異世界おじさんvs異世界TS娘   作:SEGA機未プレイお兄さん

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異世界おじさんがちょっとずつ投稿されてて嬉しい……


天光満つる処我はあり……黄泉の門開く処(以下略

 

 

 午前10時。

 天気はすっかり雨模様で、外は雷がゴロゴロと鳴っていた。

 

 今日は特にバイトも無いので、リビングでだらけていると、突然おじさんの部屋から、可愛い服を着たツンデレエルフさんが出てきた。

 

「あれ? おじさん、エルフさんになってどうしたの?」

「ん? ああ、ごめんね。エルフになってるのは、陽介じゃなくて、リフィアの方だよ」

「あ、リフィアさんなんだ。珍しいね、エルフさんになるなんて」

 

 そもそも、リフィアさん自体が変身する必要が無いくらいの美少女だからね。

 おじさんと隣に並べたら、間違いなく批判殺到モノになるくらいだ。

 

「ちょっと、試したい事があって」

 

 スマホを持って、何やらアプリを開くと、口を近付けて……

 

「……ちょっとキ○トくん!? もう、何やってるの! 今日は迷宮区の攻略行くって約束だったでしょ!」

 

 ……なんか、言った。

 

 呆然とする俺を置き去りに、スマホをポチポチと押した。

 

『……ちょっとキ○トくん!? もう、何やってるの! 今日は迷宮区の攻略行くって約束だったでしょ!』

 

 スピーカーから、エルフさんの声が流れてくる。

 

「こうして聞くと、本当にア○ナにしか聞こえない……」

「キ○トとア○ナって……俺でも知ってるよ。有名なラノベでしょ?」

「まあね。そのアニメ版の、ア○ナの声優が、戸○さんって人なんだけど……やっぱり似てるって言うか、同じっていうか」

 

 そうとなればやる事は単純だ。

 YouTubeを開いて、ヘッドホンを入れて、試しにその人の声を聞いてみる。

 

『キ○ト君!』

『キ○ト君……?』

『キ○ト君』

『これ絶対妖怪のせいだよ!』

『あ○るって言うなぁ──っ!!』

『シャッチョサン!』

 

 ……ふむ。

 

「間違いなく同一人物だね」

 

 最後の社長さんだけよく分からなかったけど。

 

「でしょ? 陽介の声も、ジ○ジョで有名なデ○オの声優の、子○さんに聞こえてくるよ。あ、でも陽介に近いのは、テ○ルズに出てくるジェ○ドかな。詠唱してる感じとか似てて、割と好きなんだよね」

「……テイルス?」

「違う! テ○ルズ! テ○ルズオブジ○ビスって有名なナ○コのRPG! SEGAじゃないから!」

 

 違うのかよ!

 ゲームによってややこしいな!

 

 若干理不尽な反撃を受けた気がしてると、リフィアさんの姿が更に変貌する。

 

 今度は、服も見た目も、完全におじさんになっていた。

 

「陽介になったのは、何気に初めてかな。……さて、本題を進めようっと」

 

 スマホをテーブルに置いて、おじさん(リフィアさん)が決めポーズを取った。

 

「天光満つる処我はあり……黄泉の門開く処に汝あり……出でよ神の雷! ……これで終わりです! インディグネイション!」

 

 ゴロゴロゴロ! と、窓で雷が光った。

 

 スマホの録音を止めて、再生すると、おじさん(リフィアさん)があからさまに目を輝かせて、気持ち悪いぐらいの笑顔ではしゃぎだした。

 

「す、凄い……ジェ○ドがいる! くぅーっ!! 決まってるぅ!! 流石は子○さん! テ○ルズシリーズのファンなら一度は詠唱したであろうインディグネイションを、この生クオリティでとか最高かよ! クソ、録音機器が欲しくなってきた!」

「完全に男の頃が出ちゃってるよ、リフィアさん」

 

 おじさんに引っ張られてしまったんだろう。

 ゲームへの熱い思いが、溢れ出してきている。

 

「おっといけない……変身解除」

 

 元のリフィアさんに戻って、さっき録音した音声をまた流し始めた。

 

「……私、実のこと言うとね。グランバハマルのこと、何かのアニメに出てくる異世界だと思ってた。陽介は子○声だし、メイベルとかアリシアも、どこかで聞いた事がある声だった。……声優にそんな詳しくないから、名前は分からなかったけど」

