北米大陸は戦前から砂漠、荒野地帯が点在した地域である。
ジオン公国軍の第二次降下作戦以降、戦闘による地形の変化が見られるが大部分は以前のままだ。
高台やまばらな草木、風が靡けば砂塵が舞う。
昼下がりの日差しが強く、その中を進むギャロップ級陸戦艇。
艇体下のホバークラフトと左右の強力な外装ポッド式ジェットエンジン四基により、巨体さに似合わぬスピードで地上を駆け回る高速陸戦艇である。
艦体後部には補助エンジン噴射口が四つ。艦首には制動用の噴射口が二つ設けられており、これらがギャロップの加速を助けモビルスーツ等には負けるものの機敏な方向転換を可能とした。
艦体前面にある航行ブリッジから外界を眺めつつ、メルティエ・イクス中佐は口を開く。
「どうだ、艦長。試行運転のほどは?」
「陸戦艇ってところが難ですが、あと三日いただければ
メルティエが声を掛けた艦長、デトローフ・コッセル中尉。
ジオン公国軍第二種戦闘服、その軍服の袖を破った海賊同然の格好及び表情をしているが、彼はシーマ・ガラハウ少佐の副官を務めている男だ。
一見粗暴、しかし乗艦してまだ一両日も経過していない陸戦艇の航行を危なげなくこなす。
聞けば宇宙ではムサイ級軽巡洋艦、パプワ級輸送艦の艦長を務めていたという。
その時の経験からだろうか。まったくの別種を扱うというのに、気負いは無く。何処かすっきりとした表情で航行任務に従事している。
クルーの能力もあるのだろうが。本艦の最大戦速、急速旋回の指揮を見るに問題ないと判断。
さすがに回避行動は演習や戦闘中ではないからその手腕は窺い知れない。
だが、シーマが「この男にお任せ下さい」と指名したのだ。
メルティエに判断材料が不足していたのもあるが、コッセル自身の意気込みも買って今に至る。
「試行運転の内容には砲撃戦、支援行動の類は無い。戦闘では艦長の勘が頼りだ、任せる」
「任せてください。シーマ様の期待を裏切るわけにはいきません」
彼の返事に思わず苦笑。
仕方がない事とは言え、彼らからしてみればシーマが上位、メルティエはその次なのだ。
付き従ってきた絆というものだろう。他の者が聞けば気分を害するだろうが、メルティエは彼らの信頼関係に割り込む気はさらさら無い。
自分も信頼する直近の部下たちとの間に割り込まれでもしたら面白くない。この感情が面倒なもので、頭では理解しても心のところ、感情が納得しなければ後々禍となって芽吹くときもある。
そう思えばこそ、彼らを尊重してやりたい。
それがメルティエなりの、彼らへの配慮だった。
「次にモビルスーツ隊の慣熟機動に移る。他のギャロップはどうか」
「一番艦、三番艦、四番艦共に航行問題なしとの事です」
オペレーターから報告を聞き、メルティエは艦長席の左にある部隊長席、そこの受話器を取る。
「シーマ少佐、モビルスーツ隊の慣熟機動に移る。用意はどうか」
『問題なし、いつでも』
「了解だ。出撃に入ってくれ」
『はいよっ―――いえ。すいません』
いつものはその口調なのか、彼女も発してから気付いたのだろう。
「気にするな、馴れている口調で良い」
受話器を置き、こちらの様子を視ていたコッセルと目が合う。
「どうした、中尉」
「いえ、なんと言いますか」
被った帽子の位置を直しながら、コッセルは言いづらそうに口を数回開けては閉じていたが。
「…御大将は、随分と変わっていると」
「中尉の呼び方も随分と変わっているだろうに」
「あ、いや。どうも行儀がいい話し方はできやせん」
「少佐にも伝えたが、気にするな。礼を失ったり、度を過ぎなければ咎めはせんよ」
そう言ってメルティエは外界が見える位置に立つ。
ギャロップの箱状の艦体前方には格納庫に直結しているハッチがある。
