Flos qui in fine vanitatis floruit 作:霜山美月
話が区切られるところで罫線入れられるっていうのを途中で知ったんですけどこれまでやってこなかったので最後までこのままいきます
「プレゼント?」
「うん。私だけもらってばかりなのは嫌だから」
お互いに目の前のハンバーグを平らげてから私が話を切り出すと、ムツキは追加で注文した一杯を片手に、不思議そうな面持ちで繰り返した。
店内に流れるストリングスの暖かな音色に気持ちを落ち着かせながら、私はわざわざ口にしていなかったようなことをすべて伝えた。
隠したくて隠していたわけではない、話すという発想に至らなかったからこそ閉じこもっているように見えた私の、終着点はおろか各駅の方角や距離すら見えていない見切り発車な計画。
どうして働こうと思ったのか。どうして便利屋68に来たのか。
そして――稼いだお金で、何をしたかったのか。
「先生なら何でも喜んで受け取ってくれそうじゃない?」
「それじゃダメ。忘れられないくらい特別で、大切にしてくれそうなものがいい」
我ながら身勝手で欲深いとは思うけれど、これでも精一杯考えた結果なのだ。それを笑わずに最後まで聞いてくれたムツキは、少し言葉を整理するかのようにカップを傾けて喉を潤した後、小さく息を吐く。
「姫ちゃん、眩しすぎるよ……」
「……?」
「ううん……これが本当の姫ちゃんか。正直、最初は何隠してるんだろうって思ってたけど……これじゃ本当にアルちゃんみたいだなぁ」
「……アル? そんなに似てるとは思わないけど」
「似てるよ。すっごい純粋なところがね」
彼女は優しい目をしながら、どこか懐かしむように言う。純粋、とは……自分では感じたこともなかったが、そもそも私自身が私のことをわかっていないのだから、他己評価の正当性を疑っても仕方がない。
素直にありがとうと言えばいいのか、そんなことないよと謙遜でもすればいいのか、数秒迷っているうちに、ムツキは小さく首を振って続けた。
「忘れられないほど身近にあって、毎日大切に扱われて、何より今の先生にとっても必ず必要になるもの……私としてはなんにも面白い案じゃないんだけど、一応あるにはあるよ」
便利屋68のメンバーといる時も悪戯好きな面が垣間見えた彼女のことだ、最大の魅力が欠けていることを残念がっているのだろうが――その分を今ここで補おうとしているかの如く。
「ではここでムツキちゃんからクイズです。先生はいつも同じ見た目ですが、先月くらいから少し変わったところがあります。それはどこでしょう?」
「私もそこまで付き合いが長いわけじゃないし……」
「答えられないと、アドバイスはなしだよ?」
ムツキはあざとく顔の前で人差し指を振りながらウィンクした。もったいぶらずに教えてほしいところだが、無理矢理聞き出そうとするのも非効率的だろう。ここは彼女に乗せられてやるしかないか。
唐突に始まった茶番に拍子抜けしつつも、真面目に考えてみる。
彼女が既に述べた通り、先生の服装はいつどこで出会っても同じで、それしか持っていないのかと疑うほどだ。もちろん先生は先生としてシャーレに所属しているから、仕事中はフォーマルな格好でいないといけないだろうし、そしてあの人は大抵いつも仕事中だし……もしかしてそれが理由だったりするのだろうか。
ともかく、黒ワイシャツに白のロングジャケットとスラックス、それ以外の服装をしているところを見たことがない先生の外見について、最近どこか変わった場所といえば……。
