一般歌手志望ゆかりんとスーパーシンガーIAちゃん   作:アザミマーン

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今回は過去編。ちょっと短くてすみませんが、書いてたら長くなりそうだったのでとりあえず出来た分だけどうぞ。


その声に魅せられた少女

 

 

 

 一目惚れ。

 いや、一聴き惚れ? 

 

 

「────」

 

 

 その自由で美しい歌声に。

 私は一瞬にして魅了された。

 

 

 

 

 

 幼い頃から歌うのが好きだった私は、両親の勧めもあって、本格的に歌を学ぶために芸能科歌手コースのある高校へと進学した。

 高校のある場所は生まれ育った土地からは離れていたので寮を借りることになったが、両親や友達、周囲から太鼓判を押されていた私に不安は無かった。

 私自身、自分は歌が上手いと思っていたし、実際地元では誰にも負けなかった。期待してくれた人たちのため、もっと歌が上手くなるため。そう息巻いて、私の高校生活は始まった。

 

 この学校へ歌手を目指して受験し、入試を合格してきたのは私を含めて10人。その中から2組に分けられて授業が行われると初日に説明された。分け方は単純で、入試の実技試験の成績が良かった順だ。

 私は評価が低い方である2組に入れられたが、その時点ではまだ何とも思っていなかった。この学校は芸能系の将来を目指す人たちの中では有名な高校、いわゆる名門というやつだ。歌手コースにしてもそれは同じ。

 だからこそ、いきなり高評価してもらえるなんて思っていなかった。歌が上手いとは思っているが、それは自身や親しい人の評価だ。地元では一番、ただ全国にはもっと上手い人がいた。そういうことだろう。

 

 けれど、私だってここに入学した者の一人だ。そこまで周囲と差は無いはず。技術の差なんて、同じカリキュラムを学んでいれば直ぐに埋まる。埋めてやる。そう確信していた。

 

 

 でも、現実は非情だった。

 

 

 最初におかしいと思ったのは、入学して2ヶ月くらい経った頃のこと。クラスの全員に共通の課題曲が出され、その歌の出来栄えでクラス内の順位を決めると教師が言った。順位自体は本人だけに伝えられ、評価の上位2人は上のクラスの下位2人と入れ替わるらしい。露骨に競争を煽る内容のシステムだったが、私も他のクラスメイトも否は無かった。ここで結果を出せないようなら歌手なんて夢のまた夢。全員それが分かっているからこそ本気だった。

 

 クラスが静かな熱気に包まれ、当然私もその中の一員だった。入試では下のクラスに入れられたが、これでようやく上がれる。この2ヶ月、そのための努力はしてきた。クラスメイトが放課後遊んでいる中でも自主練し、実力は確実に上がっていると思っていた。同じカリキュラムだと思っていたけど、先生の説明を聞くにどうやら上のクラスは教えてもらえる内容も違うみたいだし、早く上がりたい。査定の日が楽しみだった。

 

 そして待ちに待った査定の後。

 私に渡された順位の紙には、5。つまりクラスで一番下の数字が記載されていた。

 

 

 え、なんで? 

 

 

 呆然とした。

 

 入学以来私は、教師たちの指導に従って全力で頑張ってきた。何度も教本を読んで勉強した。遅くまで残って自主練してきた…その結果が、これ? 

 …いやまだ決めつけるには早い。私の努力が足りなかっただけだろう。みんな子供の頃からやってきてるんだし、簡単に抜かせる方がおかしいか。別にチャンスがこれきりという訳ではないし、焦る必要はない。大丈夫、私の歌はみんなに保証されてきた。

 

 そう思って次の査定に挑む。まだダメだ。次こそは。また次は。まだまだ。今度こそ。

 

 

 

 あっという間に冬になった。

 その間、私に配られる紙に書かれた数字は、一度も5から変わらなかった。

 

 

 

 

 

(どうしたら良かったんだろう)

 

