ガンダム戦記 side:Zeon   作:上代

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第十話:地球降下作戦(中編)

 第168特務攻撃中隊が旗艦とするムサイ艦内のモビルスーツハンガー。

 ここでは毎日整備兵が飛び交っている。

 それは何故か。

 単純に忙しいのである。

 中破した専用ザクIIの補強作業を回しながら、他のザクII、専用ザクIの解体整備作業と絶賛大操業(フルマラソン)中。ズムシティの艦船ドックに入港はしているが大規模作戦が近いと噂されている為、モビルスーツ工廠の専用デッキと比べるべくもない狭いハンガー内で作業しているのだ。

 彼らが所属する部隊は五割が整備兵、作業員。三割がムサイを動かす為のクルー。残り一割づつが哨戒機の宇宙戦闘機パイロット、モビルスーツパイロットで構成されている。

 人の手による作業が減り大部分が器械設備を多用して進められているが、それでもやはり最後は人が一つ一つチェックし、問題なしの判断を下すのだ。

「もう、ゴールしても良いよね」

「おい、奴が寝言を言っている。叩き起こせ」

「アイサー」

「やめてもう許して、そんな大きなもの、入らないっ」

「なにいってんだ、ここ(・・)はそうは思ってないみたいだぜ」

「アーッ」

 眼下の惨状を特に感情無く、

「問題ないようですね」

 サイ・ツヴェルク大尉はそう言い切った。

「ええ、問題ありませんね」

 相槌を打つロイド・コルト技術中尉は携帯端末を操作、モビルスーツに搭載された前回の戦闘データを抽出し彼ら整備班が保有するデータバンクに通信。財産とも言うべきパイロットの操作傾向、行動の短縮化が成されたデータを吸い上げる。

 こうする事で機体に内蔵されたメイン、サブCOM(コンピューター)が破壊或いは消失した際に対処することができるのだ。そして癖を習熟したデータさえあれば、新型機を充てがわられる際にスムーズに乗り換えることが出来る。ただ、メルティエが以前搭乗していたザクⅠは被弾場所が悪く、サブCOMが無事だったもののメインCOMにダメージが入り、損傷していた故に中途半端なデータが残った。

 其処から専用ザクIIにインストール作業を行っていくのだが、”一週間戦争”時は軍のデータバンクに触れる機会が無かっため開戦前のデータしか保存されておらず。結果メインCOMの分はザクIのデータから全て流用。幸いにも通常とは異なる操作形式で機体制御を行っていたので、メインよりもサブCOMの方が大事、という変わったパイロットだと整備班では話され、

「変態じゃないとエースパイロットになれないんじゃ」

「おいバカやめろ」

「何処で中尉達が聞いているのかわからないんだぞ!?」

「どうしてそんな事を言った! 言え!」

 等と話題の人となった。

 微妙な意味で。

 余談だが、演習でメルティエ・イクス少佐と激闘を演じたシャア・アズナブル少佐のザクIIは以前のデータは有るものの技術班が喉から手が出るほど欲しがった精度の良いエースパイロット同士の戦闘データが頭部を破壊された際に文字通り潰されたので悲嘆に暮れたと言う。

 後日、戦術的にも必要と判断したシャアがデータ共有の為に幾つか条件を(こしら)えて頼みに訪れると、

「やぁ、また(・・)会ったね」

 にやにや、と嫌味交じりに応じた為にひと悶着あったのだが、割愛させて頂く。

 ただ、思いの他簡単にデータ提供に応じたので、

「君は、馬鹿か(交渉のカードをあっさりと、パイロット財産を渡す行為を咎める意味で)」

「おい、屋上へ行こうぜ。さすがにキレちまったよ(額面通りに受けとった+病院の件)」

 赤い人と蒼い人が掴み合いに転じたのは近しい者達だけの秘密である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「演習の件、ご迷惑をお掛けし申し訳ありません」

 ズムシティの政庁、その中にある執務室でメルティエは緊張を面に出さないよう注意しながら直立していた。

 軍服を隙無く着込み、黒く艶のある刺繍入りのマントを無難に羽織る。

 跳ね癖のある灰色の髪をどうにかオールバックで整え、体裁を整えたつもりである。

「私の仕事を忠実に果たそうとした結果だ。少々おイタ(・・・)が過ぎようとも笑って許そう」

 高級感のある机の上で手を組むキシリア・ザビ少将。

 女性でありながらヘルメットを被り、顔下半分をマスクで覆うこの辣腕家を、メルティエは苦手としていた。

 好悪で言うならば好意がある。

 自分には到底身につかない政治手腕や軍事統括。ドズル中将と意見がかち合わなければ滞り無く進行させる戦略眼。所謂(いわゆる)出来る女である。尊敬はすれども蔑視等の感情は生まれていない。

