異世界おじさんvs異世界TS娘 作:SEGA機未プレイお兄さん
やっぱセガサターンはガーディアンヒーローズだよな!
2018年6月。
「実は、エルフ以外にも長い付き合いがある奴がいてな。しかも、俺が無条件に信頼してた唯一の奴だ」
記憶の映像を流していたおじさんは、ふとそんな事を語り出した。
「へぇー、おじさんが無条件に信頼……ってぇぇえええ!?」
「おじさんだって、異世界に友達の一人くらい居るぞ。妙に馬が合うというか、こう、心の底で繋がるというか……」
「因みに性別は」
「え? あー……まあ、女の子だが」
なんてことの無いように言い切りやがった。
(こ、ここでまさかの新ヒロインか……!)
おじさん、やけに美少女とのエンカ率が高いのはなんなんだろう。
俺も、あんな美少女と一度でいいから関わってみたいと思わないでもない。いやめっちゃ思ってる。
「てか、旅の道中でそんな人、一人も居なかった気が」
「え? 居たじゃん画面の後ろに」
「は?」
いや、そんな馬鹿な。
俺はこれでも、画面は隅から隅まで見ているタイプの人間だ。あ、崖でゴブリンを倒した時、一緒に壊れてた祠は全然分からなかったけど。
「んー、じゃあ魔炎竜を倒した時でいいか。ほら、そこそこ」
スクロールバーを動かして、その場面に移る。
おじさんが画面を拡大していくと、背景の森の奥から、チラッと人の顔が現れた。白髪に赤眼の、アルビノっぽい美少女。幻想でもなんでもなく、本当にいた。
「いやいやいや、親しい仲なのに、何で紹介しなかったの!?」
「だって、たかふみはファンタジーな冒険が好きなんだろう? こいつとは、そういうのはあんまりしてなくてな。なんかこう、まったりと旅してる時は一緒に駄弁ってる、腐れ縁というか友人というか……まあ、続きを再生するぞ」
映像が早送りされていく。
その間、その子はキラッキラした顔で戦いを見ていた。分かる。分かるよその気持ち。苦戦しながらも、っていう手に汗を握る戦いほど興奮しないものは無い。
そして、魔炎竜が倒されて、炎を瓶に詰めたおじさんに、アルビノっ子が駆け寄っていく。
『凄い……本当に倒した』
『まあな。パターンさえ掴めば楽勝だ。エリソルでいえばディープストライダーぐらい簡単だぞ』
ああ、10面のアレか。
どうにかHPを満タンにした後、画面際で爆装という高等テクをおじさんから教わっていたから、実は苦戦した記憶は無い。
でも、未だに25面までいけない。七瀬さん強過ぎだよ……
『……あのさ。私、セガ分からないんだけど』
『一度はやろう。今無いけど、日本帰ったら絶対やってくれ。メガドラとセガサターンは名作揃いだ。きっとハマる』
「異世界人にセガ勧めてどうすんだ……」
「いや、だってこいつ理解あるし」
「そんな訳無いでしょ……」
でも、不思議な所はある。
これまでセガの話をしても、大抵その前かその後に来る名言(ゲーム知識による)が心に響いてスルーされてる事が多かった。
セガ、という言葉を認識している時点で、確かに他の人たちと違う何かを感じる。
『……セガは置いといても、陽介は凄いよ。沼地の洞窟でドラゴンと戦った時ぐらい心臓バックバクになった』
『沼地?』
『うん、そうそう! あ、でも実は、ローラ姫を救ったと思って大はしゃぎしてたら、赤なのに毒沼入って死んじゃって。あれは間抜けだった……はは、四歳の黒歴史だ。ローラ姫再回収イベ、なんちゃって……』
……。
あの子の口から飛び出してる言葉、確実にゲームの事だよね。ローラ姫は分からないけど。
そんな俺の様子に気付いて、おじさんが補足を入れてくれた。
