「それで、これからどうします?」
朝食を食べ終え、制服に着替え終えた切矢はカゲロウに今後の予定を尋ねた。
「今日は俺の古巣に向かう。んで、今回の件について協力してもらう」
「古巣というと、赤城さんがかつて所属していたという犯罪組織ですか?」
「あぁ。まぁ、厳密には違うんだが・・・その辺の説明はまだだったな。それについては道すがら教えよう。だが・・・その前に、リコリコに寄る」
「リコリコですか?」
東京第零支部に来てから、切矢もカゲロウと共にリコリコでコーヒーを飲んだり常連のボードゲーム大会に混ざることが多くなったため、リコリコに向かうというのは変な話ではない。
なのに、わざわざカゲロウが古巣に向かう前に寄ると言ったことに疑問を覚えた。
だが、先ほどの千束からの電話で何かを察した。
「もしかして、転属されるリコリスに会うとか、そういうことですか?」
「錦木がなぁ、LIMEでうっとおしいんだよ」
「あぁ・・・」
なんとなくその光景が浮かんだ切矢は、何とも言えない相槌を打った。
とはいえ、わざわざ会う必要が全くないかと言われると、そうではない。
基本的に、リコリスに対するリリベルの情報はファーストになってからしか与えられず、その内容もあくまで存在を認知させる程度のもので大したことは知らされない。千束に限れば、我が身に起こったことでもあるためどのような存在かはある程度理解しているが、それでもその程度だ。
今回、喫茶リコリコ支部に配属されるたきなのクラスはセカンド。本来であれば、リリベルのことは知らされない立場だ。無論、カゲロウと切矢がリリベルであるということを知るのも限りなく黒に近いグレーとなる。
それらの擦り合わせをするためにも、千束とは一度話しておく必要があるというわけだ。
「んで、なんかついでに買い出しを手伝えとかほざいてきやがった」
「仮にも常連客に頼むことではないですよね」
「断ったら断ったで、その後が倍増しでめんどくさくなるのがなぁ・・・」
めんどくさそうにしながらも即答で断るという選択肢がないカゲロウを見て、切矢は複雑な表情を浮かべた。
なんというか、恋人の尻に敷かれる男というよりは、猫に構われる犬のように見えなくもない。“リリベルの獣”と呼ばれていることも相まって、切矢はカゲロウに大型犬の幻影を垣間見たような気がした。
「そういうわけだから、俺は錦木と合流してからリコリコに向かう。ついでに、あいつも例の事件の現場にいたらしいから、話を聞いてみる。大したことは聞けないと思うけどな」
「銃の捜索については話しますか?」
「あくまで捜索するってことだけな。ラジアータのハッキングや黒幕云々の話は無しだ」
「わかりました。では、先にリコリコに向かって店長と話しておきますね」
「そうしてくれ。俺たちについては、そうだな・・・DAの情報部ってことにしておいてくれ。現地調査が主って言っておけば大丈夫だろ」
「はい。店長たちにもそう伝えておきます。では、リコリコで」
「おう、またリコリコでな」
そう言って、2人はそれぞれの目的地に向かった。
* * *
喫茶リコリコに着いた切矢は、扉にかけられたclosedの看板を気にせずに扉を開けた。
「失礼します」
「ちょっと!今日はやってな・・・ってあんたかい」
店に入った切矢を迎えたのは、カウンター席に突っ伏していた黄色の着物を着た女性だった。
その直ぐ横には酒瓶が置かれており、昼間にも関わらず酒盛りをしていたことがうかがえる。
「ミズキさん、また朝っぱらから呑んでいるんですか」
「別にいいでしょ!今日は休業日なんだし!」
「そんなんだから婚期を逃すんですよ」
「そんなことないわい!てか、まだ行き遅れてねーし!ピチピチだっての!」
女性の名は中原ミズキといい、趣味は酒盛りと結婚雑誌漁りである。
ちなみに、こんなことを言っているが男に求める理想が高すぎるため、本当に婚期を逃しそうになって焦っている。
このことから、リリベルであるカゲロウや切矢に男を紹介しろとせがんでくるのだが、2人が「飲んだくれの行き遅れに紹介するような男はいない」と返したことでプチ修羅場にもなったりしている。
そんなやり取りをしていると、店の奥からミカが出てきた。
