ウマ娘作品が佳境を迎えているんで、そっちに力を入れたいっていうのもありますが。
『ウォールナットの所在を特定した』
開口一番、通話をかけてきた蘆屋が本題を切り出した。
それは、カゲロウと切矢が待ち望んでいた情報だった。
「ようやくか。結局、ダークウェブでウォールナットが死んだって噂が流れてたのはガセだったってことか?」
『おそらくな。あるいは、ウォールナット自身が流した可能性もあるが、それはいい。問題なのは、こっちで生存を確認できた経緯だ』
「・・・あぁ、なるほど。殺害依頼のメールでも確認したのか」
『その通りだ』
篠原沙保里の件の直後に起こった爆発事故について、蘆屋もトリカブトのメンバーを向かわせて現地調査を行ったが、人がいた痕跡はあったものの死体と思われるものは確認されず、けれども爆発の威力が大きすぎて死体が吹き飛んだ可能性やダークウェブに流れたウォールナット死亡の噂が流れたことで、いったんは『生死不明』としてそれ以上は深入りしなかった。
だが、トリカブトに属するハッカーによるネットの監視を続けた結果、ようやくウォールナットに関する情報を得ることができたというわけだ。
とはいえ、その内容はウォールナットの殺害依頼に関するものであり、あまり悠長もしていられないのだが。
「依頼人については?」
『ロボ太を名乗るハッカーだそうだ。ネット上だがウォールナットとも面識があるらしい』
「そんな奴が、それまたどうして?」
『うちのハッカーが言うには、なんでも「自分こそが日本一のハッカーだとかぬかしている大馬鹿」らしい』
「・・・まさかとは思いますが、ウォールナットが死ねば自分が日本一のハッカーになれるとか、そういうことですか?」
『そういうことだそうだ』
「なんというか・・・バカなんですか?」
「どちらかと言えば、ガキって感じだな」
事の経緯を聞いた切矢は呆れ半分憐憫半分の侮蔑を吐き、カゲロウも嘲笑と共にロボ太のことをそう評価した。
価値観は人それぞれ、ロボ太にとって“日本一のハッカー”の称号はそれだけ価値のあるものなのかもしれないが、だからといって努力の方向性が間違っているとしか思えない。
というより、手段が“超える”ではなく“消す”になっているあたり、「自分はウォールナットに勝てません」と大声で喧伝しているようなものなのだが、本人がそれに気づいているかどうかは2人からすればどうでもいいことだった。
「まぁ、くだらない理由でウォールナットの命が狙われているのはわかった。とはいえ、ウォールナットも逃亡と護衛くらいどっかに依頼してるだろ。そっちは掴めてないのか?」
『すまないが、そっちに関しては掴めていない。まだ依頼を出していない、という可能性もなくはないが、猶予はそれほど残っていないはずだ』
「なら、殺害依頼のメールの情報を寄越してくれ。襲撃の日時と場所くらいは絞り込めるはずだ」
『それならこちらで特定している。今、情報を送ろう』
「助かる」
そう言って通話を切るとすぐに端末に情報が送られ、カゲロウと切矢が内容を確認するにつれて、だんだんと表情が難しくなっていった。
「・・・10人ほどの傭兵に始末させようってことか。経路については、ロボ太とかいうハッカーがリアルタイムで指示を出すと」
「どうやってやるつもりなんでしょうか」
「ドローンでも使うんじゃないか?前の事件の時も、ウォールナットがドローンを使って監視してたのを確認したし、今時の奴なら乗用車くらい余裕で追跡できるはずだ」
「なるほど。ですが、そうなると今の段階でプランを絞り込むのは難しそうですね」
「とはいえ、エリアはある程度絞り込めている。二手に分かれて捜索するしかないな」
「それで、ウォールナットの護衛についてはどうしますか?」
「ん~・・・」
切矢からの問い掛けに、カゲロウは首を捻りながら考え込む。
今回の件、ロボ太側の情報も多くはないが、それ以上にウォールナット側の情報が不足している。よほどの相手でない限り2人が後れを取ることはないだろうが、それでも万が一という場合もある。
そのため、この場ですぐに答えを出すことはできない。
「・・・とりあえず、相手を泳がせながら考えよう」
最終的に、様子見という結論に落ち着いた。
とはいえ、切矢もその考えには賛成だった。
「ウォールナットの方をですか?」
「ロボ太勢も、だ」
だが、敵対勢力まで泳がすというのは予想しておらず、切矢は目を丸くした。
「どういうことですか?」
「ウォールナットのこれまでの実績を考えれば、すぐに追いつかれて死ぬような真似はしないだろう。というか、ロボ太側よりもウォールナット側のプランを知りたい。場合によっては、俺たちが傭兵を殺すことで不都合が生まれる場合もある」
「・・・あぁ、なるほど」
そこまで言われて、切矢もカゲロウの考えを理解した。
同時に、今回の作戦の難易度も上方修正を加える。
「ひとまず、今回の作戦はウォールナットの確保を最優先にするとして、ロボ太側の勢力はどうしますか?」