「ジャンルがちょいと違うんだ。俺は次何すればいいのか分かんなくなるからRPGはやらないけど、あいつはRPG系が大好きなんだよ。あ、格ゲーとかアクションゲーもいける口らしいから、そっちは話が弾んでた」
「まず異世界人とそんな話ができるところに突っ込ませてくれ」
異世界にゲームがあるはずがない。
そうなると……もしかしなくても、この子は。
「ねぇ、おじさん。この子、日本からの転生者だよね?」
「よく分かったな。その通り。俺の同郷で友人のリフィア。俺と同じゲーム好きだ」
その、リフィアさんとやらを、もう一度じっくり見てみる。
白髪赤眼。まず地球じゃ有り得ない美少女。名前からして現地人。以上。
「日本人要素どこだよぉぉぉ!?」
「そんなのある訳ないよ。あれが転生特典らしいし」
「えっ……つまり、あの見た目が特典?」
「見た目というより種族。吸血鬼なんだって」
「マジか」
しかし、後天的だがまさかの吸血鬼ヒロインだ。
数こそ多い訳ではないものの、吸血鬼の美少女はカプッチューの文化もあり、業界で根強い人気を持っている。東の方のレ○リア・フ○ンドール姉妹とかはかなり有名だろう。
「でも、なんで吸血鬼に……?」
「それは、初めて会った時に話してくれたな。えっーと、どこだっけな……お、ここだ。異世界来て、五日目くらいの時」
映像が流れ出す。
森の中。少しひらけた場所に出ると、地べたで俯せになって倒れ込んでいるリフィアさんを見つけて、おじさんが介抱してやっていた。
『だ、大丈夫か!』
『……あぇ、誰……そこに……いる……?』
意識が朦朧としていて、明らかに危ない状態だった。
『取り敢えず、水を』
『待って……』
魔法で水を作ろうとするおじさんの手を掴んだ。
目を潤ませて、縋り付いた。
『お願い……血を分けて……』
『え、それはちょっとなぁ……』
「え、わざわざそこ渋る?」
「血を分けてとか、生々しくて嫌じゃん?」
すっげーしょうもない理由だった。
どうやってここから仲良くなるんだ……?
『じゃ、じゃあ、
『いいよ』
おじさんの首に、カプっと噛み付いた。
……。
は?
「なんで今のはオッケーなの!? どういう判定!?」
「だって、HPって言われちゃったらな。ほら、ゼロ
「おじさんの思考回路はどうなってんだよ」
セガゲーム脳もここまで来ると、考えものである。
というか実質『血=HP』なのに、HPの方が軽視されるのはマズいと思う。
噛み付いたリフィアさんがコクコクと喉を動かして、最後に噛み付いた跡を一舐めして、舌舐りした。
……いかん、思考がどうしてもエロ方面に行ってしまう。女性耐性の低さは問題だ。
『……ご馳走様。貴重なHPをありがとう』
『いや、ソロより仲間が居た方が、ゲームはやりやすい事に違いないからね』
『……確かに。モ○ハンとかその傾向が強かったなぁ。セカジーは家族4人プレイでやってたよ』
モ○ハンは分かる。かなり有名だったし。
でもセカジーってなんだ。
『モ○ハン? なんだそれ、セガにそんなゲームは無かったような……』
『……SEGA? モ○ハンはCAPC○Mだけど。SEGAの有名どころって言ったら、ぷよぷよかソニックだったか。あ、サクラ大戦はアニメも見た。あとバーチャロンは名前だけ。でもディーバ系統は9割方パーフェクトになるまでやり込んだ』
『お、おおおっ。そのディーバってのだけ分からないのが悔しい……! でも、この世界にもセガを知ってる人が居るなんて!』
でも、これでハッキリした。
この人、おじさんより後の時代の人だ。
『やっぱセガサターンはガーディアンヒーローズだよな!』
『セガサターン……って、ドリキャスの前のだっけ?』
