Flos qui in fine vanitatis floruit   作:霜山美月

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ここまで読んでくださりありがとうございました
もしかしたら白洲アズサSideの続編書くかもしれません もしかしたら


Familia / 家族

 結局、正義実現委員会は到着した。

 一度騒ぎになってしまった以上、それは避けられないことだ。トリニティの平和に仇なす悪が市民に危害を与えたとなれば、彼女らは素早く現場に駆けつけ、正義に則って然るべき制裁を下す。

 相手も憔悴しきっていて抵抗の意思はないと情報を伝えたためか、通報に応えて現れたのは肩書きを持たない数人の雑兵のみだった。

 もし幹部クラス――特にトリニティの戦略兵器こと委員長の剣先ツルギなんてものが出張ってこようものなら、私の身分まで疑われた後に危ないことになっていただろう。あんなの、さすがの先生でも止められるとは思えないし……ひったくり犯たちの興奮を鎮めてくれた先生のファインプレーには感謝しなければ。

 

 正座で先生のありがたいお言葉をその身に受けた彼女たちが正義実現委員会に連行されていくのを見送ってから、私はようやく本題に戻ることができた。

 アズサの協力を得て、なんとか取り返すことができた私の想いの結晶を、改めて先生に手渡しする。

 包装の解かれた箱の中から出てきたのは、初めて会った時に使用していたのと同じ、フルリムの黒縁眼鏡。もう少し意匠が凝らされたものにしたい気持ちもなかったといえば嘘になるし、ムツキが想定していた以上に面白くない結果になってしまったかもしれないけれど。

 

 度数の合っていない予備の眼鏡を外し、箱から取り出した新しい眼鏡を掛けた先生を見て、私はこの選択は正しかったのだと悟った。

 

「ありがとう、アツコ。これ、大事にするね」

 

 にへらと笑う彼の顔つきに、堅物そうで何の捻りもない黒縁眼鏡はよく似合っている。

 私の顔を見るのに目を細めたりする必要もなくなった彼の微笑みひとつで、私はこれまでの行動と少しばかりの苦労がすべて報われたように思えた。

 

「……その。違和感とか、ない? 掛け心地が合わない、とか」

「全然。びっくりするほどピッタリだよ。おかしいな、自分で行って作ってもらった時より合ってる気がする」

「ふふ、それはいくら何でも大袈裟。……問題ないなら、よかった」

 

 肩の荷が下りた気分だった。

 これまで掛けていた方をケースにしまってジャケットのポケットの中に放り込み、彼はまるで子供のように辺りを見回しながら「おぉ……」と感嘆の声を漏らしている。もし永遠の時が存在するなら、無邪気な彼の姿をずっと見守っていたかったのだけれど。

 残念ながら幸せな時間とは、いつ如何なる時も終わりを伴っているものだ。

 

「先生、そろそろ……」

「ああ、ごめん。すぐ行くよ。……アツコもごめんね、埋め合わせは絶対するから」

 

 ひったくり犯の件の事情聴取だとか事後処理だとかで、先生は正義実現委員会に付き添うことになった。まだおやつ時を過ぎたくらいで、楽しめる時間はたくさんあったはずなのに、いくら希望を抱いても現実は非情である。

 正義実現委員会の部員に続こうとして、先生はもう一度振り返る。新しい眼鏡のレンズにわずかに光を反射させながら、私の目をまっすぐに見つめて。

 

「眼鏡、本当にありがとう。このお礼はいずれするから……ちゃんと覚えといてね」

 

 そんな、お礼を言いたいのは私の方なのに。積もり積もっていくばかりの恩を、少しでも精算したくてやっと形にできたばかりなのに。

 けれども、それが先生らしいと言えば先生らしかった。自分がどれだけ生徒たちに影響を与えているのか、自覚していないのだから。

 

「あと……」

 

 去り際、先生は私の横に視線をずらす。

 

「アズサも、手伝ってくれてありがとう。いつでもシャーレに来ていいからね」

 

 隣から短く了承する声が聞こえる。

 それだけ言い残して、今度こそ先生は行ってしまった。

 

