異世界おじさんvs異世界TS娘   作:SEGA機未プレイお兄さん

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不定期開催、リフィアちゃんの質問コーナー

Q.吸血鬼になって良かった事は?

A.血の味が美味しいと思えるようになった。
  好きな人も友達も出来た。吸血鬼最高。

Q.吸血鬼になって悪かった事は?

A.よく犬歯で舌を噛んで穴が空く。すごく痛い。
  あと、血を飲んだ後舌なめずりすると絶対に舌が切れる。
  寧ろどうやって舌切らずに舌なめずりできるかな?



俺は、お前が居てくれればそれでいい

 

 

「……福岡から東京って遠いなぁ」

 

 赤レンガの駅舎をパシャリと撮りながら、私はぐぐっと背伸びをした。

 

 久し振りに来てみて分かる。

 やっぱり、東京の空気は段違いだ。

 

 それはもう、すごく、全くもって美味しくない。

 

 車の排気ガスのオンパレードに何を言ってるんだという話だが、山梨とか九州に行けば分かる。

 澄み切った空気にぽぇーってなる。私はなった。

 

 尤も、科学も何もないグランバハマルは更に澄んでいただろう。あの空気感は多分、白神山地とか知床半島と同じだ。どっちも行ったことないけど。

 

 久々の都会の景色に満足した後、東京駅に戻って、色々と乗り継いで一時間。

 

 東京の二十三区……ではあるが、下町も下町の住宅街。

 

 そんな所にやって来た訳は、とある人物から借りた物を返す為。

 

 『夜野』の表札が書かれた家を見上げながら、辺りに人が居ない事を確認して、塀をジャンプで越えて忍び込む。

 家の敷地に入った後、脚を溜めて二階のベランダに飛び移った。

 

 ……窓は、相変わらず開きっぱなしだよね。

 

 スルスルと開けば、イヤホンを着けた中学生くらいの男の子が、ベッドの上に寝っ転がっていた。

 

 背を向けてるせいで、まだこっちに気が付いていない。

 

 そっと耳許に口を寄せて……

 

「お久しぶり」

「──のわっ!? なんだ!?」

 

 跳び起きてイヤホンを外すと、私の姿を視認すると、舌打ちしてきそうな勢いで苦い顔をした。

 

「……お生憎様、不法侵入者に渡せる物なんて無いぞ」

「いや泥棒しにきた訳じゃないんだけど。……前もこんなやり取りしなかった?」

「そりゃそうだろ……」

 

 はぁ〜、と心底嫌そうな顔でベッドに腰掛けたので、私も椅子に座って、ニヤニヤ顔で語りかける。

 

「半年ぶりかな、晃輝。リフィアお姉さんが遊びに来たよ」

「出口なら回って後ろだぞ。早く出てってくれ。俺はモ○ハンで忙しいんだ」

 

 そう言って出て来たのは、3○Sだった。

 下の画面には四つの村とかが表示されている。

 

「ダブルクロスって……なんでワールドやってないの?」

「いやリビングは父さんが占拠しててな……」

「理解した」

 

 ウチの父さんは、何かと暇があれば海外ドラマ観ていた。

 

 私もそばで何気なく観てたりもしたからよく覚えている。

 N○ISとか名作だったな……ディ○ッゾ超特別捜査官が抜けるまでは特に楽しかった。具体的にはシーズン9辺り。

 

「って違ぇよ。なんで居るんだよ、お前は」

「ん。そんなの用事があるからでしょうが」

 

 イラつき始めたこいつに差し出したのは、ただのスマホ。

 

 機種は『L○ (エ○ジー)V20』。

 当時にしてはそこそこ性能の良いAndr○idで、私も中学生時代に、メインとは別のサブ機として使っていた。

 

 それを見て、彼は目を丸くしていた。本当に返すとは思ってもみなかったようだ。

 

「借りる、って約束だったし。端から信じてもらう気はなかったけど、これでも私、義理深い(タチ)だから」

「……そんな約束だったっけな」

 

 とにかく、早く帰ってくれと訴えかける視線しかない。

 約束とかいいから、どっかに行って欲しいようだ。

 

 ……折角好みのタイプの女性が居るのに、随分な扱いじゃないか?

