異世界おじさんvs異世界TS娘 作:SEGA機未プレイお兄さん
『フィリア・ドラクリア・ダキアの名において、今ここに、血の契約は成った』
神剣の所有権移譲。
凍神剣、王神剣がそうであるように、喰神剣にもその権能は存在する。
ただし、喰神剣は吸血鬼でなくては扱えない。
普通の人間に渡れば、またたく間に生気を吸いつくされてしまうのだ。
『私は先に行ってる。遅れても知らないからね……スイ』
『抜け駆けなんてさせないわ。すぐに、追いついてみせる』
だが、彼女になら扱えるはずだ。
古の時代から、吸血鬼族と長きに渡る友誼を結んだ、エルガ王族の末裔である彼女にならば。
『……独りになんて、させないから』
空間の綻びから垣間見える、鎌を携えたその姿は、私よりも様になっている気がした……──。
「……まだ返してもらってなかったっけ」
朝食を作りながら、今朝見た夢の内容を懐かしんでいた。
現代日本で必要になる事は無いだろうが、父さんの形見である以上、できれば持っていたいものだ。
「早いわね」
「おはよ、スイ」
寝惚け目をこすりながら、くあっとあくびをしている。
家の中でも、最も生活リズムがきっちりしている。
真っ先に起きてくると思った。
「なんだか美味しい匂いがするわ。リフィアが作ってるの?」
「うん。大したものは作れないけど」
「……何か手伝うわよ」
「大丈夫。座って待ってて」
起きることを見越して、あらかじめ用意しておいた紅茶を淹れてやり、オニオンスープ作りに戻る。
「……その」
「ん、なーに?」
「…………告白、邪魔したの、謝る気は無いから」
「ふふっ、なにそれ。別に気にしてないよ」
本音を言えば、思う所は無くもない。あのまま押し切れていれば、あるいは恋仲へと進展していた可能性もあった。
でも、きっとこれで良かったのだと思う。陽介があの場で答えを出さなくて、正解だった。
あのまま関係が続いていれば、破綻する予感さえあったから。
「これから、四人でまた最初っからって感じかな。まあ、好感度に多少の差はあるけど」
「それ、さり気なくマウント取ってるわよね」
「マウントなんて言葉どこで覚えた……?」
「貴女の日本語知識からに決まってるでしょ」
だが、そんなネットの用語を使うスイに、からかう様は見受けられない。
紅茶を啜り、じっとテーブルに視線を落としている。
「……私ね。リフィアが羨ましいわ」
「…………」
「同郷だから話も合って、仲も良い。素直に感謝と好意を伝えられる。私なんて、陽介と面と向かうと、何だか気恥ずかしくなっちゃって……あんな嫌味ったらしい事しか言えないもの」
それはどうかな、と少し思う。
陽介が変化の魔法を使って姿を借りる時は、スイになるのがその証拠だ。
多分、私は友達以上の存在として見られていない。
そういう意味で、彼女は私より数歩も先を行っている。
このマイナスの好感度がひっくり返るような事があれば、この四つ巴の勝負の様相は一変するだろう。
「……羨ましいでしょ?」
「そう言われるとムカつくわね……」
お皿に朝食を盛り付けながら、スイにドヤる。
⋯⋯とはいえ、陽介がスイに向けているだろう強い想いを、素直に教えてやる気は無い。
いつかは自力で気付いてしまうだろうし、私だって、多少有利に事を進めたいという邪な感情はあるのだ。
「はい、どうぞー」
「……こういう料理も、私にはさっぱりだもの。リフィアみたいな人を、日本では〝良妻賢母〟って言うんでしょ? ずっと貴女を見てきたけど、私じゃこうはなれる気がしないわ」
「それはセルフネガキャン激しすぎ」
こんなパンと付け合わせとスープ、みたいな雑な朝食で褒められてもとは思うけど、ここまで卑下されると、流石に物申したくなる自分がいた。
「私はね、スイが羨ましいよ。なんていうか、私より友達してるっていうか、悪友っていうか……もっと私も雑な扱いされても良いんだけどなぁ。なんかこう、物足りない」
「全体的にイラッとくるわ、その物言い」
「結局は、隣の芝生は青いって事なんだろうね」
あの一世一代の告白で、キッカケは与えられた。私が好意を持っているということを、陽介は自覚してくれたはず。
だから、もうただの鈍感ではいられない。じきに、スイ達が好意を持って接しているという事も、自覚し始めることだろう。
「ねぇ、リフィア……それならどうして、私達を日本に……」
「はいはい、その話は四人で集まってから。冷めない内に食べないと、怒っちゃうよ」
何か言いたげなスイの言葉を遮って、私も朝食に手を付ける。
……友達だから、だけじゃない。
私は多分、ずっと……〝俺〟を、好きになれないから。
陽介が好きでも、陽介には、私を好きになってほしくないのかもしれない。
私より、もっと、幸せにできる人がいるのなら……
「勝負を降りる、だなんて言わないでしょうね」
一瞥すら向けずに、スイは優雅に紅茶を啜る。
私の思考を遮るような、絶妙なタイミングだった。
あのやり取りで全てを察したというのなら、以心伝心にも程がある。
「…………スイって、私のこと好き過ぎじゃない?」
「ち、違うわよ! リフィアって妙にヘタレだし、優柔不断で思い切りが無いから、勝手に遠慮し始めるでしょ? それさえ分かれば、あとは何考えてるかなんてお見通しよ」
まあ、私もスイの考えてる事はかなり分かるけど。
脳筋で病みっ気の入ったツンデレの思考パターンはとても単純なのだ。
……これはもう結婚すべきでは?