 騒ぎが一段落して再び買い物客たちが行き交い始める中、その場に取り残された私とアズサは互いに顔を見合わせる。

 ――こんな流れ、つい最近も見たばかりだ。

 かつての家族であるふたりは、きっと同じことを考えているに違いないと思った。

 ただ、前回と違うことがあるとすれば。あの時のような気まずさは、もうどこにもない。またひとつ自信を身につけた今の私は、対等に彼女と話すことができる。だから、私は彼女に問うのだ。

 

「アズサはひとり? どんな用でここに来たの?」

「ああ、うん……少し寄りたいところがあって」

「寄りたいところ?」

「えっと……アツコ、これから予定はある?」

 

 質問に質問で返されて、私は首を傾げながらも一応答える。

 

「先生は行っちゃったから……何もないよ」

「よかった。ちょっと、ついてきて」

 

 アズサは有無を言わさず私の手を掴むと、人混みの中を縫って歩き始めた。

 私の知る白洲アズサは、いつだって明確な動機を示して行動を開始する……そんな人物だったような。

 珍しく多くを語らない彼女の意図が読めず、手を引かれるままエスカレーターを上り、数々の店の前を通り過ぎていく。

 

 やがて辿り着いたのは、四階に位置するゲームセンターエリア。

 このフロアへ近付いていくたびに大きくなっていた、様々な筐体の主張の入り混じった爆音は、今やピークに達して鼓膜を振るわせ続けていた。

 休日の午後のアミューズメント施設ということもあり、店内は大勢のトリニティの生徒たちで賑わっている。右を見ても左を見ても、ゲームの筐体の前には誰かがいて、その隣ではまた別の誰かが茶化したり煽ったり、あるいは真剣な表情でプレイを見守っていた。

 

「……アズサ?」

「補習授業部のみんなとたまに来るんだ。知らないものがたくさんあって……気持ちの整理がつかない時には、気晴らしにもなる」

 

 店内の騒々しさにかき消されぬよう、顔を近付けながら彼女は言う。

 補習授業部――アズサがこの前話を聞かせてくれた、彼女が所属している部活の名称だ。そう……ヒフミという少女が部長を務めているという、あの時私たちが対峙した四人によって立ち上げられた部活。

 行動的ではあれど、娯楽に積極的な印象のない彼女に連れてこられることになるとは意外も意外で、私は驚き半分困惑半分といった心情だった。

 

「アツコ、あれやろう」

 

 私の内心など気に留める様子もなく、アズサはひとつのゲームの台を指さした。

 一見すると、それはおよそ幅一・五メートル、奥行二・五メートルほどのずんぐりむっくりした長テーブル。真ん中あたりに小さなネットがかかっており、その左右で天板のカラーリングが赤と青に分かれている。その他にも様々な装飾があったが、とにかく一言で言うと巨大なテーブル、といった感想だった。

 アズサは迷いもせずその巨大テーブルのような筐体のコイン投入口に百円玉を入れる。すると、どこからかガコンッ、と硬い音が鳴り響いた。

 

「これを持って。まず私がパックを打つから、アツコはそれを打ち返してくれればいい。相手の手元にあるゴールに入れることができたら得点、それだけのゲームだよ」

「パック……ゴール……?」

 

 理解の追いつかない私をテーブルの端へ押しやったアズサは、向かい合うように逆サイドに立って私を見る。互いの手に握られるのは、円盤に取っ手を付けたような不思議な形の器具。これで何をするのかと思えば――彼女はテーブルの上に置かれるパックと呼称された円盤を、右手の器具によって勢いよく打ち飛ばした。

 

「……?」

 

 それは摩擦を無視しているかの如く高速で移動し、一直線に私の手元へ飛び込んで――テーブルの側面で跳ね返るかと思いきや、ガコンッと音を立ててその姿を消した。音がしたのは下方向、一歩下がってそこを見てみれば、テーブルの真ん中あたりの長方形の穴からその円盤が落ちてきたところらしかった。

 直後、筐体から電子音が鳴り響き、テーブルの真ん中のライン上で虹を架けるように取り付けられていたディスプレイに、『0-1』の数字が表示される。数字の上に書いてある文字は……スコア。つまりこの数字は、私が今、失点したという証左。

