イコさんっているやん?   作:猫又猫々

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アニメ見て興奮したので初投稿です。


第10話 刀から呪力放出ってもうそれ月◯天衝やん!

 

 

御劔家。

福井県北東部に根を張る呪術師の家系。

北陸の呪霊討伐の要を担う家系であり、その始まりは江戸時代にまで遡る。

御劔家は元々鍛冶屋として越前国では有名な一族であった。

それが江戸時代に入り、とある1人の男児の誕生から変わる事となる。

 

表向きは鍛冶屋として稼ぎ、裏では呪術師として呪霊を祓う。

そんな御劔家には、他家と比べて特殊な点があった。

 

五条家ならば無下限呪術が、禪院家ならば十種影法術と投射呪法が、狗巻家であれば呪言など、術師の家系には代々相伝の術式が存在するのに対し、この家にはそれが存在しないのだ。

故に、相伝の術式を持つ者が当主となるのでは無く、その代で最も強い者が当主となるのである。

御劔家が当主に求めるのは『価値ある術式』などではなく、『純粋な強さ』それだけ。

 

そして当主となった者が、その代の宝剣の所持者となる。

術式ではなく1つの呪具を代々継いでいく。

それこそが御劔家の持つ特異性であった。

 

 

────────────────────

 

 

江戸時代から刀鍛冶として栄えてきた御劔家の敷地はとても広大だ。

外への移動中に碧さんに聞いた話だと、ここ御劔邸は2つの屋敷と広大な土地から成っているらしい。

 

また、屋敷の外には屋外訓練場があるらしく、今回はそこで模擬戦を行うらしい。

まあ訓練場とは言っても、40平方メートル程の広さをした何もない芝生のフィールドである。

また、白線でしっかりと区切られており、フィールドの中と外が分かるようになっていた。

碧さん曰く、組手などは基本的にそこで行うそうだ。

 

「よし、それじゃやるか」

 

「よっしゃ」

 

さて、訓練場に到着して数分程身体を動かして居ると、碧さんがそう言ってきた。

あっち側も準備運動が終了したのだろう。

彼女はとても楽しそうに笑っていた。

 

「始める前に先にルールを言っとくか。お互い相手を殺す程の攻撃は禁止な。あくまでこれは遊びみたいな物だからな。あとは、このフィールドから出たり、気絶したら負けだ。分かったか?」

 

彼女の問いかけにコクコクと頷いておく。

 

なるほどルールは分かった。

さて、どうやって勝とうか。

え? 勝つ気なのかって?

当たり前だろぉ! こちとらクソが付くほどの負けず嫌いゾ!?

 

「よしよし、なら改めて……やるか!」

 

ニッコリと笑ってそんな事を言う碧さんは動きやすそうな服装をしており、サルエルパンツ型のズボンにダボっとした真っ黒のスウェットを着用していた。

 

おそらくだが、高専時代の制服を改造した物だろう。

高専時代に来ていた制服を改造してそのまま着ている術師はそう珍しくは無いのだそうだ。

五条さんが、自分もそうだって言ってたからそうなのだろう。

いや、あの人結構適当言うタイプだし、違うかもな。

 

さて、かく言う俺は勿論、生駒隊の隊服とそっくりの制服を着用している。

これは2年前に五条さんから誕プレで贈って貰った物だ。

制服の要望を五条さんに送ったら誕プレとして返ってきて大変満足している。

うぅむ、たしかなまんぞく……。

 

因みにイコさんのチャームポイントでもあるゴーグルもしっかりと着用しているぞ!

イコさんファンとして、ゴーグルは必須アイテムだからな!