「私も大好きだよ、スイ。私の可愛い親友」
「恥ずかしい事言わないでくれる!?」
「……じゃあ、私の事、嫌い?」
「ゔっ……嫌いなわけ、無いでしょ」
「なら、相思相愛だよね」
「う、うー! もうそれで良いわよ! 好きって言えば良いんでしょ!」
可愛いなぁ、んふふ……
もじもじするスイに顔をニヤけさせながら、パンをかじる。
……陽介が好き。この気持ちに偽りは無い。
だけど、スイも好きだ。一番長く居て、苦楽を共にして、私の孤独を理解してくれる唯一無二の親友だ。そんな親友の恋路を応援したいという気持ちに嘘は無い。
それを言うと、メイベルも好きだ。返しきれない恩が作ってしまったし、いつも引っ込み思案で出遅れてしまう彼女の恋は、ついつい背中を押してあげたくなってしまう。
アリシアだって、好きだ。教え子にそう思わない人間は普通いない。陽介といる時、いつもニコニコと嬉しそうにしていて、あんな純粋な彼女を任せられる人間は、陽介ぐらいなものだろう。
私がここに入る余地も、資格も、勇気も、何もない。
「……私から言わせればね。親友の恋を成就させたいって思うのは、私だって同じ。陽介に、リフィアを好きになって欲しいし、付き合って欲しいとも思う」
だというのに、そんな事を言われたら、もうどうしようもないじゃないか。
「それは、メイベルやアリシアもそう。この四人の付き合いの長さ、知ってるでしょ?」
「……それは、そうだけど」
「なら遠慮なんてしないで。もっと自信を持って。誰が何をしようとも、負けが出てくるのは当たり前。だからこそ、友人を思うなら、全力で勝ちに行きなさい」
……まだ、懸念が一つある。
私が、どうしてもその一歩を踏み出せない理由。
「負けたら、どうするの?」
「負けたら……そうね」
スイが食器を置いて、背凭れに腰を深く落とした。
天井を眺めながら、肩を竦める。
「この家には居られないでしょう? 負けた三人で身分証ってのをなんとか偽造して別の家に住むか、大自然でゆっくり暮らすわ」
「それ、結構無理難しいの」
「そ、そうなの?」
今や大自然すら誰かの所有物の時代。
それこそアフリカあたりの生活になるだろうし、地球に来させておいて、あまりに心苦しすぎる。
「うー……やっぱり駄目だって。なら、責任持って私が皆を連れてく事になるし、勝負には乗れない」
「そんなの八方塞がりじゃない! もう、どうすればいいのよ……!!」
二人して頭を抱えた。
なるほど、無理難題に挑戦する人の気持ちがよく分かった。
でも、実際問題どうにもならないのが現状である。
「……陽介を四人に増やせないかしら」
「その案は前にポシャったの覚えてない? 禁忌の魔道具だからって」
「あー、そうだったわ……もう、諦めるしかないのかしら」
虚無顔で朝ご飯を頬張ろうとすると、突然引き戸が開いた。
「諦めるには早いよ、リフィアさん、エルフさん」
「敬文くん!」
スチャッ、と眼鏡を持ち上げた敬文くんは、まるで頼れる参謀のように私とスイ⋯⋯エルフの間に立つと、バシィッと紙をテーブルに叩きつけた。
「もう、これしか無いと思うんだ」
「敬文くん、食べ物乗ってるのにテーブル叩いちゃ駄目だよ……?」
「あっ、ごめん」
まぁ、それはそれとして、敬文くんが置いた紙に目を滑らせる。
「……おじさんハーレム計画?」
「そう。もしエルフさん達が来た時の事を元々考えてたんだ。全員が、納得のいく結果にする為には、これしか無いと思う」
その紙には、計画の仔細が書かれていない。
大雑把に、どういう段階があるのかが示されているだけ。
「今日、四人で集まる予定だよね? だから、これをメイベルさんとアリシアさんに共有しておくように。そうしたら、本格的に計画の立案と、〝正妻戦争〟のルール説明ができる」
「……なんだか不穏そうな名前出すじゃない」
〝正妻戦争〟。
このハーレム計画と同時並行で進められる、仁義アリの平等な勝負である。
いやでも、なんか不純な動機が混ざっているような……
「……もしかして、これ動画にする気?」
「もしかしても何も、元よりその予定だけど」
「悪い意味で、君もユーチューバーになっちゃったかぁ」
