イコさんっているやん?   作:猫又猫々

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第12話 そっくりさんって200人おんねん

 

 

「他人と関わる上での最低限のルール、何か分かるか?」

 

「……分かりません」

 

悪人が嫌いだ。

更地みてぇな想像力と感受性で、いっちょ前に息をしやがる。

まるで自分こそが正しいのだと思い上がり、振る舞いやがる。

 

「『私は貴方を殺しません、だから貴方も私を殺さないで下さい』だ」

 

善人が苦手だ。

そんな悪人を許してしまう。

許すことを格調高く捉えてる。

吐き気がする。

 

「"殺し"を何に置き換えても良い、要は相手の尊厳を脅かさない線引き、互いの実在を成す過程。それが"ルール"だ。それを破って、威張って、腫れ物みたいに扱われて、さぞ気持ち良かっただろうな」

 

変人が苦手だ。

他人からの理解を拒む様にして、自分だけで勝手に納得して、解決して。

まるで他者を意に介さないその言動が、歪で理解出来なくて。

ただただ苦手だ。

 

「次俺の目の前でやったら殺すからな」

 

「ちょいちょいちょい、恵くん暴力はアカンで。それは降格処分受けてまうヤツや」

 

「いやいや、そういう話じゃないでしょ。暴力がダメなのは同意だけど、降格がどうこうは関係ないでしょ」

 

「アレ、せやっけ?」

 

「しっかりしてよタツさん」

 

「すまんすまん。で、何の話やっけ? 俺がこの前の小テストで平均点ピッタリ取った話やっけ?」

 

「フフ、それは凄いね。でも、暴力は良くないって話でしょ、タツさん」

 

「ああ、せやったせやった。俺最近、物忘れ激しいねん」

 

御劔龍人。

初めて会った時の事は今でも覚えている。

あの時の衝撃を忘れられる筈がなかった。

自分に良く似た面立ちと、意味の分からない立ち振る舞い。

その全てが意味不明で、あの頃から苦手だった。

善人だとは思う。

でもそれ以上に何を考えているのか理解出来なくて、好きになれなかった。

 

「チッ、何ですか2人とも。そういうのは聞き飽きたんすけど」

 

「いやいや、恵くん。コイツらの事気に食わなかったのは分かるけどさ、抑えないと? お姉さんに見つかったら、また怒られるよ? こういうのはさ、見つからない様にやらないと」

 

篠原(しのはら)明隆(あきたか)

出会ったのは2年前。

甘い顔の裏に隠した、ネバついた本性。

見るたびに反吐が出そうになる程の変人。

いつもいつも御劔龍人に付き纏い、楽しそうにニコニコ微笑んでいるが、その裏で何を考えているのかが読めない。

それがまた気持ち悪くて、苦手だった。

 

「せやな。津美紀ちゃんはカワイイけど怒ったら怖いからな」

 

「タツさんはどんな子でも、いっつも可愛い可愛いって言ってるよね?」

 

「女の子はカワイイ。当たり前の事や」

 

「タツさんらしいね」

 

この2人組が苦手だった。

いつもいつも、変な事をツラツラと並べ立てて平然と会話を交わす。

そこに他者への配慮なんて微塵も無くて、自分達で自己完結してしまっている。

稀にしてくる、まるで此方の事を心配しているかの様な発言ですら、背筋に寒気が奔り気味が悪くて、苦手だった。

 

人は理解出来ないものを恐怖し、遠ざけるのだという。

ああ、その通りだろう。

俺はこの2人が苦手だ。

あの白髪のいけ好かない野郎と同じだ。

他者を寄せ付けない強固な自己。

何が彼らをそう足らしめているのかなんて、微塵も分からない。

ただただ分からないと言う事だけが、分かっていた。

 

「恵、もう喧嘩しないって言ったよね」

 

「チッ、保護者ヅラすんな」

 

「おや、噂をすればだね。津美紀さんも大変だね、世話の焼ける弟さんだ」

 

