ガンダム戦記 side:Zeon   作:上代

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第十三話:戦果報告

 宇宙世紀0079。3月1日。

 ジオン公国軍は地球軌道上の連邦軍艦隊を潰走させ、地球降下部隊への護衛を完遂。

 追撃を兼ねたルナツー威力偵察部隊を送り込むと同時に第一次地球降下作戦を実行に移す。

 攻略部隊をコムサイで中部アジア地区に大気圏突入させ人型機動兵器モビルスーツによる自由落下戦法で迎撃戦力を駆逐したのだ。

 防衛能力を欠いた連邦軍のバイコヌール宇宙基地は陥落。

 ジオン軍は地球圏への出入口を一つ手に入れ、連邦軍は一つ失った形となる。

 この作戦内での戦闘データ、特に地球環境下でのモビルスーツによる実戦は有益で有形無形の様々な恩恵をジオン軍に与えるのだが、代償も大きかった。

 事前に獲得した情報では驚異となる戦力が無い又は小さいと見做されたバイコヌール宇宙基地には長距離砲台(トーチカ)群が設置され、戦闘爆撃機、61式戦車等が多数配置されていたのだ。

 後詰となった戦艦を軌道上に配置、大規模な爆撃と”一週間戦争”時に接収した宇宙ステーションから質量兵器(マスドライバー)による軍事基地破壊も検討していた。

 前者は連邦軍宇宙艦隊の抵抗により配置が遅れ、予想よりも降下開始が早まったコムサイらのために満足に援護ができず終い。

 後者は秘密裏に決死隊を組んだ宇宙戦闘機の大軍が急襲。防衛戦力が微々たるものであった事が痛手となりマスドライバー施設は全壊。大気圏外からの支援が全く機能しなかったのである。

 結果は援護、支援が全く無い状態でのモビルスーツ降下部隊のみによる攻略である。

 幸いにもサビ家親族の心配を他所に前線で指揮を()ったガルマ・ザビ大佐の奮闘が功を奏し、主力部隊は順調に軍事基地を掌握、占領。

 降下ポイントのズレから防衛戦力と単独で戦闘状態に入った先遣隊、第168特務攻撃中隊にそのまま加勢。

 戦力が全滅したバイコヌール基地の陥落に成功したのだ。 

 この功績により、ガルマ・ザビ大佐は地球方面軍司令の座に相応しい実力と名声を上げていく。

 後続のHLVが降下し合流した部隊と共に二手に別れ、一方はカスピ海北岸からヨーロッパに。

 もう一方はカスピ海東岸を南下して中東地区に進軍した。

 ジオン軍の驚異的な進軍速度にはコムサイとザクによる空挺戦術も然ることながら、バイコヌール基地にあった連邦軍の”おとしもの”が一役買っていた。

 バイコヌール基地には積載量一〇〇〇トンを軽く超える移民用スペースシャトルが数十機も残されていた。

 ガルマ・ザビ大佐はこれをモビルスーツ輸送機として流用。

 使い捨ての足代わりとしか考えていなかったが、ロイド・コルト技術中尉を始めとする技術屋集団がそれに待ったを掛けた。

 このシャトルの有用性に気付いた彼らが不眠不休で捕獲した移民用スペースシャトルを軍用輸送機に転用、恐るべき早さで改造する図案を作成。

 本国で指揮を執るキシリア・ザビ少将の元へ送り早急に裁決が成された。

 こうして生まれたのがジオン軍を地球圏で支え続けた、ガウ攻撃空母である。

 バイコヌール宇宙基地を拠点に、ジオン軍は地球圏へ補給ルートを開拓するに成功。

 連邦軍に邪魔される事無く継続して補給を受け取り第一次地球降下部隊は僅か三日余でヨーロッパ制圧、つまり主要都市の破壊を完了した。

 続いて3月4日。マ・クベ大佐率いる資源採掘部隊が鉱山基地への攻略。

 文官タイプだった彼が自ら采配を振るい部隊一丸となり見事制圧。

 此れにはジオン軍の将兵達も驚き、彼の評価を改めた。

 が、キシリア少将から大目玉を喰らい、後には退けぬ状態であった事がバレ。ついで内容も将官組にバレ再び評価が下がる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イクス少佐はどこか!?」

