深い眠りの中。
何かの声と共に自身の体が揺らされ、徐々に意識が覚めていく。
「…………い、おい。いい加減に起きろ」
「ん、んん……はい?」
「もう朝の点呼の時間だ。さっさと起きて外に出な」
「点呼……はい……」
まだうつらうつらとする意識に鞭を打ち、ベッドから降りて立ち上がる。
昨日少し寝るだけだったつもりが、そのまま熟睡して次の日の朝まで寝てしまったらしい。よっぽど疲れてたんだな俺。
頬を何度か叩いて頭の中から眠気を追い出しつつ、監房の外に出た。
「…………ぅぉ」
監房の外に出て口の外から呻き声のような物が漏れる。
朝の点呼というくらいだから当たり前だが、他の監房の前にはその部屋の囚人であろう人物達が一斉に並んでいた。
全員が普通に生きているだけなら絶対に知ることのない、人を今にでも刺しそうな危険なオーラを放っている。数は少ないがチラホラと女性が混じっているのも見えた。男と同室って結構あることなのかな……?
そして何故か。
なんか凄く、他の囚人が俺に視線を向けてる。
「ぁ……さーせん……」
朝の点呼に遅れたから怒ってるのかな。
そう思いつつ、他の囚人たちを真似て部屋の前に並ぶ。
気まずい物を感じつつその場に直立し続けていると、右の廊下の奥からコツコツと数人分の足音が聞こえてきた。
顔を動かさずに目だけで視線をやる。
重武装に身を包んだ看守達だ。
彼らは軽く辺りに視線をやった後、一人が小さな電子端末を取り出し、一人が大きな声を張り上げた。
「これより朝の点呼を始める! 200番から点呼!!」
看守がそう叫ぶと同時に、慣れた様子で囚人たちが声を出し始めた。
「200番!」
「201番!」
「202番!」
『なるほどそういう感じか』と思いつつ、自分の番号である223番が来るまで待つ。
初めての経験だから少し緊張するな。
そんな風に別のことを考えながら待っていると、案外すぐに自分の番がやって来た。
「221番!」
「222番!」
「に……223番!」
「224番!」
一瞬喉が詰まってしまったものの、特に支障なく点呼は続いていく。
そうして250番まで点呼が続いたところで、誰も声を上げなくなった。50人ずつ点呼を確かめているらしい。
というか、昨日入ったばかりの俺が一番大きい番号じゃないんだな。
知雫は『同室が死んだ』とか言ってたし……もしかして新しい囚人はいなくなった囚人の番号にどんどん割り振られていくパターンなんだろうか?
そんな風に考えていると、看守が顔を上げて再び声を張り上げた。
「今日の刑務作業を希望する者はいるか! 希望者は挙手と番号を言え!」
へえ~。
朝の点呼をすると同時に刑務作業の希望者を確認するんだな。
「201番、希望します!」
「246番、希望します!」
「230番、希望します!」
はいはいそういう感じで言うのね。
……俺はどうしようかな。最初の支給品があるから日用品には困ってないけど、給金はあるだけあって困らないだろう。
繁華街の探索に出てみたい気分もあるが……。
いや、どうせいつかは金がなくなって刑務作業をするときが来るんだ。
体調が比較的マシな今に一度だけでも体験してみるか。
「223番、希望します!」
手を上げ、大声で番号を叫ぶ。
看守が少しだけ待つが、俺の後に番号を言おうとする者はいない。五十人もいて刑務作業の希望がたった四人ってマジかよ。
端末を触っていた看守が顔を上げる。
「それではこれで朝の点呼を――――」
「――――――――250番、刑務作業を希望します」
その時、看守の声を遮るように囚人の声が響いた。
俺から見て左側の奥の方の部屋の前に立っている囚人。身長が180センチくらいある長身の男で、少し長めの髪の毛を頭の後ろで縛っている。
右頬には『宇』、左頬には『宙』、額には筆記体のカタカナで『ハンドガン』というタトゥーが入っていた。
いや、なんだあのくそダサいタトゥーの男は……!?
