きくりお姉さんからしか摂取できない栄養がある   作:syumasyuma

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文化祭後期離脱懺悔

ぼっちちゃんの学校で文化祭がある。

その中で結束バンドがライブをするということでやってきた。

 

参加メンバーは俺、きくり、伊地知さんだ。

地元の高校とは作りが違うなと思っていると、

きくりも伊地知さんも学校を見上げて止まっていた。

 

「高校か・・・」

 

「高校ですねぇ・・・」

 

二人して校舎を見上げてどうした?

どっちも遠い目をしてやがる。

 

「いやなんでもない」

 

「まあ、そんなことよりさっさとぼっちちゃんに会いに行こー」

 

首の後ろを触っている伊地知さんと、

服を引っ張ってくるきくり。

 

まあいいか。

それでぼっちちゃんと喜多ちゃんって、どこにいるんだ?

 

「知らん」

 

「んー。おっ、あっちでパンフレット配ってるねぇ」

 

きくりの目線の先を見ると、

学校の行事などで見かける簡易テントがある。

文化祭の実行委員がパンフレットを配っているのが見えた。

 

本当だ。ちょっと貰ってくるよ。

 

二人に声をかけてテントに近づく。

腕章を付けた学生に声をかける。

 

こんにちは、パンフレット三部頂けますか?

 

「はい、どうぞ。」

 

ありがとうございます。

 

パンフレットには簡易的な地図とクラスと模擬店の名前、

それから体育館で行われるステージのプログラムが載っている。

結束バンドもスケジュールにちゃんと載っている。

 

二人とも貰って来たぞ。

確か二人とも一年生だったよな?

 

「一年の模擬店は・・・焼きそばがいいんじゃないか?」

 

「先輩っ、先輩っ、焼き鳥やってますよぉ!」

 

文化祭といえばお化け屋敷だろ。

 

 

 

 

 

ぼっちちゃん達どの店にもいなかったな。

色々模擬店を回ったが、どこにもいない。

タイミングが悪かったか、二日目はシフト入ってなかったんだろう。

 

「ああ、二人とも真面目ちゃんだと思ってたがやるな」

 

「ロックだねぇ」

 

二人はサボってると思ってるのね。

 

もうライブの時間も近いし、体育館向かおう。

 

フランクフルトを齧っている二人を連れて、

ライブが行われる体育館に行く。

 

「そうだな」

 

「今の時間は・・・おっ、手品じゃーん」

 

手品か、ふむ。

どれほどのものか試させて頂こうか。

 

 

 

 

いやー結構良かったな。

特に箱を被ってぐるぐる首を回すやつ。

結構練習したんじゃないかな?

 

「そうか?私は鳩の人形出すやつが良かったと思うが?」

 

「二人とも見入ってたねー」

 

次はコピーバンドかな。

おお、盛り上がってるね。

 

ペンライトを振って騒いでいる観客までいて、

なかなかにあったまってるじゃないか。

 

「流行りの曲は手堅いな」

 

「ちょっとトイレ行ってくんねー」

 

きくり飲みすぎだ。

もうカップ酒三つ開けてるじゃねえか。

 

伊地知さんは腕組をして批評しているし、

きくりは興味ないのかトイレに行こうとしている。

 

 

 

 

 

次は結束バンドのライブだね。

前のほう行っとく?

 

「ああ、最前列に行こう」

 

「よーしっ、ぼっちちゃんを応援しよー」

 

ちょうど前にいた観客が後ろに下がろうとしていたのを利用して、

観客をかき分けて前に行く。

 

 

『続いてのバンドは結束バンドの皆さんです』

 

おっ幕が上がってくな。

二人とも始まりますよ!

 

ステージの幕が開き、ぼっちちゃんたちの姿が見える。

 

「「「「「喜多ちゃーーーん!!!」」」」」

 

ぬっ、喜多ちゃん大人気だな。

でもぼっちちゃんにも声援がちらほら聞こえてくる。

 

「おーい!ぼっちちゃーんがんばれぇー!」

「へへへ、あっあっ見てみて、今日は特別にカップ酒ぇーえへへへへ」

「かっこいい演奏頼むよぉーうぇーい!うぇいうぇーい!」

「あっえ?あれ?ぼっちちゃんなんで無視すんの?」

「きくりお姉さんだよぉー?おらおらーあははは」

 

すげえうるせぇのがいると思ったらきくりだった。

調子に乗って騒いでいるきくりに伊地知さんが近づいて締め上げる。

 

なんてスムーズなコブラツイストなんだっ!

