異世界おじさんvs異世界TS娘   作:SEGA機未プレイお兄さん

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異世界おじさんもっと流行れ……!(血涙)


濡れたゲーム機をレンジでチンするレベルだ

 

 

 陽介に出会った頃、私は世界に絶望していた。

 

 また、生きたくないと思ってしまった。

 

『おいおい、何言ってんだ? 吸血鬼なんざ関係ねぇ。お前はもう、俺の娘みたいなもんだよ。しっかし、名前が無いのはなぁ……お、そうだ。リフィアってのはどうだ?』

『……リフィア?』

『古代語で、輝きっつう意味だ。昔はこれでも、遺跡発掘とかを目指して、考古学をやってたんだぜ』

『そう、なんだ』

『ただ、唯一の家族だった親父が死んじまってな。食い扶持が無くなって、冒険者になったんだ』

『……もう、考古学はやらないの?』

『いーや、俺は諦めてないね。仕事柄、遺跡の探索調査がクエストになる事があってな。考古学の知識のある俺が重用されるんだ。知ってるかリフィア。夢ってのは持ち続けた奴が勝つんだぜ?』

 

 この世界で生きる術と居場所をくれた恩人……初めて会った時に、私が剣を折ってしまった冒険者、サリファ・カルネイア。

 

 彼は、沢山のものをくれた。

 私も、その分をいつか返そうと思っていたのに。

 

『リフィア。リフィア=カルネイア。お前は夢を抱き続けろ。その輝きのままに……なんてな?』

 

 そう、優しく説いてくれた彼は……その数日後、この世を去った。

 

 処刑だった。吸血鬼を匿ったという容疑で捕まって、最期まで私の居場所を吐かないまま、聖十字騎士団によって首を落とされた。

 

 彼の相棒のキルロは、私を遠くまで逃がす手筈を整えてくれた。その時に、彼自身とサリファが全財産を隠したという場所を記す地図を遺していった。

 後になって、彼も処刑されてしまった事を聞いた。最初から、二人共、死ぬのが分かっていたみたいだった。

 

 この世界で、二人は私に親切にしてくれた家族だった。

 正真正銘、自分のせいで二人は殺された。

 

 二人を失って、私に生きる気力なんて無かった。折角生かしてくれたのに、何をすればいいのかも分からなくなった。

 

 その内、血も無くなってきて、食べ物も食べれず、森の中で倒れた。

 

 ここが何処なのかも分からなかった。ただ、死ぬんだなと思って、目を瞑って……

 

 あの人と、出会うことになった。

 

 陽介と名乗る彼は、私と同じ日本人だった。

 

 いかにも日本人らしい、パッとしない顔だが、異世界で辛い経験ばかりしてきたのか、顔には皺が寄っていて、少し大人びて見える。

 

 血から肉体年齢が分かったものの、初対面で陽介が18歳だと分かる人がいれば、それは凄いと思う。

 

「リフィアは吸血鬼なのか。今まで吸血鬼なんて会ったこと無かったなぁ……」

「? 何を当たり前な事言ってるの。吸血鬼は、私以外全員滅ぼされてる。人間によって」

「マジで!? そんなに恨まれてるのか、吸血鬼って」

「恨まれてるというか……吸血鬼族は、特に何もしてないし、偶に人間から血を買って、ひっそり暮らしてただけ。……吸血鬼の素材に目が眩んだヴァンパイアハンター達が、魔族を忌み嫌う教会と結び付いて、狩り尽くしたらしい。転生した純吸血鬼の私以外、吸血鬼って言えるくらい濃い血の子孫もいないとか」

「へぇー、それでも子孫は居るんだな」

「ダンピールって言うらしいよ。今じゃあまりに吸血鬼族の血が薄くて、吸血すらできない。専ら教会の迫害の対象だし、下等生物扱いされてる」

 

 まあ私にとっては、血の繋がりもない子孫なんて、どうでも良かったんだけど。

 

「で、今から何処に行くの?」

「いや、分からん。俺も逃げ出してきたばっかで、ここが何処かもサッパリだ」

「ふーん……」

 

 私も分からない。

 

 陽介と途中で別れると言っても、どこで、どのタイミングがいいのかも分からなかった。

 

 そんな風にあてもなくぶらついていては、暇を持て余すだけ。

 私は何か話をしようと思った。

 

「そう言えば、陽介の声って、子○さんによく似てる気がするんだけど」

「……子○さん?」

「子○武人。ほら……何なら伝わるかな。ジ○イド・カーティス、ク○ル、デ○オ・ブランドーは皆2000年以降だし……あ、青葉○ゲルの声! エ○゙ァの!」

「……そうか? 友達も居なかったしなぁ。特にそんな事言われたことなかった」

「友達……居なかったんだ」

 