『ドリームキャストも知ってるのか! 驚いたよ、君もSEGAゲーマーなのか!』
『いや、どちらかと言うとS○NY信者……かな。W○iよりプ○ステ派だったし』
『あー、プ○ステは勢いあったしなぁ……でも、俺は断固としてお小遣いを貯めて、ドリキャスを買うつもりだ。逃げ惑うだけの一般民衆にはならないと決めているんだ』
「あ、やべ、記憶戻った」
「ハード事業撤退したって言った時の?」
「……それは言わないで。心を殺す用意がまだできてないんだ」
そう言って、トイレで感受性を殺して戻ってきたおじさんが、コーヒーを飲みながら、うんうんと唸った。
「……まさか、ドリキャスでセガがゲームハード事業から撤退するとは思わなかったんだ、この頃は。いくらプ○ステとかロ○ヨンが強くても、セガならいけると思ってた。……それはそれとして、ドリキャスはやりたい。今すぐ買おう、たかふみ」
「それなら今すぐエルフになって稼がないと」
「えぇ……この前したばっかじゃん」
嫌な顔しやがって。
こっちは生活費が掛かってるんだ。どんどん新しい動画を供給しないと視聴者が離れていく。それだけは阻止しないと。
嫌な顔のままのおじさんを傍目に映像を再生する。
『……見るからに日本人だと思ったけど、2000年代より前から来たんだ』
『まあね。察するに、君も日本から来たのか。俺、2000年になったばっかりの時にトラックに轢かれてさあ』
『私も。でも轢かれたのはその23年後。大学生になる予定が、そのまま異世界に身一つで放り出されて、生きる為に足掻いてたら、吸血鬼になっちゃって……お蔭で仲良くしてくれる人も居ないし、もう散々』
『分かる……俺の顔なんて、この世界じゃオークなんだってさ。ハハッ。人間ですらないっていう』
『うーん……痩せこけちゃってるからでしょ、きっと。血を吸っておいてなんだけど、もっと食べた方がいいよ』
今のおじさんを見てみる。
確かに痩せている。顔なんて骨ばってるし、目の前の十代おじさんと全く変わらない。連れていかれる前は普通だったのに……
異世界という環境が、おじさんをおじさんにさせてしまったのだろう。
『それで、君はどうするんだ?』
『そうね……しばらく付いていくけど、途中で別れるかも。血が少ないから、もう少しHPを分けて欲しくて。ちょっとの間だけリンクエイドさせてね?』
『それくらいどうってことは無いぞ、えー…………名前なに?』
『あ。お互い自己紹介もしてなかったか』
てへ、と可愛らしく笑った。
可愛い。控えめに言って可愛い。デレたエルフさんとか、アリシアさんに負けないレベルだ。
メイベルさんは……なんだろう、残念過ぎてイメージ壊れた。ごめん。
『リフィア=カルネイア。私の恩人がくれた名前だよ。日本人の頃の名前は……もう捨てたから、覚えなくていい』
『そうか……。俺は、嶋嵜陽介。しがないセガゲーマーだよ。よろしくな、リフィア』
『こちらこそよろしく、陽介』
「とまあ、こんな感じ」
「いや、いやいやいや……」
首を振りながら、思う。認めねばなるまいと。
最近、あの三人と仲がいいと思ったら、まさかの最有力候補。大穴どころか、その人の存在さえ知らなかったのに、突然の急浮上だ。
おじさんの時系列によれば、ツンデレエルフさんに名前を明かしたのがこれから三年後。そのついでに二人に名前が知られてる。
でも、この人だけは、真っ先におじさんと出会って打ち解けて、おじさんの名前を三年もの間独占していた。
スタート地点からして違った。他の人は、おじさんの好感度がゼロとかマイナスからスタートしてるのに、ぶっちぎってプラスなんだ。
圧倒的……! 同郷のよしみの暴力……!
