異世界おじさんvs異世界TS娘   作:SEGA機未プレイお兄さん

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なんだかお久しぶりです……

最近ずっとドタバタがあったのですが、その無理が祟ったのか、インフルにかかりまして……そのお蔭で書けました(え

執筆の暇が……大学の課題でも小説書いてるせいで、まるで締切に追われる小説家みたいに……(白目)

俺も無理しねぇからよ……皆も無理するんじゃねぇぞ……(次話制作は止まってない模様)


必ず、お返ししますからね! リフィア=カルネイアの軌跡1

 

「どこ行ったんだろ……」

 

 森で陽介と離れて*1、早六ヶ月。

 本来の目的だったサリファの実家跡地の訪問*2と、神のお告げにあったシャレグの遺跡、ジャトの遺跡を訪問。武術と精霊との対話方法を手に入れた私は、陽介を捜す旅を続けていた。

 

 また会おうと言っていた陽介だけども、これが全然見つからなくて、噂話を頼りに町や村を巡って、再会しようと奮闘中だ。

 

「あ、風の精霊さん。いつも話を持ってきて下さってありがとうございます。……はい、そうなんです。ですので、今日はこの地方で捜索してみようと思ってます」

 

 でも、本当に見つかんないんだよなぁ……強烈な魔法で人里を襲うっていうオーク顔の怪人の話はどこでも聞くのに、魔法が得意なパッとしない男の人が町を訪れたって話は、精霊さん経由でも中々聞かない。

 

 あれだけ魔法が使えたら、そこそこ有名になってもおかしくないのに。

 

「へぇ〜、最近精霊さんと喋ってくれる人が他にも……もしかして、それって陽介だったりしませんか? ……あ、名前は忘れちゃったんですか。本当に風の精霊さんは気まぐれですね〜」 

 

 となると、よっぽど姿を隠すのが上手いのかな。

 でもここまで痕跡が無いと、町中でばったり遭遇とかしない限り会えないような……

 

 どうしたものかと森を歩く。

 すると、どこからか悲鳴が木霊した。

 

「か、かか神よっ、清浄なる我が願いに応え──きゃーッ!?」

「畜生、もう持たねぇ!」

「だが村に入れる訳には────グァッ!?」

「エドガーッ! …………このクソッタレがあああ!!」

 

 悲鳴が聞こえてきた時点で、私の中に見捨てるという選択肢は無かった。

 この世界での義父達のように、苛酷な世界でも誰かに手を差し伸べられる存在でありたいから。

 

「──《疾風駆送(ワーグレント・スラドセルド)》」

 

 ……神秘を司る、ジャトの祠。

 

 転移者として祠に入る資格のあった私は、そこで吸血鬼特有の魔法とされる根源魔法について学び、多数の精霊さんから力を得ることができるようになった。

 この風の精霊さんもその一つだ。ただし、陽介のようにいかないのは、私のコミュ力不足なのか……

 

 でも、精霊の補助は私の戦闘能力を格段に引き上げた。

 

 地面に擦れる低姿勢で音の壁を突き破ると、少女に襲い掛かる直立する豚人──オークの戦士と思われる魔物を視認する。

 噂の魔法を使う個体とは違うみたいだけど、オークが強大な敵には違いない。最高速で突っ切ると、腰で格納状態になっているそれの柄を掴み取る。

 

 私の意志に呼応して、折り畳まれていた鎌が十倍にも伸長する。

 

 サリファの父親が地下室に保管していたという吸血鬼族の秘宝、〝喰神剣〟……私の相棒だ。

 旅の最中、これが無かったらと思うとゾッとしてしまう。それぐらい、数々の場面で助けてくれた、私の相棒だ。

 

「《疾風落下(ワーグレント・ラルド)》!!」

 

 オークを眼下に捉え、大上段から弧を描いて刃を振るう。

 脳天から股間までを刈り入れると、ゴリュッ、と不快な音を立てて骨ごと断ち切り、オークの身体は左右に泣き別れた。

 

 フゥー……ミッションコンプリート。

 

 後は、地面にへたり込んでる修道女っぽい女の子に、そっと手を差し伸べて……

 

「……ヒッ」

 

 盛大に引かれた。

 それどころか怯えの視線を強く感じる。なんでぇ?

 

 いやだって、ここに瞳の色も偽装してくれる仮面が*3……あっ。

 

 ペタペタと触る。跳ね返るのはもちもちした肌の感触だけ。

 

 ……え、なんで着けてると思ったの?

