Bullets of the Beast   作:リョウ77

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一応こっちでも言っておきますが、バイトが始まったので前より投稿ペースは落ちます。


守れたもの、守れなかったもの

「「・・・・・・」」

 

現在、救急車に偽装した回収車両の中は痛いほどの沈黙に包まれていた。

その原因は、カゲロウたちの前にあるウォールナットの死体だ。

特に千束とたきなは護衛対象を死なせてしまったことで何も言い出せないような状態になっていた。

 

「すみません・・・」

「たきなのせいじゃない」

 

辛うじてたきなが小さく謝罪を口にしたが、千束がすぐにそれを否定したことで再び沈黙してしまった。

カゲロウはその様子を見ながら何も言わなかったが、いよいよ我慢できないといったように口を開いた。

 

「んじゃ、さっさとネタばらししてくんないか?通夜でもあるまいし」

「「え?」」

 

カゲロウの言葉に千束とたきなが目を丸くした次の瞬間、アサルトライフルで滅多撃ちにされて死亡したはずのウォールナットが勢いよく起き上がった。

そして、着ぐるみの頭を両手で勢いよく引っこ抜いた。

 

「ぷっはぁ!あっづ!ビールちょーらい!!」

 

中から現れたのは、顔の知らないハッカーではなく、リコリコの従業員であるミズキだった。

 

「え?え?ええ?」

「落ち着け、千束」

「ええええっ!?先生!?」

 

ミズキの要望に応えるように運転席から缶ビールが投げ渡されたが、運転席に座っていたのはミカだった。

立て続けに知り合いが出てきたことで千束とたきなは混乱の極致になるが、カゲロウは分かっていたかのように軽く肩を竦めただけだった。

 

「カーッ!うんめー!あっ、これ防弾。派手に血が飛び出るのがミソね。まじクッソ重いけど」

「うわっ、飛ばすな!」

 

勢いよくビールをあおりながら、ミズキが着ぐるみの胴体を叩くと撃たれた穴から血のりが飛び出す。

そこでたきなは、カゲロウがウォールナットが死亡してもどこか余裕の表情だったことに気が付いた。

 

「あの、赤城さんは気付いていたんですか?」

「まぁな。むしろ、なんで錦木が気が付かなかったのか不思議なくらいだが・・・まぁ、こいつ割とバカだし抜けてるところあるし、こんなこともあるだろ」

「なにおう!?」

「まず、こんなあからさまな着ぐるみを着ておいて防弾処理をしてないはずがないし、足音や動作だってただの着ぐるみと言うには明らかに重かった。何より、着ぐるみ越しとは言え、アサルトライフルの掃射を受けておきながら貫通弾が1発もないのはどう考えてもおかしいだろ。あとは、噴きだした血からあまり脂の匂いを感じなかったってのもあるか。それに、元々ウォールナットは今まで死亡報告と生存確認を繰り返してたやつだ。こういう仕掛けをしたのも一度や二度じゃないだろう」

「お、おおぅ・・・言われてみれば、車が乗っとられた時も不自然だったような・・・」

 

スラスラと怪しい点を挙げていくカゲロウに、千束も言われてから不自然だった部分に気が付いた。

これはカゲロウたちは知らないことだが、車がハッキングで乗っ取られた時、運転席に座っていたはずのウォールナットが『どうした?』と他人事のように問いかけたことがあった。あの時は緊急事態だったこともあって深く追求できなかったが、今思い返せば実際に運転していたのはミズキで、どこかに隠れていたウォールナットがすぐに事態を把握できなかったからこそのボロだったのだろう。

 

「不殺ばっかで鈍ってんじゃねぇのか?間抜け」

「誰が間抜けだコラァ!」

「そんなことより、それならウォールナットさん本人は?」

「あっ、そうだよ!どこいった!?」

 

きょろきょろと車両の中を見回す千束に、答え合わせをしたのは今回もカゲロウだった。

 

「それなら、隠れるのにちょうどいいもんがあるだろ。やけに頑丈そうで、小柄な人間なら入れそうなサイズのキャリーケースが」

『正解だ。よく気が付いたな』

 