 

「アツコ、パックを思いっきり打ち飛ばして!」

 

 店内の騒々しさに負けない声で、向こう側のアズサが呼びかけてくる。

 この円盤……パックを、右手のこれで、打てばいい。

 頭の中で反芻しながら、私は彼女に言われた通り、恐る恐る第一打を繰り出した。

 摩擦がない、というかこれは……浮いているのか。すーっと滑るようにネットの下を潜り抜け、自陣に迎え入れたそれを、アズサは。

 

「ふっ!」

 

 今度は垂直側面に向かって斜めに打ち出し、壁に跳ね返る軌道へ反応する前に、また私の『ゴール』へとパックは飛び込んでいく。

『0-2』。また表示が変わったスコアボードの奥には、ふんす、と無表情の上から得意げな顔をしてみせる彼女の姿があった。

 

 ……なるほど。大体の遊び方は理解した。要するに、このパックを互いに打ち合う中で、相手の隙を突く角度と速さをもってゴールに一撃を叩き込めばいい。アズサが言った通り、単純明快なルールだ。

 なら、私がやるべきことも至極単純。パックをテーブルに置き、右手の器具を構えて。

 

「いくよ、アズサ」

 

 この爆音の中では小さな声も届かないだろうが、彼女は静かに頷きを返す。

 それに応じて私は、今度は強く、彼女を真似するように角度をつけてパックを打った。

 一度壁に跳ね返ったそれをアズサが打ち返し、私もまた打ち返して――それが何回か続いた後、彼女の右手が外側へ伸びた隙を狙って。

 私は反対側に緩い角度をつけながら、勢いよく会心の一撃を叩き込んだ。

 アズサは壁に反射した軌道を追い切れず、そのままガコンッと音を立ててパックが盤上から消失する。

『1-2』。感覚的に掴んだコツを活かして、一泡吹かせてやることに成功した。

 ――記念すべき、私の初得点だ。

 

「……っ!」

 

 まさかアズサも、このゲーム自体を初めて見る初心者に引けを取るとは思っていなかったのだろう。

 小さくわなわなと肩を震わせて、数秒後。パックを取り出した彼女は制服の袖を捲り上げ、本気の表情で私に向かい合う。

 

「これがたとえゲームだとしても、手を抜かない理由にはならない!」

「アズサ……?」

 

 高らかに宣言した彼女の威圧感に気圧され、一瞬の後にスコアは『1-3』。

 再び控えめに胸を張る彼女を見て、私は口元が緩むのを感じた。

 こんなにも感情を露にして、楽しそうにしているアズサは見たことがなかったかもしれない。

 諦めずに大人に反抗し続けてきたくらい、信念が強い子だったのは知っているけれど。傍から見た限りだといつも冷静で、どこか冷めた雰囲気を纏っていたのが彼女だったはずなのに……そんな印象を吹き飛ばしてしまうくらいに、瞳を輝かせた少女がそこにはいた。

 

 彼女がその気なら……私だって、黙って負けてやるわけにはいかない。

 

「私も、本気でいくから」

 

 私たちは最初からこうあるべきだったのかもしれない、なんて今更変えようのない家族観の憧れは胸の奥にしまいつつ。

 今はただこの瞬間を全力で楽しむべく、私たちは全力を尽くしてパックを打ち合い続けた。

 

 

 

 結果から言えば、エアホッケーと称するらしいあのゲームは僅差で負けてしまったのだけれど。

 悔しいとかそういう気持ちは置き去りにして、アズサと一緒に楽しさを求めることだけに夢中になっていた。

 好奇心の赴くまま、様々なゲームの筐体に触れて回った。クレーンを用いて箱の中のぬいぐるみを掴み取ろうとするゲーム、音楽のリズムに合わせて太鼓を叩くゲーム、ハンドルやアクセルペダルを駆使して運転する車をゴールへ導くレースゲームに、実銃ではなく筐体に取り付けられた機械の銃を使って画面上の敵を打ち落とすゲーム、その他諸々。

 

 すべてが私にとっては新鮮な体験で、どれもこれも私の興味を引くようなものばかり。

 その全部を遊び尽くす勢いで店内を回っているだけで、あっという間に時間は過ぎていった。

 