ハッチが開くと其処から茶褐色と紫色のMS-06G、陸戦高機動型ザクIIを先頭にMS-06J、陸戦型ザクIIが二機追従して行く。
先頭にある一番艦のギャロップからはMS-07A、グフとMS-06D、ザク・デザートタイプが飛び出し荒野にバーニア光を閃かせる。
三番艦からは陸戦型ザクIIが三機降り立ち、フォーメーションを組みながら遮蔽物を利用しての高速機動で移動。
四番艦からはスナイパーライフルを固有武装とするMS-05L、ザクI・スナイパータイプが高台に飛び上がり、その後ろに右肩に一基のキャノン砲を担いだザクタイプが続く。
「あれが新型機か」
陸戦型ザクIIを母体にした砲撃仕様モビルスーツMS-06K、ザクキャノン。
頭部にはザク・デザートタイプと同一の通信用アンテナが設置され、これも同じく砂塵や雨天環境下での通信状況の安定度を考慮した三角錐状のマルチブレード式のシングルアンテナ。
塗装は隊長機を意識したのか、蒼と紫で色分けされている。
砲撃武装がランドセルに集約されていて、ランドセルが弾薬格納庫。背後からの攻撃や転倒には十分に留意されたし、と開発陣から通達された。
固定武装に右肩の一八〇ミリキャノン砲、ランドセル左部に二連装スモークディスチャージャーに腰部の二連ロケット弾ポッド―――通称ビックガン―――があり、モノアイは全周囲型に改良されサブカメラも装備している。
連邦軍航空機に対する対空砲を装備したモビルスーツ、という位置付けだが支援機としても十分に活躍してくれるだろう。
特務攻撃中隊ロイド・コルト技術大尉と元MS特務遊撃隊の技術主任メイ・カーウィンが設計、開発に携わった本機は何度もトライ&エラーを繰り返されたザクIIを母体にする事で重量加減、センサー類やキャノン砲の重心、弾薬格納庫の扱いだけに絞った。
この開発には先日遭遇した連邦軍モビルスーツから回収した兵装と破壊された機体から奇跡的に読み取れた運用データの断片、ジオン軍のデータバンクを掛け合わせて設計。
連邦軍が既存のザクIIを改修、運用した経緯と現在もグレードアップを図られているザクIIだからこその早期実現である。
特徴としてセンサー有効範囲が現行モビルスーツよりも広く、半径四四〇〇メートルもの距離をカバーできる。このおかげで長距離武装を有し、中距離での火力も期待できるという地上部隊が求めた支援モビルスーツの部隊参入を可能とした。
今回の開発で六機がロールアウト。内五機がアジア、アフリカ戦線等に送られ、一機がモビルスーツ運用試験も兼ねて特務機動戦隊”ネメア”所属機となっている。
「生産ラインに載るまで、リオの専用機だな」
思わす笑みを浮かべ、ハンス・ロックフィールド少尉が搭乗するザクIの後ろにおっかなびっくりついていくザクキャノン、それを操縦するリオ・スタンウェイ曹長が緊張しながら慣熟機動に臨んでいるであろうと想像した。
責任感の強いリオの事だ、機体は丁寧に扱おうとするだろうし問題はないだろう。
「さて、俺も出るか」
「御大将も出撃なさるんで?」
本来の口調に戻ったコッセルが訊ねる。
メルティエは艦長席に座るコッセルに振り返りながら自分の蒼い軍服、その首元を軽く叩いた。
「”蒼い獅子”なんて御大層な名前を授かってるんだ。モビルスーツパイロットが本来の職務さ」
なるほど、と頷くコッセル。
何かを理解したのか、彼の口は太い笑みを形作っていた。
「ギャロップ一番艦に戻る。長蛇陣形のまま航行を続けてくれ」
「了解でさぁ」
ブリッジを後にする部隊指揮官を見送り、コッセルは茶褐色と紫色のザクIIが飛んで行った方向に視線を置いた。