 

 視界狭まるよね? 気づかない普通?

 

 と、ここでタイマーストップ。

 吸血鬼バレRTA、ザ・エンドってね。はい、お疲れ様でしたってね。ハハッ……

 

「……あー、他の二人は無事?」

「あっ、いえ、二人とも気絶してるだけなので……って、まさかライガとエドガーを襲う気じゃ……や、やらせません! 伝説のき、吸血鬼だろうと、わ、わわわた、わたしは偉大なる神の名の下に貴女を罰しますぅぅ……!」

「えーっと……無事ならいいんだけど」

 

 しゃがみこんで、挫いてしまっている足に手を向けた。

 

 殺される……と女の子に泣かれる様も相まって、傍から見れば私が襲撃者みたいになってる。あの二人が気絶していたのが不幸中の幸いか。

 何とも言えない気持ちになりつつ、神聖魔法で治癒を始める。

 

 光を放って、青くなっていた部分に血色が戻った。

 これでよし……っと。他に外傷もなさそうだし、先に気絶してる二人を治療しちゃわないと。

 

「神聖魔法……吸血鬼なのに、神の御力を?」

「まあ、ね。信心深いって程じゃないけど」

 

 神聖魔法については、これもジャトの祠で習得した。

 治癒手段まで用意してくれるとは、本当に神様々だ。

 

 だから、吸血鬼の欠点という欠点も、この世界の人間の殆どに憎まれているぐらいなものだ。普通に食べ物も食べられるし、日光も鬱陶しいぐらいで済んでるし。

 

 何より、この異世界に来て、私に生きる意味ができたのだ。

 

 前世では考えられなかった。

 だから、この世界の神とやらには感謝している。

 

 ……その神を信仰してる教会が、私を目の敵にしてるわけだけどね。

 

「その……ありがとうございます。私達を助けて下さって」

 

 二人の男子の治療をしていると、シスターちゃんはぺこりと頭を下げてお礼を言ってきた。

 

 多分、十秒はフリーズしてた気がするな。

 だって、吸血鬼だって分かった上でこんな反応ができるとか、普通考えれば正気を疑うまである。

 

 前に教会の神官を助けた事があるけど、紅い眼と白髪が晒された瞬間、話も聞かずに浄化系の神聖魔法をバカスカ撃ち込まれて逃げられかけた。

 なんとか記憶を消(イキュラス・キュオラ)して事無きを得たけども、以来人助けの時も絶対に顔は出さないよう注意していたのだ。

 

 それがこんな形で普通に話せるなんて。

 やばい、ちょっと泣けてくる。

 

「……私のこと、怖くないの?」

「怖かったです。でも、今は怖くないですよ!」

 

 およ? と首を傾げると、彼女は意外な事実を告白した。

 

「え、えへへ……実は私、魔物に襲われたせいか、九歳以前の記憶が無いんです。村に拾って貰った時からとっくに物心ついてましたし、銀髪紅眼の吸血鬼の話を聞かされた時も、結局ただの伝説なんだな〜って、話半分にしか聞いてなかったんですけどね。そんな伝説の存在が急に現れて、オークを真っ二つにしたら、殺されるって思っちゃいますよ」

 

 割りと重い過去をさらりと口にできているのは、それこそ記憶が無いからなのだろう。

 

 なんとなく、この子の頭を撫でる。

 方向性は違えど、この苛酷な世界に振り回された者同士だ。多少なりとも労ってやりたかった。

 

 ぽへ? と可愛らしく首を傾げる彼女に、なんとも言えない暗い気持ちが湧いてくる。

 

「……じゃ、オークとこの二人も回収して村に戻ろっか。道案内頼める?」

「は、はい! 任せてください!」

 

 きちんと仮面とローブを被り、二人と一体を鎖で繋いで(レグスウルド・スタッガして)、村まで引き摺る。

 

 村に入ると、もれなく歓迎を受けた。

 フードに仮面と、いかにも怪しい風体だが、救ってもらった事への恩義が勝ったらしい。なんともまあ優しき村民性である。

 

 代わりに襲われていた彼女ら、アリシアとライガ、エドガーは大目玉を食らったようだ。南無三。

 