「おや、櫻木君、いらっしゃい」
「お邪魔しています。すみません、休業中なのに」
「千束が呼んだんだろう。それは構わない。それで、赤城君は?」
「あ~、錦木さんに買い出しの手伝いをせがまれて、そっちに向かいました」
「はぁ?なに客に手伝わせてんのよあの子」
「まったく、千束は・・・」
客に買い出しを手伝わせるという暴挙に、ミズキはもちろん、基本的に千束に甘いミカですら思わず頭を抱えた。
「赤城君には申し訳ないことをさせてしまったな。千束には私の方から言っておこう」
「あはは・・・まぁ、あの人もまんざらではなさそうなので、ほどほどで大丈夫だと思います。それよりも、リリベルとして話しておきたいことがあります」
「・・・わかった、聞こう」
リリベルとして、という前置きを聞いて、ミカの表情が引き締まった。
ミズキも姿勢を直したのを見てから、切矢は要件を切り出した。
「要件は2つあります。1つ目は、今日から転属してくるというリコリスのことです」
「そうか。まさかとは思っていたが、おまえたちにも情報が流れていたか」
「いえ、それもありますが、錦木さんから電話が来まして。自分にも相棒ができると浮かれていましたね」
「・・・そうか」
「まぁ、錦木さんのあれこれは置いておきましょう。問題なのは、そのリコリスはセカンドで、リリベルの存在を知らされていないということです」
「なるほど。つまり、君たちがリリベルであることは伏せなければならない、ということか」
「そうです。具体的には、自分たちは情報部に所属しているということにしておいてください。ミズキさんとの関係を聞かれても、こちらは現地調査が主で畑違いということで通せると思います」
「ふむ、そちらについては了解した。この話、千束には?」
「赤城さんの方から伝えられるはずです」
「わかった。それで2つ目の件は?」
「それは・・・」
切矢が消えた1000丁の銃について話そうとしたタイミングで、カランカランとドアベルの音が鳴った。
ドアの方を振り向くと、黒髪黒目の紺色の制服を着た少女が入って来ていた。
その顔は、虎杖から渡された資料の中で見たものとほとんど同じだった。唯一、左頬につけられた痛々しいガーゼが資料の写真とは違ったが。
「失礼します。本日配属になりました、井ノ上たきなです」
「おぉ。来たか、たきな」
つまりは、この少女が機銃をぶっ放したという例のリコリスだった。
資料の写真は真面目そうだったとはいえ、なかなか豪快なスタンドプレーをかましただけにどんな剛の者かと内心ではわずかに不安だったが、資料で見た顔通りの真面目な少女でにわかにスタンドプレーをしたとは思えなかった。
「あ~、命令無視してDAクビになったっていう・・・」
「クビじゃないです」
たきなはミズキの言葉を食い気味に否定したが、切矢は内心で『命令違反で支部に左遷とか実質クビでは?』と思ったものの口には出さなかった。
「あなたから学べ、との命令です、千束さん。東京一のリコリスから学べる機会を得られて光栄です」
たきなは、ミズキに向かって事務的にそう言ったが、それは盛大な勘違いだった。
「それは千束ではない」
「これはただの飲んだくれです」
「それとかこれって言うなぁ!」
ミカと切矢から否定されて、今度はハッと2人の方を振り向く。
「自分でもこの人でもありません。ついでに言うと、私はDAの関係者ではありますが、ここの従業員ではありません。ただの客です」
「私はここの管理者のミカだ。彼女はミズキ、元DA情報部の職員だ。そして、彼は櫻木君。彼が言ったように常連客だが、DAの情報部の職員ということで繋がりがある」
「とは言っても、私は現地調査が主でミズキさんとは畑違いですけどね。ラジアータがある現状、ほとんど閑職ですし」
「そうなんですか。ですが、元・・・?」
そう言って、たきなは不思議そうにミズキの顔を覗き込んだ。
「嫌気がさしたのよ。孤児を集めてあんたらリコリスみたいな殺し屋を作るキモイ組織に」
「別に悪いことばかりではないと思いますけどね」
切矢がさりげなくDAにフォローを入れると、外から騒がしい声が聞こえてきた。
「あ、帰ってきましたね」
