一般歌手志望ゆかりんとスーパーシンガーIAちゃん 作:アザミマーン
正直ストックとか続きとかなんも考えてなかったので結構時間がかかってしまいましたが…良ければ続きを読んでください。
ただ長引かせるとネタがなくなってダレるので、そんなに長く続かないとは思います。
声を最後まで出し切る。心地よい疲労感。
室内がしんと静まり返る。
…。
あれ?
「……」
「あの、先生?」
「はっ…」
呆然とした表情をしていた先生が正気に戻る。一体どうしたというんだろう。
ここは私が所属することになったASプロの借りている、ボイストレーニング専用の部屋だ。こういう練習部屋は高校生の頃を思い出してなんだか懐かしい。まぁ私はそんなにボイトレルームを使った記憶はないのだが…。基本屋上でぼっち練習していた。
いやその、ボイトレ室は予約制だったし、最新の設備だったから人気もあったし。声を出すなら誰も来ない屋上で十分かなって…
いやそんなことはどうでもいい。今はトレーニング中だ、集中しないと。
私の前にいるのはASプロの専属ボイストレーナーであるMEIKO先生だ。以前は歌手として活動していた方で、私もいくつも曲を知っている。私がちょうど高校を卒業する直前くらいに、結婚を機に現役を引退された。その後はこうして歌手の卵やそれに類する人たちに講師として歌を教えているらしい。
引退したとはいえその実力は健在で、さっきお手本として歌ってもらったときも現役の頃とほとんど変わらない歌声を聞けて感動した。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ごめんなさい。まさか在野にこれほどの実力者が残っているなんて…」
「そんな、大袈裟ですよ」
「大袈裟じゃないわよ。私からすれば今大活躍しているIAと同じくらいとも思えるほど」
「それは流石に言い過ぎですよ…」
どうやらMEIKO先生は、試しに歌ってみた私の歌が思った以上に出来が良かったことに驚いているようだ。
まぁこれでも一応幼い頃から歌をやってきているし、高校では3年間学業とともに歌を学んできている。成績も上位というか実技ではイアちゃんとトップを争っていたし。そうでなきゃライバルを自称なんてしない。
とはいえそれも過去の栄光、今ではオーディションを受けてもろくに合格しない底辺なのだが…
「なんでそんなに自信がないかは知らないけれど…はっきり言って今のままでも十分、というかなんでプロデビューしてないか分からないレベルなんだけど…」
「ええ? でも、MEIKO先生が以前に所属していた事務所にも応募したことありますよ? 落ちましたけど」
「…あなたのような逸材を落とす? 元所属タレントとして人事とちょっとOHANASHIした方がいいかもしれないわね…」
MEIKO先生が怖い顔で何事かを言う。小声すぎて聞こえなかったけどテンション的にあまり聞いて良い話ではなさそうだ。
これまで、特に学校を卒業したくらいの時分は結構色々な事務所に応募してきたし、オーディションにも出てきた。でも殆ど受からなかったし、録音データを送るだけの一次は通っても実際に審査官の前で歌う二次で落ちる、みたいなこともあった。
あ、でもアイドル方面で売り出すようなものには応募していなかった。今思えば傲慢も傲慢なのだが、あの頃の私は歌だけで勝負したかったのだ。一足先に事務所に入ったイアちゃんが顔の関係ない覆面オーディションで今の大御所に入ったということも、私のプライドに火をつけていた。まぁ結局私はそういうところには受からなかったのだが…
あと容姿採用で実力関係なく入れているみたいなところがあればそこも避けていた。私が避けたというよりは、そういうところへの応募はイアちゃんに却下されていた。
『ゆかりちゃんは可愛いんだから、手を出されかねないよ!』
と真剣な表情で言われたが、流石に過保護すぎるとは思っていた。
そりゃイアちゃん並に可愛ければそういうこともあるかもしれないが、この顔ではね。体は論外だし…くっ。ただ、イアちゃんと喧嘩してまで入りたい事務所でも無かったし、私も一応女の子なので手を出されたくは無い。
でも今思えば、そういう所に応募してみても良かったかもなと思う。私の容姿ではそういった方面での採用はされないだろうし、それなら歌一本で勝負できたかもしれない。いや、結局は実力不足で落とされていたかな。
「それで、どうでしたか? 改善点とか、講師から見て直した方がいいこととか」
「ないわ」
歌についての評価を聞くと、MEIKO先生はばっさりと一言。
「ええ…」
「…ぶっちゃけ、私に力になれることあるかしら? 変な癖もないし、技術は今まで見てきた子たちの中でもダントツ。あなたが自分で足りないと言っていた表現力に関しても、問題があるとは到底思えない」