「2人とも、恵の為に態々お説教みたいな事してもらって……。ごめんなさいね」

 

「いやいや、気にせんくてええで。後輩には優しくするんが先輩や」

 

「構ってくれなんて望んでねぇよ……」

 

「コラ、そんな事言わないの」

 

苦手な奴が場に増えた。

津美紀は俺の嫌いな典型的善人だった。

いつだって、誰にだって優しくしようとする。

それが俺には理解出来なくて、気持ち悪くて、吐き気がした。

 

「恵くんは反抗期ってヤツだね、タツさん」

 

「かわいらしくてええやん。ギャップ萌えでモテモテやで」

 

「アハハハ、恵くんにギャップ萌えまで加わったらどうなっちゃうんだろうね。最終的にはツンデレ属性が定着しちゃうかも」

 

「恵くんがツンデレになってもうたら、みんなイチコロで堕ちてまうやん。そんなん俺泣いてまうで」

 

「男の涙ほど無駄なものは無いさ」

 

この2人は呪術師なんだそうだ。

以前、いけ好かない白髪野郎が言ってた。

そして、俺も将来呪術師になる事が決まってるらしい。

何が呪術師だ。

馬鹿馬鹿しい。

俺に誰が救えるって言うんだよ。

下らない。

 

全員馬鹿なんじゃないのか。

誰かのために命張って、自分が死ぬかも知れないのに平然として、自分の欲を満たす為に誰かと共にいて、馬鹿なんじゃないのか。

理解出来ない。

俺にはどうしても、理解が出来なかった。

 

でも、その事をやっと理解出来た頃には全てが遅かったんだ。

 

 

────────────────────

 

 

タツ先輩との出会いは不思議なものだった。

今でも覚えている。

2012年の6月。

その日は梅雨にも関わらず、朝から晴れていたのを覚えている。

五条さんに紹介したい人が居ると言われて、俺と津美紀は高専に呼び出された。

 

「恵くんと津美紀ちゃんに紹介したい人がいまーす! コチラ、禪院家を追放された御劔龍人くんでーす!」

 

「俺の好きなカレー知ってる?」

 

「知らないけど」

 

「ナスカレー」

 

意味が分からない。

何なんだ。

自己紹介で好きなカレーを言うやつがいるか。

……目の前にいたな。

 

変な感覚だった。

俺と良く似た顔をして、常に無表情。

なのに、言動は意味不明でおちゃらけていて、かと思えば不意に変な所を向いて見つめたり。

此方の常識の通じない変人。

それが初めに抱いた印象だった。

 

「んで、こっちの頭と態度がツンツンしてるのが伏黒恵くん。何とこの子何年か前に禪院家を追放されてる禪院甚爾の息子さん! 龍人の従兄になるのかな?」

 

「マジで? 従兄なんヤバいな。え? ヤバない?」

 

「俺に聞かれても」

 

「恵くん、これからよろしくやで。気軽にタツさんって呼んでくれてええで」

 

タツ先輩は禪院家の人間だったらしく、俺とは従兄弟の関係にあたるらしかった。

だからと言って、どうしてここまで顔が似ているのかは、未だに謎だ。

五条さんが言うには、俺と津美紀を捨てたクソ親父ともそっくりなんだとか。

そんな事言われても嬉しくねぇよ。

 

「そんで、こっちの女の子の方が恵くんの義理の姉の津美紀ちゃん。龍人とは同い年だよ」

 

「龍人くんね、伏黒津美紀です。これから宜しくお願いします」

 

「おお、よろしく。お互い同い年やし、敬語とか気にせんでええで。気軽にいこーや」

 

「ええ、分かったわ」

 

「津美紀ちゃんはデ◯モン好き? それともポケ◯ン派?」

 

「私はポ◯モンの方が好きね」

 

「あー、あかんわ。コレはデジ◯ンバトル避けられんヤツやわ」

 

「ふふ、それを言うならポケ◯ンバトルでしょう?」

 