「ほ~ら、やかましいのが来るぞぉ」
「たっだいま~!!千束が戻ってきましたよ~!」
「やかましいぞ、錦木。あ、ミカさん、失礼します」
元気な声と共に、千束が勢いよく扉を開けて中に入り、その後ろからカゲロウが続いてきた。
* * *
「あっ、いたいた。おーい!赤城くーん!こっちこっちー!」
「はしゃいでんじゃねぇよ。目立つだろうが」
切矢がリコリコに着く少し前のころ。
買い物袋を2つ引っ提げて佇んでいた千束は、カゲロウの姿を見つけると飛び跳ねながら手を振って自分の存在をアピールした。
着物を着た少女が自己主張していることで視線が集まっている中、名前を呼ばれたカゲロウは嫌そうな顔をしながら近づいて千束から買い物袋を受け取った。
「ありがとね~、手伝ってくれて。あ、これ見て!食べモグの口コミ!ホールスタッフが可愛いって!これ私のことだよね~」
「知るか。あと、手伝わなかったら次会った時に余計鬱陶しくなるだろうが。店でなんか奢れよ」
「それはもちろん!って今日は制服なんだ?」
そこまで言って、千束はカゲロウが私服ではなくリリベルの制服を着ていることに気付いた。
「もしかして、仕事の邪魔をしちゃったり?」
「気にすんな、別に急ぎの用じゃない。これを手伝った後でもできる程度のもんだ」
「そっか~。なら、私も手伝った方がいい?」
「必要は・・・いや、なくもないか。だが、それは後だ。先に話しておくべきことがある」
「およ?何かな?」
「今日から、お前のところに新しいリコリスが転属してくるって話してただろ」
「おぉ!そういえばそうだった!」
カゲロウからそのことを指摘されると、千束はうひひ~と堪えきれない笑みを浮かべた。
「いや~、これでようやく!私にも!相棒ができるんだよ、赤城君!赤城君ばっかりいつも相棒をお店に連れてきて羨ましかったんだよね~」
「いや、俺の場合はどちらかと言えば監視役の意味合いが強いんだが。というか、相棒がコロコロ変わるのもそれはそれで格好悪くないか?」
「あ~、それはそうかも。早いと1ヵ月も保たないときとかあったっけ?」
「だな。その点、櫻木は今のところ上手くやれてるし、長く続きそうだ」
「となると、赤城君にとって櫻木さんは初めての相棒ってことになるわけだ!」
「かもな・・・って、そうじゃない。今はお前の所の話だ」
よほどテンションが上がっているのだろう。一度相棒談義を始めるとどこまでも本題からズレていきそうなのを感じたカゲロウは、半ば強引に話を戻した。
「お前さんの相棒は、セカンドのリコリスだろ?」
「そうだね。ってなんで知ってんの?」
「うちの司令から資料をもらった」
「なんで?」
「それは後で話す。んで、セカンドだからリリベルの存在は知らされてないだろ?」
「あ~、たしかに。ってことは、赤城君たちのことを話したらダメ?」
「ダメだな。最悪、俺たちの手で消す必要性が出てくる」
「うわっ、気を付けないとダメじゃん!」
「まぁ、最低限俺たちの前でリリベルのことを話さなければいい。もちろん、何でもないときに俺たちがリリベルだってことをバラすのはアウトだが。そこで、お前さんの相棒には俺たちのことはDAの情報部の職員ってことにしておいてくれ」
「はいはーい。でも、ミズキの知り合いなのかって聞かれたらどうすんの?」
「俺たちは現地調査が主でミズキさんとは畑違いってことにしておけばいい」
「りょーかい。って、いつの間にかリコリコに着いちゃったね」
思っていたよりも話し込んでいたようで、気が付けば喫茶リコリコが見えてきていた。
「そういえば、櫻木さんは?」
「あいつは先にリコリコに向かわせた。中で待ってると思うぞ」
「じゃあ、早く行かないとだ!ほらほら、置いてくぞー!」
「ちょっ、待て!てめぇから巻き込んどいて何を言ってんだ!」
いきなり走り出した千束に、カゲロウは悪態をつきながら慌てて後ろを追いかけた。
そして、ちょうどカゲロウが追い付いたタイミングで千束が扉を開け放った。
「たっだいま~!!千束が戻ってきましたよ~!」
「やかましいぞ、錦木。あ、ミカさん、失礼します」
元気よくリコリコの中に入る千束とは対照的に、カゲロウはため息をつきながらミカに対して頭を下げた。