 

 その発言は突然で、あまりに突飛な考えだった。

 異世界は異世界でも、そこはリフィアさんやおじさんが居た、紛れもない現実じゃないか。

 

 ましてや、アニメだなんて。

 そんなの、いくらなんでも馬鹿げている。

 

「でも、敬文くんの声も聞きなじみあるし、藤宮ちゃんだって、聞いた事はないけど声が綺麗だった。こうなると、段々勘繰っちゃうんだよね」

 

 ──この世界全てが二次元の世界かもって。

 

「……そしたら、おじさんも、俺達も、ツンデレさんとか、異世界の人達も、全部ただの創作の登場人物ってこと?」

「そう。この世界はあくまでも、誰かが考えたストーリーっていうレールの上を走り続けているだけ……」

 

 つまり、こうして思考している事も、リフィアさんがこういう話をするのも、全部、誰かが考えて形作った物に過ぎない……

 

「……って考えてみると、段々怖くなるよね?」

 

 あれこれ考えていた怖い妄想が、その一言で全部吹き飛んだ。

 最初から、俺を怖がらせるのが目的だったみたいだ。

 

「なんだ、そういう……もう、紛らわしいよリフィアさん。俺、少し本気にしちゃったよ」

「あははっ。別に知ってる人と声が同じだからって、空想だなんて決めつけたりはしないよ」

 

 にしても、おじさんやツンデレさんが、有名声優と声が同じ、か。

 

 アニメの登場人物なのかは一旦置いておいても、これ、動画のネタとしてかなり使えるんじゃなかろうか。

 

「あ、世界が現実じゃないってので思い出したけど、敬文くんも『マト○ックス』は観るべきだよ。それか『リベ○オン』。どっちも男のロマンがガン積みのスタイリッシュアクション映画なんだけどね」

「へぇー、スタイリッシュかぁ。どれくらい? 人が平気でぶっ飛んだりする?」

「スタイリッシュさはDMCのダ○テぐらい……って言いたいけど、マト○ックスはそれよりぶっ飛んでるね。人もぶっ飛ぶし。リベ○オンの方は割と現実的な動きだから、私でもガン=カタ風の動きが再現できたり……って、観た方が早いよ、絶対。今度TSU○AYAで借りてこよう」

 

 リフィアさん、日本のサブカル以外も知識あるんだ。

 

 俺、そういう人が出る映画はあんまり観る事がないんだよね……テレビでやってるのだって、アニメの映画ぐらいしかまともに知らなかったなぁ。

 

「っと、そういえば今日の動画は何にするの?」

「それなんだけど……さっきリフィアさんがやってた声ネタで動画作れないかなって。おじさんの声が子○さんなら、何かいい動画作れると思うんだけど」

「……それ、いいかも!」

 

 リフィアさんがパチンと指を鳴らして賛成した。

 

 

 

 

 という訳で、おじさんも巻き込み、動画内で試してみることにした。

 

 画面には、漫画を読むおじさんと、それを傍らで見つめるリフィアさんを映している。

 

 ……リフィアさんに並んでるおじさんに批判がいかないよう、今回の動画で成功してくれたらいいんだけど。

 

「ほぉー、これがデ○オなんだな。俺がまだ学生だった頃はジ○ジョがよく流行っていてな。名前を耳にしたことはあったが、読んだことも無くて、何も知らなかったよ」

「えっ。そうなんだ……それはちょっと俗世に染まらなさすぎだと思うよ」

 

 セガに人生掛けてたからだろうね、間違いなく。

 

「それで、このデ○オって人のセリフ、陽介に叫んで欲しいんだよ。例えば、これとか……『おれは人間をやめるぞ、ジョジョーッ!!』っセリフ」

「デ○オ君、ついに石仮面を使ってしまうのか……彼の澱みない意志と気迫を感じてくる台詞だ。これを俺に叫べって?」

「うん。是非、追い詰められたデ○オの気持ちになって」

「追い詰められた……か。すぅ──『おれは人間をやめるぞッ、ジョジョ────ッ!!!』」

 

 ……え、なに!?

 

 今本物のデ○オの声が聞こえてきたけど!?

