異世界おじさんvs異世界TS娘 作:SEGA機未プレイお兄さん
あと異世界おじさん最終話放映おめでとう……!(遅い)
九月もそろそろ終わりを迎えそうなこの頃。
動画の撮影を終えたおじさんが、テーブルでくたびれていた。
「おじさん、どうしたの? 疲れた?」
「……エルフ、ここの所やり過ぎな気がしてきてな」
そんな気がする。
貌の精霊さんとの契約もあるから、それを無下にはできないけど、エルフばかりというのも、おじさんのメンタル的にあまり宜しくない。
思い切って、また魔法の動画でも上げて見たい所だけど。
「ネタ、もう尽きてるんだよね……」
「だよなぁ……」
公序良俗に反しない程度に魔法を使うとなると、これが中々難しい。
それこそ、広い場所を貸し切って何かするとかじゃないと、面白そうな事はできないかもしれない。
「うーん、そうなると、変身シリーズかな」
「でも、アレやるとたかふみが持たないだろ? この前だって馬になった影響出ちゃったし」
「あと、アリシアさんになった時もまずかったもんね……」
勇者ちゃんも、できれば遠慮したいところ。
俺が女の子っぽい喋り方してるだけとか、ただ気持ち悪いだけだし……
「いや待て、逆に男から女性に戻れば、実に迫った俺っ娘ができる……?」
コレだ。
演技じゃない、本物の仕草。
丁寧で物腰の柔らかさの塊みたいなリフィアさんが「はぁ?」とか言ったら、ちょっと……かなり面白い。
我ながらゲスいとは思うが、まずはちゃんと了承を取ってからだ。
「リフィアさん、今いい?」
「んー、どうしたの」
夜ご飯の仕込みを終えて手を洗っていたリフィアさんに、俺は頭を下げた。
「撮影の為に、しばらく男になって貰えませんか……!!」
「いいよ〜」
躊躇いが無かった。
いや、昔は男だったんだろうけど、それと同じくらい女性になってるだろうに。
「い、いいの?」
「良いネタ思い付いたんでしょ? それならYoutuberとしてやらない訳にはいかないよ」
「り、リフィアさんっ!」
……神はいる、そう思った。
このプロ意識の高さには平身低頭するしかない。
「じゃあ、動画の概要なんだけど……」
一連の流れを説明し、理解してくれたリフィアさんは、俺の撮影する前で早速魔法を使ってくれた。
その前に、ちゃんとリフィアさんの口から魔法の解説を挟んでいるので、視聴者にも今回の動画の主旨が伝わってくれることだろう。
「――《
そうして、光のモザイクに包まれたリフィアさんは……
「あ、懐かしい」
黒髪の、どこかで見たような青年となった。
なんか無駄にカッコいいんだが、これ誰だっけ……
「この顔は、棒線でも引いて隠しといてね。これ吸血鬼になる前の私だからさ」
既視感の正体は、どうもそのせいらしい。
もう四ヶ月も前の話だから、うっすらとしか覚えていなかった。
にしても、リフィアさん……
「……完全にオネエになってるね」
「それは言わないで!?」
似たような事はおじさんの時にもあったけど。
でも何だろう、ちょっと男前なイケメンだとまるで似合ってない。マツ○デ○ッ○スさんとかバラエティで見過ぎたかな……
ともかく、撮影は始まった。
元々男の人だったからか、直ぐに俺口調で話し始めてくれて、リフィアさんの性格も相まってほんわか好青年だった。こういう友達が生涯にいたら、心も安らいだだろう。
しかし問題は起きた。
段々、リフィアさんが粗野になっていったのだ。
晩ご飯の事を尋ねると、
「えぇ……俺がやるの?」
と滅茶苦茶渋られたり、
「今ちょっと手が離せない」
とおじさんと一緒にゲームに勤しんだりと、ただの面倒くさがりなゲーマーになってしまっていた。
結局、俺が仕込みしたものを調理する事になり、リフィアさんは夕飯はボソッと挨拶を呟いてから食べ始めて、無言で片付け、さっさと部屋に引き篭ってしまう始末。
……俺は、撮影を始めたことを初日で後悔した。
翌日。
最高に陰キャを極めたみたいな気質の彼、こうき君──彼がそう名乗っていた──は、またもおじさんとゲームを始めた。
『ヌオウッ』
『テェッ、テェッ、テェッ──RING OUT!!』