 あれこれしている中で、組合にオーク討伐の報告を飛ばしておいたが、ここは組合の支部から中々遠い場所にある。回収の馬車が来るまでは待機しなくてはならないので、当面の間はこの村にお世話になるつもりだ。

 

 その旨を伝えると、村長は自宅の一室を貸してくれた。怪しい客人にここまでしてくれるとは、底抜けのお人好しのようだった。

 思わず涙がほろりといきそうだったので、急いで部屋に入って、仮面を外す。

 

 手拭いで目元を拭き取り、ベッドに転がる。

 

 ……この世界で人の好意を貰う機会って、全然無いんだよ、本当に。

 

 皆が、自分が生きるのに精一杯で、助けても無言でどこかに行ってしまったり、身分の高さ故か、碌に感謝も言えないような傲慢な人々ばかり。

 

 アリシアの様な人物が育つ場所と考えれば、このどこか緩そうな風土にも納得がいく。

 この地獄のような世界で、いい場所もあったものだ。

 

 この日は、豪勢な夕食を仮面を着けたまま頂き、眠りに就いた。

 

 

 

 

「昨日はお前が助けてくれたんだってな! あのオークを一発で倒すとか、スゲェよ!」

「正直、あの時は死を覚悟していたんだ。……俺達の命を救ってくれて、ありがとう」

 

 昨日引き摺って村まで連れて行った男二人が、感謝を伝えに部屋までやって来た。

 

 彼らはライガとエドガーという名前だったか。

 冒険者志望の若者、という話は聞いている。アリシアによると、三人は自警団の手伝いをしながら、冒険者に必要な実戦経験を積んでいたようだ。

 

 そこにオークが現れたのだから、太刀打ちできなかったのも無理はない。

 

 まあ、無事で何よりと、口を開こうとしたその時、赤髪ツンツンヘアのライガが、ガバっと勢いよく、頭を下げた。

 

「その上で、スゲェ押し付けがましいってのは分かってるんだけどよ……頼む、俺達に特訓をつけてくれ!!」

「俺からも、どうかこの通りだ。こうして、リフィアさんのような実力のある冒険者に会う機会は滅多にない……この村に滞在する間で構わない。戦い方を、教えて欲しい」

「私で良ければいいよ?」

「無理だと言われるのは分かって…………え?」

 

 そうとなれば、二人の習熟具合を確認しなくてはならない。

 

 『身体』を司るシャレグの遺跡では、様々な武具の扱い方を教えられると共に、自身の魔力を身体能力に転化する『闘気』と、自分が持つ『闘気』の特性に合わせて必殺技的なものに昇華させた『闘技』の習得方法について伝授された。

 

 私が使える『闘技』は、《ブルート》という血を消費して発動する魔法的な術だ。吸血鬼が血流の操作を得意とする為か、それを発展させた技になっている。

 

 使い勝手は良くないけど、私の知ってる吸血鬼の伝承になぞらえた名前を付けたからか、バリエーションが幾つかあって、いざという時には役立つ。

 とはいえ、生命線の血液を失うし、本当に危なくなった時しか使えないから、出し惜しみしまくるんだけどね。

 

「ふげぇっ!?」

「オゴッ……!」

 

 早速、外に出て鍛錬という名の扱き(二十連戦)を敢行してみたが、剣技も拳技も粗削りで、このまま外に出すのは憚られる。

 

 ……ゴブリンの群れに囲まれただけで苦戦するなぁ、きっと。

 

 よし。明日は基礎から頑張ろう、二人とも。

 

「ちょっ……り、リフィアぁ……このまま置いてかないでくれぇ……」

「こ、これも鍛錬だ、ライガ……! アリシアの回復に頼り切りになるなと、言っていただろう……!」

「ちくしょおぉ〜…………!」

 

 男どもと戯れるのも程々にするため、鍛錬は午前で切り上げることにした。

 というか、あのボロボロさじゃ午後にまで引っ張れないしね……

 

 空いた午後の時間で、アリシアの元を訪れる。

 

 この世界でも貴重な、私が仮面を外して話せる相手だ。

 一日に一度は、会っておきたかった。

 

「あれ、リフィアさん? 教会でお祈りですか?」

「あ〜……うん。まあ、そんなとこかな」

 

 アリシアは、イーデルシア辺境司祭の養子として育てられたようで、教会に住んでいると聞いていたから立ち寄っただけ。

 まあ、神様を信仰してないと言えば嘘になるけど。

 