「俺、リフィアとこっちで会えないのだけが心残りでさぁ。あーあ、一緒にガーヒー、やりたかったな……」
「俺も純粋に、現代のゲームの話とかできそうだから、一度会ってみたいかも。というか、おじさんはリフィアさんと一緒に帰れなかったの?」
「無理だった。そもそも穴は一人分で、あいつの助けもあって戻って来れたんだ。直ぐにそっちに行くとは言われたけど、まだ帰れてないんだろうなあ……」
おじさんは、少し疲れた様子で、Xboxやセガサターンのある自分の部屋に行ってしまった。
……一旦、今日の事は藤宮にも話そう。想像の遙か上を行くヒロインだった事を報告しなければ。
美味いコーヒーを啜りながら、そんな事を考えた。
それから午後になって、3時の特売の為に外出。おばさん達の嵐に打ち勝って手に入れた戦利品と共に帰った、3時45分。
「ただいまー……は?」
玄関の先で、デジャブを見た。
パーカーと眼鏡を着けた美少女……というか、白髪赤眼の吸血鬼こと、リフィアさんが、ポケットに手を突っ込んでこちらを見てきた。
藤宮さんはその傍に居て、かなり戸惑った様子。
何もかも被っている。構図も状況も。だから、俺はすぐに判断できた。
間違いない。
おじさんの《
エルフの次はリフィアさんとは……これはVに使える。
吸血鬼系バーチャルYoutuberはありふれているが、同時に人気もある。
是非とも、この姿でも動画を投稿したい。
「あのー、おじさん? リフィアさんの姿でどうしたの?」
「……? 何を言ってるの?」
……あれ。
思ってた反応と違う。
これまでなら俺のおばさんで通してきただろうに、今度は惚けてきたぞ。
「いや、だからさ。藤宮も分かってるだろうし、それ意味無いんじゃ……」
「た、たかふみ! この人は……」
藤宮さんが慌てたように名前を呼んで、俺の肩をガシッと掴んできた。
「な、何言ってるんだよ、藤宮。魔法使って姿変わってるだけだって。ほら、あの竜になったやつ」
「それが違うって言ってるの! おじさん、さっき出掛けたばっかなんだよ!」
「……はい?」
と、なると……
この人って、本当に……
「その……玄関先で話すのも何だし、二人とも、リビングで話そうか」
靴を脱いで、買い物袋を抱えたが、正直この袋をしまう所の話じゃない。
これは……一大事だ。
そう思いベランダを見ると、ドクロの旗が挙げられていた。藤宮が無言でサムズアップしてきたので、サムズアップし返した。
ナイスだ、藤宮。お前はやっぱり、俺の良き友達だ。
「ここが嶋嵜陽介……さんの家で合ってる?」
「ええと、はい。俺は高丘敬文です。嶋嵜陽介は俺の叔父で、同居してます。そろそろ帰ってくるはずなんですが……」
はよ来い! と念じて待っていたからか。
ベランダの奥の空に、黒点が浮かび上がっていた。幾つもの緑の魔法陣が展開され……おじさんが、風圧でガラスを揺らしながら現れた。
「あれ、お客さんが居るんなら、あのヒヨコのを……」
おじさんが視線を一点に向けた瞬間、硬直。
ビクともしない。表情も崩れない。
「……よ、陽介? ちょっとぶり。元気にしてた?」
「り……りり、リフィア? ────本物なのか、お前」
「おじさん急に冷静になった……!」
動揺してると思いきや瞬時に思考を切り替えた。異世界で培った人間不信の結晶なのだろうか。少なくとも、人間にできる芸当じゃない。
いつになく真面目な目付きのおじさんに、リフィアさんはポケットからスマホを取り出した。
内カメにして、むむむ、と自分の顔を見つめている。髪型がおかしいのかと、髪をちょちょいと弄った。
いやそうじゃない。そっちじゃない。
お蔭で、ますますおじさんの目付きが胡乱なものになり……
そして……リフィアさんは、ヘラった。
「あ、あはは。本物……だといいな、うん。この世界で私を証明するものは何も無い……無国籍、無戸籍、無一文……ハハッ、リフィア=カルネイアなんて居ない。本物なんてどこにも無いよ。私は何なんだろう……」
スマホごと地面に崩れ落ちて、目に輝きはない。いわゆる、レイプ目とかいうベタ塗りのアレが思い浮かんだ。
「重い……重いよそれ! 異世界帰還モノによくあるパターンだけど、現実で表現されるとめっちゃ過酷だから……! 今は純粋に再会を喜んでくれ……!」
少なくとも、その話だけは後回しにして欲しかった。
そんな彼女の深刻さで、おじさんもようやく目を覚ましたらしい。ぺたん座りで目が死んでいるリフィアさんと視線の高さを合わせて、そっと抱き締めた。
「リフィア……お前、来てくれたんだな」
あ、リフィアさんの目が生き返った。
おじさんパワー凄いな。
復活して正気に戻ったからか、顔が仄かに赤く染まった。
だが一味違う。なんと、おじさんを抱き締め返した。
「……そりゃあね。日本に帰ったら、陽介と一緒にゲームやるって約束してたから」
((せ、正ヒロインムーブ……!))