 端的に言って、私は自信を完全に喪失していた。

 自分は歌が上手い。才能がある。足りないのは技術だけ。これまでそう思ってきた。

 でも実際には私より歌が上手い人は何人もいて、その人たちも才能はきっと私と同じくらい、いやそれ以上。技術の差は追いかけても追いかけても縮まらない。

 

(詰んでる。どうしようもないよ)

 

 のろのろと階段を登る。昼過ぎまでを課題に費やし、その後は練習部屋を借りて歌うつもりだったのだけれど、歩いているうちに、トレーニングルームが近付くたびに気力がなくなっていった。今は冬休みに入っているので授業があるわけではない。だけど自主練する歌手志望の生徒はいる。

 

 トレーニングルームは最新の設備が揃っている。今は年末で帰省している生徒が殆どなので空いていることも多いが、普段の休日は予約を取らないと使用できないほどだ。防音もバッチリで、扉が開かない限り中から音が漏れてくることはない。

 予約表アプリで確認した限りでは今日の予約は取られていないが、共用である以上、既に誰かに使われている可能性はある。今は、クラスメイトに遭遇したくなかった。

 

 そこから離れたくて、とにかく人のいないところへ行きたくて。でも私も最初は練習するつもりで来たので寮の部屋は遠い。私の足は自然と、今いる場所からほど近い屋上へと向かっていた。

 

(私、なんで歌手目指してるんだっけ)

 

 クラスメイトの順位は毎回変動しているようだった。順位を見せ合うほど仲良くなっていないが、嫌でも聞こえてくる。それに上のクラスとの入れ替わりも激しい。でも、私だけはずっと一番下の順位から変化がない。

 

 休み時間中のクラスメイトの笑い声が、私のことをバカにしているように感じた。教師たちの視線が、結果を出せない私に対して呆れや諦観を含んでいるように思えてきた。

 ただの被害妄想かもしれない。でも、一度そう思ってしまうと、周囲が私を苛んでいるようにしか感じられなくなってしまっていた。

 

 もう学校を辞めよう。歌手になることも諦めよう。私には無理だ。本気でそう思った。

 

 でも学校を辞めてどうする? 期待してくれた両親やみんなにも申し訳なくて、地元に帰ることすら躊躇われる。もう心の中はぐちゃぐちゃだった。

 

 やっとの思いで屋上のドアの前へと辿り着く。大した距離でもないのに、精神的な疲労からか息が切れてしまった。

 ドアノブに手をかけるが、鍵はかかっていないようですんなりノブが回った。ただ、ドア自体が分厚くて重く、中々開かない。疲れた体に鞭を打ち、全体重をかけてドアを押し込む。

 

 ようやく開いた隙間に体を滑り込ませ、転がるように屋上へ出た。

 

 

 

 そして私は運命に出会った。

 

 

 

 私の目に入ったのは、一人の女の子。華奢な体、身長は私と同じくらいか、少し高め? 

 休日の学校の屋上で何をしているんだろうか。自分のことを完全に棚にあげた質問をしようとしたそのときだった。

 

 目を瞑った横顔の、可愛らしい口が開く。

 

「ぁ──」

 

 言葉が、音色が紡がれる。

 

 

 同時にその背に大きな翼が広がった。ように錯覚した。

 

 

 

「    」

 

 

 

 音の波が体を通り抜ける。全身に鳥肌が立つ。

 

 

 完成されていた。

 一瞬聴いただけでも、直感で分かってしまう。それほどまでに素晴らしい歌声だった。

 

 音源も伴奏もない、音が響くはずもない屋上での、ただのアカペラ。だというのに、私はドアの前でへたり込んだ体勢から一歩も動けなくなってしまっていた。

 

 生まれて初めて、他人の歌声に魅了された。

 

 アルトのよく通る声は聞き取りやすく、それでいてうるさく残ることは無い。

 同じクラスで歌っていた子たちがド素人に思えてしまうほどの圧倒的な技量。

 聴いている人を包み込むような優しい声の表現。

 

 

 何より伝わってくる、『歌うのが楽しい』という感情。

 

 

(ああ、そうだ)

 

 

 頬に温かいものが流れた。

 

 ──本当に歌が上手だなぁ! さすが俺の娘、聴いてるだけで元気になるよ! 

