異世界おじさんvs異世界TS娘   作:SEGA機未プレイお兄さん

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マガツ編その1です。でもマガツはミリしか出ません。(迫真)

内容は端折ってる(主におじ×エルのイチャイチャシーン)ので、単行本見ろよ見ろよ⋯⋯(隙あらばダイマ)


今日は最高の日かもしれん リフィア=カルネイアの軌跡3

 

 

 翌朝、私が起きると、隣で寝ている陽介にエルフとメイベルが引っ付いていた。*1

 

 ……何があったのか全く思い出せないんだけど。

 

 陽介の覚醒と共に、わーきゃーワオーンし始めた三人を他所にして、私は収納魔法から赤い小箱を取り出す。

 

 数年前、イーデルシア辺境司祭から、何か迷いを感じた時に役立つと言われて渡されたものだ。その小箱の蓋に嵌められた宝石から、何やら光が生じている。

 

 開けてみると、中には複雑な紋様が刻まれた丸い宝玉が入っていた。

 手に取ると、真っ赤なレーザーがある方向を指し示している。

 

 その方向に進んだ先に、一体何があるというのか……なぜ、今になって光りだしたのか。

 

 あの心優しい司祭のことだから、意味があることなんだろう。

 

「わ、リフィアなんかすごいの持ってるね。それ何に使うの?」

「うーん……自分探し?」

「ショボくない?」

「こらこら」

 

 その後、陽介の提案で朝飯を食べることになった。

 

「私、メイベル=レイベール。氷の一族の末裔で、今は冒険者志望かな。よろしくね」

「……私は……今更だ。エルフで良い。今、郷里の外にいるエルフは私だけだしな。散逸した古代魔導具の探索と回収が任務だ。よろしく」

「ウルフガンブラッドだ。故郷に帰るための手がかりを探す冒険者だ。よろしく」

「「「ウ……?」」」

 

 私に呼ばせてる偽名(フォウ)はどこへ行った。

 

「えっと……私はリフィア=カルネイア。普段は隠してるけど、一応、吸血鬼族……です。普段は考古学の仕事をしていて、今は、自分の種族が滅んだ謎を確かめるために、遺跡探索をしてます」

「あー、なんか不思議だと思ってたけど、リフィアって吸血鬼族だったんだね」

 

 私の正体を知ってる陽介やエルフはともかく、メイベルまで薄い反応をするものだから、私は軽く引いた。

 いやでも、この世界で化け物扱いされてる陽介と気軽に接してるんだから、当然と言えば当然なのかな⋯⋯?

 

 そのままの流れで、全員の目的地を共有する事になった。

 

「私はイコザの街へ行くつもりだ」

「俺は『勇者』を見物に行ってくる」

「私は遺跡探索を続けるかなぁ」

「じゃあ、私はウルフに付いてくけど、夜型だから今から寝て起きるのは昼の2時。だから出るの夕方5時くらいまで待って」

「えっ」

 

 パーティは一日で解散した。私も夜型だけど、メイベルは置いていく事にした。

 

 宝玉が指し示した場所は、とある森に隠された遺跡だった。

 

 そこには、壁にみっちりと、見覚えのある文字が彫られていた。

 

「⋯⋯アルファベット」

 

 しかし、殆ど読めない。やけに点々が多いことから、多分これは、キリル文字という奴だ。

 

 他にも、手記が遺されていた。こちらの方はグランバハマル語で、古言語の入り混じった1000年前の変遷期の物と思われる。

 著書は、ドルキア=ドラクリア=ダキア。ダキアとは、吸血鬼の王族に連なる者に与えられるとされる姓である。

 

 ダキアって響きから予想はしていたけど、これから推察するに、吸血鬼族の先祖は恐らく⋯⋯

 

 でも、話に聞く転移者は全てニホンバハマルから。海外の転移者を話に聞かない理由は一体何故なのか。

 

 そして、この場所へと導いた宝玉と、それを持っていたイーデルシア辺境司祭とは⋯⋯

 

 ⋯⋯これじゃあ結局、謎が謎を呼んだだけなのでは?

 

「自分探しどころじゃないよコレ⋯⋯」

 

 これはもしかしたら、このタイミングで行くことには行けるけど、難易度が2周目レベルのクエストとかそういう系だ。私知ってる。

 

 貴重な資料を集めてから、大人しく普通の遺跡探索を始めることにした。

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

 それから、また一ヶ月くらい経過して。

 

 疲れを癒しに煉獄の湯に来た私を、絶望に陥れるような情報が舞い込んできた。

 

「神化魔炎竜⋯⋯?」

「メイベルと、それから勇者殿も来たのだけれど、オーク顔がかなり無茶して⋯⋯私も死を覚悟したわ」

「え、なんで全員集合してんの……? 私以外皆いるじゃん……」

「しかも、その後オーク顔が投獄、あの巨獣狩人(ギガントハンター)ドルドールを擁するレグファルゲン商会に誘拐されかけて⋯⋯」

「どうして別行動なんか取ったんだ私の馬鹿ぁ⋯⋯!!」

 

 思わず膝から崩れ落ちた。

 

 私がここに到着した頃、そこで既に何泊かしているエルフに鉢合わせた。

 魔炎竜を討伐し、なんやかんや色々あった疲れを癒しに、陽介やメイベルと共に来ていたのだとか。そんな美味しそうなイベントに駆け付けられなかった事が、本当に悔やまれる。

 

「それでリフィアは、吸血鬼族の情報は手に入ったの?」

「あー⋯⋯一応ね。隠れ家みたいな遺跡があって、そこに逃げ延びた吸血鬼の王族が、手記を遺してたみたい」

 

 手記には、滅びたダキア王国について仔細に記されていた。

 曰く、北のシドレラ山脈の向こう側に位置しているものの、真祖の女王たるフィリアが死に際に掛けた大規模魔法によって、絶対に奥には行けない迷いの森と化しているという。

 

 そして、次なる真祖の復活を待つのだと。

 