 

「てめえはっ、そろそろいい加減にしとけっ」

「和臣てめえも連れの管理くらいしろっ」

 

今日は伊地知さんいるからいいかなって、

まあきくりはそのまま大人しくしとけ。

 

きくりを伊地知さんに任せて、

結束バンドの応援をする。

 

「あっ先輩・・・ギブギブ」

「うっ」ゴキ

 

結束バンドー!頑張れー!

うん、皆元気そうだ。

ほどよく緊張もほぐれてるし、安心して見れそうだ。

 

~~~~♪

 

一曲目が終わり、会場は沸いている。

 

続いて二曲目。

 

きくりが真顔になったると思ったら、

ぼっちちゃんの表情がゆがみ始める。

 

何が起きているんだろうか?

 

しかし直ぐに問題が発生する。

ぼっちちゃんのギターの弦が切れてしまった。

 

「マジかよ」

 

「・・・。」

 

弦が切れた?

ギターソロあるのに不味いな。

 

しゃがみこんだぼっちちゃんをハラハラしながら見ていると、

ぼっちちゃんの代わりに喜多ちゃんがソロで弾き始めた。

 

おおっ喜多ちゃん!かっこいいぞー!

 

二人がアイコンタクトする。

 

ぼっちちゃんはすぐさま転がっていた空になったカップ酒を使い、

シームレスにギターソロが繋がっていく。

 

「この土壇場でボトルネック奏法とか普通やるかー?」

 

「あれならチューニングずれてても関係ないもんねっ」

 

すごいぞー!ぼっちちゃーん!

 

ソロを弾き切りほっとしたように天を仰ぐぼっちちゃんは、

とても輝いて見えた。

 

~~~~♪

 

二曲目が終わり、会場は更に湧いている。

目の前の光景を見てメンバーが、一部の観客が興奮を抑えきれないんだ。

 

「あーえっと!本当はっ!このまま続けて最後の曲に行くところなんですけど!」

「これだけ言わせてください!」

「今日は本当にありがとーーー!」

 

いえーい!

結束バンド最高ー!

 

「この日のライブをっ、みんなが将来自慢できるようなバンドになりまーす!」

 

いいぞー!

目指せ東京ドームだー!

 

虹夏ちゃんも興奮して宣言し始めた。

 

「ほら後藤さん!一言くらい何か言わなきゃ!」

 

喜多ちゃんも興奮して、ぼっちちゃんに無茶ぶりしている。

 

ほほうっ、ぼっちちゃんのあの目!

観客にダイブするつもりだな?

ぜひ参加せねばっ!

 

急いで移動してモッシュに参加しようとしたが、

人がはけた空間に一人残ってしまう。

 

喜多ちゃんの気の抜けた声が聞こえ、

目の前には飛び込んでくるぼっちちゃんがいた。

 

「えっ?」

 

あれ?受け取るの俺一人だけっ!?

ふんぬっ!あっやっぱ無理だ・・・。

 

一人が支えきれずに倒れこんでしまう。

ぼっちちゃんを抱えて、強かに背中を強打する。

 

ぐはぁっ!・・・ぼっちちゃん大丈夫?

 

「ううっ、大丈夫です」

 

「あはは、ぼっちちゃん最高ー!」

「わたしもダーイブ!」

 

はっ?きくりやめっ

 

ぼっちちゃんダイブを見て、

自分も飛び込みたくなったのか。

 

きくりも飛び込んできた。

当然、ぼっちちゃんに覆いかぶさるようになり、

きくりとぼっちちゃんの頭がぶつかる。

 

「ぐへっ」

「あっいったー!」

 

こら!ぼっちちゃんにヘッドバッドかましてんだ!

ああ、ぼっちちゃん大丈夫か!

気絶してる・・・たっ担架ー!