 

「……で、どう? できた?」

「いや、できたって言うか、違和感ゼロだよ。何? 本物の音声でも流した? 私の耳がおかしくなっただけ?」

「え、マジ? そんな似てた? 照れるなぁ〜。これなら、俺でも声優として食っていけるんじゃないか?」

「子○さんの仕事奪うのはやめよう」

 

 その後も、『貧弱貧弱ゥ!!』とか『お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?』とか『WREEYYYY!!』とか、聞いたことしかないセリフの数々を叫びまくり、おじさんの顔がスッキリした所で収録を終えた。

 

 ……それはそれとして、周りから苦情が来ないか不安だ。

 

 

 

 

 その翌日。

 

 『【奇跡の一致!?】おじさんがデ○オの声真似に挑戦してみた!』の再生数は、軽く二十万を突破していた。

 

 コメントには、

『これまで何故似てると気付かなかったのか』

『ノリが完全に子○さんのラジオで草』

『クッソ楽しいD○O様www』

『これ子○さん吹き替えてない……?』

『おじさん好きになったわ』

『失望しました。ヴァンパイアちゃんのファン辞めておじさんのファンになります』

『エルフさん出して下さい』という声が続出。

 

 その影響なのか、これまでのおじさんの実況や魔法で遊ぶ動画が子○さんナレーションとして評価されて、全体の再生数がじわじわと伸び始めている。

 

 ……これ、俺達の時代が来たんじゃね?

 

 看板であるおじさんが人気にもなれば、おじさんエルフとリフィアさんで、三大巨頭。

 おじさん自身も、もう向かう所敵なしだ。

 

 ただ、おじさん的には微妙な気持ちらしい。

 

「声が似てるってので評価かぁ……いや確かにそういう動画はあるし、それで稼いでる人もいる。ただ、俺のスタンスとはちょっと、なぁ……?」

「でも、それで再生数稼げたら、結果的にはセガの宣伝に繋がるんじゃ……」

「──あ、確かに! たかふみお前天才だな!」

 

 そこは、まあ、セガを絡ませればチョロかった。

 

 でもこの調子でやってたら、いつかセガに本社まで呼び出されて、いつの間にか公式化されたりしそうだ。

 おじさん、いつも実況でセガ愛熱唱しまくってるからなぁ。絶対に何かで目に留まりそう。そしてセガさんの前で発狂しそう。

 

 因みに、おじさんの隣にいただけだったリフィアさんは、パソコンに映るコメント欄を見て、床で四つん這いになっていた。

 

 おじさんにファンを取られて、YouTuberの自信を喪失してしまったらしい。

 

「ふ、はは……私のファンが消えていく……」

「だ、大丈夫だってリフィアさん。あんなの常套句だから、きっとファンは減ってないよ」

「ハハッ……失ヴフ辞だって、失ヴフ辞。失みフ辞ならぬ失ヴフ辞……ヴァンパイアキャラ捨てて清楚になれば変わるかな……」

「自らのアイデンティティ捨てにかかった!?」

 

 それしたら完全にお終いだよ、リフィアさん……!

 

 

 

 

 そんなこんなで、広告収入は順調に伸びてきている。

 

 三人暮らしになったとはいえ、リフィアさんはあまり食費が掛からない──最近、何故か僕の血を飲みにくるけど──し、吸血鬼だからか、日焼け止め以外の化粧品の必要性も無く、全然オシャレにお金を掛けないので、収入自体はかなり増えた。

 

 ただ、将来的に考えると、ずっとYouTubeで食べていくのは不可能に近い。

 

 でも、リフィアさんは日本国籍を取得する為に、帰化手続きとかなんとか、度々法務局に行って相談とかしてるらしいし、YouTubeじゃなくても、普通に働けるようになる。

 

 問題はおじさんだ。

 YouTuberを辞めちゃったら、働き口なんてどこにもない。少なくとも今考える話題じゃないけど、そう考えると、少し怖くなってくる。

 

 この世界が、本当にアニメの世界だとしても、おじさんが歳を取るまでやっていく訳ないだろうし、それまで何事もなく暮らせたらいいんだけど……

 

 はぁ……また竜になろうかなぁ。もう何も考えたくない。

 

「ふんふんふーん」

 

