Bullets of the Beast   作:リョウ77

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標的を定める獣

カゲロウたちはそのまま病院へと向かってウォールナットの死亡を偽装してからリコリコへと向かったタイミングで切矢とも合流し、そのままおやつを食べることになった。

そして、その間千束はずっと不貞腐れたままカウンターに顔を突っ伏していた。

 

「いい加減、機嫌を直したらどうだ?」

「事前に教えてくれても良かったんじゃないですかね・・・?」

 

ミカの問い掛けに、千束はぶっきらぼうに答える。

千束が不機嫌になっている理由は、言わずもがなウォールナットのことである。

結果的にウォールナットは無事だったものの、計画を知らされていなかった千束とたきなは本気でショックを受けていたため、裏切られた気分やら仲間外れにされたのやらと複雑な心情だった。

だからと言って、千束の要望通りに計画を事前に説明しておけばよかったのかと言うと、必ずしもそうではない。

 

「お前の大根演技じゃ、相手にそっちの計画がバレたかもしれないだろ。そうなると、長期間ロボ太とやらに狙われ続けることになって依頼が達成できなかったかもしれないわけだが」

「あまりミカさんたちだけの肩を持つわけではありませんが、一人や二人くらいは自然なリアクションを取れる人がいた方がよかったと思いますよ」

「それ言ったら、ミズキだって演技できるかなんて分かんないじゃん」

「そりゃ着ぐるみで顔とか表情なんて見えないんですから。動作とウォールナットの反応さえ気を付ければどうとでもなるでしょう」

「むぅ~・・・」

 

カゲロウと切矢の二人がかりで論破された千束は、全身で不機嫌を表現しながら脱力した。

そこへ、ミズキが意地の悪い笑みを浮かべながらスマホの画面を見せつけた。

 

「そーそー、櫻木くんの言う通りよ。こんな風にぃ~」

「アーーーッ!!?なに撮っ・・・いつの間に撮ったのそれ!?今すぐ消せ!!」

 

ミズキが見せびらかしたスマホの画面には、ウォールナットが生きていたことを知って喜んだ後の千束の顔が映っていた。

この文章だけを見れば感動の場面かもしれないが、実際は混乱の末に感情を爆発させて疲れ果てた、とても人様には見せられない顔だったため、千束は全力でミズキをスマホを奪おうと立ち上がった。

 

「・・・やっぱり『いのち大事に』って方針、無理がありませんか?」

 

千束とミズキがじゃれ合っていると、ふとたきなが口を開いた。

 

「たきな?」

「あのとき二人で動いていれば、今回のような結果にはならなかったはずです」

 

たきなが言っているのは、おそらくウォールナットが撃たれる前、千束が武装集団の一人の怪我を応急処置していた時のことだろうとカゲロウは察した。

たきなの言う通り、たしかにあの時二人で動いていれば、あの不意打ちにも十分対応できただろう。

だが、あくまで結果論でしかないが、今回に限ればそのおかげで依頼を達成できたとも言える。

 

「そりゃそうだろうが、もしそうなれば計画は大幅に狂ったかもな。それこそ、帰り際に言ってた『ハリウッドばりの大爆発』なんてものに頼る必要があったかもしれない」

「それに、目の前で人が死ぬのを放っとけないでしょ」

「私たちリコリスは殺人が許可されています!敵の心配なんて・・・」

 

たきなの言うことは、模範的なリコリスそのものとも言える。

リコリスは基本的に、犯罪者ないし重大事件を起こしうる容疑者は殺すように徹底的に教育されている。

だからこそ、たきなの意見はリコリスとしては尤もなことだ。

それに対し、千束はあくまで落ち着いた様子でたきなを諭した。

 

「あの人たちも今回は敵だっただけだよ。誰も死ななかったのはよかったよかった」

「そういう話じゃ、ないと思います」

「・・・・・・」

 

千束の言葉に微妙な表情を浮かべたのは、たきなだけでなく切矢も同じだった。

たしかに千束の言う通り、武装集団とは今回は敵同士として戦ったが、次に会う時は違うかもしれない。リコリコに客として来るかもしれないし、もしかしたら巡り巡って味方同士として戦うかもしれない。

