ガンダム戦記 side:Zeon   作:上代

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第04話:ザク(後編)

「しばし待て」

 

「は!」

 

 将官の身でありながらヘルメットを被り、常に顔の下半分をマスクで隠す女性。

 彼女の為に設えた執務室には、上流階級の者と会談する為に設けられた上質の調度品がその品格を失わず其処彼処に存在しており、彼女の前で直立不動の姿勢を保つメルティエ・イクスにとって、住む世界が異なる人物だと、強く意識させた。

 

 素早く書類に目を通し、その動きに劣らぬ早さでしなやかな指先が備え付けのPCを操作。

 問題が見当たらない事を確認した上で裁決を進めていく。

 積み重なった書類、鈍器にも使えるだろう厚みがあるそれが徐々に目減りして行き、最後の一枚が彼女の手で空間を凪ぎ、滞り無く裁決が済まされた。

 

 不躾ながら、視線で追っていたメルティエは彼女がふっ、と吐いた息で慌てて天井に戻した。

 

「なってないな、大尉」

 

 マスク越しからでも、すっと耳に入る声。

 

「女の動きをいちいち目で追うとは」

 

「も、申し訳ありません。閣下」

 

 気付かれていた。

 

 内心で冷や汗を滝の様に流し、直立の姿勢がより強化される。

 

「なに、冗談だ。見ても面白くなかろうに」

 

「い、いえ、綺麗な所作で――あっ!?」

 

 しでかした、と後悔する。恐る恐る視線を下げてみる。

 対面した女性は僅かに目を見開き、しかし珍獣を見るようにメルティエを眺めた。

 

「世辞か、正直者か。判断に困るな、大尉」

 

「平に、平にご容赦願います、閣下」

 

 空調が効いた室内で汗塗れの若い男に、喉奥で笑う。

 細められた青い瞳は幾分冷たさが強いが、不思議と嫌悪感は覚えなかった。

 

 彼女はキシリア・ザビ少将。

 ザビ家内で発言力が長男ギレン・ザビ大将に次、階級差があれども三男ドズル・ザビ中将と真っ向から対立した女傑。政治・軍事関係にも手腕が発揮され、モビルスーツ開発による軍備拡充を推進している人物でもある。

 

「さて、大尉。しばし興じたいところであるが、建設的な話し合いをしようじゃないか」

 

 ――来た。

 

 メルティエが今この場所に居るのは先日の所属部隊転籍通知にある。

 概要だけを述べれば、突撃機動軍第168特務攻撃中隊の隊長に任ずる。というもの。

 突撃機動軍はキシリア少将麾下の軍。

 メルティエは重鎮や名家の子弟といった後ろ盾がなく、養父にランバ・ラルといったダイクン派と目される人間であるし、彼を囲い込んでメリットがあるのだろうか。

 モビルスーツパイロットを一人でも多く抱え込みたい、そう望むのは何も彼女だけではない。

 ドズル中将麾下の宇宙攻撃軍も、先のルウム戦役で戦力が大きく低下している。

 

「此処に立つ、という事は届け物の中は()た。そう解釈するが?」

 

 如何に、と彼女は念を押す。

 

「はっ。確認しております」

 

「ならば良い。それで、答えが聞きたいな。大尉」

 

「謹んでお受け致します。が、小官に発言を許可して頂きたく」

 

 ほぉ、と眼を細め机の上で腕を組む。更に重圧が掛かったように思える。

 

「構わん。申せ」

 

「大変光栄な取り立てを受けましたが、小官には閣下から御厚意を承る理由が見つかりません。

 ただの一介のパイロットであり、中隊運用に必要なものが多く欠けております。

 許されるのであれば、閣下のお心をお聞かせ頂きたく」

 

 彼女は一つ頷くと、ギシリと椅子に背を預け、珍獣を観る目は先程とは異なる色彩を帯びた。

 

「貴様も知っていようが、我が軍の戦力は先の大戦で大きく疲弊した。

 此れはモビルスーツ(しか)り、パイロットも然りだ。戦力を早急に立て直せねばならん、連邦が息を吹き返す前に」

 

 下から見上げているのに、見下ろされている感覚にメルティエは陥る。

 これが眼力と言うべきものか、と喉を鳴らした。

 

「人材育成もまた急務。しかし、人はすぐに育たん、時間を掛けねばな。

 物資もそうだ。資源を基に精錬、加工し、組立て初めて()()となる。今は講和が成るかどうかの瀬戸際だ。ただし、成れども戦いが終わるとは限らない」

 

