ガンダム戦記 side:Zeon   作:上代

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外伝:学ぶ若人の先

『はい、ここで減点な』

 コックピット内に響く声に、リオ・スタンウェイは動きを止めた。

 彼はMS-06F、ザクIIF型に搭乗し、バイコヌール宇宙基地の滑走路に出ていた。

 馴れない地上では実地訓練が必要不可欠、と考えたメルティエ・イクスを教官に指導を受けている最中だ。

「今の、悪かったですか」

 汗で額に張り付いた藍色の髪を手の甲で払い、小さく息を吐きながら通信回線を開く。

 前面モニター上にウィンドウが開かれ、黒髪に灰色が掛かった青年が映る。

『着地する時、ザクIIの足が僅かに下がった。バランスはどうなっている?』

 彼はオートバイにローダーを取り付けたような形状の小型攻撃機、ワッパを運転しザクIIの正面で停める。軍服の上にあるマントが風で踊る中、ヘッドギア型の通信機からリオに問い掛けた。

「あ、着地する時に前に流れるようになってます」

 サイドボードのパネルを叩き、設定一覧をモニター上に表示。

 構築されたザクIIの立体モデルが、着地するときに前へ流れるようなモーションを描く。少佐が指摘する通り足が僅かに下がった分、前へ機体が倒れるように流れていた。

宇宙(そら)で戦う時は、そのままで良い。機体が前に出る分、加速が付き易いからな。だが今現在、俺たちは地上に居る。重力に引かれて機体が転倒しやすくなっているわけだ、修正しておかないと派手に転ぶぞ』

「わ、わかりました。すぐに直します」

 メインコンソール上に指を広げ、キーを叩き始めるが。

『待て、リオ!』

 ザクIIの収音マイクが、慌てた声音を拾う。

「はい? あ、わぁ!?」

 不意に外界を映すモニターがブレ、地上が迫る。

『操縦桿を一段階前へ。他は何も動かさなくて良い、フットペダルから足を離せ!』

「は、はい!」

 操縦桿を前へすっと押し込むと、モニターにザクIIの両腕が現れ、地上に手を置く。

 ガクン、と振動がコクピットを揺さぶった。

 が、それだけで他には何も訪れず、機器の正常な電子音が聞こえるだけだ。

 ゆっくりとフットペダルから足を離し、操縦桿を握る手の力を抜く。ドクン、ドクンと脈打つ鼓動に促されて、胸一杯に呼吸を繰り返した。

『落ち着いたか?』

 十秒ほど置いて、少佐から声が届く。

 モニターを見れば、ワッパを寄せて見上げる青年が映る。

 風に吹かれ乱れる灰色混じりの黒髪、その下にある灰色の双眸が画面越しにリオを射抜く。

 びくり、とモビルスーツ操縦を習った場所で受けた”教育的指導”という名の暴力を浴びた経験を痛みと共に思い出し、リオは体を縮こませた。

 稽古場と称された其処では小さなミスでも殴られ、罵倒される。

 二度とさせないように覚え込ませるため、と言っていた。それは方便で肉体的、精神的苦痛を与えることに快楽を覚える野郎だと共に習った子は言っていた。その子は他の習う教習生よりも細かく見られ、事ある毎に”教育的指導”を受けさせられていた。

 リオも頬を張られ、身体を殴打されたこともある。心無い言葉で悔し涙を流した日もあった。

 その場所から逃げたい一心で、貪欲に技術を磨いたとも言える。

『コックピットハッチを開けろ』

 動きが硬くなる。

 彼も、そうなのだろうか。

 しかし、遅れれば遅れた分、非道い事をされるのは身体が覚えていた。

 手順に従って、ザクIIは乗り手を外気に晒す。

『外に出ろ』

 指示に従い、ハッチの縁に手を掛け外に出た。

 そうして、

「――――わっ!?」

 傾斜している分、リオの体が前に倒れる。

 慌てて手を伸ばすが、ただ空を切るだけ。

 一瞬の浮遊感、続いて下へ引き寄せられる感覚。

(あ、落下しちゃった) 