 どんな寂しい青春を過ごしてきたんだろうか。

 

 ゲームだって、何人かでやれば楽しいものだ。

 私も、唯一の友達とス○ブラをやっていた事もあるから、楽しい事を共有することの楽しさは理解している。

 

「セガサターンをかなりやりこんでる奴は、必然とそうなったんだろ。周りはプ○ステばっかだったからな。世の中じゃ、俺らはプ○ステすら持ってない非国民だった」

「……なんか、ごめん」

「気にしないでくれ。プ○ステだって、面白そうなゲームタイトルは多かった。わざわざ茨の道を進んだのは……セガゲーマーとしての意地と誇りを選んだ、俺の決断だ」

 

 言ってることは、とてもしょうもないことだった。

 

 ふふっ、と笑うと、陽介は不思議そうに「どうした?」と聞いてきた。

 

「いーや、なんでもない」

 

 ……ただ、元男のクセに、なんかさっきのがカッコ良いとか思ったなんて、絶対に言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 それから、十七年。

 

 私は日本に帰ってきて、陽介と再会し、そして……

 

「たかふみが……私を異性として見てくれないんです……!」

 

 今、藤宮ちゃんとカフェに来ていた。

 

 昼頃、突然二人だけで行きましょうと言われて、何事かと思ったが、どうやら内容は恋愛相談らしい。

 

 ……私、元男なんだけど。

 

「友達としてしか、見て貰えなくて……リフィアさんにも分かりますよね!?」

「わかりみが深い」

 

 即答した。

 

 というか、私の恋愛経験は、その壁を如何に乗り越えるかに尽きていた。

 

 結局乗り越えられなかったけど。

 

「リフィアさんも、おじさんの事好きなんですよね」

「……うん」

「今まで、どんな事をしてきたんですか?」

 

 ……色々やってきたが、さて、何を話したものか。

 

「添い寝したり、盛大に抱き着いたり、胸揉ませたり、下着姿見せたり、耳をハムハムしたり……」

「待って待って待った。想像以上に肉食だなおい……!?」

「逆に言えば、これくらいやっても無理だったって事」

 

 添い寝してもグースカ寝るし、盛大に抱き着いても、驚くぐらいで体の方にも反応しないし。

 胸揉ませた時とか、下着姿見せた時は割と動揺していたような気がしたが、特に何も起きなかった。私の方から本気で押し倒そうと思ったまである。

 

「藤宮ちゃんは? 逆に何やったの?」

「え、ええと……ぐ、偶然、風呂上がりのシャツ一枚の所を見られたり、友達のスマホに入ってた水着姿を見られたり。……前者は、責任取ってイキュラス・キュオラしそうになって、後者も、まあ、お察しです……」

 

 中々に酷い。

 

 敬文くん、異常だよ。友達に誠意を持って接するのは良いが、男の欲を抱いてはいけないと思っているのがダメだ。

 元男の私が言うが、それはただの化け物だ。

 

「……胸も大きいし、十分に可愛いから、イケイケゴーゴーで突撃して、責任取らせて結婚した方が楽だよ」

「それはたかふみが死んだ目になるから止めよう」

 

 うん、知ってた。

 

「冗談はさて置いても、敬文くんへの啓発が必要なのは確かかもね。恐らく、敬文くんは、友達っていう領域からはみ出る事をしたり、思ったりしてはいけないと思ってる。意識させるには、友達という関係性を変えたいと藤宮ちゃんが思ってる事を、敬文くんも知る必要がある」

 

 つまり、ドキドキソワソワ、焦らしまくろう大作戦だ。

 

「プランはこう。私がそれとなく敬文くんに『藤宮ちゃんって敬文くんの事好きっぽいよ』って言う。後は時間をかけつつ敬文くんに意識させまくって、落とすしかない。お互い幸せになるには、この難題をクリアしないと」

「難易度が鬼だ」

 

 藤宮ちゃんが絶望顔になった。

 

 でも、恋愛弱者の私には、これ以外方法が思い付かない。

 

 ……ごめん、使えなくて。

 

「……いっそ、諦めるのも手だけどね。自分の心を押し殺せる自信があるなら、オススメかな」

「オススメ要素どこ……!? って、リフィアさん目が死んでますよ!」

「あ、本当? いやー、陽介の話になると、たまにこうなっちゃうのがね。前までは作り笑いくらいできたんだけどなぁー」

「怖い! 余計に怖い!」

 

 陽介とこうも身近だと、表情が緩んじゃうよね。

 合法的に陽介の隣で寝られるとかマジ最高。ついでに朝ご飯が陽介の血なのも尚良し。

 