これでもマキからは厳しく見てほしいって言われてたんだけど、とMEIKO先生は困ったように笑った。
うーん、自分で自分の正しい評価はしにくいものなので、多分MEIKO先生の評価が正しいと思うのだが…いかんせんこれまでがこれまでだっただけに、そこまで高評価だとこっちが困惑してしまう。ま、まぁ問題だらけよりはいいか…録音はしてるし、後で聞き返して問題がありそうな部分を見つけたら自主練で直しておこう。
MEIKO先生に一礼し、トレーニングルームを後にする。マキさんに挨拶しようかとも思ったけれど、今日はマキさんの持ち番組の収録で居ないことを思い出し、そのまま帰ることにした。
スマホを起動し、ワイヤレスイヤホンをケースから取り出して耳に装着する。いつものプレイリストを選択して再生すると、聞き慣れた、それでいて聴き飽きない美しい歌声が頭の中に反響した。
(…うん、これと同じくらい上手いなんて、無い無い)
イアちゃんの歌を堪能しながら思う。流石にMEIKO先生の勘違いだろう。私も自信がないわけじゃないけど、言い過ぎというものだ。
一目惚れ、そして一聴き惚れだった。
イアちゃんと出会ったのは高校1年生の冬休みだった。歌に打ち込みすぎて友達のいなかった私は、いつものように一人寂しく屋上で歌っていた。練習というほどのものではなく、宿題に疲れて気分転換に。つい熱中して小一時間ほど歌ってしまい、さてそろそろ勉強に戻るかと思って切り上げたところだった。
屋上の扉の前に、天使と見紛うほどの美しい女の子が座り込んでいたのだ。
なんだこの可愛い子は…!
それだけでも驚いたが、その子が泣いていたのだから驚きは倍増だ。キョドりながらも事情を聞いてみたが、聞き方が悪かったのか要領を得ない回答だった。
どうにかその子が私と同じ芸能科、それも歌手コースの子(私は1組でその子は2組)だということが分かったので、歌えば気分も紛れるだろうと誘ってみたのだ。
「────」
そのときの衝撃は今でも忘れられない。
こんな天才がこの世にいるのかと、夢でも見ているのではないかと思った。思わずベタ褒めしてしまい、不審がられたのも今ではいい思い出だ。
その子、イアちゃんが実力を出し切れていないこと、教師の指導が合っていないことを即座に理解した私は、その場で何枚もメモを書いてアドバイスとしてイアちゃんに渡した。今思えば随分上から目線なことをしたと思うけど、イアちゃんはそれを受け取り、書かれていることを真面目に実践してくれた。色々と余計なことも口走ってしまった気もするけど、イアちゃんの歌が衝撃的すぎてあまり覚えていない。
イアちゃんとはすぐに仲良くなった。それから高校卒業までずっと一緒だったと言っても過言ではない。
いや、卒業してからも一緒だった。同じ部屋を二人で借りて一緒に住んだ。休みの日が合ったときは二人でカラオケで歌い、帰りに買い物。分担して家事して、お喋りしながら夕飯を食べた。そんな日常も、最近ではめっきり無い。たった数年前のことなのに、懐かしさすら感じる。
伸び悩んではいたけど、幸せだった。
一人で夕飯の準備をしていると、その頃を思い出して無性に寂しくなってしまう。
(そういえばイアちゃんはメッセージ見てくれたかな)
入社に関する諸々の手続きや声の確認とかの最低限必要な研修等を終わらせたら、いつの間にか入社して2週間が経ってしまった。
その間イアちゃんに、マキさんの所属する事務所に入ったことを連絡し忘れていた。それで昨日慌てて連絡したのだが、今朝見たときはまだ既読がついていなかった…。って、相手の反応をいちいち確認するとかメンヘラみたいで嫌だな。イアちゃんの方が私より圧倒的に忙しいんだし、私からのメッセージを見るのが遅れてもおかしくない。優先度は低いだろうし…
違う違う、今は自分のことだ。ネガティブになるのは後にしよう。
なんと私に新しい仕事が来たのだ。しかも、歌の仕事! 気合を入れなければ。
先日のMEIKO先生とのボイトレの後、先生が私のことを事務所に推してくれたらしく、正式な依頼が来た。とある新作アニメのOP曲に私を起用したいとのこと。
ASプロは芸能関係を中心に多方面に展開しているが、歌手をメインに活動している人は今のところいない。マキさんがそれに多少該当するけど、マキさんがバンドで歌っていたのはASプロに入る前だし、今は歌というよりはタレント路線だ。なので事務所としては私を試金石にしたいという考えがある、と社長が入社日に言ってきた。
とはいえ、ほぼ無名の私がいきなりそんな大仕事を担当していいのだろうか…半年後にはアーマーアーミーのDLCのED曲も担当するのに。と恐縮していたのだが、どうやらそこまで知名度がないWeb小説原作をアニメ化したものらしい。また曲は既に出来ており、気に入らなかったら少しは相談できるとか。だからそんなに緊張しなくていいんじゃない? とはマキさん談である。私としては好条件すぎて逆に怖いのだが…