 テーブルでだらけた首を横に向けると、リフィアさんがきっちりと外行きの格好をしていた。

 今日はどこかへお出かけのようだ。

 

 隣で同じようにだらけていた藤宮が、そんな様子を見て体を起こした。

 

「あれ、リフィアさん、今から外ですか?」

「そ。少し遠くまで買い物して来よっかなって。……なんなら、二人も退屈そうだし来る?」

「「行く行く」」

 

 そんな訳で、俺と藤宮も、リフィアさんの買い物に同行する事になった。

 

 ……ベランダの方で、靴を履かされた。

 

「──《キライドユール・ザルドーナ(光幻纏身)》《ワーグレント・スラドセルド(疾風駆送)》」

 

 こうして、藤宮を肩に乗せ、俺を腕に抱える形で空を飛ぶこと、十分ほど。

 

 空の旅を堪能した俺達は、博多駅周辺のショッピングモールに来たのだった。

 

「はぇー……初めて来たけど、福岡も結構侮れないね」

「あ、リフィアさんって東京育ちなんですっけ?」

「そうそう。……とは言ったけど、下町も下町、葛飾の出身だから、千葉とか埼玉とそんなに変わらないよ。都心部に近いってだけ」

「えっ、そうなんだ……」

「しかも、西の方は山岳地帯だからね。東京を23区だけで考えてると、府中とか八王子とかの人達に怒鳴り込まれるよ」

 

 九州に住む自分からすると、東京は都会っていうイメージしかない。

 秋葉原、池袋、新宿、原宿、渋谷……とか、なんかそういう奴だ。

 

 俺も大概インドアだから、遠くの事って分からないんだよね……

 

「あ、リフィアさん! これ、リフィアさんが着たら似合いますよ!」

「これ? でも髪白いし、似合うかなぁ……」

「大丈夫ですよ! ブラウン系ですし、明るめのと合わせれば良い感じに……」

 

 と、少し目を離していたら、気付けば二人が服屋の前にいた。

 

 女の子がこういうので盛り上がるのって、都市伝説か何かかと思っていたが、そんな事はなかったらしい。

 

「たかふみー! これ絶対リフィアさんに似合うよなぁー?」

「えっ、俺に聞く? でも、そうだなぁ……」

 

 服一式とリフィアさんを見比べる。

 

(似合ってる……のか? いや、俺の主観だとかなり変なことになりそうだし、客観的に見ないと……いやでも、うーん)

 

 結論、よく分からない。

 

「試しに着てみたら? それで判断しようよ」

「まあそうなるよな。よし、リフィアさん行ってらっしゃい」

「あれ、これ着せ替え人形にされるパターン……?」

 

 藤宮もあの様子だし、パターン入っただろうね……

 

 昔から人を構い倒すから、一度やりだすと止まらないことも多い。

 そこが結構、友達として好ましい所だったりするんだけど。

 

 試着室に押し込められて、出てきたリフィアさんは、ちょっと大人っぽい感じになっていた。

 

「おおー、思ったより似合ってる!」

「やっぱり良い感じですよ! 手提げのポーチとか、幾つかアイテムがあればもっと良いかも……」

「ポーチ……? 収納魔法じゃ駄目?」

「いや、収納目的じゃないですから。ファッションの一部です」

「物入れないって、今時の女の子、そんなスケバンみたいな事するんだ……!?」

 

 いや、リフィアさんも今時の人でしょうが。

 しかも例えが古い!

 

「でも、リフィアさんなら、敢えて薄着でカッコイイ系にしたら、それはそれで凄く似合うだろうな、サングラスも似合うし……いや、おじさん受けの為にも、フェミニンなブラウスとかプリーツスカートか……? クソっ、色々合いすぎて選べねぇ」

 

 その後も、藤宮があれこれと持ってくるのをリフィアさんが着たり、自分用の秋に向けての服を選んだりしていた。

 

 それで終わるかと思ったら、藤宮は今度俺の方を見て……

 

「たかふみ、アリシアさんになってくれ」

「え、えぇ……? なんでよ」

「なんでって、着せ替えたいから?」

「いや尚更やらないって。好き好んで女装はちょっと……」

「いいからいいから、私が着せてやるから、ささっと変身しろ」

 

 不承不承ながら、試着室の中に入った。

 

