週末の神話大戦《ラグナロク》   作:織葉 黎旺

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一。唐突の練習曲《エチュード》

 

「……はっ」

 水那月稀里椰は通学路近隣の公園の芝で目を覚ます。同時に空紅鈴葉は起き上がり、初之瀬来芽は既に座って黒猫を撫でていた。頭の辺りに高そうな装飾品をつけており、何処かの飼い猫であるだろうことが見て取れる。

「ふぁああ……何だったんだろうさっきのは。夢でも見てたのかな……?」

「…………」

 来芽は黒猫を撫でていない方の手で、器用にスマートフォンを弄り、そうして出た検索結果を伝える。

「SNSにもニュースにも、さっきの隕石の話は全く上がっていない。いくら何でもあの規模で、落下までして話題に上がらないのはおかしいだろう」

「まさか……私たちの潜在意識が生み出した、中二病全開の妄想だった……!?」

「……さあな。少なくとも、三人同時に同じ夢を見るという珍しい現象が起きたことは確かだ」

「……ところで来芽……そ、そのなんか黒い固まりは……」

「黒猫だけど。撫でるか?」

「うわああああ近づけるなあああああ!!」

 シッシッ、と手をぶんぶん振って猫を近づけさせないようにする稀里椰。猫はその様子にカチンときたのか、足を大きく伸ばして稀里椰を蹴った。

「うわああ猫に蹴られたあああ目があああ、目があああ!! 鼻があああ!!」

「いいなー猫ちゃんのキック! 私も受けたい……!」

 水那月稀里椰は猫アレルギーなのである。ゴシゴシと目を擦って草むらでゴロゴロと悶え転がる。

 空紅鈴葉は大の猫好きである。優しくそーっと手を伸ばすが、猫に払いのけられそっぽを向かれた。

「なっ……」

「ぷぷぷ。鈴葉さん嫌われてるじゃないですかぷぷぷ」

「嫌われてはないわよきっと! ただ機嫌が悪かっただけ! ……そんなことよりも、その猫どうしたの?」

「いや……何故かわからないが、起きたら膝の上に乗ってたんだ。擦り寄ってくる様子が可愛いし、懐いてくれてるみたいだから撫でてた」

「猫にまでモテるたぁ、やっぱりイケメンは違いますねぇ……爆発するべきだぁ……」

 憎らしげに来芽に視線を飛ばし、稀里椰は立ち上がって大きく伸びをする。

「んー……そんじゃ帰ろっか、とりあえず」

「幸い、寝てたにしては時間が全然経っていないのね……急いで帰りましょ」

「……もうちょっとここで、コイツを撫でていたかった……」

「じゃあ僕は先に帰るから、来芽はここでゆっくりしてるといいよ!」

「それならお言葉に甘えて、ゆっくりして帰ろう」

 じゃ、と別れを告げて、二人は駅へと歩き始めた。特に会話もないまま歩き続けていたが、明らかに恋人らしき、手を繋ぎ寄り添い合って歩く男女二人組とすれ違ったことで、鈴葉の脳内に電流が走った。

 ──やだ、これって傍から見たらそういう関係っぽい二人なんじゃ……!? 

 手こそ繋いでいないものの、制服の袖が擦れるほどの近距離。そういう風に勘違いされてもおかしくない、というか自分だったらそういう風に勘違いする。

「近い! 寄るな! 離れなさい! もしくは縦に並んで!!」

「ええっ!? ちょ、急にどうしたのさ!?」

「うるさい!」

「理不尽!?」

 そんなやりとりを続けながら、いつも通り電車に乗っていつも通り途中の駅で別れ、お互い帰路に着く。先程の不可思議な出来事などまるでなかったかのように、至って普通に帰宅した。

 

 

「ただいまー」

「お姉ちゃんお帰りー」

 家に着いた鈴葉を出迎えたのは、その妹の暮葉(くれは)だった。茶髪である点は同じだが、ポニーテールな姉と違って快活なショートカット。三歳違うというのに既に姉よりもスタイルはグラマー。若干吊り目な姉と違って、目はパッチりと可愛らしい。セーラー服でアイスを食べながら、のんびりスマートフォンを弄っている。

「アンタ玄関で何くつろいでるの……?」

「ちょっと客を待っててねー、と。そういやお姉ちゃん、この前借りた『ダブルタブー 〜兄弟、二重の過ち〜』アレめちゃくちゃ面白かったよ」

 しかし残念なことに妹も姉と同じく腐りきっている。もとい、姉よりも腐っている。姉の影響なのか血は争えないというだけなのか、それは誰もわからない。

「あの作家の本、最近推してんのよ」

「ふえー、まあなかなか私好みだったけど……こう、もっとドロドロしててほしい」

「アンタ歪んでるよね……」

「ふえっへっへ」

 暮葉は変な声で笑って、思い出したように台所を指さす。

「あ、お母さん今日も遅いっていうから机の上に夜ご飯置いてあるよ。チンして食べてねって」

「ほいほい。とりあえず私は風呂入ってくるわ」

「はーい」

「……そういや暮葉」

「んー?」

 行きかけた鈴葉は何かを思い出したように暮葉の方に振り返った。相も変わらずスマホを弄り続けながら、舐め終わった棒を口から発射してすぐ近くのゴミ箱にホールインワンした。

