殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#101 食人

 

 

 

 

 

「やっほーみんな! 『魔法少女☆きゃるとる~ぜ』だっぴぃ☆」

 

 

「う、うわぁあぁああああッ!! きゃるとる~ぜだぁああああッ!!」

 

 

 シスター・イートが人を食った時には歓声を上げていた観客が悲鳴を上げ始めた。その声を聞いたきゃるとる~ぜは満足げな顔でふりふりと周囲に手を振っている。

 俊介が警戒したまま口を噤んでいる中、シスターが嫋やかな微笑みを浮かべて声を出す。

 

「おや……今日は随分と予定外のお客様が多いのですね」

「ごめんねシスター・イート! あなたのお食事を邪魔しちゃって!」

「いえいえ構いませんよ。それより本日はどういったご用向きでしょう? いつもは南区でライブをしていると存じ上げているのですが……」

「あっそうそう、そうなの! もうぷんすこぷんすこなんだよ!」

 

 きゃるとる~ぜはわざとらしくその場で地団駄を踏み、俊介の方にくるりと顔を向けた。

 そのままずんずんと大股で近づき、ぷくーっと頬を膨らませて指で俊介の腹をつつく。

 

「も~お兄さんってば! 昨日タワーの入口まで行ってチラシまで渡したのに、今日のライブに来てくれなかったでしょ!? すっごい寂しかったんだよ!」

「あ、あぁ……」

 

 俊介は昨日刑務所に来たばかりの時、彼女に渡されたビラのことを思いだした。

 書いている内容が物騒すぎるライブに行くわけもなく、丸めてポケットに突っ込んでいたはずだが……。

 

 そう思いつつ再度ポケットの中に手を突っ込むと、昨日のビラがくしゃくしゃになった状態で出てきた。

 自分の監房についてすぐに知雫にキスされたり、そのまま疲れすぎてすぐ寝てしまったりで、捨てるタイミングを失っていたのだ。

 

 きゃるとる~ぜは俊介のポケットから出てきたビラを見て大きく口を開く。

 

「あーっ! 私のチラシがぐちゃぐちゃになってる!」

「い、いや、手に持っておくのも大変で……。それに今日は刑務作業をしてて、その後にすぐここに来たから、ライブに行く時間がなかったっていうか……」

「ふうーん。そうなんだ……」

 

 何かヤバい予感を感じ、咄嗟に言い訳の言葉を吐く俊介。

 それを聞いた彼女の虹色の瞳がくるくると悩むように動き回る。

 そして数秒後、三歩ほど後ろに下がってにっこりと輝くような笑顔を浮かべた。

 

 

「じゃあ今からここで()()()してあげるね!」

 

 

「えっ」

 

 俊介の驚いた声を他所に、きゃるとる~ぜは右手を天に掲げる。

 するとその手にハートマークと星のマークをモチーフにした、ちょうど彼女の身長と同じくらいの長さがある魔法少女風のステッキが召喚された。

 そのステッキを器用に体全体で回しながら、辺りにキラキラとした粒子を撒き始める。

 

「ば、馬鹿野郎! きゃるとる~ぜのライブなんかに参加できるかッ!」

 

 本気でライブを始めようとする彼女を見て、観客達が顔に脂汗を流しながら逃げようとする。

 それを見た彼女は「あっ!」と言いながら眉間にしわを寄せ、ステッキの先を逃亡する観客に向けた。

 

「ライブに参加しないのはダメだよーっ!」

 

 ステッキの先に半透明の球状の何かが集まっていく。

 それは一秒も経たない内に発射され、無数の弾道に散らばって逃げようとする数多の囚人の心臓を貫いた。

 

「っ!!」

 

 一瞬で十人以上の人間の命が奪われる。逃げようとする観客たちはその光景を見て足を止めてしまった。

 俊介なら今の攻撃も避けられるだろうが、果たしてこれ以上の速度の攻撃がないと言い切れるだろうか。魔法に関しては、魔法の一般的には存在しない世界に産まれたから仕方ないと言えど、今一つ知識の足りないところがあった。

 

 シスター・イートが俊介に殴られた口腔内と口の調子を確かめながら言う。

 

「きゃるとる~ぜ。私はライブに参加する気はないのですが……」

「そんなこと言わないでよ! きっと楽しいから、っぴ☆」

 

 思い出したように語尾を付けるきゃるとる~ぜ。

 

「みんないっぱい応援してねーっ!!」

 

 きゃるとる~ぜはステッキの柄でカンッ!と地面を叩く。

 そしてステッキを持つ手の指を奇妙に組み合わせ、何かの印のようなものを作った。

 

 それは俊介やヘッズハンターが一度見た覚えのある――――ピュアホワイトが使ってきた『万理改竄』という技の発動準備と全く同じ雰囲気を放っていた。

 

