イコさんっているやん? 作:猫又猫々
真希さん22巻表紙記念に。
子供にとって家とは何だろうか?
雨風を凌ぐ場所、安心できる居場所、疲れを癒す為の寝床、衣食住の住を満たす為の道具、大切な人と一緒に居れる場所、引き籠る為の場所などなど。
各人によって考えは様々だろう。
俺にとっての家とは、大切な友人達と過ごす為の場所だと言える。
真希ちゃんに、真依ちゃん、直毘人のお爺ちゃんと、イッチに、先生、そんで理子さん。
後は、そこそこ親しかった給仕のみなさん。
そんな人達とアホみたいな事を気楽に出来る。
それが俺にとっての家だった。
ここを追い出されるというのは、そんな大切な友人達を離れ離れになるのと同義な訳で、それはそれで結構精神的に辛くなるのも仕方ない事だと思うのだ。
それに俺の今世の両親はとっくの昔に亡くなっているのだ。
尚更誰かと一緒に居たかったというのも多少はあったのかもしれない。
いや、なかったかもしれん。
まあ、俺にとってはそんな感じの実家な訳だけど、真希ちゃんと真依ちゃんの2人にとっては、自分達を害する敵っていうのが近いと思うのだ。
だって多分だけど、俺が友達にならずに放って置いたら、2人とも絶対虐められてたし。
なんなら、子供産む為の母体として、そういう事されまくってたり、外から優秀な血を取り入れる為の道具にされてた可能性もあったと思う。
え?普通の家がそんな事する訳ないだろ、だって?
普通の家じゃないから困ってんの!
こちとら天下の禪院家ぞ!?
強力な
そんな奴らが、落ちこぼれ扱いしてる姉妹をまともに扱う訳ないんですよね。
古事記にもそう書いてある。
てな訳で、2人と仲の良い俺があえて悪目立ちしまくる事でクソみたいな奴らが絡んで来ない様に、2人を陰ながら守っていた訳なのだが、ここで問題が発生してまった。
そう、俺が禪院家を追放になってしまったのだ!
いや、なんでやねん!
俺スカウト貰っただけですやーん。
別に禪院家の相伝術式の情報とか、秘伝とか漏らしてないですやん。
クソッ、NAOYA☆の野郎!
お前絶対俺に嫌がらせしたかっただけやん。
まあ、もう終わった事だからええけどさぁ。
……さて。
俺は別に高専に保護して貰えるし、最悪母方の実家も頼れるので、禪院家追放とか同じ漫画を間違えて2冊買っちゃったくらいの問題なのだ。
結構大きめのショック受ける問題やったわ。
まあでも、俺自身にはこれと言った害は無いから別に良いのだ。
問題は双子ちゃん達の方なんだよなぁ……。
「さて、龍人よ。あの場ではああ言って悪かったな。当主として、皆の前でボロを出す訳にはいかなかったのだ。それだけはどうか理解してくれ」
「おん」
俺が居なくなっちゃったら、俺と仲の良かった2人はまず間違いなく不当な扱いを受ける事になる筈だ。
それだけはなんとかして防ぎたいんだけどなぁ……。
この家にはあの煽り厨クソ野郎が居るからなぁ。
まあ、まず間違いなく2人は襲われるだろう。
色んな意味で。
それはなんとか未然に防いでおきたい。
何故なら、せっかくの俺の初めての友達なんだし、2人には好きな人とくっついて、是非とも幸せになって貰いたいのだ。
そっちの方が、俺が後方腕組み親友面出来て楽しいし。
一度やってみたかったんだよね、後方腕組み親友面って奴をさ。
「お前には悪いが、追放だけは取り消せん。これは最早禪院家の総意と言っても変わらんからな。まだまだ五条家との溝は深いのだ」
「おん」
そうするとだ。
必要なのは、2人を守ってくれる後ろ盾だ。
あと直哉とか扇を抑えられるだけの発言力か。
それが揃ってる人と言えば──
「ここで無理矢理周りの意見を無視すれば、後々に響いてくる事になる。そうして困るのはお前だけではないのだ。それだけは理解してくれ」
「おん」
「……龍人よ。 さてはお前、話を聞いとらんな?」
「おん………あ」
──この今にも怒り出しそうな、直毘人のお爺ちゃんなんだよな。
「はぁ……お前はどんな状況でもマイペースだな」
あ、ちょっと怒ろうとして萎んだ。
これはいつものお爺ちゃんですね。
全く……俺には甘々なんですから。
この
「そんな褒められたら照れてまうやん」
褒めてくれるんすか?