「……相変わらず品がないなあ」

「お姉ちゃんも似たようなもんじゃん」

「そんな意味のわからない特技は持ってません!」

「練習すれば出来るようになるよ?」

「んな練習誰がするのよ!」

「私」

 そう言われてしまえば黙る他なかったが、本題から逸れたことに気づいた鈴葉はコホン、とわざとらしく咳払いして話を戻した。

「今日……ってかさっき辺り、変なの見なかった?」

「変なのって?」

「こう、流れ星……とか、隕石……? っぽい何かとか」

「さー……? 私は記憶にないなあ、見てなかっただけかもしれないけど」

「それならいいの。変なこと聞いてごめんね」

 ありがと、と片手を上げて浴室へ向かう。暮葉も片手を上げ、ブンブンと雑に振った。

 姉が完全に見えなくなり、シャワーの音が聞こえ始めた辺りで妹は目を細めて玄関の扉を見る。

「やっぱお姉ちゃんも選ばれてたか……んー、まあそれもどうだっていいか! アレくらいなら何とかなるもんね?」

 鍵とチェーンロックのかかった扉が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。暮葉はスマホから顔を上げず、そのままの姿勢で来訪者に軽々と声を掛けた。

「で、神話大戦ってのはどんなもんなのかな?」

 

 

 水那月稀里椰の朝は早い。寝るのは深夜一時くらいだというのに朝四時には目を覚ます。朝四時というのは人によっては夜とも言う、少なくとも早朝と呼ばれる時間であるわけだが、そんな時間から彼が何をしているかといえば朝だから、()()()()()()()()()()()()()()──即ち、女装しての街の徘徊であった。

「流石に今日のは不味いか……? いや大丈夫だろどんどん行こう」

 銀のツインテール・ウィッグを付け、あろうことかゴスロリのメイド服で近所の公園を散歩する。人に見られる楽しみもあるため夜などにやってもいいのだが、この程度のクオリティのモノを大勢の人様に晒すわけにはいかないのだ。水那月稀里椰のコスプレへのプライドは高い。

「とはいえ最近何かマンネリだし……差し当たり、コンビニにでも行って反応を窺ってみるかー」

 見た目は美少女故、多少怪訝な視線は送られても、寧ろ興味津々というか妙な熱の篭った目で見られることが多い。しかし声だけはどうしようもない。バスでこそないものの、せいぜいがテノール程度のその声で、喋った瞬間視線が引き気味の物に変わる。稀里椰としてはその反応も楽しいし、コンビニに行くというのはなかなかに魅力的な案ではあったが、本日はやめることにした。小さく欠伸をし、手に持つポーチからスマホを取り出す。

「とりあえず自撮りでもするか……」

 パシャ、パシャ、としっかり盛ることも忘れず、様々な角度から様々な表情で自分を撮り始める。

 しかし三十二枚目のシャッターを切りかけたところで、画面に表示された通知バーを誤タップ。心の中で少し舌打ちしつつ、 内容を確認する。

「友達の……追加……?」

『マナちゃんさんがあなたを友達に追加しました』とだけ表示されたそれを見て、少し眉を顰める。マナという名前に心当たりはない。広大な繋がりを作りやすい『tweeter』でフォローされたなら、趣味の合いそうな人かな、なんて想像もつくが、今のは友人同士、もしくは友人経由でないと繋がることの少ない、微閉鎖的SNS『POINT』である。友達登録しているのなんて十人程度しかいないから、恐らく誰かの友人だと思うが──

「…………とりあえずなんか送ろ」

 可愛らしいイラストの表示されたスタンプ群の中から、アザラシが寝転がってゴロゴロするものを選択して連投しまくる。一個目を送り付けた瞬間に既読がついたことには一瞬焦ったが、構わず連投。素早く三桁に届くほどタップしたところで、本題を聞くことにする。

「えーっと……『すみません、どなたでしょうか?』でいいか」

 どなたか分からない人に対してスタンプの連投という嫌がらせを行っていた稀里椰は、素早く打って素早く送信する。すぐ既読がつく。まあ興味本位で追加したというのならそんな相手にいきなりスタンプ連打された時点でブロックなり何なり、嫌がらせへの対応を行うはずだし、やはり知り合いなのだろうか。

 

 今か今かと返信を待つが、既読の早さの割に文字を打つのは遅いのか、はたまた悩んでいるのか。それとももうブロック等の手段を取っているのか──

 ポン、と軽いメッセージの受信音。見ると、顔文字や絵文字がふんだんに使われ、分割連投ではなく一纏めに全てのメッセージを送るという今時の女の子(?)にしては珍しい文章が届いていた。

『初めまして^^私マナっていいますっ。稀里椰さん……ですよね? よかったー、間違ってたらどうしようって思って気が気じゃなかったです(_ _) 』

 よかったーも何もこの時点では稀里椰が稀里椰である確証などないと思うのだが、まあ突っ込まずにスルーしておく。

 というか『初めまして』ということはやはり知り合いではなかったようだ。それならこの子は一体誰なのか。知り合いの知り合い、って感じなのか……? 

