――――――――知雫。
その名前を聞いて何となく思い出してきた。
思い返すは、二週間か三週間かそれくらい前に遭遇したデパート占拠事件のこと。
と言っても俺は事件に巻き込まれてすぐにエンジェルに体を奪われたから、事件後に事のあらましをみんなから聞いただけなんだけど……。
この知雫という女性は麻薬密売組織の一員……というか殆どトップの位置に属する人物だそうだ。
キュウビと同じ世界から来た人物で、元々王子の婚約者だった知雫から王子を奪い取って妃の座に着いたのがキュウビらしい。なのでキュウビは彼女から大層恨まれているそうだ。
それで、デパートの管理人が麻薬密売の仲間だったが裏切ったとか何とかで、彼女らはデパートを占拠するとかいう何故そうなったのか分からないトンデモ行為に及んだ。管理人がどこにいるか分からず、なあなあでそうなったんじゃないかとはトールビット辺りが言っていたけど。なあなあでやることじゃないだろ。
ただまあ運の悪いことに、マオと俺達が居合わせたせいでデパートを占拠した一団はほぼ遊び半分に撃滅された。
目の前の彼女は人対の翠さんを撃退するぐらいに強かったらしいけど、キュウビが煽りながら真正面から倒してしまったそうだ。
まあ翠さんはその時『白い鎧』を着ていなかったみたいだし、全力じゃなかったのかもしれない。
それで結局、別の現場から急行してきた牙殻さんがデパートにダイナミックに突っ込んできて。
俺はニンジャが宝石店から商品を盗みながらも逃げたので無事だったが、気絶したままの彼女は仲間も全員やられていて、誰かの助けが来るはずもない。
そのまま人対の手で逮捕されて――――――――
「――――なんだ。私の顔をじっと見て」
多分今、この刑務所にいるんだろうな。
俊介は目の前の彼女に対して、自分が知っている大体の情報を脳内で纏め終わった。
全体的に優秀そうなのに運が全くないというか何というか……。でも麻薬密売組織を率いるなんて悪行をしていたんだし、悪人には変わりない。ハッピーサラミ(麻薬入り)の件とかも絡んでたりするんだろうか。
俊介がそんな風に内心で考えていることなどつゆ知らず。
彼女はねぼけ眼を擦り、親指で唇に触れるように顎を抑えつつ、少し低い声で言う。
「……そうか。前の同室の奴はこの間
し、『死んだ』?
彼女の語る言葉に引っかかる物を覚えつつ、頭を下げて挨拶する。
「ど、どうも……初めまして」
「うるさい」
「えっ」
一瞬で対話すら拒まれる。
ちょっとびっくりした。
知雫は二段ベッドの上から軽やかに飛び降り、ベッドから身を起こした状態の俊介の前に着地した。
それから俊介の胸を押し、硬いマットレスの上に押し倒す。
「ぐっ、な、なにを!?」
「いいか。良く聞いとけよ、新顔」
彼女は俊介の片目の瞼を親指と人差し指で大きく開き、その瞳をじっと覗き込むように顔を近づける。
互いの吐息が肌に触れるほどに顔が近づき、思わず俊介が目を逸らす。
しかし知雫は俊介の口の中にもう片方の指を突っ込み、引き出した舌先を指で潰すように弄びながら更に顔を近づけてきた。
「この部屋では私が先輩だ。いいか? 女だからと言って舐めるなよ。私の言う事は絶対に聞け」
「ひ、ひゃい……」
「私が寝てる時に騒ぐな。私の持ち物に手を出すな。私の命令は聞け」
「わ、わひゃりまひた」
殺される恐怖とか、そう言うのはない。何があっても隣にいる殺人鬼達が絶対に対応してくれる。
ただ、目の前で顔が良い女性が本気で凄んで来ているこの状況にちょっと気圧されていた。
「よし。いい子だ」
知雫は俊介の顔から手を外す。
そして少しだけ顔を持ち上げたと思いきや。
突然、俊介と己の唇を重ね合わせた。
「――――――――?」
何が起こったのか分からず、俊介が固まる。
その隙を突き、半開きになった口の中に生暖かくて柔らかい物が入り込んできた。そして俊介の舌を軽く一撫でしてから、するすると離れていく。
「……ふっ」
知雫が口元を手で隠しながら、俊介から顔を離す。
「私の言う事をちゃんと聞けたら、偶にはご褒美をくれてやるよ。……私は少し出かける」
そうして口端の透明な液体を親指で拭いつつ、彼女は監房から出て行った。
部屋の中に残されたのは、状況を飲み込めないまま体を起こした俊介一人のみ。
「………………???」
?