 こぢんまりとした木造の礼拝堂の中に、ローブをまとう厳しい老人の像が一つ。

 なんだかイメージ通りすぎて拍子抜けするぐらい、神って感じのする彫像だ。

 

「……世界は、広いですね」

「うん?」

「あ、いえ……リフィアさんと話してると、世の中って、本当に知らない事ばかりなんだなって、実感するんです」

「まだ旅にも出てないのに?」

「え、えへへ……そのう、この村、あんまり人が来る事なんて無いもので……四年くらい前に、ドルドールさんっていう凄腕の冒険者の人が助けてくれた時もありましたけど、商人さんもあんまり立ち寄りませんし……」

 

 それで世界の広さを実感するって、この村は随分閉鎖的みたいだ。

 でも、無理に外出ても魔物に襲われるだけだし、自給自足できているならその方が良い。

 

 ……そう。だから本音を言うと、アリシア達には、冒険者を目指してほしくないと思っている。

 

 吸血鬼と分かっていてなお話をしてくれるのなら、私にとって友人に等しい。辺境にある村だろうと、アリシアがいるのなら一年間のうちに何回も訪れたいと思える。

 

 ライガとエドガーにも、私が吸血鬼なのを打ち明けたいし、陽介も連れてきて、みんなで馬鹿騒ぎしてみたいのだ。

 

 だから、もし冒険で死んでしまったらと思うと、恐ろしくて……

 

「──リフィアさん?」

「……何でもないよ。それと、さん付けは要らないから、呼び捨てで呼んで欲しいな」

「えっ!? いいんですか? なら、リフィアって、呼んじゃいますね!」

 

 それに本音を言うなら、こんな健気で将来有望なプロポーションの国宝級美少女が失われるのは世界の損失だ。

 あの二人を鍛えるのも、アリシアを守ってもらうためにやってることだし。

 

 アリシアが無事に旅が続けられるようにしたかったのだ。

 

 身も心もすっかり女性らしくなった私だけども、美少女の価値観は何ら変わりない。

 

 ……もし、ここでアリシアに、冒険に出て欲しくないって言ったら、一体なんて言われるだろう。

 

 あまり、深く考えないようにした。

 

 

 

 

「本気でいくぜ、師匠!」

「今日こそ、技の極意とやらを教えてもらいますよ……!」

 

 もう、かれこれ二週間経った思うと、感慨深いものがある。二人の剣技と拳技は日に日に上達していき、剣の打ち込み方、拳の当て方、対人戦における駆け引き、フェイントの存在、連携の重要性などなど貪欲に吸収していっている。

 

 まあ、基本のキの字も知らなかったし、当然と言ってもいいくらいだが、確かに筋は良いと思う。

 

「でりゃあああ!!」

「気合いは良いけど、拳を振り抜く位置は常に意識して。拳は動きが分かりやすいから、相手がどの方向に回避しそうか、その先読みを重視すること」

 

 まあ、対人戦においては、ライガは専ら引き付け役だ。

 ついでに武器破壊に持ち込めれば万々歳、といった感じかな。

 

 魔物の掃討戦においては、拳撃はかなり優秀だけどね。

 

「あと、拳ばっかに頼らない」

「んげっ!?」

 

 踏み込んだ足元を引っ掛けて払い上げる。

 一丁上がりっと────そんでもって、ここかな。

 

 闘気を込めた掌で、背後から斬り掛かってきたエドガーの刀身を掴む。

 

「エドガーも。絶好の瞬間だからって、立ち回りの基本を忘れたら格好の的だよ」

「う、嘘だろ……」

「下半身への攻撃だったら、及第点だったね」

 

 でも、今の斬り掛かりは中々の威力だった。

 吸血鬼の腕力あってこそのガードだったし、並の冒険者なら躱すのが精一杯だろう。

 

「それに相手が隙を誘ってる時もある。隙を突く事が、必ずしも正解とは限らない」

「てか、全然離れ────うわぁっ!?」

 

 剣ごとエドガーを持ち上げて、ぴょいと放り投げる。

 

 この怪物じみた膂力に、鋼にも負けない耐久性。闘気を纏えるか否かで、何もかもが変わってくる。

 この異世界の戦士職が、魔法職に負けない理由だ。

 

 エドガー達はまだ未熟な闘気しか纏えていないが、たった二週間でここまで成長できるなら、私が居なくても自分達だけでぐんぐん強くなるだろうなぁ。

 