だが、どこまで行っても彼らは傭兵であり、事件を起こしうる彼らの存在をDAが容認するはずもない。戦い殺すことで生活を維持している者たち同士であるからこそ、『もしかしたら』なんて希望的観測はどこまでいっても無駄でしかない。

だからこそ、切矢もあの場で武装集団を全滅させたことは後悔していないし、そのことを千束に知らせるつもりも毛頭なかった。

 

「ホラ、二人とももうやめろ。私たちも騙すような作戦をして悪かった」

 

そんな二人の間に流れ始めた(たきなが一方的に流そうとしている)険悪な空気を見かね、ミカが千束に団子のセットを差し出して仲裁した。

 

「あ~、先生甘いもので買収するつもり~?」

「ん?いらないか?」

「あぁん、食べますぅ~」

「あっ、せっかくなんで俺と切矢にも」

「あんこでいいか?」

「じゃあそれで」

「自分も」

「はいよ」

 

カゲロウと切矢もついでと言わんばかりに団子を頼み、ミカから受け取って2人して頬張る。

その間に千束とたきなが座敷の方へと向かったのを確認してから、カゲロウは気になっていたことを尋ねた。

 

「そういえば、ウォールナットはどうするんですか?依頼は達成したとはいえ、さすがにこのままほったらかすわけにも・・・」

「うええええ~!?なんかいたよー今!」

「・・・でしょうね」

 

カゲロウが質問を終えるよりも先に、座敷から千束の叫び声が届いてきた。

 

「うちでしばらく匿ってくれって。あんまり散らかすんじゃないよ~」

「ってかうるせぇよ。どこにいたんだ?」

「なんか押入れの中にいたのー!」

「なんじゃそりゃ、ドラ〇もんでもあるまいし」

「座敷童かなんかかと思ったぁ~」

 

部屋越しに気の抜けるような会話をしていると、ドアベルが鳴って来客を告げた。

日も沈んできた時間になってやってきたのは、たきなが初めての接客の相手であり、リコリコの常連でもあるスーツの男、吉松シンジだった。

 

「おぉ、いらっしゃい」

「やぁ。こんばんは」

「・・・ども」

「お久しぶりです」

 

吉松の姿を見るなりカゲロウはわずかに不機嫌になり、切矢もそんなカゲロウを何とも言えない表情で眺めた。

たきながリコリコに配属されてから常連になっている吉松だが、そこで初めて会った時からカゲロウは吉松に対して警戒心を向けていた。

あくまで表に出さないように努めているものの、それでも付き合いが長い者から見ればわかるくらいの変化は出ており、それは長い付き合いになり始めている切矢からすれば意外に感じていた。

少なくとも、切矢から見て吉松は気のいい常連客であり、そこまで気になるようなものはない。強いて言うなら、始めて会った時にミカが驚いていたくらいのものだが、それだって昔の知り合いがいきなり訪ねて来れば驚きもするだろう。

とはいえ、あまり深く掘り下げるとカゲロウの機嫌がさらに悪くなりかねないため、基本的にノータッチを貫いていた。

 

「にぎやかだね」

「最近よく来てくれるね」

「キミのおはぎは美味いからね。前はコーヒーもまともに淹れられなかったのに」

「10年も経てば、な」

「開店した時から通っていたんですか?」

 

2人の口ぶりに、切矢の頭にふと疑問が浮かんだ。

最近になって通うようになった切矢はともかく、カゲロウはおそらく開店当初からリコリコに通っていた(あるいは監視していた)最古参の常連だが、そのカゲロウから吉松に関することは聞いたことがない。10年前の話なら覚えていないだけかもしれないが、それでもミカとここまで親密な人物のことをカゲロウが忘れるとも考え難い。

だが、実際は少し違った。

 

「いや、開店する前の話だ。ミカから『試しに飲んでみてほしい』と言われたから一杯淹れてもらったんだけど、その時はとても飲めたものじゃなかったね」

「今となっては、懐かしい話だな」

「なるほど、そんなに長い付き合いなんですね」

「それよりも、忙しいんじゃないのかい?」

 

『ならば、なぜ10年もの間、顔を出さなかったのか』。そう尋ねようとしたが、その前にミカによって話題を変えられてしまう。

気になるところではあったが、吉松は通商系の仕事をしていると以前聞いたことがあるため、しばらく海外に滞在していたのだろうと当たりを付けることにした。

ミカの問い掛けに対し、吉松は肩の荷が下りたかのように息を吐いた。

 

「ようやく仕事が一息ついたところさ。掃除に手間取ってね。リスのようにすばしっこい奴だったよ」

(掃除なのに、リスのようにすばしっこい・・・?)

