ガンダム戦記 side:Zeon   作:上代

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第十六話:覚悟

 時刻は二一二〇(フタイチフタマル)

 中東アジア地区、森林地帯。

 住まう動物も眠りにつき植物が月光浴に弛う。

 夜露に濡れた葉から雫が地に一滴、一滴と水の恵みを湿らせる。

 常ならば陽が上がり、穏やかな空気がこの地に住まう彼らが起きるまで静かに流れゆくのみ。

 しかし。

 この日に限ってそれは、容易く打ち破られたのだった。

 

 

 

 

 

 ―――畜生っ、畜生!

 連邦軍第03機械化混成部隊に所属する彼は焦っていた。

 闇夜に紛れてジオン軍攻略部隊に砲撃し進軍を遅滞させる事が彼らが上層部から授かった任務。

 敵が立ち止まるならば続けて攻撃を加え、索敵を開始されたら身を潜ませ静かに移動する。

 これを繰り返し、ジオン軍には長距離砲台(トーチカ)に類する遠距離攻撃設備があると錯覚させ、疑心に落とし本当ならば何もない平野を、山岳を、森林を用心深く進ませる。

 そして、敵に隙あらば撃滅する為に攻撃を再開する。

 これが彼ら連邦軍モビルスーツ部隊、第03機械化混成部隊の役目。

 彼の部隊は元々戦車部隊、砲撃科の出身者が多く在籍していた。

 その為、一番機が観測射撃。二番機が予測射撃。三番機が本命の直撃射撃として部隊、モビルスーツを運用してきた。

 三機編成で必ず動き、ミノフスキー粒子下でも通信が高感度で取れるよう現場で出来る工夫も設えた。

 其れ故に先手必勝、とまで戦績は行かないまでも常に先手を取る事で敵を困惑の内に中破、大破に追い込み撤退に成功させた事は彼らに自信と敵戦力に絶望し下がるに下がった士気を持ち直させたのだ。

「これで宇宙人共を追い返せる」

 部隊の連中と笑いながらそう話した。

 彼、彼らが搭乗するモビルスーツ。

 ジオン軍のザクIIを鹵獲したものをベースに、開戦前に連邦軍が作り上げたRX-77-01の武装を流用した機体である。

 武装は九〇ミリブルパップマシンガンを片手、または両手に。二四〇ミリキャノン一基を備えたバックパックと、それを補助する砲座を左肩に増設。右肩には近接距離に入られた時に応戦できるよう小型のガトリングガン一基備えている。

 一機一機では心許ないが、三機で弾幕密度を上げる事で驚異的な火力を叩き出す。

 但し、機体を制御するCOM(コンピューター)のノウハウが連邦軍と開発元のアナハイム社に無く、戦闘データを入手する事が最優先の任務となっていた。

 今回も、中東アジア境界線上でモビルスーツの反応を音響探知機(ソナー)で索敵警戒していた戦闘支援浮上車両(ホバートラック)に乗る先行部隊が連絡、万が一の為に彼の部隊は反応を残したポイントに急行した。

 そこで彼が見たものは、蒼いモビルスーツ。

 今まで見てきたザクとも違う外観。

 暗闇映像視野に映る戦闘用に洗練されたフォルム、大型の盾、闇夜の中でも存在を主張するモノアイが不気味に左右に揺らめくのだ。

 ウィルオーウィスプ、鬼火のようだと彼は思った。

 伝承でも、光もしくは火の玉でこちらを惑わし死に追いやる。

 そして、見えたモビルスーツの色。

 蒼いのだ。

 ジオンの主力モビルスーツ部隊の前に立ち、被弾を受けようと腕が飛ぼうと襲いかかってくるモビルスーツの話を彼は聞いた。

 ―――蒼いのだ。

 其の機体は蒼く、蒼い獅子のエンブレムをつけていたという。

 ―――蒼いのだ。

 奴の名は、”蒼い獅子”。

 蒼いのだ、目前のモビルスーツは。

 ―――嗚呼、鬼火がみえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンリエッタ・ジーベル中尉は自らが操るザクIIを、敵予想地点へ走行移動させていた。