ここまでされて適当にできるわけがない。元々やっつけ仕事をするつもりもないけれど。とりあえず事務所が先方から頂いた原作小説は全部読んだし、作られたアニメの視聴もした。
内容は最近流行りの異世界転生もので、トラウマを抱えて転生した男の子の、挫折と再生の物語だ。トラウマが原因で家からも学校からも追い出され、挫折。その先で出会った同じ境遇の転生者の女の子とともに、二人で世界を旅していく。その中で様々な経験を重ね、やがてトラウマを克服し、最後には自身の転生の謎に迫っていく。
読んでみた感想としては、とても面白かったの一言だ。世界観がよく練られているし、伏線の張り方が非常に巧みだ。何気なく描写された一文が、後から重要な情報になっているなんて珍しくない。それに気づいてからは、食い入るように背景まで目を凝らして読んでしまった。
視聴したアニメもよく作られていた。制作陣が原作をしっかり読み込んでいることがよく分かり、特に主人公の微妙な表情の変化で、セリフを使わずに地の文で説明されていた心情描写を完璧に再現しているところは見事。OP曲を担当するだけの私だが、制作陣の熱が伝わってくるようだった。
「ここ! このコウくん(主人公)の表情、もう胸がキュッとしちゃって…」
「本当ですよね!! 自分で書いておいて何ですが、よく表現してくれたと思いますよ」
「その後ミキちゃん(ヒロイン)が声をかけてあげたくて、でも結局かけられなかったとこも! セリフを入れずにこんなに切ない描写が出来るなんて…」
「いやあ、アニメ製作陣には脱帽ですねぇ」
今日は私が歌う曲についての話し合い。原作者の方も来ていたのでついつい作品について語り合ってしまった。いい感じに盛り上がったところで、作曲者の方を含めて曲について改めて協議する。
曲のデータは頂いていたので、事前に私が録音してきた歌を流し、作品のイメージに合わない部分の曲、歌詞を変えた方がいい部分、私が歌い方を変えた方がいい部分を徹底的に詰めていった。
「…うん、良いですね」
「もし何か変更があったら事務所まで連絡してくださいね。歌い方に関することなら、なるべく改善したいと思いますので」
「いやー? YUKARIさんの歌に文句なんて…まぁ、レコーディングのときは多分また全員集まってると思うんで、歌に関して細かいところはそこで修正ということで」
「分かりました」
どのくらい要望、もしくは批判が出るか戦々恐々としていたのだが、なぜか私の歌に関しては改善点が出なかった。それはそれでちょっと怖いんですけど…指摘することがないほど普通だったってこと? 一応私としては、原作者の方と話したことで作品への理解もさらに深まったし、自分なりにいくつか改善できそうなところは見つかった。あとはボイトレルームで完成度を高めるくらいしか私に出来ることはない。
マキさんにも聴いてもらってもいいな。この作品のファンだって言ってたし、イメージと歌があってるかどうか判断してもらおう。事務所の先輩たちも集めて一緒に聴いてもらうか。先輩と言っても年下ばっかりなんだが…。
あ、イアちゃんに聞いてもらうのはナシです。そもそも守秘義務があるし。あれ、それを言ったらマキさんたちに聴いてもらうのも守秘義務違反? 一回事務所に確認するか。
「はい、初めましての方は初めまして。以前から見て頂いている方は、お世話になっております。ASプロダクション所属、YUKARIです。今回は、先日発売されたアーマーアーミー4を実況していきたいと思います。なお、この動画は○×ソフトウェア様からのご依頼という形です。少し前に、前作のアーマーアーミー3を実況させて頂いておりますので、よろしければそちらもご覧頂ければ幸いです」
同時進行でアーマーアーミー新作の実況も進める。既に発売から1週間経っているが、別にサボっていたわけではない。初日に始めたらネタバレになる可能性があるということで○×ソフトさんから止められていたのだ。実際その通りだとは思ったが、私もアーマーアーミーファンの一人なので早く始めたかった…。
SNSやニュースサイトで情報が入ってこないように見るのを自粛し、そのせいでイアちゃん関連の情報も入って来なくなることに精神的大ダメージを受け…そして長い2週間が経過し、今日を迎えた。本当に苦しかった。苦しんだのはゲームじゃなくてイアちゃんの生情報が入らないことによるものが大半だったのだが。
「いやー楽しみでしたけど、辛かったですよ。ネタバレを避けるために発売から1週間遅れでこの実況を始めていますが、私自身ネタバレをされないために情報を断っていましたからね…辛かった」
発売一週間遅れの理由はネタバレ防止のためか
今日もかわいいぞゆかりん
「あ、生放送は今回が初回だからです。次回以降は、前作の実況同様、普通の動画です」
動画編集の方が手間じゃね?