『!?!??!?!?!?!?!』
キュウビが顔中から冷や汗を流し始めた。
七年一緒に過ごして初めて見るくらいに顔を歪めている。
その他にも、すぐ傍で三者三様の表情を浮かべる殺人鬼達に問いかけた。
「え、今何が起きた?」
『俊介、お前今キスされてたよ』
「…………??? ええ……? いやいや、まだやったことないっすよ、ヘッズハンターさん」
『ファーストキスおめでとう』
………………。
……………………ッッ!!?!!?
「っでど、え、ええッ!?」
『邨カ蟇セ谿コ縺呻シ√??邨カ蟇セ谿コ縺呻シ√??蜈ィ霄ォ繝舌Λ繝舌Λ縺ォ縺吶k?』
『あーあ、キュウビの脳みそ壊れちゃった。誰か止めろよ』
『嫌でござるよ。なんか呪いの言葉っぽいの吐いてるでござるし』
マッドパンクとニンジャが冷淡にそう言う。
首から上を全て真っ赤にしたキュウビは咄嗟に俊介の体を奪おうとする。恐らく俊介の体を使って知雫を殺しに行くつもりなのだろう。
だがガスマスクに背後から締め上げられ、部屋の外にずるずると引きずるように連れて出された。
『ごあーーーッ!!!! 絶対に許さんぞーーーーーッッッ!!!! なぶり殺しにしてやるぅーーーーーッッッッ!!!!』
『同情はするが落ち着け。殺すのはまずい』
部屋の外に連れて行かれても未だに声が聞こえる。どんな声量なんだ。
しかしその声も次第に遠ざかって行き、何時しか聞こえなくなった。
部屋の中に静寂が戻ったころ、ドールがにっこりと微笑みながら声を掛けてくる。
『お兄ちゃん。お口洗ってきたら?』
「いや、ビックリしたけど別にそこまでするほどでは……」
『洗ってきたら?』
「あ、その、今から話すから拭くだけで勘弁してね……」
俊介は看守に渡された支給品のナップザックを開き、中から白いタオルを取り出す。安い生地だがあるだけありがたい。
少し湿っている口元をタオルでごしごしと拭く。
ドールは少し不満げな顔をしているが、今はこれで納得してもらうほかない。
「あー……ビックリした。え、なんで俺のファーストキスがこんな所で?」
『しかもDキスよん。随分手つきも慣れてたわねぇ……』
「Dキス……って何?」
『唇を触れ合わせるだけでなく、舌を互いに絡め合って唾液を交換するようなキスのことだ。大人のキスとかディープキスとか……ま、初めてでやるような奴じゃない』
「えぇ……」
フライヤーがやけに詳しく解説してくれる。
やめてよ。
何とも言えない表情を浮かべる俊介を他所に、サイコシンパスがハンガーに話しかける。
『……意外に何ともないんだなハンガー。お前は俊介への好意を隠していないから、てっきり何か反応すると思ったが』
『別に口と舌が触れたぐらいで何にも思わないし』
『ほう。だが俊介の初めてを奪われたんだぞ?』
『こ~いうのはな、最終的にどうなるかが肝心なんだよ。最後に私が傍に居られるならその過程で俊介が何されようと気にしないね』
『あらやだカッコイイ』
何話してんだあいつら。
ガシガシと頭を掻き、息を整えるためにゆっくり且つ大きく呼吸する。
十秒ほどかけてたっぷり呼吸した後、気を取り直してみんなに声を掛けた。