 モビルスーツの足音は大気に隠せない音響を残す。

 ズシン、ズシン、と。

 だが、闇夜の中ではブースターを起動せず、モニターの精度が悪化する事に目を瞑りモノアイの明度を下げれば隠す事も可能であり、隠密行動は出来ないが惑わすことは可能だ。

 装備なしでは大気に響く足音を正確に探ることは不可能に近いし、人間という生物は聴覚より視覚に頼る。聴覚に集中する事もできるが、見る事ができないと不安になる本能が働き意外とあやふやなものだ。

 逆に述べれば、訓練を受け”あやふやさ”を消した人間ほど気配感知に優れる。

 そんな人間が今戦場に居ない事を祈るのみ。

(敵にバレたら本末転倒だけど、急がないと)

 彼女の頭はこの事で一杯だった。

 エースパイロットとは云え、敵戦力が把握できていない状況で進行するのは悪手だ。

 新型機を受領したとはいえ、今回は慣らし運転。

 ぶっつけ本番、というのはギャグの一つだと彼女は思っている。

 予行練習もしないで十全に物事を動かし、測れるのならば勉強とか訓練とかは世の中に必要ない。

 稀にその類の人間が居るが、それはきっと勉強と訓練を骨の髄まで叩き込んだ努力者のみだ。

 ぽっと出の人間が出来てたまるものか。

 理不尽ではないか。

 だから、彼女は彼を信じる(・・・)

 子供時代に恋に趣味に時間を使ったわけではなく。

 生き残る術を得る為にその時間を使用した、彼の事を。

 全ての時間を戦場で生き残る術に費やし、骨の髄まで叩き込まれた(・・・・・・・・・・)男を信じる。

(ラル大尉と、ラル隊のみんなのシゴキは洒落にならないって)

 ザクIIは進む、進む。

 彼に向かって。

(死ぬかもしれない。そう思えるのはまだ余裕だ、って教えられたって)

 緑の海を切り開き、彼女の心を表すようにモビルスーツは月下の世界を走る。

私は(・・)そんな、理不尽な彼が)

 走破したザクIIのモノアイ、対象物を見つけたのかモニターに拡大処理を行う。

 その映像には、バーニア光を上げて突進する蒼いモビルスーツと。

 その姿を闇夜に浮かび上がらせる砲光を吐き出した、三機のザクが視認できた(・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丘の反対側に廻り、足を踏み入れたメルティエ・イクス少佐を歓待したのは砲弾の洗礼だ。

 彼は知らないが、敵のザクは連邦軍初のモビルスーツが装備した武装を装備し、その装備をクロスレンジならぬトリプルレンジ。三兵装同時発射を敢行する事で三機のモビルスーツでは有り得ない驚異的な火力を叩き出す。

 スラスターを完全に落とさず、アポジモーターには負荷を掛けて居なかったのが幸いした。

 グフはアポジモーターの力を再充填、即開放。

 機体が慣性で進んでいたのもメルティエの命を繋ぐ。

 彼は直進をそのままに丘の坂に機体を沈ませるように屈ませ、地肌スレスレに駆ける。再補足掛けられる前に両脚部のアポジモーターで方向を修正、大きく水平に逸れる(・・・)

 無理矢理慣性を殺した負担が身体に掛かる。

 中距離から近距離に踏み込んだからこそ可能とした接近後にスラスターを停止、アポジモーターの強力な横撃で機体を大きくズラす事であたかも目前でモニター前から消える急激な離脱を実現させた。