ふと脳裏に蘇るのは、先日熱を出して倒れた私が、シャーレで先生に体温計を渡した時の、手元にあるのにやけにレンズの角度を変えたり目を細めたりしていた不自然な一連の仕草。
「……眼鏡?」
「ピンポーン、正解!」
逆に思い当たった点といえばそれしかなく、出題者の意に沿っている確信までは持てずに回答すると、ムツキはすぐさま両手で丸を作った。
確かに、私も気になってはいた。初めて会った時、即ちアズサたちを率いて私たちと対峙した時は典型的なフルリムの黒眼鏡をかけていたような記憶があるのに、この前間近で見てみればアンダーリムに変わっていたのだから。
「何があったのかは詳しく知らないんだけどさ。先月、トリニティでちょっとした諍いがあったみたいでね、そのいざこざに巻き込まれて眼鏡壊しちゃったんだって。今掛けてるのは予備のやつなんだけど、全然度が合ってなくって。なのに先生ってば、変えようとも思ってないみたい」
私が抱いた疑問に対し、ムツキは訊かれるまでもなく答えてくれる。
恐らく彼女が言っているのは、トリニティというよりはアリウスに深く関わる出来事で、元凶は恐らく私たちなのだが……それは言うだけ野暮だということにしておこう。
それにしても、先生も先生だ。使えればそれでいいとでも思っていそうというか……ほとんどの場合は生徒たちのためにお金を使い、自分に使うことがあるとすれば、シャーレのデスクに置いてあったような妙な玩具くらいにしか注ぎ込んでいないであろうことは想像に容易い。
「それは先生から直接聞いたの?」
「大半ははぐらかされちゃったけどね。まぁトリニティのことだし、別に詳細はどうでもいいんだけど……」
ムツキは一度尻すぼみになった言葉を切ってから。
「とにかく、どう? 意外性もないし面白くも何ともないけど、先生に必要なものってことは間違いないよ。……私だったらもっとびっくりさせられるようなものにするけどね」
彼女はあくまでも悪戯心を優先したいらしく、自分で出した案に賛同的ではない様子。
けれど、私にとってはこれ以上ないというくらいに有意義なアイデアだと思えた。
大事なのは意外性より実用性。たったひとときの感動ではなく、長く続く愛着を。
私の贈ったプレゼントが、先生にとっての特別に、そして日常の一部になれるなら――きっと、それ以上に嬉しいことはない。
一も二もなくムツキの提案を受け入れながら、砂糖たっぷりのカフェオレを喉に流し込む。
これで方向性は決まったが、私は眼鏡に詳しくないし、家族の中に掛けている者もいない。最近知り合えた便利屋68の面々だってそうだ。
ヒントを聞き込める相手が存在しないまま安易に行動すると、実用性からかけ離れた新種のインテリアを押し付けてしまうことになりかねない。
「でも、また合わないものを買ったら台無しになっちゃう」
当然、視力や顔の輪郭はひとりひとり違う。私が懸念点を率直に伝えると、ムツキはわかりやすく口元を歪めた。
「うん、だから基本的には本人が直接店に行って視力を測ったり顔に合うフレームを選んだりして、色々考えて組み合わせて作るんだよね」
「本人が……」
「今、それじゃサプライズにならないと思ったでしょ?」
本人は眼鏡を掛けていないはずなのにやけに詳しいムツキだったが、真っ先に抱いた感想を即座に見抜かれた私は言葉に詰まってしまう。
その様子を含めて察したのか、彼女は得意げになりながら続けた。
「無垢な姫ちゃんには特別に教えてあげる。シャーレにある先生の机、横の引き出しの何番目かが先生の個人的な書類入れでね。その中に、直近の視力検査の結果が入ってるの」
視力検査の結果……?
