまうくらいには寂しい。でも時差もあって電話もまともにできないので、送られてくる自撮り写真を心の糧になんとか日々を生きている。
「この前出た曲…まだ2ヶ月しか経ってないのに、再生数6000万回ですか…遠いですね。でも遠いけど、ようやく見えたって言ってもいいかもしれないですね」
私も一歩踏み出したが、その背はまだ遥か彼方だ。しかし、この実況を始める前ほどの焦燥感や諦観は無い。何せ始める前は0だったのだ。それが今や10万。無限にも思える距離が、世界一周くらいの距離に縮まったのも確か。
気合を入れ直そう。今日の夕方からの生放送でこの実況は終わり、その出来次第でマキさんからスカウトされるかどうかが決まる。マキさんは大丈夫と言ってくれているけど、竜頭蛇尾という言葉もあるのだ。最後まできっちり頑張って、文句なしに認められたい。
「…気合入れるのに一本だけ吸おうかな。い、いや、やめておきましょう。声を使う仕事なんですし、せめて終わってからにしましょう!」
緊張と少しの不安からタバコのケースに手が伸びそうになるが、思い直して手を引っ込める。何してるんだゆかり、タバコなんて吸って喉を痛めたら本末転倒だろう。と思ったが、箱を開けてみるとそもそも空だった。あれ、いつの間に切らしていたのか。
(…ん? そもそも、最後にタバコ吸ったのって、いつだっけ?)
そういえば、ここ最近タバコを吸った記憶がない。動画撮影と編集、生放送で結構充実した日々を送っていたからだろうか。記憶が正しければ、もう1、2ヶ月はタバコの箱すら触っていない。まぁ実況以外にもボイトレ再開したし、体力作りも始めたし、バイトもあったし。バイトは先月辞めたが、それでも色々と忙しかった。
「ま、いいか。それより、早めに準備して行こう。今日はマキさんに早めに始めて欲しいって言われてるし…」
タバコなんて吸わないに越したことはない。今吸えなかったのも、神様がもうタバコなんて止めろって言ってるに違いない。本格的に禁煙だ。そう思うことにして、私はいつもの生放送よりも2時間ほど早い開始時刻に遅れないよう、いそいそと準備を始めるのだった。
「これで、終わりです!! ロマン砲、大型誘導ミサイル…当たれえええええ!!!!」
いけええええええええ
タイミング完璧だ!!
ダウンしてるし避けられんなこれは
「やっ…たあああああ!! 私の勝ちだー!!」
すげええええええええ
今のうますぎて惚れた
元々惚れてた
まじかよこれタンク以外でクリア出来んのか
標的にミサイルが着弾し、そのまま破壊することに成功する。リトライ数3回か、かなり上振れたと言っていいだろう。このミッションはラストミッションのひとつ前であり、このゲーム中最高の難易度を誇る。敵の攻撃力、体力が非常に高いので、積載量及び耐久力の多いタンク型の脚でクリアするのが定石なのだが…私はそこを敢えて低積載量、低耐久の高機動タイプの逆脚ロボットで挑んだのだ。
左肩に積んだ大型誘導ミサイルのせいで他の武装はレーザーブレードしか持てないので、基本的な戦法は『当たらなければどうということはない』スタイル。相手の攻撃を全部避けてブレードを叩き込み、隙を見てミサイルを当てることで勝つ。言うのは簡単だが、やってみるとこれがまた難しい。
「いやー分かってはいましたけど、難しかったですね。でかいのに速いし、弾速も凄いし、誘導ミサイルもあるし範囲攻撃もあるしで」
いやミサイル当て技術の方がすごい
大型誘導ミサイル(クソ遅すぎて当たらない産廃)
予備動作ほぼ無い突進に合わせてカウンターで切るの神
すごいしか言えん
「えへへ、褒められると照れますね。まぁブーストの使い方は自分でも結構上手いと思ってますけど!」
は? かわいい
照れると耳まで赤くなるのほんとすこ