メルティエは軍服を乾いた風で叩かれながらワッパ、オートバイにローダーを取り付けたような形状の小型攻撃機を運転してギャロップ一番艦に帰還した。
地球に降下してから幾日も過ぎたが砂埃にはまだ馴染めそうにもない。
こればかりは彼も自信がなかった。
ゴーグルをワッパの運転席に放り投げ、モビルスーツ格納庫に移動していると通路奥から手を振る小柄な影が視界に入る。
「あ、隊長さーん!」
「メイ・カーウィンか? っうおっと」
軽快な走りを見せ、最後にぴょんと跳躍した彼女を受け止めた。軽い体だが勢いが加勢した分、メルティエの身体が通路の壁に押される。
見ようによっては、大変誤解を受ける構図である。
「んーちょっと勢いつけすぎたかな」
ぱっと離れながら、メイは失敗失敗と笑う。
多少背中が痛むが、天真爛漫な彼女にメルティエも文句を言うことはしなかった。
「今は作戦中だぞ、どうして此処に?」
「隊長さんのモビルスーツ、今用意が終わったところなんだ。だから呼びに行こうかなって」
「ああ、なるほどね」
親切心で探してくれたわけか、と口の中で呟く。
少し遅れていたら擦れ違いだったのだが、メルティエの所在は掴めてなかっただろうに。
「さっきまで二番艦に居たんだが、戻ってきたのがよくわかったな」
「あれ、そうなんだ?」
どうやら、わかっていなかったらしい。
「部隊長だから、一番艦のブリッジあたりに居ると思ってたんだけど」
「ああ、少し二番艦の様子を見に行ってたんだ」
ふーん、と気のない返事を出して格納庫の方へ歩いて行く。
「さて、少し急ぐかなっと」
「わあっ!?」
ぺしん、と彼女の後頭部を軽く叩き、つんのめるメイを尻目に走り去る二十二歳児。
「ちょっとー!?」
「はっはー、割りかし重いのな、お嬢さん!」
「お、おもっ!? なんてこと言うのさ! 隊長さんはでりかしーってもんがないねっ」
「でりかしー?なにそれ美味しいの?」
「うわぁ…」
猛然と追いかけてくる、うら若き十四歳。それを相手に早口で捲し立てながら格納庫内に入り、三機分のハンガースペースで唯一残ったモビルスーツに駆け寄る。続くキャットウォークからタラップへ、そのまま開いたままのコクピットハッチに飛び移りパイロットシートにドスン、と体重を掛けて座り込んだ。
「さて、試行運転と行きますかね」
「まてーっ!」
モビルスーツの足元で少女が両手を力一杯振って騒いでいる。
その反応に笑みを浮かべ、ふふ、わんぱくだわぁ、とサイドボードのパネルを操作。
ゴゥン、プシューッとコクピットハッチが閉じ、排気音が重なる。
ピッ、ピッと電子音。低光量のコクピット内でサイドボードにあるパネルを操作。
少しばかりの振動と唸り声。核融合炉が発動機を通じて目覚めるのだと教えてくれる。
ブゥンと前面モニター、側面モニターと続いてサブモニターに電力が供給。
待機モードからアイドリングに機体状況が変化。各計器にも表示が灯る。
メインコンソールが入力可能になり、前面モニターにモビルスーツの立体モデル、サブモニターに機体の各部パラメーター、搭載兵装の情報が表れ機体の小さな電子音の後に自己診断が開始。
前面モニターに流れる診断結果「問題なし」の項目に視線を走らせ、内一つで止めた。
「うん? なんだこの、ブースターって」
〈MS-06G、
自己診断が完了し、女性の声を模した機械音声が流れる。
メルティエは考える間もなく外部スピーカーをオンに設定。
「メイ、メイ・カーウィン。其処に居るんだろう?」
『ん? なにさっ』
前面モニターの隅にウィンドウが開き、顔を膨らませたメイが映る。
モビルスーツデッキの管制モニター前に移動していたらしい。格納庫ハッチを開けようとしてくれたのだろうか。だとしたら先ほどの悪戯は謝るべきか、と胸中で悩む。
