TS少女が自分の恋心に気付いていく話   作:雪澤

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初めまして、雪澤と申します。
不慣れで拙い所があるかもしれませんが、よろしくお願いします。


第1話 ある夏の日常

 夏休みも終わりが見えてきた八月中旬。

 

 僕は夏休みにしてはやけに早い時間にセットされた目覚まし時計の音で目を覚ました。

 

 現在の時刻は午前六時半。

 こんなにも早くに起きた理由は、今日が登校日だからである。

 

「くぁ……ねむ……」

 

 あくびをしながら、もぞもぞとベッドから這い出す。この季節は朝でも蒸し暑くて、どうも敵わない。額に滲んだ汗を手の甲で拭いながら、洗面所へと向かう。

 

 鏡の前に立ち、そこに映った自分の姿をぼんやりと見る。

 

 眠気のせいもあるが、半開きで気怠げに垂れた目。濃い紺色で、所々ハネている髪。中学二年生の男子にしては少し小柄な体躯。

 

 特に何か変わったところがあるわけでもなく、普段と変わらない自分がそこに居た。

 

 十秒ほど見つめた後、顔を洗うために蛇口を捻る。冷たい水が熱を帯びた身体に心地良い。

 

「……ふぅ」

 

 洗顔を終え、顔を上げると、さっきより幾分かまともな顔をした自分が鏡に映っていた。

 

 

 

 

 一階に降りると、リビングでは既に起きていた両親が朝食をとっていた。

 

「あ、おはよう、唯」

「ん、おはよ」

「おお、起きたか」

「お父さんもおはよ」

 

 さすがにここは冷房が効いていて涼しい。一気に身体が目覚めるような感覚がする。

 

「朝、パンなんだけど、自分で焼いてくれる?」

「分かった。……コーヒーはまだある?」

「そろそろ起きてくると思ってたから残してあるわよ」

「うい」

 

 オーブントースターの設定をしながら背中越しに会話する。トースト一枚は……五分くらいだったかな。

 

 パンを焼き始めたら、その間にコップを出してコーヒーを注ぐ。あと牛乳も少し。

 

「そういえば今日はやけに早いけど、どうしたんだ?」

「登校日だからね。昼頃には帰ってくるよ」

「そうか……大変だな」

「まあね」

 

 コップに口をつける。

 うん、やっぱりこう朝早い日はコーヒーに限る。カフェインが身に沁みる――気がする。

 

 気のせいかもしれないが、眠気はすっかり晴れていた。

 

 

 

 

「――よし、と……」

 

 靴紐を結び、立ち上がる。久しぶりに背負った学校の鞄が少し重く感じる。

 

 現在の時刻は午前七時五十分。

 早めに起きたこともあり、時間的にはだいぶ余裕がある。これなら、校門の閉まる八時十五分までにはどうやっても遅れることはないだろう。

 

「じゃ、行ってきます」

「あ、もう行く?行ってらっしゃい」

 

 一歩外に出ると、そこは灼熱の地獄だった。

 

 さっきテレビで見た天気予報では、今日の最高気温は三十二℃にも達するという。

 

 なんでまた、こんな暑い日にわさわざ登校日なんてものがあるんだろうか。

 ジリジリと照りつける陽射しを避けるように、日陰を歩きながらそんなことを思う。

 

 あとは蝉だ。これの鳴き声がするだけで、暑さが三割増しくらいになっている気がする。

 

 ……夕方に鳴く蝉は涼しげで良いのになぁ。

 

 まあ、夏らしいといえば夏らしいのだが、インドア寄りの僕としては少しハードというか……。

 

 そうこうしていると、信号に引っかかってしまった。

 

 ……最悪だ。

 

 ただでさえ暑いのに。

 だからこそさっさと学校に着きたかったのに。

 

 よりにもよってこの炎天下で足止めを喰らう羽目になるとは……。

 普段はなんとも思わないようなことでも、こういった日だとなんだか余計に気が重くなってしまう。

 

「はあ……」

 

 項垂(うなだ)れて、信号が変わるのを陽に灼かれながら待った。

 

 

 

 