 

 

 

 

気絶したぼっちちゃんは保健室に担ぎ込まれた。

あんまり人がいても迷惑ということで喜多ちゃんを残して、

公園で待機している。

 

伊地知さんと一緒にきくりを叱っていると、

喜多ちゃんに連れられてぼっちちゃんがやってきた。

 

「ぷぷぷ、ぼっちコブできてる」

 

「ほんとだー大丈夫ぼっちちゃん?」

 

「あっはい」

 

ぼっちちゃんが、虹夏ちゃんとりょうちゃんに心配されている。

いや、りょうちゃんは心配してるのか?

 

そんなぼっちちゃんのところにきくりがおずおずと近づく。

 

「ぼっちちゃん!本当にごめんよ!」

 

「あっいえ、大丈夫です。」

 

ほらきくりもっと言うことあるだろ?

 

手を合わせて謝罪するきくりに先を促す。

腕組をして眉を吊り上げている伊地知さんもきくりを急かす。

 

「そうだ早く言え馬鹿」

 

「えーこの度わたし廣井きくりは結束バンドの皆様に多大なご迷惑をお掛けして大変申し訳なく」

「今後このようなことが無いようわたしは禁酒いたしますぅ」

 

断酒な。

きくりの言葉を訂正する。

一定期間の禁酒ではなく、自ら酒を断つ断酒をするという宣言をさせる。

 

「前々からてめえは飲みすぎなんだよ」

「丁度いいから今日から断酒しろ馬鹿」

 

「はいぃ断酒しますぅ」

 

「あのえっと?」

 

「ひとりちゃんは気にしなくて大丈夫!早く打ち上げ行きましょ!」

 

「うわー鬼詰めくらってるよーりょうも気を付けなよ?」

 

「こわい」

 

ぼっちちゃんをケガさせ、虹夏ちゃんのライブを止めたきくりに、

伊地知さんはおかんむりだ。

 

ぼっちちゃんは突然のことで困惑しているし、

ほかの三人は関わらないようにしてる。

 

きくり断酒がんばろうね!

一緒にアルコール依存症から抜け出そうーおー!

 

意気消沈したきくりの手を掴んで上に挙げる。

涙目でこっちを見るきくりに安心させるように笑いかける。

 

「かずひゅん・・・。」

 

がんばろうね!

来週から一週間僕も有給とったから!

 

俺の言葉に色々と諦めたきくりは、

力なく言葉を返す。

 

「がんばりまひゅ・・・。」

 

明日から離脱症状が何日か続くけど俺が支えるよ!

俯いたきくりの肩を抱いて宣言する。

 

周りからがんばってーと適当な応援が飛んでくる。

 

「ひゃい」

 

ぼっちちゃんもきくりを応援してあげてね。

君のせいじゃないよ。きくりの身から出た錆ってやつだからね。

おろおろしていたぼっちちゃんに声をかける。

 

「あっはい」

 

「ぼっちちゃん・・・。」

 

「・・・お姉さんごめんなさい。私にはどうすることもできません・・・。」

 

あっ、もし飲んだら三か月ほど入院だから。

無いとは思うけど、もし飲んだときのことを伝えておく。

 

「ざんがげづ・・・!」

 

「そうかこの馬鹿とも三か月お別れか」

 

はいそこ既に諦めない!

あっ、虹夏ちゃん打ち上げ代ね。

これで美味いもの食っていきなよ。

 

「わーありがとうございます!和臣さん達は参加しないんですか?」

 

俺はこれから地獄の苦しみを味わうきくりの世話しないといけないから、

また今度参加させて貰うよ。

じゃあまたSTARRYでね。

 

「はい!」

 

 

 

 

 

断酒1日目。

 

空き部屋の壁に防音素材を貼り付ける。

床は振動を吸収するマットを敷き詰め、

さらに布団を二つ敷いておく。

 

「うー気持ち悪いー」

 

きくりは早期離脱の症状が出ていて布団の上で苦しんでいる。

二日酔いに効くものを飲ませて安静にさせる。

 

「汗で服がべたべたするぅ」

 