 呆然とコックピットに視線を向けながら、しかし冷静に現実を受け入れた。

 下へ下へと引きづられ、見えない鎖に束縛されながら、少年は青い空を見上げる形になった。

「よいしょっ、と」

 そんな彼に小さなエンジン音が迫り、胴に衝撃が入る。

「あぐっ」

 それは殴られた時に比べれば痛みもなく、リオの体重を吸収するように迎えてくれた。

「あ、あれ?」

「すまん、まさかそのまま落ちるとは思わなくてな……ある意味、身を以て体験したから良しとしてくれ。まだ生身でも宇宙に居る時の癖が抜けないんだ。モビルスーツの挙動が上手く行かないのも当然だろう。焦らず慣らしていけ」

 片腕一本でリオを抱える青年は、危なげなくワッパを地上に降ろしザクIIの側面に回る。

「今のザクII、その姿勢を見ておくんだ。前に体が流れると言うこと。どうすれば重心が安定し重力圏内でどっしりとした構えができるかを考えろ」

 地面にへたり込みながら、リオはザクIIの姿を視界に収めた。

「わわっ」

 ぐい、と下に視点がずれる。頭の上を何かが押したからだ。

「しょ、少佐?」

 目を向けると、わしゃわしゃと柔らかい髪を乱しながら、メルティエは笑っていた。

 そこに嘲りはなく、温かさがあった。

「俺に見せてくれ。地上でもやれるってところをさ」

 恐怖心を煽らない穏やかな彼の瞳に、期待をされているのだと、リオは改めて気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううん。まだ動きが、似てない」

 リオはモビルスーツハンガーで愛機の設定修正を終えると、通路に出た。

 あれから二週間も経過していないが、中部アジアから北米大陸に移り、リオも階級が上がっている。

 怒涛の日々であり、疲労も蓄積しつつあった。

 戦場で劣悪な場所を走り抜けたりもしたが、先頭には必ず技巧者で知られるアンリエッタ・ジーベル大尉が居り、彼女から移動のポイントを教えてもらってクリアしている。

 作戦も問題なくこなせてはいる、が満足はできていなかった。

「あ、ハンス兄さん。コルト大尉」

「ん? リオじゃねぇか。どうした」

「おや、スタンウェイ曹長ですか。調整は終えたようですね」

 キャリフォルニア・ベースの兵器試験実験場でモビルスーツの武器を試用していた二人を見つけ、恐る恐る声を掛けた。

 其処に居たのはハンス・ロックフィールド少尉、ロイド・コルト技術大尉。

 二人が試験しているのは新規格の狙撃長銃(スナイパーライフル)

 銃身を作業アームで交換、固定後に試射。貫通力と命中した際に生じる運動量で射程距離を割り出しているらしい。もっとも、現場の風速や気温に左右されるので、目安程度と割り切っている。ただ、今後必要なデータなのでサンプリングする価値があるとの事。

 スナイパーライフルを搭載する機体にはMS-05B、ザクIが用いられ、銃身の架台も機体構造に即した形を取られている。部隊内でこの兵装を扱う機体がハンスのモビルスーツであるから、当然ではあった。

 ハンスの愛機を組立、要望に応えて作り上げた狙撃用ザクIはロイドの手に依るものだ。完成度が高かったこと、遠距離からの狙撃を可能とした戦術優位性を認められた為に型番を用意され、このキャリフォルニア・ベースのモビルスーツ工廠でもハンス機を基にしたMS-05L、ザクI・スナイパータイプが生産ラインに挙げられている。

 これには補給任務、第二線に落とされたザクIが長距離狙撃機となって戦線に加わることで、愛用していた古参兵は元より、ジオン軍上層部にも大いに喜ばれた。

 稼働時間はさほど変わらないが、冷却問題の改善と増設された小型ジェネレーターによる機動力向上を評価、既存のMS-05Bにも同様の処置が施された。現行機も改修できるよう改造パックが用意され、配布予定だ。

 試験が一段落し、休憩を取っていた二人へ相談内容を説明すると。

「はぁ、なるほどねぇ。大将も随分まどろっこしいことしてるな」

「そうですかね。私はきちんとした人材育成をしている、と受け取りましたが」

 腕を組むハンスが感想を述べ、ロイドが異を唱えた。

「わぁってるさ。思考を止めるなって事だろう。言われた事をこなすだけじゃ、トラブルに巻き込まれた時に対処できないからな」

「そういう事です。答えを明かしてしまうのは簡単ですが、彼のためにもなりません。まずはモビルスーツと”対話”をすることが必要ですね」

「”対話”、ですか?」

 二人の頼れる大人が少年に視線を向ける。

 小さく頷き、眼鏡を押し上げながらロイドがアドバイスを贈る。

「そうです。モビルスーツの動きを受け、知り、感じる事。パイロットの癖を伝え、学ばせ、覚えさせる事を”対話”と言います。一つのコミュニケーションですね」

「こいつはどういう動きが得意で、何が不得手なのか。(センサー)が良いのか、(レーダー)が良いのかってな。んで、機体と自分の操作に合ったモーションを決めていくわけだ」