 

術式(トリガー)解放(オン)

 

その言葉と共に術式を発動する。

呪力を消費した事により、ほんの少しの喪失感に襲われる。

そうすればあらびっくり、俺の左腰に鞘に入った木刀が現れた。

 

今回は模擬戦の為、孤月はナシだ。

いつもの訓練用の木刀で戦わせて頂こう。

 

「へぇ、それが龍人の術式か?」

 

その一連の流れを見ていた碧さんが訊ねてきた。

まさかお遊び感覚の模擬戦で術式を見れるとは思っていなかったのだろう。

その目は如実に驚愕を表していた。

 

「術式やないで、トリガーや」

 

「ハハ、何言ってんだか」

 

何やら思案している様子。

恐らくだが、これ見よがしに木刀を出した事に対して警戒していると思われる。

多分だが、木刀以外での攻撃でも疑っているのだろう。

 

だが、残念だったな。

俺は刀一本の男だ。

 

そんな事を考えていると相手が戦闘態勢に入った。

臍で練られた呪力が胸、肩、腕を通じて、右人差し指に嵌められていた指輪に流し込まれていく。

 

どうやら彼女の着けていた指輪は呪具であったらしい。

 

「──攻め潰す!」

 

その言葉と共に、瞬間、加速する彼女。

此方へと肉薄してきた彼女の右手には、いつの間にか真っ黒な小太刀が握られていた。

 

太陽の光を反射して煌めく刃。

脳天目掛けて振るわれた刀を、即座に抜刀した木刀で受け止めてみせる。

ガギンッという金属同士がぶつかる様な音が鳴り響いた。

 

危ねぇ!?

いきなりすぎてビビって大袈裟に避けそうになってしまった。

 

「うお、当たったら死んでまうヤツやん!?」

 

「ハハハ、安心しろ。鈍だからな」

 

何が鈍だよ、今の威力は当たったら骨が砕けるレベルだったやんけ。

訓練で大ダメージを負ってもいいのはワートリ位の筈では?!

現実の訓練で殺す気で向かってくるんじゃねぇよ!?

 

心の中で大絶叫しつつ、取り敢えず相手に合わせて此方も動き出す。

 

弾かれた小太刀を即座に動かし、俺の首へと切り掛かる碧さん。

それに対して俺は、首と短刀の間に木刀を割り込ませて、その攻撃を弾く。

 

流石に攻撃を喰らってやる訳にはいかない。

仕方あるまい、やるからには此方も本気で行かせて貰おう。

 

左手にも小太刀を作り出した彼女は、先の一撃が防がれる事を予め予測していたのか弾かれても尚、止まる事なく流れる様な動きで高速の連撃を繰り出してきた。

 

計16回にも及ぶ切り合い。

ぶつかる刃と響く轟音。

彼女の繰り出した攻撃を全て木刀で丁寧に弾き、いなしていく。

右に、左に、上に、下に、両手に刃を装備した彼女の攻撃は実に多彩であった。

 

全ての攻撃を防がれたからだろうか、相手が一度俺から距離をとった。

与えられた空白。

その隙に一度息を整える。

 

次の瞬間には目前に刃が迫っているかも知れない。

相手への警戒は最大に、されど相手を恐れず攻める事も忘れない。

先生からの教えであった。

 

先生は対面での勝負は弱かったが、教えるのは格別に上手かった。

戦いの心得、戦闘の組み立て方、呪力操作などの技術、どれを取っても教えるのは上手かったのを覚えている。

 

なんて事を考えていると、相手の呪力が跳ね上がる。

どうやらここからが本番らしい。

 

「勝負はこっからってな」

 

彼女は、碧さんはニヤリと笑うとそう言って小太刀に呪力を込めた。

 

 

────────────────────

 

 

御劔家初代当主、御劔刀次郎(とうじろう)

彼は生前とある刀の製作に取り憑かれていた。

それは『形なき刀』というものであった。

 

形なきにして形あり。

それこそが彼の目指した究極の刀であったのだ。

 

呪霊を祓い、刀を打つ日々。

呪いを重ね、刃へと込めていく。

そうして数十年が経過した頃、齢46にして彼は執念の果てに自身の全てを注ぎ込み、それを完成させ、世に遺した。

その名は特級呪具──

 

 

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「──不羈ノ太刀(ふきのたち)

 

その言葉と共に碧の両手にあった小太刀に呪力が奔る。

それと同時に、その呪具の術式によって小太刀が流動し形を変えた。

 

特級呪具──不羈ノ太刀。

込められた術式は「自由自在」。

 

「次はデカいの行くぞ!」

 