「先生大変!見て見てー、食べモグの口コミで、この店のホールスタッフが可愛いって!これって私のことだよね~」
「いやいや、アタシのことだよ」
「はぁ?冗談は顔だけにしろよミズキ」
「自分を過大評価してると、行き遅れが進みますよ」
「遅れてんのか進んでんのかどっちだよ!てかあんたもそういうこと言うんかい!」
「なんだ、櫻木からもなんか言ったのか?」
「朝っぱらから呑んでいるから婚期を逃す、とは言いましたね」
「わざわざ言わんでえぇっちゅーねん!」
「それより千束。赤城君にお礼は言ったんだろうな。彼は常連客なんだから、店の仕事に付き合わせるのはマナー違反だろう」
「え~?だってこんなの赤城君にしか頼まないしー」
「はっ!どうせ買い出しを手伝わせるとか言っといてイチャコラしてたんでしょこいつらは!」
「いや、別にそんなんじゃないんだけど。被害妄想で僻むのやめてくれない?・・・って、およ?」
店内に入って散々話したところで、千束はようやく知っている顔以外に来客がいたことに気付いた。
「その制服・・・リコリス?」
「あぁ、そいつですか?例の飛ばされたリコリスっていうのは」
「そうだ。今日からここで働くことになったたきなだ。お前さんの相棒だ。仲良くしろよ、千束」
千束から一拍遅れて気づいたカゲロウの問いにミカが頷き、たきなを紹介した。
「この人g・・・」
「この子が~!?」
そして、たきなが振り向いたのとほとんど同時に、千束はたきなに急接近して両手を握った。
「よろしく相棒!千束で~す!」
「井ノ上たきなです。去年、京都から転属され・・・」
「転属組かー、優秀なんだね!ねねね、歳は!?」
「16です・・・」
「一個下かー、でもさん付けはいらないからね!ち・さ・と、でおっけー!」
「はぁ・・・」
「めっちゃはしゃいでんな、こいつ・・・」
目だけと言わず全身から輝きを放ちそうな勢いで浮かれる千束を見て、カゲロウはそんなに楽しみだったのかと呆れ果てた。
だが、ふとたきなの左頬に貼られているガーゼに気が付いて問いかけた。
「それはそうと、その左頬はどうしたんだ?機銃をぶっぱなしたってのは聞いたが」
「あなたは?」
「あぁ、自己紹介がまだだったか。赤城カゲロウ、DAの情報部で働いてる。そこにいる櫻木の同僚。こいつの買い出しを手伝われはしたが、普段はここの常連だ」
「そうなんですか」
「そういえばすごかったね、あの時の!それは名誉の負傷ってやつ?」
「・・・」
まるで当時の状況を再現するようなジェスチャーを取りながら千束がそう尋ねるが、たきなは気まずげに目を逸らして黙ってしまった。
千束はキョトンとしたが、カゲロウと切矢はなんとなく事の顛末を察して顔を見合わせた。
「殴らなくたっていいでしょーよ!」
店の奥では千束が電話に向かって文句をかまし、その様子をカゲロウたちはコーヒーを飲みながら眺めていた。
たきなの左頬の傷は、現場指揮を担当していたファースト・リコリスに殴られたもので、命令を無視して人質となったリコリスごと機銃掃射したことに対して切れた結果らしい。それをたきなから聞いた千束は、その殴ったリコリスが知り合いだったこともあって抗議の電話を入れていた。
千束はたきなを擁護してはいるものの、他人からすれば人質となったリコリスが生きているのは結果論で、味方の射撃に巻き込まれて死んだ可能性もあったと考えれば妥当とも言える。
ちなみに、たきなの行動によって面倒な任務を寄越されたカゲロウと切矢も思うところがないわけではなかったが、その場にいなかった自分たちが言うことではないとわきまえることにした。
その代わりと言うべきか、カゲロウはコーヒーを飲みながらジロジロとたきなと切矢の顔を見比べていた。
「それにしても・・・」
「・・・なんで私と櫻木さんを見ているんですか?」
「いや、なんか似てんなーと思って。実は生き別れの兄妹とかだったりしないか?」
たきなと切矢が容姿で似ているのは黒髪と黒目くらいだが、纏う雰囲気や生真面目なところがどことなく似ているような気がしたカゲロウは、試しにそう尋ねてみた。
当然と言うべきか、2人はその問いかけに対して首を横に振った。