「えと、ハンス兄さんはどうやってるの?」 

 リオが兄と慕う狙撃手は腕を組み悩む素振りを見せたが、キャラじゃないと首を振って笑う。

「何事も地道なもんだ。歩いて走って、飛んで跳ねて、できる限り想像を膨らませるんだ。どんな体勢でも撃つ、当ててやるってな」

「いえ、それでどんな状況でも当ててくる人は貴方くらいなものですよ、ハンス」

「当てられる状況じゃなきゃ撃たないだけだ。割りと撃てる状況を想定して組み立ててるんでな、()()()は」

「聞いたでしょう、スタンウェイ曹長。天才と変態は紙一重、という奴です」

「あはは……でも、それ言葉違うと思います」

「そうですか? 真実だと思いますが。実際、同じような人が二人以上居る部隊ですし」

「んー? 大将は当然入っているとして、後は。エスメラルダくらいか?」

 本人が聞いたら、顎を破砕されそうな事を彼は言う。

「イクス中佐は当然、ですねぇ。色々と規格外です」

「負けるとは思いたくねぇが、勝てるイメージが湧かねぇしな」

 背丈が近い二人が仲良く笑う。

 彼を認めているのだろう、でなければ朗らかに評する事も難しい。

「ま、大将の事は置いておくとして。注意すべき点は二つだ」

「え。二つだけ守れればいいの?」

 ハンスは指を二つ振り、リオは意外と簡単かもと鵜呑みにした。

「一つ、最適な動作を正確にプログラム化、機体に記憶させる事。二つ、同じ動作、似たようなものは消す事。だ。簡単に思えるか、これが」

「……ごめんなさい、難しいよ。少しでも似通ってたら誤操作する、そういう事だね」

 ハンスが打って変わった調子で訊ねれば、リオはその冷え切った声に反省して答えた。

 行動に秒間、思考でコンマの世界を戦う中で膨大なモーションをCOMに記憶させていたらどうなるか。

 COMの内にあるプログラムを取捨選択し続けた刹那の時間だけ、行動が遅れるのだ。

 戦場では、僅かな遅れが命取りになる。

 その中で機体を自動制御で動かす事は利便性も高く、複雑な操作を省いた分だけ誤操作を潰せると思うであろうが、実際は異なる。

 リアルタイムで地形情報、機体状況をシステムにフィードバック。登録されたデータを読み込み、パイロットの操作をOSが解釈しメイン、サブCOMに指令を送り機体制御を執り行うのだ。

 臨機応変に機体が可動する分、その情報処理にOSが追われることになる。各モビルスーツのCOMには一定量のモーションを登録できるが、その登録数が少なければ少なくなるほど処理が早いのは当然の事。しかし、登録数が少なければその時にマッチしない動作が行われてしまい、体勢を崩す事も有りうるのだ。

 逆も然り。

 似たようなモーションが重なれば理想とする動きから離れたり、最悪は動作硬直(フリーズ)も有り得る。

 こういった経緯で、パイロットは自前のデータを複数所持するのが通例となっている。

 収集した戦地情報次第でデータを交換、インストールする人間も少なくない。優秀なパイロットが地形把握に優れ、プログラマーにも適性があるのはこのような理由が存在している為である。

 故に、少ないデータ。あるいは膨大なデータをインストールしたまま、直接入力で機体を制御するパイロットはかなり異質である。

 コマンド形式で装備を変更、特殊行動を採るような操作もあるが、機体制御で直接入力をこなす人間は当部隊の指揮官やほんの一部のものだろう。

 現在は幅広い動作を有し、細部が異なるソフトウェアも開発されてはいるが、規格や仕様の違いから満足に機能しない事が多くOS、COMの共有化、共通したプログラムを望まれている。