「し、師匠……やっぱおっかねぇな」

「……なあ。あの人、もしかしなくてもドルドールより強くないか?」

「それはねぇ! …………ねぇよな?」

「…………分からん」

 

 ドルドールなる人の事は知らないけど、私が強いのは、努力とか才能じゃない。

 

 私は、転移者の特典としてこの力を得た。

 謂わば、チートだ。それが私の強さを担保している。

 

 シャレグの祠では、時間が引き延ばされた精神世界の中で、武器や身体の扱い方みたいな戦闘経験を叩き込まれ、ジャトの祠で精霊との対話により発動する根源魔法を教わったが、これは転移者のみが手にできる力なのだ。

 

 その前から、ベテランの冒険者である育ての親(サリファ、キルロ)に戦いのイロハを叩き込まれていたけれども……うん、シャレグの祠での経験の方が役に立ってる。

 

 チートは虚しいが、こと現実においてはそうも言っていられない。本当に力があって良かったとさえ思う。

 でなければ、こうして教える事すらままならなかったのだから。

 

「ほら、早く立って! 闘気の訓練したら、お待ちかねの〝身技〟教えるよー!」

「「いよっしゃあああ──っ!!」」

 

 さっきまでの消沈具合は何だったのか。水を得た魚みたいに、たちどころに元気を取り戻した。

 

 この世界に来たての私も、はしゃいでたなぁ。

 魔法もあって、必殺技が使えて……最初こそ絶望ものだっけど、これぞ異世界ファンタジーって感じで、まだ純粋な気持ちでいられたあの頃が。

 

 まあ、もう二十歳超えてるし、流石に分別くらいはあるけど。

 

「オレ、どんな技使えるんだ!? 地面叩いたらパッカリ割れたりするのかっ!?」

「こればっかりは、ライガの闘気の特性次第だよ。体系化された魔法と違って、闘気は個々人にしか分からない事の方が多いから」

「自分の闘気の特性、か。まだサッパリだな……」

「そこはもうちょっと、闘気の扱いに熟達しないとね」

 

 でも、そろそろ技が開花する日は近いと見た。

 私が居なくとも、鍛錬を続ければ自然に使えるようになるはず。

 

 二人がボロボロになる頃には、ちょうど良く太陽が天辺まで登る頃合だ。

 この地域の今の時期は夏場っぽいので、太陽が眩しい。仮面越しでなかったら、目が痛くなっていたところだ。

 

 この村でお昼ご飯という文化は存在しないので、

 

 アリシアはいないようだが、神像の前で、手を合わせるシスターさんが一人。

 

「まあ、今日もいらっしゃったのですね、旅のお方」

「ええ。日課なものでして」

「それは良い心掛けです。貴方の旅路を、神は真摯に見守って下さるでしょう。どうか、ご加護の在らんことを」

 

 イーデルシア辺境司祭。

 アリシアの育ての親だという高齢の女性……高齢なの? 本人曰く60過ぎらしいが、絶対嘘だ。三十代でも通じる若々しさがある。

 

「ところで、アリシアはどこに?」

「あの子でしたら、今し方出掛けていきましたよ。なんでも、冒険者の組合員さんがいらっしゃったそうで」

「……はい?」

 

 ギルドはそろそろ来るだろうな、とは思っていた。

 そこには何の驚きも無い。

 

 ただ、ただね? アリシアちゃん。

 そうと知ったのなら、私に一言声掛けてくれてもいいと思うんだ……

 

「ふふ、あの子も焦っているのでしょう。アリシアをあまり責めないであげてください」

「サラッと心を読んできますね」

「でなくては、司祭など務まりませんよ。迷える信徒に、裡に秘めた苦悩を神の御前で懺悔してもらう事こそ、我々のお役目なのですから」

 

 それ、多分司祭さんレベルの仕事じゃないからね……?

 

 この人が高位神聖魔法を使ってきても、私は全く驚かない。

 

 というか、中央と反りが合わず左遷された元○○、みたいな強キャラ感があると思うんだ。陽介だってきっとそう言う。

 この人、隠しキャラとかそういう立ち位置だよ。

 

「ですが、旅に出られるのでしょう?」

「ええ。人探しをしているもので」

「ならば、貴女にこちらを」

 

 いつの間に手に持っていたのか。

 指輪も入るかどうか、そんなサイズの赤い小箱を手渡される。

 

 小粒の紅い宝石と金の装飾がなされていて、魔法の力を微かに感じる。

 

 何かの魔道具が入ってそうだけど、今開けたら……ダメかな?