「自分に妹がいるなんて話は聞いたことはないですよ」
「私もです。そもそもリコリスは身寄りのない孤児なんですから、血縁関係なんてわかるはずがないでしょう」
「いやぁ、DNA鑑定とかもあるだろ?でもまぁ、ないだろうな。俺も言ってみただけだ」
リコリスやリリベルが元々孤児とは言っても、引き取られる頃には物心がついている場合が多い。その時に兄妹がいたという記憶がないのであれば、そういうことなのだろう。
そして、ちょうどそのタイミングで千束が電話を叩き切った。
「うっせぇアホ!」
「物は大事に扱えよ」
「それより!さっそく仕事に行こう、たきなー!あ、先生のコーヒーを飲んでからでいいよ。すっごい美味しいからねー。私は着替えてくるんで、ごゆっくりー」
「はぁ・・・」
「あーたきな!」
「はいっ!」
奥に移動しようとした千束がいきなり大声を出して戻ってきたため、たきなは思わず立ち上がって姿勢を正した。
「リコリコへようこそ~!」
だが、「うひひ~」と笑いながら歓迎の言葉を口にしつつ奥へと引っ込んでいった千束に毒気が抜かれたのか、何とも言えない表情で座り直してコーヒーを口にした。
「ごちそうさまでした。櫻木、行くぞ」
「はい、分かりました」
「あぁ、ちょっと待ちなさい」
コーヒーを飲み終わったカゲロウが立ち上がり、切矢もそれに続こうとすると、ミカが2人を呼び留めた。
「なんですか?」
「櫻木君から、まだ聞いていないことがあってな。おそらく、2人の仕事関連のことだと思うんだが」
「あぁ。そう言えば、まだ話が途中でしたね」
「・・・あ、そういやぁ俺の方も千束に聞きそびれたな。まぁ、いいか」
幸か不幸か、2人とも同じことを話しそびれていたようで、チラリとたきなの方を見てから、話しそこなった2つ目の要件を切り出した。
「井上さんの件と関係があることなので、おそらく楠司令から聞かされるかもしれませんが、念のため自分からも話しておきます」
「たきなの件というと、例の銃取引か?」
「はい、そうです」
切矢が頷くと、たきなの肩がビクッと震えた。
それを見ないふりをしながら、切矢は消えた1000丁の銃について話した。
ミカの表情も、切矢の話を聞いていくうちに難しいものへとなっていき、説明が終わる頃にはこめかみを指で押さえていた。
「自分たちは、この銃の行方を調べるようにと言われています。錦木さんも現場にいたと聞いたので、もしかしたら何か知っているかもしれないと思ったんですが・・・」
「すまないが、そのことは私も今知った。それにしても、1000丁の銃か。戦争でもやる気か?」
「さぁ、そこまでは。そういうことですので、もしこの件について情報を得られたら、自分たちにも知らせてもらえませんか?」
「わかった。後で千束にも伝えておこう」
「助かります。では、自分たちはこれで」
そう言って、カゲロウたちは店を後にした。
「はぁ・・・期待していたわけじゃなかったが、銃の情報すらまだ知らされていなかったとか、さすがに本部も弛んでないか?仮にも最強のリコリスがいる支部だぞ?しかもヘルプまで頼んでおいたくせに」
「言ってはなんですが、最低限規模の支部ですからね。後回しにされたり、下に見られがち、というのはあるかもしれません」
「楠司令に限ってそんなことはないと思いたいが、DAの秘匿体質もここまで極まると擁護しきれないな・・・」
カゲロウはそうぼやくが、むしろ機密に近い情報すら渡されるカゲロウと虎杖の関係の方が、DAの中では珍しいと言える。
虎杖のカゲロウに対する信頼は、いったいどこからくるものなのか。切矢は興味を覚えたが、この場では関係ないため奥に押し込んだ。
「それで、これからは予定通り、赤城さんの古巣に向かうということでいいんですか?」
「あぁ。思ったよりリコリコで時間潰しちまったから、早めに向かわんとな」
「それで・・・結局、赤城さんがかつて所属していたという組織はいったいどんなところなんですか?」
「そういや、それを説明するって話だったな」
そう言って、カゲロウはかつて自身が所属していた組織の名前を口にした。
「・・・“トリカブト”。それが俺の古巣の組織の名前だ」