 

「なら、思い出させてあげるよ──《イキュラス・エルラン(記憶再生)》」

 

 自分の頭に触れながら、その魔法を唱えた。

 

 ……あれは半年前。

 

 私が、やっと日本に戻ってこれたあの日まで遡る。

 

 

 

 

 午後11時。

 

 ただ、部屋でゴロゴロしていた彼にとって、それはあまりに唐突で不可思議な出来事だった事だろう。

 

『……こんばんは。今日は満月のいい夜だと思わない?』

 

 デスクチェアに平然と座っていた私という存在は、異質そのもの。

 

 窓はいつも開けているが、二階にあるのだから、入って来るのは難しいはず。

 

 そもそも、なぜ何もしてこないのか。奇妙でならなかっただろう。

 

 意味の分からない物ほど怖いものは無い。

 彼はポケットのスマホに手を添わせてはいたが、何もしなかった。下手を打てば、目の前の私が何をしてくるか、分からなかったからだ。

 

『……じゃあ、本題に入っても?』

 

 ふ、と微笑んで、足を折った。

 正座をすると、綺麗に腰も折り、掌を床につけて、決死の覚悟で言った。

 

 

 

『……あの。スマホと服、少しの間貸して貰えませんか?』

 

 

 

 一分ぐらい、晃輝は固まっていたと思う。

 

 妙な服装の美少女に土下座をされ、変なお願いをしてきたのだから、晃輝の頭は一瞬でキャパオーバーになるしかなかっただろう。

 私だって初対面の人にこんな事されたら、同じ反応を取るか、何も聞かず気絶させて外にポイする。

 

 何を言いたいのかというと、つまり、この時の私は気が動転していたのだ。

 

『君しか頼れないの! 福岡、というか春日市の方まで行きたいのに、そもそもどの方角にあるのかサッパリな上に一文無しで……あと、この服で外を出歩いて警察呼ばれたらと思うと……普通の服がないから、本当に通報されそうで!』

『……ちょっと待ってくれ』

 

 とにかく、必死そのものだった。

 

 やっと日本に帰れた、陽介に会えるという嬉しい気持ちの反面、どうやって陽介のもとに向かえばいいのか、そもそも会えるのかという不安。

 

 日本に来るのに莫大な魔力と精霊の力を借りたから、自在に空も飛べず、お金は無いので公共交通機関も使えない。

 

 それでも、会いたいという気持ちが、私を突き動かした。

 

 あと、多分コイツならゴリ押せばなんとかなると思っていたからだろう。

 

『……帰ってくれ。俺にそんな余裕は無いんだ』

『サブ機のスマホならただのグ〇ブル専用なのは知ってるし、それに灰色のパーカーとジーンズはもうサイズが合わなくて使ってないはず!』

『いや怖いなアンタ!? 服はともかく、サブ無かったらグ○ブれないだろ!』

『メインスマホでアカウントに入ればいいよね、ね!?』

『並行でソシャゲ消化できないでしょうが!』

『その気持ちは分かるけどお願い……! 私が野垂れ死んじゃうからぁ……!』

 

 ……と、君が貸すまで土下座するのを止めないとばかりにお願いをし続けたからか、晃輝は疲れた顔でスマホと服を押し付けた。

 

 もう面倒くさくなったらしい。

 この時、針はとっくに日を跨いでいる上、両親は就寝済み。深夜は中学生には辛い時間帯なので、そろそろ眠りたいのも道理だ。

 

 そんな事情を知りもしない……いや、そんな感覚もとうに無くなってしまった私は、目を輝かせて感謝した。

 

『ありがとう! えっと、着替える場所は……』

『俺が出ていくから、勝手に着替えてくれよ』

『あ、いいの? なら遠慮なく』

『申し訳なさってもんは無いのか、お前』

 

 この時には、段々精神に余裕が生まれていた。目処がついたから、後はどうにでもなると思ったのだ。

 

 そうじゃなくても、相手が相手だから、図太くなるのも当然だけど。

 

『……それで、アンタはなんなんだ? こんな部屋に泥棒しに来るとか、色んな意味でおかしいぞ』

『いや泥棒じゃないから。あくまで、少し理由があって借りに来たの』

『じゃあ物乞いか?』

『も、物乞いって……』

 

 間違いとも言えない微妙なライン。

 でも、借りに来ているだけだから、物乞いではないはず。

 

 ……違うよね?

 

『ああもう、説明がめんどくさい! ――《クローシェシクト・リオルラン(闇鎌顕現)》!』

 

 ブオン、とビームサーベルみたいな音を立てて出てきたそれを床に突き立てた。

 一瞬で世界観が塗り替えられて、晃輝は目を見張った。

 

『私はリフィア=カルネイア。異世界、グランバハマルからやって来た吸血鬼なの。理解してくれた?』

 

 

 

 

 この後、大急ぎでちゃちゃっと外に出てっただけなので、特に見どころもなく、鑑賞会は終了した。

 

 ただまぁ、なんというか。

 

「酷い」

「うん、酷いよ」

 

 あの流れで土下座持ってくの、無理しかない。

 私もそう思う。

 