「シドレラって、私の郷里(くに)にほど近い場所じゃない。あそこの迷いの森が、まさか亡都ダキアに繋がってたなんて」

「エルガ王族との盟約が交わされた理由も肯けるよ。近隣国家なら、できる限り仲良くしたいもんね」

「⋯⋯でも、ダキアは滅びて、吸血鬼族は狩り尽くされたわ。郷里は支援しなかったのかしら」

「エルガの郷里が協力できないほどの戦いだったんだと思う。吸血鬼専門の聖十字騎士団と教会最大戦力の佩剣修道会が総力を結集した戦いだったらしいし、勝ち目の無いだと分かってるのに、わざわざ自国の民を危険に巻き込む訳にはいかないでしょ」

 

 しかしそうなると、気になるのは次なる女王の存在だ。

 現存する吸血鬼族は、子孫である混血のダンピールと、神の力で進化した私くらいだけど⋯⋯

 

 今行って、何かが分かるのかどうか、まだ確証は無かった。

 

「私の方は、つい最近発見されたダンジョンの噂を耳にしたの。ただ、迷いの森のあるシドレラとは真逆⋯⋯南のテロスト高原らしくて」

 

 テロスト高原⋯⋯ここからだと早馬で一日ぐらい。言うほど遠いってほどじゃないけど。

 

 エルフをじっと見つめる。スッと目を逸らされる。

 

 ⋯⋯まさか、そういうこと?

 

「フォウとの二人旅に洒落込もうって? ⋯⋯私を抜きにして」

「チッ、察するのだけは早いんだから⋯⋯」

 

 なんて抜け目の無い、と思いつつも、心の底では残念がる私がいた。

 

 エルフと会うのも久し振りで、顔見知りと会えた事が嬉しかったのだ。また旅でもできればいいな、と思っていた矢先の拒絶だった。

 

 銀髪紅眼という、伝説として語り継がれる吸血鬼の特徴をそのまま宿しているから、仮面を付けるなり、変化魔法で髪や目の色を変えたりすなどの偽装は欠かせない。

 

 もし見られようものなら、吸血鬼だと騒がれ、攻撃される。

 その恐怖が、常に私を脅かす。人との距離を作る。

 

 この世界での私の居場所は、私の正体を知りながらも怖がることのない人達だ。

 

「⋯⋯へ、へへっ⋯⋯どうせ私なんて、エルフにとっては恋敵の他人でしかないよね⋯⋯は、あはは⋯⋯っ」

「ちょっと、リフィア? じ、冗談に決まってるでしょう? 貴女を置いていったりしないから、ね?」

 

 陽介は同郷にしてゲーマーという共通点から、その仲は言うまでもなく、そしてアリシアも、正体を知りながら私に師事してくれた、最高の弟子だ。

 

 メイベルとは一時的に行動を共にしていたし、陽介が凍結封印されたあの夜に、吸血鬼だという事がバレている。あれ以来会ってなかったけど、さっき部屋で会ったときには、のほほんと自分の武勇伝を語っていた。

 

 その同列にいる一人が、エルフなのだ。

 

「ずっと⋯⋯ずっと、私の友達でいて⋯⋯恋敵だとしても、友達だけは、やめないで⋯⋯」

「や、やめないわよ! 放っておいたらすぐ病みそうだし、同じ長命種として見過ごせないし⋯⋯ま、まあ? 一応それなりに貴女のことを見てきて、その、友達として仲良くするのも、吝かじゃないというか⋯⋯」

「⋯⋯じゃあ、友達、だよね?」

「⋯⋯え、ええ」

 

 陽介がエルフとくっつくのは⋯⋯まぁ、許す。エルフなら、多分きちんと陽介を支えてくれるだろうし。

 

 でも、でもだ。私は常に一人ぼっちで、寂しかった。

 もう、誰かと離れ離れのまま旅するのは嫌だ。ずっと自分を隠し続けるのは⋯⋯もう、疲れた。

 

「なら、一緒に行かせてよぉ……お願いだからぁ……!」

「わ、分かった、分かったわよ!」

「ほんと? ほんとだからね?」

「その代わり、一つ依頼を手伝いなさい」

 

 エルフが握っていた馬の手綱を渡される。空の馬車のようで、依頼の目的を何となく察した。

 

「まぁ、依頼というか、無報酬ではあるんだけど、足はあるに越した事ないでしょ?」

「おおー、賢いね。馬車なら何回か扱った事があるから、運転は任せて」

「助かるわ。⋯⋯あっ、オーク顔!」

 

 未だにその呼び方なんだ⋯⋯と思いつつそちらに視線を向けると、実に数ヶ月ぶりに陽介の姿を見た。

 激戦を経てか、更に精悍な顔つきになった気がする。

 

「お前⋯⋯どうやって調達してきたんだ?」

「商人との利害の一致ね。それと、とっておきの御者も連れてきたわ」

「⋯⋯! リフィアか!」

 

 フードを外さずとも、陽介は私を認識してくれたらしい。

 

 その事実だけで、私は途方もなく満たされた。

 

「えっと……久しぶり、だね」

「そ、そうだな。久しぶり……」

 

 だと言うのに、早速言葉に詰まってしまった。日本人の悪い癖だ。少し期間が空いてしまったというのはあるのだろうけど、愛想笑いでついヘラヘラとしてしまう。

 

「……? もう用意はできたのだし、攻略に出遅れる前に早く行くわよ」

「お、おお! そうだな、そうしようぜ!」

「だ、だね! ちょっと馬の様子を見てくる!」

「いきなり元気を取り戻したわね……」

 

 私は現代日本人の悪いところの煮凝りみたいな人間だ。飽き性で、すぐへこんで諦めてしまう。人と必要以上に関わるのも面倒だと思うし、そのくせ人に嫌われたくないとも思う。

 

 だからこうして逃げてしまうし、どうしようもないことで気を落として、ズルズルと引きずっていく。

 

 私はダメダメだ。ダメ人間だ。いつまでも性根はもさいオタクの引きこもり。はぁ……

 