 戦争が長期に突入する事を示唆。メルティエは思うに講和は講和。降伏ではない。ならば戦争は続くだろうと、そう解釈した。

 

「大尉、私は無用な無能者が嫌いだ」

 

 目が合う。射抜くかのように鋭く、微動だとしない青い瞳。

 

「しかし、育つのであれば、役に立つならば手を惜しまない。貴様はパイロットとして腕が良いと聞いている。私も観たが、旧ザクにしては随分と、はしゃいでいたようだな」

 

 ぴくり、と反応する男を女は逃がさない。

 

「私に付け、大尉。人を使う事を学び、後進のパイロット育成、敵の資源基地攻略。やる事は幾らでもある。成果を上げれば()()()()報いることを確約してやる」

 

 貴様達に―――どこだ、どこまでを自分に近しいものと判別しているのか。

 養父のランバ・ラルまでか。彼が率いるラル隊までも入るのだろうか。

 

 メルティエは腹芸も出来ず、駆け引きにも疎い。この手の勝負事は昔から苦手だった。

 しかし、ここで受けねば自分には後がないように思える。

 

 キシリアは若い士官の葛藤が手に取るように解った。

 この手の遣り取りで彼女に勝てるのは、長兄ギレン・ザビのみである。

 若い男の考え等、他に作業を並行していてでも寸分違えず読み取る事が可能だ。

 その能力があるからこそ女性の身で軍部、その一組織の長が務まるのだから。

 

 だからこそ。目の前のパイロットに更なる揺さぶり、いや、餌を撒いてやる。

 

「試作モビルスーツの運用試験にも、貴様には役立ってもらう。返答せよ、大尉」

 

 優秀なパイロットは、自らが乗る機体に拡張する力の可能性を望む。

 モビルスーツは兵器として確立してからまだ若い。その伸び代に助成出来るのは乗り手として心惹かれるものが多分に強い。

 

 事実、メルティエは運用試験に携れる事に興味、関心を強めていた。

 過去を検分するに学生時代に大手企業に入ろうとしていた節があり、操縦系統を専攻していた事からテストパイロットを目指していた、とキシリアは推察していた。

 こうする事で相手に判り易いうまみをチラつかせ、引き込む。

 

 人、物、武器。

 何を求めているか、何を与えてくれるかをメルティエは幾ばくか理解できた。

 いや、理解したと思わせる事に成功させた、目の前の女性にさせられた。

 だが、彼は其処に大した問題を見出さず、答えを出した。

 

 結局は自分が出来る事、それを尽くすのみだ。

 今までも、そうやって生きて来た。

 だから、明日もそうやって生きていく。

 彼は道を作り出す事は苦手だ。

 だが、道を切り開く事は得意な方だ。

 

 そういう生き方しか、彼は見出してないのだから。

 

「メルティエ・イクス大尉。謹んで拝命を承ります」

 

「宜しい。今後の事は追って伝える。下がれ」

 

「はっ、失礼致します」

 

 キシリアも「おや」と思うほどの綺麗な敬礼。くるりと百八十度廻り、そのまま扉へ向かう。

 扉は閉じられ、去っていく若い士官。

 

 キシリアは机の引き出しからファイルを取り出す。

 その中に在るものは軍のデータバンクから入手したメルティエ・イクスの公式情報と、彼女独自のルート、諜報組織と言うべきキシリア機関で調べ上げた調査報告書だ。

 綿密な人物経歴を何度も確認し、一つだけ不自然に空白となった項目。

 任官、開戦までは文面が続くのに、一週間戦争に入る時期だけが無い。

 大尉が来る前に傍らに放り投げておいたファイルを手に捲り、とある人物の経歴に視線を滑らせれば彼女は「なるほど」と、平坦な声を空気に混ぜた。

 

「良い目をしていたな。私を落胆させるなよ、()()

 

 冷たいと男に感じさせた瞳。

 その視線を、自身が署名した書類に留めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 メルティエはその後に自室へと戻り、送られたキシリアからの届け物を受領。

 各事務局に渡り必要な手続きを済ませると、指定された場所へ移動していた。

 行き先はモビルスーツ工廠がある軍事ブロックである。

 

「随分と機嫌が良さそうだな」

 

「ん? そうかな?」

 