「それで、目的は達成したのか?」

「概ね、かな。理想像とは違うけど、会いたい人には会えたし、何だかんだ楽しいよ」

「そりゃ良かったな。……お、角落ちた」

「……何の角?」

「モノ」

「へぇ、モノかぁ……居たら良かったなぁ」

「ああ……それな。てかよく分かったな」

 

 ココット出てきたのに結局実装されなかったよ。

 P2Gでは楽しく倒してたのに。村クエなんかどうでもいいってかカ〇コンめ。

 

「……さっきから思うんだが、モ○ハンとかスマホとか、異世界から来たにしては詳しくなり過ぎじゃないか? 日本語を話せるのは、そういうスキルとか持ってるんだろうと解釈もできるが」

 

 スキル、なんて便利な物があれば良かったんだけどね。

 

 それを表示してくれる物も無ければ、ステータスオープンなんて魔法の言葉も無い。

 

 特に日本人には優しくない異世界だった。着の身着のまま放り出していい場所じゃないぞ、本当に。

 

「私は異世界の住人だけど、元々は日本からの転生者。日本語話せるのもそういう訳」

「……一度死んでるのか?」

「似たようなもん。吸血鬼になったのは転生特典だし」

 

 それ以上、何かを尋ねようとはしてこなかった。

 

 てっきり、家族とかと会わないのかと話してくるかと思ったが、 思った以上にデリカシーはあったらしい。

 

 それならそれで、こっちも色々話さなくていいから。

 

「……それじゃ、私の用も済んでるから、もう帰るね」

「待ってくれ。一つ聞き忘れてた」

 

 聞き忘れ、と聞いて身構える。

 

 そこまでして聞きたい事とは。

 

 これは嫌な予感がする。

 そう思っていたからか、その予感はバッチリと的中した。

 

「……日本人の頃は、なんて名前だったんだ?」

 

 よりにもよって……と肩を落とした。

 

 そりゃあ、日本人だった頃の名前とか、ちょっとは気になりもするだろうけどさぁ。本当によりにもよってだよ。

 

 前言撤回、デリカシーなんて無かった。

 

 だから、馬鹿正直に答える必要は無いんだけど……色々貸してもらった身だからね。

 これも、半年間の礼ということで。

 

夜野晃輝(やのこうき)。それが()の名前だったよ」

 

 収納魔法から放り出した六年後の高校の生徒証を彼が手に取って、それが恐らく本物であろう事と、未来の時間を示している事を確認すると、頬を引き攣らせた。

 

 私がやたらと晃輝について物知りな理由も分かってくれただろう。

 

「お、おいおい……嘘だろ」

「わざわざ嘘なんか吐く意味が無い。そもそもここに上がり込んだのも、自分の家だったからだし」

「……こんなつっけんどんな性格してないと思うぞ、俺は」

「性格くらい自覚しろ、この親不孝者。とにかく、そこの所よろしく」

「……分かったよ」

 

 念を押して言うと、ベランダの窓を開けて、魔法を唱える。

 

「──《ワーグレント・スラドセルド(疾風駆送)》」

 

 ふわ、と浮かび上がると、振り返って言ってやる。

 

「じゃあ、また今度。スマホに連絡先入れといたから、いつでも連絡寄越してもいいからね」

「いや、余計なものいれるなよ……俺からは何もしないからな」

「異世界の話、聞きたくないの?」

「……くっそ、それだけは聞きたくなるだろ」

「ぷふっ、正直者め」

「このやろ、揶揄いやがって……」

 

 額を小突いてやると、恨めしい顔で睨んできた。

 

 可愛げないなぁ。

 そんなんだから、顔は良くても彼女の一つも作れないんだぞ、自分。

 

「《キライドユール・ザルドーナ(光幻纏身)》」

 

 そうして、私は半年ぶりの故郷を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これ忘れてたけどパーカーとジーンズ」

「うおっ!? 姿消しながら渡すな!」

「あっ、ごめん……君でも着れるサイズだから遠慮なく使って」

「いや要らないんだけど……」

「死ね」

「直球だなおい、そして鎌出すな恐ろしい」

 

 

 

 


 

 

 

 

「はぁっ……! んんっ……あぅ……! 陽介ぇ……!」

 

 リフィアの悩ましげな声が部屋に響く。

 

 くちゅり、と水音が鳴り、身体を痙攣させる姿は、ナニかまずい〝病気〟に罹ったかのようにも見えるが……

 

 問題は、そんなリフィアの隣に、陽介が眠っている事である。

 

 何故か、左腕はリフィアに抱え込まれていて、完全に添い寝状態にある。リフィアが重篤な〝症状〟に苦しんでいるというのに、起きる気配も無い。

 