「うお、やられた」
「ご、五戦ぶりに勝てた……陽介さん、ちょっと強過ぎるって」
「いや、俺はそうでもなくてな。バーチャファイターは、初心者でも熟練者に勝てる、操作の上手さじゃなくてセンスってのがコンセプトなんだ。操作もシンプルでやりやすかっただろ? これは新規ユーザーをアーケードにのめり込ませる為のセガの戦略なんだが、お蔭で自分でも予期しない技が出て、いつの間にか相手がK.O.になる事もある。あれは現代じゃ味わえない楽しさがあると、俺は思うんだ」
「確かに……初めての技が出た時は感動したなぁ。あれから、全然出せてないのが悔しいんだよ。どうやってやったんだっけな……」
「だろ? いやー、バーチャファイターはそれがいいんだよ。あれはセガが生み出した、当時最高峰の格ゲーだ」
……こうき君が、おじさんに洗脳されていってる。
いや、高校生の甥っ子が親戚のおじさんの家に遊びに来てる様な微笑ましさはあるんだけどね。
元がリフィアさんだから、おじさんも猫可愛がりしている。
でも、家事の手伝いはしてくれなかった。
早くリフィアさんに戻って欲しい。
三日目。
今日の十二時、こうき君はリフィアさんに戻るらしい。
精霊さんに頼み込んで、自動解除ができると聞いた時は驚きだった。
禁忌の魔法とは言うが、精霊と話せれば対策も立てられると知って、俺は結構安心していたり。
「あー、その……たかふみさん、だっけか。その、二日間、世話になった。ありがとう」
意外にも、去り際は礼儀正しかった。
思えば初日は、リフィアさんの親密さと、こうき君の素っ気なさが合わさった結果なのかもしれない。
「陽介さんも、またゲームの相手になってくれると嬉しいんだが……」
「また会えたら、その時はバーチャファイター2をやろうな」
こうき君は恥ずかしげに首に手をやりながら、帰って行った。
その余韻に浸りたいところだったが、俺は急いで、セッティングを始めた。
……さあ、プレイ動画の始まりだ。
ある視聴者は、お気に入りのチャンネルが更新されている事に気づいた。
いつもより一分尺が長いその動画は、魔法の検証と題されてありながらも、実況プレイ動画も内包した変わり種だった。
チャンネル登録者数800人台の頃から追い続けている彼が見ないはずもなく、再生が始まる。
最初は、人気キャラのヴァンパイアちゃんが男になる魔法を掛けられる所から始まった。どんなシチュエーションだと突っ込みたくなったが、その男が出てくるシーンは最小限に留められ、歯切れの良いテンポで解説と変化を伝えてくれた。
ドドン、と『本編』という文字が現れ、いつもの実況風景に切り替わる。
『お〜じぷ〜ぺぽ〜ん! って、これおじさんの持ちネタか……はいはーい! 異世界おじさんチャンネルのヴァンパイアだよ。今日はこの、『G○D EATER』という狩りゲーをプレイして行くねー』
……うん、いつものだな。
拍子抜けしながら、動画を眺める。
『えー、じゃあゲーム紹介をする為に、まずは一つミッションをやってみるよ。受注するのは、この、〝ピルグリム〟というミッションで……は? 〝ピルグリム〟? 待って、これ無印だろ……?』
〝ピルグリム〟。
この視聴者は次回作の『G○D EATER BURST』をプレイ済みなので、そのミッション名に聞き覚えがあった。
散々やられた記憶しかないので、ヴァンパイアちゃんもそりゃ絶望するよな、としみじみ頷いた。
『じ、じゃあ、やって行くね……』
『このゲームは、神機という武器を使って、アラガミという敵を倒し、敵から得た素材を使って武器を強化するシステムになってます。……あまり言いたくないんだけど、要するに趣旨はモ○ハンと同じなんだよ。操作感とか違うけど!』
狩りゲーのシステムをモ○ハンの一言で説明できてしまうのは、まあ分かりやすいが、個人的には気に食わない部分でもある。
『今回のミッションでは、三つある武器種の一つ、ロングブレードを使っていこうと────はぁ!? ちょっ、編集! 武器セットミスってるだろ、これ! 難易度無理ゲーじゃねぇか!』
!?