そう言う彼女の手に握られていたのは、全長3メートル程の真っ黒なハルバードであった。

 

その術式効果は、形・質量・大きさを自由に操作する事が出来るというもの。

しかし、自由であっても限度は存在する。

見かけ以上の重さには出来ないし、見かけ以上に軽くも出来ない。

だがそれでも、術式の限界まで大きくする事も小さくする事もできるのである。

 

龍人がそれを視認した次の瞬間、接近。

天から高速で振り下ろされた一撃はしかし、彼が一歩右にズレた事で、さっきまで彼の身体があった空間を轟音と共に刃が通過するのみに終わる。

 

相手の攻撃を躱した龍人はそのまま下から木刀を振り上げる。

しかし、相手の左脇腹を狙った一撃は瞬間的にハルバードから変化した盾によって防がれてしまう。

 

自由自在であり、攻防一体。

宝剣──呪具の特徴を龍人はそう結論付けた。

 

「おいおいおい、なんやねんその呪具。強すぎるやろ」

 

「特級呪具だからな。それに御先祖サマが命を賭して作ったんだ。これぐらいは、な?」

 

碧はそんな事を口では言いながらも、龍人の強さに舌を巻かずにいられなかった。

たった12歳の少年の筈。

それなのに自分の攻撃が全く通らないのだ。

舐めていた訳ではなかった。

だがそれ以上に、目の前の少年が自身の予想を易々と飛び越えてみせた事に驚かずにはいられなかった。

 

「ハハ、本気で行くぞ!」

 

彼女は今、予想外の才能と出会い最高に昂っていた。

 

「今までので、動きにはもう慣れた。今度はこっちから行くで!」

 

その言葉と同時に刃を鞘に納めた龍人は、地面を強く踏み締め抜刀の構えに入る。

 

そして、龍人の全身から呪力が迸る。

彼は、今まで抑えに抑えていた呪力をほんの少しだけ解放していた。

 

──ゾクゾクゾクッ。

碧の全身に奔る震え。

それは相手に対する悪寒か、武者震いか。

彼女はその疑問を飲み込むと、口角をこれでもかと歪ませる。

 

地面を踏み、一気に加速する龍人。

 

「……ッ!?」

 

その余りの速さに碧は一瞬、彼を見逃す。

否、見逃してしまった。

 

彼女の側方をとった龍人はガラ空きの胴体へと木刀を走らせる。

そんな彼の持つ刃に莫大な呪力が流されている事に、彼女は気付く。

 

(……マズッ!? 死──)

 

──瞬間、碧の脳内に溢れ出した危機感。

生存本能がこれでもかと警笛を鳴らす中、彼女は反撃を諦め、全力で自身の右半身を守りにかかる。

液体の様にハルバードから形を変えた呪具はそのまま半球体状の盾になると、木刀と彼女の身体の間に割り込んでくる。

そして彼女は呪具に全力で呪力を込めて固め、守りに入った。

 

「月◯天衝!!」

 

その叫びと同時に爆ぜる呪力。

刃から放出された莫大な呪力に押される様にして吹き飛ばされる碧。

そのまま塀の壁にぶち当たった彼女は壁を破壊して停止する。

そんな光景を眺めながら当の龍人は、「威力やっべー」などと呑気な事を考えていた。

 

龍人は過去に呪力操作と呪力放出の訓練の一環として、この世界にも存在しているジャンプ作品の中からとある技を真似して遊んでいた事がある。

それこそが『◯牙天衝』であった。

刃に呪力を纏わせそれを斬撃として放出する技。

最初は訓練のお遊びのつもりだったそれが、龍人の莫大な呪力と出力が揃った結果、チャンイチもビックリの威力になってしまっているのだった。

 

勿論、今回龍人が繰り出したそれは全力の20%程に抑えられており、十分に手加減のされたものであるのだが、それですら相手に一瞬死を思わせるには十分過ぎる威力であった。

 

今回、龍人が孤月ではなく木刀を使い、剰えイコさんの必殺技である生駒旋空を使わなかったのには理由があった。

単純に手の内を隠したかったのもあるが、それ以上に今回は訓練であるというのが大きかった。

 