「もう、からかわないでください。さて、次が最後のミッションですね! いやー、どんなむずかしいみっしょんなんですかねー」
あっ…(察し)
通称棒立ちタル爆弾くん
ラストミッションはラスボスということで、超大型の要塞との戦闘なのだが…はっきり言ってひとつ前から比べるとただのカカシ同然なのだ。今やったミッションの敵は、大型といえど攻撃が当てやすいというほどでもなく、機動力があり、耐久も攻撃力も高かった。攻撃パターンも多彩で、まさに終盤にふさわしいボスだったのだが…
<ご武運を…貴方様を、信じています>
「あ〜いいですね〜オペレーターちゃん。ほんと好き」
メインヒロインの風格
そんな中無慈悲に淡々と攻撃を叩き込んでいくゆかりん
まぁほぼ動かないしな…
弱点丸見えの雑魚
ラスボスの姿か? これが…
このラスボス、攻撃力は高いのだが、誘導する攻撃は少なく、あっても普通に動いていればそうそう当たらない。そして大きすぎるせいで動きは鈍く、余程のことがなければどんな攻撃でも当たる。さらに機体の至る所が赤く光っており、「ここが弱点です!」と主張している。まぁその、なんというか…
「よわっ」
クソ雑魚すぎる
言っちゃったよ
無駄に硬いだけ
弱点当たると誘爆するから実は数値ほど硬くもない
分かりやすい弱点に当たると誘爆で大ダメージが入ることと、微妙にかっこよくない樽型の体型を合わせてネットでは『棒立ちタル爆弾』とか『火薬入りサンドバッグ』とか散々な言われようなこのラスボス、ぶっちゃけ弱いのだ。少なくともここまで進んできたプレイヤーが苦戦するということは少ないのではないだろうか。
「ん゛ん゛っ!! さて、ラスボスを無事撃破できましたね」
<これからどうするのですか? いえ、どこへだろうとお供します。私は…貴方様の、オペレーターですから>
「あぁ^ここほんと好き〜」
尊い…
ラスボス戦いる?
(いら)ないです
エンディングだぞ、泣けよ
ゆかりんアテレコしてくれ
「いやいや流石に恐れ多いですよ、アテレコなんて。私この声優さん大好きですし」
「ゆっかりーんお疲れー! あれ、終わっちゃったかな?」
「あ、お疲れ様ですマキさん。今ちょうど終わったところですよ」
ドア開く音思いっきり入ってて草
乱入クエストかな?
い つ も の
待ってた
こんマキ!!
でっっっか
後ろの扉から勢いよくマキさんが入ってくる。いつも通りのハイテンションにコメント量が一気に増加した。まぁこれはもう慣れたものだ。マキさん曰く、たまに出てくるから盛り上がるのだ、とのこと。いや、でもマキさん生放送の時は毎回来てますよね…?
そうしてコメントの流れが落ち着いたところでマキさんが改めて自己紹介する。この放送を見にきていてマキさんのことを知らない人などいないと思うが、そこは様式美というやつだ。
ただ一つ問題というか…今日なぜマキさんがここに来たのか、私も知らされていないのだ。いつもは何かついでに告知とかしていき、内容は事前に私にも知らされるのだが。
「はーいこんマキ! 弦巻マキだよー!! 今日もお邪魔しまーす」
「改めて、いらっしゃいませ、マキさん。とはいえ、もうゲーム自体は終わりなのですが」
「ふっふーん。そんなゆかりん、そして視聴者のみんなに嬉しいお知らせを持ってきたんだ!」
「お知らせ?」
落ち着いたゆかりんとハイテンションなマキがね、いいね
お知らせ?
薄型と山型
なんだぁ? てめぇ…
そんな予告あったっけ?
なんだろう、嬉しいお知らせ? あ、もしかして。
私は生放送が終わった後にSNSか何かで報告するのかと思っていたのだが、サプライズ好きのマキさんのことだ。ここで言ってしまう可能性は十分ある。困惑半分期待半分でマキさんの方を見ると、明らかに何か企んでます、という顔をしていた。これは間違いない、か?