「基本的に排除だが、できれば捕らえて情報を吐かせたい」
「分かりました。では実行日までに準備を整えておきましょう。武装はどうしますか?」
「今回は別行動でいこう。俺はいつも通りだが、櫻木は狙撃で援護してくれ。とはいえ、それなりに移動することになるはずだ。100mを目安にしてくれ」
「わかりました。ならスナイパーライフルは自分で用意しておきます。サプレッサーもあった方がいいですかね」
「あまり意識しなくてもいいだろう。どうせ向こうも目立つところでドンパチは避けるはずだ」
「それもそうですね」
まるで食事の献立について話すようなノリで、2人は戦うための準備を整えていく。
だが、この時の2人は知る由もなかった。
ウォールナットが護衛を依頼した人物によって、予定が大幅に狂ってしまうことを。
* * *
作戦決行の当日。
カゲロウと切矢は、それぞれバイクに乗ってロボ太のメールにあった襲撃予定地点を巡回していた。
「・・・ここも空振りか」
『なかなか見つかりませんね。ウォールナット側の情報を傍受できれば良かったんでしょうが・・・』
「ないものねだりをしても仕方ない。地道に自分の足で探すことにしよう」
ウォールナットの情報について、トリカブトの方もギリギリまで情報を探し続けていたが、結局情報を得ることができずに本番を迎えることになってしまった。
とはいえ、今回の作戦で戦闘には参加はしないものの、ウォールナット及びロボ太の捜索や後処理を担当することになっているため、2人も普段より動きやすくなっている。
「っつーか、ウォールナットの容姿とか分かんないだろうに、向こうはどうやって探して殺すつもりなんだか」
『お得意のハッキングとかじゃないですか?あるいは、ドローンに自分のロゴを印刷するくらいなら、見かけにも分かりやすい目印があったりとか』
「それはそれで、とても逃げるつもりとは思えんな・・・」
『その場合は、狙いが分かりやすくなりますね』
「だな。これはウォールナットよりも武装集団を探した方が早そうだ」
『わかりました。ではその方針で・・・』
『こちら
2人が方針を話していると、トリカブトの構成員から通信が入った。
「でかした。あと隊長はやめろ。今の俺はトリカブトじゃないんだが」
『現在、我々の指揮権は赤城隊長にあります。ならば、隊長と呼ぶのが正しいかと』
「そうかい。んで、状況は?」
『良くはないかと。武装集団が一方的に襲撃している状態で、ウォールナットが乗っていると思われる白い乗用車からの反撃は確認できません』
「逃げ切れそうか?」
『ちょうど今、ウォールナットが振り切りました。おそらく、乗用車の方も防弾などの改造が施されているかと』
「引きこもりのハッカーなのに、運転は一丁前なのか」
『そこはいいでしょう。自分は今の位置だと少し遠いですね。追跡は任せます。自分は予測される逃走ルートから狙撃地点を絞り込んで向かいます』
「わかった。
『『『『了解』』』』
カゲロウの指揮に毒花たちは即座に応え、それぞれの役割を果たすために動き出す。
カゲロウと切矢もまた、それぞれの狩場へと向かっていった。
そして、カゲロウがバイクを走らせること数分、目的の自動車を発見した。
「あれか。対象を見つけた・・・って、あぁ?」
全力の逃走ではなく普通の乗用車を装っていたため、離れたところから車の中を確認したが、中にいる人物を見てカゲロウは困惑の声をあげた。
運転席には、なぜか着ぐるみを着ていた人物が座っていた。
おそらくはウォールナットなのだろうが、なぜあのような目立つ着ぐるみを着ているのか。
だが、そこはさして問題ではなかった。
本当に問題なのは、後部座席に乗っている護衛と思わしき2人の女性。
その容姿が、ブロンドヘア―に赤い制服と黒髪に青い制服であるということだ。
そんなカゲロウの困惑を感じ取ったのか、切矢が尋ねかけた。
『赤城さん、どうしましたか?』
「・・・対象を見つけた。中に乗っているのは3人。運転席に着ぐるみを着てる奴がいるが、おそらくそいつがウォールナットだ」
『着ぐるみって、何のですか?』
「後ろからだからよく見えんが・・・リスじゃねぇか?ウォールナットって名乗ってるくらいだし。問題なのは、後部座席に座っている護衛2人だ」
『2人ですか?護衛には少し足りない気がしますけど・・・手練れとかですか?』
「手練れ・・・まぁ、手練れと言えば手練れだな」
『そうなんですか?』
「あぁ。っつーか、俺の見間違いとかじゃなければ・・・錦木と井ノ上だ」
『・・・はい?』
カゲロウからの報告に、切矢もまた困惑の声をあげた。
まさか、そんな偶然があるものなのか。
できれば気のせいであってほしいと願うが、それはトリカブトの
『・・・こちら
「・・・そうか」
『・・・そうですか』
これは計画を大幅に修正しなければいけない。
思った以上に面倒な事態になってしまったことに、2人は出そうになったため息をどうにか飲み込むことができた。