『稀里椰で合ってるよー』『えーと、それで君は?』と返す。彼は一文一文区切って送る現代っ子であった。

『あの……昨日聞いていると思いますが、私、神話大戦の代理に貴方を選びました!』

「…………ん、んんんんん……?」

 

 

 空紅鈴葉の朝は早い。毎朝八時に起床し、五分で身支度、残り五分で朝食を済ませ、すぐさま家を飛び出す。徒歩五分と言われる駅までの道を二分で行き、八時十二分発の電車にギリギリで駆け込み乗車。電車で一呼吸おいて、学校の最寄り駅に着く八時二十分になるとホームを駆け下り改札を駆け抜け通学路を猛ダッシュ。予鈴の鳴る二十五分ジャストに、息を乱さず席に着く。すぐさま隣の女子が、ニヤニヤと性格の悪そうな笑みで彼女を見る。

「おはよ空紅。今日も早いね」

「……どーもー、無名坂さん」

「釣れないねえ。なんか疲れた顔してるけど、嫌なことでもあった?」

「んなもん沢山あるわ」

 まずこの女と関わっていることが、鈴葉にとっては『嫌なこと』なのだ。

 無名坂絢深(むなさかあやみ)。墨汁のように真っ黒い、鼻までかかりかねない前髪と、腰までかかる後ろ髪で不気味に笑う女子高生。その陰気そのものといった容姿と裏腹に、彼女自身は()()()明るく嫌味な性格をしている。クラスでも浮いているそんな奴と交流を持つのは人間的には良いことかもしれないが、高校生的には十分悪いことだった。一緒にハブられてもおかしくはないが、会話はなるべく最低限。関わりは最底辺という心積りでいるので、今のところ周りから何か言われた覚えはない。

「ところで昨日、水無月君と仲良く袖擦り合う距離で歩いていたって聞いたんだけど……」

「どこ情報よそれ!? ソースは!?」

「私」

「見てたのかよっ!」

 一番見られたくなかった相手に見られていた事実に、自然と語調が強まった。訝しげな周りの視線に気づいて声を潜める。

「……覗き見なんて趣味が悪い」

「……え、本当なの?」

「は?」

「ちょっとカマかけてみただけよ」

「何じゃそりゃああ!!」

 訝しげな視線が引き気味の目逸らしに変わった辺りで、キリよくチャイムが鳴り、担任が入ってくる。コイツと絡み出してから私の平穏な日々が揺らぎ始めている──と、内心で地団駄を踏んだ。

 

「えー、今日も連絡は特にない。以上解散」

 面倒くさそうに大きく伸びをし、睡眠不足なのかフラフラと、左右に小さく揺れながら担任である銖藤沢釛(しゅとうさわこがね)が教室を出ていく。『目元の鋭い仕事の出来そうな美人』と専らの評判の彼女は、いつも気だるげである。

 サイズが合っていなかったが、着れないこともないので無理やり着ていると噂のピチピチのリクルートスーツが苦しそうな胸元を演出し、こののんびりとした運動の度小さく揺れている。男子の視線がこれでもかというほど集まり、女子の視線がこれでもかというほど冷め切る瞬間であった。

「男子ってのはよくわかんないわー……」

「とか何とか言って、ただ嫉妬してるだけなんじゃない? 水那月君も率先して見てる……どころか撮ってるみたいだし?」

「本日の乳揺れ三十円ー! ほら買った買ったァ!!」

 窓際付近にて阿呆が馬鹿な商売をしている。稀里椰の姿が見えないほどの人だかりから察するに、相当儲けているのだろうなあ、と想像して嘆息する。

「このクラスにはアホしかいないのか……」

「他クラスからも来てるみたいよ?」

「……この学校にはアホしかいないのね」

「揺れる乳がないから嫉妬してるのかしらあ?」

「あるわ! あそこまで揺れはしないけどそこそこ!」

 二人が睨み合ってる間に商売は終わったようで、稀里椰がぴょんぴょんと明るい足取りで駆けてきた。

「いやー今日も大儲けだった! 鈴葉さん部活行こうぜ!」

「……アンタって人間の屑よね」

「褒め言葉をありがとう!」

 マゾヒストなのか感覚が常人よりも半回転ほどズレているのか、罵倒の言葉と引き気味の表情に笑顔を返した稀里椰。「お二人さん楽しんできてね」と無名坂は嫌味に手を振るのだった。

