『・・・それで、結局どうします?』
現在、ウォールナットが乗る車に気付かれない程度の距離を保ってカゲロウが尾行している中、切矢はため息交じりに今後の方針を尋ねた。
「・・・とりあえず、どっちが何をしても今は放置だ。どのみち、ロボ太側も人通りが多い場所での交戦は避けるだろう。ロボ太側の考えられる手としては、車をハッキングして海に落とすか人気のないところに移動させるか、ってところだ」
『海に落とすとなると、こちらから手を出さないとウォールナットは厳しくないですか?車に乗せられる程度の機材では、万全の状態でハッキングするだろうロボ太に対抗できないと思いますが』
「それでも、中継地点になるルーターは必要になるはずだ。この場合、ドローンがその役目を担う可能性が高い。井ノ上の射撃技術なら、よほど揺れてない限りは打ち落とせるはずだ」
『そうですか?・・・いえ、篠原さんの尾行の件とルーターの有効距離を考えれば、可能性はありますか』
切矢はその場にいなかったためピンと来ないが、カゲロウはたきなが後方遠距離を飛行していたドローンを一発で撃ち落としたところを目撃している。
おそらく射撃の精度に限ればたきなはファースト・リコリスにも引けを取らないだろう。その評価を踏まえて、カゲロウはたきなであればドローンを撃ち落とせると踏んでいた。
「俺たちがちょっかいを出すとしたら、錦木たちが車を放棄してから武装集団と戦闘し始めたタイミングだ。それまではこのまま・・・」
『隊長。ドローンが対象に接近しています。おそらくはロボ太のものかと』
「おっ、さっそくか。この感じだと高速に向かいそうだが、その前にドローンが追い付くか。近くには・・・」
αからの報告を聞いて、カゲロウは端末の地図を操作して付近の情報からウォールナット側とロボ太側双方の狙いを割り出し、自分たちが採るべき行動を組み立てていく。
そして、10秒ほどでポイントを絞り込んだ。
「ロボ太側の狙いは車を海へ落とすこと。対象が車から徒歩に移行したと仮定して、近くにあるスーパーの廃墟で武装集団と衝突する可能性が高い。俺と櫻木はそこに先回りする。各隊は監視を続行。αは対象の状況をリアルタイムで教えろ。β、γ、Δは引き続き監視と警戒を続行。ただし、異変があった場合はすぐに知らせろ」
『『『『了解』』』』
「櫻木、近くの狙撃ポイントをいくつかマークしたが、詳しくは割り出せなかった。できるだけ広範囲を援護できるポイントをそっちで探してくれ」
『こちらですでに把握しています。すぐさまそこに向かいます』
「わかった。俺はこのままポイントに向かう。あとは頼んだぞ」
『はい』
そう言って、カゲロウは方向を変えて廃墟へと急行していった。
その道中で、αからウォールナットを乗せた車が海に向かって暴走したものの、予想通りたきながルーターの役割を担っていたドローンを撃ち落としたことでギリギリのタイミングで制御を取り戻し、落ちる一歩手前で停止したことを報告された。
そして、ウォールナットたちが車を放棄し武装集団から襲撃を受け始めたタイミングでカゲロウは目的の廃墟へとたどり着いた。
「俺は目的のポイントに到着した。櫻木は?」
『自分も狙撃ポイントに着きました。ここからだと赤城さんは見えませんね。ですが、窓越しにそれなりに広い空間があります。売り場だったのか空の陳列棚も多数ありますし、銃撃戦が起こるとしたらそこでしょう。それと、ドローンも一台、廃墟に近づいているのを確認しました。撃ち落としますか?』
「いや、まだいい。今は
『了解です』
カゲロウは切矢と方針を確認し合いながら、手っ取り早く廃墟の中を探索していく。
人の気配は完全にないが、廃墟になったのは最近なのか多少汚れている程度で老朽化している部分は少なく、切矢からの報告通り陳列棚などといった道具類はそのまま残っていた。
「なるほど、ドンパチには持ってこいだな」
『隊長、対象がポイントに到着しました』
「思ったより早いな」
『武装集団に追い立てられたようです。その武装集団も近くまで接近しています』
「わかった。それなら予定通り・・・」
「赤城、くん?なんでここにいんの!?」
「・・・悪い、見つかった」
『そのようですね』
隠密行動をとっていたわけではないとはいえ、千束たちが廃墟に着いてから見つかるまでの時間があまりにも早すぎた。
こんなことなら、廃墟のマップと千束たちの侵入方向くらいは把握しておけばよかったと反省するが、今となってはもう遅い。
さらに、完全武装で通信をしていたため、下手に誤魔化すこともできないだろう。
そのため、正直に目的を告げることにした。
「なんでって言われてもな、そこのリスに用があっただけだ」
「まさか、赤城さんもウォールナットを殺しに!」
