イコさんっているやん? 作:猫又猫々
書き方を忘れてしまったので初投稿です。
「龍人くん、目的地に到着しましたよ」
「お、サンキューやで伊地知さん」
車に揺られること数時間。
俺は遂に目的地である東京校へと辿り着いた。
夜中に家を出たのもあり、眠過ぎて車の中で寝てしまったが、道中禪院家(主に扇など)からの刺客の襲撃なども無く無事に高専に辿り着く事が出来た様で一安心である。
因みに、餅川さんとひたすら斬り合う夢を見た。
二刀流の旋空孤月を避けるのは骨が折れた。
というか骨ごとがっつり両断された。
「ほな、五条さんのいるとこまで案内頼んます」
「はい、こちらです」
クソデケェ門を潜り、祠や灯籠に挟まれるようにして敷地内の奥へと続いている石畳に沿って歩く。
こういう景観の中を歩くのは情緒があって個人的には大好きだ。
因みにだが、俺を案内してくれているこちらの補助監督の方は
高専に向かう途中に本人から聞いた話だと、今年で21歳で高専卒業後そのまま補助監督になったらしい。
補助監督もまた術師と同様にいつ死ぬか分からない職業ではあるが、本人は結構前向きにこの仕事と向き合っているのだとか。
因みに五条さんの後輩らしい。
確かによく見ると胃痛に悩んでそうな顔をしており、ご愁傷様という気持ちになった。
「それにしても、龍人さんはどうして高専に?」
「あれ? 五条さんから聞いとらん?」
景色を見ながらフラフラと伊地知さんの後ろを着いて行っていると、ふと彼からそんな言葉が聞こえて来た。
どうしたもこうしたも家を追い出されんだから、保護以外にありゃせんじゃろ。
なんて事を普通に言う訳もなく、いつも通りイコさんフィルターに掛けてから言葉を発する。
「いえ、五条さんからは何も聞かされてないですね」
「ほーん、まあ家を追い出されだけやで」
「そ、そうなんですね」
あ、今この人絶対心の中で「一体この人は何をやらかしたんだ!?」みたいな事考えとるわ。
明らかに顔にでとりますわ。
まあ、普通に考えて小学生のガキが家を追い出されるとか普通じゃないもんな。
なんて考えながら伊地知さんと駄弁りつつ歩く事数分。
「や、よく来たね龍人」
五条先生とガタイのいいサングラスのおっさんが俺を出迎えてくれた。
いや、隣のガッデムって言いそうな風貌の奴は誰だよ。
「よく来た、禪院龍人くん。学長の夜蛾だ。君の話は隣の悟から聞いている」
禪院だぁぁ〜〜???
俺ァもう禪院なんて苗字剥奪されとるんです。
今は苗字がないのでね、仮名として名乗らせて頂こう。
「ちゃうで夜蛾さん。今の俺の名は生駒達人。これからはイコさんとしてよろしくたのむで」
「ガッデム!!」
あ、ホンマにガッデム言うたわ。
てか、五条先生に絞技してて笑う。
絶対五条さん何も言ってなかったパターンやん。
「どう言う事だ悟!? そんな話は聞いていないぞ!」
「ちょ…ギブギブ! それ以上絞めたらナイスガイな僕の肩ががががが」
「みんなは大事な情報を黙っとるなんて事したらあかんで?」
「いや、何処の誰に向かって言ってるんですか!?」
そんなもん知らんがな。
夜蛾さんに絞められる五条さん。
あらぬ方向を向いて変な事を行っている俺。
そんな俺にツッコミを入れてくる磐田さん。
うーむ……実にカオスな事になってしまった。
結局その後は夜蛾さん達と話し合い、高専から母方の実家に連絡を入れてくれる事になり、2日後に母方の実家である御劔家へと向かう事が決定したのだった。
何でも高専側が連絡したところ、御劔家当主が俺の存在を認知していたらしく、直接話し合いがしたいのだと要件を伝えるとあっさり了承が取れたのだとか。
結果、俺は高専に一泊する事になった。
因みに次の日は五条さんやパンダと手合せしたり、家入さんに反転術式を見せて貰ったりなど中々充実した1日をおくったのだった。
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「せやから、ちょっとだけでええねん。ホンマに先っちょのちょっとだけでええねん」
さて、今俺は御劔家に訪れていた。
何をしているのかと言われれば、宝剣が見たいから交渉をしているところだ。
さっきからこの執事?みたいなお爺さんに、流石に客人だとしても見せられないとか何とか言われて、客室で通せんぼ状態になってしまっているのだ。
おかしい。
客室に通すまでは随分すんなりと行ったのに、どうして宝剣を見せてくれないんだ?
俺バカだから分かんねえけどよ、俺バカだから分かんねえわ。
「おいおい、せっかくの客人相手に何揉めてんだよ」
客室の襖が開き、そんな言葉と共に短髪の女性が入室してきた。
だ、誰だコイツゥ!?