どうやら津美紀とタツ先輩は意外と意気が合うらしく、出会って割と直ぐに仲良くなっていた。

その後何故か2人してジャンケンをし始めた時は、とうとう頭がおかしくなったのかと思った。

 

「あ、因みにだけど、恵くんは相伝の十種影法術持ちだよ」

 

「トクサノ……カゲボウジュツ……!?」

 

この時は未だに自分の術式について、しっかりとその価値を理解していなかった俺には、2人の会話の意味が理解出来なかった。

それでもタツ先輩のリアクションで、何となく凄いんだなと察してはいた。

後からその価値に気付いた時には、流石に驚いた。

 

「というか、何で俺にこの2人紹介したん?」

 

「あー、それね。君なら恵くんの良い先輩にくれそうだし、それに来年からそこの彼女の同級生になるからね。顔合わせは必須でしょ?」

 

「ドウキュウ……セイ……!?」

 

「そう、同級生」

 

「俺、そんなん聞いてへんで。え? 俺の意思はどうなるん?」

 

「ごめん、もう決めちゃったから」

 

「アカ──────ン!」

 

流石にこの時ばっかりはタツ先輩には同情した。

いきなり呼び出された挙句、進学先を勝手に決められていたなんて、笑い話にすらならない。

良くもまあ、この程度の反応で終わらせられたなと、むしろタツ先輩をほんの少し尊敬したくらいだ。

 

この時はまだ、俺はタツ先輩の事を巫山戯た人だとしか思っていなかった。

でも、その翌日に俺の考えが覆される事になる。

 

 

事件が起こったのは、次の日の事だった。

その日俺は五条さんに任務だと言われて、東京郊外にある廃墟に連れて来られていた。

だがその時はいつもと違って、サポートに五条さんではなくタツ先輩が入ったのだった。

 

最初俺はタツ先輩の事を半信半疑で見ていた。

本当に強いのか。

実は弱いんじゃないのか、そう思っていた。

だがその考えは、任務が始まって早々に変わった。

 

最初は俺の後ろについて、俺が呪霊を祓うのを頷きながら見ているだけだった。

たまに流れ弾が飛んでいく事もあったが、それらも毎回毎回変なポーズで躱していたのには微妙な顔をするしかなかった。

巫山戯てるのか?

そう思わずにはいられなかった。

なんで屈伸運動をしながら攻撃を避ける?

態々イナバウアーをする理由があるのか?

理解不能だった。

 

そんな中、異変を感じたのは3体目の低級呪霊を祓った後だった。

今まで感じていた呪霊の反応が消失したのだ。

これには、玉犬も困惑気味だった。

だが、直ぐに行動出来ていたのは、俺でも玉犬でもなく、タツ先輩だった。

 

高速で接近してきた強力な呪霊。

それを蹴り返すと、龍人先輩から莫大な呪力が溢れ出した。

強い、なんてモンじゃない。

埒外の化け物。

当時の俺が霞むほどの圧倒的な呪力量だった。

 

呪霊側もそうだった。

今まで会った事のないレベルの呪力量、今だからこそ分かるが恐らく準一級レベルだ。

当時、玉犬白と黒しか居なかった9歳の俺では、当然手も足も出ない程の化け物だ。

俺が1人だったら殺されていただろう。

 

でも始まってみれば、戦いは一方的なものだった。

何処からともなく、刃が薄く光っている変な刀を取り出したタツ先輩が一方的に呪霊を切り裂いていく。

呪霊側は何もさせて貰えずに切り刻まれて、ものの数秒で祓われてしまった。

圧倒的だった。

強い、それもとんでもなく。

 

今までは力を隠していただけなのだと気付かされた。

 

「おいおいおい、今のは危なかったな。もう少しで死んでるとこやったで。おかしいな、低級呪霊だけの筈やったんやけど、まあええわ。そろそろ帰ろか」

 