今しがた挙がった問題点を解決する情報が、目の前のムツキの口から語られる。
どうしてそんなことを、と問う前に、彼女は更に続けて言う。
「おまけに、天板の下の引き出しには元の壊れた眼鏡も入ってる。先生がずっと愛用してた、間違いなくジャストフィットするやつがね。レンズは割れちゃったからついてないけど……これをフレームの参考にして、レンズはさっきの視力検査の結果。これさえあれば、作ってもらえるんじゃない?」
まるで機会を窺っていたのかと疑うほど万全に揃った情報と、それを繋ぎ合わせる彼女の発想に感嘆の息が漏れた。
私が先生のことを知らないだけなのか、それとも彼女が先生のことを知りすぎているのか――それはともかく。
「そんなに簡単に作ってくれるものなの?」
「もちろん、普通は難しいだろうね~。でも、できないとも限らない。トリニティの眼鏡屋さんなんかどうだろうね? あそこは勤勉なお嬢様が多いから、需要に応えて話聞いてくれるところもあるかもよ?」
ムツキは冗談めかしながら、しかし自信あり気に言い切った。
ここまで長々と私の悩みを聞いてくれた彼女の言葉だ。今の私にはその可能性を信じるほかない。
終着点は見えている。そこへ向かうための手がかりも得られた。
なら……あとは突き進むだけ。
「……もう決まったって顔だね。応援してるよ、がんばれ姫ちゃん!」
「……ありがとう、ムツキ。今日ここに呼んでくれなかったら、きっとずっと悩み続けていたと思う」
「気にしないでいいって。……いや、そうだなぁ……お礼はここのデザートでどう? さっき気になるの見つけちゃってさ~」
ムツキはそう言って、メニュー表のスイーツ欄を指し示した。
せっかく手に入れた初めての給料なのだから、今から浪費するわけにはいかないのだけれど……まぁ、今日くらいなら。
私が承諾すると、彼女は嬉々としてマスターを呼び、注文を始める。
その時ばかりは等身大の女の子に戻った彼女に微笑ましさを覚えながら、私は残りのカフェオレを飲み干した。
ムツキがくれたヒントをかき集め、お店に行って事情を話し、デザインは私が自分で選んで――
そうやってようやく手に入れた想いの形はどういうわけか、見知らぬふたり組の生徒の手に渡っていた。
一目見てわかるほど素行の悪さが滲み出ている改造セーラー服に黒マスク。
……まぁ、かつての私たちも負けていないように感じる程度の印象に過ぎないのだが、そんなふたり組の不良生徒が、店内の通行客からひったくったのであろうバッグなどを抱えながら、私と先生の間を全速力で通り抜けていったのだ。
――空いた手で、私のプレゼントが包装された長方形の箱さえ奪い取って。
「さすがトリニティのお嬢様は高級品ばっか持ち歩いてていいねぇ。アタシら貧乏人にも分けろってんだ」
「ねぇ、それ何? 何の箱?」
「知らね。時計か何かじゃない? きっと高く売れるぜ」
「マジ? いや、確かにそんな形してるな……あんた天才。うし、逃げっぞ」
「へへっ、りょーかい」
下卑た笑い声を上げながら走り去っていくふたりの背中を、私は呆然と見送っていた。
初めて先生のために選んだプレゼントなのに。あんな人たちに奪われてしまった。
先生の喜ぶ顔を想像していたのに。あんな人たちが壊してしまった。
一縷の光へ想いを重ねて手を伸ばして、なんとか掴み取った幸せの糸さえ、他者の悪意ひとつで簡単に指の隙間をすり抜けていく。
世界はそういう風にできているのだと、私は幼い頃から学んできた。
だから、諦めるのも簡単だ。
何かを失ったわけではない、ただ最初に戻るだけ。
そうだ、思い出せ、アリウスの教えを――
――すべては虚しいものである。
――
「――ッ!」
湧き上がる不確かな感情が、私の足を前へ踏み出させる。
こんなところで躓いているようでは、いつまで経っても彼女のように変わることなんてできない。
私がもうこれまでの私でないことを証明するためには、ここで立ち止まることなど許されない。
最初から、私が取るべき選択はひとつしかないのだ。
「あ、アツコ――!」
先生の声を置き去りにして、私は全力で地面を蹴った。
まださほど距離は開いていない。彼女らが外へ逃げようとしていても、この先しばらくは直線だ。
どよめきは人から人へと伝染し、彼女らの行く先の客たちが一様に道を開けていく。
障害物は何もない。収納していたサブマシンガン――スコルピウスを取り出し、走りながら標準を定めて。
――引き金を、引く。
ダダダダダダ――ッ!!