「ちょっと、いつかの貸し、忘れた訳じゃないわよね」

「ひ、ひぃ……!? 勘弁してください、今本当に手持ちが……ほら、ジャトで賄賂渡したから……」

「はぁ? お金なんて要らないわよこの鈍感! 私が言いたいのはその、ほら……も、もう! 何言わせるのよ変態オーク!!」

「えぇ……?」

 

 相変わらず、二人は仲が良い。陽介も嫌そうな顔をしているが、最初の頃みたく本気で嫌がっている訳ではなさそうだ。またコイツは……みたいな呆れ顔だ。

 ともすれば、ったくしょうがねえな、と良くも悪くも信頼しているような、そんな雰囲気。

 

「……私なんて、所詮同郷なだけかぁ」

「ブルルッ……ぐるぅ……」

「なあに? 慰めてくれてるの? ふふっ……ありがとね」

 

 動物は私の唯一の癒やしといっても良い。距離感さえ掴めれば、変に遠慮することもなければ、会話の内容を必死に考えることもない。ただ、魔獣ばかりで普通の生物が少ないこのグランバハマルで、動物とのふれあいは貴重だ。

 

 たてがみを撫でてあげると、尻尾を上げて口をもしゃもしゃし始める。人懐っこい馬なのだろう。筋肉の付き方を見るに、ただの駄馬にしておくには惜しいかもしれない。

 

「よーしよしよしよし……」

「うるるる……」

「ほー、馬か」

 

 ブラッシングがてらわしゃわしゃとなで上げていると、陽介がやって来た。

 

 すると、馬が突然ギンッと目を剥き、耳を立てて尻尾をぶん回し出した。

 

「ヒイン!! ヒヒィン!!」

「ありゃ……どうどう、どうどう」

「ブスッ……ブルッ」

 

 突然興奮する馬。というか嫌がり方が尋常じゃない。天敵の魔獣でも見つけたような反応だった。

 

「俺は動物全般に嫌われていてな……理由はよく分からん。日本にいた頃から、近づいたら犬に吠えられ猫に威嚇され、金魚すくいの金魚は水槽でバチャバチャと跳ねまくるんだ」

「それはもう何かの呪いか何かじゃ……?」

 

 それはあまりに不憫じゃないか。

 

 しかし、馬は頭の良い動物だ。気性の荒いものいるが、この子に至ってはそうではないだろう。

 

「大丈夫、この人は私の友達だから。全然怖くないよ」

 

 この子を撫でた時のように陽介の頭を撫でる。それをしばし眺められると、馬はぶすっと鼻息を出して、興奮を解いた。

 

 よし、良い子だ。そっと首筋に触れながら、陽介の頭から手を離す。

 

「陽介も触ってみて」

「⋯⋯大丈夫か? 暴れられるぞ?」

「この子なら大丈夫だよ。まず、これから触りますよ〜ってアピールしながら、ゆっくり手を近付けてみて」

「こんな感じか?」

 

 まるで銃を突きつけられたみたいに両手を上げている。まあ、間違ってはいないかもしれない。

 

「でも、怖がりながら触ったらダメ。怖がってるのが手から伝わっちゃうから。慎重に、慈しむように、優しく触ってあげること」

「やってみよう」

 

 ⋯⋯恐怖は、拭えていない。

 

 それもそうだろう。まともに動物を触った事が無いのなら、加減もよく知らないはずだ。

 

 右手で馬を撫でながら、左手を陽介の手の上に重ねる。

 

「いいよ、ゆっくり近付けて」

「あ、ああ」

 

 ⋯⋯陽介の手が馬に触れる。

 

「⋯⋯⋯⋯ブルッ」

「お、おお⋯⋯」

「よしよし、良い子だね」

 

 ご機嫌は微妙そうだが、触るのは許してくれたようだ。ご褒美にこの砂糖をくれてやろう。

 

 収納魔法から黒糖を手のひらに出して差し出すと、ペロペロと舐め取る。機嫌も次第に上向きになってきた。

 

 陽介をチラッと見てみると、パァァッと顔を輝かせて、ちょっと気持ち悪いくらい顔が緩んでいる。

 

「馬ってこんな触り心地なのか⋯⋯すっげ⋯⋯スルッていくよ、スルッて」

「良かったね、陽介」

「今日は最高の日かもしれん」

 

 と、ここに至って自分の行動を振り返った。

 

 さらっと陽介の頭を撫でて、手を繋いで⋯⋯その時に陽介がどんな顔をしてたのか分からないけど、女子にこんな事されたら、どんな男子でも意識せざるを得ないのは自明だし⋯⋯

 

 いや、いやいやいや。た、多分だけど、私は多分、陽介が好きなんだろうけど、そもそも私は元男だし、関係としてはただの友達な訳で、そういう一歩進んだ関係とか、まだ私達には早いっていうか、陽介はそんな目で私を見てないかもしれないし、ドン引きされたら寝込む自信はあるけど、それはそれとして私個人としては役得だから積極的に仕掛けに行っても文句は無い訳で。

 

 よ、よーし。水魔法で手を洗ってから、こっそり、こっそりと手を⋯⋯

 

「────あー!!! 今すぐ冒険に行きたいわねー!!! 二人とも早く準備終わらないかしらー!!!」

「へあっ!?」

 

 背後からエルフの大きな声が飛んできて、身体が跳ね上がる。

 

 完全に忘れていた。この場には恋敵がいる事を。

 

「あ、あ、ぁ⋯⋯〜〜っ!!」

「っと、いかんいかん。エルフの奴がカンカンだ。早く乗ろうぜ」

「⋯⋯⋯⋯うん」

 

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯いや恥ずかしっ。

 

 自分の迂闊さを恥じながら、無心で御者台に乗り込む。

 

 三人で乗ってみると、少しぎゅうぎゅうだが入れないことはない。私とエルフが細いからだろう。

 

 しかし、間に挟まる陽介は、どうやら居辛くなっていたようで、すくっと立ち上がり、背もたれに手をかけた。

 