「休憩したら、自分で自分の動きを良く観察してみろ。案外身近にあるもんだぜ」

「幸いにも、パイロット層が厚い基地です。訓練や意見交換等で客観的に見るのも重要ですよ」

 年長者二人の励ましに礼を返し、実験場を去る小柄な背。

「さて、我々も仕事に精を出しますかね」

「そうだな。早いとこ組立ちまおう。実戦で使う日も近いしな」

 コンソールに向かい、表示される数値を睨み、実射を再度行う。

 廃棄処分となったザクIIの腕パーツに、亜音速で飛来した弾丸が穴を開け、続いて内部が大きく爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ど、どうですか?』

 リオはノーマルスーツを着込み、再びザクIIに搭乗していた。

 前回とは違って、下に居るのはメルティエではない。

「動きが硬いな。まずは、関節部分を活かす動きを覚えることから始めよう」

 無線機を片手に、ホバートラックの上で評価しているのはケン・ビーダーシュタット少尉。

 一人モビルスーツのシミュレーションをしているリオを見つけ、実地で教えるのも手だと教官役を買って出たのだ。素直な反応に応援したくなった、という気持ちも多分にある。

「普通に見てる分には問題ないんだが、志が高い坊主だなぁ」

 車輌に背を預け、一般兵程度なら問題ないと採点するのはガースキー・ジノビエフ曹長。

 彼もケンと同様でサイド3に妻子を残している。宇宙と地上を往復する輸送隊に、彼が家族宛ての手紙や品物を紛れ込ませているのは周知の事実である。

 子供と年齢が近い事もあって、リオの訓練を眺めることには苦痛はない。良くやっているとさえ思ってもいた。

 調子の乗るといけないので、間違えても口には出さないが。

「まぁ、努力は認めるさ」

 鼻を鳴らしながら言うのは、ジェイク・ガンス軍曹。

 上から目線なので煽っているように感じられるが、残念ながら素である。

 話を聞き、短期間で習熟した訓練と技量を認めてはいるので、彼なりに応援をしているのだ。

 言い方が不器用なので、大抵は煙たがられてしまうのだが。

 一度膝を突き、動きを停めたザクIIが一分後に立ち上がる。

「お、いいんじゃないか。足を着地させた時、さっきよりも膝関節部に負担をかけず、上体も沈めてる。平地では十分な走り方だ」

 密かに機体状況を繋いでいたケンが、教習生となったリオを褒める。

「良い足捌きだ。これで劣悪な斜面、森の中を動ければ言うことがないねぇ」

 ガースキーも同様だ。次のステップには行かないのか、と促してさえいる。

「水の中、湖面も戦場にはある。足を取られやすいからな。やっておいて損はないぞ」

 アドバイスがジェイクの口から出た。

 思わずケンとガースキーがまじまじと彼を見つめ、からかうのは後にしようと決めた。

『キャリフォルニア・ベース周辺は割と平坦な地形ですけど、すぐ近くに山岳地帯がありましたね』

 教習生もやる気十分だ。

 しかし、今は待機中。連邦軍が攻めてくる可能性は低いが、用心のため此処に居る。

「やる気が出ていて頼もしいが、イクス中佐から許可を頂いていないのだろう? 勝手な出撃は懲罰対象だ、止めておけ」

 数度言葉を交わしただけであったので、メルティエ・イクスという若い将校の事は情報媒体や噂話でしか知らないが、身勝手な行動を許容する上官ではないだろう。

「隊長、俺たちも哨戒任務があります。ここら辺で戻りましょうや」

「敵の後退ルートを追跡、防衛ラインの特定だったか」

「面倒な任務だ。ルッグンあたりを飛ばせれば済むことじゃないか」

「そのルッグンが撃墜されたそうだ。モビルスーツでの威力偵察になるだろう」

 三人は受けた任務に辟易とするが、身分を理解している故に自分たちのスペースへ戻ろうとし、

「あ、あのっ!」

 ザクIIのコクピットハッチが開き、慌てて小柄なパイロットが出てきたので、何事かと目を細めた。

「あ……ありがとうございましたっ」

 大きく頭を下げた少年兵に、三人は顔を見合わせた。

「構わない。次の機会があったら、また教えよう」

「気にするなよ。良い動きしてたぜ、坊主」

「感覚を忘れるな。言いたい事はそれだけだ」

 三者が一言述べ、去っていく姿にリオは敬礼で見送った。

 外人部隊と呼ばれる彼らが第168特務攻撃中隊と会い、共同戦線を張るのはこの数日後の事であった。

 その際に橋渡しとなったのがリオであり、意外な人脈だとハンスに言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「通信設備の埋設、センサー機器の設置、ご苦労だった。山岳地帯でも動けたそうじゃないか」