「マキさん、まさかあのことですか? ここで言うんですか?」
「もっちろん! では、発表します!」
ゴクリ…
どきどき
一呼吸置き、マキさんは私の名を呼ぶ。こんな時でも間の取り方が上手いなぁなんて考えてしまうのは、私が実況者の仕事に染まってきた証拠だろうか。
「ゆかりん!」
「は、はい」
「あなたを、ASプロダクションに正式採用します!!!」
やったあああああああああ
ASプロってマキちゃんが所属してる事務所か
ついに!?
左手を腰に手を当てて胸を張り、もう片方の手をこちらに差し出してくるマキさん。その表情は笑顔で、一点の曇りもない。
そっか、私は、合格か。
胸が温かくなる。少し視界も滲む。でも、私も今できる精一杯の笑顔を作り、マキさんの手を握った。
「よろしく、お願いします!」
「うん! これからもよろしく!!」
ゆかりんがASプロに入るとか胸熱すぎる
キマシ
「実はねー、みんなには言ってなかったけど初回の生放送の後にはもうお誘い自体はしてたんだよね」
「はい、頂いていました。ただ、私のわがままでもう少し待って欲しいとお願いしていたんです」
「この実況をやり遂げてから改めて評価して欲しいってね。ゆかりんらしいっちゃらしいんだけど、私もうスカウトする気満々で上にも話通しちゃってたからちょっと焦ったよね」
スカウトとか舞い上がりそうなもんなのに立派やね
焦ってて草
まぁこの人気ぶりで不合格なわけないわな
マキさんには少し申し訳ないと思ったが、こればかりは贔屓目とか無しにしっかり考えて欲しかったのだ。私もまだ自信があまり無かった頃だったし。でも、あのスカウトの話があったからこそここまで頑張れたのかもしれない。
マキさんにちゃんと評価してもらいたいと思わなければ、動画編集の勉強やボイトレなどもここまでしっかりやらなかっただろう。最悪、またタバコに逃げていたかもしれない。
「ありがとうございます、マキさん。改めて言わせてください」
「なんのなんの! うちに入ったからには、ガンガン働いてもらうからね〜?」
「はい、微力を尽くします」
「いい返事だね!」
コメントは祝福で溢れている。待たせるなんて傲慢だとかネガティブなものが多少は出ると思っていたので、それが無いのは本当にありがたいことだ。荒らしコメントが普段からないわけでは無いし、あまり気にしないようにはしているが、目に入るとやっぱりちょっと悲しいものだ。
さて、実況も告知も終わってしまったのだが、この後どうするんだろう。そんなことを考えていると、握手したままだった手に力が込められる。一体何を、と言う間もなく、マキさんは私を引っ張り始めた。ちょ、力つよっ
「よーし、ゆかりんを無事迎え入れられたことだし、これから実況完結打ち上げ兼歓迎会ってことで、カラオケでも行こー!!」
「ええ?!」
「もちろん生放送枠とりまーす! この後30分後くらいからやるんでみんな見てね!」
「え、そんな急に」
〜〜〜この生放送は終了しました〜〜〜
テンションと勢いだけで生きてる女
まじか、カラオケ枠楽しみ
おいぶつ切りやめろ
ゆかりんの最後のセリフ途中で切れてるの草
「マキさん、飲み物取ってきましたよ」
「あ、おかえりゆかりん! もう始めちゃってるよ!」
わこつ
マキが珍しく歌うと聞いて
ゆかりんが歌うと聞いて
放送終了後、マキさんは本当に私を引きずって(直喩)カラオケに向かった。実況の時は◯×ソフトウェアさんの公式アカウントでやっていたのだが、カラオケ生はゲームと関係ないため流石にASプロの公式アカウントでの放送となった。