なんつー野郎だ、と敬文くんの抜け目の無さに戦慄する。
恋愛は最高のエンタメだ。恋リアなんてものがこの先流行ってくるぐらいには、ネタとして強い。
「人の恋路は見世物なんかじゃないんだけれど? 私は反対よ」
「……エルフさん」
「……何よ、たかふみ」
「これまで自分からアピールして、一度も上手くいった試しがあった……?」
「………………そ、そんなの、い、一度くらいは…………一度、くらい………………ううぅ……っ」
やめてくれ敬文くん。
それは私にも効く。
「僕が思うに、恋愛にもテコ入れが必要なんだと思う。動画と同じで、これまでのやり方は、おじさんにとってもうマンネリ化して飽きられてる。だからこれは、エルフさん達の為でもあるんだよ」
「それっぽい事言って誤魔化してない……?」
「いやでも、皆の事を考えてるってのは本当だから……! このハーレム計画も、藤宮が協力してくれてる」
おじさんハーレム計画のページを繰ると、収益の還元についてと、高丘家大改造計画と題された項目が出てくる。
「僕の家って、貸しアパートな上にそこまで広いわけじゃないから、六人も住んだらかなり狭いでしょ? だから、YouTubeで稼いだ資金を使って、いずれは一軒家を建てようと思うんだ」
「それいいじゃない! ここ狭苦しいし、別の場所に住みたいと思ってたの!」
私の故郷である東京都、特に二十三区に住む人間の大半が買うのを諦めるもの……それが家である。
土地だけで一億行くなんてざらにあるし、ましてや家族が住むような家なら広さも欲しいけど、あまりに土地が高過ぎる。
それと比べて、福岡の地価は多少なりとも低いといっても、家まで建てたら相当な額行くだろう。
しかも将来的には、こ、子供だって……できるかも、しれないし、本当に広くないと後が困ってしまう。
「正直、何年掛かるか分からないけど、それでも、故郷に帰れないって分かってて日本に来てくれたんだから、皆には、幸せになって欲しいんだ」
「敬文くん⋯⋯」
なんて出来た子なのだろうと、ちょっとウルッと来てしまった。連れてきた私にだって責任はあるというのに。
なら、私だってその恩返しをしなくちゃならないよね?
「藤宮ちゃんとの仲、このゴタゴタで進展してないでしょ」
「⋯⋯!? そ、その、それはなんというか」
「へぇ、ふ~ん? たかふみ、あの女の子に気があったのね?」
エルフは恋愛出歯亀の女王だ。色恋と知れば鼻息を荒くしてちょっかいをかけてくる。
しめしめ、うまくいった。エルフが関わった恋愛は成就率100%という驚異的な記録を誇る。いわば恋愛の神様だ。
作戦内容はいつもしょうもないけど。
「たかふみ、貴方はハーレム計画について考えておきなさい。私達の方は、あの子との恋愛大作戦を考えておくから」
むん、と気合いを出すエルフを傍目に、敬文くんがそっと耳打ちしてくる。
「⋯⋯任せて本当にいいの? これ」
「大丈夫大丈夫、いざとなれば私もいるし」
「なら大丈夫かな」
いや、私へのその信頼は何だ。
敬文にも出来立て朝食を出してやると、陽介が起きてきた。
「ふあっ⋯⋯ああ、お前ら起きてたのか」
「おはよう、おじさん」
「今日は遅かったじゃない」
「ここんところ、部屋の整理なりで忙しかったからなぁ。俺も歳を食って体力が落ちてるからか、疲労で溜まるとどうも起きれん」
「おじさんもアラフォーだしね⋯⋯」
寄る年波には勝てないのが人間の運命だ。私、人間じゃないけど。
うぅ⋯⋯精神ばかり歳を取っていく。将来イタい人になりそうで怖い。
「ほら、メイベル。早く起きてください。朝ご飯できてるみたいですから」
おじさんに続き、アリシアがメイベルを引き摺って出てきた。
かれこれ十年以上の仲になるメイベルの扱いは、アリシアと言えども多少雑になる。どんな環境でもヒエラルキーが最弱になる不憫な子だ。とてもじゃないがアラサーには見えない。
「うう〜ん⋯⋯私はいま、ナイトディメンションにいるから起きれない⋯⋯ウルフが言ってた⋯⋯人は眠ると、意識がナイトディメンションに飛ばされるんだって⋯⋯」