「⋯⋯俺、馬操れないし荷台行くよ」

「ええっ、じゃあ私も後ろ行く!」

 

 エルフと陽介が荷台に乗ってしまった。分かってはいたけど。

 派手にイチャイチャし始めたら、ここぞとばかりに馬を暴れさせるとしよう。

 

 よし、用意はいいかねスレイプニール君。

 

「ヒヒン」

 

 ちゃんと伝わっているのかはさておき、時々後ろの様子を気にしながら、エルフが陽介に変な事をしないか監視する旅が始まった。

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

 スザイルギラーゼガルネルブゼギルレアグランゼルガ=エルガこと、(スイ)は頭を悩ませていた。

 

 無論ながら、陽介の事である。いつ見てもその顔は醜く、高貴なエルフの王族たる(スイ)にとっても到底見れたものではないが、好きな相手ならばそんなものは些事に過ぎない。

 

 問題は、あれが究極の朴念仁であることだ。素っ気ない態度を止めろという話ではあるが、それはエルガ王族としてのプライドが許さなかった。というより恥ずかしかった。

 

 しかし、そうも言っていられない現状でもあった。

 

「メタル○アシリーズは良かったなあ……あれがなかったらステルスゲームはこの世に存在しなかったかもしれないんだよ」

「ステルスゲーム……? 初めて聞くジャンルだな」

「初代はPCエンジンだったかな。敵に見つからないようにコソコソ移動したり、物や音で敵を誘導して、後ろから気絶させたりしつつ、潜入任務をやってくんだ。忘れもしない小学校の頃⋯⋯PS3の体験版をやったんだ。とにかくキモいヤモリ(月○)がモーモーうるさいんだけどね、そんな事よりメ○ルギアMk.2が可愛くって⋯⋯」

「その気持ちはよく分かるぞ⋯⋯俺も小学生の時、おもちゃの店頭デモに映ってるソニックとテイルスをよく眺めてた。タイトル画面がカワイイんだ⋯⋯」

 

 異世界(イレルラーズ)、ニホンバハマル。郷里(くに)が回収した数々の文献を見るに、その文化レベルはグランバハマルと同程度と推察されている。

 

 しかし、神によって選ばれしその転移者達は、それぞれが一つの特異な能力を持ってやってくるという。

 

 陽介が転移者であると勘付いたのは、それこそ出会いたての頃からだが、リフィアが同じ転移者だとは、長年を生きる(スイ)でさえ気付きもしなかった。

 

 ニホンバハマルからの転移者は、もれなく全員が人族。歴史上、ただ一人のみ存在しているワラキアバハマルからの転移者、ヴラドは神器《喰神剣》を携えた真祖として吸血鬼の国に君臨したとされている。

 

 リフィアもヴラドと同じ類型ならば、故郷の話ができるのも納得ではあるが、そこが問題だった。

 

「メタ○ギアMk.2か⋯⋯どんな見た目なんだ?」

「ちょっと待ってね。ラフでいいなら⋯⋯んー⋯⋯あ、やべインク垂れた。デジタルが恋しい⋯⋯っと、こんな感じ」

「⋯⋯⋯⋯可愛い、のか? なんか前のジ○リ映画に出てきたロボットみたいな見た目してるぞ」

「これがぴょんぴょん跳ねてクルクル回って、手足をパタパタさせるんだよ? 可愛いでしょ?」

「そうかなあ」

「そうだよぉ」

 

 神は、なぜ同時代に二人も喚んでしまったのか。特段神への信仰心を持たない(スイ)は神を恨んだ。

 

 (スイ)には、他の誰よりも早く陽介と出会い、接してきたという明確なアドバンテージがある。それを崩しかねない存在が、リフィアである。

 

 リフィアは、エルガ王族の盟約を抜きにしても、そこそこ好ましく思っている方だ。一緒に旅もしているし、吸血鬼族の謎に迫る為に学んでいるという考古学への姿勢は、古代文明マニアの(スイ)にとって好印象にしかなり得ない。

 

 その一方で恋敵である。最も明確に自分と拮抗するライバルなのだ。このまま野放しにすることは、ただ敗北を認めるようなもの。

 

 (スイ)は御者台に割り込んで、二人だけの空間を壊す事にした。

 

「⋯⋯変わった絵ね。まるでゴーレムみたいだけれど」

「メタル○アMk.2って言うんだよ。ああでも、正確なメ○ルギアの定義には当てはまらない支援ロボットで、これは凶悪な核兵器メタ○ギアを作ったオタ○ンことハ○博士が自身への戒めとして────」

 

 その話の内容は(スイ)にはさっぱり伝わってこなかったものの、故郷の話しているときのリフィアの顔は、どんな時よりも輝いて見えていた。

 

(……やっぱり、貴女も帰りたいのね。陽介と同じように)

 

 いつか、陽介は帰ってしまうだろう。それが十年後にしろ二十年後にしろ、止められないことは分かっていた。あるいは最初から、これは負け戦でしかないのだろう。陽介とリフィアが帰ってしまえば、自分にはどうすることもできない。

 

 考えれば考えるほど、ドツボに嵌まっていく。自分の初恋が叶う未来が見えなくなる。

 

 もう、諦めても良いのではないか。そもそも、短命な人族になど恋するだけ不毛だ。

 途端に、(スイ)は自分が馬鹿らしくなった。

 

 どうせ自分なんて、置いて行かれるだけなのだから……

 

「エルフもメ○ルギアシリーズ、興味あるの?」

「ふえっ……? ま、まあ、そうね。ニホンバハマルの文化や思想は、確かに好ましく思っているけれど⋯⋯」

「じゃあエルフも来る? ニホンバハマル」

 

 さらっと、リフィアは意味不明な発言を繰り出した。

 (スイ)は思考停止した。

 

「私が、ニホンバハマル……?」

「あ、なんか異世界への干渉がダメとか、そういう決まり事があるなら無理強いしないし、多分二度とグランバハマルに帰れなくなるから、オススメはしないんだけど……」

 

 あれこれと前置いてから、リフィアは少し言葉を詰まらせて、恥ずかしそうに顔を背けた。

 