ホンマにお爺ちゃんは優しい奴やな。
今度焼肉でも行かない?
もちろんそっちの奢りで♡。
因みに今何をしているのかと言えば、秘密のお話だ。
あの後、部屋に居た者全員に箝口令を敷いたお爺ちゃんは、正式に追放処分を下されてしまった俺を伴って、追放処分の細かい説明という名目の下で部屋を後にしたのだ。
そうして部屋を変えた後に、只今1対1の話し合いをしている最中だ。
場所は勿論お爺ちゃんの書斎で、である。
お爺ちゃんの書斎は結構お気に入りの場所でもある。
この部屋、お爺ちゃんが術式の研究の為に用意した資料やら、アニメの設定資料やらが大量に置いてあって、物凄く落ち着く雰囲気を醸し出してるのだ。
これがまた良い感じでね。
しかも遊びに来れば、この家では珍しくアニメが見れるのだ。
転生してこの方、まともにテレビすら見れて無かったからか分からんのだが、1度見始めたら止まらなくなってしまった。
今では2週に1度の頻度でやって来ては、お爺ちゃんとこっそりアニメ鑑賞会をしているくらいだ。
まったく、オタクなお爺ちゃんは最高だぜ!
「ったく……他の奴らもお前程とまでは行かずとも、多少は緩い性格だったのならな……」
お爺ちゃん元気無さそうやん。
どしたん?
話聞こか?
俺やったら、絶対そんな酷い事せんけどな。
そんな酷い奴らなんか全員ブッコロさん?
俺やったら君の力になってあげれるで?
「まあ良い……話を続けるぞ。追放に際して、お前にはとある縛りを結んでもらう」
「縛られちゃうん?いやーん」
「それ、他の奴にはするんじゃないぞ。中々にキモいわ」
「『俺、キモい』、了解……」
縛りかぁ。
何やろ。
禪院家の情報について喋られなくすんのかな?
結構有り得そう。
追放処分の腹いせに、情報ぺちゃくちゃ漏らされましたじゃ、元も子もないしな。
あ、でも記憶消せる奴が居るのか……。
それじゃ、別の内容の縛りになんのか?
「お前に結んで貰う縛りは凡そ1つ。『以降、禪院龍人として禪院家と関わる事を禁じる』たったそれだけだ」
「ほーん。なんや簡単やん」
なるほどね。
お爺ちゃんも考えましたな。
しっかり抜け道まで用意しちゃって。
そんなに俺とご飯行きたいのかよ。
それならそうと言えばいいのに。
恥ずかしがり屋め!
「そうか。しっかり伝わったか……ならば良い。それと、此処に居られるのは明日の晩までだ。それまでに別れを済ませておけ。あの2人は、連れては行けんからな」
やっぱし、2人を連れ出して行くのは無理か。
そりゃ禪院家の血を引く、大事な母体だもんなぁ。
そりゃそうだ。
そう簡単に手放す訳ないよね。
あの2人には申し訳ない事しちゃったな。
ああ……。
なんか実感が湧いてきたわ。
なんでこうなったんやろか。
スカウトされただけなのに……。
っと。
忘れるところだったわ。
こっちもやる事やんないとね。
呪いの基本は足し引きなんだから。
何かを得れば、何かを奪われる。
自分だけ良い思いをする、なんてのは土台無理な話なんだよねぇ(ニチャア)。
「なぁ…爺ちゃん」
ちゃんとお爺ちゃんの言葉に従って、大人しく禪院家から出てってやるんだから、俺の言う事も1つくらいは聞いて貰わないとねぇ。
もう逃げられないぞ。
「なんだ?」
「真希ちゃんと真依ちゃんの事、いざって時には俺の代わりに守ったってくれへん?」
「ほぉ、禪院家当主たるこの俺にガキのお守りをしろと? それは誰としての願いだ?」
「そんなん、私人としての俺以外におる?」
「……」
「頼んだで、爺ちゃん」
頼んだぞお爺ちゃん!
俺以外に2人を、直哉の手から守ってやれるのはアンタだけなんよ。
ホンマに頼むわ。
伝われ、俺の思い!