「……楽しんできてね、なんて言われてもただ部活行くだけなんだけどね」

「んー、まあ楽しいもんだしいいんじゃない? よっと……!」

 部室に到着。立て付けが悪いため、多少のコツとチカラを使って扉を開く。先に来ていた来芽が、黒猫を撫でながら、「お疲れ」と声を掛けた。

「おー、ありがと……っていうか来芽、お前また六時間目サボったでしょ?」

「サボってない。多少体調が悪かっただけだ」

「どんな風に?」

「体がモフモフを求める」

「闘争みたいに言うな!」

 二人の会話に思わず、鈴葉のツッコミが入った。男子二人がボケ倒すため、自然とツッコミスキルが身についている。

「っていうかその子昨日の子? 何処かの家の飼い猫かもしれないし、勝手に連れてきちゃいけないんじゃない? そもそも学校にペットを持ち込んじゃダメでしょ」

「ペットじゃない、友達だ。しかも本人の許可もとってある」

「本人って……飼い主さんのこと? やっぱり何処かの飼い猫だったの?」

「いいや、違う」

「じゃあ本人って誰よ?」

 そー……っと、稀理椰はさりげなく、猫の背後へと手を伸ばす。

「本人というか本神というべきか本猫とするべきか……」

「イマイチ要領を得ないわ……一体何の話をしてるの?」

「だから、この子の話だ」

 手が触れるか触れないかというところで、素早く振り返った猫は伸ばされた稀理椰の右手を引っ掻いた。

「いぎゃああああ!?」

『いきなり淑女(レディ)に触れにかかるなんて礼儀がなってないにゃあ。っていうかおみゃえみたいのがニャー様を触るなんて数千年早いのだ』

 饒舌で舌っ足らずに、可愛らしい声が聞こえてくる。無論この場にいる三人の声でもなければ外から聞こえてくるものでもない。口をパクパクと動かす猫に、稀理椰と鈴葉は震えながら距離を置いた。

「ま……ままま、まさか……喋ったァ!?」

「い、いや……! 来芽の腹話術かもしれないでしょ!」

「ああ! 確かに、来芽って腹話術上手そうな顔してるもんな!」

『どういう顔だにゃ』

「来芽、いつから花澤さんみたいな美少女ボイス出せるようになったの!? すっげー、僕にもやり方教えてくれよ!」

『別に腹話術じゃ、にゃい!』

「ぎゃあああ!?」

 黒猫の鋭い爪が、稀理椰の頬に三本傷を刻んだ。稀理椰は飛び上がって、床の上をゴロゴロ転がり回る。

「アレルギー&シンプルに痛くてしんどい〜! それに、男の子の顔に傷をつけるなんて……! せ、責任取ってよね!」

『絶対嫌だにゃ』

「そっかあ」

 素直に跳ね起きて、ポケットから取り出した絆創膏を、稀理椰は頬に貼った。無駄に女子力が高い。

「で、貴方は一体何なの?」

『よくぞ聞いたにゃ、娘っ子!』

 黒猫はトコトコ歩き、机を登り、机上で飛び跳ねくるりと一回転。すると不思議なことに、猫の姿は消えてなくなり、かわりに小学生くらいと思しき、褐色肌の少女が出現した。

「ニャー様こそエジプト神話が誇りし一神、女神バステトにゃ!!」

「「えええええええええええ!?!?」」

 稀理椰と鈴葉の声がシンクロする。「驚きすぎだろう」

 と、それを喧しげに見つめる来芽が言う。

「いやいや驚くでしょこんなの!! だって今の変化だってどう考えても手品とかマジックとかそんなチャチなもんじゃ断じてないし、この子からは確かに女神の『凄み』みたいなものが伝わってくるぜ……ッ!」

「えっへん、にゃ」

「あ、なんか今消えた気がする」

「にゃんだとおおおおお!」

「ふにゃあああああああ!?」

 少女──バステトに引っ掻かれる稀理椰を傍目に、鈴葉は来芽に問うた。

「あの子がバステトってことは……昨日のアレは夢じゃなかったってこと? 本当に私たち、神様の代理なんてものに選ばれたの?」

「そういうことだろうな」

 稀理椰を倒して満足したようで、バステトが来芽に擦り寄る。彼女を撫でながら、来芽は話を進めた。

「昨日お前らが帰ったあと、バステトが急にこの姿になってな。それで俺を代理に選んだことを告げてきた」

「そうみゃ」

 殊勝な顔で頷くバステト。猫のような大きくぱっちりとした目に、ピクピク動く猫耳。髪は黒髪ショートで、格好はノースリーブのシャツに緩めの半ズボンだけという、共に街中を歩けば一緒にいる者が間違いなく補導されそうな雰囲気の女神である。