(´・ω・`)そんなー
「豚は出荷よ」
視聴者のことを豚扱いとか…興奮するじゃないか
「生放送しないというわけではないですけどね。ただ、生放送だと動画特有のコメントがないのが寂しいじゃないですか。見所があったときに一面赤字になったりとか」
かかったなアホが!
騙して悪いが
特大フラグ
なんか書いとけ
「今やれってことじゃねーよ。では初めていきましょう。あとまな板とか言った奴は末代まで呪います」
ひえ
一面赤字で埋めんなw
まえが見えねェ
気にしてるの可愛い
今作でも今までとストーリーの始まり方はそこまで変わらないようで、傭兵の主人公が様々な依頼を受けながら、世界に蔓延る悪と対峙していくというもの。操作は前作を踏襲しているが、サブウェポンが増えたり新たな機能が加わって、複雑になっているようだ。
「ほうほう、これ腰にも武装を載せられるようになったんですねぇ。でも出し方は結構複雑だ、咄嗟に出せますかね? 左右の手と両肩、腰、ブースト。しかも背中に追加武装を載せて武器入れ替えもできる…出来ることが多くなったみたいですが、頭が追いつくのだろうか…」
なお肩の武装と腰の武装を同時に使おうとすると指の数が足りない模様
※既に使いこなしている変態が対戦環境にいる
「うむむ…まぁ序盤はどちらにしろ脚の性能が足りないんでそこまで沢山の武装を載せられませんね。ただ使いこなすのが必要な場面も出てくるでしょうし、練習しておくに越したことはないですね」
その後も順調に進み、序盤のミッションをいくつか終わらせた。○×ソフトさんの作品は序盤から結構難しいのが多いが、操作難易度が高めになっているためか今の所理不尽な状況や強敵は出てきていない。
今やっているミッションもステージの長さ的にそろそろ終わりだと思うが、何か起こりそうな予兆はない。ミッション説明にもおかしな所は無かったし。ちょっと敵は少なかったかな? でも誤差だろう。
「まだストーリー的には序盤ですが、それにしても○×ソフトウェアさんの作品にしては大人しい感じはしますね。ハードが新しくなってから初めての作品ですし、新規を呼び込みたい方針なんですかね? で、上げて落とすみたいに中盤から難しくなる、みたいな」
ざわ
今までそんなことあったか?
油断してると刺されるぞ
「何もないと逆に…ということですか? まぁ確かにそういう展開もあるかもですが。あ、でももう目的の回収物が見えますよ」
仕掛けを解除すると、行き止まりだった目の前の壁の下にロボごと入れるほどの筒状の大きな穴が開く。そこを覗いてみると、下に目的の物資が分かりやすく発光して自己主張していた。落下ダメージを受けないようにブーストを使って少しずつ縦穴を降りていき、底に落ちていた物資にカーソルを合わせる。間違いなく目的のものだ。これを回収すればミッションは完了。
「うーん、少し怪しげなところはありましたが、結局普通のミッションだったようですね」
あっ(察し)
志村後ろー!!
不穏なコメントが流れるが既に操作は終わった後。そしてコメントの流れを肯定するかのように、回収が終わった瞬間、円形の縦穴だったはずの空間が、突然轟音とともに後ろ半分の壁が無くなった。
は?
「は? ちょ、ええええええええ!!?? それは無い! それは無いですって!!!」
草
期待通りのリアクションありがとう
ほんとゆかりんの絶叫すこ
後ろ半分の壁が無くなった後には広い空間になっており、そこにこれでもかというほど敵が並んでいる。これ全部敵?! 無理無理!!