 それでも三機のうち一機からは逃げ切れず敵の捕捉から完全に脱しておらず、メルティエは左手操縦桿のグリップを握り込む。

 ガガガガガッと小刻みな振動、続いてドンッと叩きつけられる衝撃にきつく結んだ口から息が漏れる。

 しかし、グフは専用のシールド引き寄せ、身代わりにして難を逃れていた。

 機体に大きなダメージはないが、伝わる衝撃はパイロットを苦しめる。

 盾が完全に破砕される前に突進。

 ヒートサーベルを引き抜き、マニピュレーターから柄を通して伝達。

 核融合の強力なエネルギーが剣を模した発生器を包むように赤い刀身を形成、凶悪な熱量と電磁波が大気を灼き、蹂躙する。

「まずは、一太刀!」

 機体の更なる高速機動(ブースト)に警報が響くが、彼は無視。

 ドズンッ!と大地に減り込む踏み込み。

 弾丸に穿たれ亀裂が走り、遂に盾が完全に砕け散る。その上から削り取る銃弾にグフの装甲を信じて突き進んだ。

 そして空間に線を引きながら、ザクであったモビルスーツ―――最後まで攻撃した機体に打ち込む。

 ザシュ、と喰い込むエネルギーの刃。その下の剣状の発生器が食い込む。

 加熱され、溶断を確認した後、右腕を振り払う。

 敵の機体は耐久度の限界を超える熱量に溶解、切り裂かれた。

 核融合炉と共に。

 ドンッ、と後ろ足で地面を蹴り、足のバーニア噴射口(フェルターノズル)から最大限に放出。

 可能な限り後方へ飛ぶ。

 耳を(つんざ)く音。

 爆音、衝撃に見舞われるが、敵に対する目眩ましにも成る。

 腰のヒートサーベルを抜き、左手に構え爆発した機体と其処から昇る黒煙を遮蔽物に丘から飛び降りる。

 グフ、少なくともメルティエがいま搭乗する機体のレーダー機能は特筆すべき事もなく、平坦な性能だ。

 音響や軍のデータから地形図を照らし合わせて立体図を作る程ではなく、平べったい円に水平線垂直線を走らせ識別反応を点灯させる極簡易のもの。

 しかし、これが有るのと無いのでは位置状況の把握が段違いだ。

 恐らく、敵のザクにもこれと同等か程度の低いものが搭載されているだろう。

 だが、今はこれは確実に機能停止しているはずだ。

 目の前で核融合炉―――ミノフスキー粒子の大爆発を起こした(・・・・・・・・)のだから。

 メルティエのグフ、ブレードアンテナ装備型ですら位置情報どころか完全に通信も遮断された。

 相手も同じ。外界から完全に遮断されただろう。

 そして、目前のグフは舞台から飛び降り、消えた。

 養父はよく言っていた。

『使えるものは何でも使え、戦場では待ったは効かん。臆したら負けよ』

 そう言って、ランバ・ラルは訓練に疲れ倒れ伏した不肖の弟子(マイ・サン)へ、にやりと笑みをみせるのだ。

(―――さぁ、狩りの時間だ)

 メルティエは、常の彼には似合わない獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこだ、どこに消えやがった!」

 モニター内から完全に消えた。

 あの蒼いモビルスーツ。

(ヘンリーの機体が、爆発したのは見えた)

 その後からは機器が完全におしゃか。

 隣にいる友軍の反応すらレーダーマップに映らない。

 辛うじて、ノイズは酷いが通信だけはできた。

『ジャック、ヘンリーが!』

「落ち着け、まだ奴は居るんだぞ!?」

 思わず操縦桿を後ろに、駆動音が鳴る。

「ま、まずい!」

 音を出してしまった。

 頭部を旋回、首を振る動作でせめてモニター―――視界だけでも確保する。

(来い、来い、宇宙人野郎。蜂の巣にしてやる!)

 操縦桿を強く握り締め、連邦軍士官―――ジャック中尉は腹の中で吠えた。

 その時、モニターに黒い影のようなものが見えた。

「うおぉおおおおおおおおっ!」

 彼は先ほどと同じように三兵装同時射撃を選択。

 ニ四〇ミリキャノンが幾度も爆音を、小型ガトリングガンからは射出音が止まらず、両手の九〇ミリブルパップマシンガンは撃音を上げてジャックの機体を激しく揺らす。

 友軍機も同じ方向に何か見たのか、同様に火力を注ぎ込んだ。

『やったか!?』

「へっ、どうだやろう―――めぇ!?」

 彼の目には、黒い影の正体が映る。

 硝煙が消えた先には、爆発して果てたザクの腕。

 敵は、奴はヘンリー機の亡骸を拾い、目に入りやすい角度で投じたのだ。

 ジャックがその事に気づくと同時に重く腹に響く衝撃。

 体が上下左右に揺さぶられ、後ろに引っ張られる感覚。

「ごはっ」

 瞬いた後に見ればモニターは夜空を映している。

(やべぇ、転んでやがる)