 

「その導は、貴女が自分の在り方に迷った時に役立つはずです」

「……ん? 在り方、というのは」

「時が来ればお分かりになりますよ。それまでは大切に持っていてください」

 

 在り方。

 まるでピンとこない。

 

 でもまあ、便利アイテムなら貰っておくに限るね。

 根性札とかスケープドールみたく、いざという時に効果を発揮してくれるかもしれないし。

 

「わざわざすみません、こんな物まで……」

「いいえ、これは私の善意ではありません。全ては神の御心のままに、為すべき事をしたまでです」

 

 これだから、聖職者っていう人達は好きになれない。

 神様より司祭さんに感謝してるのに、全部が全部神様の啓示とかで、敬意を払う対象をすり替えさせてくる。

 

 まあ、この世界は神様が介入してくるから、仕方ないんだろうけど……ぐぬぬ、モヤモヤする。

 

「またいつか、ここに来ますね」

「ええ……百年はお待ちしておりますから、其の内にぜひ」

「いや百年も待たせませんよ!?」

 

 思ったより、かなりお茶目な人だったんだろうか。

 可愛いらしく八重歯を見せて、笑顔で見送ってくれた。

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

 ギルドの馬車はすぐに見つかった。

 村の中広場に人集りができていて、やってきた冒険者達の姿を見物しているようだった。

 

 私がやって来ると、それに気付いた人達がズザザッと海割りみたく分かれる。その速度たるや、かの有名な集団行動でも見ているかのよう。

 

 ……しかも、道を譲った人々の顔がニッコニコだよ。怖い。

 

「あっ、白仮面さん!」

「どうもっす!」

「おいバカ、白仮面さんの前だぞ、寝るな!」

「……んがっ」

 

 厳つい冒険者四人組が、私を見るなり挨拶してきた。

 なんか妙に舎弟っぽいんだけど、そもそも初対面だよね?

 

「やっぱ師匠って強えんだなぁ……」

「冒険者の中でも一目置かれているのか……流石は師匠だ」

 

 いや、こちとら冒険者歴五ヶ月半のぽっと出だよ。

 そんなに他の人から意識されてると思った事ないんだけどなぁ……どこかでテンプレムーブかましたっけな?

 

 まあいいや。ちゃんと指示に従ってくれそうなら、文句は言わないし。

 

「それじゃ、ギルドまで戻ろっか」

「ハイっす!! ……オラ、白仮面さんのご命令だ! とっととオークを積み込むぞ野郎共!」

「「ソイヤッ!」」

「うぃーす……」

 

 なんか勝手にやってくれてる様子をボーっと眺めていると、肩をトントンと触られた。

 

「……もう、帰っちゃうんですか。リフィア」

「まあね。あんまり、長居するつもりはなかったんだ」

「それって、やっぱり人探し……ですよね」

「うん。探してないと絶対会えないから」

 

 アリシアや、二人には悪いとは思う。

 私も、もっと居たいとは思うけど……

 

「……っしゃ! 白仮面さん、準備できましたよ〜!」

 

 陽介は命の恩人だ。

 それに、リフィアとしての人生で、初めてできた友人なのだ。

 

 彼の隣で、旅がしたい。

 このどうしようもない世界を、見て回りたい。

 

 だから……一緒には、居られないんだ。

 

「行くんですか、師匠……」

「おまっ、エドガーも引き留めろよ! 特訓はどうするんだよ師匠! 俺ら、まだ技も見せられて────」

 

 二人の頭をわしゃわしゃと掻き回す。

 

 本当に、出来の良い弟子で……素直で、教えがいもあった。

 二人が、私にとっての初めての弟子で良かったとさえ思うくらいには、気に入っていた。

 

 最初なんか、アリシアが傷つかないよう護衛として鍛えるっていう、割と下衆な理由だったのに。

 

 ……ははっ。やっぱり、寂しかったのかな。

 

「二人が身技を習得したら、三人で冒険者として出ることを認めます。……だから、もう二人の師匠じゃなくて、これからは仕事を取り合う同業者になる。これからはリフィアって、呼び捨てにする事。敬語もナシ。分かった?」