もしかしたら旋空孤月が相手のガードを突破して殺してしまうかもしれない。

もしかしたら相手が反応出来ずに斬ってしまうかもしれない。

それらの考えが過った時点で龍人は孤月の使用を除外していた。

 

今戦っているのは仮想の世界でも無ければ、肉体はトリオン体でもないのだ。

あくまでも自分が今生きているのは現実であり、肉体は生身。

傷はそう易々とは治らないし、肉体の欠損は死に直結する程の大ダメージである。

 

だからこそ今回龍人は孤月ではなく木刀を使い、旋空孤月よりも威力調節のしやすい唯の呪力放出を決め手に選んだのだった。

 

「…はぁはぁはぁ………ハハ、ハハハハハ!」

 

それは歓喜の笑いであった。

未だ見た事もない程の才能。

龍人の強さに碧は歓喜していた。

 

既のところでの防御が間に合ったのか、彼女は消耗はしてはいるが無傷であった。

 

瓦礫の中から起き上がった彼女は、嬉しそうに笑いながら龍人の元へと歩き出す。

それはもう物凄い笑顔であった。

 

「良いな。マジで気に入ったよ。これからよろしくな、龍人」

 

碧の発言に龍人は頷いた。

 

「よろしくやで。達ちゃんて呼んでや」

 

「ハハハ、考えとく」

 

そうして2人はガッチリと2度目の握手を交わす。

それを見ながら満足そうに微笑む彼女は何かを思い出したかの様に口を開いた。

 

「そーいや、結局なんで龍人は宝剣が見たかったんだ? なんか理由があったんだろ?」

 

「いや、母ちゃんから宝剣があるって聞いてたから気になってただけやで? 別に欲しかったとかやないで?」

 

今回龍人が宝剣を見たかったのは、もしかしたらワートリに出てくる黒トリガーや改造トリガーに似た呪具かもしれないと思ったから見たかったに過ぎないのだ。

結局どこまでいってもワートリオタクな彼らしい理由であるのだが、それを言った所で碧が理解できる訳もなく。

彼は濁して答えるのだった。

 

「ふーん? まあ、いいか。それより龍人、腹減ってるか?」

 

戦闘中のピリピリした雰囲気が一転、完全にオフモードになった碧が龍人へと問いかけた。

 

「おん、お腹ペッコペコやで」

 

それに対して、術式を解きながら龍人が答える

それによって彼の腰にあった木刀が、フッと粒子になって掻き消える。

 

龍人もまた戦闘中から切り替えており、刃を交えたからであろうか、2人の空気感が最初の頃よりも親しいものになっていた。

 

「よしよし、それなら少し早えけど夕飯にでもしよう。せっかく龍人が来るからってパーティーの準備しておいたんだよ」

 

「お、マジで? 嬉しくて達ちゃん泣いてまうで?」

 

勿論、そう言う龍人の顔は真顔であった。

 

「因みに何パーティーなん?」

 

そんな疑問に、碧はニッコリと笑う。

 

「タコ焼き」

 

返ってきたのはそんな返答だった。

それを聞いた龍人はドヤ顔をかます。

 

「俺のタコ焼き力は53万やで」

 

「ハハハ、何だよタコ焼き力って。さっきの月牙◯衝といい、結構ジャンプ読むのか?」

 

「お爺ちゃんがジャンプ大量に持っとったからな」

 

「へえ? 因みにそのお爺ちゃんって?」

 

「そんなもん禪院直毘人以外におらんやろ」

 

龍人のその言葉を聞いた碧は一瞬だけ驚くと、それはもう爆笑した。

あの御三家の当主をお爺ちゃんなんて気安く呼べるのは五条と目の前の龍人ぐらいだな、なんて考えながら目の前の変人を彼女は見遣る。

彼女の龍人への興味が尽きる事は無く、益々彼の事を気に入っていく。

 

「はあ、笑った……。ホントにオマエは見てて面白えな。益々これからが楽しみだわ」

 

龍人の事をお気に入り認定した彼女は考える。

未だ粗削りの彼が、自身の技術を吸収したら何処まで強くなってしまうのかと。

人生で初めて自身の持つ技術全てを教えてみたいと思えた逸材。

そんな彼の将来にニヤニヤとワクワクが止まらない彼女であった。

 