それでもゲーム実況に来てくれていた方が流れてきてくれたようで、何の告知もない突発的な生放送だったというのに開始数分で視聴者数は2000人を超えていた。いや、ASプロのアカウントの方がフォロー人数は多いし、新着通知から見に来た感じだろうか? まぁ、見に来てくれたならどちらでもいいか。ありがたい話である。それが例えマキさんが歌う姿をメインで見に来たのだとしてもだ。
「おーいこれでも元バンドリーダーにしてギターボーカルだぞー! 確かに頻繁にはやんないけどそこまで珍しくはないでしょ!」
「でも今コメントでマキさんが最後に人前で歌ったの一年以上前って書かれてますよ」
「え゛、そんなにやってなかったっけ?」
ラジオとかMCとかはよく出てくるけどねマキマキ
マキさんは顔もいい、声もいい、トークも面白いのでASプロの便利枠として日々忙しく使われている、らしい。本人談である。まぁ実際顔も声もトークも、プロポーションまで素晴らしいと思うけれど。そしてマキさんは歌もギターも出来る。
かなり超人じみているが、マキさんはそれを全面に押し出すわけでもなく、どちらかというと後輩や仲間のフォローに使っていることが多い。そういうところが後輩やファンに慕われる一因になっているのだと思う。もちろん、私も含めてだ。
「うーん後輩とかゆかりんとかとは結構カラオケ行くんだけどな。いっそこれからは毎回配信するかな?」
「私は別に構いませんが…それだと多いときは月に1回は私とのカラオケ配信になってしまいますよ」
「確かに!」
仲良すぎでしょww
しかも後輩と行った数は含めてなくてこれである
マキさんとはちょくちょくお茶したり飲んだりするが、大抵その後カラオケに行くことになる。あ、でも最近は行ってないな。ちょうど実況始めたくらいから行ってない。私とは違ってマキさんは売れっ子だし、それが普通と言われればそうなのだが。そもそもこれまでは同僚というわけでも無かったし。
昔はイアちゃんともしょっちゅうカラオケで歌ったものだが、今はイアちゃんが忙しすぎて一緒にカラオケに行く時間が取れないのだ。イアちゃんと最後にカラオケに行ったのなんていつだろうか…少なくとも、ここ2年ほど行ってないことは確かだ。あのクリスタルボイスを独り占めできていた頃が懐かしい。動画サイトやサブスクで聴くことはできるけど、やはり目の前で歌ってくれることに勝るものなどない。最近、特に実況を始める前のころは自分から避けていたというのも行けていなかった理由の一つ。
…そんなこと考えてたらイアちゃんとカラオケに行きたくなってきた。そのイアちゃんが帰ってくるのは早くても数ヶ月先なわけだが。本当に寂しい。
「うーん、せっかくカラオケで生放送してるわけだし何か突発企画でもやる?」
「いいと思いますよ。そうですね…ありきたりかもしれませんが、リクエストとかどうですか?」
「いいねー!」
百点取るまで終われませんとかは?
マキさんと二人で来るとどうしても自分の歌いたい、嗜好に合ったものばかりになってしまう。リクエストという形なら、普段歌わないようなものを歌いつつ視聴者の期待にも応えられる。久しぶりに来たのだ、色々な曲を幅広く歌いたい。で、100点取るまで帰れない企画か。そっちはなぁ…うーむ。
「自分で選ぶとどうしても好みの曲になってしまいますしね」
「たまにはいいかもねぇ。ただ、百点取るまで帰れないは…」
元バンドリーダーともあろうものがカラオケ程度で苦戦するのか〜??