「フンッ、クソ生意気なガキが。大人ぶるんじゃねえよ。……はぁ、双子については任せろ。15までは見守っといてやる。その後の選択はあの2人次第だがな」
「おう、あんがとさん」
それは言えてる。
でも精神年齢は前世含めたら、立派な30歳児だからね。
そこそこなお歳なのだ。
だからまあ、いざって時は頼んだぞクソジジイ。
あのクズの論外野郎から女の子を守れるのはお爺ちゃんだけなのだ。
この家にはクソ共が多過ぎて敵わない。
まあ、俺もお爺ちゃんも大概か。
「話は終わりだ。分かったらさっさと出て行け」
「んじゃ、頼んだで。ほんなら、お休み」
その言葉を最後に、取り敢えずお爺ちゃんの部屋を退出する。
いやぁ、マジでずっと正座は疲れますわ。
マジで次はご勘弁願いたいね。
ま、今回限りで追放されるから次なんか無いけどなぁッ!
ガッハッハッハッ!
……はぁ。
さて、と。
2人にはどう説明したもんかね。
とんでもないサプライズが出来ちまった訳だけど。
絶対ホントの事言ったら怒られるやろなぁ。
なんか調子のって、ずっと一緒だよ、的な事言っちゃった記憶あるし。
約束までした記憶あるし。
約束破る事になっちゃったのがなぁ……非常にキレられポイントで怖い。
いっその事黙って出て行くのも有りか?
そうだな。
優しい嘘ってやつもあるよね。
なんなら、この状況を上手く利用出来れば、2人に今以上の向上心を植え付ける事が出来るのでは?
それってつまりは、2人が更に強くなる可能性を作れるという事であって。
あれ、俺ってば結構天才か?
良いじゃん良いじゃん。
この世界は結構弱者に厳しい面があるからな。
やっぱり、親しい人間には生きいて貰いたいよね。
その為にも、俺という添木が無くても立派に成長出来る様に、ここら辺で一丁強化イベントと行きますか!
まあ、それに際して2人と一緒に部隊を組むっていう、俺の目標は遠回りする事になるだろうけど、いつか熱りの冷めた頃にでも本当の事話せば、勝手に居なくなった事とか許してくれるでしょ。
多分、きっと、メイビー。
よっしゃ。
2人には黙っといて、お別れだけ済ませてフラっと居なくなったろ。
こうする事で置いて行かれた2人は奮起し、俺への思いを糧に強くなる、筈。
これぞ完璧な
いやぁ、ゼーレもびっくりの仕上がりよ。
よーし、そうと決まれば行きつけの焼肉屋を予約するぞ〜。
俺の為の送別会じゃあ!
やっぱり密かに出て行く直前に焼肉はもってこいだよね。
あの冴えない女さんも、密航前にしれっと焼肉に参加してたし。
いつも通りに振る舞うのが吉よな。
あと、子供だけだと補導されそうだし、理子さんも連れてこうかな。
俺が追放処分くらったって事で、晴れて彼女も自由の身となれる筈だろうし。
そのお祝いも兼ねて連れて行ってあげよう。
「あ、もしもし?龍ちゃんやけど……そうそう禪院龍人やで。4名で予約お願いしてええ?」
なんであだ名で通じるのか、だって?
そりゃ行きつけですから。
いつものって頼めば商品が運ばれてくるくらいには行きつけなのだよ。
常連さんとして認めてくらてるって訳だ。
何食べようかな〜?
ハラミ、タン、肩ロース、モツ、ギアラ、部位を上げればキリがない。
うーん、甲乙付け難い。
やべ、想像しただけで唾が溢れてくるッ。
焼肉かぁ。
やっぱり、マグロカツ丼、ナスカレー、チキンカレー、焼肉、お好み焼き、ぼんち揚ら辺のワートリに登場するご飯達の中でも、焼肉は結構印象深い物な気がする。
何故なら、結構頻繁に話に出て来てた筈だからだ。
東さんと関わってた人は殆ど焼肉に取り憑かれてたし。
こういう所から鑑みても、ワートリ民にとって焼肉は結構特別なものだったりすると思う。
俺はそうだったし。
なんか祝い事がある度に1人焼肉に行ってた俺が言うんだ。
間違いないね。
1人焼肉かぁ…………ぐすっ。
悪い、やっぱ辛えわ……。
そんな特別な焼肉屋だ。
送別会にはぴったりじゃありゃせんか?