「うおっ!?」
無防備なふたりの背中に弾は命中し、彼女たちは衝撃によろめいた。
足止めには成功、立ち止まったのは周囲の開けた吹き抜けのエリア。今の銃声で、周りの客も蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
ペースダウンしながら距離を縮め、約五メートルほどにまで近付いたところでふたりは振り返った。
目は口ほどに物を言う。顔が半分隠れているとはいえ、敵意の眼差しは剥き出しだ。アリウスの残党もフルフェイスのマスクなんて付けないで、これくらいわかりやすく顔を見せてくれればいいのに。……私が言えた義理じゃないのもわかってはいるけれど。
「いきなり撃ってくるたぁ、いい度胸じゃねぇか」
ポニーテールの方の彼女が、銃を向けられても動じることなくきっと睨みつけてくる。
両手には散々奪ってきたものを抱えたままで、自らの銃を構えようともしていない。二対一の構図が前提にあるせいか、随分と余裕ありげな態度だ。
「……それ、返して」
「あん?」
私がそう要求すると、彼女は眉根を寄せて首を傾げた。
「大切なものなの。お願いだから返して」
今度は少し語気を強めて言う。
たとえ他の何を失おうとも、先生と私との強い繋がりを担ってくれるあのプレゼントだけは、絶対に取り返さなければならない。
ここはトリニティの自治区のど真ん中。また問題を起こしてしまえば、今度こそ身柄を押さえられてしまうかもしれない。
それでも、あれだけは。あのプレゼントだけは、この手で先生に渡さなきゃ。
「はぁん、やろうっての? アタシらに歯向かおうだなんて、相当腕に自信があるみたいだな」
「けど、やめといた方がいいよ。ほら、見えるだろ? そこら辺の客から盗ってきた荷物。これに当たっちゃったら弁償だぜ? あんたが払ってくれんの?」
こんな状況下で、彼女らは如何にも愉快そうに笑う。
私は長年訓練を積んできた身だ。見栄っ張りの不良を鎮圧することくらい造作もない。
だが、彼女らの言う通り、奪ってきた荷物を質に取られてしまえば、それらまで無事に取り返せる確証はなかった。
「どうしたよ、黙り込んじゃって。ビビってんのか?」
「ま、賢明な判断だと思うぜ。やらねぇんならさっさとお暇させてもらうわ。早いとこ逃げないと追っ手来そうだし」
もし大事なプレゼントを取り返すために撃った弾が、そのプレゼントに当たってしまったら。そんなことを考えて躊躇しているうちに、ふたりは荷物を盾にしながら踵を返してしまう。
今、撃つべきか、撃たざるべきか。引き金に指を掛けたまま、行き場のないぐちゃぐちゃの感情が渦巻いて。
――数秒後。堂々巡りの私の思考を吹き飛ばすかの如く、乾いた銃声が吹き抜けに鳴り響いた。
再び銃弾を背に受けたふたりの不良生徒は、つい先程も見た光景をなぞるようによろめいた。
「うわぁっ!?」
「痛い痛い痛い、何すんだテメェ!?」
彼女らは勢いよく振り向いて私を睨む、が――私は、引き金を引いていない。
対峙しているのは私だけのはずだ。
一体、何が起きたんだ。一体どこから、誰が?
私の反応を見て異変に気付いたらしい彼女らも、はっとして辺りを見回した。
向こう側には誰もいない。背後にも、遠巻きに眺めている野次馬くらいしか。
そうして誰も謎の銃撃を正体を掴めずに答え合わせでも始まるのかと思われたその時、ふたり組の片割れ、高身長なおかっぱ頭の方が、ふと斜め上を見上げて目を剥いた。
ここは二階の吹き抜けエリア、そこから見て斜め上、ということは――、
「向こうで騒ぎが起きてる。ひったくり犯っていうのはそこのふたり?」
聞き覚えのある――それどころか、よく耳に馴染んだ冷たい声が、上方向から降ってきた。
わざわざ目を向けるまでもなくわかる。私が変わろうと思えたきっかけで、一体どうしたら折れるのかかえって知りたいくらいの不屈の精神の持ち主で、誰よりも正義感の強い彼女の正体なんて。
「正義実現委員会……の制服ではないよな。自警団か……?」
「ただの通りすがりだ。そんなことより、みんなから盗ったものを返して。さもなければ撃つ」
「ああん? やけに上から来るじゃねぇか。物理的に上にいるからってよ。アタシらに喧嘩売っといてタダで済むと思――」
「――そうか。そっちがその気なら、こっちも徹底的にやらせてもらう」
――ダダダダダダ――ッ!