「来てくれたら、寂しくないかなって⋯⋯」

 

 誘ってくれたという嬉しさと共に、(スイ)は同情せざるを得なかった。

 

 吸血鬼族もエルフと同じ長命種。血を飲めば、幾らでも寿命を延ばす事ができる。

 

 二人がニホンバハマルへ帰った後、人族の陽介はいずれ老衰する。そうなればリフィアは一人取り残され、いずれ朽ち果てていくだけになるだろう。

 

 独りの寂しさなんてものは、(スイ)にはもうどうも思わない感情だ。エルガ王族という生まれの宿命とも言える。

 

 ただ、一つ。この旅の中で(スイ)はあることを理解してしまった。

 

 一人よりも、二人の方が楽しい。

 二人よりも、三人の方がもっと楽しい。

 

 馬鹿馬鹿しいと、諦めた感情にまた火が灯る。

 

「⋯⋯異世界へ行く、なんて所業ができた事がないから、制限もされてないはず。寧ろ、郷里は異世界人との接触を好ましく思ってるし」

「じゃ、じゃあ来てくれる?」

「⋯⋯魔導具回収の任務を同胞に引き継がせれば、多分?」

「ほんと? 約束だよ?」

 

 異世界まで追いかける事ができたなら、陽介への恋心を諦める必要はない。リフィアに一人勝ちさせず、正々堂々と挑戦できる。

 

 陽介が居なくなったとて、(スイ)が独りにはなる事はありえない。リフィアがいる限り、寿命まで二人で生き永らえる事だろう。

 

 とても単純な話だった。

 自分(スイ)自身が、ニホンバハマルに行けば何も問題は無いのだ。

 

 今までの葛藤は、ただの時間の無駄。馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、自分がここまで馬鹿だとは思わなかった。

 

 エルガ王族ともあろうものが、情けない。

 敵は倒す。問題は潰す。それが一族の在り方だろうに。

 

「異世界に帰る目処が立ちでもすればの話よ。何十年後になるか知らないけれど、その時にまた話を聞かせなさい」

「やたっ!」

「えぇ⋯⋯? お前も来るのかよ⋯⋯」

 

 覚悟を決めた途端、混沌としていた(スイ)の脳内に、勝利の方程式が刻まれていく。

 

(私がニホンバハマルにって⋯⋯そうしたら、陽介とはずっと居られるのは確かよね。リフィアも居るのなら、あちらの文化に適応するのも難しくはないはず。郷里(くに)にも、ニホンバハマルの情報を持ち帰ってくる名目だって作れば⋯⋯それが駄目でも、やりようはある)

 

「帰っても楽しくなりそうだなあ〜」

「俺は嫌だ、絶対やだ⋯⋯」

 

 陽介と打ち解けるには、まだまだ時間が掛かりそうだ。

 

 そうは思いつつ、今の(スイ)にこれまでの焦燥は無かった。

 もちろん、焦りが皆無という訳では無い。強力なライバルが軒を連ね、陽介を掻っ攫おうと狙っている。様子見をしていては、負けるのは明白。

 

 諦める理由が無くなった今、(スイ)はやりたい事を全力で貫く事に決めた。

 

「────それを貫く力が、強さなんだよ」

「ん? いきなりどうしたんだ、リフィア」

「⋯⋯いーや、何でもない」

 

 馬車は揺れる。

 一人、覚悟は決まった。たった一人の、最初の一歩。されども、大きな歩み。いつか周囲を動かす、大きな原動力となる。

 

 そこに続く者は、氷の護り手か、勇者か、吸血姫か、あるいは⋯⋯

 

「崖崩れで露わになったこのダンジョン。話を聞く限りだと実用レベルの魔法が恐らく使えなくて、通常のパーティでは攻略が困難、と⋯⋯事前情報だけ聞くなら、かなり不利だよ」

「どうする? オーク顔」

「⋯⋯行く」

 

 ダンジョン前で、(スイ)が尋ねると、陽介は入り口を見上げ、一拍置いてそう答えた。

 

「どうなるかは分からんが」

 

 陽介がボロ切れの赤いストールを巻き直す。

 (スイ)が古代魔導具の鎧を纏う。

 リフィアが折り畳んだ喰神剣を解放する。

 

「スタートボタンを押さなきゃ始まらん」

 

 テロストダンジョン、ゲームスタート(攻略開始)────

 

 

 


おまけ 魔爪空帝タカイザー

 

 

「ここが、あの魔爪空帝タカイザーがいる山嶺か⋯⋯魔導海帝イルカイザー*2や魔迅森帝シカイザー*3と同格の⋯⋯」

「へぇ! 初心者向けの登山スポットなのね」

「どうやら、十五年に一度の登山規制はコイツのせいらしい。今度こそ、今度こそ帝位魔獣をこの手で⋯⋯」

「登山とか初めてだよ⋯⋯あ、見てエルフ。この時間から登れば、途中の開けた場所で一泊して、朝登ったら朝日が見れるって」

「今からならじゅうぶん間に合うわね」

「なら、気を引き締めていこうね⋯⋯初日の出を拝む為に!」

「お前ら⋯⋯目的忘れてないよな?」

「「も、もちろん!」」

 

 明日は、異世界グランバハマルにおける元日だ。

 

 日本にいた頃、父方の祖父母が山梨に住んでいたから、冬休みはそっちに泊まって、富士山の初日の出を見て新年を迎えていたものだ。

 

 でも、ここにいたらそんな余裕は無くて、気が付いたら新年になっていたなんて事もザラだ。だからこそ、今年は陽介やエルフと一緒に新年を迎えたい。

 

「初心者向けとは言っても、かなり本格的ね」

「アイゼンも必須な雪山だもんねー⋯⋯あっ、ユキウサギ」

「ウサギ!? どこだ、白くて分からん⋯⋯!」

 

 収納魔法からニンジンを出してみると、ウサギはこちらにやってきた。

 人嫌いとかではなさそうだ。よしよし。

 