 苦手なのは、彼女の青い瞳である。

 初対面の時から、この覗き込む目が苦手なのだ。

「今回貴様を呼び出したのは他でもない」

 手元の文書を指で挟み、投げて寄越す。

「目を通せ」

 小さく返事を出し、白地に書き込まれた文面に視線を這わす。

 メルティエの表情が強ばった瞬間を見計らったように、キシリアは声を掛けた。

「南極条約以降、我が軍は戦力の回復に余念がない」

 彼女は設置された専用PCに何事か入力しつつ、続ける。

「本来ならば先月の講和である程度は問題を先送りに出来たのだがな、レビルにはしてやられた」

 PCから視線を直立する青年に戻す。

 以前の珍獣を見るようなものではなく、動かせる戦力―――駒を観る冷たい目。

「過ぎてしまったものは仕方がない。故に、先手を取る」

 本題だ、メルティエは直立したまま背筋を伸ばす。

「貴様には地球降下作戦、その先遣隊に入り作戦に参加してもらう」

「は。了解しました」

「気が早い。だから貴様は駄目なのだ、少佐」

「は。申し訳ありません」

 椅子に背を預け、ふぅと息を吐かれる。

 溜息にしか思えないが、気にしない事にした。

「女の話で先を急がせる等とは、禄なものではない。覚えておけ、少佐」

「は。善処します」

 切れ目の長い目を閉じられた。

「まぁ良い。貴様は先遣隊となり中部アジアに降下後、モビルスーツの機動力を以て宇宙への玄関口となるバイコヌール宇宙基地を襲撃、陥落せしめよ」

 彼が返事をする前に、キシリアは机の上にあるマイク―――通信機に向け「入れ」と言う。

 後ろで扉が開けられる音を聞きながら、メルティエはキシリアと視線を交わす。

「私が直接指示を出すが、同様に先遣隊と共に降下する地球方面軍司令ガルマ・ザビ大佐の部隊を援護、支援もしてやれ」

 キシリアが頷き、後ろを向くように促されたメルティエの前には、 

「地球方面軍司令、ガルマ・ザビ大佐だ。君の活躍は聞いている、活躍を期待するよ」

 穏やかな表情で優しげに名を告げる、美男子が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長、承服しかねます」

 サイは異議を唱えた。

 場所が場所ならば軍事裁判ものだが、特に咎める者はこの場に居なかった。

 ムサイに帰還後、各班の統括者をミーティングルームへ呼び、キシリアから受けた任務内容を説明する中でサイとロイドの両名は険しい顔で静かに口火を切った。

「我が隊はモビルスーツ五機。中隊規模の行動がギリギリ可能な程度です。哨戒機で宇宙戦闘機を扱う班の手が空きますが、戦力の拡充は現在期待できません。ムサイも地上へ降下は出来ずコムサイしか降ろせませんし、送られた垂直形シャトル(HLV)は降下後まともな移動もできず物資の倉庫に使うのが関の山です。我が隊だけで攻略しろ、と言われてはいませんがせめて合同で作戦に臨む部隊と連携を採れなくては」

「補給物資の面は、送られるHLVを確認しています。ひと月は問題なく過ごせる量です。問題なければ、ですよ。ガルマ・サビ大佐麾下の部隊との連携は正直難しいと思います。三十機のモビルスーツと共に降下なされる、と通達を受けていますし下手に歩調を合わせると吸収されかねません。指揮系統の乱れが懸念されますので」

 メルティエは腕を組んで黙考。

「あの、歩調を合わせると吸収されかねない、とは?」

 小さく手を挙げ、パイロットスーツ姿の女性が問う。

 ヘレン・スティンガー軍曹。哨戒班として宇宙戦闘機ガトルに搭乗予定だった。

 赤毛に焦げ茶の瞳で普段は明るい快活な彼女も場の雰囲気に呑まれているのか、声の勢いが全く無い。

 ちなみに、胸のボリュウムが隊で一番豊かである。

 健啖家であり、メルティエが以前用意した肉を五枚ぱくついた挙句お代わりを要求したので教育的指導が入った。

 指導実施者はかの”外見で騙されてはいけない人物”の第一位保持者である。

「数が足りない部隊を数が足りる部隊が吸収、密度を上げるのは古今よく見られる戦術の一つです。ましてや階級はあちらが上です」

「加えてガルマ大佐が、本作戦が初陣なのは知っていますか?」

「えっ!? ザビ家の方ですよね、ドズル閣下みたいに前線に居たり、ギレン閣下やキシリア閣下のように指揮を執っていた、とかは」

「ありません。彼は正真正銘、今回が初陣です」

 うそぉ、と彼女は愕然とした。

(大佐で初陣、かぁ。肩に掛かる負担相当だろうな。真面目そうだったし)