 地球方面軍司令、ガルマ・ザビ大佐は何時もの余裕をかなぐり捨てて一人の軍人の姿を追い求めていた。

 その人物とは彼にモビルスーツの動きを身体に(・・・)教え込んだパイロットであり、ガルマが大活躍で本作戦を終了に導くことが出来た陰の功労者。

 キシリア・ザビ少将麾下突撃機動軍所属、メルティエ・イクス少佐。

 姉キシリアに生まれて初めて強請(ねだ)って借り受けた人材でもある。

 ざっざっ、と早歩きで移動。

 駆け足で赴きたい所だが、指揮官が走る事は部下達に不要な不安を与えかねない、と友人から釘を刺されている。

 その為に早足、競歩状態である。

 華々しく活躍した司令官が早足で動く。

 そして先遣隊を率いた少佐を探している、焦った様子で。

「ガルマ大佐、どうしたんだ」

「イクス少佐を探してらっしゃるようだが」

「任務通達だろうか」

「いや、それならば通信で事足りるであろう」

「面と向かって話したい事があったのでは?」

「同じ場所で、だと」

「おい貴様なにを考えた」

「訊問が必要だ、来い二等兵」

「や。やめろ! おれをどうする気だ! 乱暴する気だろ、うす」

「言わせねぇよ!」

 ガルマは脇目も振らずに移動していた。

(何やら兵が騒いでいるが、後で副官に確認しておくか)

 彼はそのまま第168特務攻撃中隊が間借りしている兵舎に入る。

「イクス少佐は居られるか」

「ガルマ大佐?」

 癖のない薄紫色の髪を側頭部で結った、所謂(いわゆる)ツインテールの女性士官が彼に気づいた。

(女性士官? いや、余りにも若い。まるで幼女ではないか!)

 完全に十代前半と誤認したガルマは、思うだけで声には出さなかった。

 彼女は二十二歳のれっきとした大人の女性であり、ガルマとは同い年である。

 そして彼が敬服するエースパイロットが心で評した”外見で騙されてはいけない人物”堂々の第一位保持者である。

 彼は自ら及ばぬ所で危険と隣り合わせだったのだ。

「うむ。アポは取っては居ないが、彼に会わせてはくれないだろうか」

 ガルマが此処まで急ぎメルティエの姿を探すのには理由があった。

 話は降下作戦中にまで遡る。

 拍子抜けする程無事に降下ポイントに集結した彼とモビルスーツ部隊は最低限の防衛戦力を残して次の目標たるバイコヌール基地へ進軍を開始。

 上空からはコムサイと、その上面に張り付いたザクによる援護射撃と索敵。

 地上からは本隊のザクによる遅滞射撃と両翼からの挟撃戦法で次々と周辺軍事基地を占領していった。

 先遣隊たるメルティエの部隊が合流しないことに不審がったが、作戦の停滞は失敗を呼ぶと彼に耳にタコが出来るほど事前に教授されていたので、迷わず残りにして本命のバイコヌール宇宙基地へ進軍を開始。

 其処で彼が見たものは、折れた砲身を晒し、黒煙を大気に伸ばす長距離砲台(トーチカ)の群れ。

 戦闘爆撃機の残骸、61式戦車が踏み潰され、中には搭乗区域のみを穿った痕さえある。

 明らかな戦場跡にガルマは最大速度で基地へ急行することを命令。

 巨人達による全力前進は地域一帯に大きな地響きを立て、逃げ遅れた住民は天変地異の前触れと怯え竦んだという。

 バイコヌール基地へ到達したガルマ主力部隊が見たものは。

 降伏した連邦軍兵士に列を成して並ぶようザクIIで威嚇、従わない場合は人間には余りある一二〇ミリライフルでコンクリートを穿ち舞い上がった粉塵で恐怖を刻み込ませる光景と。

 コムサイの上部で周囲を警戒する専用兵装、狙撃銃持ちのザクI。

 右腕を天に突き上げ、勝利の雄叫びの様を魅せる蒼いザクIIであった。

 但し、その蒼いモビルスーツは至る所に銃痕が存在し、左肩は防御シールドどころかショルダーアーマーから吹き飛んだ有様であり、機体は脚部に問題があるのか、管制塔に背を預けたままで停止していたのだ。