イキり煽り視聴者かわいいね^^
「いや、確かに私一人でやったらそうなるかも知れないんだけど…ゆかりんがカラオケ得意だから多分すぐ終わっちゃうんだよね。好きなの歌っていいとかなら一回で取れちゃうよ」
「まぁ…そうですね。カラオケで高得点を取る歌い方が得意なので…」
普通はみんな「君が代」とか歌うことになるのになw
企画殺し
さすが普段から歌の仕事をしてるだけある
「ほとんど仕事なんて取れないんですけどね」
「私は好きだけどなーゆかりんの歌」
「特徴がなくてつまらない歌声ですよ」
本当に、自分の実力の無さは嫌になる。私は自分の歌声がそんなに好きじゃない。抑揚が少なくてパッとしなくて、何というか個性がないのだ。それでも嫌いになれないのは、こんな私の歌声を好きだと言ってくれる人がいるから。イアちゃんしかり、マキさんしかり。だからこそ私は、他でもないあの子が好きと言ってくれるこの声で、その隣に立つことをいつまでも諦められないでいる。
「自己評価低すぎじゃな〜い? ま、それじゃあリクエストにしますかー。みんなはコメントで私とゆかりんどっちに何を歌って欲しいか書いてねー」
マキさんがリクエストを募集し始めるとすぐさま多くのコメントが寄せられる。今の数秒間だけで曲のリクエストが少なくとも20件は見えた。到底追い切れないし、歌いきれるものではない。その中から知らない曲を省き、いくつか候補に入れる。
あ、イアちゃんの曲もあったけれど、それは候補から外す。何というか個人的な事情なのだが、好きだからこそ、私の声であの子の曲を汚したくないのだ。他人が歌ってるのは別に構わないが、私はダメだ。その領域に土足で踏み入るような真似は許されない。イアちゃん本人に頼まれたときだけは歌うけど、それが許容の限界である。
「うーん、結構知らないのもありましたので、私が知ってる曲の中から歌わせていただきますね。ちょうどマキさんの曲が見えましたのでそれにします」
「何その羞恥プレイ?! でもやり返せない! ゆかりんも自分の曲出してよ!!」
「出したところで一枚も売れなくて終わりですよ…」
ASプロに入る前の曲とかよく知ってんな
マキが高校生だった頃の曲だな
8年前?
具体的な数字を出すなやめてくれその術は俺に効く
え、これもうそんな前の曲だったっけ? という感想を呑み込みアップテンポなイントロから歌い出す。マキさんらしい元気のいい曲だ。元気が良すぎてちょっと、いや結構激しい。
こういう曲は私のような声だとあまり合わないのだが、リクエストでもないと歌わないしたまにはいいだろう。私が好みで選んでたらしんみりした曲とか失恋の曲とか、暗い曲ばっかりになってしまうし。
歌っている時はコメントは目に入らない。というかそこまで気が回らない。ただでさえ実力が無いのだ。歌っている時に歌以外のことを考えたら曲に失礼だ、というのが私のスタンス。せめて真摯に。愚直に。歌っている時くらいはそれだけを追い求めて。
最後の音まで伸ばしきり、これで一曲終了だ。久しぶりのカラオケにしては声が出たと思う。まぁカラオケに行ってないとはいえ実況でも生放送でも声は出してるし、ボイトレはやってるし、出来て当然だろう。
「ふぅ…あ、99点。惜しいですね」
「……」
「マキさん、どうかしましたか?」
いきなり99点ですか…大したものですね
これで仕事もらえないとか歌界隈が修羅の国すぎる
マキさんがフリーズしてしまった。も、もしかして嫌だっただろうか。羞恥プレイとか言ってたし。イアちゃんは一緒にカラオケに行くたびに私にイアちゃんの曲を歌わせようとしてくるから、てっきりそういうものかなと思っていたのだが。
普段のカラオケではマキさんの曲を私が歌ったことはない。かっこいい系やアップテンポの激しい系の曲調であることが多いマキさんの曲と私の声とでは相性が良くなく、私が選ばないからだ。いや、そういう意味ではイアちゃんの曲にも私の声は合わないのだけれど…あの子はしきりに歌わせようとしてくる。
「ゆかりん、何か凄い上手くなってない?! 最後にカラオケ行ったときから比べてめっちゃレベル上がってる気がする!!」
「大袈裟ですよ。マキさんと最後にカラオケ行ったのって、確かこの実況始まる少し前ですよね? 半年も経ってないのにそんな急に上手くなるわけありませんよ」
「いやいや本当だって! 何だろう、こう…感情が乗ってた!」
本人より上手く歌えてて草だった
実況の時の落ち着いた声と印象真逆になった
かっこいい系の曲全然いけるじゃん!