「んあぁ……! 陽介、陽介ようすけ……ふぁっあっ……んぅ……んくっ……」

 

 吸血しようと、すり寄ろうと、耳許に吐息がかかろうとこの男は起きず、ただ時間だけが過ぎていって……やがて夜が明けた。

 

 カーテンの隙間から覗き込む光を鬱陶しげに見つめながら、大きく溜息を吐いた。

 

「……朝に、なっちゃった」

 

 ぐしょぐしょの下着の気持ち悪さも去ることながら、一睡もできず碌に疲労も取れていない。

 

 最悪の朝だった。

 

「……発情期め」

 

 クッソが……と普段は吐きもしない悪態を、ため息混じりに放った。

 

 と言うのも、吸血鬼の女性は、伴侶としたい相手がいる状態で三ヶ月に一度の月経が訪れると、性的欲求が高まり、発情する特性を持っている。

 

 血さえあれば何千年と生き永らえてしまうからか、種族として繁栄するための機能と推察される。

 しかし、そんなものを教えてくれる吸血鬼の親など居なかったから、リフィアは特性と知るまでは自分の淫乱さに絶望していた過去があり、真相を知った時はそっと首吊りをした。これもまたアリシアによって未遂に終わったが。

 

 知識の祠でさえ最低限の情報しか提供してくれなかった。万能でないにしても、吸血鬼にしたのなら、吸血鬼について教えて然るべきではないのか。

 

 神絶許と、三か月に一度、怨念を天敵の巣窟たる教会に訪れてまで送っているが、効果の程は無い。

 

 なんとか理性を持って処理しているが、発情の回数を重ねる毎に酷くなっており、今では陽介の指じゃないと全く治まらない事態に。

 

 このままだと、寝ている陽介の上に跨り始めるのも時間の問題だった。

 

「ごめんね、陽介……」

 

 このまま本当に襲ってしまう前に、一度距離を置くべきかなと思いつつ、後始末を済ませる。

 

 シーツだけは動かせず、どうにもならないので、バレないように火の習得魔法と風の根源魔法で乾燥させて、証拠隠滅。

 陽介の左手も入念に洗う。起きないよう細心の注意を払い、魔法で作ったぬるま湯と石鹸で丹念に洗い、布で拭く。

 

 左手だけやけにピカピカになってしまったが、全ての作業を終えて、ホッと一息つく。

 

 証拠は全て消え去った。あの鈍感さとお人好しさなら、まずバレる心配もない。

 

 問題は……お隣さんである。

 

 

 

 

 

「……ぉ、おはようリフィア。こんな朝っぱらからどうしたのよ」

 

 部屋に迎え入れてくれたエルフの顔は、真っ赤だった。

 

 ああ、とリフィアは全てを察した。

 

「聞こえてた?」

「……(コクン)」

「だよね……」

 

 恥ずかしそうなエルフに、透徹した笑みで答える。

 ひとたび発情してしまえば、自分の上げる嬌声なんて気にもできない。

 

 おじさんの隣部屋を借りているエルフには、丸聞こえだったろう。自分と同じ眠れない夜を過ごしたに違いない。

 

 あーあー……と髪を掻きあげながら、椅子に力無く座った。

 エルフも枕を抱えてベッドに腰掛ける。

 

「ごめん。うるさかったよね?」

「い、良いのよ……そろそろ、発情期入るかなとは思ってたし」

「あはは……性欲が抑制でもできればいいんだけど、どの薬も効果が出なくて」

 

 エルフも前科あり*1なので、ちょっとは羨ましいと思いはするが、リフィアの事は強く咎められない。

 

 お互い、そういう事情を知っているので、二人して大きく溜息を吐いた。

 

「とことん、運に見放されてるよ」

「……お互いね」

 

 でなければ、陽介の事でここまで悩んではいないと思っているようだった。

 

 まあ、或る意味ではそうであり、或る意味違うとも言える。

 

 何にしても、原因は陽介自身に依る所が大きいのだから、自分達の努力だけでどうにかなるとは思わなかった。

 つまり陽介に意識の根本から改革を促さねばならず、これは本人の異様な意思の固さもあって、遅々として進んでいなかった。

 

 過日の王神剣騒ぎ*2でエルフとの仲も多少進展があったと思われていたが、陽介は平常運転。エルフも嘆きをあらわにしていた。

 

「呆れるわよね。あいつ、オーク顔のくせに性欲無いのかしら」

「確かに……もう二十歳なのに、興味なんて欠片も無さそうって、ちょっと有り得ない」

 

 元男の見地からも異常だ、と言われて、エルフが流し目で隣の部屋を睨み付けた。

 

「……でも、あれよね。確か男って、発散しないでいると、寝てる間にその…………あるって」

 