両頬で『宇宙』の文字は百歩譲って良いとしても、額にカタカナで『ハンドガン』はないだろ。
一体何を考えて彫ったんだあんなの。
そんな風に俊介が困惑していると、看守がじとっと250番を睨みつけながら声を出した。
「……もう少し早く言え」
「はぁーい。すんませーん」
看守の注意など物ともしない様子で声を出すタトゥー男。
くるりと振り返った看守に対して「べー」と小さく舌を出している。中々厄介な性格の人物らしい。
「……それではこれで朝の点呼を終了する! 刑務作業希望者は担当の看守の指示に従うように!」
その一言で、刑務作業を希望していない囚人は一斉に繁華街へ出る出入口へと向かい始めた。
俊介を含む刑務作業希望者はその場に留まる。
「本日の刑務作業は『A棟内の掃除』だ。お前たちの担当は食堂と便所である。他の者達とよく協力するように」
……『掃除』って刑務作業になんの?
なんか木工品とか革製品とかを作るもんだと思ってたけど……。この刑務所は社会に隠匿されてるって言ってたし、そういう工芸品を作っても売るのが難しいのかな?
それとも今日がたまたま掃除の日だっただけか……。まあどっちでもいいけど。
200番から250番の間で集まった刑務作業希望者が顔を合わせる。
たった五人で掃除ってめんどくさいな。だから刑務作業か。まあ他の番号帯からも何人か集まってくるだろうし、もっと人数は増え――――。
「はいはーい! 俺はこの子と便所掃除やるから、お前ら食堂の方行って来いよな」
「え?」
背後からタトゥーの男にいきなり肩を組まれ、そう言われる。
「便所掃除希望だぁ? ま、俺らは別にやりたくねえからいいけどよ……」
他の刑務作業希望者は怪訝な顔をしながらも、慣れた様子で廊下の奥へと歩いて行った。食堂と便所のどちらの方が掃除をやりたいかと言ったら当然食堂の方に決まっているだろう。
無論、俺も便所の掃除なんてやりたくない。刑務所のトイレってなんか汚そうだし。
背後のタトゥー男に少し眉間にしわを寄せ、怖い顔を作りながら努めて低い声を出す。
「あの、なんで勝手に決めて……」
「まあまあまあまあ。新入りだろ君? いいじゃんいいじゃん、便所掃除でもしながらちょっと話そうぜ。さあほらレッツゴー!」
「あっちょっ!!」
肩を組んだまま、半ば引きずられる様に便所へと連れて行かれる。
哀れ。
身長180センチの鍛えている男に抗うほどの力は人格ナシの俊介にはなかった。
ドラマ知識だが、俺の中にある刑務所の便所のイメージは。
例えば監房の中にポツンとある汚いトイレだったり、刑務作業をする工場の傍にある、看守に向かって『用便願います!』と言わないと使えなかったりするトイレだったり……。
とにかく、そんな感じのプライバシーの欠片もクソもない便所のイメージだった……が。
「なんで刑務所の中にデパートの中みたいな公共トイレがあんだよ……?」
俊介の目の前には、大きな商業施設とかにありそうな大きめの公衆トイレがあった。
小便器は六個横に並んでるし、大便器も六個くらいある。
しかも大便器は一つが和式でそれ以外が洋式だ。
そして嬉しい事に、大便器にはそれぞれ扉付きのしきりがある。つまり個室だ。
「監房みたいな仕切りすらないクソトイレじゃなくてよかった……!」
これから用を足す時はここでしよう!
心の中で一瞬だけそう喜んだ俊介だったが、すぐにある事に気付いて気落ちする。
「俺はトイレの個室ぐらいで喜ぶような場所に来てしまったんだな……」
17歳の男子高校生、小便器と大便器について詳しく調べる。
その上個室付きの大便器に一喜一憂するとかこれもう大事な物を捨ててるだろ。既にマトモな人生プランは投げ捨てちゃってるけどさ。
ちなみにこのトイレ、男女の区別はなかった。どちらもこの場所を使用するということである。そこは分けろよ。
「こんな感じのトイレがもう二個あるから、パーッと済ませようぜ」
一緒に来た……というか俊介をここに連れてきたタトゥーの男が、掃除道具を出しながら言う。
そして俊介に便器を磨くブラシと洗剤を渡してきた。
「……分かりました」
このトイレ、個室があるのは良いのだが少し汚めである。
身近に例えるなら、まあまあマシな方の公園のトイレと言ったレベルだ。一目見て汚れてるっちゃ汚れてるねってなるレベル。
さて、まずは小便器の方からゴシゴシ洗っていくかと意気込んだ所で。
『俊介。一応気を付けておけ』
「?」
突然中からガスマスクが出て来て、タトゥー男の方に視線をやりながら声を出した。
『あの男の手……相当銃を撃ち慣れてる。体付きもガッシリしていて、重心の動かし方も悪くない。恐らく相当の武闘派だ』
「ぉぉ……」
『だがそれ以上に……また汚い話にはなるんだが……』
人格の声は聞こえないと言うのに、ガスマスクが何故か更に声を潜める。
そして俊介の耳元に口を近づけ、ぼそりと呟くように言った。
『女性がいる刑務所だから、また少し違うかもしれんが……こういう刑務所では『男色』に目覚める奴も割といる』
「ぃッ……!」
『念のため、念のためだが……一応気を付けておけ。昨日の件でキュウビがまだ暴れてるから、もう一度中に戻るが……何かあったらすぐに出てくる』
そう言って、ガスマスクは中へと戻っていった。
怖いことを言ったあとに俺の傍から消えないでくれ。
ええ……。
つまり俺が見ず知らずのこの男に突然便所掃除に誘われたのってそれが狙いってこと?