視聴者は狐に摘まれた。
あのヴァンパイアちゃんが、こんな乱暴口調になるとは。
ここでようやく、視聴者はこの動画の意味を悟った。
『あっ……と、取り乱しちゃった。すみません。というのも、このミッションはゲーム内でも五指に入るくらいの難易度でね……と、言っている間に』
面を着けたような大きい猿が一体、プレイヤーを視認すると、ドラミングをしてから、グルグルとローリングして襲ってくる。
『これが今回の敵、コンゴウです。まぁ、一体では雑魚なんだけど、これが今回は四体纏まって出てきて……アッ』
一瞬で集まる四体の敵達。
コンゴウは耳が良く、プレイヤー達の戦闘音を聞き付けてやってくる。
こうした乱戦状態になると、このゲームは特にやりづらくなるが、ヴァンパイアちゃんはどの様に対策するのか……
『まっ、カ○ンちゃん誤射──はぁぁ!? いや今の当たらないだろ!?』
『くっそコンボ捕食できないとか……いたぁ!?』
『なんでまともなバレット無いんだ!? ってコ○タ死んで……』
『あっ床ペロ……ア○サ来てくれぇ!!』
……対策は無かったようだ。
血相を変えて熱中しまくるヴァンパイアちゃんという、あまりにレアな姿をお目にかかれた事に感謝した。
『はぁ、はぁ……任務完了……18分43秒……いや待って、おれ、ちゃんとゲーム紹介できてた……?』
画面外からヌルッとサムズアップが飛び出した。
おじさんの同居人こと編集さんだ。
今回は撮れ高が良かったからか、ゲーム紹介としては微妙なのにオーケーを出している。
それを見ると、大げさに後ろに両手をついて、溜息を吐き出した。あの苦労ぶりを見れば、こうなるのも当然だろう。
『アレもう一回やれとか言われたら、その場でP○P投げてたな絶対……』
『とまあ、体を張って変身魔法の後遺症を検証してみた結果、かなりポロッと変身時の口調が出ちゃうみたいです。……前の動画で編集さんが馬になった後も、ウ○娘ばりの走りたい欲求出たもんね?*1』
ああ、と視聴者は思い出す。
あれは、おじさん主体だったにも関わらず、あまりの奇抜さとハプニングで笑いの渦に巻き込んだ伝説の三連投動画の内の一つだった。
馬のは特に、どうやって家まで持ってきたとか、そもそも馬って借りられるのかとか、コメントの嵐だったので印象が深い。
『あと、後遺症はそれなりに長いから、一週間ぐらい動画でもポロっと出てるかもしれないけど、そこはご愛嬌という事で、許してね』
『じゃあ、今回はここまで。みんな、またね〜』
動画が終わり、チャンネル登録のあれこれが出てくるのを眺めながら、視聴者の彼女はコメント欄を引き出す。
そして、慣れた手つきで打ち込んだ。
──オレっ娘ヴァンパイアちゃんくっそ可愛い
リフィアが陽介と出会ってから三年。
もっと正確に言えば、自分の知らない所で神化魔炎竜なるものが討伐され、なんで自分も交ぜてくれなかったのかと拗ねに拗ねた日から、四ヶ月が経過していた。
カーテンの隙間から日の光を浴び、パチパチと目を覚ましたリフィアが最初に感じた事は、自分の体の違和感だった。
体を起こしてみると鉛のように重たくて、おまけに目の端が赤く腫れている。
昨夜までに自分の身に何かが起きた。それは明らかだった。
記憶消去を使った記憶まで消すほど強く掛けた*2ようで、体が重いのもそれが原因だろう。
相変わらずクソみたいな異世界だなぁ……と溜息をつく。
それにしても、そこまでして消したかった記憶は何だろうか。収納魔法に手を突っ込む。
出てきたのは、一冊の小さな革装丁のメモ帳。陽介とお揃いの貴重な品である。
元々、メモをとって自分の記憶を消す事をやりだしたのは陽介だ。リフィアにとって《イキュラス・キュオラ》とは、相手の記憶を消す為の魔法で、辛い現実に耐える為、自分の記憶を消そうという思考に至った事は一切無かったのだ。
それからというものの、リフィアも記憶消去の常習者となった。
ただ、陽介と違って、リフィアはこのメモを、消した記憶を思い出す為に使っている。一時凌ぎ、或いは、一時的な戦略的撤退という認識だ。
流石に、たわしより価値が低かった程度でしょげる程度の柔いメンタルではないから、その時は辛くても、時間を置いて心が休まった時に思い出せば、心の整理が付けられるし、正常な判断もできる。