着ぐるみの頭に取り付けられたスピーカーから、音声処理を施された声でカゲロウを称賛したと同時に、パカリとキャリーケースが開いた。

 

『追っ手から逃げ切る一番の手段は、死んだと思わせること。そうすれば、それ以上は捜索されない」

 

中から出てきたのは、ボサボサに伸びた金髪を黒いリボンのついたカチューシャで後ろに回した()()()()だった。その頭にはVRゴーグルが装着されており、周りがよく見えていないのか、少し覚束ない足取りで立ち上がった。

 

「想定外の事態にキチンと対処して、見事だった」

「では、わざと撃たれたんですか?」

「あぁ、彼の・・・そこの運転手のアイデアだ」

「あーあ、最後はハリウッド並の大爆発を用意してたのに、無駄になったかー」

「早く終わってよかったじゃないか」

「っつーか、こっちとしては下手したらこっちまで巻き添え喰らいそうな仕掛けを使われなくてホッとしましたよ。どっから用意したんですか、そんなもん」

「ち、ちょっと待って!」

 

仕事終わりの軽い調子で会話を交わすカゲロウたちに、千束は未だ混乱が覚めないままどうしても気になっていることを尋ねた。

 

「いろいろ聞きたいことあるけど、つまりその、予定通りで、誰も死んでない、って・・・こと?」

「そーゆーこと!」

「んあああーもー良かったー!」

「わぷっ」

 

一番聞きたかったことが聞けて、千束は感極まってウォールナットへと抱きついた。

そんな千束の様子を、たきなとカゲロウは意味ありげに見ていた。

だが、似たような表情であっても考えていることは丸っきり別のことであり、そのことを何となく気づいていたミカは、あえて何も言わず運転のために視線を正面に戻した。

 

 

* * *

 

 

「は~っ、腹減りましたねー」

 

時間は少し遡り、ウォールナットを殺害したと思い込んでいる武装集団は撤収作業を行っていた。

 

「早く飯食いに行きましょーよ。リーダーはどうします?」

「作業が終わったら、家族と夕飯を食べに行くつもりだ」

「あーあ、リーダーは妻子持ちで羨ましいっすねぇ」

「そういうお前たちは?」

「俺らは独り身同士で寂しく酒でも呑んでますよ」

 

依頼を達成して報酬ももらえるということで、完全に緩んだ空気で作業を続ける。

その油断は、どうしようもなく取り返しのつかない事態を招くことになってしまった。

 

「そういえば、リーダーって日本に詳しいんすよね?だったら、おすすめの居酒屋ときゃっ」

 

突然、居酒屋について尋ねようとしていた男の頭が血と脳漿をぶちまけながら弾けた。

 

「なっ・・・」

「がっ!」

「ぎゃあ!?」

 

突然の事態に驚く暇もなく、周囲にいた仲間たちも次々と撃ち抜かれ、血をまき散らしながら倒れていった。

 

「くそっ、まさかさっきの奴らか!?」

「いえ、それは違います」

 

突如、吐息が聞こえそうなほど近くから返答が聞こえた。

 

「ぐあっ!?」

 

慌てて振り向こうとした時にはすでに遅く、四肢を撃ち抜かれて地面へと組み伏せられてしまった。

 

「くそっ!誰か、他に生き残ってる奴は・・・!」

「残念ながら、あなたが最後です。櫻木さん、対象を捕獲しました。はい・・・了解。このまま待機します」

 

襲撃者の顔を見ることすら叶わぬまま、リーダーは淡々と絶望的な事実を突きつけられた。

押さえつけられてから数分後、バイクのエンジン音が近づいてきて、近いところで停止した。

 

「協力、感謝します。尋問は?」

「いえ、まだです」

「では、これから始めましょう」

 

新しく現れた男の声に、リーダーは体を強張らせる。

コツコツとわざとらしく足音を立てながら近づき、リーダーの前で立ち止まってからしゃがみこんだ。

 

「お前は・・・」

「どうも、櫻木と言います。簡単に言えば、あの時の狙撃手です」

「・・・お前たちは、誰も殺さないんじゃなかったのか」

 