 ヘレンの表情を見ながら、メルティエは暢気に考えていた。

「初陣の戦争初心者は退き際を確実に見誤る。誤らないのは玄人か、側に百戦錬磨がいる場合のみですよ。頭痛がする程意味不明な自信で”突撃”を繰り返すのです。味方にとっては悪夢。敵にとっては狩場でしょう」

「モビルスーツ三十機のパイロットの中に、百戦錬磨が居れば良いのですが…ああ、居ても連携するのは止めておきましょう。こちらを壁にするか、功を全て奪うかのどちらかの未来しか思い浮かべません」

「随分と否定的、というか辛辣だな」

 思わず苦笑を浮かべると、二人は、

「「貴方は以前ご自身がされた事をお忘れですかっ」」

 明らかな怒気を込めた言葉。それにメルティエは肩を竦めて答えた。

「最終的には少佐に、新設部隊の隊長を任じられたんだ。十分だろう」

「一級ジオン十字勲章は―――!」

「ふぅ。止めましょう、大尉」

 珍しく言葉を荒げるサイに、ロイドが大きく息を吐いてから肩を押さえて止める。

「しかし!」

「誰に栄誉を奪われようと、少佐は少佐です。転んでもタダでは起きませんよ。それにあまり責めますと」

「む?」

 ロイドが目を向けている方向から視線を感じ、肩越しに覗くと、

「…」

 虎が、じっとこちらを視ていた。

 低い背、腰まである薄紫色の髪は地に向かって垂れ、小さな掌は握られている(・・・・・・)

 様子に気づいたメルティエが、

「エダ? どうした」

 と声を掛ければ足音を聴かせながら近寄る。

「私、隊長補佐」

「…あ、いや。忘れてたわけではないよ、うん」

 数回の瞬き。はっと目を泳がし始める男に、女は半眼で見詰めた。

「貸し一つ」

「…はい、わかりました」

「ん」

 肩を落とすメルティエの隣に、さり気なく腰を下ろし、無表情だが心なしか口角が緩やかになっている気がする。

「エスメラルダ、恐ろしい子…!」

 何かに戦慄しているヘレンを無視しながら、ロイドは気落ちしているメルティエに向き直った。

「少佐はどう取り組みますか、今回の作戦に」

「ガルマ大佐の部隊、主力戦力と降下後、敵拠点に別方向から強襲を仕掛ける」

「メル」

「別に命令違反をするわけではない。キシリア閣下は俺に作戦に参加と敵拠点攻略を命じられた。が、ガルマ大佐の下で動けとは一言も明言していない。閣下は援護、支援せよ。とおっしゃられただけだ。合流するよりも別戦力として行動した方が援護、支援に成る」

「降下後に合流を求められましたら?」

「ミノフスキー粒子散布下で通信が成功した事は未だ無い。作戦前に合流を要請されても降下地点と合流地点を結ぶ間に敵拠点が在ったら、如何する?」

「迂回を選択せよと言われるのでは」

「ナンセンスだ。モビルスーツの機動力を戦術的に活用するならば速攻。火力で任務に当たれと命じられたなら大人しく援護、支援に入るが。閣下は機動力を用いよ、とおっしゃられている」

「HLVの護衛に戦力を割く?」

「最悪は物資破壊だからな、ハンスとリオか。アンリとエダのペアのどちらかだな。俺が前線に出ない、という選択はそれこそ最悪な結末だろう」

「最悪な結末、ですか」

「怖気づいた、腰抜けのレッテルが貼られる。という事だな。それこそ部隊解散の憂き目に遭いかねん」

 異名持ちが後方で待機、前線は部下に任せる。

 確かに、思う所が方々で出るに違いない。

 それでなくても、このメルティエ・イクスという男は要らぬ妬みと羨望を受けながら此処に居るのだ。

「無茶で結構。部隊運用の観点からもこちらだけで動いたほうが堅実だ。無論、ガルマ大佐が危機に瀕している場合は攻撃を破棄、HLVまで大佐を護衛し作戦を練り直す」

 地球の重力下での戦闘。

 モビルスーツを用いる戦いは何度もあるが、地球の環境下ではどうなるか見当もつかない。

 動きが鈍くなるのは当然だろうが、どのくらい制限を受けるのか

 何れにしても不安定要素が多すぎる。

「それに敵拠点の戦力が未だ特定できていないんだ。長距離砲台(トーチカ)が多数配備とも言われているし。戦闘機や戦車が僅かな部隊ともな。威力偵察も兼ねて別ルートから進軍する、と提案すれば納得してくれるだろうさ」