 今はその喧騒から少し離れ、同じフロアに位置する雑貨屋に来ていた。

 アズサ曰く、ショッピングモールへ訪れた目的はこの店とのことだけれど、見渡した限りではどこにでもありそうな普通の店だ。

 並んで店内へ奥へ進んでいくと、ぬいぐるみのコーナーが姿を現す。あの取れもしないクレーンゲームに費やしたお金でここにあるものを買えたのでは……なんて、今となってはもう遅いことを思い浮かべたが、そのぬいぐるみたちを凝視した後、私は途中で考えを改める。

 ここに並んでいる子たちのデザインは、なんというか……独特だ。確か、あの外向きの両目が不気味な謎の白い生き物は、シャーレの仮眠室で見たことがあるような。

 その奇妙なコーナーも中ほどまで歩みを進めて、アズサは数多のぬいぐるみたちを見やりながら口を開いた。

 

「アツコが、先生にプレゼントをあげるなら何がいいかって訊いてきた時。私自身、そういった経験がないことに気付かされた」

 

 それは先日、私がアズサと久々の再会を果たした日の出来事の話。その場でヒントは得られなかったけど、便利屋68の存在を知ることができたのはアズサのおかげだった。

 

「そう、私も、先生や補習授業部のみんなから、たくさんのものをもらう一方だった。だから今度は、自分がもらったものと同じだけの何かを、返せるようになりたくて……でも、何を贈ったら喜んでくれるのかなんて、いくら考えてもわからなくて。そんな時、無事に先生にプレゼントを贈れたアツコを見て、羨ましいと思ったんだ」

 

 陳列されたぬいぐるみのうちひとつの、ふわふわもこもことした毛並みに手を伸ばして優しく撫でる。

 愛おしそうに目を細めるアズサの横顔は、普段のどこか気を張った表情からは想像できないくらいに穏やかで、年相応の少女の顔つきをしていた。

 

「……この子たち、可愛いでしょ。私もお気に入りなんだけど。補習授業部のひとりはこの一面のエリアに置いてあるようなものは全部持っているし、残りのふたりはどうしてか食いついてこない。まぁ、ヒフミはともかくとして……ただあげたいものを考えるのって、こんなにも難しいんだな。私に思い当たる候補といえば、この子たちしかいないのに」

 

 自傷的に苦笑するアズサの言葉を聞いて、私もまた、アズサが触れているぬいぐるみに視線を落とす。

 確かに独特な見た目をしてはいるけれど……まぁ、それは置いておくとして。

 

 彼女が不器用なのは、昔から変わらない。そういうところは、師匠のサッちゃんに似ていると言えるのかも。

 ……いや、つい数日前までの私もそうだったか。自力で答えを出せなかった私は、ムツキから得た限りなく答えに近いヒントで、先生に贈るプレゼントを決めることができた。

 今のアズサは、数日前の私だ。

 ただ一言、相談に乗ってほしいと言ってくれればいいのに、そんな発想にも至らない。私と同じで、アズサにもまだ未熟な子供らしいところはあるのだ。

 けれど、だからといって私にプレゼントの良し悪しを判断できる能力はない。結局のところ、それはもらう側の好みに左右されるもので……でも、アドバイスできることが、何ひとつないわけでもなかった。

 

「……そういうのって気持ちの問題じゃないかな」

 

 アズサは不思議そうな顔をしてこちらを見る。

 身勝手な感情論だと捉えられるかもしれないけれど、何も根拠がないわけではない。

 

「シャーレの仮眠室、よく見てみたことはある?」

「仮眠室? ……いや、行ったこと自体は何回かあるけど……どうして?」

「あの部屋、本当に色々な雑貨が置いてあるでしょう? あれは全部、生徒から先生へのプレゼントなんだって」

 

 目の前にあるぬいぐるみのキャラクターの別バージョンのものを含め、猫の形を模した掛け時計も、甘い花の香りがする芳香剤も、あの部屋に置かれたもののほとんどが先生の趣味からかけ離れたものだ。

 でも、先生は贈り主の気持ちを無下にすることなく、あの部屋で大切に飾っている。

 