呪霊の消失反応を確認したタツ先輩は、まるで何事も無かったかの様に歩き出した。

その背中が昨日見た時よりも、より大きく見えたのは俺の錯覚なのだろう。

でもそれ以来、俺はタツ先輩の強さだけは認めていた。

別に頑なに認めたくなかったとか、そういうのでは無かった。

ただ、昔の俺は今よりも尖っていて、タツ先輩という何を考えているのか理解できないタイプの変人が苦手で、好きになれなかっただけなのだ。

今思えば、大分痛々しい黒歴史だ。

 

その後は五条さんの奢りで、津美紀も連れて4人で焼肉に行ったのだったか。

確かそうだった筈だ。

タツ先輩が五条さんに、自分の焼いた肉を取られただの何だのと騒いでいたのを今でも覚えている。

 

またいつか、津美紀が目を覚ましたら、皆で焼肉にでも行きたいな。

なあ、俺友達(なかま)が出来たんだ。

アンタに皆の事紹介してやりたいんだ。

そう思える程度には信頼できる友達が出来たんだ。

だからさ、さっさと目を覚ませよ、バカ姉貴。

 

 

────────────────────

 

 

──2018年7月某日。

大自然に囲まれた呪術高専東京校のグラウンド。

柔らかい芝生のそこに、4人の男女と1匹のパンダが居た。

その場には高専の1年生と2年生が集まっており、何故1年と2年が一箇所に介しているのかと言えば、京都姉妹校交流会に向けての訓練の為に他ならなかった。

 

「よし、訓練を始める前に必要な奴がいる。パンダ、連れてこい」

 

長くサラサラとした黒髪を括りポニーテールにし、何処か伏黒に似た雰囲気の面立ちをした長身の少女──禪院真希がパンダへと、とある人物を呼んでくるように要求する。

 

「えー、真希が連れてこいよ、恥ずかしがりやか?」

 

「あぁん? 誰があんな奴相手に恥ずかしがるってんだよ! 四の五の言ってねーで、さっさと連れてこい」

 

「ちぇー、パンダ使いが荒いんだからぁ」

 

パンダはほんの少し真希を揶揄って反論するが、しばらくして観念したのか、寮の方へと走っていく。

 

「必要な奴って誰よ? 組手するだけなんじゃないの?」

 

それを見送っていた、茶髪をボブにして前髪を右へと流した勝ち気そうな少女──釘崎野薔薇が真希の発言に疑問を溢した。

彼女からすれば、ただ皆と組手をするだけだと思っていたのに、急に知らない人間を連れてくると言われれば困惑は必至であった。

 

「釘崎は知らないんだったな、タツ先輩の事」

 

そんな彼女の疑問に答えたのは、ツンツンとした黒髪に鋭い目つきをした少年──伏黒恵であった。

 

タツ先輩だあ?

聞いた事の無い名前だ。

伏黒や周りは知っている風である事に、若干の疎外感を覚えつつ、釘崎はタツ先輩という聞いた事の無い名前にそんな疑問を浮かべた。

 

「そうか、野薔薇は知らねえのか」

 

「しゃけ、しゃけ」

 

真希の呟きに、口元を襟で隠しホワイトベージュ色の髪をマッシュにした呪言師の少年──狗巻棘がおにぎりの具材で答える。

しゃけ。

それは肯定の意であった。

 

「んで、誰なのよソイツ」

 

「まあ、待てよ。紹介は本人が来てからでも遅くはねぇだろ?」

 

「それは、そうだけど……。でも、気になるモンは気になるのよ!」

 

自分以外が知っているという疎外感に耐えられず、「うがあああぁぁぁ」と釘崎が吠えていると、そこにパンダが戻ってきた。

その脇に誰かを抱えて。

 

「とーうっ!」

 

グラウンドへと続く階段の手前で跳躍してみせるパンダ。

彼は力の籠った掛け声と共に空中へ飛び出すと、前方へ2回転してそのまま地面へと着地してみせる。

その途中で、パンダの脇から分離した誰か──御劔龍人は着地と同時に勢いを殺しつつ、左足を曲げその膝に左肘をつき、右足を外側へと向けピンと伸ばした状態で右手を腰に添え、綺麗にドヤ顔をかましながら着地する*1