「マジか、女神いたのか……! じゃあ今朝のアレもスパムメールとかじゃなかったんだな、やらかした!」

「アレって何よ?」

「女神からPOINTのメッセージが届いたんだよ」

「そんな現代的な女神いるはずないでしょうが。出会い系のスパムとかじゃないの?」

「んー、まあ言われてみるとたしかに」

 呆れたような声の鈴葉に、稀理椰は複雑そうに頷いた。

「ちなみに、バステトちゃ……様は、なんで来芽を代理に?」

「またまたよくぞ聞いたにゃ、娘っ子」

「くじ引きかなにかでしょ、知ってる!」

「そんな適当な理由でにゃー様は代理を選ばにゃい。らいがを選んだのは、純粋にいけめんだったからにゃ!」

「へー、そっかそっか。イケメンだったからか……はあ?」

「て、適当ね……」

「別に優秀な人間を選ぶ必要はにゃいからにゃー、結局大事にゃのは相性にゃ」

「イケメンであることがまさか神に選ばれるところまで関わってくるって……ホントなんなのお前……?」

 知らん、とぶっきらぼうに呟いて来芽はバステトを撫で続ける。この姿でそれをやると、ただのロリコン犯罪者なので、稀理椰はその姿を撮影して学校中にバラ撒こうかと画策したが、心の清らかな一般人には無邪気な少女と戯れる心優しいイケメンにしか見えないと気づいてしまったので、すんでのところでやめた。

「あ、ちなみに神はカメラには映らないから、写真とか撮ろうとしても意味にゃいにゃ」

「にゃんですと!? くっそー、それじゃあ盗撮できないじゃないか……!」

「そもそも盗撮を試みるな」

 鈴葉の至極現実的なツッコミに、「だって美少女でコスプレで褐色でロリだよ……? そんなの撮り得だし売れるに決まってるじゃん……」と最低極まりないことをぼやく稀理椰だった。

「バステト様、ちょっと聞きたいんだけどいい?」

「気分がいいから答えてやるにゃ、娘っ子」

「私たち、まだ全然具体的なことを聞かされてないんだけど……結局代理戦争ってどういうものなの? そもそも私、まだ神様にお会いしてないんだけど! あ、あと私たちがチームを組むって認識でいいの? 代理になるのを断ったら何かデメリットあるの? 逆に代理になるメリットって?」

「質問が多くてめんどくさいにゃ……」

 バステトは露骨に嫌そうな顔をしたが、ゆっくりと質問に答え始めた。

「代理戦争は代理戦争にゃ。ニャー様たちだって初めての試みだし、一体どんなものになるかはまだ全然わからないにゃー。ただ、人間そのままだと見世物として地味にゃ上に力の差が大っきくにゃるから、神がそれぞれ権能や異能力、力そのものなんかをぶち込んで強化するみたいにゃ」

「うーん、事実だけどめっちゃ煽るようなこというね君ね!」

 稀理椰を無視してバステトは続けた。

「娘っ子の神が姿を現してないのはニャー様の管轄外にゃ。そのうち来ると思うからのんびり待つにゃ」

「あ、鈴葉を代理に選ぶってことはアレじゃない? もしかして鈴葉んちの神社の神様じゃない?」

「それはあるかもしれないな」

「確かにそうね。うちの主神は……えっと、天照様だったかな」

「うろ覚えの時点で代理に選んでくれるか怪しい気がするんだけれども」

 稀理椰の鋭い指摘に鈴葉は顔を顰めた。「信心深いから来るの」と、先程実家の祀る主神の名前を失念していた女とは思えない発言をした。

「おまえらがチームを組むかどうかはおまえら次第にゃ。別に組まなくてもいいし、組んでもいいにゃ。ただ、一匹狼で行くよりは雑魚でも一緒にいるほうがマシにゃ。だからみゃあ、どうしてもっていうなら組んでやってもいいにゃ?」

「ねえ鈴葉さん、僕たち今もしかして誘われてんの? 

 それとも煽られてんの?」

「多分どっちもね」

「喜ぶにゃ、来芽がそれを望んでるからニャー様も仕方なく寛大な心でおみゃーらを受け入れてやるにゃ」

「え、来芽が望んでんの? 僕らとチームを組むことを? なんだお前、可愛い奴だなぁ!」

「すまん、やっぱり鈴葉だけでいいかもしれん」

「何でさ!?」

「賑やかにゃ奴等だにゃあ」

 ずずず、といつの間にか注いでいたお茶を啜り、バステトは幸せそうな顔をして、幸せそうに溜息を吐いた。

「日本茶、うまいにゃあ……」

「君ほんとにエジプト神?」

「あとは代理になるメリットだったかにゃ。神と近づけるチャンスにゃんだから、当然気に入られれば幸運だとか加護だとかメリットだらけにゃ。デメリットとしては、気に入られにゃければ天罰だとか不運だとか散々ってことにゃ」