そして何より、辛い記憶は自分を強くしてくれる。
リフィアにとっては、その為のメモのはずだったのだが……
「記述が、無い?」
もう一度表紙を確認すれば、以前記した時から、自分に行った回数は増えていなかった。
最後の記述も、『発情期を陽介に見られてしまった』で止まっている。
あれは六ヶ月前の話。その次は、消したり破った様子もない純白のページが残されている。
となれば、本当に記憶から消してしまいたい程の出来事があったという事に他ならない。
リフィアは眉を顰めた。
「でも、何が……?」
一体何があったらこんなに号泣するのか分からずじまいだったが、一先ず変装魔法を掛けて、下の食事場兼カウンターに赴いた。
いつもはガヤガヤとしている食堂も、今はがらんどうだった。
朝、と言うには少し遅い時間だ。冒険者達はとっくにクエストを受けに行っている。
宿屋の大将が皿を拭きながら、下りてくるリフィアの姿に目を留めた。
「おう、おはよう姉ちゃん。調子は大丈夫かい?」
「……いや、全然」
「だろうなぁ。昨夜はびっくりしたぜ。いきなり泣きながら部屋に駆け込んできたもんだからな。声掛けられもせでなぁ」
ガチ泣き。
そんなに嫌な事があったのか……リフィアの顔は一層苦々しくなる。
罵詈雑言に夜襲、暗殺、石投げ、懸賞金、裏切り、家族友人の処刑、自分への果てしなき猜疑や嘘八百と、嫌な事はほぼやられ慣れていると自負するリフィアだが、どうも今回はそれを上回る異常事態があったようだ。
(こうして記録もしなかったのなら、きっと自分や陽介の命に関わる事態では無いのは確か。でも、たとえそうであっても、私からすれば泣く程悔しい、プライドが著しく損なわれるような何かが……)
じゃあ、自分のプライドって何だろう……と考えていた所で、宿屋を出ようとした手を止めさせられた。
「朝食はいいのか? 昨日は夜も食ってなかっただろうに」
「……うん。要らない」
「そうかい。最近はここらで吸血鬼族の生き残りが現れたって話だし、姉ちゃんも夜道にゃ気を付けろよ。そんじゃあな」
「…………うん」
親切心で思わぬダメージを被るが、笑顔を取り繕いながら外に出る。
今日は、遮る雲の一つとして無い日照りもあって、特に気が重い。
やるせなさとその他色々の感情がごった返す中、とぼとぼと歩いていると、目の前に二人組が居て……
「……エルフとメイベル?」
声を聞くなり、ギョッと、変な反応を見せて二人が振り返った。
なぜだか少し様子が変だったが、頼れる仲間には違いないので、にこやかに接する。
「二人もこの街に来てたんだね」
「あ、あー……ええ! そうなのよ! あの馬鹿オークがこの街に入ってくのが見えたから、ついでに寄ってるの!」
「ふああぁ……え? リフィアと会うのって二回目じゃ──もごっ!?」
「あーあー! 今日はメイベルで遊びたい気分だなぁ〜!」
「ちょっ、朝からそんな振り回されると……!? アバッ」
遊び倒されて気絶したメイベルを、ニコニコしながらエルフが肩に抱えた。
……いや、遊び倒されたというより、途中で手刀の様な何かが放たれていた気がするが。
リフィアは気にしないことにした。
エルフは、何かあれば真っ先に手が出る系の人間なので、こういう事はままあるのだ。
(そういう所が、陽介と似てるんだよなぁ……)
二人の仲は、同族嫌悪という程ではないのだろう。
エルフは明確に陽介を好きでいるようだし、陽介も多少嫌がりつつもエルフを信頼している。
羨ましいな、と思った事も、もう数え切れないくらいあった。
「さ、行きましょ?」
「エルフ、今日は特に荒れてるよね。……何かあった?」
「!? あっ、荒れてなんかないわよ? 別に普通よ、ふつー」
「なんか怪しいなぁ……」
こういう人種は、大抵隠し事も極端に下手なので、やっぱり何かあるんだろうなぁ、とじろじろと観察する。
「な、何よ。何もないわよ、別に」
嘘だな、と早速確信する。ツンデレの常套句に一々付き合っている暇など無い。
さてどんな風にポロッと言わせてやろうかな……と悪巧みするリフィアの視界に、一瞬、何かがキラリと煌めいた。
「ん……?」
輝きが見えた先は、エルフに肩で背負われたメイベルの首元。