 枕で口をモゴモゴさせて言えば、リフィアはううんと唸る。

 

「その様子も無かったら、うん。子供は諦めよう」

「そうね……でも、そうしたら寂しくなるなぁ……」

「陽介より長生きしたくないんだけど……」

「わかるぅ……」

 

 結婚する事が前提の話だと本人らは自覚していないらしい。気も早すぎるというものだが。

 

 陽介リアコ勢の二人にツッコミを入れてくれる人間(メイベル)はいない。

 

「長命種って、絶対苦労するよね」

「うん……? リフィアは今幾つなの?」

「なんの躊躇いもなく聞いてくるんだ……二十四だよ。まだ長生きもしてない」

「驚いたわ、まだまだこれからなのね。まあ、生きてれば時間なんてあっという間よ。だから、ここでハッキリ言っておくわ……人生なんて後悔と苦労しかないってことを」

「この話はやめよう。あまりに生々しいから」

 

 リフィア=カルネイア、二十四歳、吸血鬼。

 

 まだまだ前途洋々な若者である。

 

「でも、リフィアって真祖の一族でしょう? 眷属化はできないの?」

 

 ハッ! とリフィアが顔を上げた。

 

 かつての吸血鬼の国、ダキア王国は、流れ着いた者を、真祖の血を引く吸血鬼が眷属化する事で吸血鬼の国民を増やし、その領土を増やしていったという。

 

 その眷属化ができるという真祖の特徴の一つとして、銀髪紅眼であることは有名だ。

 今日では、真祖のイメージが吸血鬼族の象徴として定着しているので、リフィアはこうして目の色を変えざるを得なくなってしまったのだが。

 

 話を戻すと、リフィアは眷属化ができる。一度動物相手で試したこともあるので、それは間違いない。

 

 しかし、リフィアは静かに顔を振った。

 

「陽介が受け入れてくれるか分からないし、私も陽介の血が飲めなくなっちゃうから」

「……なら、仕方ないわね」

 

 エルフが落胆するのも無理はない。

 

 あの陽介の事だから、永遠の寿命を欲しがる(タチ)ではないだろうし、日の下で生きづらくなって、血も飲まなくてはならないのは不便だろう。

 

「でも、私は寂しくないよ。エルフが居てくれるなら、それだけで私の生きる意味になる。……正直、ここまで気を許した友達って、陽介を除いたらエルフくらいなもんだよ」

 

 言っている本人も、羞恥を覚悟して言ったのだろう。椅子の上で三角座りして、火照った顔をうずめている。

 それは受け取ったエルフもであり、かぁっと顔が熱くなるのを感じていた。

 

 エルフの、それも王族であるから、友情というものに長年縁が無かったのだ。

 

 嬉しい、という気持ちの反面、こうも直截的な物言いをされると、人間誰しも照れくさくて、気恥ずかしくなるものだ。

 

 ましてや、エルフは素直にはなれない性格(ツンデレ)だ。つい、条件反射で、口をついて出てしまった。

 

「……べ、べべ別に!? 私はリフィアが居なくたって、これっぽっちも寂しくなんかないわ、勘違いしないで!」

 

 自分でも、こんな顔をしておいて苦しいなと思った。

 

 リフィアにはどんなツンデレも効きはしなかった。何度揶揄われたかも分からない。分かりやすいという自覚はあるが、それにしても真意を見抜かれてばかりだった。

 

 ……だから今回も、そうだと思っていた。

 

「え……あ…………やっぱ、そう……だよね……」

「り、リフィア? あぅ、ええっと、今のはアレよ! い、いつものが、出ちゃっただけで……」

 

 エルフは知っていた筈だった。

 

 今日からリフィアの発情期、つまり月経前である事を。

 

 月経前症候群というものがある。月経開始によるホルモンバランスの乱れなどが原因と考えられる症状で、胸の張りや睡眠障害、イライラや不安など、心身に影響を与えてくるものだ。

 

 そしてリフィアの場合は特に心の方に影響が出やすく……気分の落ち込み方が桁違いなのだ。

 

「わ、私……私なんか、元男なんか気持ち悪いに決まってるのに……アハッ、アハハッ! ふひっ、私バカだぁ……なんで今まで気付かなかったんだろ……ひ、ひひっ、あひゃひゃっ、鬱だ死にたい……死にたいよぉ……!」

 

 魔法の影響で医療の発展していないこの異世界では、対症療法すら存在しない。

 体はともかく、心は如何ともし難い。

 

 エルフは枕を放り投げ、虚ろな目で薄気味悪く笑うリフィアを、よーしよーしと宥め始めた。

 