 操縦桿を握って起き上がるモーションを、と思う。

 が、彼は動きを止めた。

 止めてしまった。

「なんだ、ありゃ…」

 彼の眼に飛び込んできたのは。

 こちらに背を向ける友軍機。

 その横からバーニア光を閃かせ、身を低くして突進する蒼いモビルスーツ。

 体一つ分空けて右脚が踏み込み、上体を上に伸ばす。その過程で両肩の反り返ったスパイクが下から掬い上げるようにザクの両腕の下に差し込まれ、両脇にがっちりと入れば。

 グオンッ、と空を切る音と共にザクが夜空に舞い、地上に叩きつけられた。

 まるで生きた人間のように動く、機械巨人。

 ―――蒼いモビルスーツ。

 その後に蒼い機体の左腕から鞭のようなものが走り―――高温を宿しているのか闇夜では酷く恐怖心を煽る―――、触発され起き上がったジャックのザクの両脚を切断、地に叩きつけられると今度は両腕を切断した。

 彼は支えを失い再度地に叩きつけられた。

「くそがぁ」

 友軍機はその隙に起き上がりながらブルパップマシンガンを蒼い機体に向ける。がその前に蒼いモビルスーツの右腕から(・・・・)も伸びた鞭がモニターに迫る。

『ぎゃあぁあああっ』

 僚機から耳を塞ぎたい程のボリュームの悲鳴。

 青く光を帯びた鞭から電子回路をショートさせる程の大電流が流され、関節部やダクトから黒煙を上げる頃に放電が終わった。

 ズゥン。

 友軍機が崩れ落ちる。

 ジャックは蒼いモビルスーツに目を向ける。

 胸には、盾を背に咆哮する蒼い獅子。

「化物め」

 そのモノアイがこちらをじっと見つめていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒートサーベル、ヒートロッドの実戦試行完了。全武装問題なし」

 ピッ、ピッと規則正しい電子音。

 ミノフスキー粒子は完全に晴れたわけではないが、だいぶマシになったようだ。

 レーダーも回復が見られるし、もう暫くすれば通信も元に戻るだろう。

 目前で転がる連邦製ザクを視る。

 専用シールドが破壊されたが一機の敵モビルスーツ撃破、二機の捕獲に成功した。

 捕獲した二機の内一機は情報入手しか取れないだろうが、もう一機は電子回路にダメージを残すものの綺麗な状態。ロイド・コルト技術中尉に任せれば有効活用してくれるだろう。

「自機体のダメージは駆動系に少し。盾が完全に破壊するまで受けたから、左肩部にもダメージ有りか。まぁ、仕方ない」

 戦闘データの回収もできたのだ。

 大満足の結果だろう、とメルティエは自信を以て頷いた。

 ちらり、と二機、恐らく撃破した機体にも繋がっていただろう地面に這ったコードをみる。

「しかし、ミノフスキー粒子対策に有線コードを各機体に直結させて通信密度を上げるとは。考えたな。遠距離戦がでいる機体だから可能、という事か」

 チッ、チッ、チッ。

「む?」

 何やらおかしい音を耳聡く拾う。

 ついで、モニターに映る四肢を両断したモビルスーツの姿。

(―――情報漏洩防止、自爆かっ)

 ドウッ、と後ろに飛び下がる。

 四肢が存在しないザクは道連れとでも言うつもりか、バックパック下のバーニア噴射口から最大限にエネルギーを孕んだ炎を撒く。

 マズルフラッシュで位置を特定されるのを嫌い、一二〇ミリライフルを途中で外したのが悔やまれる。

「ならば、ヒートロッドで」

 グフの右腕から伸びた高温の鞭を前方に伸ばす。

 彼は此処で疑問に眉根を顰める。

(待て。何故奴は外部スピーカーでカウントを聞かせた)

 腑に落ちない。

 それに、ザクの自爆カウントはそこまで悠長ではない。

 グフの立ち位置からしても有効範囲外だろう。致命傷は与えられない。

(―――まさか)

 しかし、いや、やはりザクはこちらへ飛び込んでは来ず。

「しまった!」

 死に体のザクは崩れ落ちグフが機能停止に追い込んだ機体に、爆砕する力を開放した。

 

 

 

 

 

 アンリエッタが辿り着く頃には、損傷はあるものの健在するグフ。

 その周りには部分部分のパーツが四散した、モビルスーツの残骸が点在しているだけであった。

 

 

 

 

 




フラグ立てるのって難しいっすわぁ…

所で陸戦ザクのミサイルって、誘導みたいだけど
ミノフスキー粒子下でちゃんと効くのかしら?
少し調べておこう、やらかしそうだ
さて。
こんなグフはどうでしょうか。

試作機だから好き勝手にできる。
気がするからやってみた。
後悔はしてない。
反省はしている。

少しホラー感出す手口を教わりたい今日この頃

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