 

よほど山の中の倉庫で整理でもしていたのだろうか。

いまいち要領を得ない説明に切矢は首を傾げるが、カゲロウはそれに構わず奥にいる千束を呼びつけた。

 

「おーい、錦木ー。吉松さんが来てんだからはよ仕事しに戻ってこーい」

「え?おー、ヨシさん!いらっしゃい!」

「やあ・・・」

「今ちょっと忙しいからあとで~」

 

だが、千束はヒラヒラと手を振って、そのまま店の奥へと引っ込んでいった。

吉松はその様子を見て僅かに呆然とし、感慨深い様子で一息ついた。

 

「すっかりレディだな」

「レディ?あれが?」

「あれがレディなら、世の女性の大半はレディになりそうですね」

「ミカ」

 

吉松の言葉にミカとカゲロウが呆れながらツッコミを入れると、急に吉松の雰囲気が一変し、ミカに問いかけた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

なんてことのない、わざわざ聞くまでもないことのような質問のはずなのに、吉松の声音は重く、ミカもすぐに答えを返せない。

ただの世間話の延長線上のはずなのに、店内にたちこめ始めた異様な空気に切矢は思わず生唾を呑んだ。

 

「見ての通りでしょう」

 

その異様な空気を破ったのは、カゲロウだった。

思わぬところから返された答えに吉松はカゲロウの方を振り向き、ミカも目を瞬かせる。

 

「それとも、そのことに何か不満でも?」

 

それに構わず、カゲロウは吉松に意味ありげな視線を向ける。

まるで威嚇しているようにも受け取れる眼差しに、吉松はフッと微笑みをこぼして立ち上がった。

 

「たしかに、それもそうだね。じゃあ、これで失礼するよ」

 

そう言って、吉松はリコリコを後にした。

それを見送ってから、カゲロウも立ち上がって店の奥へと向かっていった。

 

「千束を呼んできます」

「あ、あぁ。すまないな」

 

未だ驚きが冷めないミカを横目に、カゲロウは座敷の中を覗き込んだ。

そこでは、押し入れの中に入っているウォールナットが額を押さえ、ツインテールの片方がほどけ指を銃の形に構えたたきなとのけ反った態勢の千束の動きが固まっているところだった。

 

「・・・何やってんだ?」

「い、いえ。何でもないです」

「何でもないと言うには無理があると思うんだが・・・」

 

状況だけを見れば、何が起きたのかは分からなくもない。

おそらくは、たきながヘアゴムを千束に向けて指鉄砲で撃って、千束が咄嗟に避けた結果ゴムがウォールナットの額に当たった、といったところだろう。

だが、何をどうすればそんなことになるのかまでは、カゲロウが知るはずもなかった。

とはいえ、このまま放置するわけにもいかないということで、カゲロウはため息を吐きながら店の方を指さした。

 

「それはそうと、さっさと手伝いに行っとけ」

「なに、わざわざ呼びに来てくれたん?赤城君ってばやーさしぃ~」

「クルミに用があったついでだ。ほら、さっさと行け。お前たちはリコリコの店員だろ」

「はいは~い」

「あの、私は座布団を敷かなければ・・・」

「せっかくだ。それは俺の方でやっとく。ほら、こっちは秘密の話し合いをするんだ。早く出てけ」

「そっちが本音じゃん。まぁいいや。たきな、行くよー」

「はぁ・・・」

 

要領を得ないまま、たきなは千束に腕を掴まれてズルズルと連れていかれた。

それを見届けたカゲロウは、クルミが座っている押し入れの上段に肘をついて顔を覗き込んだ。

少しの間沈黙が流れるが、最初に口を開いたのはクルミだった。

 