 満身創痍で勝利を貢献した。

 そう言わんばかりの姿。

 ジオン軍最新鋭機、ザクIIとはいえ。たった五機で主要軍事基地の陥落。

「これがエースパイロットと彼を支える部隊」

 ガルマが呟くと、その場に居るジオン軍の全機から歓声が上がる。

 彼らを褒め称える声。

 先を越された事に悔しみ、彼らの無事に安心した声。

 彼らの活躍を賛美する声があちらこちらから流れるのだ。

 ―――私は、彼らになりたい(・・・・・・・)

 兄弟が其々持つ才に対する羨望でもなく。

 友であり、ライバルでもある男に対する嫉妬でもなく。

 彼は、ガルマ・ザビはメルティエ・イクスと彼が率いる部隊に憧れたのだ。

 そして、この戦いが終了しても第一次降下作戦が完了したわけでもなく。

 予定通り合流した後詰と共に二手に別れ、一方はカスピ海北岸からヨーロッパに。もう一方はカスピ海東岸を南下して中東地区に進軍した。

 メルティエの部隊は戦力を有していたが、隊長機が中破状態でありバイコヌール基地防衛の戦力として当てる事にし、補給ルートの防衛も兼ねて基地待機となった。

 それからガルマは戦線を拡大し順調に勝利を重ねていった。

 時に連邦軍の伏兵に遭うも、目覚しい活躍を挙げる部隊が多く戦略の不利を戦術で覆す強者が名を連ね打破しガルマを助けた。

 地球環境下での行動は彼ら宇宙移民者の体力を散々に削るが、勝利をバネに戦い続け中部アジアからヨーロッパ地区までを占領したのだった。

 勝利に慢心せず、定石よりも慎重策を取り、問題ないと判断すれば果敢に攻め入る。

 ザビ家の御曹司は、地球方面軍司令ガルマ・ザビ大佐に変貌を遂げていた。

 そして、戦線最端部を各部隊長に任せ、彼はバイコヌール基地へ戻ってきたのだった。

 メルティエの安否の確認と改めて自分を鍛えてくれた事に対する感謝を。

 その為だけに一軍の司令が戻ってきたのである。

 彼の友が知れば正気か、と問うだろうし指揮官ぶりを褒め称えてくれた部下達も良い顔はしないだろう。

 が、一皮むけようと、彼はガルマ・ザビ。

 根が素直で律義者の所は変わらなかったのである。

「問題はないかと。どうぞ」

 淡々と言い、案内する気なのだろう、先を歩いて行く。

 彼女が頭を振ればすっとつられて風に踊る髪が美しい。

(可憐だ)

 はっと意識を覚醒させ、頭を数度左右に振り、ガルマは彼女に付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやね、別に責めてるわけじゃないんですよ」