「悪いけど、外に誰かいないか見張り行ってくれないか。盗み聞きされてもめんどいし。さっきの知雫って人が戻って来た時も教えてくれ」
『なら俺が行くわ。頭使う話は苦手だし、役に立てそうもねーしな』
真っ先に名乗りを上げたのはハンガーだった。
そのまま閉まっている鋼鉄の扉をすり抜け、扉の前に姿を消す。まあ戦闘や偵察を行う訳でもないし一人いれば充分だろう。
俊介は目の前に視線を戻す。
「……流石に四畳~五畳の空間に、俺含めて11人もいると狭いな」
『今更かい?』
トールビットが呆れた様子でそう言う。
先ほど知雫と会話していた時は何人か部屋の外で様子を見ていたが、今からは今後に関する重要な会議を行うので無理やり同じ部屋に入ってもらっている。
窮屈そうだが、少しの間我慢してもらうほかない。
「それで今後どうするかだけど…………いや、マジでどうしよう?」
『ん? てっきり拙者は脱獄の日程でも決めるのかと思っていたでござるが』
ニンジャがあっけからんとそう言ってのける。
「んな訳ねーだろ」と突っ込もうとしたが、他の人格達がニンジャの言葉に肯定したような表情をしているのに気付き、口をつぐむ。
「いやでも、ぶっちゃけ……もし出れた所でどうなるって話だよな。もう俺完全に警察に素性バレたし、お尋ね者じゃん。警察から身を隠し続けて生きるのは嫌だな……」
『なら海外に逃げるのはどうだ? ダークナイトなら余裕で太平洋を渡れるだろ。生活に必要な金だって僕らなら合法・非合法問わず余裕で稼げるし。偽造の身分なんて金がありゃ楽に作れるしな』
「……海外かー……」
マッドパンクの言葉に腕を組み、俯く。
海外に逃げるか……不可能とは言わないけどさ。
気持ち的に納得できない物があってうんうん唸っていると、クッキングが声を上げた。
『ちょっと待ちなさい。まだ俊介ちゃんは17歳よ? 海外に逃げるって簡単に言うけど、故国を捨てて別の場所で一生暮らすなんて直ぐにできる決断じゃないわよん。ご両親だってまだご健在なんだし、そのご両親が榊浦豊に狙われてる状況なのよ。全てを捨て置いて逃げるなんてできないわ』
そんなクッキングの言葉に、エンジェルが口を挟む。
『俊介とその両親を天秤に掛けた時、どちらが大事なのかなど分かりきっています。親など放っておけばいいでしょう』
『駄目よ。俊介ちゃんが幸せに生きるためにはあのご両親は絶対に欠けてはいけないわ』
クッキングとエンジェルの間にほんの僅かに、火花が散るような空気が漂い始める。
ぶつかり合えばどちらが勝つかなど分かり切っているが、それでもクッキングは一歩も引かない。エンジェルが少しだけ翼を動かし、靴先をクッキングの方に向ける。
と、そこで俊介が腕を振りながら険悪な空気を振り払った。
「だーっ、やめろやめろ! 喧嘩はダメだ、あくまで話し合いなんだから!」
『……だが俊介。海外に逃げるかはともかく、俺も刑務所の外に出た方がいいと思う』
部屋の隅で腕を組んでいたヘッズハンターがそう言葉を吐いた。
俊介が彼の方に顔を向けると同時に、言葉の続きを紡ぐ。