 いや、本当になんでなんだ……

 

「はぁー……貌の精霊よ、我の姿を変えよ」

 

 精霊に願うと、段々と視界が沈んでいって、アリシアさんの姿になった。

 

 ……毎度思うけど、胸が重い。

 

 変身した瞬間、割とズシンと来るから、胸が大きい人がいかに苦労しているかが分かる。

 

 カーテンを開けると、藤宮はじろっと見てきた後、俺に服を突き付けた。

 

 ……いや、あの。

 

「おれ、着方分からないんだけど……」

「じゃあ、私が着せるから。入るぞーたかふみ」

「ちょっ、ふじみや!?」

 

 アリシアさんの慌てた声が可愛いのはさて置き、藤宮と二人きりで試着室って……!

 

 これ、色々な意味でマズくないか!?

 

「よし、着替えろ」

「ふ、ふじみやの前で……?」

「なんだよそれくらい別にいいだろー? 同性同士何も問題無し。合法、以上」

 

 そう言いながら、服のボタンを外していく藤宮。

 

 ……やはり、止められないみたいだ。

 

「分かったよ……脱ぐのは自分でやるから」

 

 しかし、異性の友達の前で脱ぐとか、一体どんな罰ゲームなんだ。

 

 シャツを脱いで、突っかかりながら肌着も脱ぐと、鏡の前には、上半身裸のアリシアさんが……

 

「見ないっっ!!」

「うおっ、反応速度早っ」

 

 片手で完全に視界をブロック。

 危機は去った。

 

「たかふみの精神は化け物か」

「いや、普通に考えてアリシアさんに失礼でしょ……」

 

 あんな健気な人を好き勝手弄んだと思ったら、俺はもうまともに生きてけない気がする。

 

「まあ、それは分かった。……だから下も脱げ」

「えっ、まっ──」

 

 ……脱がされた。

 

 それから、俺は心を無にして、藤宮が着せてくれるのを待った。

 

 まさか、こんな所で感受性を殺すテクが生きてくるとは思わなかった。

 おじさんには感謝しかない。

 

「出来たぞ、たかふみ」

「ああ、うん。ありがとう」

 

 試着室の鏡には、ふんわりとしたトップスと、ベージュのスカートの眼鏡美少女がいた。

 

 確かに、可愛い格好だろう。

 

「てかお前、今更だけどスカートとか大丈夫なのか?」

「まあ、少し心許ないぐらいだよ」

「急にメンタルくそ強になったな……」

 

 試着室から出てみると、外でリフィアさんが待っていた。

 出てきた俺を見て、思いっ切り目を丸くした。

 

「あ、アリシア!? ……って、その眼鏡は」

 

 思えば、リフィアさんの前で変身した事は無かったか。

 でも、眼鏡で直ぐに気付いたみたいで良かった。

 

「敬文ですよ、リフィアさん」

「だよね。はー、ビックリした。まさか形貌変化魔法を使えるとは思わないよ」

「あはは、使えるようになったのはたまたまなんですけどね」

 

 あの日の映画館の出来事は、一生忘れられないだろう。

 おじさんに魔法を押し付けられるわ、沢江さんにも見つかるわで、しんどかった記憶しかない。

 

 その後観た4Dのジュ○シック・ワールドは最高だったけどね……

 

「──なら、着てった方がいいよね?」

「ですね。今ならお客さん居なさそうですし……たかふみ、レジ行くぞ」

「ん? この服、着たままだけど?」

「いや、着たまま買うんだっての」

 

 そういうのアリなんだ。

 俺みたいな男は特に、買ってった服を着るとか、雨で服が濡れても考えないと思う。

 

 そのままレジに連れ出されて、タグを切られて会計すれば、もれなく女の子三人の楽しいお買い物に早変わりした。

 

 ……というか、俺はなんで普通に受け入れてるんだろう。

 

 感受性、殺し過ぎたかもしれない。

 

「ちょっ、何あれ……芸能人?」

「やば、顔面偏差値レベチ過ぎじゃない?」

 

 そうして美少女三人が集まれば、人目に付かない訳がなく、周りだと、既に注目の的にされているみたいだった。

 