「お、オマエが龍人か」
「ダ、ダレデスカ?」
「なんだ、アタシの事朱莉のヤツから聞いてねぇのか? まあいい、紹介が遅れたな。アタシがここ御劔家当主の
彼女──碧さんはニコッと微笑みながらそう言うと、机を挟んで向こう側にあるソファへとドカッと豪快に座る。
どうやらこのカッケェ雰囲気バリバリのお姉さんが御劔家現当主らしい。
まさか母に妹がいたとは驚きである。
だってあの人自分の事なーんも教えてくれなかったんだもん。
何で妹の事とか教えてくれなかったんだろうか。
何か会わせたくない様な理由でもあったのか?
分からん。
「んで……山口*2は龍人と何揉めてたんだ?」
山口と呼ばれた、さっきまで俺と喋っていた使用人であろう初老の男性は彼女の言葉を聞くと、これまでの会話を要約して話しだした。
「それがですね、此方の龍人様が御劔家を訪れた序でに宝剣を見たいと仰られましてですね……。流石に御当主様の甥っ子様だとしても御当主様の了承無しには見せる訳にもいきませんので、龍人様に無理だと伝えていたのですが、中々聞き分けてくれず……」
ええやんちょっとくらいさぁ、本当の本当に先っぽだけなんすよ。
マジで自分怪しい盗人とかじゃないんすよ。
ちょっとくらい見せてくれてもいいじゃないすか。
「なるほど、そーいう経緯があったと……。まあ、宝剣の事は分かった。後でオマエに見せてやるよ」
「マジで?」
「おう。後でな? まあ、先ずはオマエがここに来た目的について話そうぜ?」
「おお、せやったせやった。忘れてまうとこやった。思い出させてくれてサンキューやで碧さん」
マジで忘れるとこだった。
俺は今回この人の家に話し合いをする為に来たんだった。
「
揉めたというか、追い出されたというか……。
「禪院家、追い出されてもーた」
──テヘッ。
「アハハ! おいおいマジかオマエ。何やらかしたんだよ?」
それが聞いてくれよ碧さん。
アイツら(主に直哉)マジで酷えんだよ。
「それがな、俺の事高専にスカウトしてくれた優しい優しい五条さんと仲良くしてたらな? それがバレて裏切り者とか言われて『お前は追放じゃあ』って。ヤバない? ヒドない?」
「アハハハ! そうか! アレだな。オマエ馬鹿だな!」
この人もすごい男勝りというか、サバサバしてるな。
なんか、どこか朱莉さんを彷彿とさせる様な性格だ。
正直、絡み易くて助かるってのは、此処だけの秘密だ。
どっかの金髪野郎と違って、嫌味ったらしく煽ってこないから、話してて気持ちがいいね。
「せやから、これからは御劔家に後見人になってほしくてな? ほら、俺まだピチピチの12歳やし」
そう。
別に宝剣は唯のおまけだ。
今回ここを訪れたのは後見人になってほしいというお願いと、後はこれから関わる機会が増えるであろう母方の実家への挨拶も兼ねてである。
母方の実家だと言っても、面識はこれまで全く無いのだ。
少しは関わりを持つべきだろう。
それに後ろ盾は多いに越したことはないのだ。
高専での話し合いの際に五条さんから養子に迎え入れても良いという申し出もあったが、丁寧にお断りさせて貰った。
だって五条はなんかしっくりこなかったのだ。
五条さん許してヒヤシンス。
また、御劔家の様子も気になったというのもある。
禪院家みたいな糞オブクソな人達だったら嫌だったしな。
まあ、この人とか山口さんを見る感じ、そんな事も無さそうで一安心だ。
「んだよ! そういう事なら先に言えよな! よし、オマエは今日からアタシの息子だ!」
ん?
この人今、とんでもない事言わなかった?
え?
今俺、いきなり息子にされた?
どこら辺が「よし」なの?
え?
「ムスコ……?」
「いやぁ、ホントは朱莉が2人目を産むのを期待してたんだけどな?その前に死んじまったからさ……ちょっと残念だったんだけど。そしたら、丁度オマエが転がり込んで来たっちゅー訳よ! だから、オマエはこれからアタシの息子だ!」
いやどういう事だってばよ。
もしかしてこの人、アカンタイプの人だったのでは?
初めから自分の姉の子供を養子にするつもりだったって、え?
自分で作るっていう選択肢はないの……?