「えへ、えへへ……」

「ちょっとー? いきなり一人で幸せに浸らないでくれますか?」

 

 むくれながら、アイスカフェオレを凄まじい速度で吸い込んでいく。

 ごめんなさい。

 

「……でも、リフィアさんって、吸血鬼なんですよね。その、寿命とか、長いんじゃないですか?」

「長いというか、血を飲んでる限り生き続けられる。だから、血が全部無くなったら、そこで私の命はおしまい」

 

 何を藤宮ちゃんが聞こうとしているのか、私にはすぐ分かった。

 

「でも陽介が死んだら、私も死ぬつもり。人間より長く生きたって、きっといい事なんて無いし……」

 

 というのは建前で、なにより、耐えられないこと。

 

「……陽介がいない世界なんて、私には退屈だよ。あんなに一緒にいて楽しい人は、男の時にも居なかったくらい」

 

 視界じわりと滲み出す。

 抑えきれない気持ちも、沸き上がる。

 

「……ごめんね。藤宮ちゃんの相談なのに、私が泣いたりして」

「い、いいんですよ! きっと、私と同じ思いをしてきたんだろうって思って、相談したんですから」

 

 確かに、似ているかもしれない。

 

 私と藤宮ちゃんは変化を望んだ。

 陽介と敬文くんは変化を望まなかった。

 

 ……いや、陽介はそんな事すら微塵も思ってなかっただろうけど。

 

 私じゃなくて、藤宮ちゃんなら。

 そうやって、自分と重ねてみてしまうと、自然に言葉が零れた。

 

「どうか、私みたいにはならないでね」

 

 そうしたら……きっと私も報われると思うから。

 

 

 

 

 

 

 私の一日は、陽介を起こす所から始まる。

 

「んぅ……おはよ〜……」

「……zzz……zzz……」

 

 隣でぐっすり眠っている陽介の布団にもぞもぞと入り込んで、寝惚けたまま首にカプっとする。

 

 んー……朝にはやっぱりこれが効く……

 

「おーい、二人とも〜、まだ起きて……って、リフィアさん、また寝惚けたまま噛み付いてるし……。ほらリフィアさん。早く起きないと、おじさん干からびちゃうよ」

「んー、起きるー……」

 

 敬文くんに起こされて、それからようやく起こし始めるのが、最近の習慣になってるんだけどね。

 

「……陽介、起きてー。朝だよー」

 

 ただ厄介な事に、陽介は自分からじゃないと起きれない。

 

 何故なのか、いつでも寝付きがいいし、何されても起きない。

 そのせいで、色々酷い目にあってきた。

 

 ……まあ、かく言う私も寝込みを襲った事がある。

 

 その後、あまりの罪悪感に首を吊ろうとしてたら、アリシアちゃんに全力で止められたので、現在進行形で生きている。

 

 吸血鬼って、首締められても勝手に蘇生するけどね。ハハッ。

 

「陽介ー、おーきーてー」

「……グー、カァー……」

 

 肩を揺らし、大きく声を出してみる。

 陽介は大きくいびきをかくだけだった。

 

 ……さて、やっぱり起きないか。

 

 こんな時は、耳元に口を近づけて……

 

「……ゴールデンアックス」

「──デスブリンガー!! ハッ!?」

 

 あ、起きた。けど……デスブリンガー?

 

 デスアダーなら何となく知ってる。ゴールデンアックスを持っていて、王国の王様と姫様を捕らえたラスボスとかなんとか。

 この前、ようやくその近くまでやって来たけど、全然何も知らない。

 

 後で取説見ておこうかな……

 

「なんだ、ビックリしたぁ……ダンジョンの最後のボスに出て来るとか、心臓に悪い……」

「……おはよう、陽介」

「あ、ああ。おはよう……ふああぁ」

 

 眼鏡を掛けて、大きく欠伸をした。

 

「さっき言ってた、デスブリンガーって?」

 

 気になって聞いてみると、陽介が目をキラキラさせて身を乗り出した。

 ち、近いんだけど……

 

「聞いてたのか。デスブリンガーは、ゴールデンアックスのラスボス、デスアダーを倒すと出てくる裏ボスみたいな敵で、アーケード版じゃなくて移植のメガドラ版にしか出て来ない。裏ボスではあるんだが、デスアダーとHPは大して変わらなくてな。コイツの一番の変更点が、キャラが使ってくるような魔法を使ってくる事なんだ。……と言っても、大抵ダッシュ大ジャンプからの下突きで嵌められるから、相手にするのはデスアダー同様そんな苦労はしないんだ。寧ろ問題は、二体居る雑魚枠の無敵スケルトンでな。コイツらにハメを妨害されて、攻撃食らって魔法を許される方がヤバい」