「アリシアちゃんパワー、凄いな」

「いや、それもそうだけど、藤宮もリフィアさんも、充分に人目に付くからね?」

「藤宮ちゃん、普通に可愛いもんね」

「ちょっ、やめてくださいよ! リフィアさんとアリシアちゃんの前で自慢できませんって!」

「そうかな〜? 私は可愛いと思うけどなぁ」

 

 うりうり〜、と藤宮が弄られる様子をほんわかしつつ見ていると、二人の足が止まった。

 

 六階までやって来ていたから、どこを目指すのかと思っていたが、ここが目的地なのか。

 

 ……あからさまに、女性ものの下着が並んでいる、ここが。

 

「ついでに、アリシアちゃんの下着を買うぞー」

「いえ〜い、パチパチ」

「俺の意向は無視なの……?」

 

 藤宮とリフィアさんに両腕を引っ張られ、入ったそこは、男の俺には刺激の強い、所謂ランジェリーショップだった。

 

「因みに、この時のアリシアのサイズ*1は異世界の方で把握済みだから、種類と柄を選ぶだけだよ」

「ナイスです、リフィアさん」

 

 グッ、とサムズアップし合う二人。

 着けさせられる筈の俺は、すっかり蚊帳の外にされていたのだった。

 

「下はどれがいいかな?」

「清純なアリシアちゃんに合わせて……純粋にワンポイントの白無地とかですかね?」

「なら、穿き心地が良さげな奴にしよっか。上は……サイズありそう*2だし、何個か試着させよう」

「……リフィアさん、結構慣れてますね」

「異世界だと、上流階級用のオーダーメイドのブラとかあったからね。私もこれだから、意外と助かってたり」

 

 ブラジャーを持ったリフィアさんが、「ね?」とニッコリ、笑いかけてきた。

 

 ……俺は、男の尊厳をいくつか失った気がした。

 

 

 

 

 服屋やお土産屋さんを駆け巡り、所持金と格闘しながら買ったりすること三時間以上。

 

 お昼時を少し過ぎており、そろそろ何かを食べたい頃合になっていたので、博多駅から少しぶらついた先にあった水炊き鍋の店に入り、早速それを頂いた。

 

 俺や藤宮は、昔から食べ慣れた味だから今更驚きも無いけど、都会住まいだったリフィアさんには目新しいものだったようで、とても美味しそうに頂いていた。

 

「私、日本の最高到達点、男の頃は京都までだったんだよね」

「それって、高校の修学旅行ですか?」

「んにゃ……中学の時。高校で行くはずだった沖縄の修学旅行がもれなく中止になったんだ」

「えっ、なんで中止に……」

「……聞かない方がいいよ、ふじみや。未来、かなり凄い事起きるらしくて」

「……マジでか」

 

 あ、鼻血出てきた。

 もうすぐで思い出しそうで怖い。

 

「……まあ、旅行なんて行ったところで、私は楽しめもしなかっただろうけど

「え?」

「──いやー、にしても福岡はいいね〜! 陽介には会えたし、私の到達点も福岡になったし、帰る家もあるしで、異世界から帰ってきてから毎日楽しいよ。今日も、気分で来ただけの博多でこんな楽しめるとは思わなかった」

 

 リフィアさんが輝くような笑顔でそう言うから、()もつい笑い返した。

 

「そりゃあ、あれだけクロキ(・・・)とゲームしてるんですからね。それで毎日が楽しくないなんて言ったら、リフィアからゲーム没収しますよ」

「ちょっと、酷いよアリシ……ア?」

 

 リフィアが固まっていて、ふじみやも口を開けていた。

 

 一体どうしたんだろう。

 

「リフィア? ふじみや? どうかしましたか?」

「あー……変身を長引かせ過ぎたかな」

「これ、おじさんの時と同じ……」

「それが魔炎竜に変身した時の事なら、アレよりは全然軽いよ。まだ形貌変化の副作用、軽度って所」

 

 形貌変化。

 

 その言葉を聞いて、何か突っかかりを感じた。

 ううん、何かを忘れているような……

 

 リフィアが私の頭に手を置くと、その名前を呼んだ。

 

「敬文くん。こっち戻ってきて」

「……ハッ!?」

 

 気付くと、リフィアさんが目の前で、俺の頭に手を乗っけていた。

 

 どうやら、すっかり意識がアリシアさんに呑み込まれてたようだ。

 