「俺のモビルスーツに何を付けた、そして何故この機械音声が設定
『あー。それを説明しようとしたら走ってったんじゃんか!』
「嘘を付け。お前俺に背を向けて行こうとしたじゃないか」
『あ、あれは歩きながら説明しようかと』
「…うん、まぁ、俺が悪かったよ。すまんが、説明頼めるか?」
目、泳いでんぞ。と言ってやりたかった、が話が進まないのでメルティエから折れる事にする。
モビルスーツの慣熟機動とはいえ、部隊の皆が作戦行動に出ているのだ。自分がここでもたもたと時間を食うわけにはいかない。
『…仕方ないなぁ、教えてあげよう』
にこやかに人差し指をぴっと立てて、やれやれだぜ、と目を伏せるメイ。
小さく体を震わす男の口角が上方七十度に上がったが、少女は気づかない。
「隊長さんのは陸戦高機動型。シーマ少佐と同じタイプのモビルスーツ、ここまではいいね?」
「…ああ。型式も同じだしな」
『これは隊長さんが以前乗ってた改修ザクを参考にしてるんだ。でも追加パーツとか足回りの形状が異なるからオーダーメイド品過ぎるの。グフよりザクの方が安価だし、キャリフォルニア・ベースの生産ラインもザクが主体だからね。高い頻度で機体の関節を壊すような人に高価なグフを回す、なんて勿体無い事しないしない。互換性が高くて、共有パーツが多いザクで新しく設計する事にしたって事。理解できるかな?」
「うんうん…イラッとしたけどな」
『短気な人はモテないよー』
「へいへい…それで?」
『MS-06Jを母体にバーニア増設とグフの装甲を一部追加。今までの運用データと集積した
「うんうん、それで」
『真面目に聞く! んもぅ…それで陸戦高機動型が出来上がったんだけどさ。試験運用に隊長さんとシーマ少佐、二機用意してもらったんだけど』
「シーマ少佐もパイロット能力が高い、と聞いているしな」
『そうそう。シーマ少佐にはMS-06Gの性能を引き出して、エースパイロット用に仕上げてもらうんだ。操縦に癖が強すぎて個人データにしかならない人とは違って頼りになる人だよ、ほんっっっっとうにっ』
「うんうん、非道い話もあったもんだ」
肩を竦めてやると、
『…ふふ、くふふ』
怪しい笑い声が響いた。
「おい、どうした?」
『それでさ、最初の話に戻るんだけど。同じようにトライアルしたって
「うんうん…うん?」
『脚部にサブバーニア。腰部にもサブバーニア。追加で後付けのブースターを付けたらどう動いてくれるのかな、って』
「おい、それって機体が捻れて壊れないか?」
『シミュレーター上では問題なかったよ』
「実際に動かしてないのか。まぁ、仕方ないか」
『仕方ないよね。ロイドさんと創作意欲が出てきて、
「待て。それはシュミレーターで確認したのか?」
『…くふふ』
「ちょっとその笑い止めてくれませんかねぇ」
『あ、それで音声の件だけど』
「スルーかよ、こっちは命かかってんだぞ…」
『余分にサブバーニアと追加でブースター付けたからシステムダウンしちゃってさ。追加増設した分頭が大きくなってるんだ。それで増設した分メモリーも多少余ってね』
「頭が良いのか、悪いのか…判断に困るな」
『キコエナイナー。それで、音声はねー隊長さんの私物から適当に見繕ったんだ。許可取りにいったよね』
「んん? そんな事…あっ」
休暇の日にハンスと朝まで飲んでその翌日、確かにメイが
頭が回らないから、適当に私物を見て良いとも許可を出した。
私物をがっつり持って行かれた事に閉口したが、まさか。
『中のデータ見てたらさぁ、憲兵さん呼ばなきゃいけないものもあったんだよねー』
(何選んでんだ、この十四歳。いや、俺か。俺が悪いのか!?)