ほら経口補水液飲んで。

脱水症状に陥らないように定期的に水分補給させる。

吹き出る汗で体が冷えないようにタオルで拭いてやり、

濡れた服をパジャマに着替えさせる。

 

「あーん」

 

ちゃんと噛んで食えよ。

振戦・・・全身が不規則に震え満足に箸も持てないので、

俺が代わりに口に運んでやる。

 

栄養不足にならない様にちゃんと一日三食食べさせる。

 

「ひいっ、虫がこっちに来るっ」

 

虫なんていないから、ほら落ち着いて。

幻覚の症状が出て取り乱しているきくりをなだめる。

 

「かずくん・・・今何時?」

 

もう夜だよ。

ほら晩御飯食べよう。

軽い見当識障害が出始めて時間の感覚が曖昧になっているきくりに、

すっかり日が暮れて暗くなっている窓の外を指さして教える。

 

 

断酒二日目。

 

「ふんふーん♪」ベベベベ-ン

 

早期離脱の症状が落ち着いてきて、

ベースを弾いて楽しそうにしている。

 

きくりが元気なうちに、食料の作り置きや洗濯、

家事を進めておく。

 

「・・・和君は音楽やらないの?」

「やるならわたしが教えてあげるよ」

 

ん?そうだな。じゃあヴァイオリンかな。

冗談めかして、求めていない返しをする。

 

「えーバイオリンは無理だよー」

「ギターにしよ?」

 

ギターか、今度楽器屋に見に行くか。

洗濯物を畳みながら答える。

 

「一緒に行こーね」

「じゃあ、はい手を出してぇ、指のストレッチするよ」

 

もうすんのかよ。

床を叩いて催促するきくりに少し呆れながら答える。

畳む手を止めてきくりの隣に座る。

 

「こういうのは早いほうがいいんだよ?」

 

はいはい。

終わったら洗濯物畳むの手伝えよ。

 

俺の手を触るきくりにそう答える。

 

 

 

断酒三日目。

 

後期離脱が始まった。

一昨日よりも全身の震えが酷くなり、

出てくる汗の量もとんでもないことになっている。

 

次から次へと出てくる汗を拭い、水分も多めに飲ませる。

食事もまとも喉を通らなくなり、なんとかゼリー飲料を食べさせる。

 

幻覚も酷くなり、今度は壁が迫ってきたり、

床が揺れたり回ったりしているらしく、

自分で歩くことすらままならない。

 

精神運動も停止しているのか、

あんなに喧しかったきくりが黙り込んで喋らない。

こちらが話しかけても緩慢に返事をするだけだ。

 

 

 

断酒四日目。

 

「帰る」

 

見当識障害が重くなり、今自分がいるところが分からなくなっているのか、

頻繁に帰ろうとして立ち上がり、家から出ていこうとする。

 

「和君を返せ!」

 

それどころか幻覚と幻聴が併発している。

 

俺がきくりに助けを求める幻聴が聞こえ、幻覚で俺が別人に見えており、

俺を閉じ込めていると思っているらしい。

 

「この離せ!」

 

暴れるきくりを抱きしめて幻覚・幻聴が落ち着くのを待つ。

引っ掻いてきたり噛みついてきたり、まるで野良ネコのようだ。

 

でもなぜか頭を抱えるように抱きしめると大人しくなるんだよな。

不思議なもんだ。

 

しかしちゃんと食わせているからか元気だな。

 

 

 

断酒5日目

 

ピンポーンと、

インターホンが鳴ったのできくりを置いて玄関に行く。

 

どうやら伊地知さんとぼっちちゃん、喜多ちゃんが来たようだ。

 

「よっ、きくりの調子はどうだ?って生傷だらけじゃねえか」

 

「わわっ、大丈夫ですか!」

 

いらっしゃい。

まあ、上がってくださいよ。あまりお構いもできませんが。

 

三人にスリッパを出して上がるように勧める。

 

「上半身引っかき傷だらけじゃないですか、あっ歯形もある」

「消毒液でちょっとしみますよ」

 

「おーおーひでえなこりゃ。青タンできてるぞ」

 

喜多ちゃん悪いね。

ガーゼに、包帯まで巻いてくれて、ありがとうね。

 