最近になってやたらと俺の尻付近への視線度数が急上昇してる気がするんだけど。全く嬉しくない。
「…………」
背後にいるタトゥー男に警戒しつつ、ゴシゴシと洗剤を付けたブラシで便器を擦る。
もはやトイレが汚れてるとか全く気にならないくらいに背中が怖い。なんで掃除より身の危険のことを考えなきゃならんのだ。
と、そんなことを考えていた時、濡れたモップでトイレの床を磨いていた男がこちらに声を掛けてきた。
「ねえ。君ってさ……新入りだよね?」
「あ……はい」
「そりゃ道理で。ここの刑務所の奴の顔は殆ど見たはずだし、一発で分かったよ」
…………!?
それってつまり、獲物を刑務所中探し回ってたってこと……?!
俊介が更に恐怖する中、男が自分の顔を親指で指しながら言う。
「俺の名前は『キャプテン・ジャン・イーグル』だ。気軽にジャンって呼んでくれよな」
「あ、どうも……俺は『日高俊介』と言います。日高で大丈夫です」
『キャプテン』……?
何かの船長だったのだろうか。
「んでよ、一つ聞きたいんだけどさ。……表でどんなことして捕まったんだ? 人対の誰に捕まった?」
「ええ? どうしてそんなことを……」
「まーまーいいじゃんか! アイスブレイクって奴よ! あ、俺が先に言った方がいいか?」
俊介が何かを言う前に、ジャンと名乗る彼は自身の表での罪状をペラペラしゃべり始める。
「俺ってば元の世界で生まれた時から『宇宙海賊』やっててさ。その影響で銃がすんごい好きなのね。んでもこの国では全然銃が流通してねえから、な~んか寂しくってさ。だからちょろっと海外から銃を持って来て売りまくってたのよ」
「は、はあ……どれくらい売ったんですか?」
「五~六万丁かな。個人経営だけど頑張って密輸したんだぜ」
いや売りすぎだろッ!!
おいマジで、今まで銃が禁止されてる日本国内なのに普通に銃を持ってる奴らに何度も会って来たけど……結構な割合でこいつの売った銃が含まれてるんじゃないのか!?
俊介が凄い顔で目の前の男を見る中、ジャンは舌を口から出しながら陽気な雰囲気で笑う。
「そうやって日々のあぶく銭を稼いでたら、ある日人対の白戸って奴が突っ込んで来てな。そのままとっ捕まって今ここよ」
「そ、そうすか……」
「はい俺の説明終わり! 日高っちはどう?」
なんだ『日高っち』って。距離の詰め方が早すぎる。
でもここで何も言わないと突っぱねるのも後々何か問題が起こりそうだし……仕方ないか。
モップの柄に顎を乗せて立つジャン。
彼の方に顔だけでなく体全体を向け、頭の中で記憶を整理しながら話す。
「まあその……昔から色々やってたのが最近になって祟ったと言いますか……」
「ほうほう。具体的に何したの?」
「まー……殴ったり、盗んだり……」
なんかそこら辺にいる悪党を殴ったり。
学校の中にいた殺人鬼の星野をぶん殴って病院送りにしたり。
デパート占拠事件でどさくさに紛れて宝石店から宝石盗んだり。
未来革命機関の拠点に乗り込んでピュアホワイトとか他の戦闘員を纏めてボコボコにしたり。
その他もろもろ、殺人鬼のみんなを宿してからの七年で数えきれないほどの余罪がいっぱい……。
…………あれおかしいな。
なんか俺、捕まって然るべき悪党に見えてきたな。
窃盗とかは殆どニンジャとかニンジャとかニンジャとかが勝手にやったことなんだけどな。
俊介が過去の行いに改めて目を向け戦々恐々としている中、ジャンが口を開く。
「ふーん。傷害に強盗……殺人は?」
「殺人はやってないです」
「そうなんだ。そこまでやってるのに?」
その一線だけは越える予定はないし絶対超えないぞ。
まあやってると思われても仕方ない罪の重ね方をしてしまっているのは、否定、しないけども……。
「じゃあもう一個。誰に捕まったの? 翠? 白戸? それとも牙殻?」