「……なるほどね」

 

 なんだか簡単に言っているようだが、隙を突いてジャンプ下攻撃を当てるのは普通に難しい。

 陽介がどれだけやり込んだかが窺える。

 

「ゴールデンアックスは良いゲームだよなぁ。穴に敵を蹴り落としたり、投げて落としたり、相手のダッシュ攻撃を誘って落としたり……あ、いや落とすのが目的じゃないからな? 時間効率と点数的に、ポイポイ落とす方がだな────」

 

 毎日、こうしてセガのゲームの話を聞く。

 最初こそ、名前だけでやった事ないゲームばかりだったが、今は三割ぐらい、うんうんと頷ける。

 

 ……まあでも、私が陽介のセガ語りを聞いているのは、私が見ていて楽しいからだけど。

 

 陽介が楽しそうに話しているのを眺めるのは、異世界にいた頃からの、私の密かな娯楽だった。

 

「────ただ、最初にキャラ選択画面に立ってるアックス・バトラーっていうバーバリアンは、バランスが良いとか書いてあるが、実際は器用貧乏なんだ。ゲームに慣れたプレイヤーが、あらゆる手で敵を倒したい時に使える。初心者にオススメはドワーフ族のギリウス=サンダーヘッド。魔法のレベルが低い分通常攻撃が他キャラより強いから、雑魚敵を薙ぎ倒すのに向いてるな」

「へぇ〜、そうなんだ」

「因みに、三キャラ目の女性キャラ、ティリス=フレアは攻撃力こそ低いが魔法専門で、多様な攻撃ができる。でも、ティリスは悲しい過去を持っていてな。元々、ファイアウッド王国の王女だったが、彼女の誕生日にデスアダー軍団に襲われて、匿われた自分以外が皆殺しにされていたんだ。復讐心に燃える彼女は、六年後、得意の魔法と母の形見のショートソードを武器にデスアダーと戦う! ってのが良い所なんだ! 俺も、タイムアタックの時はティリスを使っていたなぁ」

 

 ふむふむ。

 これからの攻略の参考にさせて貰おう。

 

「もうご飯出来てるよおじさん、リフィアさん! 冷めないうちに早く食べて!」

「お、いただきまーす!」

「はいはーい!」

 

 血は飲んだけど、それはそれとしてご飯は食べたい。

 ご飯は人類の文化だ。私の生きがいでもある。

 

「焼き魚は美味いよな。異世界じゃ、海の幸はあんまり長持ちしないからって、沿岸部でしか買えなかったんだ」

「うわぁ……日本人として、魚が食べられないのは辛いよね」

「そうなんだよ! 米もないし、味噌汁も無い! 飯は美味いが、時々思い出してはホームシックになったもんだ」

 

 ホームシックかぁ。

 

 現世には、今は中学なりたての〝俺〟が存在してるから、両親に会う訳にもいかないし、そもそも、二人は後三年もすれば死んでしまう。

 

 〝俺〟が異世界に行く頃には、家族なんていない。

 

 ……家族、なんて。

 

「リフィアさん?」

「え、あ、うん!? 海で陽介と伝説の海竜を倒した話の事でも話してた!?」

「いや、全くそんな話はしてないけど……」

「あ、なんだ違うんだ……」

 

 早とちりしてしまった。

 てっきり、沿岸部とか海の幸の話だったから、その事でも話してると思ってた。

 

 うう、恥ずかしい……

 

「それはそれとして……ええと、伝説の海竜?」

「……そう。魔水竜タイダルドラゴン。海に棲息してるから、海竜って呼ばれてる。そいつが現れる度に、他大陸との貿易の航路が荒らされるから、冒険者を募って、撃退してたんだ」

「何それ!? おじさん、リフィアさんとまともに冒険してないって言ってたじゃん!」

 

 えっ。

 嘘だよそれ、絶対。

 

 私と陽介が何回一緒にダンジョン潜ったと思ってるのか。

 

 驚いて陽介を見ると、手をポンと叩いて言った。

 

「おー、そういやそんなのあったな! あいつが海岸に現れて、俺も休暇を台無しにされたんだが……見たいか?」

「あ、それならちょっと待って。藤宮を呼んでから見たい」

「それなら、コーヒーでも挽いて待ってるか」

 

 ……まさか、私との思い出を忘れ(イキュラス・キュオラし)てるんじゃないだろうか。

 

 なんだか不安になりながら、そうこうしているうちに、三十分が経った。

 

「お邪魔しまーす」

 

 藤宮ちゃんを混じえて、映像鑑賞会が始まった。

 

 

 ……あれは、確か十四年前。

 