「それで、ボクになんの用だ、リリベル」

「ほう?そんなことまで知っているとは、ずいぶんと博識なんだな。あるいは、それもラジアータをハッキングして手に入れた情報か、ウォールナット?」

「なっ、なんのことだ?ボクにはさっぱり・・・」

「・・・俺から言っといてなんだが、少しは隠す努力をしたらどうだ。あるいは、引きこもってばっかでコミュニケーションに難でもあるのか?」

 

半世紀もの間ハッカーの頂点に立ち続ける生きた伝説が相手ということで、カゲロウは警戒レベルを引き上げていたのだが、思った以上にボロが出るのが早すぎて思わず脱力してしまった。

クルミも自覚はなくもないのか、目を逸らして唇を尖らせながらつぶやいた。

 

「・・・善処する。それと、次からボクのことはクルミと呼んでくれ」

「あいよ」

「それで、ボクをどうするんだ?まさか、ここで殺すつもりか?」

「安心しろ。お前をDAに突きだすつもりも、錦木たちにチクるつもりもない。俺と櫻木の情報を漏らさないこと、今から俺が尋ねることに答えること。これでトントンだ」

「・・・それでいいのか?いや、たしか本来の所属は別の組織だったな。DAに忠誠を誓っているわけではないのか」

「そうだな。んで、どうする?」

「質問の内容による」

「難しいことじゃない。ラジアータへのハッキングを依頼した奴についてだ」

 

そう言うと、一気にクルミの表情が苦々しいものへと変わった。

それは、ただ単に依頼相手に殺されそうになった、というだけのものではなかった。

 

「・・・悪いが、ボクも依頼人のことはあまり探れなかった。個人情報まではわからないぞ」

「ずいぶんと悔しそうだな」

「当然だ。ボクは無知なままでいることが嫌いなんだ。分からないまま尻尾を巻いて逃げるしかできなかったなんて、屈辱でしかない」

「なるほど」

 

クルミのスタンスを聞いたカゲロウは、思わず苦笑いを浮かべた。それは何とも、方々に恨まれそうな性格だ。何が何でも隠したいことがある者からすれば特に。

あるいは、クルミほどのハッカーでも情報を特定できなかった依頼人を称賛すべきなのかもしれないが、この際はどうでもよかった。

 

「まぁ、安心しろ。聞きたいのは1つだけだ」

 

一息吐いてから、カゲロウは真剣な表情になってクルミに問いかけた。

 

 

 

 

「お前に依頼をした奴は、“アラン機関”の一員か?」

 

 

カゲロウの問いかけに、クルミは少なくない驚きを露わにした。

 

「・・・なぜそう思うんだ?というか、アラン機関のことを知っているのか?」

「武器取引の仕方に心当たりがあった。欠片も情報を掴ませない()()は、アラン機関の得意分野だろう」

「ずいぶんと詳しいな」

「これでも多少の接点はある」

「なるほど。その答えならYesだ。たしかに、ボクに依頼を出したのはアラン機関だ。だが、それだけだ。正体までは知らん」

「いや、それだけ分かれば十分だ。DAを認知しているアラン機関の一員なら、俺の方も心当たりがある。世話になったな」

 

一方的にそう言って、カゲロウは座敷から客席に戻ろうとする。

その前に、クルミはカゲロウの背中に質問を投げかけた。

 

「ちなみに、それは誰だ?」

 

問いかけられたカゲロウは足を止めてから振り返り、

 

「教えるかよ」

 

意地の悪い笑みを浮かべながらそれだけ答え、さっさと切矢を連れて店を出て行った。

だが、たったそれだけでも、クルミには何となく思うところがあった。

 

「なるほど。千束関連といったところか」

 

そう呟いて、クルミは千束たちから依頼された武器取引に関する写真を解析すると同時に、ラジアータからすっぱ抜いた千束についての情報にも意識を向け始めた。




この時点でクルミはまだ千束がアランチルドレンだということには気づいていません。
ただ、カゲロウが千束に対して強い関心ないし執着を向けているように感じたから、なんとなく千束絡みなんだろうなと思っただけです。
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