「あー……」
未来革命機関には全員来ていたしな。
別に特定の誰かにやられたって訳じゃないか。
「まあ、そうですね。しいて言うなら全員……ですかね?」
「ぜ、全員……? 白戸と翠のどっちかを倒して、他の二人が応援に来たってこと?」
「ああいや、そういう訳でもなくて……なんというか」
なんて言えばいいんだろう。
俊介は手を顔の前であわあわと動かしながら、頭の中を整理して言葉を吐く。
「色々やりすぎて、割と人対に目を付けられちゃってたんで。応援に来たというより、最初から三人一斉に掛かって来られたんですよ」
「…………へえ」
彼の声色が少しだけ低くなる。
目つきから陽気さが消え、一瞬だけ宇宙海賊と名乗った肩書に相応しい鋭い眼光が浮かぶ。
俊介も思わず警戒の色を濃くし、足を何時でも動けるように肩幅まで開いた。
だがそんな警戒をしたのも束の間。
ジャンはすぐに目つきを元の陽気な物に戻し、ニコニコと笑い始めた。
「いやー、強いんだね日高っち! ちょっとびっくりしちゃった、メンゴ!」
「そ、そうですか、あはは……」
「自己紹介終わったし俺達もうこれでマブダチだよね! 俊介っち、刑務作業終わった後ちょっと街の方に行かない?」
い、いつの間にか呼び名が『日高っち』から『俊介っち』に進化してる。
ジャンが気軽に肩を組んで来ようとするのを一歩引いて回避する。なんか怖い。
彼は自身の腕が避けられた事に少し悲しそうにしつつ、それでも努めて明るい声を出す。
「このA棟の食堂でも飯は出るんだけどさ。実はここの食堂、無料なのは良いけどぶっちゃけ不味いんだよね……」
「そうなんですか……」
「でも街の方に出たら、値段はそれなりで味がいい料理を出す店があるんだよね。刑務所来たばっかで不味い飯は気分下がるでしょ? 俺の行きつけだしそこに行こうよ!」
こっ、ここの刑務所の繁華街には料理店まで営んでる奴がいんのかよ。
殆ど探索してないからよく分かんないけど、いよいよもって刑務所の中の街とは思えないな……。
「マブダチ記念で俺が代金払うしさ! ねっ、ねっ、俊介っち?」
「ああ、はい、その……はい、わかりました……」
凄い勢いでぐいぐい近づいて来る彼の覇気に圧されてつい肯定の返事を返してしまった。
ああ、なんて俺は押しに弱いんだろう。
「やったーッ! そんじゃさ、さっさとこのトイレ掃除終わらそうぜ! もう二つのトイレの方はちょっと広いけどパッパとやれば昼時くらいには終わるから!」
「そ、そうですね。それじゃあ続きやりましょうか」
でもまあ……これが刑務所で初めて食べるご飯だし、美味しくないのは嫌だよな。
働いた後に不味い飯まで食わされたら流石に気分がナーバスになりそうだ。いつかはその美味しくない食堂のご飯の味にも慣れないといけないんだろうけど。
けど、榊浦豊に一杯食わされたばっかだから、なんか騙されてそうで怖いな……。
そう思いつつトイレ掃除をひたすらに続けた。
トイレ掃除は昼前には終わった。
しかし食堂の掃除のヘルプや看守のチェックもあり、やっぱり終わったのは昼時になってしまった。
慣れればもっと早く終われそうだな。
「刑務作業の給金だ」
看守から封筒を渡される。
中には百円玉が一枚だけ入っていた。
(朝七時から昼まで掃除して百円……まあ仕方ないか。というか給金って円で渡されるんだ……)
お金を封筒ごとポケットの中にねじ込む。
これは結構しっかり働かないと、タオルとか歯ブラシとかが一気に使えなくなった時に大変そうだ。
……というかこんなに給金が少ないのに、刑務作業する奴がこんなに少ないのはどういうことなんだ。繁華街の方で料理店営んでたりするらしいし、頭が良い人は街の方で稼ぐ手段を見つけたりしているのだろうか。