しばらくその態勢のままで居た彼は、真希にスパンッ!と思いきり頭を叩かれた。

 

その不思議な光景に、釘崎は理解が追い付かず目を点にする。

その一方で、伏黒と狗巻は「また変な事してるな」くらいにしか思っておらず、いつも通りという感じで平然としていた。

 

「巫山戯てねえでさっさと自己紹介しろ、このバカゴーグル。寮に突き返すぞ!」

 

「おっかないなぁ、あとタツさんって呼んでって何時も言ってるやん」

 

真希にバカゴーグルと罵られつつも、彼女に言い返していた龍人は、初めて出会う少女を発見した。

そう、釘崎である。

知らん人おるやん。

一瞬でその事に気付いた彼は、釘崎の元へと近付いていく。

それと同時に釘崎に緊張が走る。

初対面、それにゴーグルによってその力強い目つきが一層キツくなった龍人に、いきなり近寄られた彼女は一瞬ドキっとしてしまったのだった。

 

「御劔龍人やで。気軽にタツさんって呼んでや」

 

「そ、そう…釘崎野薔薇よ。よ、宜しくタツ先輩」

 

困惑と緊張を隠しつつ、ニッコリと微笑んで自己紹介を行う釘崎。

初対面からいきなり渾名で呼べるかよと、ツッコミたい気分を彼女はグッと堪える。

煽り以外で余計な事は言わない女。

それが釘崎だった。

 

「ええ子やん。タツさん良い後輩に恵まれ過ぎて泣いてまいそうや」

 

「ったく……。知らねえ釘崎の為に紹介すると、コイツは3年の御劔龍人。昨日3年のボンクラが休学中だって説明したよな? そのバカ共の内の1人だ」

 

毎度ながら変な事を言って真希を呆れさせる龍人。

そんな彼に溜息を溢しつつも、真希は釘崎へと龍人について紹介する。

紹介されている当の本人はうんうんと頷くだけで、真希に自己紹介を完全に任せてしまっているのだった。

 

「へぇ、休学中なのね。って、休学!? な、何やらかしたならそうなんのよ!」

 

釘崎は先程の真希の発言に驚愕する。

さらに、龍人がヤバい奴なのではないのかと恐怖し、彼から少しだけ距離をとった。

 

「安心しろよ、野薔薇。このバカは今謹慎中だが、別に何かをやらかしたって訳じゃない」

 

「しゃけ、しゃけ」

 

パンダと狗巻が釘崎の疑問に答える。

彼女の疑問は杞憂に過ぎなかった。

 

「じゃあ、何で謹慎処分なんて受けてんのよ?」

 

「このバカっつーか、3年は今ちょっとした事情で停学中でな。秤とかいうバカがやらかしやがったんだ。他の連中はその連帯責任で、全員謹慎中だ」

 

釘崎の疑問に真希が答える。

それを聞いた釘崎は、別に龍人が上層部と揉め事になったのだとか、上層部の人間を殺したのだとか、そういう危ない理由では無かった事に、ホッと安堵する。

それと同時に、龍人が何故外に連れ出されて来たのか、その理由が気になった。

 

「すじこ」

 

「そうだな。俺も無関係の奴まで謹慎にすんのは良くないと思うぜ? 上の奴等の考えはパンダ(おれ)には理解できん」

 

「3年の謹慎処分ってまだ継続中ですよね? よく連れて来れましたね」

 

「確かにそうよね。そもそも、どうして連れて来たのよ?」

 

そう、龍人を含め3年の問題児達は総じて未だに謹慎処分中の身であるのだ。

上層部から直々に外出禁止命令が出されており、任務にすら呼ばれないという状態であった。

それなのに龍人だけが外に出て来ているという現状に、伏黒も釘崎も疑問符を頭に浮かべていた。

 