「えぐっ、ソシャゲの低確率ガチャくらいえぐっ! 代理になるのやめよっかな!」

「あと代理戦争で優勝すれば、優勝チームは一つずつ願いを叶えてもらえるにゃ」

「やっぱり代理戦争参戦します」

 現金な奴だにゃ、といってバステトは稀理椰を一瞥した。いやぁそれほどでも、と稀理椰は照れくさそうに笑う。

「そういえば神様って、普段どんな活動をしているの?」

 やけにフランクな神を見て、鈴葉は興味深そうに聞いた。その質問はもっともである。実在しているというのなら、神が普段何をして過ごしているのか、というのは誰しもが思い浮かべる疑問だろう。稀理椰は内心、微妙に聞きづらいことを聞いてくれた鈴葉に、ほんの少し感謝した。

「そんなのそれぞれバラバラだから答えづらいにゃ」

「じゃあバステト様は、普段何してるんですか?」

「天上から下界を見下ろして、人間を見守ってるにゃ」

「僕みたいな男の娘を?」

「違うにゃ!」

「来芽みたいなイケメンを?」

「そうにゃ!」

「くっそまたこれだ……! 顔がいいってだけで先天的にアドバンテージが得られるこんな世界、間違ってやがる……!」

「あんたのその、えげつないまでにイケメンを敵視する思想が間違ってると思うわ」

 呆れたように鈴葉が呟く。そんな二人には気も留めず、バステトはマイペースに「おかわりにゃ!」とカップを来芽に差し出した。インスタントコーヒーを淹れながら、来芽が言う。

 

「さて、そろそろ今日の活動を始めるか」

 

「え、この流れで部活やるの!?」

 

「流石に今日くらいは、私も休んでいいと思うわ……なんか、色々疲れたし」

 

「そうだよそうだよ! 今更文芸部なんて酔狂な活動に勤しんでる暇はないね! これはもう、神様たちの代理として戦争を勝ち残るべく、この活動中に体を鍛えるしかないね! もっと腕にダンベル持つとかさ!」

 

 ダンベル(1kg)を両手に、稀理椰は必死の形相で筋トレを始めた。十秒ほどしてダンベルを置いた。

 

「ふう。また少し、着実に力をつけてしまった……!」

 

「元がひ弱すぎて大して変わってないわよ」

 

「だがまあ、鍛えるというのはいい案かもしれないな。強化してもらえるとしても、元から強いに越したことはないだろ」

 

「まあ精々頑張るにゃ。ニャー様は話しすぎて疲れたから、ちょっと寝てるにゃ。起こしたら殺すにゃ」

 

「代償が重すぎるでしょ!?」

 

 バステトは黒猫の姿に戻り、備え付けの座布団の上ですやすやと眠り始めた。

 

「神様ってマイペースだなぁ……」

 

「案外そんなものだろ、何処の神話見ても」

 

「色々気になって作業が手につかない気がするけど……とりあえず、活動しますか」

 

「えー、今日はもう帰ろうぜ? バステトちゃん見てたら僕も眠くなってきた」

 

「何でコイツが部長やってるんだろう……」と、二人の思考がシンクロした。

 

 *

 

 夜。草木も眠る丑三つ時。推しカップリングのためにネットの荒波をさまよい続けていた鈴葉は、ベッドでうつらうつらと、眠りの世界に誘われかけていた。普段ならもう少しあさり続けるところだが、今日に限っては疲れていたし、たまにはそういう日もあっていいだろう、と床についていた。

 

『……い』

 

 神のことを考えて、代理戦争のことを考えて、神社の主神のことを考えたところで、ゆっくりと瞼を閉じていく。色々あったけど、面倒なことは明日の授業中にでも考えよう。

 

『……おい』

 

 それにしても、先祖代々祀ってきた神が、一体どんな姿でどんな神なのか。実際に会えるというのは、少し緊張するか中々楽しみだわ。

 

『……おい、聞いているのか!』

 

 天照といえば日本神話の主神であり、昨今では様々なゲームでもその名を轟かせる有名な女神、らしい(さっき調べた)。きっととてつもなくお淑やかな美人だろう……

 

『聞こえないのか、そこな貧乳の小娘よ!!』

 

「誰が貧乳だコラァ!!!!」

 

 不名誉な特徴付きで呼ばれたことに、思春期の少女はブチ切れながら飛び起きた。何故だ、何故みんなそういう目で私を見る。豊かとは言えないけど、人並みにはあるはずだぞ。枕元のスイッチを押して、部屋の明かりを点けた。

 

『ふん、聞こえているのならさっさとせぬか』

 

「それは悪うございましたね、こっちだって疲れてるのよ……!」

 

 眩さに目を擦って、見慣れた部屋を見渡す。部屋の中心、来客用の小さなテーブルの上。そこに小さな黒い毛並みの狼が、ちょこんと座っていた。

 

『喜べ巫女の小娘よ、不本意ながら、そなたを我が代理に選定した』

 

「それはどうも。で、あなたは誰? 天照様?」

 

『違う』

 

「は??」

 

 予想と違ったことで、鈴葉はもう一段階機嫌を悪化させた。神に対する敬意なんてさらさらない。そもそも気持ちよく寝ようとしていたところをたたき起こされたのだから、不機嫌である。流石の神も、その剣幕に少し押された。