ツンデレエルフさんみたくツンツンもせず、メイベルさんみたく残念ニートでも、アリシアさんみたく、ちょっと気があるかなぁー程度のお色気枠でもない。
しかもゲームを知っているという強みまである。頭二つ抜けていると言っても過言ではない。
しかし、そんなリフィアさんを以てしても、この異世界帰りおじさんは強敵だった。
「おおっ、そんなにセガがしたかったのか……! よし、じゃあまずはガーヒーからやろう。俺のイチオシだ」
((こ、このKYめ!!))
内心は藤宮ときっと被っている事だろう。約束があったとはいえ、早速やるのは違うだろ。ムードもへったくれもなかった。
この鈍感さは真似できないだろう。……え、何、なんで藤宮こっち見てくるの?
隣の藤宮の目に戦々恐々としていると、おじさんはリフィアさんの手を取って部屋に入っていった。
その時のリフィアさんの横顔は、「もう、しょうがない人だなぁ」と言っているような、慈愛に満ちた目をしていた気がした。
一通りガーディアンヒーローズをやって来たのか、二時間ぐらいして出てきたリフィアさんを半ば強引に椅子に座らせ、その隣におじさんを置いた。
そろそろ、色々と話を聞きたい。俺と藤宮の目はガチだ。
そんな俺たちに気圧されてか、「あはは……」と顔を引き攣らせて頬を掻く。
「改めて、私はリフィア=カルネイア。吸血鬼だけど、日光は鬱陶しい位で済むし、十字架とかニンニクとか、木の杭も銀も効いた試しが無いから、気遣う必要は無いよ」
意外ッ、という
吸血鬼なのに、弱点らしい弱点が無いなんて。
「あっ、はい。どうもです」
「さっきは大声で騒いじゃってごめんなさい……」
藤宮、大声で騒いでたのか。
まあ仕方ないか。いきなり見知らぬ人が入って来たんだし。
「敬文くんは知ってたっぽいけど、私の事は陽介から聞いてたの?」
「ええと、今日の午前中に、おじさんが教えてくれました。藤宮の方は、大学行ってて来てなかったから、知らなかったと思います」
「……陽介が異世界に行ってた事は知ってたと?」
「「勿論知ってます」」
あんな魔法見せられたら、普通は聞きに行くよね?
「あ、じゃあ私の異世界生活も見たい?」
「「是非」」
めっちゃ気になる。
おじさんの話は大抵ダークというか、異世界裏事情だらけだ。
リフィアさんは、真っ当にファンタジーしてそうな気がする。見てみたい。
「なら、説明の手間も省けるかな。……《イキュラス・エルラン》」
「あ、おじさんの記憶再生だ」
いつも見る、テレビ大のモニター。
異世界でも、おじさんぐらいしか使ってる人が居なさそうだったから、リフィアさんも使えるなんて驚きだ。
「因みに言うと、元々この魔法を使っていたのはリフィアだ。俺はそれを見様見真似で使ってるだけ」
「そうなんですか! って事は、リフィアさんも精霊の声が……?」
「まあね。陽介ほどハッキリは聞こえないけど、お蔭でそこそこ根源魔法は使える。吸血鬼の種族特性なんだとか」
おお、なんかようやくファンタジーっぽい魔法を聞いた気がする!