ネックレスのように垂れ下がった指輪を見て、リフィアの歩みが止まった。
エルフは気付かずに歩いていくが、そのせいで、リフィアの位置からは見えづらかった、左手の指輪にも目が行った。
鼻血が垂れる。
記憶の精霊が、強く警告を促してきた。
だが、あれを見せられて、まさか思い出さないなんて事があろうか。
「……そろそろ、そのじっと見てくるのはやめて欲しいんだけれど。って、リフィア──」
表情が絶望一色で彩られたのは、まあ、鼻血を出していた事もそうだが、げに恐ろしきは、抱き抱えるようなバッティングフォームで喰神剣を構えていたこと。
ぶるぶると体を震わせて、へ、へへっと狂った笑みでにじり寄ってくる。
「わわ、私が、一個くらい持ってたって、い、いいよね……? 指ごと刈り取って、片方は私のモノに……」
「そ、それだけはやめておきましょうねっ、ねっ!?」
友人枠という、安定はしても進展の無い関係。
本人もそれを危惧していた。女として見られる事は一生無いのではないかと、恐れていたのだ。
指輪は、正に彼女達が異性*3という括りに入れられている事への証左であり、自分はそんなものを一つも貰った事が無いという事実も踏まえて、確定的なようなものだった。
きっと、それは。
「……元男じゃなかったら、良かったのに」
「それはっ!」
男だったから。
そんなものに恋愛感情を抱く方がおかしいのだ。
気持ち悪いと、顰蹙を買うに違いない。ああ、そうだ、そうに違いない。
しかし打ち明けないという選択肢は、リフィアの中には無かった。陽介を騙すような真似は、とてもできない。
喰神剣を取り落とし、通りの真ん中で俯いた。
……それが致命的な見当違いであると知らずに。
(違う。そんなの、全然違うわよ……! だったら、私達は、とっくに陽介の恋人になれてる!)
エルフは知っていた。
何年も彼を見てきて、彼と話したのだ。
分からない事の方が少なくなってきている。
確信に至るまで、そう時間は要らなかった。
(単に、陽介が鈍くて、私達をそういう目で見ようとしないだけ……あのすけこましオークが、無自覚に誑し込んでるだけなのよ)
たとえリフィアが最初から女の子であったとしても、同じ結果になってただろう。
元男、というのを陽介がどこまで気にするのかは分からないが、エルフはそれこそ羨ましいと思った。
そもそも、自分と陽介の関係はマイナスから始まって、今も自分に対する陽介の心証は悪い。態度から見ても、ハッキリ分かる。
しかし、陽介のリフィアへの態度は、見た事が無いくらい優しげだ。メイベルやアリシアにだって、あんな姿は見せない。
陽介の中で、リフィアの存在がいかに特別なのかが窺い知れる。
だからこそこの指輪は、そんな自分でも、陽介は女の子と認識してくれているのだという、リフィアやメイベルに対する牽制の意味合いが強かったのだが。
「この指輪が、本当にそういう意味で渡してくれたら、良かったんだけどね……」
「……それって、どういう」
「そのままよ。これ、オーク顔が売ればお金になるからってくれただけなの」
エルフはそう自嘲しながら、自分の左手のそれを空に翳した。
「だから、オーク顔にとって特別な意味も無いし、私やメイベルが勝手にそういう風に扱ってるだけ。自分事だけど、浅ましいと言うしか無いでしょうね……」
そんな経緯があったとは知らなかったリフィアは、大いに驚いた。
てっきり、昨日言っていた事は、ただの慰めだと思っていた。よくある、持つ者が持たざる者に与える様な余裕なのだと。
「それにあいつ酷いのよ。薬指に嵌めてきたのに、次の街で外されて、しかも換金されちゃったの! これ買い戻すの大変だったんだから! お蔭で借金取りに追われるし、借金取りに指輪嵌めるし、もう本当に疲れたわ……」
リフィアは自然に目を覆った。とんだフラグを立てたのに、一瞬で破壊するとか、折角のエルフの初恋が滅茶苦茶である。
これで失恋していないのだから、どれほどエルフの初恋は重いのだろうか。
そう思うと、背負っていた重荷が下りた気がした。
エルフやメイベルもまた、自分と同じ悩みを抱いているという事が分かったから。
自分はまだ、彼女らのライバルとして隣に立てるのだ。