 

『お、落ち着け。確かに時間を考えず、今顔を出したのは悪かったと思う。以後気を付ける』

 

「そんなのはもうどうでもいいから、さっさとあなたが何処のどんな神なのか教えなさい。それ聞いたらすぐ寝る。起こしたら殺す」

 

『わかっ……え、殺すって言ったか今!? 神に向かって!? 無礼にも程があるだろ!? 天罰とか恐れろよ!』

 

「五月蠅い、早くして」

 

『はい……』

 

 渋々、狼は自分の名前を語る。それを聞いて鈴葉は、「ふーん」と呟いて寝た。

 

 *

 

 放課後。教室。稀理椰は、いつものように鈴葉を誘いに行く。

 

「よっし鈴葉さん、さっさと部活行こうぜ!!」

 

「……あんた、部活が嫌いって割には楽しそうに部活行くよね」

 

「嫌なことは先に済ませるタイプだからさ、夏休みの宿題とか! ところで鈴葉さん、テンション低いね? 寝不足? どうせ夜更かしでしょ、お肌に悪いよ?」

 

 稀理椰はやけに人の変化に鋭い。「ほっといて」とだけ返して、部室に向かう。

 

「そういえば、鈴葉さん神からのコンタクトあった?」

 

「あったわよ、昨日の深夜だけど」

 

「あー、納得」

 

 部室に到着。ガラガラと扉を開けると、既に来芽とバステトがお茶を飲んでいた。

 

「来芽くんおっすおっす、僕の分もお茶淹れてくんね?」

 

「ニャー様の来芽を使おうとするにゃ、自分でやればいいにゃ」

 

「既に用意してあるぞ」

 

「ひゅー、流石イケメン! 大好き!」

 

「イケメンが嫌いなのか好きなのか、どちらかにしなさいよ」

 

 眠そうに目を擦りながら、鈴葉は不機嫌そうに言った。

 

「わかってないなあ、そういう相反した感情を同時に混在させられるのが人間じゃないか……! 嫉妬と羨望は紙一重!」

 

「何気にいいこと言ってるな」

 

 えへん、と胸を張り、稀理椰は定位置に座ってお茶を飲む。ぬるい。

 

「ぬるっ」

 

「来るのが遅いのが悪いんだから、文句を言われる筋合いはないぞ」

 

「いや、ぬるいの大好きだから丁度いいぬるさで感動してる。ナイス来芽くん」

 

 稀理椰は満足そうにサムズアップした。鈴葉も定位置に座り、置いてあった湯呑を手に取る。後から淹れられたのか、まだ湯気もたつほど温かかった。

 

「はあ、美味しい……癒されるわ」

 

「そうだ鈴葉、神に会ったんでしょ? どんな感じだったか聞いていい?」

 

「あー……」

 

 こめかみを押さえ、辛そうに目を瞑る鈴葉。その時、廊下からペタペタと可愛らしい足音が近づいてきた。

 

「む、神の気配にゃ」

 

「ってことは鈴葉の……?」

 

『ふはははは!! ひれ伏すがいい人間ども!!』

 

 高笑いとともに部屋に入ってきたのは黒い毛並みの狼。高らかにそう宣言した後、鈴葉の目の前の机に上って、座った。

 

「何、もしかして神様には机の上に座らなきゃいけないルールでもあるの?」

 

「違うにゃ、そいつがニャー様をパクってるだけだにゃ」

 

『違う! 神としての威厳を示すべく、高いところに上っただけだぁ!!』

 

「馬鹿と煙は何とやら……ぷぷぷ」

 

『聞こえてるぞ小僧!! 無礼な奴め!!』

 

「痛!?!? 噛まないでぇ!?」

 

「で、鈴葉。この神様は誰なんだ?」

 

「コイツはね……」

 

『よくぞ聞いた、そこな少年!』

 

 稀理椰から離れた狼は、机の角を蹴って飛び上がり、くるくると回転しながら発光した。眩さに思わず目を瞑ると、狼の姿は消え、代わりに長身の男の姿があった。

 

「神って……みんな同じような演出するんだなぁ……」

 

「よく聞け人の子よ! この我こそスサノオノミコト、日本神話の一神である! あがめよ!」

 

「そうか」

 

「へー」

 

「にゃるほどにゃ」

 

「もう少し静かにしてくれる!? 私、あんたのせいで寝不足なんだからね!?」

 

「え、我への敬意ゼロ? もうちょっと驚いてもよくない?」

 

「登場に驚くのは昨日もうやってるから、薄めでいいかなぁ、って」

 

「やっぱりニャー様と被ってるにゃ……光か煙か程度の違いにゃ」

 

「別にバリエーションを求める必要もないと思うが」

 

「いやいや来芽、神様なんだから派手な演出あったほうがカッコいいでしょ。それっぽいし」

 

「そもそも神様って、祭りだとか派手なことが好きな場合が多いからね」

 