おじさんの魔法は、精霊を用いた根源魔法か……他の魔法の話も聞けたら良いなあ。
「じゃ、再生っと……」
再生ボタンと共に、映し出されるビルの街。
横断歩道を渡っていると、急にブレーキ音がして、視界が暗転。
何でこう、ラノベと言いおじさんと言い、異世界に行く時は大抵交通事故なのか……
視界が開くと、そこは夜の森の中。
シチュエーションはおじさんとそう変わりない。
『い、いたたた……あれ、ここは』
……ん? ちょっと待て。
藤宮も気が付いたらしい。目線で訴えかけてきた。
これ、リフィアさんの声と全く違う。それどころか……
『……どこだよ。轢かれたんじゃなかったのかよ。えぇ……?』
「ちょっとストップ!」
「え、あ、うん」
俺の声で再生が止めさせると、画面をスワイプして二人称視点にしてみる。
そこには、制服らしきブレザーに身を包んだ……男子高校生がいた。
しかも、なんか割と顔が良い。いかにもサッカー部のイメージがするイケメンだ。
声からして、明らかに男の人だなって思っていたけど、一体どういう事なんだ。
「こ、これ……誰ですか」
「誰って、私だけど」
映像と見比べる。
背は違うし、声も違うし、そもそもリフィアさんには、パーカーからでもハッキリと分かる輪郭が……
「フンッ」
「──ゴフッ!?」
唐突に、反対側から肘鉄が飛んできた。
肋骨の間の弱点を的確に突かれて、テーブルの上で悶絶する。すまん藤宮……そういう意図があった訳じゃなかったんだ……
「あー、まあ見てれば分かるよ。説明するより、見た方が早い。……これって三人称とかできるの?」
「俺の時はできたぞ。ほら、ピンチインしてスワイプしてやれば……」
「うわ、これグランバハマルにいた時に知りたかった……」
見やすくなったところで、映像が動き出す。
『……あのー、誰か居ませんかー! あのー!』
すると、カサカサと茂みが音を立てた。誰か来たと思って嬉しそうにしているが、これは間違いない。
『グルルルル……』
『あ、やべ……』
狼。一匹だけだが、目がギラギラしていて、明らかに飢えていた。
武器無し。助け無し。森の中。
……この人が勝てる要素、一個もねぇ!
『グルァァアアア!!』
『ギャアア──ッッ!! 死ぬっ、死ぬぅううう!!』
人間の脚力で逃げ切れる筈もなく、狼が肩口に噛み付いて……
「ここからグロいから、ちょっと飛ばして……」
「「エ゛ッ」」
飛ばした先の映像も、それはもう、酷いものだった。
噛み付いた狼を追っ払った代償に、右腕をもぎ取られて、絶叫し、血が溢れ出ながら逃げ切った。
記憶の精霊さんがモザイクを掛けてくれてなかったら、危うく吐いていた所だ。
ダークどころか、R18Gだ。完全にレーティングに引っ掛かってる。
『血が…………なくなる…………』
木に寄りかかったものの、もう体を動かす気力も無く、枯れた声しか出せていない。
そんな時に、どこからか声が聞こえた。
《親愛なる隣人よ。私は異世界の神だ。汝にこの厳しい世界を生き抜く力を授けよう》
ちゃんと……仕事してる……!
しかもおじさんの時と打って変わって、ヨド○シっぽい録音音声でもなさそうで、威厳のある声だった。
どうしてこれをおじさんの時に出来なかったんだ……
そうすれば、おじさんの生活もマシだったろうに……と不憫さを嘆いていると、男の人が叫んだ。
『血をくれぇっ……このまま死ぬとか、訳わかんねぇよ…… 力なんていらない……俺に、血を、血をくれぇ……!!』
《汝は血を求むるか。良かろう。約束はここに果たされた》
神様がそう言い終えた、瞬間。男の人が光に包まれた。
うねうねと形が変化して、光が収まった頃には、銀髪の美少女になっていた。
「……で、今の姿になったってこと」
つまり、あの男子高校生が前世のリフィアさん。
神様の転生特典で、吸血鬼になったと同時に性別も変えられたと。
彼女だけ、ジャンルがTSFだった。
あまりの大変化に、藤宮が目をひん剥いてる。
「なんか性別変わってますけど!? え、なんでだ?」
「なんでだかね。ふふっ、分かんない。何でって考えた頃には、とっくにどうでもよくなってたし」
笑い方とか、男の面影も無い。
しかも、明らかにおじさんの事好きそうなのに?