『榊浦豊と交わした会話と契約を覚えているか? 未来革命機関のピュアホワイトに夜桜が捕まった時の奴だ』
「ああ、そりゃ勿論……えーっと」
ヘッズハンターに促される通り、俊介は榊浦豊との会話内容を思い出す。
「……先に断っておくが、この件に関して、私は関与していない」
「夜桜紗由莉。彼女を未来革命機関から救い出すまで、私は君に害のある行為をしない。いや、寧ろ力を貸そうじゃないか」
「……あ? どういう事だ」
「そっくりそのままだよ。相手は組織だったテロリストだ、対抗するには高校生の君では足りない力もあるだろう……権力とかね」
「……条件は何だ? そんな提案、お前が
「話が早くて助かるよ。私が君に出す条件は二つ。
一つ目は、君の人格が何人居て、どんな人物達かを正確に教える事。
二つ目は、君の肉片を私に渡す事。約1立方センチメートル……サイコロステーキくらいの大きさでいい」
俊介は頭の底から記憶を榊浦豊との会話内容を何とか引っ張り出して口に出した。
ニンジャやトールビットなどの頭が切れる組も頷いていることから、思い返したこの会話内容に間違いはないらしい。
「……改めて思い返してみると、全然守られてねえなこれ」
『いや、榊浦豊は屁理屈レベルのごね方で確かに守っているよ。まあ元々守る気がなかった、というのも念頭に置かなきゃならんが』
「え?」
ヘッズハンターは腕を解き、言葉を連ねる。
『ムカつくが、榊浦豊は『この件に関与していない』と言った』
「ああ、そうだな。でも娘が思いっきり関係してたじゃねーか! つか主犯じゃねーか!」
『だけど榊浦豊自体は関与していないんだ。思い返してみろ。今回は榊浦美優ばかりが関わっていて、榊浦豊は夜桜の誘拐に一切手など貸していなかった』
「いやそれは……いや、そんなん……詭弁だろッ!」
娘の榊浦美優が主犯なのに、榊浦豊自身は何もしていないから『関与していない』なんて通る訳ねーだろッ!!
『でも奴はそれで通すつもりだったんだろうな』
「そんなん俺が許すわけねーだろ。その場で殴り殺すぞ」
『そうなると、奴は確実に俊介の家族を使って来るだろうな。『関知はしてたが関与はしていない』とか言って、俺達が悪いように見せかけてな』
「…………」
苛立ちで思わず足先が地面を連続で叩いてしまう。
意識的に止めようとするが、無意識で足が動き始める。怒りを吐息に混ぜてゆっくりと吐き出し、頭に登った血を少しずつ体に降ろしていく。
『早い話、奴には最初から契約を馬鹿正直に守るつもりなんてなかった。だから『関与していない』とか『害のある行為はしない』とか、解釈次第でどうにでもなる言葉しか吐かなかったんだ』
「…………」
怒りを吐き出そうとしても、やはり物凄く腹が立つ。
『だが、今回の榊浦豊の行動にはやはり粗が目立つ。未来革命機関に娘が関わっていることぐらいは知っていたかもしれないが、『夜桜の誘拐』なんて暴挙に及んだのはやはり予想外だったんだろう』
「え……?」
『『人対の介入』、『そして俊介が刑務所にいること』。この二つが榊浦豊の最大の粗だ』
「…………?」
何でその二つが榊浦豊の粗に繋がるんだ?