伊地知さん痛いから触らないでよ。

 

処置をしてくれる喜多ちゃんにお礼を言って、

興味深そうに青タンを触る伊地知さんに文句を言う。

 

「いえいえ!でもなにが」

 

「開けろっ!ここから出せ!和君を返せっ!」ドンドン

 

「ひいっ」

 

「今の声きくりか?」

 

ああ、また幻覚と幻聴が出たみたいですね。

ちょっとあやして来ますよ。

 

「赤ん坊か」

 

「そんな生易しいものじゃないような・・・。」

 

そうだ伊地知さん。

台所にある発泡の箱に入っている酒と、

あと調理酒とかも持って行ってくださいよ。

 

立ち上がったついでに処分し忘れていた酒を伊地知さんに譲る。

 

「いいのか?くれるなら貰っていくが・・・。」

 

あってもきくりの邪魔になるんで、

あれ?ぼっちちゃんはどこに行ったんだろ?

 

先ほどまで遠巻きに傷を見ていたぼっちちゃんがいないことに気づく。

 

「お姉さん・・・。」

 

「開けろ!悪魔!通報するぞ!」ドンドン

 

「おっ、お姉さん!」

 

「今度はぼっちちゃんになったのか!私を騙そうなんて許さないぞ!」ドンドン

 

「言ってくれたじゃないですか」

 

「この悪魔め!皆を返せ!」ドンドン

 

「敵を見誤るなって」

 

「 」

 

ぼっちちゃん・・・。

 

ぼっちちゃんはきくりのいる部屋の前にいた。

二人の間に何があったかは知らないが、

ぼっちちゃんの言葉できくりが静かになる。

 

「わたしあの時の言葉で気づけたんです・・・。」

「だから・・・だからぁ・・・」

 

「 」

 

「じゃ、私達帰るから和臣頑張れよ」

「あの馬鹿にもさっさと顔だすよう言っといてくれ」

 

「ほら、ひとりちゃん泣かないの!和臣さんファイトです!」

 

ぼっちちゃんありがとうな。

二人もありがとうございます。

元気になったきくりを連れてライブハウスに行きますよ。

 

三人を見送る。

 

 

 

 

断酒6日目。

 

緩やかにすこしだけ症状が穏やかになってきた。

 

発汗や震えはまだ納まっていないが、

昨日ほどじゃない気がする。

 

幻覚と幻聴はまだ出ているようだが、

あまり気にしてないようだ。

 

「・・・。」

 

それよりも何かをずっと考えているようだ。

 

時折こっちを見つめているが、何も言ってこない。

でも焦点が合わず虚ろだった目が動いているし良くはなっている筈だ。

 

 

 

 

もう今日が終わるな。

なぜか部屋の隅で膝を抱えているきくりに声をかける。

 

「・・・あのね和君」

 

どうした?

 

膝に顔を埋めて、怯えたような声を出すきくりに近寄る。

 

「ずっと・・・ずっと言わなくちゃって思ってたんだけど」

「私生理が来てないの」

 

それって出来たってことか?

 

声も体も震えているきくりの隣に座って、

その小さな肩を抱いて、彼女の言葉を待つ。

 

「ううん違うの」

「もう一年以上来てないの」

 

そういうことか。

 

確かに家には生理用品は無いし、

きくりもいつも酔っぱらっていて少しも変わらない。

 

「それに前にセックスしたじゃん」

「全然濡れなくてごめんね」

「私感じなくなっちゃったの」

 

ああ、30分ぐらいかけて唾液で濡らしたな。

顎が痛くなったわ。

 

きくりの懺悔じみた告白に冗談めかして返す。

手を外そうとするきくりの手を掴んで、強く抱きよせる。

 

「言えなくてゴメンね」

「嬉しかったんだ」

「見るからにだめで、壊れちゃった私を受け入れてくれて」

「今まで一緒にいてくれて幸せだったんだ」

 

きくりは嗚咽交じりに言葉を紡ぐ。

 

「でも私、和君を傷づけちゃった」

「だから・・・」

 

だから?

 

逃げようと身をよじるきくりを、

絶対に離さないようにする。

 

「だから・・・もう・・・」

「もう一緒にっ・・・いらっ、いられっ」

 

違うだろ?