紛れて居るかもしれない可能性に冷や汗が。
主に成人を迎えていない人には見せてはいけないものである。
だが待って欲しい。違法なものは所持していない。
「いや、アレ合法だから」
『え。そうなの、アレが』
―――気が逸れた、今が好機と見る。
「記憶があやふやだから不思議がったが、よくもまぁ音声抽出できたな。素直にすごいと思うよ」
『えっ。あ、そうでしょ!』
管制前でアタフタしている少女、顔が赤い事は気にしない。
褒めながら話を打ち切り、メインコンソールに入力。パシュ、と作業アームが外され解放されたモビルスーツを格納庫ハッチまで歩かせる。
「格納庫ハッチ開けてくれ。そろそろ出る」
『了解、問題はないと思うけど気をつけてね』
応、と言葉を返して開かれたハッチを越えギャロップの進行方向に入らないように飛び上がる。
メインスラスターのみで機体を浮かし、続いてサブスラスターの”推し心地”を確かめる。
ギュン、ギュン、ゴウッ、ドウッと暗礁宙域での戦闘を思い出しながらメインスラスター、サブスラスター、アポジモーターを起動させあの時、あの場所での高速機動を大気圏内で再現。
〈スラスター稼働率八〇パーセント、留意してください〉
AIが注意を促してくる。
目で見る暇がない場合にはこの音声が役に立つが、戦闘中だと聞き取れるだろうか。
いや。多分、聞き取れるだろう。
追加ブースターを起動。
ドンッと今までにない加速と衝撃、続く圧迫が体を襲う。
〈エネルギーゲイン、安定域から下降中。回復を提言します〉
思い出の中の声が、その声の持ち主を連想させる。
(アルテイシアは。兄が死んだ後、どこで過ごしているのだろう)
ザムッ、と地上に降り立ったモビルスーツの中で、メルティエは妹分の顔を思い出す。
AIに付与された音声。
アルテイシア・ソム・ダイクン―――セイラ・マスの声はキャスバル・レム・ダイクンを失った時の喪失感をメルティエ・イクスに与える。
ピッ、ピッと計器類の規則正しい電子音が、コクピット内に時の流れを告げていった。
「へぇ、やるじゃないか」
陸戦高機動型ザクIIのコクピット。
宇宙空間で慣れた感覚が時折邪魔をするが空中で、地上での高速機動を難なく行いシーマ・ガラハウは荒野の地にモビルスーツの足跡を残す。
部下たちもある程度は上と勝手が違うことを知ったのか、体勢を崩すような事は無くなった。
サブモニターのミニマップは続々と高熱源反応、識別反応、友軍表示と忙しく切り替わる。
三機のフォーメーションが上手い―――恐らく個人も相当な技量―――遣り手が混ざっている事を早々に察知した彼女は、しばらく三機のザクを注視していた。
エース小隊として名高い”黒い三連星”と出会った事もその戦闘技術を披露された事も無かったから比べる事は出来ないが、今までシーマ自身がみてきた中では最上に彼らは入るだろう。並んで攻撃等は誰でも出来る事だが、其処に地形に合った機体の動き、制御を挟み視点を次々と変えて把握しながら進む事等は熟練したパイロットでも容易くはない。むしろ難しい。得てしてモビルスーツパイロットは個人プレイに走りたがる。
エースパイロットというのはそれが顕著だろう。突出して暴れるから誰の目からも注目されるし、覚えが良いのだ。被害を被ったらタダでは済まないが。
あのザクII、三機の動きはパイロットというよりも兵士、歩兵に近い動き方。
呼吸の取り方、進むタイミング、待つ姿勢等。彼ら三機の動きは正にそれ。
「いいねぇ。歴戦って感じがするよ」
厚い信頼、背中を任せる信用が無ければ、こうはできまい。
それも高い技量を土台にした上で、である。