「解りました。その方向で動けるよう準備をしておきます」

「ああ、頼む。コムサイは確実に用意してくれ、下での移動手段になる」

「了解です。キシリア閣下にコムサイをもう二隻配備してもらえるように具申してもらえませんか?」

「却下されるだろうよ。初陣の末弟が大規模作戦に参戦するのに、モビルスーツ運用を前提に設立した我々の部隊が先遣隊だぞ。動かせる戦力が圧倒的に足りないと見ていいだろう」

「ふぅむ。運べる資材は可能な限りHLVに積み込みましょう。宇宙に残していても意味がありませんからね」

「補給物資のルート開拓が必要」

「意味がないって…ムサイはそのままなんでしょ? それなら」

 男三人と女一人が顔を突き合わせる中、浮いたヘレンが疑問に思ったことを口にする。

「ムサイは突撃機動軍に返却だ。宇宙でしか扱えない軽巡洋艦を部隊所持していたところで何の意味もないだろう?」

「うぇ。降下作戦が終了したら宇宙に戻る、とかは」

 ヘレンが言うと、

「おいおい」

「はぁ」

「これは…」

「帰れないよ」

 呆れ、溜息、苦笑いをされ。最後に聞き逃せない言葉を吐いた合法ロリにヘレンは詰め寄った。

「え、エスメラルダ中尉。どういう事ですか?」

「攻略作戦は降下後、目標施設の奪取。その後には支配領域拡大のために橋頭堡の設営、地元の地球住居者と協力関係を結ぶために交渉等々やる事が沢山ある」

「か、帰れないって」

「一度大気圏外に離脱後、次の攻略拠点へ向けて再降下の作戦は考えられる。でも、現状一度地上へ降下したらサイド3への帰還は各戦線が安定するまではないと思った方が良い」

 スラスラ、と言葉を紡ぐエスメラルダに、隊長は感心、副官は小さく頷き、技術屋は眼鏡を押し上げた。

「そ、そんなぁ」

 がっくりと肩を落とす。

「いや、ヘレン軍曹。確か、最初に説明する時にも俺は伝えた筈だが」

 びくっ、と身体が揺れる。ついでに豊満な胸も撥ねた。

 それを直視する人が一人。

「聞いて、無かったんだな」

「す、すいません!」

 綺麗に腰から身体を折り、九十度の水平を作る。そして、垂れない。何がとは明言はしない。

「…」

 羨ましげに特定の一部を見つめる人には気づかないフリをしつつ、男三人は女性陣から目を離した。

「今のうちに、近しい人には手紙でも送っておけ。ただし、現在は軍機に神経を尖らせている。一文字でも降下作戦、地球の事は書くな。タダでは済まなくなるからくれぐれもな」

「そうですね。まだ日もあります。手紙だけでは、と思うのならば休暇の為の一時離隊申請を提出すれば帰郷もできます。手続きをお教えしましょう」

「私も整備班の人間に声を掛けておきましょう。構いませんか、少佐」

「ああ、長期的に戻れそうにない。出来る限り自由にして構わないだろう。ただし期日までに戻らない場合は除隊処分、と伝えておいてくれ」

「解りました、釘は必ず刺しておきます」

 メルティエ、サイ、ロイドは今出来る事に意識を向け、エスメラルダは何処か気落ちしながらヘレンを慰めていた。

 

 

 

 

 

 時は宇宙世紀0079。2月15日。

 地球へ彼らが赴くまで、あと僅かに迫った日の事である。

 

 

 

 

 

 




反省して執筆にも力が入る。
ああ、連邦軍の現状が良くわからない。
妄想力で切り抜け、れたらイイナァ

真摯に執筆励むのですよ!
メール、コメント、感想、評価、アクセスありがとうございます!
初投稿後、気持ちの赴くままに活動を続け、本日で四日目?あたりですぞ。

UA5000記念に何かしたいです。
好きなキャラの小話とかどうでしょうか。
投稿一週間後の土曜日までに「このキャラの小話作って」
とかメールか何かで残してくれると嬉しいです。

無かったら、まぁ、作者が独り泣くだけです…ハハッ

それでは、閲覧ありがとうございました!
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