「これは――――ッ!」

 

 ほぼ脊髄反射的に俊介の体が動く。脳裏に浮かんだのはあのピュアホワイトが突然生み出した妙な原野の光景だ。

 ピュアホワイトが追い詰められてやっと使っていたことから、恐らく魔法使いが使える特別に強力な魔法の類なのだろう。

 

「シィッ!!」

 

 俊介が咄嗟に地面を蹴ってきゃるとる~ぜに殴りかかろうとする。

 しかし拳が彼女に命中することはなく、透明な壁のようなものに拳が思い切り弾かれた。

 

「お兄さん! アイドルへの手出しは厳禁だっぴぃ☆」

 

 その瞬間、きゃるとる~ぜは虹色の瞳を更に強く爛々と輝かせた。

 ステッキの先から迸るような光が走り、テント中を目の痛くなるような虹色に照らす。

 

 

()()()()☆『誰もが私を(Don't look at)――――――』」

 

 

 きゃるとる~ぜの詠唱が始まる。

 しかしそんな彼女の言葉を遮るように。

 

 

 

 

「陽道・焔火炎(ほむらかえん)

 

 

 

 

 突如として、一直線上に伸びた青い炎がきゃるとる~ぜの体を襲った。

 俊介は咄嗟に飛び下がってその炎を避ける。

 地面に倒れた鉄網が瞬時にどろどろに溶け、テント内の温度が急上昇していく。

 

「この技は……」

 

 数秒ほど経って青い炎のビームは消え去るが、きゃるとる~ぜの居た場所に青い炎がめらめらと立ち上っている。

 しかし彼女は青い炎をステッキで振り払い、無傷のまま少し苛ついた顔をテントの一点に向けた。

 俊介もきゃるとる~ぜの顔の動きにつられる様に、彼女の向いた方に視線を向ける。

 

 

 今や鉄網でグチャグチャになっている、砂場の試合場へ入ってくるための出入り口。

 そこからサクサクと砂を踏む足音を鳴らしながら現れる女性。

 艶のある黒髪を振りまきながら入って来たのは、俊介の同室である『知雫』だった。

 なぜか片手で金ぴかのアクセサリーを纏ったマイクを持つ男を掴んでいる。

 

 きゃるとる~ぜは魔法のステッキをクルクルと回しながら知雫に声を出す。

 

「な~に? 私のライブが見たいからって手出しはメッ!だよ」

「ふん、私は約束事を無視する馬鹿を小突いただけだ。……おい」

 

 知雫は手に持つ男をきゃるとる~ぜの方に放り投げた。

 

「きゃるとる~ぜ。お前、ここの闘技場ではライブをやらないって約束をしてたんじゃなかったか?」

「そうだぞこの野郎! ここに関与しない代わりに南区の空き地をライブ会場にしていいって約束だろ!! 俺の闘技場を滅茶苦茶にしやがって!!」

「んん~……?」

 

 知雫と、先ほどまで喋っていた司会者と同じ声をした男が彼女を問い詰める。

 きゃるとる~ぜは頭の中を探るように瞳をぐるぐると回し、5秒ほど経った所で「あっ!」と声を出しながらポンと手を叩いた。

 

「そうだったそうだった! いっけない、私ったら本当うっかりさん!」

「うっかりで済むわけねーだろ! 俺の闘技場どうしてくれんだ!」

「きゃあーっ! 恥ずかしい恥ずかしい、さよならーっ!!」

 

 彼女は闘技場の運営者らしき男の言葉をフル無視する。

 そして顔を真っ赤にしながら再び軽く身を屈め、高く飛び上った。自分のぶち開けたテントの天井の穴をくぐり、そのまま空を飛んで何処かへと消えていく。

 

「…………」

 

 俊介はきゃるとる~ぜが消えていった穴を暫く見つめた後、知雫の方に顔を向ける。

 彼女もこちらに顔を向けていたが、すぐに顔を逸らした。

 

 

 きゃるとる~ぜのライブに巻き込まれなかったことで安堵したのか、観客達の放つ空気が一気に弛緩する。

 そんな空気を払拭するように、闘技場の運営者の男が立ちあがって大声を出した。

 

「あー、今日の闘技場の試合はこれで終わりだ! つか帰れ! 明日復旧作業の仕事出すから金欲しい奴は来い!」

 

 流石にここからテントの修復をして試合を続けるなんて豪胆な気概はないらしい。

 誰もその決定には逆らおうとはせず、観客達はぞろぞろと出口に向かって移動し始めた。

 

 大きくため息を吐き、その場にしゃがみ込む俊介。

 その傍に近づいて跪き、優しい声を掛けるヘッズハンター。

 