リーダーの頭に思い浮かぶのは、先ほどまでの戦闘。

あの時は、たしかにわざわざ高い難易度の狙撃を選択してまで、武装集団を殺さないように立ち回っていた。そのはずなのに、今はためらいなく殺してくる。

この矛盾を尋ねると、切矢は軽くため息をつきながら律義に説明した。

 

「あれは錦木さん・・・あぁ、赤い制服の少女のことですね。彼女に限った理念です。うっかり殺すと後が面倒になるらしいので先ほどは合わせましたが、自分も赤髪の人も普段は殺します。それでもあなたを今殺さないのは、尋問のためです」

「・・・何を聞きたい」

 

適当なことを言って誤魔化す、あるいはつばを吐いてでも黙秘するという選択は、リーダーの中になかった。

もしそんなことをすれば、どんな手段を使ってでも口を割らせようとするだろう。その確信があった。

それほど、周囲を囲んでいる襲撃者たちの気配は血にまみれていた。

リーダーは自身の死を覚悟しながら、切矢の質問を待つ。

 

「簡単な話です。あなた方の依頼主と入国を手引きした人物について教えてください」

「・・・依頼主は、ロボ太とかいうハッカーだ。顔も年齢も知らんが、生意気なガキみたいな奴だ。入国を手引きした奴は、帽子を被った女だ。それ以上のことは何も知らない」

「そうですか」

 

それだけ言って、切矢は躊躇なくレミントンでリーダーの頭を撃ちぬいた。

あっけなく死んだ武装集団のリーダーから視線を外し、今回の襲撃を手伝ったトリカブトの構成員に指示を出した。

 

「では、死体と武器の回収は任せます」

「わかりました。ですが、いいんですか?」

「構いません・・・これだけ派手なことをしておきながら、DAが動く気配がまったくありませんでした。下手にDAに渡すよりは、貴方たちに任せた方がいいでしょう」

「信頼していただき光栄です、とでも言えばいいですか?」

「他に手がない、というのもありますけどね」

 

からかうようなトリカブトの言葉に、切矢は苦笑いを浮かべながら肩を竦めた。

とはいえ、そのことについて不満があるわけではない。

今回の任務、明らかにラジアータの検知に引っかかるレベルで撃ちあったというのに、リコリスが駆けつけてくる気配が微塵もなかった。

そうなると、最低でもラジアータの監視を誤魔化された可能性が高い。

たしかにラジアータはDAが誇るスーパーAIだが、AIであるが故に権限を持つ者が設定をいじれば不都合な情報は検知されなくなる。

問題なのは、それが事実だった場合、いったい誰がその操作を行ったのか、ということだ。

ただDAやラジアータの存在を認知している、というだけではない。ラジアータの設定を書き換えることが出来るだけの影響力を持っているということになる。

その場合、下手に今回の襲撃の関係者をDAに送るわけにはいかない。誰が裏切り者ないし内通者であるか分からない以上、外部の手を借りる必要がある。

その中で最も都合がいいのが、トリカブトだったというだけだ。

 

「それにしても、ロボ太という名のハッカーはともかく、帽子をかぶった女、ですか。情報なんてあってないようなものですね」

「出来るだけ情報を吐かせてから殺した方が良かったのでは?」

「未だに銃取引の情報を掴ませてくれない相手です。先ほど以上の情報は期待できないでしょう」

「たしかにそうですね」

 

あの件から現在までカゲロウたちやトリカブトも銃の所在を探っているが、未だに手掛かりがつかめないままだった。

ここまでしても分からないということは、何をするにしてもよほど情報を隠蔽しているということになる。

であれば、今回の手引きをした女性というのも、黒幕なのかその部下なのかどうかすら分からないだろう。

 

「ですが、ウォールナットが味方になるというのであれば、一気に進展するはずです。こちらでもそれとなく聞いておきます」

「分かりました。では、これで」

 

そう言って頭を下げ、トリカブトは速やかに死体と敵車両を回収してその場を去っていった。

 

「・・・さて、せっかくですしコーヒーでも飲んでいきますか」

 

その姿を見送ってから、切矢はバイクにまたがってリコリコへと向かっていった。




本当はリコリコに帰ってからのところまで書こうかと思ったんですが、なんかキリが良かったのと投稿が遅くなりそうだったんでここまでにしときました。
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