 ようやく学校に着いた。実際に歩いた時間としては十分ちょっとだったが、体感的にはその何倍にも感じられた。

 

「はー……」

 

 自分の席に着くと、早々に机に突っ伏した。机のひんやりとした感じが気持ち良い。

 

 この教室も決して涼しいとは言えなかったが、それでも外の灼熱地獄に比べたらずっとマシだった。

 

「よ、随分やつれてんなあ」

 

 不意に、上から声がした。

 

「ん……おはよ、シャア」

「はよ、フウ」

 

 顔を上げると、そこにいたのは幼馴染で親友の炎開隼人(えんかいはやと)だった。

 

 シャア、というのは彼のあだ名で、フウというのは僕――風谷唯(かぜたにゆい)のあだ名だった。なんでこんなあだ名になったのかとか、いつから呼び始めたのかとかはもう二人とも覚えておらず、はっきりしない。

 

「……シャアは元気そうだね」

「はは、まあな」

 

 朝っぱらから力尽きている僕とは対照的に、彼は疲れを微塵も感じさせない。やはり運動部だからだろうか。

 

 対照的なのはそれだけではなかった。

 彼は長身で、部活でテニスをやっているため筋肉も付いており、日にも焼けている。

 性格も真面目で、何事にも全力で取り組み周囲の信頼も篤い。そんな人間だった。

 

 対する僕はどちらかというと小柄な方で、運動部でもないため筋肉も無ければ日焼けもしていない。端的に言えば、色白のヒョロガリといったところか。

 決して不真面目ではない……と自分では思うが、彼のように全力で――みたいな感じではない。

 

 よくもまあ、こんな正反対な人間が長いこと付き合えているものだ、と時たま自分でも思う。

 それとも、正反対だからこそ、逆に気が合うのだろうか?

 

「とは言え、そんな突っ伏すほどって……大丈夫か? 夏バテとかじゃねえか?」

「んー……久しぶりに外に出たから、だと思うんだけど」

「それなら良いんだけどな」

 

 ……うーん、やっぱ優しいなコイツ。

 

 

 

 

 三時間目の終了を告げるチャイムが鳴ると、教室内は途端に騒がしくなった。

 

 それもそのはず、登校日の授業は午前中まで。つまり、三時間目が終われば我々は解放されるのだ。

 

「お前らー、宿題はちゃんとやれよー」

 

 警告を飛ばす担任をよそに、クラスメイトたちは嬉々として各々この後の予定を立てている。

 そんな彼らを眺めていると、シャアが声をかけてきた。

 

「フウ、今日この後どうする?」

「そうだなあ……とりあえず一旦帰るかな。シャアは?」

「俺も特に予定は無い、な……。じゃあ、飯食ったらお前ん家に――」

 

 シャアが午後の予定を口にしようとしたその時。

 

「――隼人、この後プール行くかって話になったんだけど、お前も来るか?」

 

 彼を呼ぶ声があった。

 見てみると、声の主は小宮とかいう男子だった。確か彼もテニス部だったっけ。

 

「え、プール?」

「おう、四丁目のな」

 

 シャアは僕の方と小宮の方を交互にチラチラと見ている。大方、どうするか迷ってるんだろう。

 

「……良いよ、行ってきたら?」

「えっ、あー……」

 

そんなやり取りをしていると、小宮が僕に気付いたのかこちらをジッと見てくる。

 

「風谷も来るか?」

「いや、僕はいいよ」

 

 ……泳げないし。

 誘ってくれるのはありがたいんだけどね。

 

 シャアの方に目をやると、まだどうするか決めあぐねているようだった。

 昔から優柔不断なところは変わらないなあ、なんて思ったり。

 

 ……しょうがない、背中を押してあげるか。

 

「別に僕なら明日でも良いんだしさ。ほら、行ってきなよ?」

「……分かった。じゃあフウ、明日な! また明日遊ぼうな!」

「ん、了解」

 

 シャアはそう言って手を振りながら、小宮たちと一緒に歩いて行った。

 

「さて、僕は……」

 

 ……帰って寝ようかな。




数話ずつ書き溜めたものをまとめて投稿する形で行こうと思うので、よろしくお願いします。
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