躊躇なく鳴り響いた不意打ちの銃弾の雨は、的確にふたりの身へ降り注ぐ。まるで不毛な会話などする気はないとでも言っているかのように。
「いだだだだ!! お、おい、まだ喋ってる途中だろうが! こっちはその大事な荷物抱えてるんだぞ!?」
「じゃあ今すぐその荷物を下ろして。そうすれば撃たない」
「なんだこいつ、話聞く気あんのか……!?」
ポニーテールの方が痛みに悶えながら負けじと喚く。つい数分前までの余裕も消え失せた滑稽な姿に、私も思わず苦笑してしまった。
「な……なんだよその顔。そうか、お前の仲間か!? 何とか言ってくれよ、お前の大切なものとやらも壊されたら元も子もないだろ!?」
「大人しく荷物を置くか、まだ私に撃たれ続けるか選んで。ちなみに逃げようとしても無駄。私はよくここに来るから、犯人の逃走経路を狙って潰すことくらい朝飯前だし、そもそも荷物を持ったままだと全速力では走れない」
「チッ……!」
元より要望を聞いてやるつもりはないが、たとえ言ったところで彼女は銃を下ろす気はないだろう。
彼女は私なんかとは違う……いつだって自分を強く持って行動している。今回も、誰かに頼まれてひったくり犯を捕らえに来たのではなく、きっと自分の意思で騒ぎを収めるべく追ってきたのだ。
――私の知る白洲アズサとは、元来そういう人物なのだから。
「……くぅ……!」
この絶体絶命な状況でも形勢逆転を諦めていないのか、ポニーテールの方は彼女と視線を交わしたままゆっくり後ずさる。ここからどう発破を掛けようというのか――アズサに全幅の信頼を寄せて行く末を見守っていると、おかっぱ頭の方が思いついたかのように手を叩いた。
「ま、待った! おい、あいつなんか見覚えあると思ったんだ。……思い出した、正義実現委員会の奴とつるんでたんだよ」
「……は? 見間違いじゃねぇの? あの正義実現委員会が、そんなに気安く他の奴と行動するか……?」
「見間違いじゃねぇって! 一度や二度じゃない、見かけた時は大抵一緒だった。それだけ太いパイプのある奴ってことだ、敵に回すとマジヤバいって、まとめてかかってこられたら逃げようがねぇ」
「マジで言ってんのか? あのちっこいのが……?」
「マジマジ。だってあのビビらなさ、あいつらと日常的に一緒にいるんだったら説明つくだろ」
「…………」
ふたりはひそひそ声で何やら話し合っているが、残念なことにこの近距離では筒抜けである。
世紀実現委員会――即ち、トリニティ生徒会のティーパーティーの傘下にある、治安維持組織にしてトリニティ最大の戦力。
そういえば、その正義実現委員会の一年生が、訳あってアズサと同じ部活にも所属しているという話を先日聞いたばかりだ。おかげで正義実現委員会としての業務には戻れていないらしいが。
ふたり組がまさかそんな事情までは知るはずもなく。
確かな部分だけを切り取った都合のいいエピソードが功を奏したのか、彼女らはいそいそとしゃがみ込み、持っていた荷物を床に並べた。
「…………ここ置いとくから。これで全部返したからな? だから撃つなよ? 通報もするなよ? じゃ!」
「あっおい! アタシを置いていくなって――」
「待った、君たち」
ふたりが脱兎の如く逃げ出そうとした瞬間、私の背後から凛とした声が響き渡る。
ああ、この声色は、もう。
図らずとも場の収束を直感した私は、小さくため息をついて首を振った。
「人のものを盗っちゃダメでしょ。お説教だよ」
いつの間にか追いついていた、幸薄そうな微笑しかほとんど見たことがないような先生の、不思議とどこか冷めたような声。
呼び止められて素直に静止したふたりの目の色からして……先生がどんな表情をしていたのかは、最早言うまでもないだろう。