さて、そろそろ離れに着くし、何も無かった風を装って、と。
もしホントの事がバレたら滅茶苦茶怒られるだろうけど、箝口令とか敷かれてるし大丈夫でしょ。
まあ最悪バレて怒られても何とかなる…筈。
むさいおっさんに怒られるのはマジで勘弁です。
あ、離れに着いちゃった……。
……ゴクリッ。
龍人行きまーすッ!
────────────────────
焼肉屋アカウシ。
代々家族で経営してる焼肉屋で、地元民から親しまれてる結構人気のお店だ。
稀少な部位とかも気軽に食べられるので、個人的には気に入っていたりする。
何よりも店内の雰囲気が、ワートリに出て来た寿寿苑にそっくりなんだよね。
それはもう此処しかないでしょ。
って事で専ら焼肉屋は此処に来ている次第である。
ああ〜、ジュージューと肉の焼ける音はいつ聞いても堪らんなぁ。
聞いてるだけで飯テロですわ。
涎が止まりません。
どの子にしようかな?
良い感じに焼けて来てるのは3枚のタンと、2切れの牛ハラミ。
どの子も綺麗に焼けていて唆られるちゃうなぁ。
ああ……どんどん美味しく実っていく♡
そろそろ狩るか…♠︎
「にしても、いきなり焼肉に行こうだなんて、ジジイ共が良く許したよな。最近はまともに外出すら出来てなかったのによ」
え?
「せやっけ?」
「そうだよお兄ちゃん。3週間前にヨシミヤ*1に行ったのが最後なんじゃない?」
マジで?
3週間、だと……!?
「マジで? サンシュウ……カン……?」
マジか。
そんなに外出禁止にされてたんだ。
敷地内でやる事多過ぎて、あんまし3週間も引きこもってた感覚ないな。
それとも、友達と居る時の時間の流れが早いのか?
「驚きすぎだろ……ったく……。真依、この肉もう良いぞ。お前が先に食えよ」
「うん、ありがとお姉ちゃん」
あ……。
俺の狙ってた牛ハラミちゃんが……。
こんな……こんな筈じゃ……。
畜生ォ、(牛ハラミが)持って行かれた……!!
畜生……返せよ、俺の焼いた肉なんだよ……。
「ほら、坊ちゃん。肉だけじゃなくて野菜も食べて下さい。ほら、あーん」
なん、だと……!?
この俺に、野菜を食わせる為に直接あーん、だと!?
此方も食べねば……無作法というもの……。
「あーん……うん、美味い美味い」
これは、チョレギサラダ……!
ニンニクの効いた胡麻油のソースと絡めたシャキシャキのレタスに、食感にアクセントを付けてくれるきゅうり。
更にはふんわりと香ってくる海苔の味わい。
……美味いッ!
「何処向いて美味いって言ってんだよ」
「そりゃあ、秘密やで」
「お兄ちゃんって偶に変な所向くよね」
「いえ、それは昔からですよ。幼少の頃なんかは、何故か鏡を見ながら何かを叫んでおりましたし……」
「「変人だ
な、何だよ。
2人して俺を変人だとか言いやがってッ。
俺は何もしてねぇぞ!
ただ、自分の顔があまりにも期待と違ってた事に、絶望してただけやんけ。
何がおかしいんだよ(半ギレ)。
「別に変や無いで。なぁ?」
「それは誰への問いかけだよ」
誰でも良いだろォ!?
お前、そんな呑気に駄弁ってて良いのかよ?
此処は戦場だぞ?
さっきから、ぬりぃんだよ。
「そのお肉、貰うで真希ちゃん」
「あっ!テメェ人の焼いた肉取るんじゃねえよ!モラルってもんが無えのか!?」
「うまいうまい」
フンッ、油断したお前が悪いんだよぉ!
肉の恨みは怖えからな。
俺の牛ハラミちゃんを取った罰だ。
「まあまあ、お姉ちゃん。私のお肉わけてあげるから」
ほぉ、自分の肉を分けてあげるとは…。
これは珍しいですなぁ。
「チッ、次取ったらぶん殴る」
「もうっ、お兄ちゃんもあんまり酷いことしないの!」
へぇ、戦場でそんなぬるいこと言ってていいのかなぁ?
俺は今、戦場を駆ける狩人だぞ。
良いのか?
そんなに、鉄板の上で隙を晒しても。
「もろた!」
フッ、これはしれっと俺の牛タンちゃんを食べた罰だぁッ!