 移動途中でアンリエッタ・ジーベル中尉と出会い、最初は驚いていたようだが理由を話すと納得したようで、今から向かう場所にも興味が惹かれたのか同行している。

 

 彼女はよほど機嫌が良いらしく、まるで花が咲いたような綺麗な笑顔を周囲に振り撒いていた。

 通り過ぎる人、特に男は良く振り返る。ぽー、と見惚れているようだ。

 他所見しながら歩いていた男が(つまづ)いて転ぶ。

 

 呻いている様子から、地味に痛そうだ。

 

「まぁ、良いか」

 

「ふふっ」

 

 鼻歌でも流しそうな彼女の口は緩やかな弧を作り、そして(たま)にこちらを見やる。

 メルティエ・イクス()()は彼女の様子に苦笑を浮かべた。

 少佐を表す軍服は開封して一時間も経っておらず何処にも解れがなく、刺繍入りのマントは彼が足を運ぶ毎にゆらゆら揺れる。

 

 アンリエッタはこの出で立ちの彼を視界に収めてからというもの、喜色一面である。

 メルティエ以上に喜んでいたと言っても過言ではない。

 彼女は不当に彼を認めない国の在り方に疑念が生まれ、それが罷り通る周りと何時しか納得してしまう自分が悔しかった。

 ダイクン派とされるジンバ・ラルを実親とする、ランバ・ラル大尉の養子が彼である故に。

 世間のどの職種についてもザビ家が政敵を葬る事はサイド3で多少政治に詳しい者ならばそう憶測しない者は居ない。

 当人だけでなく一族郎党すら事故を装って亡き者にしようとした、等と噂の域を出ないが有力な話でもある。

 

 彼女の実家は所謂(いわゆる)名家である。ザビ家内の重鎮、名家の子弟ほどの発言力はないが発言を削ぐ、決定を遅らせる事は十分に可能だ。

 何か遭ったら最悪実家に頼ろうとすら考えていたが、メルティエは助力を拒むだろう。

 面子等の問題ではなく、咎が累を及ぼす事を恐れる。彼はそういう人間なのだ。

 アンリエッタが幼少期に知ったのは、人を人と思わない人間が跋扈(ばっこ)する政界。

 其処に恐怖しつつも慣れたから、人間臭く不器用に前を向こうとする彼が好ましく見えた。

 だからこそ、アンリエッタは一般的な職業に就こうとした彼を引き留め、説得した。

 一般人のままでは容易く始末される未来図、それが余りにも生々しかったからだ。

 在りもしない容疑で逮捕、処断する手口は古来より為政者の手でなされてきた。

 サイド3、ジオン公国は今やザビ家の独裁政治で回っている。

 彼らは反抗勢力の中でも取り分け、ダイクン派を目の敵にしているのだ。

 

 もし彼が軍の中で一角の人物になると不味いが、遠い辺境にでも左遷させられれば、退屈な余生を過ごす代わりに、死ぬリスクが低下する。

 前者、後者に関わらずに彼女は付いていく心算であった。ある種の覚悟を決めていたのだ。

 それでも就職先を探す彼に埒があかぬと士官学校に放り込み、彼の意に沿わぬ道筋を打ち立てて歩かせた。

 

 あの時はこれが最善だと思ったが、同時に咎でもあり罪悪感を引き摺っているのも確かだ。

 彼が嫌になって後方支援任務を嘆願したときは流石の彼女も焦った。

 だが一度戦場に立つと士官学校の教官のみならず、当時の上官やベテランと偉ぶっていた人間が彼の動きに目を剥き驚愕した事で、自分の判断は間違いではなかったと確信、正当化している(ところ)に悪女の片鱗をみせている。

 縁を結んでから十年の間柄で、彼女は最期まで彼の味方で在ろうと決めている。

 この事が彼にとって最大限の援護であり誰よりも感謝しているものだと、彼女の思いは至っていない。

 

 乙女は実感を得ないと満足しないのだ。

 

「さて、此処だな」

 

 通路を渡り終え、電子ロックされたパネルにコードを入力。

 シュッ、と空気が抜ける音を残して重厚な扉が開かれた。

 中に目を向ければ広い空間、其処にはモビルスーツが作業アームに固定されていた。

 失ったMS-05B、ザクIの、今や旧ザクと呼ばれるモビルスーツの後継機。

 

 それが五機。

 

「あっ」

 