「⋯⋯野生の動物って、こんなにも警戒心ゼロで寄ってくるものなの?」

「ううん。私、動物に好かれる体質なんだよ」

「俺とは真逆だな⋯⋯羨ましい」

 

 惜しまれつつもウサギと別れ、山を登る。じきに森林が無くなり、空以外が真っ白な世界に突入する。

 

「足許、しっかり踏みしめて移動して! それと必ず私の後ろに着いてくること! 足跡の位置は安全だから!」

「分かった!」

 

 次第に吹雪いてきて、緊張感は一入だ。

 

「エルフは慣れてるな」

「まあ、色々と旅すれば慣れてくる──きゃっ!?」

「うおっ!?」

 

 突風が吹き下ろした。エルフがバランスを崩して、陽介がそれを受け止めたらしい。

 

「大丈夫か」

「あ、ええ⋯⋯助かったわ」

 

 え、エルフめ。どさくさに紛れて陽介とイチャついて⋯⋯なんて羨ましい。

 

 悶々とした思いを抱えながら、中腹へ。

 ピッケルを引っ掛けて、急な山肌を登攀していく。

 

 下を見ると、滑ったら一巻の終わりを予見させるほど、深い谷のようなものが広がっている。もう少し上を見るが、やはり天気は下り坂のようで、雷の音も聞こえてくる。

 

「うおわっ!?」

 

 陽介が滑落していた。

 ピッケルを引っ掛ける場所が悪かったのか、足を滑らせたか、ともかく一大事だ。

 

 しかし不用意に焦ることは無い。

 なぜなら、ここは異世界グランバハマル。魔法が使えるのだ。

 

「──〝ワーグレント・スラドセルド〟!」

 

 アイスハーケンを雪山にねじ込み、握ったロープとともに宙に躍り出る。ピッケルを引っ掛け踏ん張ろうとする陽介を抱え込んでから、ロープを手繰り寄せて帰還する。

 

 しかし、これが山登りか。ドキドキが強くてキュンキュンする余裕が無い。思わず私も深呼吸してしまう。

 

「今度は俺が助けられたか。ありがとう、リフィア。滑ったときは、流石に肝が冷えた」

「私も内心ビビったよ。⋯⋯まあ、みんな空飛べるけどさ」

 

 やろうと思えば、山なんて一飛びできるのがこのパーティである。山登りの意味を見失いそうだ。

 まあ今回は、魔爪空帝がいる関係で空を飛ぶと危ないから、こうして登ってるんだけど。

 

「大丈夫ー!? 命綱も無いんだから、気を付けなさいよー!」

「大丈夫だー! すぐそっちに追いつく!」

 

 とはいうものの、一度滑落すれば慎重にはなるもの。時間を掛けて登り、キャンプ予定地に辿り着いた。

 

 地面を踏み、クレバスの有無など安全を確認した上でテントを設営する。

 

 三人とも収納魔法が使えるので、荷物は全部そこから出している。無法だ、と我ながら思うが、使えるんだからしょうがない。有用に使わせてもらおう。

 

 そんなわけで、本日の夕食。

 

「⋯⋯⋯⋯リフィア、その、聞いてもいいかしら」

「ほへ? ほうしたほ?」

「さっきから水筒ばかり飲んでご飯すら出してないじゃない。⋯⋯もしかして、その中身って」

「んくっ⋯⋯フォウの血液だけど?」

 

 日頃、夜に忍び込んで採取している血液だ。収納魔法にはまだ1リットルくらい入っている。

 

「⋯⋯盗られてるわよ、オーク顔」

「いや、そういう約束なんだ。一緒に行動する時は、リフィアが飯を作ってくれる代わりに、少しずつHPを分け与えている」

 

 陽介がもぐもぐとレバニラもどきを食べているが、これは私の手作りだ。収納魔法内では食べ物が腐らないから、三食纏めて作り、お弁当にしている。

 

 ちょっとずつしか採ってないし、その代わり陽介には、タンパク質と鉄分の豊富な料理を作ってあげている。これは契約なのである。

 

 普通の食事も取れるには取れるが、日々の貯血はいざという時に役に立つし、何より陽介のものは格段に美味い。

 うーん、デリシャス⋯⋯

 

「⋯⋯リフィアったら、そんな恍惚な顔しちゃって。血液ってそこまで美味しいものなの?」

「他の種族が飲んでも鉄の味しかしないと思うけど。⋯⋯飲みたい?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯遠慮しておくわ」

「今ちょっと迷ったよね?」

 

 私の目が誤魔化せると思ったか。

 

 さて、私は栄養補給を終えて手持ち無沙汰に。エルフと陽介はのんびりとご飯に夢中だ。

 しめしめ、この時を狙っていた。私の秘策がここに解き放たれる。

 

「あ、そうだ。玉子焼き作ったんだけど、いる?」

「マジでか!! いる!!」

 

 これは、依頼で狩った魔封鳥の巣から盗んだ卵で出来ている。

 大きさはダチョウサイズといったところか。あまりに量が多いから、私だけではとても食い切れそうにない。

 

 そして今、私は食事を終え、遠慮無くあの行為ができるのである。

 

 皿に玉子焼きを盛り付け、箸で一切れつまんで……

 

「はい、あーん?」

「? あーん……むぐむぐ……」

「ああっ!?」

 

 思い通りに事が運んで、エルフにドヤァ。フハハ、私と君とでは違うのだよ。そう、格の違いって奴さ⋯⋯

 

 という冗談はさておき、陽介は鈍感だから、自分から行動を起こすよう仕向けるのは難しい。だからこうして、自然とそうなりうるシチュエーションを構築し、受け入れざるを得なくする……これが陽介攻略の定石なのだ。

 

「懐かしい……出汁の味もしっかりと感じる。異世界で、日本の料理を味わえるとは思わなかった」

「お米があれば、もう言う事無しなんだけどねぇ」

「だなあ」

 

 しみじみと郷愁の念を分かち合っていると、エルフがぷくぅとして不満げに視線を送ってくる。

 ちょっとからかいすぎたかな。もう一切れをつまみ、エルフに差し出す。

 

「ほら、エルフも。美味しいよ?」

「……なによ。同情なら要らないわ」

「まあまあまあ。これはニホンバハマルの伝統料理なんだから」

「…………そ、そこまで言うのなら、仕方ないわね」

 

 エルフにもあーんしてあげると、途端、顔から耳までまっかっかに沸騰していた。

 

 あれ、そんなに恥ずかしかったかな……これはゆるゆり始まったか? キマシタワー?