 これがおじさんが言ってた、精神が肉体に引っ張られるって奴なんだろう。

 

「すみません、リフィア、ご迷惑をお掛けしまし──って、あれ? 口調が……クロキ(おじさん)リフィア(リフィアさん)エルフ(ツンデレさん)メイベル(メイベルさん)……あれれぇ?」

 

 おかしいな……と思って口をもにょもにょと動かして、再度名前を呼ぶも、駄目。

 

 自分はちゃんと喋ってるはずなのに、全部アリシアさんの喋り方に変化しちゃってる。

 

「それが形貌変化の副作用の一つ。段々自分で肉体が制御できなくなるんだけど、最初は口調からなんだ」

「そんな事が……」

 

 でも、まだ体が動かせるだけマシな状態、ということなのかな。

 

 うう、ちょっと怖いなぁ……

 

「三時間で軽度なら、一日で、体が自分の意志に反して動くことがある中程度に進行して、三日もあれば、完全にアリシアになるかな。まだ猶予はあるから、今のうちにご飯を済ませて、速攻で帰ろう」

「……あの、たかふみは大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。後遺症もまだ軽くて済む」

 

 そうして、三人でご飯を掻き込んで、お会計も済ませた。

 

 持ち物を抱えて、人目の無い所に隠れると、リフィアさんが行きと同じように魔法を使って、飛行した。

 

 男の時は楽しかった空の旅も、今はかなり辛い。

 

「うー……胸が引っ張られます〜。クロキと一緒に飛んだ時*3も、こんな感覚だったんでしょうか……」

「胸が大きい人の苦労、分かって貰えた?」

「多分、私が全世界で一番分かってる男の子ですよ……」

 

 胸を張ってそう言える。

 実際に胸張ると、かなり重いんだけどね……!

 

「おっ、見えてきたっぽいな……あともう少しだからなー、たかふみー」

「や、やっと帰れるんだ……」

 

 安堵と共に溜息が漏れた。

 

 正直、もうこんな経験は嫌だ。

 

「到着っと……」

 

 ベランダから、靴を脱いで家に上がると、おじさんが俺を見て、飲んでいたコーヒーをブッと噴いて噎せていた。

 

「た、たかふみ……お前、その格好」

「弁明は後でさせて下さい、クロキ……」

「あーあー、形貌変化の副作用か。言わんこっちゃない……早く、洗面所で着替えてくるといい」

「そうします……」

 

 服と下着を脱いで片付けると、深呼吸して魔法を解いた。

 

 ……うん。

 

 俺の体だ。

 

「……敬文くん。服とパンツ、カーテンの前に置いといたから」

「うん、ありがとう……」

 

 カーテンの間から抜き取って、着直した。

 

 鏡の前に立つ自分はいつもと変わらないのに、今は物凄く違和感を感じている。

 特に、あそこ()とかあそこ(股間)とかだ。

 

 しばらく、性別が変わっていた影響なんだろう。

 

 …………。

 

(女の子になってオシャレ、かぁ)

 

 はっきり言うと、楽しかった。

 心がアリシアさんに近かったのもあるけど、偏にアリシアさんのせいだとも言い切れない。

 

 ……また今度、二人と買い物に行こうかな。

 

 

たかふみは 異性装に めざめた !

 

 

 

 


 

 

 たかふみが、女装が趣味になりかけている事に気が付いてベッドに篭った頃、リフィアと陽介は、肩がくっ付き合うくらいの距離感で、テレビ画面に落ちてくるぷよを消していた。

 

「うぐぐ……普通に陽介が強い……!」

「ぷよぷよなら、俺にも一日の長があるからな。そしてピンチはチャンス、太陽ぷよも連鎖に巻き込めば……」

 

『えいっ! ファイヤー! アイスストーム! ダイアキュート! ブレインダムド! じゅげむ! ばよえ〜ん! ばよえ〜ん! ばよえ────』

 

「ちょっと待って、小連鎖起きすぎだよ!? は、えっ、ちょま……」

 

 相殺する隙さえ与えず、一瞬にして落ちてくるおじゃまぷよ達。

 リフィアの目の前に表示される、ばたんきゅ〜。

 

 セガユーザーのおじさんに、一欠片も容赦は無かった。

 