「大丈夫、大丈夫……リフィアとはずっと友達だから。気持ち悪いだなんて思ったりしない。元男なんて、その頃のあなたに会った事も無いんだから、気にも留めてないわよ。そもそもリフィアって、最初から全く男らしくないから、男要素なんて欠片も無いんじゃない?」

「…………嬉しいのか悲しいのか分かんなくなる事言うのやめて」

「え、えぇ……?」

 

 面倒くさいなぁ、とは思いつつ、リフィアの頭を撫でる。

 

 今は友達というよりも、妹を相手にしているような気分だった。

 王族だから兄弟姉妹はいるが、こんな風に甘やかした事も、された事もなかった。

 

(……ふふっ、なんか良いかも)

 

 自分の失言が原因だった事などとうに忘れ、エルフはただただ、リフィアの頭を撫で続けた。

 

 

 

 

「あれ、リフィア……お前なんでエルフに」

「しーっ、陽介、黙って」

 

「……リフィア、今寝てるの」

「……そうか。じゃあ、今日は休みだな」

「ええ、その方が良いわね」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ……いつの間にか、私は寝てしまっていたらしい。

 

 リビングのテーブルから起き上がると、凝った身体をほぐした。

 

「起きたか」

「んん〜〜……よく寝た気がする」

「そうか? まだ寝てから一時間も経ってないぞ」

「……あ、本当だ」

 

 スマホの時間は、十四時過ぎを差していた。

 

 ぐっすり、という訳では無かったらしい。

 

 ……でも、なんだか懐かしい夢だった。

 

「……さっきね。懐かしい夢を見てたんだ」

「おっ、良いな。俺は起きたら直ぐ忘れるタイプだからなぁ。どんな内容だったんだ?」

 

 どんな内容と言われたら、ちょっと口に出して言えない。

 

 普通に思い出というか、若干黒歴史化してるけど、まず陽介に話せる内容じゃない。

 

 ……発情期の事、未だにはぐらかしたままだし。

 

「あんまり深く思い出せないけど、エルフとイチャイチャしてた気がする」

「そうか。お前ら、俺そっちのけで話し続けるくらい仲良かったもんな。……エルフの奴め、俺には酷い事する癖に、リフィアにはとことん甘くするんだ。不公平じゃないか、これ。魔毒竜から助けたのは俺なのにな」

「それ、エルフが聞いたらブチ切れるよ」

「なんで!?」

 

 酷いのは陽介の方だと自覚してもらいたい。

 

「……でも、お前は良かったのか。あいつをグランバハマルに残してきて。俺なんかより、エルフと居た方が楽しいだろ」

 

 突然、陽介はそんな事を言い出した。

 

 私も陽介の立場なら、自己評価の低さのあまりそう言うだろうが、言われる方はたまったものじゃない。

 

 声高に叫びたいのだ。それは陽介だからなのだと。

 

「俺なんかって言わないで。確かにエルフは友達というか、親友だけど、私は陽介に会いたくて来たんだから」

「…………」

 

 この無自覚め。

 

 ここまで言わせておいて察せないのが、本当に残念な所だ。

 

「それに、私が日本に帰る決意をしたのは、エルフが背中を押してくれたからだよ。やる事を終えたら、いつか私と陽介に会いにいくからって」

「……日本まで追ってくる気なのか、あいつは」

「ついでにメイベル達も連れてくるっぽいよ」

「ちょっと言ってる意味が分からないんだが」

 

 エルフもお人好しだよなぁ……恋敵を蹴落としもしないって。

 

 まあ、エルフに日本への手掛かりを残した私も、似たもの同士と言える。

 

「エルフ達が来た時の為に、お金溜まったら一軒家でも買おうね」

「住まわせるのか?」

「じゃないと、日本での居場所が無いでしょ?」

 

 もし来たらの事だから、まだ先は長いけれど、私はその予定でいる。

 

 一層騒がしくて、面白おかしい日々がやってくるんだろう。

 

 ……でも。

 

「でもそうしたら……もう三人で暮らせなくなっちゃうな」

 

 それは、二人っきりになれる時間なんて、殆ど無いようなもので。

 

「……だから、さ」

 

 言うか、言うまいか。

 そこから先は、口にするには、少し勇気が入る事だった。

 

 でも、どうせ陽介の事だ。

 何したって、勘違いしてくれる。

 

「り、リフィア?」

「えへへ……」

 

 ……こうやって、いきなり陽介の背中に抱き着いたって。

 

 私がどれだけ不純な動機でこうしてるのかも察せないとか、鈍感さは、絶対に人の事を言えない。

 

 そんな分からず屋だから、私もエルフも、追い回したくなってしまうんだろう。

 

 気持ちに気付いてくれないから、臆病な私達は、結局好きだと言えないんだ。

 