 ロイド・コルト技術中尉は空調が効いている部屋で額に手を当て、目の前に肩を落として座るメルティエに溜息を吐いた。

「連邦軍が温存していた戦力。それを相手に孤軍奮闘おまけに基地陥落とか、どこの英雄記ですかって思いますよ。まぁ、実際成された事なんですがね」

 室内には苦笑する部隊副官のサイ・ツヴェルク大尉、アンリエッタ・ジーベル中尉が在席し、リオ・スタンウェイ伍長は隊長の背を心配そうに見つめていた。

「まぁ、英雄記ではないので。機体が中破してるわけですし」

 その代わり、部隊の損害ゼロである。

 色々とおかしいが、それを言うと肩を落とした隊長がどや顔するのでロイドは口に出さない。

 言いたいがロイドに睨まれているのでアンリエッタは黙っている事にしていたし、リオはメルティエが落ち込んでいるようなので同じように気落ちしているようだった。

「中尉。此処までにしておきましょう。機体損害もそれほどではないでしょう」

「大尉。お言葉ですが根本的な問題はそこではないのです」

 即答するロイドにサイは眉根を顰めた。

「では?」

「私が物申したいのはですね。機体の損傷等の事ではないのですよ。ハンス曹長とヘレン軍曹が搭乗する機体からの映像記録、目を通しましたか?」

「いえ、私は見ていませんね」

「僕もかな」

「はい」

 三人が三人とも見ていないと言う。

 ロイドは重く息を吐き出し、メルティエは密かに足の筋肉を(たわ)めた。

「隊長機の動き、完全に囮になっているんですよ」

 だっ、と席から脱兎の如く駆け出す。

 しかし、現実は無情である。

 何時の間に其処に居たのか、と言わんばかりの動きでアンリエッタが佇んでいた。

「どうして逃げるのかな。かな?」

「お、落ち着こうアンリ。暴力は何も生み出さない。クールダウンだよ」

「じゃあ、どうしてロイド中尉が発言した後に走り出したのかな?」

「少しランニングをしたい気分になったんだ。衝動的なもので」

「ふぅん、衝動的なもの、ね」

「ああ、其処を通してくれ。そうだ、アンリも行くか。一緒に汗を流そうじゃないか」

「それも良いけど、まずは聞いた事に正しく答えた後かな?」

「オーケイオーケイ。とりあえずそのキッチンナイフを下げよう。刃物は危険だよ」

「大丈夫。メルが正直に素直に話してくれたら用を成さないよ」

「それは脅迫だよ、アンリ。それに黙秘権行使という素敵なものがあってだね」

「じゃーんじゃーん。被告人は、死刑」

「待て! 再審を要求する! 割と真面目に答えますその刃を指一本分でいいので引いてください死んでしまいます」

 冗談のようなやり取りだが、実際アンリエッタはキッチンナイフを握っている。

 円らな碧眼は彼女が逆光に居る為か、いつもよりも暗く(・・)見える。

 メルティエにはキッチンナイフがあと指一本動いたら頬に触れそうである。

 残りの面々は冷や汗をだらだらと流しながらその光景を見ていた。

 ―――中尉やべぇ。

 怖い、でも強いでもなく。やべぇ(・・・)である。

「いやね。最初は被弾した時に情報部の連中仕事しろよ、とかふざけんな殺してやるとかつらつら思ったんだが、戦闘開始してるわけだし、そんな泣き言言ってられないでしょ? でも敵はこっちよりも上空から自由落下に入った部隊のみんな狙い出した。幸いにハンスが機転利かせて威嚇狙撃してくれたから時間稼げた。動ける内に敵潰しておこうって、まぁ無茶な体勢でモビルスーツ動かした」

「毎度の事だね」

「そう言われると辛いんだが。まぁ、いい。トーチカを見える範囲で叩いた後には爆撃機と戦車が大軍勢で向かってきた。まだHLVは上、ハンスも自由落下でコムサイと降下中。動ける戦力は?」

「メルのモビルスーツだけだね」

「そういう事。俺には自分だけ退く考えは毛頭無い。爆撃の雨だろうが砲弾の嵐だろうが、部下を救えるなら突き進む。それが丁度あの時、あの場所だった。それだけだ」

「それだけ、って、メルあのね―――」

 憤慨した、と言わんばかりに口を大きく開けて言葉を発しようと詰め寄るアンリエッタ。

「メル、お客様」

 行動キャンセル気味に入室するエスメラルダと、

「ガルマ大佐?」

 メルティエが呟くのと、彼とアンリエッタ以外がガルマ入室と同時に敬礼したのは同時だった。

「失礼するよ、諸君。…すまない、邪魔をしたかな?」

 見方に寄れば、抱き合うメルティエとアンリエッタの構図である。

 さすがの彼も、困惑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。そう言う事だったのか」

「申し訳ありません、大佐の前で粗相を」

 二人は兵舎から出て、基地内を散策していた。

 時刻は昼過ぎ。中部アジアの熱い日差しが二人の肌を焼く。

 上官の基地内パトロール、というのは思うよりも効果的だ。

 主に味方、自軍の兵士達に。

 弛んで警備を疎かにしていないか、任務を放棄して賭博遊戯に興じていないか等を抑止。或いは強制停止できるからだ。

「構わないよ。それに少佐、敬語で接しないでくれたまえ。私にとって君は部下だが、師でもある」

「いやしかし、周りの者に対する示しがつきませんよ?」

「それこそ、今さらだろう。君の部隊が君に接する態度。あれは如何なものかと私は思うよ」

「む。これは一本取られましたな」

「ははっ、だろう。私もやり込まれてばかりではいられないさ」

「ふむ―――そう言う事ならば、これからもよろしく頼む」

「ああ、こちらこそ」

 ガルマはメルティエに手を差出し、彼は笑顔で応じてくれた。

 彼にとって、目標とすべき人物を友とした記念とする一日だった。

 

 

 

 

 




ある意味ガルマ回。
やぁ。待たせたね、すまない。
二日に三話分書いて作者の体力は限界よ!

もぅゴールしても良いよね…

作者はガルマを何処に導こうと云うのか。
こんなガルマさんが居る世界。どうでしょう?

それではみなさん、おやすみなさいノシ

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