これから同じ部隊の人間。
それが有力者だと知れば自然と笑みを浮かぶというもの。
少しちょっかいをかけて遊びたくもなるが、配属間も無く問題を起こすのは不味いだろう。
演習などの訓練も入るであろうし、お楽しみは取っておくタイプでもある。
「ん。あれかい」
新型機、青いグフが蒼と緑のザク・デザートタイプを僚機に進む。
何かを相手に見立てているのか、ヒートサーベルと専用シールドを使った攻撃を繰り出している。
モビルスーツを相手にしてるのか、演舞のようにグフが大地の上で躍動する。
スラスター、アポジモーターを多用した動き。
格闘センスが高い。
あれも有望株だ。覚えておこう。
僚機のデザートザクは森林に身を置きながら周囲を警戒、いつ気づいたのかシーマの方に一二〇ミリマシンガンを持った右腕を掲げる。
同じように武器を持った手で返すと、そのまま森林の中を進んでいく。
生い茂り、入り乱れた森林。
ぶつかった音や、木を押し倒す音も聞こえない。
モビルスーツの足音だけが聞こえる。
それだけ丁寧、正確な操作ができるという事。
グフのような激しい動きは見せないが、あのデザートザクに乗る人間も中々にやる。
そうでなければメルティエの、部隊長機の僚機に選ばれないだろう。
「面白い人材が多い」
ザクIIのモノアイを横に滑らせれば、珍しいスナイパータイプとキャノンタイプ。
荒野に砲弾を撃ち込んでいるキャノンタイプの砲撃、スナイパータイプがそれを観測しているのか横に並んでいる。
転がっている大岩やら、森林の中に空いた場所を目標にしているようだ。しかし様子を見ていると精度にまだ荒いものがある。
スナイパータイプが射撃姿勢を取ることはないようで、観測に徹している。
―――そして爆音。
びくり、とモノアイをそちらの方へ向ける。
キャノンタイプの射撃による音ではない。位置が違う。
其処に居たモビルスーツの発する音。
蒼いザク。
ミニマップに映るのは自分と同じ陸戦高機動型、MS-06Gの名称。
しかし、長物のブレードアンテナに後ろに肥大化した兜のような頭部。脚部に補助推進用のサブバーニア、空中で飛行すると背後が見え、腰部のアーマー下に更にサブバーニアが覗く。両肩には防御シールド―――だけではない、その下に
自分自身も機体速度、反応する追従性を気にする質だが。
「ありゃあ、パイロットが死んじまうんじゃないのかい」
それか機体が折れる。
純粋な心配を、蒼いザクとそのパイロットに送ってしまった。
それぐらい無茶な動きと性能を秘めている。
「―――あははっ、面白そうな男だね! 退屈はしそうにない」
ザムッ、と地上に降り立った蒼いザクII。
高速機動を終えて着地したシーマのザクIIよりも静かに、だ。
その後も蒼いザクIIが再び空に上がるのを見守っていたが。
「調子でも悪くなったのかね」
待ち続け、ふぅと息を吐く。
それでもシーマは待ったが、蒼いモビルスーツは空に顔を向けたまま、飛び上がることはなかった。
閲覧ありがとうございます。
作者です。ご機嫌如何。
戦場ではないのでセンチメタリズムに浸る事があっても許される、多分。
今だに全容を明かさない”ネメア”(風呂敷広げたら作者死んじゃうでしょ!)
メルティエは「グフもったいない」といぢめられてしまう。
しかし用意された機体は…!?
おい、コストかかってんよ。おい(脱兎する作者)
いやぁ、ひどい事件だった。
外伝の話は難航中です。八月中に出せればいいな…。
拙作ですが、楽しんでもらえれば幸いです。
誤字連絡・感想・メッセージお待ちしていますぞ。
では、次話をお待ちください!