「誰だいま本人より上手いとか言ったやつ!」
「そうですよ、流石に失礼…」
「その通りだよ!!」
「ええ…」
そこからはマキさんと交互、いや私の方が歌う回数が明らかに多かった。私が見ていない間に届いたリクエストをマキさんが勝手に取り入れて割り込みで歌わせてくるのだ。
間にトークを挟みつつも1時間ほど歌い続け、少し休憩も兼ねておしゃべりタイムに。
「やっぱ上手くなってるよゆかりん!」
「マキさんがそう言うなら、本当に上手くなっているのかもしれません。自分では分からないのですが…」
「うんうん、私を信じてよ!! 何かね、気持ちが伝わってくるんだよ!」
でも低めのかっこいい系もよき
何でも歌えるじゃん…
悲報:マキ、感動しすぎて語彙力を失ってしまう
何というか視聴者の方もマキさんも私に甘すぎないだろうか。でも、感情が乗ってる、か。もし本当に私の歌が上達しているなら、この仕事のおかげかも知れない。
実況、それも生放送でない普段の動画では顔を映さない。ミニキャラを動かしてはいるが、視聴者の方は実際私がどんな表情で喋っているか分からない。その状態で視聴者の方に楽しんでもらうために、できるだけ声で表情が想像できるように話したこともあった。武器の使い所を分かりやすく説明したり、ストーリーにのめり込んで登場人物と一緒になって怒ったり。
でもそれを考えていたのは初めの方だけだった。慣れてきた頃からは意識なんてしてなくて、後半はもう殆ど素の自分だった。身近な人と喋るような感覚で実況していたと思う。もしかしたら、それが歌にも影響してきているのかもしれない。今も一応配信の仕事中だというのに、素の自分のまま、仲のいい人とカラオケに来ている気分だった。
「…もし、私の歌が良くなってきているのだとすれば、実況のおかげですね」
「実況の? 関係あるの?」
「これまでの人生で、あんなに感情を発露させながらお話ししたことなんて殆どありませんでしたから。私、友達少ないので。実況してるときは、仲のいい友達とゲームについて熱く語っている気分でしたね。感情が歌に乗るようになったと言うなら、そうさせてくれたのは実況があったからなんです」
そう、俺が、俺たちが
友達だよ
デーッデデデーデーデデーデー(20世紀少年)
実況によって歌のレベルが上がったというのなら、本当に嬉しいことだ。イアちゃんに追いつくため、というだけじゃない。
こうして私の実況を楽しんで見てくれた、私に自信をくれた人たちに、歌という形で恩返しができるのだから。私の話を聞いたマキさんは、ドヤ顔で大きな胸を張って言う。
「なら実況の仕事をゆかりんに持ってきた私は、もう大恩人にして大親友ってことだね!!」
マキ調子に乗るな
ガキが…舐めてると潰すぞ
「そんなこと言わなくても…もう親友だと思ってますよ、とっくに」
「え…! えへへ」
尊み成分の急激な摂取は心臓に悪い
かわいい
マキさんは先輩という枠を越え、既に私の中ではイアちゃんに次ぐ第二の親友だ。上手くいかないときはお茶して愚痴って、マキさんからも愚痴られて。ちょっとしたことで電話して、そこから口喧嘩して仲直りして。一緒に仕事したときは飲んで歌って。そうして今回は私をこの世界に連れてきてくれた。
「今回のことだけじゃありません。いつも感謝してますし、助けられてます」
「かはっ…」
マキさんがソファーに倒れてしまったが、演技なのはバレバレだ。耳まで真っ赤になっている顔を見られたくないのだろう。マキさんは綺麗なんだから褒め言葉なんて普段から聴き飽きているだろうに。そこは少し不思議だ。
「マキさーん、倒れていると歌えませんよ。マキさんの歌を聞きに来た方は多いんですから、ちゃんと歌ってもらいませんと」
「もういいんじゃない? 私歌わなくてもさ。みんなゆかりんの声の方が聞きたいでしょ?」