 蒼いモビルスーツから降りたメルティエが、下で待つリオに労いの言葉を掛けた。

 基地周辺の地形情報を得るために、出撃していたのだ。

 部隊共有データから抽出すれば早いのだが、ナマの情報を大事としている分、問題がなければ彼はこうして現地へ足を運ぶ。

 データ信用云々の話ではなく、彼の在り方となっているので口煩く言う者は少ない。

「はい、コツを少しずつ掴めてきました」

「そいつは重畳。動き一つで生死が分たれる事が多い、これからも精進しろ。ってな?」

 真面目な顔から一点、軽く笑い飛ばす。

「中佐のグフは、問題なく?」

「今のところはな。中東アジアで損傷した肩周りの具合も良くなった、支障はないだろう。ロイドと整備兵の皆に感謝だな」

 彼が手を振れば、整備兵たちが敬礼や笑顔で返す。

「中佐殿ぉ、今度は機体を壊さないで御帰還願います!」

「徹夜で熱持った機体を弄るのは苦痛であります!」

「中佐の機体だけ、整備に時間掛かるので、尚辛いであります!」

「はいはい、俺が悪かったよ。次もご期待に沿ってやる。絶対だ!」

 寄せられた声援に彼が応えれば、ブーイングを声高に上げる整備兵たち。

 慕われ信頼を得ていなければ、こうも軽いやり取りはできない。

 厳格な部隊では口答え一つで懲罰を受けるそうだ。

 今だけを見れば、規律が緩い部隊と思われるだろう。

「みなさん。いつも真面目なのに、中佐が居るとこうなりますね」

 バイコヌール宇宙基地攻略を皮切りに各戦線を走り抜けた彼らは、ロイド大尉の指揮の下、被弾したモビルスーツを何度も万全の状態で戦場へ送った技術者たちだ。

 今は中佐が矢面で被弾する事が多いので、中佐専用の整備チームと化していた。

「余暇があるから口数も多くなるんだろう。キャリフォルニア・ベースが本格稼働したら、うちも忙しくなる。それに、もう次の任務だ」

「あ、皆さんをミーティングルームに呼びますね」

「おう、頼む。――――リオ!」

 走り通路の奥に消えそうになった少年が振り返る。

「働きに期待しているぞ!」

「――――はいっ!」

 右手を振り上げ、歳に見合った姿を見せたリオに、メルティエは満足げに微笑んだ。

 この後、リオは山岳地帯の戦いで鹵獲ザクを単機撃破する活躍を見せ、補充員から一戦力として見直されることになる。

 戦闘展開がとある佐官に似ている事から大いに危ぶまれたが、本人が後に砲撃タイプの支援機に登場するようになり、一時棚上げとなった。

 共同で作戦に当たった外人部隊がメルティエを援護、敵部隊を切り裂く光景に感情を宿し貪欲に操作技術を吸収し始める事になるのだが、それはまた別の機会に語ろう。

 

 

 

 

 

 尚、リオ・スタンウェイがメルティエ・イクスの男娼という流言がキャリフォルニア・ベースを激震させるが、これはとある女子の世迷言であり、同基地の最高責任者ガルマ・ザビが戯れ言とバッサリ切り捨てた事から基地外に拡散する前に鎮圧された。

 メルティエが遺憾の意を上げ、リオも否認している事から事実無根の話だとされている。

 流言元の女子は人事異動に加え、不要な諍いをもたらしたと罰せられた。

 後日、この話をネタに嘲弄した部隊員が軒並み昏倒させられた珍事が発生。

 口火を切った数人以外後遺症がない為、上官侮辱罪に当たる懲罰として処理された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございます。
上代です。ご機嫌如何。

外伝、やっと一つ終えた。
バイコヌール攻略後、キャリフォルニア・ベース移動後と間を開けての回です。
降下後隊長機損傷で待機してから、ずっと作戦行動しっぱなしだったから話挟む余裕なかったわ。

主人公たちが行動している分、変に噛ませると問題起きそうで怖いしね……チカタナイ。
最後にオチも付け足し、いい話が出来た――――ハズ。
執筆を並行する本編と次外伝をお待ちください。






さて、スピードワゴンはクールに去るぜ!


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