「俊介っち! さ、約束通り飯を食いに行こう!」
「あ、はい」
ジャンが声を掛けてきた。
ぶっちゃけかなり怪しい人物だけど、何も知らない繁華街を一人でさ迷い歩くよりは、先達の彼に色々聞きながら料理屋に向かった方が色々と得に思える。
そう思いつつ、A棟の薄暗い監獄から繁華街に続く出入り口をくぐる。
一瞬刑務所の外に出たかと思う程の明かりが肌に差し込む。天井にあるあのライト、一体何Wなんだろう。本当に太陽の光みたいだ。
「こっちこっち」
彼が案内する方向に付いて行く。
昨日は疲れすぎて余り気にならなかったが、この繁華街は砂煙が少し漂いがちだ。元々運動場だった上に掘っ立て小屋に近い様々な建物を作り上げているため、道路が一切舗装されていないただの砂道なのだ。
この刑務所が地下にあるということも相まり、たまに咳き込んでしまうほどの砂が舞い上がっている。
「まあ、ぶつぶつ言っても仕方ないか」
極論、この砂煙にも慣れるしかないのだ。
呼吸を出来る限り薄くして砂が体の中に入るのを防ぎつつ、ジャンを追いかける。
そうして歩く事、だいたい十分から十五分。
何度も繁華街の道を曲がりくねり、結構歩くなと思い始めていたころ。
周囲を歩く人々の人相が段々と悪くなってきているのに気付いた。
「……?」
違和感を覚えるが、口に出す程のことでもないかと思う。
人相が良かろうが悪かろうが、ここに収監されてる時点で全員犯罪者なのだ。そう大差ない。
そんな風に思いつつ、いい加減腹の虫がくるくると鳴き始めた頃。
俊介の視界にとある物が飛び込んだ。
「…………ッ!?」
視界に飛び込んだ物。
それはここに来るバスで見た件の黒いビニールシートで隠されている区画だった。地下空間の天井から降り注ぐ光が黒いビニールシートによって完全に遮光されている。
そしてヘッズハンターと同調していなくても分かるほど、ピリピリと肌に電気が走るような危険な香りが漂っていた。
俊介が思わず立ち止まると、ジャンがにっこりとした笑顔でこちらに振り向く。
「どうした? 俊介っち?」
「い、いや……ちょっとお腹、空いてないっす。帰ります」
「おっ……まあまあまあまあ!! あと少しだから、あそこに入ってすぐの所だから!」
ジャンが俊介の腕を掴み、ビニールシートの区画の方へと引っ張る。
俊介も負けじと対抗するが力勝負では一切敵わなかった。重心を必死に下にずらし、なんとかその場に留まろうとする。
「てめッ……ふざけんな! 明らかにヤバい場所だろうが! あんな所に俺を騙して連れて行ってどうするつもりだ!!」
「大丈夫大丈夫! そんなに怖くない場所だから! 別に死にゃしないって!」
「ちょっとは怖いんじゃねえか! 俺は危険なことと関わりたくないんだよ!! つかそもそも何なんだってあそこ!!」
俊介がそう言った所、ジャンは俊介の腕を掴みながら首を傾げる。
「あれ。あそこが何か知らんの?」
「し、知らねえって……」
「そうか。まあ新入りだから当然か……あそこはな」
彼がビニールシートの区画を振り返りながら言う。
「『
「コロ……処刑場……ッ!?」
俊介がその物騒なワードに一瞬だけ困惑し、足腰の力を緩めた瞬間。
ジャンは俊介の股下に足を引っ掛け、軽々とその体を空中に蹴り上げた。
「うわっ!?」
そして空から落下する俊介の体をキャッチし、勢いよく肩に担ぐ。
「うははははーーーッ!!!」
そのまま高笑いの声を上げつつ、俊介を持ったまま全速力で闘技場の方へ駆けて行った。
彼の真の目的は今の所、俊介には分からない。
『俊介っち(しゅんすけっち)』って言いづらそう。
最近一話辺りの文字数のわりに話の進むスピードが遅い気がして悩んでます。
もうちょっと描写削って話の進行を早めたほうがいいのかな……。