 ──貴女の歌を聞くと思わず笑顔になっちゃうの! 

 

(私、歌うのが好きだったから、私の歌で笑顔になってる人を見るのが好きだったから…)

 

 自分の夢を思い出す。最近は練習も勉強も辛くて、なんのためにやっているのか分からなくなっていた。

 私は…歌うのが好きなだけで。本当は歌が上手くなりたかったわけでもなくて。歌手になることすら、目標だったわけじゃなくて。

 

 

 ただ、笑顔で楽しく歌って、それを聴いた人が元気になってくれる。そんな人になりたかったんだった。

 

 

 物語みたいな話だ。

 でも確かに、私はその歌に救われていた。

 

 

 

 

 

 

 その人が私に気づいたのは、それから10曲近く歌い終わってからのことだった。連続で歌っていたというのに疲れた様子は無く、ふぅ、と軽く息をつき背伸びを一つする。

 

 美しいすみれ色のショートヘアー。サイドバングから伸びた、銀のマカロンのようなアクセサリーを付けた二つのおさげが揺れる。

 

 沈みゆく夕日に照らされたその姿は、神話を大して知らない私をして、天使か神の降臨を思わせるようだった。その横顔を見ただけで、心臓の鼓動が激しくなる。

 

 その子がこちらを振り返ると、何故か表情と体がピシリと固まった。

 先程までの神聖さすら感じられる雰囲気はどこへやら、紫の女の子は震える指でこちらを指した。

 

「いい、一体いつからそこに…と、というか、なんで泣いてるんですか?! 大丈夫ですか?!」

「え…?」

 

 頬に手を当てる。ああ、さっきから顔が濡れている感じがすると思ったら、泣いてたんだ、私。

 袖で乱雑に擦ろうとしたが、いつの間にか近づいていた女の子に手を掴まれた。そのまま目元に薄紫色のハンカチが当てられる。

 

「ちょっと、擦ったら跡になっちゃいますよ! もう、少しじっとしていてくださいね」

「あぅ」

 

 しゃがみ込んだ女の子が私の涙を拭いていた。しばらくされるがままになり、出続けていた涙が止まるまで数分。なんとなくお母さんのことを思い出した。

 涙が止まったのを確認した女の子がハンカチをポケットにしまう。同年代の子にお世話されたことに何となく気恥ずかしくなってしまい、既に熱くなっていた顔にさらに熱が集まった。思わず顔を背けてしまう。

 

「はい、もう大丈夫ですよ。ところで、どうしてこんなところに? あなたも気分転換ですか?」

「あ、うん。ちょっと、ね」

「泣いていましたが、嫌なことでもありましたか? …って、事情も知らないのにこれはお節介でしたかね」

「あ、いやその…」

 

 あなたの歌に感動して泣いてましたなんて初対面の相手に素直に言うのは、人見知りの私にはハードルが高すぎた。結果、上手く言葉が出てこなくて挙動不審になってしまう。

 そんな私の態度も気にしていないのか、女の子は気さくに私に話しかけてくる。

 

「そのリボンの形と色、あなたも芸能科の1年生ですよね。私も芸能科の1年なんですよ。歌手コースです」

「わ、私も同じ…か、歌手コースだよ」

「じゃあ歌手を目指すライバル同士ってことですね! 私、1組の結月ゆかりです。目標を同じくする者として、これからよろしくお願いしますね」

「あなたが、あの…」

 

 聞き覚えがある名前だった。ずっとクラス最下位だった私には関係のない話だけど、噂で聞いた。歌手コースの1組と2組の人間は入れ替わりが激しいが、1組の1位だけは変わったことがないと。

 

 その名前が、結月ゆかり。私の学年で最も歌手に近い生徒。

 

「あの?」

「ううん、何でもない。私、2組のイア・プラネテス。ハーフなんだけど、生まれも育ちも日本だよ」

「そうなんですね。では、プラネテスさん」

「なに?」

「今から一緒に歌いませんか? これもいい機会ですし、練習ですよ!」

「え?!」

 