『榊浦豊の目的を思い出せ』
「えっと……」
俺の中にいる人格……殺人鬼のみんなの人数と特徴を教えることと、俺の肉片を提供することだ。
一体全体何に使うのかは全く分からないけど。
『その二つの榊浦豊の目的のどちらも、俊介が榊浦豊の前に行かないと果たせない。夜桜だけは俺達の人数のみ知っているが、詳細な特徴と肉片の提供なんて俊介にしか出来ないからな』
「…………あー、まあ確かに、そうかも」
みんなのプロフィールとか、何が得意がとかは俺しか知らないもんな。
榊浦豊が欲してたような肉片だって誰にも渡した覚えはない。ピュアホワイトとの戦闘でも血は流したけど、あんな瓦礫まみれの船から見つかるようなサイズの肉片は絶対にない。そんなデカさの肉が欠けてたら今動けてないし。
『榊浦豊は警察に圧力を掛けて未来革命機関に関する捜査を止めていた。警察が夜桜救出の邪魔をしてこないよう、ある意味俊介に力を貸していたわけだ。だが人対とかいう奴らは上からの圧力をフル無視して機関の捜査を進めていた』
「いやそれ……人対は警察人として結構駄目なことしてんじゃないの」
『もちろん駄目でござる』
駄目なんじゃねえか。
『とにかく。人対は警察の人海戦術に頼らず独自に調べていた上、未来革命機関の船が妙な迷彩をしていたから見つけられなかった。だがピュアホワイトが戦闘中に俺達を殺すために砲台をぶっ放して、その時に迷彩が解けた。それのせいでちょーどピュアホワイトを倒して疲労MAXな時に人対が来たんだな。んで捕まった』
「……タイミング最悪すぎない?」
『うん。この上なく最悪』
「ええ……」
『榊浦豊が前々から夜桜の誘拐を計画していたなら、人対が出張って来ないよう入念に計画してたはずだ。こんなことが起きるからな』
……ヘッズハンターの説明のおかげで何となくは榊浦豊が何をしてたかが分かった……かも?
つまり俺はまたしても榊浦豊の手のひらであれよあれよと動かされてた。
けど人対がダイナミックに場を搔き乱したおかげで、榊浦豊の目論見が外れたってことだよな。『おかげ』じゃなく『せいで』の間違いかもしれんけど。
(それにしても……)
俊介が頭の中で思うより早く、ニンジャがそれを口にする。
『なんかヘッズハンター、妙に頭のキレがよくなってないでござるか?』
『ああ……真昼との件で心に整理がついたからかな、頭の中のもやが晴れたみたいな気分なんだ。ちょっと頭の回転が良くなってる気がする』
そう言って、少し悲しみを孕みつつも影のない笑みを浮かべるヘッズハンター。まだピュアホワイトとの決着がついてから時間が経っていないために悲しみは残っているが、彼は彼なりに心の整理がついたみたいだ。後は時間が解決してくれる。
『あっそうだ、今までは殺人するとき以外は時速百三十キロとかでしか動けなかったんだけどさ。今は常に時速六百キロ以上で動けるようになったんだ』
「ええ……」
『ちょっとパワーアップしたってことかな、はは』
時速百三十キロから時速六百キロを『ちょっとパワーアップ』で済ませて良いものか。
なんか他のみんなもヘッズハンターの笑みにちょっと引いてる気がする。時速六百キロで動くただの人間って何だよ。
乾いた笑みを浮かべるヘッズハンター。
それを遮るように、ニンジャが言葉を吐く。
『あ、さっきの話に付け足したいんでござるが……。多分、榊浦豊は他にも対策を打ってる気がするんでござるよ』
「他?」
『夜桜と出会った時、たち……ばな?とかいう女が刺されていたでござろう。だがウィザードの肉体を見る限り、どう見ても夜桜を前にしてあの女を刺せるほどの実力があるとは思えんのでござる』
橘さんの名前くらいちゃんと覚えててやれよ。
……でもそうだな。夜桜さんって今やピュアホワイトみたいな化け物でもない限り、ほぼ負けなしの実力になってる気がするし。殺人鬼の何人かは真正面からじゃ勝てないって言っちゃってるし。