 

「お味はどう?」

「……わ、わかんにゃい……っ」

「あー……なんか、ごめん。お箸、ここに置いておくから。好きなだけ食べてね」

 

 ふと、置いた箸を見た。

 

 ……あっ。

 

「は、箸も、交換しておくから……」

「おっ、まだ食って良いのか。それじゃ遠慮なく……」

 

 結局、夕食でエルフが玉子に手を付けることはなかった。

 

 

 ……ここで、リフィア心の俳句。

 

      ツ

    間 ン

    接 デ

    キ レ

  猛 ス に

  毒 はスイ

  だリフィア

 おーくがお

 

 

 日が沈むと、こんな山の上も暗闇に染まる。無闇に出歩けば、どこで足を踏み外すか分かったものではない。⋯⋯私は吸血鬼なので、夜目が利いてしまうが。

 

 そう、私は吸血鬼。言わずもがな夜行性である。

 

「…………寝れない」

 

 血を温存すべく冬眠じみた真似はできるらしいが、少なくとも私にその必要性は無いと言える。

 

 吸血鬼には疲労というものが基本的に存在しないので、睡眠を必要しない。記憶の整理も、記憶の精霊に頼めばやってくれるから、吸血鬼は睡眠を超越した生き物なのだろう。

 

 テントから外に出ると、綺麗な星空が広がっていた。少し前まで、曇りがかって空は見えなかったから、この景色は夜に起きた者の特権かな……

 

「って、何か飛んでる……?」

 

 目をすぼめると、星空を遮る巨大な影が、徐々にこちらに近づいてきて、

 

「──キュエエエエエエエエ!!!!!」

「魔爪空帝タカイザー!」

 

 あの強靭な爪でキャンプ地を抉られたら一溜りもない。山から真っ逆さまだ。それだけは避けたい。

 

「闘技……〝ブルート・ツェペシュ〟!」

 

 地面に血の槍でハーケンを作り、身体を固定。

 神器《喰神剣》を下段に構え、指を噛み、鎌刃にその血を吸わせる。

 

「────神威解放。喰らえ、喰神剣」

 

 鎌から吹き出した血の塊が、竜の頭を象る。

 

 竜頭は魔爪空帝の垂直降下に真っ向から突撃し、その巨躯を一呑みで喰らい尽くした。

 

 ……ふぅ。帝位魔獣といっても、魔竜には劣るか。

 

 落とした素材を討伐証明に収納魔法へと仕舞い込んでいると、枕を抱えたエルフがテントから出てきた。

 

「騒がしいと思ったら、もう倒しちゃったの?」

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「当たり前でしょう。……オーク顔は相変わらずだけど」

「あはは、知ってた」

 

 そんな訳で、夜の時間をエルフと過ごし、いよいよ朝が近くなってきた。

 

 陽介は早起きができるので、だいたい三時くらいには起きてくれた。

 テントを片付けて、一時間半ほど登ると、頂上に辿り着いた。

 

「おお……ここが頂上なのか。意外と高いな。何メートルあるんだ?」

「五千メートルはあるそうよ」

「その高さで初心者向けなんだ……」

 

 やっぱり異世界は基準がおかしいようだ。

 

「あ、ほら見てオーク顔! 朝日が見えてきたわ!」

「……みたいだな」

 

 徐々に朝焼けの色に染まる地平線。そこから太陽が頭を見せて、遂に元旦を迎える。

 

「俺、この世界はそんなに好きじゃないんだ。ゲームもできないし、痛いし、辛い」

 

 陽介も、ぽつりと告白した。それには同感するしかない。チートを貰っても、私も陽介も異世界無双で人生バラ色なんて事は無かったし、排斥されて、疎まれてきた。

 

 こんな世界は、はっきり言ってクソだと言える…………でも。

 

「でも、悪いだけじゃないんだ。お前らと出会って、山を登って、すげえ景色が見れた。……良いなって、思えたんだ」

「⋯⋯冗談でもそんな事言われたら、は、恥ずかしいじゃないの」

「いや、これは俺の本心からの言葉だ」

 

 そう。こんな絶景は、日本にいた時ですら自分の目で見たことがない。

 ただの引き籠もりに、こんな空を生で見る機会なんて、絶対に来なかった。

 

 ⋯⋯異世界で、こうして三人で集まれなかったら、一度だって見れなかったはずだ。

 

「明けまして、おめでとう。今年も、よろしく頼む」

「ふふ……明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」

 

 こんなにも気持ちの良いあけおめがあっただろうか。

 実に清々しい気分だと、心の中のDI○様も大はしゃぎしている。

 

「エルフも。ニホンバハマルでの新年は、最初にこの挨拶から始まるんだよ?」

「そ、そうなの? じゃあ⋯⋯コホン。明けましておめでとう。今年も、その⋯⋯よろしくしてあげない事もないわね!」

「変にツンデレない、変に」

 

 そうだ。こんな絶景に来たなら、やらねばなるまい。

 

 エルフの肩を抱き寄せ、陽介も抱き寄せる。⋯⋯いや、私が真ん中よりも。

 

「ほら、エルフももっとフォウにくっついて」

「こんな感じか?」

「え、ええ!? な、何するの⋯⋯ひゃん!?」

「いいね、それじゃあ⋯⋯記憶の精霊(イキュラス)様!」

 

 この光景を、記憶として映し出す。

 

「撮るよ〜⋯⋯せーの!」

 