 唐突な誘いに、それまでとは別の意味で心臓が跳ねる。

 相手は学年1位、最も歌が上手い人。そんな相手からの練習の誘い、普通なら断るわけがない。学べることはたくさんあるだろうし、私にはメリットしかない提案だ。

 

 でも、私は迷っていた。何せ私はもう学校を辞めようと思っていたのだ。

 さっき結月さんの歌を聞いて思い出した、自身の夢。私は考えすぎていたんだ。歌手という職業が一番近いというだけで、絶対にプロの歌手でなければいけないというわけじゃない。歌のお姉さんや配信者など、他にも道はある。視野が狭まっていたんだ。

 

 …それに、これ以上この学校で惨めな気持ちを味わいたくないという気持ちもあった。それなのに、今だけ一緒に歌って練習だなんて卑怯に感じられた。虫が良すぎる。

 

 更に本音を言えば、結月さんと一緒に歌って、幻滅されたくなかった。

 クラスでの順位が示す通り、私の歌はこの歌手コースにいる生徒の中で一番下手だ。このコースの頂点に立つ結月さんからしたら、聞くに堪えないものだろう。

 

 私を歌で救ってくれた人に、自分の下手くそな歌を聞かれたくない。ちっぽけなプライドだ。でも、何故かどきどきしている胸が、自分の気持ちを肯定していた。

 

「で、でも私、下手だから…順位だって、2組で一番下だし」

「この学校の歌手コースに入れている時点で下手ということはあり得ないはずなのですが…。では、さっき私の歌を聞いたのと交換ということで、プラネテスさんも歌ってください!」

「えぇ…」

 

 思わず顔を顰めてしまう。気乗りはしなかった。でも、不可抗力とはいえ勝手に聞いてしまったのは本当のことだ。それに期待の眼差しでこちらを見ている結月さんを見ると、歌わないことに罪悪感を感じてしまう。

 

 結局、少しだけということを最初に前置きしてから、私はおずおずと来月の課題曲を歌い始めた。

 

「────…」

 

 何度歌っても、代わり映えしない自分の歌。以前は上手いと思っていたのに、ここで学んでいくうちにそんなこと微塵も思わなくなってしまった。みんなと同じように歌っているはずなのに、伸びず、響かず、届かない。先程の結月さんの歌と比べると雲泥の差、未熟さばかり目に付く。そんな歌だった。

 

 結月さんは幻滅していないだろうかと思ってそちらを向くと、目を見開いて固まっている彼女の姿があった。

 

「……」

「あの、結月さん? どうだった…?」

「天才だ…」

「え?」

 

 耳を疑うような発言に、聞き間違いかと思ってつい疑問符を浮かべてしまう。しかし結月さんが肩を掴みかかってきたことで聞き返す余裕を失ってしまった。

 

「ちょ?!」

「プラネテスさん! すごいです! 私、こんな歌初めて聞きました!!」

「なに…そんなに酷かったってこと?」

「何言ってるんですか!? あなたほどの才能を持つ人間を私は初めて見ましたよ! あなたは紛れもなく、天才と呼ばれる部類の人間です!!」

「は、はぁ? あの、私、クラスで最下位だよ?」

 

 聞き間違いではなかったようで、結月さんは私のことをベタ褒めしてきた。しかし、信じられるわけがない。むしろその言葉に私は怒りすら覚えていた。

 私が、天才? そんなわけがない。だって本当に私が天才なのだとしたら、なぜ私は最低評価を受けているの? きっと、私の歌があまりに下手だったから、褒めるところを何も思いつかなくて適当なことを言ってるに違いない。悔しさと惨めさで、止まったと思っていた涙が込み上げてきて視界が滲む。

 

 そんな私の様子に気づいていないのか、結月さんは顎に手を当てて考え込む。

 

「それは多分、少しばかり歌い方がプラネテスさんに合っていないというだけだと思うのですが…。まぁ、初対面の人間の言うことをいきなり100%真に受けるというのは確かにおかしいですね。では、こうしましょう」