 私が転移して七年。陽介が転移して四年の頃……

 

 

 私と陽介は、とある依頼を受けて、海にやって来ていた。

 

『ここが海か。広いもんだなぁ……』

『? 陽介は日本で海は見た事ないの?』

『ああ。夏休みも、ひたすらゲームしかやってなかった。……綺麗なもんだな』

『そうだね……皆で行ったのを思い出すよ』

 

 大陸の左端にあるこの海岸は、観光の名所としても有名で、毎年、夏には多くの人々が訪れている。

 日本で言えば、九十九里浜的な場所だ。

 

 ここでの依頼の内容は単純で、海に魔物がやって来た時に、観光客を守って欲しいというもの。

 この頃、海の魔物の活動が活発になっていて、先日も襲われる事故があったらしい。それを受けての、今回の依頼という訳だった。

 

『水着を買ったは良いが、俺、実は泳げないんだよな』

『……カナヅチ、ってやつ?』

『そう、それそれ。お蔭で夏には体育の成績がグンと落ちて、人生で1しか取れたことが無い。人から笑われるわ、プールに落とされるわ、溺れさせられそうになるわで、本当に散々だった……』

 

「昔の日本男児惨いな!?」

「今なら余裕で訴えられそう……」

 

『……取り敢えず、着替えようか。私も、水着持ってきてるし』

 

 記憶の精霊の配慮により、例によって着替えシーンはカットされていた。

 

 陽介の着替えシーンが無くて、私は泣いた。

 それを見た敬文くんと藤宮ちゃんがドン引きしてた。ごめんなさい……

 

 水着に着替えて海岸沿いまでやって来ると、太陽が眩しくて、手をかざした。

 吸血鬼は元来、太陽に弱い。普段からあまり肌を見せないようにしてるから、水着で肌が晒されると、肌が爛れてしまうこともある。

 

 持ってきた日傘を差しながら、陽介に近付いていく。

 

『陽介……えっと、どう?』

『……リフィアか! ほぉ〜、似合ってるじゃないか』

『そうかな? それなら良かったよ』

 

 フリル付きの、なんてことの無いビキニでも、陽介的には結構良い感じだったっぽくて、嬉しかったなぁ。

 頑張って選んだ甲斐があったって思えたし。

 

「おおっ、リフィアさん可愛いじゃん!」

「ほんと? お世辞でも嬉しいな〜」

「お世辞なんかじゃないよ。肌も白くて綺麗だし、スタイルも良いし、日傘持ってるのも何か良いよ、これ!」

 

 そこまで言われると、流石の私も照れるなぁ……えへへ。

 

「…………リフィアさん?」

「ヒッ──!」

 

 ふ、藤宮ちゃん……!?

 

 その……あの、本当に、ごめんなさいっ。

 

 でも敬文くんには一ミリも興味無いから、安心して欲しい!

 私は藤宮ちゃんの味方だからね!

 

『それと、海に入る前に、陽介にやって欲しいことがあるんだけど……』

『どうした? 言ってみてくれ』

『そのう……私、吸血鬼だから、日の光に弱くて。だから……塗って、欲しくて』

 

 あー、こんなイベントもあったっけ。

 

 所謂コスメとか、化粧美容の類の物は、グランバハマルでも上流階級しか使えない位高価だけど、こちらは市販もされている。

 

 魔物を養殖することで、大量生産に漕ぎ着けたとか。

 しかし、何故日焼け止めだけなのか。

 

 今でも、あの世界の謎は尽きない。

 

『……自分じゃ全身は塗れないもんな。分かった、俺が手伝ってやろう』

『あ、ありがとう。ただ……ちょっと、こっち来てくれる?』

 

 私が陽介を連れて、人目のつかない岩場までやって来て、背を向いて水着を脱いだ。

 

 後ろに、日焼け止めを手渡すと、陽介は手に塗って、容赦なく肌に塗りたくった。

 

『ひうっ!?』

『冷たいか? 少し我慢してくれよ』

『ご、ごめ──ひゃっ』

 

 人に触れられて、感覚が研ぎ澄まされる。

 自らの背筋の輪郭を再認識して、ぼんやりとしていた自分の体が、点から線となって、やがて像を結ぶ。

 

『前に、触れるぞ』

『や、ちょっ…………ぁっ』

 

 腹部、臍。しなやか過ぎる程にしなやかな体躯。男の頃少なからずあった肉質的な筋肉は姿を消し、艶やかで柔らかで、張り付くような絹の肌。

 否が応でも、自分が女性であると認識させてくる。

 

『んっ……ぁぅ……』

 

 そして、男の頃には無かった、それ。

 

 陽介の指が触れかけて、微かな刺激でも反応してしまう。

 