思いしれやぁ、肉の恨みィ!
「ちょっとぉ!」
「うまぁ──」
グボォァッ!?
な、なんだぁ……!?
頭頂部にとんでもない衝撃がぁ…?
この衝撃は、理子ちゃんの強烈なツッコミ!
「坊ちゃん……歳下には優しく、ですよ?」
ヒェッ……。
ぶ、ブーメランですやん……。
俺もまだ12歳のガキですやん。
「お、俺もまだ12「何か…言いましたか?」いえ、何も」
そんな、冗談ですやーん。
ホンマにおっかないどすわぁ。
そないマジにならんでもよろしゅうのに。
ぶぶ漬けでも食べて落ち着きなはってやぁ。
「調子に乗るからそうなるんだろ?バカ龍人が」
「フフフ、笑わせないでよ。お腹痛いッ、ふふ」
ああ、なんか良い感じに楽しげな雰囲気で終わりそうで良かった。
これで、焼肉来てお通夜やったらマジで終わってたわ。
色んな意味で。
マジ、箝口令敷いたお爺ちゃんファインプレーだな。
サンキュー爺ちゃん。
今度飯でも食いに行こうぜ!
……それにしても。
結構楽しい反面、何だか虚しいな。
みんなとお別れする前日ってこんな気持ちになるんだな。
鳩原さんは、密航する前の焼肉ん時、どんな気持ちだったんだろうか。
隊のメンバーとの別れが惜しかったのだろうか?
それとも、やっとの思いで自分の目標に一歩近づけた事に、歓喜してたのか?
分かんないなぁ。
まあでも、きっと俺の本心は──────。
────────────────────
どうしてこうなってしまったのだろうか。
目の前で刃を向け合う大切な2人を眺めながら、私はそんな事を性懲りも無く考える。
事の発端は、真夜中にふと目が覚めた事であった。
お姉ちゃんを起こして一緒にトイレに行こう。
そう思って部屋を出ようとして、外から感じたお兄ちゃんの呪力へと、身体が無意識に反応してしまっていた。
私は無意識の内にあの人を求めて、その呪力の元へと向かってしまっていたのだった。
そうしてお兄ちゃんの居場所に辿り着いた私は、見る事になってしまったのだ。
共に刃を向け合う大切な人達の姿を。
最初は寝起きで頭がはっきりしていなくて、変な夢でも見てるのかと思ってた。
でも違った。
だって、見れば解っちゃったから。
今、目の前で起こっている出来事が夢なんじゃなくて、現実で起きている事なんだって。
剣を向け合い対峙する、お姉ちゃんと、お兄ちゃん。
その側には、おそらくお兄ちゃんの物なのであろう、荷物の詰まった大きめのキャリーケースが置かれてある。
夜の闇に紛れる様にして置かれた黒色のそれ。
それを見ただけで、ある程度の状況を悟ってしまえる、自身の思考能力が恨めしかった。
やっぱりお兄ちゃんは何処か遠くに行っちゃうんだろう、と。
気付いて仕舞える自分が、今はなんだか憎らしかった。
何でこうなっちゃったんだろう……。
私はただ3人で一緒に居たかっただけだったのに。
それだけで毎日が幸せで、それだけで満足だったのに。
どうしてみんな、私から大切な日常を奪って行くんだろう。
どうしてみんな、私から大切なものを奪って行くんだろう。
どうして自分は、大切なものすらこの手から取り零してしまうのだろうか。
2人の姿を茫然と眺めながら、1人地面にへたり込んで思考する。
そうしてどうする事も出来ない自分を客観視して、どうしようもない無力感に苛まれる。
分からない。
だって誰も、何も教えてなんてくれなかった。
どうすれば良かったかなんて教えてくれなかった。
「私が勝ったなら、私達も連れてけよ」
「それ、マジで言ってるん?」
そんな言葉と共にお兄ちゃんの身体から莫大な呪力が溢れ出す。
それをただ震えて見る事しか出来ない自分自身に嫌気がさす。
ダメだよ。
やめて。
2人で争わないでよ。
いつもみたいにみんなで笑い合おうよ。
こんな、こんな終わり方だなんて嫌だよ。
「なあ、ホントに私達を置いて行く気なのかよ?今ならまだ踏み止まれる筈だろ?」
ああ……どうしてこうなっちゃったんだろう。
分かんないよ。
お兄ちゃん言ってくれたよね?