「いや違う。俺たちの目的は誘拐だ。例の銃取引について協力してもらおうかと思ったんだが、伝手がなくて依頼を出せなかったんだよ。だが、殺害依頼を出されたって情報はこっちで掴んだから、横から掻っ攫うつもりで来たんだ。まさかお前らが護衛してたとは思わなかったが」
「え~?だったらなんで相談してくんなかったのさ~」
「護衛依頼受けてる奴が言うことじゃ、ねぇよ」
そう言いながら、カゲロウは視線を向けずにスマイソンを抜いて発砲した。
「ちっ、こっちにいたぞ!赤服の男が新手でいる!」
その先では、アサルトライフルと防弾チョッキで武装した4人の男が建物に入ってきたところだった。
それを見た千束たちもすぐさま遮蔽物の影に隠れる。
「話は後だ。ひとまずはお前らの仕事を手伝ってやる」
「ありがと!そういえば、櫻木さんは?」
「今回は狙撃を任せてる。そういうわけだから、うっかり殺すなよ」
『しれっと面倒な注文をしますね・・・』
流れるように難易度の高い要望を押し付けられた櫻木は、ため息をこぼしながらも深呼吸をして意識を研ぎ澄ませた。
狙うは人ではなく銃。
放たれた一発目の弾丸はストックを撃ち抜き、銃としての機能を半減させた。
「くそっ、狙撃だ!」
「いったいどこから・・・おわっ!?」
襲撃者たちはすぐさま物陰に隠れたが、モールに存在する遮蔽物では全身だけならどうにかできても銃まですべてカバーするのは難しい。
それを狙った2発目の弾丸は、今度はバレルを正確に撃ち抜いて銃口をひしゃげさせた。
武器を失ってしまった2人の襲撃者は、やむなくその場から撤退した。
さも当然のように行われた神業にたきなは愕然とし、千束とカゲロウは称賛の口笛を吹いた。
「おっほ、やるぅ」
「お見事」
『どうも。ですが、これ以上はここからだと難しいですね』
「ドローンは撃ち落とせないか?」
『射線から外れました。位置がバレた可能性が高いですね。どうせなのでこのまま何人かひきつけます』
「わかった。後はこっちでどうにかする。そっちも無理しない程度にな」
『了解です』
狙撃ポイントから離脱する切矢を送りながら、カゲロウは応急処置用の包帯とガーゼを銃口に巻き付けながら千束に話しかけた。
「そんじゃ、俺と錦木で前に出るってことでいいな」
「おっけー。たきなはウォールナットを連れて脱出してね」
「分かりました。ですが、その包帯は・・・」
「そんじゃ、先に俺が出るから合わせてくれ」
「はいはーい」
包帯とガーゼを巻き終えたカゲロウは、遮蔽物の隙間を縫うように一気に前へと走り出した。
「よい、しょっと!」
一拍遅れて千束は陳列棚を駆け上って襲撃者たちの頭上をとった。
「おい、上だ!」
襲撃者が気づいた時には遅く、千束は飛び上がった姿勢のまま発砲した。
放たれた非殺傷弾は襲撃者の一人の太ももと胴体に当たった。
アーマー越しだったことからダメージは然程多くなかったが、それでもひるませるには十分だ。
そして、数瞬の隙さえあれば、カゲロウは容赦なく喰らいにいく。
「くそっ、もう一人・・・!」
「遅い」
一気にゼロ距離まで肉薄したカゲロウは、至近距離から容赦なく顎を蹴り上げて胴体に2発撃ち込んだ。
通常よりもくぐもった銃声を響かせながら、放たれた弾丸は2発ともアーマーを貫くことができずに襲撃者を弾き飛ばすにとどめた。
拳銃とはいえ千束やたきなのものと口径が大きいコルトパイソンのバレルでは、アーマーを貫通して殺害してしまう恐れがあった。
そのため、カゲロウは銃口に包帯を巻きつけることで威力を低減させ、さらにアーマーの上から撃ち込むことで疑似的に非殺傷弾を再現したのだ。(それでも衝撃は貫通するため、骨や内臓にダメージを負った可能性は高いが)
「この野郎!」
「おっと」
完全に地面に倒れたことで誤射の可能性は低いと判断したのか、もう1人の襲撃者が至近距離からアサルトライフルの銃口を下に向けないようにしながら乱射したが、カゲロウは即座に体を地面すれすれまでのけ反らせたことで回避し、その姿勢のまま立て続けに発砲した。
「ぐあっ!」
「あ、やべっ」
だが、少々無茶な体勢で無理やり発砲したこととアーマーだけでなくアサルトライフルを狙ったことが災いし、4発放ったうち1発の弾丸が腕を貫いてしまった。
包帯とガーゼによる威力減衰のおかげで肉ごと吹き飛ぶようなことにはならなかったが、それでも重傷であることに変わりはない。
「くっ・・・!」
襲撃者はこれ以上の戦闘は厳しいと判断したのか、踵を返して奥へと走っていった。
その背中を、カゲロウは僅かに迷った後に見逃すことにした。
あれだけの深手であれば、まともに銃を撃つことはできないだろう。
攻撃が止んだことで、ひとまずの余裕ができたカゲロウは通信から現状を把握することにした。
「櫻木、そっちはどうだ」
『追手はありません。ドローンが自分ではなくウォールナットに集中しているようで、狙撃位置はバレなかったようです。もうすぐ次のポイントに到着します』