 ……これを本来の用途で使う日が来るのだろうかと、何度か夢想したことがある。

 

 男の頃はロマンの塊であったのに、今となっては、少し邪魔なものだ。

 

 そして、手は腰を抜けて、臀部へと過ぎていく。

 

『ひゃんっ!?』

『悪い、変な所を触ってしまったか……?』

『だ、大丈夫……だから、続けて』

 

 汗が滴る。

 

 余計に熱が篭って、息も荒くなる。

 

 誰にも許した事の無い肌をまさぐられて、体の隅々まで、陽介の手が触れていった。

 陶芸のように、土を捏ねて器を形作るように、私という存在を、陽介によって理解させられるようだった。

 

 ……形容しがたかったが、私はこの時、そんな風に感じていた。

 

 元々、無理矢理この形に押し込められたんだから、違和感を抱かない訳が無い。

 

 でも、私は紛うことなき女の子で、その気になれば、人の親にだってなれる。

 

 そうと分かった時、(リフィア=カルネイア)のアイデンティティが本当の意味で定まった気がした。

 

 そして、私という女の子が、好きな人の前で裸を晒け出しているという、かなり恥ずかしい状況にある事を自覚した。

 

 ……いや、見てるこっちも恥ずかしいけどね!

 

『……も、もういいよ。後は自分でやるから』

『もういいのか。それなら、俺は後ろでも向いてるよ』

『ん……』

 

 もう殆ど塗られなかった所はなかったが、手の届く範囲を丁寧に塗り込み、水着を着け直した。

 

『準備完了っと……行くよ、陽介』

『俺、もう一度言っておくが全っ然泳げないぞ』

『私が教えるから、せめて小学校レベルの水泳検定はできるようになろうね?』

 

 岩場から出て行った所で、一旦映像が止まった。

 

 頼むから、私の痴態で話すのだけは──

 

「あれ記憶の精霊さん的にありなんだね……」

「精霊様、日焼け止めイベントありがとうございます。この前、朝チュンは逃げですとか言ってごめんなさい、本当にすみませんでした」

「藤宮ちゃんんんん!?」

 

 時々、藤宮ちゃんがおかしくなる……

 

 そんなに男女がぬっとりねっとりしてるのがお好きなんだろうか。

 いや、私も好きじゃない訳じゃないけど。

 

「リフィアの肌って、子供みたいにすべすべもちもちしてたなぁ。エルフとかもそうだった。異世界人補正だか、やたら綺麗なんだ。俺なんてカサカサゴワゴワなオークの亜種。酷いもんだよ」

 

 そう聞いた瞬間、私の意識は一点に集中した。

 

 ……エルフとかもそうだった。

 

 そっか、エルフとかね、エルフとか。

 

 へぇー。

 

 へえぇぇ〜〜……

 

「り、リフィアさん!? また目が死んでる……!」

「おじさんとことん地雷踏み抜いてくな!?」

 

 別にいいですもん。

 

 今は陽介の傍にいるのは私だけだし。

 

「いいから続き見よ」

 

 勝手に操作を奪って、映像の続きを流した。

 

 岩場から出た私と陽介は、海水浴場の方まで戻っていった。

 

 思いっ切り楽しむぞー! なんて思って、水着を買ったりビーチ用具を買ったり、張り切ってしまったのがいけなかったのか、それとも陽介の運の悪さの影響なのか。

 

 何にしても、天は私達に、普通にビーチを楽しませる気は無かったらしい。

 

『海竜警報、海竜警報! 観光客の皆さんは、速やかに陸へ上がり、避難して下さい! 繰り替えします────』

 

『……マジか』

『……早速海水浴どころじゃなくなったね』

 

 蜘蛛の子散らして逃げていく人々を横目に、海面に映る黒い影に目を向けた。

 

 二つの光が海の中で灯り、大きく海面が波打つ。津波にも等しい水量が海岸を襲ってきて、咄嗟に砂の壁(バハマリオン・ザルシェリオン)を構築してやり過ごした。

 

『着替えてる暇は……どうやら無いらしいな』

『となると、ノーダメージクリアかぁ。少し厳しいと思うけど』

『いや、大丈夫だ。ゴールデンアックスだって、ノーダメじゃないとぶっ飛ばされたりして、タイムにロスが出る。今更どうってことは無い』

『……私、陽介が語るゴールデンアックスの経験談だけは信用ならないと思ってる』

『えっ。ちょっと、何で? ねぇ、何でなの?』

 

 問い詰めてくる陽介をガン無視していると、私と陽介の間に、瞬きが突き抜けた。

 

 恐る恐る壁を見ると、一部が崩落して、そこから、水色のそれが、私達を覗き込んでいた。

 