「そういうものなのか」

 

「そういうものなのだ!」

 

 スサノオは満足そうに頷く。その肌は筋骨隆々、身長はゆうに二メートルを超える。長く伸びた後ろ髪を数珠のようなもので結び、体躯ほどもある巨大な剣を携えて笑っている。文芸部の部室はそこまで大きくないので、でかくて邪魔だな、と誰もが思った。

 

「スサノオノミコト、っていうとアレだよね」

 

「おお、我のことを知っているか坊主! 見上げた心意気よ!」

 

「高天原で暴れて、お姉ちゃんであるアマテラスに引きこもられて、高天原を追放されたヤンキーみたいな神」

 

「誰がヤンキーじゃコラ! あれは若気の至りじゃ!」

 

「尚更ヤンキーっぽいぞ」

 

 来芽の指摘に一同が頷く。

 

「え、っていうかヤンキーって言葉は神様にも伝わるんだね」

 

「そりゃ、天界は暇すぎてサブカルとか観まくってるからな。現代語はモーマンタイよ」

 

「にゃーも萌えアニメの影響でキャラ付けしてるにゃ」

 

「最悪の逆輸入かも」

 

 夢が壊れる、と稀里椰は頭を抱えた。神様がキャラ付けとか言うな。

 

「そういえば稀里椰の神様は結局どうなったんだ?」

 

「ああ。POINT来てたから『代理になります! よろしくお願いします!』って言っといた。まだ顔見てないし何も詳細知らんけどね!」

 

「ええ……?」

 

 緩すぎるやり取りに、鈴葉は困惑した。「まあでもコイツならしょうがないか」という認識でひとまず納得した。

 

「フン、その様子じゃ坊主の神は大したことなさそうだな。有名な神であるならば姿を見せて然るべき故なあ!」

 

「なんですとお!? 聞き捨てならねえ〜〜〜!」

 

 スサノオからの煽りに、稀里椰は拳を握りしめ、憤慨した様子で立ち上がった。

 

「この僕を代理にするようなセンスのある神様なんだから、なんかいい感じに決まってるでしょ! 馬鹿にしないでよね!!」

 

「アンタが選ばれたのってくじ引きでしょうが」

 

「僕を引き当てるんだからその時点でセンスあるでしょ、ソシャゲで言えばSSRだぜ?」

 

「レアリティ詐欺もたくさんある世の中だけどにゃあ」

 

「ハズレアって言うな!!!」

 

「ふむ……なら一丁、やるか?」

 

 ニヤリと笑うスサノオ。それを見て察したバステトが「にゃるほど。丁度いいにゃ」と頷いた。

 

「何の話だ?」

 

「こういうことじゃ!」

 

 スサノオが指を鳴らす。すると部室の壁紙が、端から折り畳まれ、裏返っていくように白いタイルへと変わっていく。それは三人の立つ床部分まで侵食していき、慌てて右往左往しているうちに辺りは真っ白い──ちょうど先日『天使』と会ったのと同じような空間になった。

 

「な……ナニコレ!?」

 

「ふ、やり合うならそれなりの空間が必要故な──いや、にしても殺風景すぎるか」

 

 空間の外装が切り替わっていく。完全な白から、青空、生い茂る緑の森、切り立った崖、草原──奥行きを含め、どう考えてもどこかの山の一角にしか見えなかった。

 

「うむ、この程度は神の標準的な権能だな」

 

神象風景(テクスチャ)張っただけだからにゃあ」

 

 ──つまるところ、ある種の結界。神のお膝元の空間を顕現したようなものである。

 故にスサノオが使えば日本の原風景が現れるし、バステトが使えば砂漠のそれになる。

 

「空間自体を上書きしてるから、外の世界には何ら影響がない。ここならお誂え向きじゃあ!」

 

 スサノオが、いつの間にか手にしていた大剣を振り上げて息巻く。

 

「ちょ、ちょっとまった! 暴力反対といいますか僕が悪かったといいますか謝るから許してほしいといいます──」

 

「よし、ではやってやれ──鈴葉!」

 

「え、なんで私!?」

 

「本来なら我も直々に坊主を叩きのめしたいところだが、あいにく代理戦争なのでな……ここは渋々委ねる!」

 

「はああ!?」

 

「なんだ鈴葉さんが相手か。よし、さっさとやろうぜ!」

 

「あんた、相手で態度変えすぎじゃない!?」

 

「スサノオ……吠え面かくなよ!」

 

 自分の隣にいる男に宣戦布告する稀里椰を見て、鈴葉の沸点は急激に下がった。

 

「ふうん……私ごとき、まるで眼中にないってこと?」

 

「当然じゃん」

 

「スサノオ! いますぐ何かすっごい力寄越して! このバカボコボコにするから!!」

 

「お、おう」

 

 スサノオは鈴葉の剣幕に、いつの時代も女は怖いのう、と少し恐怖しながら思った。

 

 

 

 

 

 

 

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