因みにこの後、めちゃくちゃタコ焼きパーティーを2人して楽しんだ。

酔っ払った碧にダル絡みされた龍人が一発芸としてギターを披露したとか、していないとか。

真実はその場にいた山口のみが知るのであった。

 

 

────────────────────

 

 

一方、龍人が御劔家を訪ねる2日前。

6月16日、禪院家。

 

竜田馬を探して歩いていた真依は、彼の部屋で当人と対面していた。

 

「随分と久しぶりだな、真依お嬢」

 

机の上に置かれた湯呑に茶を注いだ竜田馬は、随分と久しぶりに会った馬鹿弟子の妹へと語り掛けた。

 

「フフフ、久しぶりね。実は貴方にお願いがあってね?」

 

「ほーう? お願いネェ……俺に出来る事は少ねえぞ?」

 

これまでの彼女とは決定的に違う。

竜田馬は真依の雰囲気の余りの変わり様を、直ぐに察知していた。

 

これまでの、弱々しく他人の顔を伺っていたそれとは似ても似つかない余裕さ。

そして何よりもその笑顔が変わっていた。

暖かく優し気な微笑みは、余裕と冷徹さを持った仮面に変わっていた。

 

その事に気付いた彼は雰囲気の変化に内心驚愕しつつも、真依の言葉を待つ。

雰囲気が変わっていたとしても、彼から彼女への関わり方は変わらないものだった。

 

「私を弟子にしてくれない?」

 

「それはまたどうして? お嬢はあんましそーいうの興味無えと思ってたんだがな?」

 

竜田馬から見た真依という少女は、他の2人の為に無理をして術師をしていた普通の少女というものである。

戦いを嫌い、人死を嫌い、傷付くのを嫌う。

そんな少女だと思っていたのだ。

 

だからこそ、自分から進んで人に戦う術の教えを乞う事に違和感を覚えるのと同時に、すぐに真依に何か大きな変革があった事を察した。

 

「事情が変わったってだけよ。私にも目的が出来たの。で、返事は?」

 

真依からすればシン・陰流と、竜田馬の持つ技術と知識は彼女と相性の良いモノであり、強くなる為の師としてはこの上なく抜群の相手であった。

だからこそ、彼女は竜田馬に頼るのだ。

自身を外へ連れ出してくれ、と。

 

結局のところ真依は気付いてしまったのだ。

禪院家という地獄に居たところで、自分が変わる事は無いのだと。

自身を縛る『落ちこぼれ』という烙印(くさり)を断ち切る事は出来ないのだと。

 

全ては、弱くて何も出来なかった頃の自分と決別して、新しい自分へと生まれ変わる為に、彼女はこの家を出る事を選んだ。

 

「良いぜ。俺に任せろ。今のお嬢は見てて面白え。俺の持つモン全部教えてやる。」

 

「フフ、そう言ってくれて嬉しい。ありがとうね」

 

「ふん、もっと心底嬉しそうに言いやがれってんだ」

 

「あら、ごめんなさいね」

 

そう言って真依は微笑む。

冷徹に、冷酷に、優し気な仮面を被って。

 

そんな仮面を被っている彼女の様子が過去の自分に重なって、竜田馬は懐かしく感じてしまう。

彼には真依が、辰彦と出会う前の自分と重なって見えた。

 

それが何だか面白くて、彼女が行き着く果てを見たいと思ってしまって、今の彼女を気に入ってしまって、だからこそ彼は真依を弟子にする事に了承したのだった。

 

「気張れよ、お嬢。厳しいぜ、俺は」

 

それを聞いた真依は引き続き微笑む。

 

それを肯定だと受け取った竜田馬は、これからについて話し始めた。

 

「さて、俺の弟子っつーかシン・陰流の門弟になるにあたって、先ずはこの家を出るぞ。ウチは秘匿主義なんでね、俺の隠れ家に移る。明日の昼には此処を発つからそのつもりでな」

 