「つまり、夜桜さんにとって『橘さんが刺されても仕方ない』状況があったってのか?」
『そうでござる。だが拙者らは夜桜と情報交換する前に別れてしまった故、何があったかは分からぬ……。拙者としては、榊浦豊の小間使いでもいたんじゃないか、と考えているのでござるが……』
うーん。
その辺りは夜桜さんと情報を共有しないと、どうにも分からないな。
まあ、その肝心の夜桜さんともう一度会えるかどうかは分からないんだけど……。
『そもそもぶっちゃけ全部予想だから、合ってるかも分かんないんでござるけどね!』
「身も蓋もないことを言うな」
それを言い出したら終わりだろ。
ポリポリと頭を掻く俊介。なんかやたらと頭が痒い。ここダニでもいるんじゃないか、嫌だな。
ため息を吐きつつ、言葉を吐く。
「つまり、えーっと……ヘッズハンターの言いたい事は『榊浦豊の目論見は人対によって壊れた』でいいんだな?」
『ああ。そして目論見の外れた榊浦豊が次に何をしてくるか分からない。だが俺達が外にいれば影ながらに両親を守る事が出来る。それだけの力がある』
「でもそれってさ、俺の今後の人生が……」
『……確かに、俊介には辛い目に遭わせる。多分……というかほぼ確実に、表社会にはいられなくなる』
「…………」
この刑務所にいたって、罪を償って外に出られることはない。
だが何某かの方法で刑務所の外に脱獄しても、俺は警察から完全に素性を知られてる。上手いこと榊浦豊の一件を片付けたとしても、俺は普通の暮らしを捨てて何処かに姿を消す必要がある。
「…………あの、さ」
今すぐ答えを出すのが最善だ。
そして最高の答えは、俺がこの刑務所を脱獄して両親を守りながら榊浦豊を倒し、何処かに消えることなのだろう。
だけど。
まだ17歳という若さで今後得るはずだった普通の人生の全てに別れを告げる選択を、今この場で下すことはできなかった。
例えこの刑務所にいる時点で全て手遅れなのだとしても。
外で警察から一生逃げ続けるよりは、このクソみたいな刑務所に慣れて暮らす方が平和なんじゃないのか……と、そう思ってしまう心が少しだけあるのだ。
「ちょっとの間、保留してもいいかな? すぐに外に出るのが一番だって分かってるんだけどさ……」
ここに至るまでの全てが俺の自業自得だとしても、やっぱりすぐには決断を下せなかった。
いざという時に即決できない所を見るに、やはり俺は何処まで行っても平凡な高校生なのだと自覚する。
『……いいと思うわよん。ダークナイトで無理やり出るでもしない限り、脱獄には準備のための時間が必要だわ。悩む時間はまだあるもの』
クッキングが静かにそう言う。
他の面々も肯定の意を持って頷いた。内心では俊介のためを思い、もっとこうすべきだと考えている者もいるかもしれない。
だがやはり最終的な決定権は俊介にあるのだ。
俊介が保留と言えば保留、それは絶対に覆らない。
「……今日はちょっと、疲れたな……」
ピュアホワイトとの戦闘やら、人対に襲われるやら、刑務所に収監されるやら……。
色々なイベントが続きすぎて少し気疲れしてしまった。硬いマットレスの上に思い切り倒れ込むと、普段の寝床とは似ても似つかぬはずなのにすぐ眠気がやってくる。
「すまん、寝る。何かあったら起こして……」
次に目が覚めたら、この刑務所にいなければいいな。
そんなことを思いながら、俊介は少しの間だけ夢の世界へと逃亡した。
会話文ばっかじゃねえか!!!
会議とか言う割には一人のキャラにいっぱい喋らせちゃうのが悪い癖です。
分かりにくい所とかあったら全然遠慮なく感想で投げてください。可能な限り答えさせていただきます。
クッキングは俊介を優しく擁護する発言ばかりしてますが、それが都合のいい理想論に近い言葉だろうなとは自分で理解してます。
だけど誰かが言わないと会議の内容が俊介にとって残酷な方ばかりに行ってしまうので、あえて言っています。