「わかった、そのまま援護を続けてくれ。αとβ、現状報告」
『こちらα。対象は井ノ上たきなと共に行動しています。それと、錦木千束がアサルトライフルの射撃を避けてるんですけど、あれ本当に人間業ですか?』
「錦木ならできる。βは?」
『αからの報告をもとにウォールナットの逃走経路先を確認しました。外に人影は見えませんが、付近の建物に潜伏している可能性もあります』
「ならそのまま手出しするな。お前たちの存在を気取られないようにしろ」
『了解です』
「γとΔ、何か変化はあったか?」
『こちらγ。特に変化はありません』
『Δも同じく。DAが動き出す気配すらありません』
「そうか。γとΔは現状を維持。引き続き異変が起こり次第報告しろ」
『『了解』』
手っ取り早く指示を出しながら、カゲロウは待ち伏せに気を配りながらいつの間にか移動していた千束たちの後を追った。
おびただしい数の銃痕が残ってる廊下に出ると、そこでは千束がカゲロウが撃ちぬいた男の腕の応急処置をしているところだった。
「ふむ、どうやら無事だったようだな」
「あっ、これやったの赤城君でしょ。何やってんの~?」
「ちょっとばかし無茶な体勢で撃ったから、狙いが逸れちまったんだよ」
「あれがちょっと・・・?」
なんてことのないように言ったカゲロウだったが、プロのリンボーダンスでもそうそう見ないようなのけ反りを「ちょっと」と言い切ったカゲロウに信じられないような視線を向けた。(サングラスをかけているため本人には見えなかったが)
「それで、もう1人の方はちゃんと生きてるんだよね?」
「あぁ。骨にひびが入ってるかもしれんが、まぁ死んではいねぇよ」
「本当か!?」
「一応な」
「あと、さっき私が撃った人も大丈夫」
「なにっ?・・・ゴム弾か」
千束が撃った周囲に散らばっている赤い粉末を見て、襲撃者は千束が使った弾が非殺傷弾だったことを悟って肩から力が抜ける。
そして、負傷した腕の治療をしている千束の手を振り払った。
「もういい。行けよ、早く」
「・・・わかった。鉄分摂れよ」
千束も最低限の止血は済ませて後は自分や仲間でも治療できると判断して、キットをしまってたきなたちの後を追おうとした。
「そっちはやめろ!・・・うちのハッカーのドローンが見ている。待ち伏せしているぞ」
だが、襲撃者が呼び止め、敵であったはずの千束に仲間の配置の情報を言った。
その内心は定かではないが、襲撃者が待ち伏せをしていると言う場所は決めていた脱出ルートであり、たきなとウォールナットは待ち伏せのことを知らない。
千束は急いで脱出経路に向かい、カゲロウもそれに続く。
だが、脱出経路の倉庫にたどり着いたころには、ウォールナットが扉から出ようとしているところだった。
「ちょっと!?」
「たきなっ!出ないで!!」
護衛のたきなを無視して外に出ようとするウォールナットを止めようとするが一歩遅く、外にでたウォールナットは手に持っていたタブレット越しに銃弾で撃ち抜かれた。
ウォールナットはタブレットを落とし、思わずと言ったように視線を下に落として撃ち抜かれた部分に向けようとするが、そこへさらにアサルトライフルによる斉射が容赦なくウォールナットを襲い、10発ほど喰らったところでウォールナットの体は血の海に沈んだ。
「・・・失敗です。護衛対象は死亡しました・・・はい、了解です」
目の前でウォールナットが死んで茫然自失している千束に代わり、たきながミカに作戦の失敗を報告した。
報告を終えると、今度は視線をカゲロウに向けた。
「赤城さん。店長が緊急車両を手配したんですが、店長が一緒にどうか、と」
「・・・そうだな。せっかくだしお言葉に甘えさせてもらう。だが、櫻木はここからだと遠いな。後でリコリコに向かわせる。それでいいな」
『分かりました。リコリコで合流しましょう・・・任務、お疲れさまでした』
「おう。また後でな。αからΔも同様だ。ついでに俺のバイクも回収しておいてくれ。今日はお疲れさん」
『『『『了解』』』』
そう言って、カゲロウは通信を切った。
そして、ウォルフォードを守れなかったことで沈んでいる千束を励まそうとしたが、結局言葉が思い浮かばず、代わりに大きなため息を吐くことになった。
ちょっと武装集団の配置とかが違いますけど、原作よりもちょっと人数が多くて配置に余裕があったとかそんな感じで流しておいてください。
一応、超強力なエアガン(殺傷可能)に布とか挟んで威力を殺すみたいな話がとあるラノベにあったんでそれを参考にしたんですけど、それでもコルトパイソンならワンチャン問題にならなさそうなのがまた・・・デザートイーグルほどじゃないにしても、明らかに人に向けて撃つもんじゃねぇし。
いやでも、1本丸ごと使ってグルグル巻きにすればいけるはず。