「ま、また負けた……」

「まあ、プレイ初日にしてはよくやってるんじゃないか?」

「よくやってるって……私、ぷよぷよ7とか、20周年記念のぷよぷよ!!で結構触ってたんだけど」

「え? ぷよぷよって20年も続いてるの?」

「うん。2021年にも、30周年で何か色々やってたし」

「愛されてるなぁ……」

「あ、因みに私のイチオシはあんどうりんごちゃん」

「誰それ?」

「これ」

 

 手の甲にりんごを乗っけたキャラがスマホに映される。

 

「りんごキャラならデレのあ○りんご推しだけど、ぷよぷよのキャラだと一番好き」

「……なんか、キャラデザ変わったな。全体的にソニックらしくなった」

「ソニックって……まあ、前の会社が倒産して、セガがキャラの権利を持ったらしいし、多分そのせいかな」

「そう言えば、昔コンパイルが倒産したってニュースで報道されてたな……いやでも、その後はセガの看板の一つか……素直に喜べない自分がいるな」

「でも、セガのお蔭でぷよぷよが存続してるんだし、喜んでもいいと思うよ」

「それもそうか……」

 

 そうこうしていると、また二人の対戦が始まった。

 

「……ってか、リフィアお前、さっきからくっつき過ぎじゃないか?」

「ん〜? そうかなぁ?」

「あ、分かったぞ。体をくっつけて手許を狂わせようって魂胆だな? 盤外戦術とは卑怯な奴め」

「ふっふっふ、バレたからには仕方ない……更にくっついてやる」

「あっ、このやろっ」

 

 リフィアが肩に頭ごと寄りかかったが、陽介もそれを本気で振り払おうとはせず、完全に密着状態で遊んでいた。

 

 その後ろ姿は、どう見たとしても恋人のそれで。

 

 甘えたな彼女と、それを構ってやる彼氏のようで。

 

(おい、これで付き合ってないとかどうなってんだよお前ら)

 

 その一部始終を、引き戸の隙間から見ていた藤宮は心で叫ぶ。

 

 この距離感で、友達とか絶対におかしいと。

 

「にひひ……」

 

 リフィアは、はにかみながら笑っていた。

 

 どんな事をしても、違う風に勘違いしてくれる都合の良さに付け入る、自分に対する恥ずかしさと、それでも好きな人と肌で触れ合える事への嬉しさが綯い交ぜになった、そんな笑みで。

 

 でも、これくらいはきっと許されるだろう。

 

 叶わない恋をしてしまった、愚かな自分への褒美として。

 

「陽介」

「ん?」

「──愛してます

 

 形だけで、紡がれる事のなかった言葉は、決して陽介には届かない。

 

「今なんて言ったんだ? 聞こえなかったぞ」

「いーや? なんでもないよ〜」

「えー、逆に気になるだろその言い方」

「ほう……ならこの勝負で私の口を割らせてみせるがいい」

「言ったな? ピンチはチャンスなのを忘れるなよ?」

 

 それでも吸血鬼は恋をしている。

 

 好きな人に、一生を懸けて寄り添いたいが為に。

 

「な、なにィィィィッ──!!」

「敗因はたった一つだぜ、陽介……てめーはおれを怒らせた」

「そんなに聞き返されたくなかったのか……あ〜、でも惜しかったのになぁ」

「おれはやると言ったらやる男だぜ……」

「……リフィア。その口調なに?」

「え? D○Oで返されたから、承○郎かなって」

「……俺、さっきのD○Oっぽかった?」

「めっちゃD○Oっぽかった」

 

 ……ただ、この関係はこの関係でとても楽しいから、リフィアは永遠に、その言葉を呑み込むのだ。

 

 

 

 

*1
TIPS

103/60/98(作者推定)

*2
TIPS

本当の現実の場合、アリシアサイズをお店で売っていることはまず無い。

*3
TIPS

第七巻 p31




ズルズル恋愛パートが長引く予感しかしない

おじさんは愛を手に入れられるのか?

  • 友情こそ全て。愛など要らぬ。
  • エルフ以外ありえないんだが?
  • メイベルたん可愛いよメイベル
  • やっぱそこはアリシアちゃんだろJK
  • たかふみ、藤宮の計画再始動。
  • ハーレムなんて選択肢はありません。
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