「⋯⋯そうなんですか? クロキ」
おい、なんつうデマ吹き込んでるんだ。
それ絶対ゲームの話でしょ。
「そうだぞ。なんと言っても『Ni〇HTS』は、セガサターンが誇る64ビット級CPUをフル活用したポリゴンと美麗なグラフィックで、夢の世界観を表現した名作でな⋯⋯いや、もちろんアクション要素は空中版ソニックと言うべきレベルで完成されていて⋯⋯」
「こらこら、喋ってばっかだとご飯冷めるよ?」
「おっと、つい喋り過ぎたな」
「おじさん、セガの事になるとすぐに熱くなるもんね⋯⋯」
それが陽介という生き物なので、致し方ない。誰かが管理しなくてはならないのだ。なお管理役は、主に私とエルフである。
「うーん⋯⋯クロキの話、日本語を覚えても全然理解できないですね」
「そお⋯⋯? リフィアの記憶でふわっと理解できるけどなあ⋯⋯ぐぅ⋯⋯」
ぐぅ、じゃないよ。目の前にご飯があるのに寝ようとするその胆力はどうかしてると思う。もう十二時間ぐらい寝てるでしょ、君。
「あっ、また寝てようとしてる⋯⋯! すみませんエルフさん、お願いできますか?」
「私もそうしようと思ってたところなの。⋯⋯んんっ」
エルフが息を吸う。私はそっと耳を塞いだ。
「メイベェェォル!!」
「──うひぃっ!? 起きる起きます起きましたぁッ!!」
完全覚醒と同時に、手を合わせてから飯をかっ食らうメイベル。いや起き抜けにそんなガツガツ食うのは、流石に胃もたれすると思うんだけどなぁ⋯⋯
「ナイトディメンションから帰ってきたか⋯⋯ナイトピアにいたか? それともナイトメアだったか?」
「ふふ⋯⋯ナイトメアだったよ。毎日毎日、来る日も来る日もケーキを作って味見しまくって、接客してケーキを売って⋯⋯そんな地獄の日々だった」
「ああ⋯⋯そりゃナイトメアだな。週五日も電車に寿司詰めにされるなんて地獄だよ⋯⋯」
「え? 地獄⋯⋯? 普通じゃない?」
「え?」
「ええっ?」
東京ならそんなの当たり前だけどなぁ。
八時なんて、途中駅で電車乗ろうものなら、人を押さないと入れない。電車は座るものじゃないのだ。
「ほら、早く食べて今日のやる事まとめましょう。時間は有限なのよ」
「あ、アリシアとメイベルも食べ終わったらシンクの中置いといてね。後で洗っとくから」
「ん、私食べ終わったよ! リフィアあげるー」
「えっ、メイベル早くないです⋯⋯!? 私まだ半分も終わってないのに⋯⋯」
「アリシアさんは食べ始めたばっかだから、もう少しゆっくり食べてもいいと思うよ。僕もまだ残ってるし」
「で、ですよね!」
なんだろう、この一家団欒感。
凄く楽しいというか、ワクワクする。
「賑やかってのも、中々どうして悪くない」
「まあ、この面子だからね。もう十年来の付き合いなんだし」
「だろうな。見知らぬ他人じゃ、こうはいかなかった」
問題は山積しているが、今はただ、この幸せを二人で噛み締めたい。
「陽介は、日本に帰ってきて良かった?」
「ああ⋯⋯大満足だ」
「ふふっ、私もだよ」
そっと、コーヒーカップで乾杯した。
○ ✕ △ □
2018年10月6日。
事件は起こった。
「このっ、くそっ⋯⋯」
「ぷっ、わっひゃひゃひゃ!! そうれ見たことかオークがお君! 我の方がずっと早いぞ!!」
「おまっ、慣れんの早すぎんだろ!! 俺のソニックが、ソニックが負ける訳ないんだ⋯⋯!!」
エルフさんが困惑しつつ魔道具を展開し、メイベルさんが凍神剣を構え、アリシアさんは救世のワンドの力を解放しようとする。
おじさんの隣に、リフィアさんが座っていた。
しかしその様子は、あまりに彼女とかけ離れていて。
あの喋り方は、紛れも無く、奴だった。*1
「ん? おー、ようやく来たか〝ひろいん〟諸君。まったく、待ちくたびれる所だったぞ?」
にやり、口を裂き、奴は嗤う。
────我、ヤマトの地にて再臨せり
それは、まぎれもなくヤツだとおもいます。(コブラ並感)
そんなヤツを知らない人々のためにぃ、な番外編もご用意するので、原作未読勢の方々、許し亭許して⋯⋯
ネタバレされたくない方は、アニメの続きからでもいいので原作買って読むんだよぉ!!(ダイマ定期)