 ビュオウ、と無重力空間が現れたことで外の大気が背中を押し、メルティエの後ろに居たアンリエッタの体が流される。

 慌てて足でブレーキを掛けるが、平均風速十メートル以上の力である。

 反射神経に自信が無いわけでもないが、咄嗟の事では逃げられない。

 

「む」

 

 体がぶつかり、前に押し出された格好のメルティエは反転すると彼女の手を取り、こちらに引き込んだ。

 

「えっと」

 

「少し掴まっていろ」

 

 腕の中で丸まった彼女にそう告げて、閉じられた扉を蹴り、工廠内の支柱、タラップの手摺を次々に足場にして佇むモビルスーツに向かう。

 

 MS-06F、ザクII。ジオン軍の誇る主力兵器だ。

 全長十七・五メートル、自重五六・二トン、全武装搭載が六七・一トンもの重量を秘めた物言わぬ人造の巨人。直線よりも曲線で構成された機体構造。

 頭部のモノアイレールには透明なカバーが取り付けられたまま、特徴的な動力伝達パイプが体の要所に設けられ、左肩には三本の刺付(スパイク)が、右肩には防御シールドが備わる。

 バーニア噴射口(フェルターノズル)、スラスター、アポジモーター共に汚れた跡がなく、剥げていない緑と黒の色分けは正に新品だ。

 最初の機体、その防御シールドには05とペイントされており、順に若い数字に代わる。

 

「これが俺達の新しい機体か」

 

 キシリアから送られ、第168特務攻撃中隊のために用意されたモビルスーツ。

 胸が熱くなる、とは正にこの事。

 期待されていると自惚れたい。そうでなくては最新鋭のモビルスーツを確保なぞしないだろう。

 02までペイントされた機体を眺め、

 

「これは」

 

 現われたのは最後の機体。

 メルティエの搭乗機だ。

 

 頭部には隊長機を示すブレードアンテナ。左肩のスパイクは取り払われており、代わりに設けられた両肩が防御シールドに変わっている。特に通常機とは異なるのは下半身、脚部だ。スラスターを増設したのだろう、曲線が更に緩やかに、肥大化している。

 そして、何よりも機体が()()

 ペイントもそうだ。右肩に01、左肩には「盾を背に咆哮する蒼い獅子」が描かれていた。

 

「お気に入りましたか」

 

 タラップの上から降り、惰性移動でこちらに近付く長身痩躯の男。

 肩まである黒髪、糸目に眼鏡を掛け、中尉の軍服を着ている。部屋に篭り研究をしている印象を持つ。あながち外れではないとメルティエは彼を眺めながら思った。

 

「失礼。突撃機動軍第168特務攻撃中隊に配属になります、ロイド・コルト技術中尉です」

 

「よろしく頼む、同部隊の隊長を仰せつかったメルティエ・イクス少佐だ。

 こちらはアンリエッタ・ジーベル中尉」

 

「宜しくお願いします、お二人方。

 しかし、少佐。出会って早々なのですが、今の状態は風紀によろしくないと」

 

「ん? ……おぉ!?」

 

 そういや、抱きかかえたまま――所謂お姫様抱っこ――だった。

 確かに、彼女を抱えていた腕と触れた胸辺りがいやに熱いなと感じていた。

 用意された機体に感無量で、視線の方に集中し過ぎた。

 

「すまん、アンリ」

 

「いや、大丈夫。大丈夫だから」

 

 謝りながら解放すると、囁き声にも満たない声量。蜂蜜色の髪に隠れ、彼女の表情は窺い知れないが、頬が赤く何度も何度も「大丈夫」と呟いている。

 風邪だろうか、早めに切り上げて医務室へ連れて行かなくては。

 

「恥ずかしいところを見られた、忘れてくれ。中尉」

 

「いえいえ、これから長い付き合いなのです。お気になさらず」

 

 否定しないんですねぇ、とロイドも微妙な表情だ。

 しかし、彼はメルティエが言葉の機微に理解が及んでいないと思っていない。

 実際には、とんと至っていないのだが。

 しかし型破りなのがお好きなのか、次の瞬間には笑みを湛えて言葉を紡ぐ。

 

「少佐の機体は私が設計しましてね。MS-05Bの戦闘データを拝見させて頂きまして」

 

「お眼鏡に叶ったかな?」

 