「バカ目隠しの計らいだとよ。何でも他の生徒を育てる為の特例措置だったか? 私達がこうして訓練している間だけ、訓練に協力するという名目で外に出られるんだとよ」

 

五条の計らい(脅し)によって、龍人だけが特別措置として条件付きで外出を許されたのだが、その特例措置に至ったのには、龍人の能力に理由があった。

彼の能力は育成に向いたものであり、万年人員不足に悩まされている上層部からすれば、幾ら上層部とバチバチである五条側の術師だとしても、彼のそれを活用しないと言うのはあり得ない選択肢だった。

それに加えて、龍人自身が無害であり、無闇に規律を乱したりしていた訳では無いという事もあり、今回の五条からの脅しに対して上層部は仕方なく特例措置を講じたのだった。

 

「久しぶりの太陽で、俺泣いてまいそうや。ありがとう、五条さん……」

 

「後輩の前で下らねえ理由で泣いてんじゃねえよ、みっとも無え。ったく…これ使えよ」

 

「ありがとな、真希ちゃん」

 

久しぶりに外で直接陽の光を浴びて、涙を流す龍人。

彼は今、遍く事象に心震わしていた。

そんな彼に呆れながらも、ちょっとした優しさを見せる真希。

そんな、彼女の見せた不器用な優しさに、パンダはニヤニヤが止まらなかった。

 

「ホントにウチの真希ちゃんは素直じゃないなあ、憂太も素直になった方が良いって言ってただろー」

 

「しゃけ。いくら」

 

「棘もそう言ってるぞー」

 

「ッ……うるせえ!」

 

パンダは真希を揶揄わずにはいられなかった。

思春期の女子の色恋をイジる。

それは自殺行為甚だしいのだが、パンダに人間の常識は通用しなかった。

 

「さっさと訓練始めるぞ! 龍人、アレやれ」

 

「オッケー、真希ちゃん。アレ、やな?」

 

「随分久しぶりだな」

 

「しゃけ」

 

真希の言葉に頷いた龍人。

彼女の言うアレについて理解していた伏黒と、2年の狗巻とパンダは立ち上がると各々準備運動を始める。

その光景に、何も知らない釘崎は困惑が隠せなかった。

 

「ちょ、ちょっと! 今から何する訳!? アレって何?!」

 

「準備運動、忘れんなよ」

 

「おいコラ、伏黒ォ! アンタまで察してんじゃないわよ! 何々、何が始まる訳!?」

 

困惑する釘崎を他所に、龍人から莫大な呪力が立ち昇る。

起こり。

それは呪術において、大技の直前に察知される術発動の前触れ、呪力の昂りであった。

余りの呪力量に、釘崎は絶句する。

これが自身の先輩、これが背も見えない程遠くを直走る者との、彼我の差なのだと。

 

龍人は呪力を一点に集中する。

その彼の右手には、呪印の彫られたトリガーホルダーと同じ形をした呪具が握られており、彼はそこに呪力を込めて行く。

まるでトリガーの様な形をしたそれを身体の前に持っていき、身体毎他所へと向いた彼は言葉を発しながら、結界術を発動した。

 

「──領域展開」

 

結界が広がり、グラウンドにいた5人と1匹を呑み込んで、龍人の領域が展開された。

外界と遮断され、中に呑まれた釘崎達が目にしたのは、住宅街が広がる現代の街並みであった。

 

「な、ナニコレええええええ!」

 

釘崎の困惑混じりの悲鳴が、街に虚しく響くのだった。

 

 

*1
イコさんが、餅川と迅さんの個人戦をフィールドに入って観戦してた時の、例の変なポーズ





*最初は尖ってた頃の伏黒視点、次は丸くなった後です。
念の為書いておきます。


謎の新キャラくん:茶色の長い髪をサイドに分けたイケメン。東京喰種reに登場する旧田二福そっくり。いつもニコニコしており、龍人の周りを付き纏っているのが特徴。ヤベー奴。
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