えぇ……怖いぃ……。
「マジで?俺これから御劔家の養子になるん? ヤバいな。え? ヤバない?」
「いえ、あの……私めに話を振られましても……」
ほら、執事さんもドン引きしとるやん。
可哀想に執事さん。
こんなヤバい女に仕えるなんて……。
強く生きてくれ……。
「アッハッハッハッハ! まあ、そう山口を困らせてやるな。さて、じゃあ今日からオマエはアタシの息子だ。よろしくな龍人」
「龍ちゃんて呼んでくれてええで」
「そうかそうか……可愛いヤツだなぁ」
そう言いながら彼女の握手に応じる。
なんか握手にしては手をスリスリしてくると言うか、手をにぎにぎしてきて気持ち悪いと言うか。
何だろうこの人。
そこはかとなくショタコン味を感じる。
心なしか悪寒すら感じる程だ。
今何となく朱莉さんが妹の事を何も言わなかった理由が分かった気がする。
この人ヤバい人だわ。
「さて、んじゃ手続きとかは頼むぞ山口」
「承知致しました、御当主様」
あ、やっぱりそこは使用人に丸投げするんだ……。
まあ、そりゃそうか。
術師はただでさえ人数不足で多忙なんだから、そりゃ細かい書類系は丸投げするよな。
「よし、龍人の目的も達成出来た訳だし…………」
彼女はそんな事を言うと、綺麗なその顔をニヤリと歪ませると、
「宝剣、見たいんだろ? 望み通りオマエに見せてやるよ」
そう言った。
「マジで?」
「まあ、見せるって言っても実戦形式だけどな」
ショタコンでバトルジャンキーってマジか……。
おいおい、やっぱり呪術師はヤバい奴しか居ないんじゃないのぉ!?
まま、ええわ。
丁度、体を動かしたい気分だったところだし。
見せてみろ、宝剣の性能とやらを。
「オッケーやで」
「よし、そうこなくっちゃな!」
そうと決まれば、やる事があるよね。
取り敢えず、今座ってる椅子の背凭れに腕を乗せながら後ろに振り返って、と。
よっこいせ。
ほんで、カメラが有りそうな所を真顔で見つめる。
よし。
後は適当にポーズをキメて。
「模擬戦、この後すぐ」
「あん?誰に言ってんだ?」
そんなの誰でも良いんですよ。
何故なら、俺達が戦う事には変わりないんだからなぁ!
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時は少し戻り、6月16日、午前10時半ば。
真希の背を見送った後もなおただ茫然自失としていた真依。
彼女は地に伏し己が無力を呪いながら、絶望の淵にいた。
「私は、わた、しは……」
大切な人達には置いて行かれ、自身の無力を痛感するばかり。
それでも尚、自分はどうする事もできない現実。
理想は遠く、現実は儚く、夢は崩れ去った。
もう、何を頼りに生きていけば良いのかすら、今の彼女には分からなかった。
それでも、完全に折れてしまった心にもまだ、執着心は残っていた。
このまま終わり?
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
あの人に会いたい、認めて貰いたい。
うるさい黙れ、ソイツは私を見捨てた。
違う何か理由があったんだ。
違う違う違う違う違う違う──
「──違うッ!!」
グルグルと自身の中で渦巻くドス黒い感情に、彼女は戸惑っていた。
本心では彼を否定したい筈の自分と、心の何処かで彼を求めてしまっている自分。
彼女は今、愛憎二つの感情に挟まれていた。
力強く握られる彼女の拳。
伸びていた爪が肉を裂き血が溢れ出る。
それでもお構いなしに彼女は力を込める。
「違う違う違う違うッ!!」
私を捨てたアイツを絶対に許さない。
自身をバカにしたヤツらを見返したい。
あの女に勝って見下してやりたい。
勝って、証明して、認められたい。
でも、でもでもでもでもでも……。
でもそれ以上に、それ以上に──
「──私、殺したい程にあの人が好きだ……」
それは今まで自身で蓋をしてきた彼女の本心。
今まで自分に嘘を吐いていたのは、彼でも、自分の半身でもなく、誰でもない自分自身であったのだ。
「ああ……私ってこんなにも嘘吐きで──」
血で濡れた拳を解くと、彼女はそのまま血を舐めとる。
そうして恍惚とした表情で自身の身体を抱きしめると、彼女は熱の籠った言葉を紡いだ。
「──何処までも女なんだ」
生まれつき蔑まれてきた事で育った劣等感。
彼と彼女に見捨てられた事で一気に襲いかかってきた莫大なストレス。
自身の本心の理解。
それらが偶然噛み合った結果、彼女は捻れ、歪み、拗れ、壊れた。
「フフフ、アハハハハははは、ふあはハはは!!」
彼女の想いは決まった。
彼に認められるのだ。
どんな手段を用いても、どんな女になろうとも。
最後に勝って生き残って、そうして彼に認められたい。
その想いに応える為に、
「フフフ、先ずは仮面を被らないと。こんな気持ち悪い本性、嫌われちゃうもんね」
彼女の向かう先は決まっていた。
強くならないといけない。
何故なら弱い人間から死んでいくのだから。
誰にも認められずに死ぬ事の、なんと不幸な事だろう。
彼女にはそれがどうしても辛くて耐えられなくて、だから力を求めるのだ。
その為にも先ずは──
「──家を出ましょうか」
兎にも角にも、自身に協力してくれる師を探して彼女は歩き出す。
既に、彼女の中で師を誰にするかは決まっていた。
それは、龍人の教師役であった男──
「シン・陰流の事、私には教えてくれますよね? 先生」
彼女達が再会する事になるのは6年後の夏。
姉妹校交流会での事だ。
出涸らし真依ちゃん強化プランその1:メンタルを呪術師にピッタリなイカれ具合にする。
強化プランその2:簡易領域の習得。
ずっと書きたかった真依ちゃん覚醒回。