「っ……そうか。次会う時は、最高の技を見せてやるさ」

「おうよ! 強くなりまくった俺達見て、ビビるんじゃねえぞ」

 

 なんともまあ、勇ましいことだ。

 微笑ましさすら覚えながらも、そんな男衆から手を放し、俯いたままのアリシアに目線を合わせる。

 

「また会えるよ。冒険者になって、世界を見て回ってたら、絶対に」

「……世界って、すっごく広いですよね。何年とか、会えない事も、ありますよね?」

 

 その目に、雫が浮かんでいる。

 別れを惜しむように、ぐっと堪えていた。

 

 たった二週間の付き合いで、ここまで懐かれるとは予想だにしなかった。

 世界から忌み嫌われる吸血鬼族なのに。そんな正体すら知っているのに。

 

「あはは……そうだろうね。私だって、人探しを半年もしてるけど、足取りもつかめてないや」

「じ、じゃあ、今すぐ私達を……!」

「──それはダメ」

「っ!!」

 

 口に出して、後悔する。

 語気が強まってしまった。私の旅に付いてきたら、きっと命がいくつあっても足りない。

 

「ごめん……三人とも連れていける余裕が、私には無いから」

「……私達じゃ、足手まといですもんね」 

 

 違う……とまでは言い切れないけど。

 そういう事を、言いたい訳じゃなかったのに。

 

 でも、これは私のせいなんだ。

 面倒を見切れず、責任を放棄しようとしている。本当に酷い師匠もいたものだ。

 

 どこまでも、自分のエゴでしかない。

 

「三人を、旅に連れて行けない……その代わりと言っても、なんだけどね」

「はい?」

 

 自分の服の襟元に手をやると、かちり、と着けていたものを外した。

 

「はい、これ」

「……ええっと、これは」

「ブローチだよ。多少だけど、魔法が掛かってる。私の父の形見」

「────えっ!? か、形見って、ええっ!? そ、そんな大切なもの受け取れませんよっ!」

「いいのいいの。昔からこういうの作ってたから、実は結構あるんだ」

「そ、それでも、お父さんとの大切な思い出が、ここに……」

 

 妙に拒否られてしまった。

 形見、といってしまったのがまずかったかなぁ。

 

 でも、遺跡探索で出土した宝石やら魔物の素材を加工してアクセ作ってて、沢山あるのは本当だし……

 

 ……あ、そうだ。ならこうしよう。

 

「じゃあ、また私と会えた時に返してくれればいいよ。それまでって事で」

「…………分かりました。必ず、お返ししますからね!」

「あ、うん。……折角だし、私が着けてあげるね」

 

 ささっと着けおえると、アリシアが首を限界まで下げようとして踏ん張ってる。かわいいなぁ。

 

 鏡なんて上等な代物は持っていないから、池とかで見るしかないだろう。

 

「……ええと。似合ってますか?」

「いいね。アリシアの瞳の色と同じだから、似合わないはずがないよ」

 

 紫色の宝石を嵌め込んだ、逆さ五角形のブローチ。

 いつか……いや、居候し始めたばかりの頃に、サリファが作ってくれたアクセの一つだった。

 

 その瞬間、私の視界はサリファを見上げていた。

 自分の手元に、新品同然の同じブローチを持ったまま。

 

『……どうして、おれに、これを』

『親父が探索した遺構の伝説によると、どうも紫は王様の色だったらしいぜ。色で階級を区分けしてたんだから、太古の昔は不思議なもんだよなぁ』

『紫……王の色?』

『ほら、それでお前って見るからに気品があるだろ? 偶々拾ったコイツをどうしようか悩んでた所で、丁度よくお前が来た。イメージにピッタリ合ったから、ものは試しにと作ってみたっつうだけよ。ほら、遠慮すんなっての』

 

 記憶の精霊の悪戯だろうか。

 そんな、懐かしくも、あれから未だ数年しか経っていない日々のイメージを脳に焼き付けてきた。

 

 鮮烈に、昨日の事だったかのように蘇る記憶。

 子どものように泣き喚いて取り戻したいと願った、あの日常の……

 

「えっ、はぁっ!? テメ、アリシアずりぃ! 俺もリフィアから貰いたかった!」

「あ、あんた達は特訓つけてもらったからいいじゃない!」

「寧ろ特訓を耐えきった褒美として何か欲しいんだが……」

 