「ええ、()()そそられます。

 ただ、少佐は友軍の前に出る傾向がお強いので、被弾する確率が高いと感じました。両肩の防御シールドはそれが理由です。

 そして、回避運動が細かい。過ぎるとは言えないところがまた憎いですね。

 少佐専用に増設を施しましたが、本音を申しますと全身に機体制御用のスラスターを取り付けたいくらいです」

 

 危険な言葉が一部入っていたが、聞き流すことに決めた。

 メルティエが左肩を見ていると、

 

「ああ、パーソナルマークが気になりますか?」

 

「それと、色も。知っているのか?」

 

 お話は聞いていますよ、とロイドは答えた。

 

「蒼色のパーソナルカラーは青い巨星、ランバ・ラル大尉と直属の上司でありますキシリア・ザビ少将閣下から許可を。パーソナルマークの獅子はキシリア少将閣下がお決めになられました」

 

 話を聞いて、アンリエッタの顔色が徐々に青褪めるが、メルティエは気づかない。

 身体の奥から吹く興奮を感じていたから、視野狭窄になっていたのだ。

 

「それは本当か!?」

 

「っとと、本当ですよ。指示書も頂いております」

 

 急に大声と腕を掴まれた事に驚くが、眼鏡を空いた手で押し上げながら返答した。

 メルティエは蒼く塗装された機体を呆然と眺め、「親父殿」と口から漏らした。

 

 同じ色を授けられるのは名声が混雑するためマイナスに捕らわれがちだ。

 大抵は「自分こそがこの色に相応しい」となるか「他所は他所、うちはうち」となる。

 パーソナルマークも用意されているので、それで判別できるだろうと言う事もあるが。

 

 ただし、今回はそれには当て嵌らない。

 エースパイロットとして名高いラルが同色系統を承諾した、という事はそのパイロットの腕前を認めたという事に繋がる。

 あの青い巨星が認めたパイロットという付加価値が生じるのだ。

 これは切磋琢磨し技量を認められたいパイロットからしてみれば羨むべきもの。妬む者も出るだろうが名声は色々な場所で融通を利かす事ができる。

 

 そのまま名声を上げるか、認めたラルの名声を貶めるかは今後のメルティエ次第というわけだ。

 

「しかし、獅子か」

 

 描かれた、盾を背に勇ましく咆哮する蒼い獅子を見やる。

 頭に浮かぶのは薄紫色の髪の外見美少女、中身は虎。

 変に対抗意識持たないだろうな、とメルティエは苦笑した。

 

「おや。ご不満で?」

 

「いや、少し思うことがあっただけだ。嬉しいよ」

 

 ロイドは彼を見て子供みたいに笑う人だ、と思った。

 アンリエッタがそんな彼を見て、小さく嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、キシリアが子飼いの部下とメルティエの戦闘映像を鑑賞した話をよくよく聞いた時。

 見識者の彼女が「まるで地球に住まう獅子ではないか」と機体の機動を評し、自ら獅子の構図を決めて発注したと知ってひどく(おのの)いた。

 

 しかし、メルティエは一つ誤解をしていた。

 キシリアはメルティエの配下に美女が複数居り、彼女らの機体が敵の射線と思わしきラインに近づくと高速機動(ブースト)、猛然と突進する男の行動をつぶさに観ていたのだ。

 自分の群れ(プライド)を外敵から守り、敵を文字通り引き倒しでも勝利する。

 猛々しい動きに目も奪われたが、縄張りを守る獣性の男、彼女が戦闘映像から深く読み取ったのはそれであった。

 

 子飼いの部下も詳細は異なるが同じような意見を持っていたようで、上司が抱いた印象を支持。

 こうして守る=盾がデザインに盛り込まれて完成に至る。

 百獣の王、ライオンのような猛者。そういうモノになれという事だと本人は思い。

 評した上司達は、彼の本質を垣間見たからこそ、似ている動物を当てた。

 この意識の違いは明かされる事なく、個々人の胸に留まるのみとなった。

 

 時はU.C.0079年1月17日の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




駆け足で物語を進めた感。


設定が甘いのは愛嬌と笑って許して。

しかし、人の心理描写って難しい。
こう、ドキドキワクワク感が欲しい
これからはゆっくり進めていこうと思います。

ところで、うちのキシリア様をどう思う?
本作品ではこういうキャラになりましたが、どうでしょう。
大きく逸脱はしてないと思いますが。
気に入って頂けたら幸いです。

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