 初日の出をバックに、顔が真っ赤なエルフと、慌てる陽介、面白がる私を外から映したものを、記憶の精霊に記録してもらい、三人の脳内に焼き付けた。

 

「もう、なんでこんなタイミングで⋯⋯うう⋯⋯」

「いいじゃん、これぞ写真だよ!」

「つうか、はいチーズって言わないのか?」

「せーのすら言わないよ、普通は」

「マジかよ」

 

 それから、初日の出が終わるまで山頂でのんびりして、下山を始めた。

 

「⋯⋯新年、か」

「どうしたの?」

「いや、俺は元日に異世界に飛ばされてな。ドリームキャストを買いに走って、トラックに撥ねられて⋯⋯ドリームキャスト、やりたかったなあ」

「ドリキャスかあ⋯⋯セガの撤退⋯⋯」

「ん? どうした?」

「シ○ンムーはいいぞってこと」

「シェ○ムー⋯⋯? どっかで聞いたような⋯⋯」

 

 下山自体はスムーズだった。なにせ、魔法でぴょんぴょん下りていくだけなのだ。こんなに楽な事はない。

 世の登山家に怒られそうだけど。下山にヘリコプターを使うようなものだ。

 

 山の麓に下りた頃、陽介が「あっ」と口を開け、顔を真っ青にした。

 忘れ物でもしたのだろうか。

 

「やべえよ、やべえ」

「どうしたのよオーク顔、そんなに焦って」

「俺達、帝位魔獣の魔爪空帝タカイザー倒さないで下山しちまったぞ。むしろ本命はそっちなのに⋯⋯」

「それならリフィアが倒したわよ?」

「えっ?」

 

 収納魔法から、巨大な鷹の爪を取り出す。

 

「えーっと⋯⋯夜の間に襲ってきたから、倒しちゃった」

「た、タカイザー⋯⋯!!」

「ま、まあ、十五年後があるわよ! 十五年後が!」

「畜生⋯⋯今度こそ、今度こそ倒してやるぞ⋯⋯!」

 

 なんともまあ、締まりの無い新年となった。

 

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

 

「あれ、リフィアさん、その写真どうしたんですか?」

「ちょっとコンビニでプリントしてきたんだー」

 

 そういえばと思い出したから、記憶の精霊に頼んでデータにしてもらい、現像してみた。

 

 懐かしい。もう十五年も前かぁ⋯⋯この頃から、ずっとエルフと陽介の取り合いばっかしてたなぁ。

 

「え、うっそ、異世界の写真じゃないですか!」

「そうそう。異世界の新年に、登山して撮った写真なんだよ」

 

 藤宮ちゃんに見せびらかしていると、ずい、と覗き込む影が一つ。

 

「何かと思えば⋯⋯魔爪空帝タカイザーの時の奴じゃないか。そういやそんなのやったなぁ⋯⋯」

「おじさんって、なんだかんだ異世界楽しんでますよね⋯⋯」

「いや、そんな事無いぞ。一人の時間の方が多かったはずだ」

 

 いや、えっと、うん。

 私かエルフがずっと陽介についてたから、せいぜい一人で居た時間なんて一年か二年あったかどうかだと思う。

 

 あんまり嘘は良くないよ、陽介。

 

「お、エルフー。リフィアがあの時の写真プリントしてくれてたぞー」

「何の話ー?」

 

 今日の昼飯担当のスイが、お皿にチャーハンを盛り付けながら聞き返してくる。

 

 私が写真を見せると、エルフはブワッと顔を赤くして、写真をふんだくった。

 

「ぼ、ボッシューよボッシュー! こんなの物にしちゃったら私が恥ずかしいだけだわ!! ほらオーク顔も返しなさい!」

「何で返さなきゃいけないんだ。嫌だぞ。俺の大事な思い出だ」

「だ、大事な思い出って⋯⋯!? お、オーク顔のタラシ! すかぽんたん!」

「ひ、ひでえ!」

 

 スイが料理をほっぽってどこかへと消えてしまった。あーあー⋯⋯

 仕方ないので私が引き継ぐ。しかし、スイも随分料理が上手になってくれた。欲を言えば、異世界の時に学んで欲しかったけどね。

 

「おお、いい匂いがするじゃあないか。どれ、我が味見をしてやろう」

「いや出来てるから。早く持っていって」

「王たる我を扱き使うとは大きく出たなぁ? ⋯⋯ククッ、やらせたくば、この我を力づくで屈服させたまえよ」

「そういうのいいから」

「はー⋯⋯ノリが悪いなあ。物事には必ず余興というものがあるんだよ、吸血女王。戯れの無い人生なんて退屈だぞ?」

「はいはい後で構ってあげるから、はようはよう」

 

 十五年前には、こんな生活が予想できただろうか。

 まあ、無理だろうなぁ。陽介の甥っ子の家で、異世界の仲間達と共同生活。しかも配信業で生活とか。

 

 人生、何が起こるか分からないもんだよねぇ。

 

「タカイザーって、あんな感じだったのか⋯⋯」

「おじさん、帝位魔獣は結局どれも倒せなかったんだね⋯⋯」

「ああ⋯⋯数少ない俺の心残りなんだ。悔しいよ、イルカイザー、シカイザー、タカイザー⋯⋯くそう⋯⋯」

 

 

*1
TIPS

単行本第三巻 p73

アニメ第六話 こうして俺は見世物小屋の地下にぶち込まれたんだが…

本作第十四話も参照

*2
TIPS

単行本12巻 巻末おまけ漫画参照

*3
TIPS

単行本13巻 巻末おまけ漫画参照




このタカイザーは、明日発売の単行本14巻(ダイマ)の巻末おまけ予想です。出てくる帝位魔獣がもうコレしか思いつかなかったので、もし外れたらマガツ編を来月中で終わらせて現代戻ります。おまけに帝位魔獣出なくてもやります(強気)

みんなも『おじさん』、ゲットじゃぞ〜(オー○ド)

────
追記
大人しく書きますぅ⋯⋯(即落ち2コマ)
まさかもっかい海来るとは思わんじゃん⋯⋯!
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