 

 結月さんはウサギ型のメモ帳を取り出して何事かさらさらと書き込んでいく。数枚書いたところでそれらを千切り、私に向かって差し出した。

 何事かが、お手本のように丁寧な文字で書かれている。女の子らしくはないが、結月さんらしい字だと何となく思った。

 

「これは?」

「私が今プラネテスさんの歌を聞いてみて、気になったところを書き出してみました。騙されたと思って、それに書いたとおりに歌い方を修正してみてくれませんか?」

「え、っと…それで何か変わるの?」

「ええ、プラネテスさんがそれに従って真面目に練習すれば、休み明けの査定で順位を上げられること間違いなしです!」

 

 結月さんはドヤ顔で無い胸を張って言うが、何とも胡散臭い話だ。渡されたメモ紙はそれほど大きくないので、内容的には多くない。本気でやろうと思えば冬休みのうちに修正することもできるだろう。信憑性はともかくとして。

 ただ、実力が伸び悩み、行き詰まっていたことも事実。ここは結月さんの話に乗って試してみてもいいかもしれない。それに、元より学校を辞めようと思っていたところだったのだ。これでダメだったら本当に辞めてしまえばいい。

 

「もしダメだったら…」

「その時は、駅の近くにあるちょっとお高いケーキ屋さんのケーキバイキングをご馳走しましょう。約束します」

「そ、そう。わかった」

「む、全く信じていない目ですね…。確かにあのケーキ屋さんは学生が行くには高いですが、それでも2人分払うぐらいなら私のお小遣いの範疇です。なに、約束は破りませんので、安心してください! まぁ、今回は奢るようなことにはならないと思いますけどね。で、その代わり!」

「そ、その代わり?」

 

 一体どんな条件を突きつけられるのか、戦々恐々とする。今からでもやめといたほうがいいかな…

 慄く私に気づかない結月さんは、整った顔に小悪魔のような笑みを浮かべながら、右手の小指を立てて私に差し出した。

 

「プラネテスさんの順位が上がったら、私と一緒に歌を歌ってください。それも、私が卒業するまでずっと。約束です。指切りしましょう」

 

 もしかしてこの人は、私が学校を辞めようと思っていたことが分かっていたのだろうか。差し出された指をじっと見つめ、迷う。

 流石に、一緒に歌いたいだけなんて意味ではないことは分かる。結月さんは、私にまた歌い方を教えてくれると言っているんだ。

 

 でも、結月さんが私に歌を教える意味はない。それどころか、彼女の言うように私に本当に才能があるなら、結月さんのやっていることは寧ろライバルを増やしているだけだ。なら、なぜ? 

 

「不思議そうな顔をしていますね?」

「それは、まぁ。だって、一応お互い歌手を目指すものだし」

「確かに、少ない席を奪い合う者としては、敵は少ないほうがいいですね。きっと私は敵に塩を送ってしまっているのでしょう」

 

 迷っているうちに結月さんは手を引っ込めて歩き出し、私の横を通り過ぎた。ほんのりと甘い香りが漂う。そのまま彼女は屋上の出口へと向かい、重たい扉をゆっくりと開ける。そして扉の向こうへと足を踏み出す前に、こちらを振り返った。

 相変わらず悪戯な表情をした結月さんがクスリと笑う。

 

「でも、聞いてみたいと思ってしまったんです。貴女の完成した歌声を。…そうですね、語弊を恐れずに言うならば」

 

 

 

 私は貴女の声に惚れてしまったんですよ、と。

 

 

 

 結月さんはそう言い残し、開いた僅かな隙間へと身を滑らせた。

 

「ぇ…惚れ……?」

 

 残された私は結月さんの言葉の意味を遅れて理解し、暫くその場に硬直してしまった。

 頬が熱いのは、きっと歌って疲れたせいだ。そう思うことにした。

 

 

 

 




(イアちゃんの声が好みすぎて大混乱中)

感想返せてませんが全部見てます。ありがとうございます!
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