 温もりから少し離れると、私は、自分に嘘をついた。

 

「だから、それまでは……私を隣に置いてくれたら、嬉しいかな」

 

 好きの形は、幾つあってもいいと思っている。

 

 一緒に住まなくたっていい。恋人にならなくても、結婚しなくてもいい。

 陽介とこうして会えるのなら、張り裂けそうな感情だって押し殺してみせる。

 

 たとえ、隣に私ではない誰かが居たとしても……

 

「……俺は」

 

 じっとフローリングを見ていた顔が上がる。

 

 何を言いかけたのか。不思議がると、陽介は不意に振り向いてきた。

 

「──なっ」

 

 ……いつ見ても、パッとしない日本人顔。

 

 きっと通りがかれば、十人中十人が振り向かない。

 

 なのに、私の胸は妙にうるさくなった。

 

 ただ、頭に手が乗っかって、優しく撫でられてるだけなのに。

 

 

「俺は、お前が居てくれればそれでいい」

 

「……へっ!?」

 

 

 地震でも起きているのだろうか。身体は常に振動に脅かされていた。

 

 しかも、秋口とは思えない暑さだった。汗までかいている。

 

 朦朧とする眼で、陽介を見上げた。

 

「リフィアが居て、楽しくない日は無かった。……たまには、ゲームの方向性の違いで喧嘩もしたが、俺は多分、リフィアみたいな唯一無二の友達が欲しかったんたんだろうな」

 

 なに、それ。

 

 いきなり何を言い出すんだろう、陽介は。

 

 そんな、私が特別みたいに、唯一無二とか。

 

 もう、今どんな顔をしているのかも想像したくない私に、陽介は更に畳み掛けた。

 

「だから、時間が許す限り……いや、リフィアが許してくれる限り、俺はお前と一緒がいいんだよ。これは、俺の数少ない望みだ」

「……ぁぅ」

 

 ああ、駄目だこれは。

 

 さっきは、陽介が通りがかれば十人中十人は振り向かないとか思っていたけど、撤回だ。

 

 その十人に私が居るのなら、私は絶対に振り向いてしまう。

 

 だって、こんなにも陽介は────

 

「かっ……」

「か?」

「……い物、いってきます……!」

 

 陽介を押し退けるように玄関に走った。

 

「はっ? え、買い物ならさっきたかふみが……」

 

 後ろから何やら声が聞こえるが、もう知らない。

 

 スリッパに足を滑り込ませて、着の身着のまま飛び出した。

 

 階段を降りるのも億劫になって、四階からスチャッと飛び降りた。

 

 ご近所さんが宇宙人でも見たかのように目を丸くしてるけど、残念ながら構う暇は無かった。

 

 私は、どこかへ逃げるように駆け出した。

 

 ……そうじゃないと、この顔の火照りは治まらない気がするから。

 

「あーくそっ! ほんと、かっこよすぎるんだよ……!」

 

 こんなに声を荒らげたのも、どんなに久々だった事か。

 

 陽介の言葉は、それ程までに私の心を刺激していた。

 あとCV子○っぽいのも悪い。

 

「これ以上好きになって、どうすんだっての……」

 

 十八年も温め続けた初恋だ。

 とっくにドロッドロの感情に塗れている。

 

 そこに油を注ぐような真似をしてくれたお蔭で、感情もグチャグチャだ。

 

「やりたい事を貫く力が強さ、なのになぁ」

 

 横断歩道の前で消沈していると、ふと、私を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 

 慌てて左右を振り向くが、人影はない。

 

 気のせいだったか……?

 

「──おーい、リフィアさーん!」

 

 と思えば、横断歩道の向かい側にいた。藤宮ちゃんである。

 

 その隣には糸目八重歯のあの子、もとい沢江ちゃんも並んでいた。

 

 信号が緑になり、こっちに駆け寄ってくる。

 

「大学の方まで来るの珍しいですね。何してたんですか?」

「あー、ちょっと散歩をね……」

 

 間違いではない、はず。

 

 気晴らし目的には違いないし。

 

「沢江ちゃんも久しぶり。今日はうち寄ってくの?」

「お久しぶりですー。ここまで来たので、ついでにと思って」

「そっか、じゃあ私も帰ろうか……」

 

 帰る……

 

 つまり、陽介を否が応でも視界に入れなくてはならないということ。

 

 いや無理だ。絶対まともに喋れない。

 

「り、リフィアさん!? すごく顔赤くなってますよ!」

「なんか、恋する乙女みたいな表情してる……」

 

 妙に鋭いな沢江ちゃん。

 乙女かはさておき。

 

 なので、大人しく白状することにした。

 