「うん。陽介が悪いとは言え、エルフも大概愛が重い。重過ぎます」
「そんな重くは……! ……その、多分、重くない……よね?」
「あー……自分もかなり重いと思うけど、エルフの場合、陽介に素っ気なくされ続けて、愛情を求めるあまり精神的に病んできてるよ。私でもいいから偶には愚痴ってよ。ツンデレはヤンデレと紙一重なんだからね」
「……恋敵に塩を送ってどうするのよ」
「別に良いでしょ? 恋敵以前に友達なんだから。友達への無償の施しの何が悪い! ってね」
「貴女って人はもう……」
呆れ返るエルフに、リフィアは笑う。
男だった頃は、顔や成績、運動能力の良さはあったが、あまり話上手ではなかったので、中々同級生とも親しくなれなかった。
小学校の頃は、仲の良い友達の一人くらいはいたものの、その子は転校してしまい、結局一人に戻ってしまった。
ずっと、こんなに気の置けない友人が欲しいと思っていたのだ。
(……願うなら、これからも友達でいて欲しいな)
それは、何もエルフに限った話ではない。
メイベルとも、アリシアとも……
言うまでもなく、陽介とも。
異世界で知り合った四人の友人全てが、リフィアの中で大きな存在だった。
『歩きぃ〜? 次の街はここからだと長いでしょ?』
『も、文句言うなよ……それしか無かったんだ』
『エルフは短気だねー……もっとマイペースに生きないと過労死するよ?』
『過労死したら、その時は私がどうにか蘇生を……』
『重労働ループ!? 社畜怖いよう……』
『マジか……回復魔法が無いと労働できないとか、やっぱり仕事はブラックだ』
『冒険者もれっきとした仕事よバカオーク。寧ろ他の労働より辛いまであるわ』
『『嘘でしょ!?』』
『お二人は冒険者をなんだと思ってたんですか……!?』
四人が並んで歩く姿が脳裏に浮かんで、こんなやり取りをするのだと思うと、クスりと笑いたくなる。
そこに自分が居たら、なんと楽しいだろうか。
皆、陽介が好きで、互いが恋敵だけれども。
いつしか、それが叶う日が来るのならば……
「……陽介が四人に分裂する魔法無いかな」
「い、いきなりね。でもそれなら、王家が保管してた魔導具の一つに、そんな様な物が──」
「よし貰ってこよう」
食い気味にリフィアがいきり立った。
この目、マジである。エルフも若干引き気味になりながら、キッパリと断りを……
「そんな堕落しきった使い方、エルフの王族として認める訳には……あ、でも、平等に分配できたら……うーん……やっぱり行きましょう」
「だよね」
入れなかった。
高貴なエルフの一族とてやはり人間。私欲には勝てないのである。
因みに後の話によると、件の魔導具は分身を一人までしか作れず、またデメリットも大きく封印指定だった為、王族の身分でも借りる事は出来なかったという。
そうそう、美味い話など無い。
陽介四等分化計画は、陽介本人の与り知らぬ所で無事挫折に終わった。
「……zzz……zzz……」
「……それにしてもメイベル起きないわね」
「……地面に引き摺ってけば? 陽介みたいに*4」
「サラッと酷い事勧めないで──え?」
異世界おじさんが終わらぬ限り、この作品も不滅……だといいなぁ。
なんかもう次話を書き溜めてるそうですよ
おじさんは愛を手に入れられるのか?
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友情こそ全て。愛など要らぬ。
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エルフ以外ありえないんだが?
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メイベルたん可愛いよメイベル
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やっぱそこはアリシアちゃんだろJK
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たかふみ、藤宮の計画再始動。
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ハーレムなんて選択肢はありません。