「そんなことないと思いますけど…」
確かにそうなんだが今はゆかりんの歌聞きたい
マキの歌なんていつでも聴けるしな(1年ぶり)
「ほら」
「ええ…」
マキさんの歌を聞きたいというコメントもあるのだが、なぜか私の歌を聞きたいというコメントの方が圧倒的に多かった。ノリというのもあると思うが、これは本当に私の歌が聞きたいと思っている人が多いのだろうか。私としては1時間歌ったくらいで掠れるような喉の鍛え方はしていないので問題ないのだが…
「そんなこと言わないでください皆さん。私はマキさんの歌が聞きたいです」
「ゆかりんに頼まれちゃ仕方ないねー! 私も歌いますか!!」
マキの歌好きだよ
流石にマキさんを見に来た視聴者の方に申し訳ないというのもあるし、私がマキさんの歌を聞きたいというのもある。私と違って個性的なマキさんの声で、テンションの高い曲を歌って元気を分けてほしい。
「それに…」
「私の歌もこれからはいつでも聞けますよ。だって私は、ASプロの一員になったんですから」
「うっ…眩しい…!」
その眩しい笑顔で死人が出るぞ
ゆかりんの微笑みは今はがんに効かないがそのうち効くようになる
軽率に生かしたり殺したりしろ
その後もマキさんと交互に歌いながら、合計3時間ほどカラオケで歌い倒した。視聴者の方やマキさんからのリクエスト曲を歌ったり、デュエットしたり。百点を取る企画ではなく、何回百点を取れるかという企画をやって私とマキさんで合計14回という記録で終わったりもした。
こんなにたくさん歌ったのは久々な気がする。ボイトレではどちらかというと発声や技術に気をつけて歌うので回数をこなすという感じではないし、なんだかとてもスッキリした。長時間カラオケはストレス発散に良いと改めて思わされた。
生放送も終わり、マキさんと別れて帰路へ。すっかり夜も更けてしまったし、今日の夕飯はコンビニ弁当かな。まぁイアちゃんもいないし適当でもいいか…
「ん?」
買い物を終えて家の鍵を閉めたところでスマホが震える。どうやらマキさんからのチャットのようだ。つい30分前まで一緒にいたのだから、その時に言ってくれれば良かったのに…と思ったが、マキさんのことだし伝え忘れたか何かしたのだろう。
部屋の電気をつけ、スマホの画面を確認すると案の定伝え忘れたことがあったとのことだった。
「まったくマキさんたら……え?!」
呆れたのも束の間、柄にもなく大きな声をあげて驚いてしまった。チャットの文面を何度も見返し、マキさんに返信してまで確認を取ったが間違いないとのこと。
(これは…本当に、私に?)
現実感がない。けれど、頬をつねっても痛いだけだし、夢ではないようだ。
マキさんが私に言い忘れていたのは、私が次に行う仕事のこと。
「来週発売するアーマーアーミー4の実況、それに、半年後に予定されている大型DLCストーリーのED曲を私に…?」
否はない。あるはずがない。
大人気ゲームの、DLCストーリーとはいえ曲の担当。この大役を任されたのは、私の実力ではなく運の要素が大きいことは分かっている。たまたまマキさんと仲良くなって、スカウトされて、それでいきなり曲を任されるなんて。努力しても歌手になれていない、以前の私のような人たちからしたら邪道だと言われても仕方ない。
だけど、遠慮なんてしている場合じゃない。私はどんな手を使ってでも、あの子に追いつきたい。
「忙しくなりますね」
責任の重さに冷や汗をかきながらも、無意識に私は笑っていた。
「私とはカラオケ行ってくれなくなったのに」
「どうしてその人を親友って呼ぶの? ゆかりちゃんの親友は、私だよね?」
「なんで私の曲は歌ってくれないの!!」
「ゆかりちゃん……」
「私だけの、ゆかりちゃん」
続きは未定です。