『……尊敬されているんだね、先生』

『……うん、まぁ、職業柄ね。嬉しいことなんだけど、全部みんなとの大切な思い出だから、増えていく一方だよ』

 

 以前聞いた先生のその言葉を思い出して、私は思わず笑みを零す。

 あの時の先生は、とても幸せそうだった。

 きっと先生は、生徒たちからの贈り物を単に大切にしているだけじゃない。その気持ちそのものが嬉しくて、かけがえのない宝物だと思ってくれているのだ。

 

「私が眼鏡を選んだのは……特別な理由があったからだけど。でも、アズサが選んだものなら、先生は必ず受け取ってくれると思う。そしてたぶん……アズサのお友達も。だから、自分で決めたものがあるなら、迷わずそれを渡しちゃった方が相手も喜んでくれるし、アズサもすっきりすると思うよ」

 

 我ながら推測の多い、説得力に欠ける助言だと思う。ただ、そうやって背中を押してあげることくらいしか、私にできることはなくて。

 でも、私の拙い言葉でもアズサには伝わったようで、彼女は小さく微笑んでくれた。

 昔は決して見せてくれなかった、とても優しい笑顔だった。

 

「……わかった」

 

 ぬいぐるみをひと撫ですると、アズサは改めて少し奥に陳列されていたぬいぐるみを手に取った。

 それから、そのぬいぐるみと他のぬいぐるみを見比べて、やはり先に手に取ったものの方がいいと確信したようで、それを大事そうに抱えてレジへ向かっていく。

 

 数分して戻ってきた彼女は、先ほどまでのどこか不安げな表情とは打って変わった、憑き物が落ちたような晴れやかな顔つきになっていて。

 そしてそのまま、抱き抱えられるサイズの桃色のぬいぐるみが入れられた半透明の袋を、こちらへ向かって差し出してきた。

 

「アズサ……?」

 

 戸惑いながらその名を呼ぶと、彼女は少しだけ目を伏せて、そしてまた私の目を見る。何かを決意したような強い眼光。

 私がそれの意味するところを理解するよりも早く、彼女の口は動いた。

 

「これは……アツコの分。これまで、私たちは本当に色々あったけど……家族の仲直りの印、というか。改めて形にした方が、いいと思ったから」

 

 ぎこちなく理由に相応しい言葉を紡ぐアズサに、私は呆気に取られてしまう。

 幼少の頃をともに過ごし、耐え難い苦痛を分け合って、その末に強い信念を持った彼女だけが私たち家族と離脱し、一度深い溝が生まれてしまった不安定な関係。

 言葉では彼女は過ちを犯した私たちを許してくれたし、私はもとより憧れであった彼女のことなんか恨んでいない。

 それだけの事実さえあれば、十分なのに。

 

「『こういうのは気持ちの問題』……でしょ?」

 

 アズサは悪気なく真顔で、私が捻り出した答えを真似てみせる。

 ……まったく、どうして彼女はいつもこういうところで一歩先を行ってしまうのだろう。悔しくて、けれどどこか誇らしくもあって。

 私は何も言わずに、アズサの手からぬいぐるみの入ったビニールを受け取る。

 中に入っているのは、二足歩行……? の桃色のアルパカ……? のようなデザインをしたキャラクターのぬいぐるみ。

 

「名前はピンキーパカ。色合いが似ているから、アツコに似合うと思って……」

 

 可愛いかと問われれば、正直返答に困るような顔つきでこそあるけれど。

 間違いなくどこか憎めない愛くるしさと、なんとも形容し難い魅力があった。

 アズサが私のために選んでくれた、世界でたったひとつのプレゼント。

 それは私にとって、どんな高価なプレゼントにも代えられない価値があるもので。

 

「――ありがとう。大切にするね」

 

 胸に染み渡るような温かさと、目頭の奥に込み上げてくる熱を感じながら。

 サッちゃんも、ミサキも、ヒヨリも、それぞれのなりたいように変わっていく中で、全員がまた昔のような家族に戻れることを祈りつつ。

 家族の絆を象徴するそのぬいぐるみを、私は強く抱きしめるのだった。

 

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