「いやいやいやなになになにが起きてるんですかこれ!?!? ちょ、敵めっちゃいるし!! 囲まれてる! 囲まれてるから!!」
www
草草の草
それが聞きたかった
邪悪なBJおるて
コメントに反応している余裕も無い! 逃げ場ないんですかこれ!? そうだ、入ってきたところから…
「上! 上に逃げ…閉まってるし!! え、これ全部倒すってこと?!」
絶望せよ…
本日の騙して悪いが
焦りすぎて普段の丁寧語すらなくなってるの可愛い
「ちょ、ちょっと待って! そんなに弾薬無いですよ!! 落ち着く時間を…あっ」
致命傷
がめおべら
必死の抵抗も虚しく弾切れとなり、一応持ってきていた背中のサブウェポンに切り替えようとしたところで操作を誤爆した。難しくなった操作の弊害がいきなり出てしまう。その硬直を敵が見逃してくれるはずもなく、無惨にも私の操作するロボットは蜂の巣にされてしまった…
「ぐううううう…! 新作になってこういうギミックもパワーアップしたみたいですね!! 褒めてませんけど!!」
見え見えの罠だったな
それに引っかかった人だっているんですよ?!
いやここまで平和に来ていて急に刺してくるなんてある?! しかしコメントを見ていると熟練のプレーヤーの中では見抜けた人も多いようだ。道中の敵が少なめだったこと、広いドーム状の施設だったのに最後だけ細い穴だったのに違和感を持ったこと、物資があまりにも無造作に置かれすぎていたこと…言われてみれば疑う要素はあったかもしれないが、それを罠だと見抜けるのは多分極まった○×ソフト信者だけだと思うんですけど…。
私が引っかかったことに変わりはないけど!!
「もう! 今日はこれでおしまい! ばーか! ばいばい!!」
拗ねてて草
ばーか! 好き
バイバーイ
〜この放送は終了しました〜
「くそぅ…」
配信を停止する。むううううう!! ここで仕掛けてきますか○×ソフトウェア…!!
しかし、冷静になって考えると、武器交換をミスしなかったところであの場面を切り抜けられたとは思えない。どう考えてもあの数の敵を倒すには残弾数では足りないからだ。どうしようかな、サブ武器も弾数が多い武器を持ってくるか、それとも光学系武器のように残弾無限の武器を持ってくるか。いや、ブレードなら威力も十分で残弾も関係ないしアリ? でも敵数が多すぎて全部倒す前に被弾してこっちがやられるか。
「ふふ」
うん、やっぱり難しいゲームは楽しいな。こうして試行錯誤している時間もいいものだ。今の時代、攻略を見れば色々と書いてあるし、あっさりクリアできるんだろう。でもまぁ、今回は制作側から攻略を見ないでやってほしいと言われているし、私としてもここまで悔しい思いをさせられたからには自力でどうにか攻略したい。
放送が終了したことと次回の動画の予定をSNSに投稿しようと思ってスマホを見ると、イアちゃんから返信が来ていた。
当初の目的も忘れて急いでメッセージアプリを開く。
『おめでとう、ゆかりちゃん』
『ゆかりちゃんなら、この状況を自力で打開しちゃうと思ってた』
『私が何かしなくてもきっと、って』
『大好き、ゆかりちゃん。今までも、これからもずっと』
何か返そうとするも、言葉が浮かばない。
胸がじんわりと暖かくなっていく。イアちゃんの優しい声が耳元で囁いているようだった。脳内再生余裕です。
本当に…この子は。何が大好き、だ。私の方が大好きだ。
いつも支えてくれた、こんな私と根気よく友達でいてくれた、私の一番大切な人。感謝も想いも、伝えても伝えきれない。
随分待たせてしまった。だから私から追いつくんだ。約束は守る。
「ありがとう、私も大好きです、イアちゃんもお疲れ様、と」
これでよし。最低限、しかし気持ちが最大に込められた返信だ。イアちゃんも長々とした返信を見る時間はないだろうし。
こっちが夜ってことは、イアちゃんのいるアメリカは朝かな? これからまた仕事なんだろうか。電話は迷惑だろうな。
イアちゃんが帰ってくるのはまだ数ヶ月先。でも、帰ってくる頃には少しは成長した私が見せられるだろう。もしかしたら歌を聞かせてあげられるかもしれない。
○×ソフトさんからは3ヶ月くらいで実況を終わらせてほしいと言われているし、近くアニメOPのレコーディングもある。イアちゃんのことを心配している場合じゃないな。私の方こそ、頑張らなければ。
※不定期更新です
何がとは言いませんが、6版でゆかりんのAPPは16寄りの15、イアちゃんのAPPは18寄りの17を想定しています。