 恥も外聞も捨てて泣き出そうとしていたら、三人が大騒ぎの喧嘩をし始めていた。これには、冒険者の男達も慌てて宥めようとして……あ、誰か吹き飛んでった。

 

「て、テメェ! 白仮面さんの知り合いだからって、仲間を蹴り飛ばしてタダで済まそうってぇんじゃねぇだろうなあ!!」

「ま、まあまあ。お仲間さんは私が治すし……あとは、ね?」

「あっ……あ、あざーっす!」

 

 必殺、袖の下。

 金貨一枚をぽろりとして見せると、リーダーさんは90度の直角お辞儀で感謝してきた。ここまで小物ムーブを徹底されると、尊敬の念すら覚えてくる。

 

「き、今日の所は白仮面さんに免じて不問にしといてやるぜ。気を付けるこったな」

「いやリーダー……あいつ回収しにいかなくていいんすか」

「……良いわけねぇだろうが! お前も来い!」

「うわ、マジだりぃんですけど……」

 

 ……しかし、そっかあ。

 

 一人って、やっぱり寂しいんだなあ。

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

「……じゃあ、もう行くね」

 

 あの大喧嘩を終わらせるため、結局ライガには身体能力に少しだけブーストをかけてくれるガントレットを、エドガーには、細身ながらそこそこ威力が出せる両手剣──銘はヘルシュレッダーにするらしい──を譲る事になった。

 

 それら二つを入れていた、異世界便利グッズ代表、魔法の力で沢山入る収納袋も含め、全てが父サリファの生家カルネイア家の遺産だ。

 

 ……私、今相当ヤバい奴なのでは?

 

 今更ながらに思う。

 譲り受けた遺産を他人にあげてるの、凄く嫌な事してる気がしてならない。

 

 なるほど。確かにアリシアが拒否するわけだ。

 あくまで貸し与えてるって思ってないと、父達を裏切ってるみたいで心が辛くなってくる。

 

 なんかもう、深く考えたら駄目な気がした。

 

「行きますぜー」

 

 リーダーさんの掛け声で、馬車が動き出す。

 

 村人の大勢が手を振って送り迎えてくれる中だったが、やっぱり三人がよく目立って見えた。

 

 ……っていうか、そんな前出てきちゃ、普通についてきてるようなものでしょ。

 

「私、リフィアぐらいに強くなってみせますからーっ!!」

「期待して待ってるよ! 二人も、アリシアに負けないでね〜!」

「いや流石に僧侶には負けねぇーから!!」

「……アリシアの事だから、ワンチャンありそうで怖い」

「は、はぁ!? でも、流石に…………なあ?」

「も、もぉー! ライガもエドガーも、痛い目見ないと分からない!?」

「「いや、マジ勘弁っす……」」

 

 滞在の締めが、普段通りの幼馴染ムーブで安心した。

 お別れは、やっぱりこれくらい明るくないとね。

 

「じゃあね〜みんな〜! バイバ〜イ!」

「また会いましょう〜!!」

 

 

 

 

 

 

 とまあ、盛大に送ってもらって、馬車で一息ついた頃。

 

「白仮面さんって、なんかわりと可愛い人なんすねー……」

「ゔっ!?」

 

 マイペース君の一言で、私の冒険者のイメージに、修復不可能な瑕疵が付いた事を自覚した。

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

 ……これから先、次に会う事になるのは、実に二年ぶりになる。

 

 まさか、勇者パーティが三人だとはつゆも知らずに、その間エルフとの殺し合いと遺跡調査と陽介とのぶらり旅をしていたら、あっという間に、時間だけがすっかり過ぎていた。

 

 大体、リュシディオンの王都上空で巨大な竜が現れた*4とか言われてたぐらいの時だっけ……

 

 そう。

 そんな間に、アリシア達が規格外の強さを手に入れてるとは、まるで思いもしなかったのだ。

 

 

*1
TIPS

本作三話冒頭および十二話

*2
TIPS

本作七話冒頭

*3
TIPS

金の意匠が施された白い仮面。瞳の色を自由に偽装でき、着けるだけで顔面へのダメージを吸収できる。

*4
TIPS

第四巻 p103

アニメ#8『俺の知る最強の生物に変身して切り抜けたんだ』




次回でアリシア編と、あとメイベル編を完結させます()
メ「えっ」

そこまで急いでやんないとね……ほ、ほら、現代編に進めないから……(盛大な以下略)
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