「俺も知った時はビックリだったね。でもまあ、こうしてゲームの話ができるのも、同じ男としての感性があるからなんだろうな」
「陽介、もう考え方が古いよ。ゲームに性別もないって」
「……あの、リフィアさん」
「ん?」
ペシッ、とおじさんの頭をチョップしたリフィアさんに、藤宮が尋ねた。
「心とか、その、大丈夫なんですか? 男だったのに、女の子の体にされて、こう、忌避感とか」
「あー、あったよ。最初の頃は」
「最初?」
まるで、もう無いという言い方で、ついオウム返しすると、リフィアさんが肩を竦めて言った。
「ザックトーラ・キャトルフって変身魔法は知ってる? 原理はあれと同じっぽくて、体に合わせてズルズルと精神が引き摺られて、今では立派な女の子。多少は男っぽいけど、性自認はガラリと変わったなー……」
「それで納得したんですか?」
「一応ね。女の子も、慣れれば悪くないもんだし」
ただし……とリフィアさんは続けた。
「厄介な事に、吸血鬼って種族柄もあって、たまに血が吸いたくなるのがね……今もお腹空いてて、一時間しない内に誰か襲うかも」
吸血衝動。吸血鬼にはメジャーな設定だ。
しかし、リフィアさんも空腹で危ないとなれば……というか、実際に吸血している所を見られるなら、俺はどしどし血をあげようと思う。
おじさんのを。
「……だそうだよ、おじさん」
「え? なに?」
「
「あ、うん」
「いいの!? じゃあ、遠慮なく……」
おじさんをHPで唆し、リフィアさんが犬歯をおじさんの首に突き立てた。
「ん〜、この味だ。やっぱり陽介のHPが一番美味しいよ」
「HPに味ってあるんだ……」
「藤宮、そうじゃない。HP=血なんだよ」
「それどういう解釈だ……」
俺にも分からん。
リフィアさんがぷはっとして、満足げに舌舐りしている。
吸血鬼の味覚は、人間のそれはやはり違うんだろうか。
「おじさんの次に美味しかった人って居たりは?」
「え? エルフかな」
ツンデレエルフさん、飲ませてくれたんだ……
あのヤンデレっぷりを見る限り、一目でリフィアさんと戦争になりそうだけど。
「あー、お腹いっぱい。何ヶ月ぶりの食事だろ」
「そんな長いこと吸血してなかったなんて……よくここまで来れましたよね」
「うん、自分でもそう思う。陽介の居場所は精霊が教えてくれたけど、東京から九州は遠かった……途中で精霊の力使いすぎて徒歩だったから、尚更ね」
よっぽどおじさんに会いたかったんだね……
と、ここで俺の冴え渡る思考が、ピコンと一つの考えを弾き出した。
リフィアさん、日本にいる時点で、他の人達より圧倒的に優位じゃないだろうか。
国籍とか無いから申請が必要だろうけど、ゆくゆくはおじさんとリフィアさんで結婚も……
「じゃあ、続きを再生するね」
「まだ続きあるの!?」
「こんなの序の口。ここからが本番だからね」
得意げに笑うと、画面をタップした。
『おーい! 誰かいるのかー! 助けに来たぞー!』
『止まれ、見てみろ……血痕だ! こっちの方にいる!』
『くっ、死んでいないと良いんだが……』
おお、助けが来た!
これで勝つる……って訳にはいかないんだろうなぁ、絶対。
『居たぞ! ……おい、大丈夫か! 今怪我を手当てしてやるからな』
そうして、松明を持った冒険者っぽい人が、しゃがんで、顔を覗き込むと……
『っ、おい、まさか』
『その子か? 怪我は無いのか?』
『待てっ、こいつに近付くな!』
もう一人がやって来て、二人が剣を構える。
『……お、おいおい、やめてくれよ!』
『銀髪に赤眼……ち、違いねぇ! 伝説の吸血鬼族だ!』
『お、おかしいだろ! こいつら、千年前に滅ぼされたんじゃ……』
『!? こいつ、動くぞ!』
リフィアさんが立った。
二対一。しかも、リフィアさんは吸血鬼になったばかり。
一体、どうするのか……
先に動いたのは、冒険者側だった。
『っ死ねぇぇぇぇ!!!』
『おい、やめろバカッ!』
剣を上段に突っ込んだ。リフィアさんは一歩も動いていない。
剣が振り下ろされると、リフィアの右腕が動く。
あわや、頭に、と言うところで、その細い手が、剣先を摘んだ。
『な、なんだと……』
剣にヒビが入る。
やがてバキィッ、と金属なら普通有り得ない壊れ方をして、剣が折れた。
慌てた冒険者が逃げようとして、リフィアさんが素早く後ろに回り込んでチョップを振りかざした。
人間で鳴ってはいけない音を立てて、ふらふらと倒れた冒険者に、もう一方が「ヒェッ」と怯えた。
『や、やめろ、待て! やめ──』
ゴン、と重低音が響いた。……倒れた。
……異世界でのファーストコンタクトがこれなんて。
「そういう訳で、実は私、グランバハマルにいる人類から目の敵にされてるんだ。ハハッ」
「おじさんより酷いじゃないですか……! 神様、幾らなんでも配慮足りなすぎでしょ……!」
前も、リージョンコードすら間違ってるなんて事も起きてたからな……
やる気がなくなってる癖に、人を異世界に送るのはやめて欲しいと切実に思う。
映像の方に目を戻すと、リフィアさんが、気絶した男の脇腹にそっと指を突き刺していた所だった。
痛そうだが、意外にも目を覚まさない。これも吸血鬼の特性なのかな?