「や、その。陽介と、色々あって」

「カフェ行きましょう」

「ふじみーの判断が早い……!?」

 

 藤宮ちゃんが速攻で私の腕を引っ張った。お面の人もビックリである。

 いや懐かしいな、あの漫画。

 

 私もされるがままに連れて行かれて、結局三人でカフェに溜まることになった。

 家に行くよりも、恋バナが優先されるらしい。流石女子。

 

 何も知らない沢江ちゃんに、私の恋愛歴を全て告白した。

 

「ちょっ、うそ、十八年も……!? いや、え、失礼だとは思いますけど、今おいくつで……」

「え? もう三十八歳かな」

「どう見ても十代後半ぐらいにしか見えないよ!? 外国人って皆そうなの!?」

 

 どうなってんのふじみ〜! と隣に座る藤宮ちゃんをガクガク揺らしている。

 

 間違っても吸血鬼だなんて言えないので、私も藤宮ちゃんも口を閉じずにはいられない。

 

「年齢の事は、一旦置いておきますけど……にしても、初恋から十八年って誰かに目移りとかは……」

「しなかったよ。私の恋愛対象は陽介に限られてるから」

 

 二人の口がもにょっとした。

 惚気けてごめん。

 

「でも、まあ……陽介が私を好きになるのが、あんまり想像できないし、私も臆病で、今はもう、半ば諦めかけてるんだけどさ」

「で、でも、尊敬します。十八年も想い続けるって、普通じゃ出来ませんよ。私ならすーぐ別の人探しちゃいますし」

 

 ここまでベタ褒めされたのも初めてかもしれない。

 

 でもね、TSしたからって、恋愛対象が異性にいく訳じゃないんだよ、これが。

 陽介が二人いたら目移りもするだろうが、陽介以外の異性なんて盛りのついた猿だ、猿。

 

「いやまあ、リフィアさんの愛の重さはいいんですけど……何があったんですか?」

「それ、なんだけどね」

 

 取り敢えず、起きてから家を飛び出すまでのやり取りを思い出せる限り全部言うと、藤宮ちゃんも沢江ちゃんも、勢いよく飲み物を飲み干していった。

 

 ゴン、とテーブルに置いてから、藤宮ちゃんは言う。

 

「告白しやがれそんなもん」

「だっ……だからそれが無理なんだって!」

「ドヘタレにも程があるんじゃないですか」

「──グハッ!?」

 

 クリティカル!!

 

 K.O.の文字が頭を過ぎった。

 直近やったバーチャファイターのSEで流れてくる。

 

「厳しい事言うみたいですけど、私だってそこまで言われたら、もう告るっきゃないと思いますって。ほぼ両想いみたいなもんじゃないですか」

「だよねー……ずっと一緒にいたいとか、ただの結婚宣言だと思いますよー」

「日本の女子って、逞しいんだね……」

「外国の人の方がもっと逞しいと思いますけど……」

 

 チラチラと沢江ちゃんがこっちを見てくる。

 

 だが残念。心は魔法使いで喪女の純日本人だ。

 ドヘタレ属性を熟成し過ぎた感がある。

 

 ……こうなったの、全部陽介が悪いような。

 

「あ、じゃあこういうのはどうでしょう? 敢えて他の男の人と仲良くなって嫉妬を誘うとか」

「陽介は諦めが肝心みたいな所があるから……」

「じ、じゃあ無理矢理襲うとか!」

「多分、責任感で首吊るかもしれない…………私が」

 

 実際、何回も吊った。大体未遂で終わったけど。

 発情期なんてクソ無駄な機能は消えてしまえばいいと思う。

 

「……ちょっとふじみー、これアドバイスするだけ無駄なんじゃ」

「うん、その通り」

「それ言ったらお終いだよ」

 

 こうして、辛辣な対応をされたまま、沢江ちゃんとは解散の運びとなった。

 

 家路の道中、藤宮ちゃんは語った。

 

「私も、あれからたかふみとちゃんと話せてないんですよ」

 

 なので、同じ穴の狢ですね、と、私を慰めるように言った。

 

 片想いに苦しむ仲間がいる。

 そう思うだけで、私の心は少し救われた気がした。

 

 ──真正面から好きだと言いたい

 

 私も藤宮ちゃんも、切実な想いを抱えながら、密かに決意し合った。

 

 

 

 

*1
TIPS

第二巻 p167

*2
TIPS

第九巻

おじさんは愛を手に入れられるのか?

  • 友情こそ全て。愛など要らぬ。
  • エルフ以外ありえないんだが?
  • メイベルたん可愛いよメイベル
  • やっぱそこはアリシアちゃんだろJK
  • たかふみ、藤宮の計画再始動。
  • ハーレムなんて選択肢はありません。
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