きくりがしたいことはそうじゃないだろ。

きくりは何がしたいんだ。

 

顔を上げて言葉を詰まらせたきくりに、

彼女の本心を聞く。

 

「・・・いたい」

「一緒にいたいよぉ」

 

ほらおいで。

ひどい顔してるぞ。

はい鼻かんで。

 

子供のように泣き始めたきくりの涙を拭って、

ティシュを数枚手渡す。

 

「ううっ」ヂーン

「がずぐーんっ」

「・・・迷惑かけてごめんね」

 

いいよ。

鼻をかんだきくりが飛び込んでくる。

 

「これからも迷惑をかけちゃうけどよろしくお願いします」

 

いいよ。

俺の腹に顔をうずめるきくりの頭を撫でる。

 

「かずくん」グスン

 

 

 

 

 

そういえばきくり。

ほっとしたように体を弛緩させてるきくりに、

調べていたことを教える。

 

「うん?」

 

無月経も不感症も性欲減退も膣乾燥も断酒したら良くなるらしいぞ。

アルコール依存症が女性に与える影響を教える。

 

「そうなの?」

 

アルコール摂りすぎて脳が色々とサボってて、

だからアルコールが抜けたら徐々に活動し始めるよ。

 

「そっかあ」

 

きくりはさ。

これからどうしたい?

 

「どうって・・・よく分かんないよ」

「かずくんはどうするの?」

 

そうだな。

晩飯作るかな。

 

きくりが俺から離れて寝っ転がる。

布団を巻き込んで芋虫のようになった彼女を置いて立ち上がる。

 

「ぷふっ、そういえばお腹すいたな」

「・・・和君お寿司食べたいな♪」

 

アホきくり。

最近固形物食ってなかったから急にそんなもん食べたら吐くぞ。

今日はお粥を作るからそれ食って寝てろ

 

部屋の戸を開けて出ようとすると、

慌てて立ち上がろうとしたきくりがよろめく。

 

「えー、あっ待って・・・おっとっと」

 

フラフラして危ないな。

ほら肩貸すからソファーまで行くぞ。

 

きくりに肩を貸してリビングのソファーまで移動する。

ソファーまで連れていくと、倒れこむように座る。

 

「ありがとぉ」

「はあ、久しぶりのソファーだ」

 

じゃあ、座って待ってろ。

 

「うん」

 

はい、梅お粥。

クッションを抱えて待っていたきくりの前に、

お粥と水を置いていく。

 

「どもー・・・和君♪」

「あーん」

 

はあ、全く手間の掛かる奴だよ。

ひな鳥のように口を開けて待つきくりを見て溜息を吐く。

 

きくりは。




作者はアルコール依存症エアプなので、
アルコール依存症の方は決して個人や家族だけで解決しようとせず、
必ず医療機関に頼ってください。
アルコール依存症は否定の病気です。
アルコール依存症の方は自分が病気だと認めそうとせず、
無理に禁酒を迫るとそのストレスで逆に飲んでしまうそうです。
作中で廣井きくりが幻覚の症状を出していましたが、
病院ではその幻覚症状を抑える薬があります。
ところかまわず酒を飲んでしまったり、
酒の影響で日常生活に害があるようならアルコール依存症の可能性が高いです。
アルコール依存症は命に係わる重大な病気です。
アルコールは決して完治しませんが、寛解はします。
病気による症状や検査異常が消失した状態のことを言います。
断酒をしても酒の誘惑に負けて、スリップ・・・また飲んでしまうことをあると思いますがめげずに断酒を続けてください。

廣井きくりというキャラクターを描くためにアルコール依存症を調べましたが、ここまでとは思いもよりませんでした。

そして本作書く動機となった、後藤ひとりのダイブと敵を見誤るなというセリフを書けて満足しています。
今後本作での廣井きくりはシラフですので、
酒飲んでる廣井きくりが見たい方は原作か他の方の小説をお読みください。

私もこれでやっと他の人のきくり小説を見ることができます。
長かった・・・。

今回は小さな海を聞きながら描き上げました。
いいよね小さな海。

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