 蛇の様な長い胴体。手のように長い胸ヒレ。

 ファ○ナルファ○タジーに出てくるリヴァイアサンに近い見た目をしていた。

 

『ギュルルルルッ……ギィッ!』

『『ひぃっ!?』』

 

 同時にその場から飛び退いた瞬間、魔水竜の頭が砂浜に突っ込んで、大き過ぎる口で噛み付いてきた。

 

 あれで食われた一溜りも無いどころか、即死だ。

 

 冷や汗がじりじりと額を伝う。

 

『陽介、どうする?』

『……相手の攻撃は、単純に考えて物理攻撃だけじゃないだろうな。もう少し様子見をしよう──《キライドルギド・リオルラン(光剣顕現)》、《クローシェルギド・リオルラン(闇剣顕現)》!』

 

 陽介が光闇の双剣を手にして、その切っ先を合わせた。

 エネルギーが集束し、海竜の頭部を穿った。

 

 そのまま、海竜は海に倒れていった。あまりに呆気なくて、思わず呟いた。

 

『……やった?』

 

「あ、言った」

「言っちゃったね、リフィアさん」

「…………」

 

 二人の生温かい目線は黙殺した。

 

 人間、そうだと分かっていても言ってしまう時だってあるということを、教えてやりたい。

 

『リフィア。そういうのは、ゲーム用語でフラグって言う──』

『っ!?』

 

 ──来る!

 

 そう思った時、私の体は反射的に陽介を突き飛ばしていた。

 

 途端に、両腕が消滅した。

 

『──ッあぅぐ!?』

 

 浜辺から吹っ飛ばされ、撒き散らされた血が砂浜を彩る。

 

「リフィアさん!?」

「え、うそ、いま腕が……!」

 

 と、画面で早速大ピンチになった私を見て、口を押えている二人に、陽介がふっと笑う。

 

「たかふみも藤宮さんも、もしかしてリフィアの種族を忘れてるな?」

「「あっ……!」」

 

 なんで陽介が自慢げなんだろう。

 

 私チョロいから嬉しいけども。

 

『……いったたた、腕で済んで良かった』

 

 そう言う訳は、先も陽介が言ったように、私が吸血鬼だからだ。

 

 肩から零れ落ちる血が、段々と形を成していって、新たな腕となる。

 

 吸血鬼族の不死の能力。

 保有する血を全て使い切らせるか、身体を全て消滅でもさせない限り、どこからでも再生する。

 

 かつて相対した聖十字騎士団をして、ゴ○ブリの様な生命力と言わせしめた力だ。

 

 そうして戻ってきた両腕に感覚が戻ると、その手で収納魔法にアクセスし、中から長い棒を掴み取る。

 同時に、根源魔法を詠唱した。

 

『……《レグスウィッド・ザルドーナ(機動纏身)》、《ワーグレント・スラドセルド(疾風駆送)》、《エバスト・スラド(烈駆)》!』

 

 仰向けに一歩踏み出すと、目の前に展開された幾つもの魔法陣を突き抜けて、刹那に魔水竜の頭上へ飛び上がる。

 ギョロりと目を向けてきた魔水竜だったが、ブレスを放つ余裕なんて与えさせはしない。握った紅い大鎌で、頭を刈り取った。

 

 砂浜に着地し、頭と首が落ちていった海中をつぶさに観察する。すると……

 

『……再生する上に、その源は海水か。道理でこれまで撃退しかできなかったわけだ』

『お蔭様でノーダメクリアできなかったよ。あー、油断した……』

 

 陽介にも、その全てが見えていたらしい。

 

 私も頷くと、画面の外から唸り声が聞こえてきた。

 

「再生能力は良いとして……海水を消費してるって、今の一瞬でどうやって見抜いたの? おじさん」

「私にも分かりませんでした。さっきのあったし、頭が復活してるのは分かったんですけど」

「ん? よく見えなかったか? ほら、ここから見てみろ」

 

 陽介の一人称視点に戻って、時間を戻す。そこから映像を再生し始める。

 

「この部分、海面が少し凹んで、渦になってるだろ。お風呂場の水を抜く時にできるアレみたいな奴だ」

 

 落ちた首の方から、急速に頭が生え始めてから、莫大な水の量が使われて、海面に渦が出来ていたのだ。

 

 ただ頭が落ちただけなら、波になるだけなのに、渦が出来るのはあまりに奇妙だった。

 

「……あ、あれだけで分かるんだ。おじさんもリフィアさんも、異世界で生き抜いてきただけはあるね」

「冒険者ってやっぱスゲーな……普通に見落とすでしょ、あんなの」

「いやー……そうでもないよ? スク○ェアのクロ○クロスでも、属性攻撃に対して反対属性のエレメント使ってくる敵とか居たし、そういうのの分析は基本だよ」

「クロノ……?」

 

 あ、ごめん。これ2000年くらいのゲームだ。

 

 龍玉で有名な鳥○先生がイラストやってる初代(クロ○トリガー)の方言っとけば分かったかな……?