『……これが、血の味』
ぷす、と、最初に気絶させた方にも指を突き刺した。しばらくして離すと、リフィアさんはポツンと呟いた。
『……まっず』
「あ……美味しくなかったんだ」
「冒険者の男の血は美味しくないよ。肉食過ぎて」
肉食と菜食で違うって、動物の肉みたいだ。
人肉は雑食で不味いらしいけど。エルフさんはともかく、おじさんの血液が美味しい理由は謎だ。味に好意でも反映されるのだろうか。
「でも、勝手に飲んでおいてこれって、結構酷いような……」
「藤宮さん……それは言わないで。私の心に刺さる」
だけど、画面の中のリフィアさんは、着ていたブレザーを脱いでちぎり、ひらいて、冒険者達の服を脱がすと、傷をつけた所に巻き付けた。
あんな小さい傷なのに、自分の制服を包帯にする所を見ると、前世でも優しい人物だったんだろう。
「この後は、起きるまで待って、話が通じないながらどうにかコミュニケーションを取ろうとしてたら、無害だって分かってくれて、言葉も文字も教えてくれたの」
リフィアさん、性別も変わって大変だろうに逞しいな。
異世界で何も分からないまま言語を学ぶとか、やってるレベルからして違う。
「まあ、一つ訂正すると、神様が教えてくれたドルド山の知恵の祠にも連れてってくれて、その時に常識と言語を全部習得したから、学んだのは日常会話ぐらいだけどね」
「それでも、ゼロから学んだ事自体が有り得ないくらいの事ですって!」
こほんっ。やや興奮気味になってしまった……
なんというか、おじさんと別方面で頑張っていて、とても良いものを観させてもらった。
「……リフィアは、凄いよな。俺なんかと違って、要領いいし、見た目もいいし、言う事なしだろ」
「あ、おじさん……」
おじさん、拗ねてた。
……そうだよね。リフィアさん、スーパーハイスペックだもんね。おじさんがただの2000年製シリコン半導体のCPUなら、リフィアさんは2023年から来たダイヤモンドCPUみたいなもの。ゲームの知識も異世界への理解も、色々と更新されてるだろうし、格が違う。
だが、リフィアさんは、そんなおじさんの様子はお構い無しのようだった。
「日本に帰ってきて今更そんなの気にしなくていいでしょ。ほら、四年後にはメガドライブミニ2も出るんだから、エリソルやろうよ、エリソル」
「え? メガドラのミニ2……? なにそれ……あ、エリソルならやるやる!」
わーい、とリフィアさんに釣られて、何事も無かったかのようにおじさんが飛び出していった。
……さてはリフィアさん、おじさんの扱い方分かってるな?
「おじさん、もうリフィアさんに引き取ってもらえばいいんじゃない?」
「うん、俺もそう思う」
将来も、きっと安泰だ。
……一時間後、リフィアさんがえぐえぐ泣いて出てきた。
エイリアンソルジャー、難しいよね。俺も分かる。
最初やったら、一面すらまともにクリア出来なかったから。
おじさんは宥めようともせず、これでお前もエイリアンソルジャーの仲間入りだ、と満足気な顔をしていたが、リフィアさんは、
「ひぐっ……陽介に絶対U○DERT○LEのGルートやらせてやるぅ……!」
と、物騒な事を言いながら、お腹いっぱいなのにご飯をヤケ食いしていた。
……ストーリー的にもおじさんが泣くから、やめといたほうが良いよ、リフィアさん。
やりたい事が書けてない。
次があったら、おじさんを現代ゲーで叩きのめすTS娘が見れるかもしれない。次があったら。