シン・陰流は一門相伝であり、故意に門外に漏らす事を縛りで禁じている。

そして更に竜田馬は自身の教えが弟子以外の他人に知られるのを忌避している。

故に、真依の望み通り家を出る事が決定した。

 

「ええ。これからよろしくね、先生」

 

「師匠って呼んでくれてもいいぜ?」

 

「フフ、寝言は寝てから言いなさい」

 

こうして真依は当初の目的通り、竜田馬の弟子となり、正式にシン・陰流の門弟に加わるのだった。

 

 

────────────────────

 

 

真依と竜田馬が禪院家を後にしてから1日。

6月18日の昼下がり。

任務から帰ってきた直哉は、憂さ晴らしに双子の姉妹を虐めようと屋敷を歩いていて異変に気付いた。

 

「あん? 何がどうなっとんねん。真依ちゃんの部屋がもぬけの空やん」

 

灯が訓練を行なっていた所に件の少女が居らず、離れにある彼女の部屋に来てみれば、ものの見事に部屋がすっからかんであったのだ。

 

直哉からすれば、まるで夜逃げでもしたかの様に忽然と消えてしまっており、何が何だか分からず混乱してしまう。

真依と真希を虐める為の計画を裏で練っていた彼からすれば、その件の少女の片割れが忽然と姿を消すなど完全に予想外であり、さしもの直哉とて思考が停止するのも仕方のない事であった。

 

「おいおいおい、ちゃんとガキの面倒ぐらい見とけやカス」

 

何も知らない直哉は取り敢えず少女の面倒を見ていた筈の、元側使の理子にキレた。

勿論彼女はとっくに退職金を手に禪院家を後にしているのだが、そんな事知りもしなければ興味もなかった彼は、理不尽に理子に怒りの矛先を向ける。

そんなもの何の意味もないのだが、今の彼はそうしないとモノに当たってしまいそうな程にはストレスに苛まれていた。

 

「たく、しゃあなしや。真希ちゃんでもイジメてスッキリしよ」

 

そう言って真希を探し出した直哉は、またしても気付いてしまった。

 

「何がどうなっとんねん! 何で真依ちゃんも真希ちゃんもおらんねん!? ざけんなや!」

 

直哉は叫んだ。

それはもう大きな声で叫んだ。

イジメてやろうとしていた相手が2人とも居なくなっていたのである。

次期当主候補として普段は飄々としている流石の彼も、これには叫ばずにはいられなかった。

 

因みにだが、真希が居ないのは直毘人からの課題をクリアする為に、地下にある訓練場で呪霊と戦闘しているだけであったりするのだが、直哉はそんな事知りもしない為、完全に居なくなったのだと勘違いしていた。

 

「殺してやる。殺してやるで龍人ッ!!」

 

2人が居なくなったのは龍人が何かしたのだろうと考えた直哉は、殺意を昂らせながら龍人への怨みを更に強くする。

いつか殺せるその時が来るまで、直哉は心の中で密かに龍人への殺意を昂らせていく。

直哉の中で殺したい人間リスト堂々の1位に、龍人は知らずの内にランクインしていた。

 

一方ちょうどその頃、直哉に呪詛を吐かれていた当の龍人はくしゃみをかました後に「今、なんか褒められた気がする」と見当違いな発言をしているのだった。

相変わらずのバカはバカのままであった。

 

 





・御劔家:福井県の勝山市に根を張る呪術師の家系であり、北陸での任務は全て御劔家に依頼される。元は刀鍛冶の家系であり、表向きは鍛冶屋として生計を立てている。相伝の術式が存在せず、代わりに初代当主の遺した特級呪具を代々継いできた、呪術師でも殊更に特殊な家系。他にも、北陸に任務でやってきた術師のサポートなども行なっている。

・特級呪具──『不羈ノ太刀』:初代御劔家当主、御劔刀次郎の使った特級呪具。付与された術式は『自由自在』であり、質量・大きさ・形を自由自在に操る事が出来る。しかし、術式自体に限度が存在し、見た目以上の重さや軽さにする事が出来ない。通常時は真っ黒な指輪の形をしており、現所有者である碧は右手人差し指に装着している。
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