 

「リフィアさんが段々おじさんみたいな言動になってきてるぞ、たかふみ……」

「最近ちょっとゲームやらせ過ぎたかもしんない」

 

 えっ。

 

 やらせ過ぎって、配信ない日は8時間しかやってないんだけど。

 

 私の高校時代(平日6時間、土日12時間)より、かなり健康的な生活だと思う。

 

「そんな8時間で何言ってるの、敬文くん」

「えー、もっとゲーム時間あってもいいと思うよ、俺も」

「だよね〜」

「な〜」

 

 うんうんと頷き合って、ヘーイと拳をぶつけた合う。

 それくらい無いと、とてもじゃないがゲームを消化し切れない。

 

 ゲーマーには、時間が必要不可欠なのだ。

 

「あ、この人達ダメだ。ただのゲーマーになってやがる。たかふみが早くこの二人を止めてあげないとヤバいぞ」

「分かった。……何とかする」

 

 敬文くんの眼鏡の奥が見えなくなった。

 

 あ、あれ……陽介の部屋に入ってったなぁ。

 

 何を、してるのかなぁ……?

 

「た、敬文くーん、何やってるの?」

 

 返事が無い。

 しかも、ガサゴソと何かを漁っている音まで聞こえてきた。

 

「あー、これ、完全にアレする流れだ……」

「アレする流れって!?」

 

 藤宮ちゃんから意味深な言葉が聞こえてきて、もう我慢ならんと、陽介と一緒に戸を開いた。

 

 

 ……そこでは、敬文くんが嬉々としてP○4proをゲームの空箱に仕舞っている光景があった。

 

 

「ちょ、ちょちょちょ!? 何してるの敬文くん! 私のP○4だよ!?」

「え? 何って、もうすぐ返品期間過ぎちゃうし、今の内に返しておこうと思って」

 

 鬼だ、鬼がいる。

 私のお母さんはもっと寛容だったのに。

 

「いいかたかふみ、世の中にはやっちゃいけないことがある。それがその一つだ。濡れたゲーム機をレンジでチンするレベルだ」

「濡れたゲーム機をレンチン……!?」

 

 最近は説明書にも載ってるらしい。

 いやそれはともかく藤宮ちゃんは黙ってて。

 

 これは、私達と敬文くんとの戦いなのだから。

 

「……敬文くんの人でなし、鬼畜、変態、眼鏡」

「眼鏡は罵倒用語じゃないよ!? 何その銀の魂(シルバーボール)みたいなノリ!?」

 

 よくよく見たら、敬文くんって見た目も立ち回り新八くんに似てるような気がしてきた。

 

 いやそれはともかく!

 

「……敬文くん、何でそんなことするの?」

「決まってるじゃん。二人がゲームやり過ぎだから、もう少し時間を自重してくれないとゲーム機返品かなって」

「「そんな殺生な!?」」

 

 声高々に叫びたい。

 敬文くんはあんまりゲームやらないからそんな事が言えるんだと。

 

 君もこっち側に来れば分かるはず。時間はいくらあっても足りないってことが。

 

「た〜か〜ふ〜み〜! 俺たち、これ以上ゲーム時間減らされたら死んじゃうって! な? 少しくらい……」

「あっそう、じゃあこれは返品っと」

「敬文くんやめてぇ〜!! これは私の大事な子なの! この子が居なかったら生きてけないの────!!」

「リフィアさん、ダメな方向にぶっ壊れた」

 

 ……そうして、弱味を握られた私達は、敬文くんの前に敗北した。

 

 ゲームは一日六時間にされてしまった。

 悔しいので、今月は、朝から敬文くんの生き血を啜って生きる事に決めた。

 

 

 

 

 あ、ここで一旦、コーヒー休憩挟みます。

 

 

「……コーヒー、美味いよね」

「……何せ挽きたてだからな」

「コーヒーって、挽く速さとかで味変わるらしいよ」

「そうなんだ」

「うん。ご○うさで学んだ」

「……うさ?」

「……陽介がやっても萌えないかな」

「……え? 燃える?」

「あれ、おじさん知らないんだ……」

「平成初期を生きてるのに意外ですね……」

 

 




オイオイオイ
見てくれよ原作:異世界おじさんの投稿数を。


何も、変わって、ねぇ!!(3件のみ)
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