ずっと一緒だって、置いて行かないって。
ねえ、嘘だよね?
このまま私達を置いて行くだなんて、そんな事ある訳無いもんね?
「ごめんな真希ちゃん。もう決まった事やねん。俺は2人を連れて行けん」
「決まった事って何だよッ!! 私達は……私達はずっと一緒なんじゃなかったのかよッ! なあ、それともアレは嘘だったのか……?」
「………」
「何か言えよッ! なあッ! 今までのは全部嘘だったのかよ!? あの言葉も、これまでの事も、全部……全部嘘だったのか? 私達は……お前に遊ばれてただけだったって言うのかよ……?」
「……ごめん」
「ッ!……言いたいのはそれだけかよ? お前は、こんな終わり方で良いんだなッ?」
「それ以上言葉は要らへんやろ。勝つか負けるか、それだけや」
「そうかよ……」
そう言って互いに刃を構える2人。
お互いもう言葉は要らないんだろう。
勝つか、負けるか。
2人の間にあるのはきっとそれだけなんだ。
自分達の未来は自分達の手で勝ち取れって、いつかお兄ちゃんも言ってたもんね。
きっと、今がその時なんだろう。
でも、私は未だにどうする事も出来ないでいる。
今だって、立ち向かって居るのはお姉ちゃんただ1人。
私は……どうすればいいんだろう。
「こん、のッ!当たれ、や!クソッ、クソッ、クソッ!」
「2人とも辞めてよッ……何で、どうして2人して争ってるの……?」
「こんのッ、嘘吐きがぁ……! お前なんか大っ嫌いだッ! お前何かと一緒にならなければッ! お前なんか、お前なんか、お前、なん「──ごめん」」
一言。
たったそれだけを言って、気絶させたお姉ちゃんを抱き留めたあの人は、此方へとゆっくりと歩き出す。
お兄ちゃんは今どんな顔をしているんだろうか?
楽しそうに笑ってるのかな?
哀しそうに泣いてるのかな?
それとも、いつもみたいな無表情なのかな?
分からないなぁ……。
月が眩しくて、私には分かんないよ……。
ねえ。
それがお兄ちゃんの本当の姿なの?
私には信じられないよ。
あの時、2人だけだった私達に約束してくれた姿が、いつも私達に見せてくれてた姿が、本当の姿なんだよね?
だってお兄ちゃんは私達2人の味方だもんね?
ずっと一緒だって約束してくれたもんね?
この家で要らない子だった私達を、唯一必要としてくれたもんね?
「ごめんな真依ちゃん……真希ちゃんの事頼むわ」
「何で……私達を置いて行くの? お兄ちゃんまで私達の事要らない子扱いするの…?」
「………」
ねえ、どうして何も言ってくれないの?
私達は本当に要らない子だったって事なの?
分かんないよ。
お兄ちゃんの事が私には分かんないよ。
どうして黙ったままこの家を出て行こうとするの?
何でそんなに前だけを向いて歩けるの?
ねえ、私達の方へ振り返ってよ。
私達、貴方にとってなんだったの?
どうして?
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
どうして私達との約束を破ったの?
「信じてたのに……」
精一杯に絞り出した声。
それでもお兄ちゃんは振り返ってはくれない。
そうなんだね。
お兄ちゃんはもう、帰って来てはくれないんだね。
私達を置いて行くんだね。
「呪術高専で待ってるで……強くなってや、俺に負けへんくらい」
ねえ、なにその投げやりな言葉。
こっちを見てよ。
そんな、捨て台詞みたいな言葉吐かないでよ。
私達を置いて行かないでよ。
ねえ、待ってってば。
行かないでよ……。
「……嘘吐き」
アンタなんか大っ嫌い。
私はただ3人で一緒に居たかっただけなのに。
なんで、なんでアンタはそんなにも前にズカズカ進んで行っちゃうの……。
少しは私達の方へ振り返ってよ。
他人の事、少しは見てよ。
嘘吐き。
アンタなんか大っ嫌い。
でも、本当の嘘吐きは……私自身だ……。
20巻おまけの伏黒姉弟の話を読んだ後に、本誌掲載の212話を読むと心にダメージを受けます。多分。
お気に入り、感想、評価、誤字報告ありがとうございます。
前回の語彙ミスは本当にすいませんでした。
読み直しはした筈なのに気付かなかったです。不覚。