『……俊介。ジャンを探すか?』

「ちょっと待って……はあ、流石に少し疲れた。なんでこんなことに巻き込まれて……クソ、ジャンのせいか」

『まあ、囚人はどうせ夜時間に監房に帰らなきゃいけないんだ。一晩寝て、朝の点呼が終わった瞬間に捕まえてぶちのめすのも良いと思う』

「そうするか……。今日はもう無理だ……」

 

 想像しているよりも体にどっと疲労が溜まり、体が重い。

 よく考えたら未来革命機関に攻め込んだ日の朝飯から何も食べてないんだ。丸一日以上何も食べずにこんな戦いをしてたらそりゃあヘッズハンターの身体能力でも疲れはする。

 いや、チュロスは一口だけ食べたな。ああでも、飲み込まずに地面に吐いたか……。

 

 と、頭の中で食べ物のことばかり考えていたその時。

 

「もしもし。大丈夫ですか?」

「うっ。……何だよ、まだやる気か?」

 

 俊介がしゃがんでいると、シスター・イートが真上から話しかけてきた。

 たとえこの体勢からでも彼女の腕の動きよりも速く動けるが、一応立ち上がる。

 しかし彼女は顔の前で血に濡れた手を横に振りながら俊介の言葉を否定した。

 

「いえいえ。私は食事するためにここに参加しているので、試合が終われば食べようとはしませんよ。それに、運良く()()()も出来たことですし」

「お弁当?」

 

 疑問の声を上げながら俊介はシスターの指差した方向に顔を向ける。

 そこには先ほどきゃるとる~ぜの魔法によって心臓を貫かれた十人以上の死体があった。じゅるるとシスターの口から涎をすする音が僅かに響く。

 俊介は顔を大きくしかめた。

 

「趣味が悪すぎる……」

「食人は嫌いですか? 案外()()になりますよ」

「慣れればイケるみたいな言い方すんな」

 

 生きているならいざ知らず。

 死んでしまった赤の他人を食うと言われたところで、全力で止めようとするほど俊介は正義感が強くない。気味の悪さを覚えはするが、生きている人間を食べられるよりはマシ……という考えだ。

 そもそもあそこで死んでしまった人たちもきゃるとる~ぜが来なければ死んでいなかったのだが……。

 

(いや待てよ。きゃるとる~ぜが来たのは俺に会うためだったっぽいし、もしかしてあの人たちが死んだのは、俺のせい……?)

 

 一瞬だけそう考える俊介。

 しかし無理やり試合に参加させたのは他ならぬジャンだ。

 それでも俊介が全力で逃げようと思えば闘技場から出られはした……。

 

「少し、悩んでおられる様子ですね」

「…………」

「恐らくあのお弁当の方々が命を落とされた要因が自分にあるのではないかと。きゃるとる~ぜを呼び寄せたのは自分ではないかと考えておられるのではないですか?」

 

 視線を下に向けながら考える俊介にシスターが優しく声を掛ける。

 そう考えていたのは事実なので、否定の言葉を吐かない無言の肯定を彼女に返した。

 シスターは無言の俊介の前に跪き、両手を合わせる。

 

「出来事というのには、無数の細かい要因が重なっている物なのです。決してあなただけの罪ではありません。あの方々が亡くなられたのはあなたの罪であるかもしれませんが、回り巡って私達の罪でもあるのです」

「…………」

「運命や未来は神しか見ることができず、人に未来を見通すことはできません。それでも私達は精いっぱいこの世界を生き続ける。これは神が私達に与えた試練なのですよ」

「……そう、か」

 

 俊介がぶっきらぼうに返事をすると、シスターは幸薄な笑顔を浮かべて立ち上がった。

 そして自身がお弁当と呼称する死体の方へ歩いて行く背中に、俊介は声を掛ける。

 

「シスター・イート」

「はい。なんでしょう、日高俊介さん?」

「突然だけどさ。俺も一人だけ、食人に関係のある人物……いや人格を知ってるんだ」

 

 彼女が不思議そうな顔を浮かべる。

 俊介がそう言った瞬間、すぐ傍で会話を聞いていたヘッズハンターが目を見開いた。

 

『俊介!? 一体どうした?!』

「その人物は料理人だったらしくてな。俺も詳しくは聞いたわけじゃないけど、何でも孤児院で子供たちの面倒を見ていたとか……」

「…………」

「でも戦争で次第に食べ物がなくなって、それでも子供達に腹いっぱい食べさせようとして、食人に手を出したって……」

 

 シスター・イートは視線を静かに俊介に向けたまま、その言葉を最後まで聞き終わった。

 そして、ぷいっと顔を弁当箱の死体の方に向け直す。

 

「そんな男の方は知りませんよ。どうしてそんな話を突然されたのですか?」

「…………いや……」

「それでは私は失礼しますね。お腹が空いてきてしまったもので」

 

 彼女は背中越しに俊介に返事をした後、トストスと先ほどよりも少しだけ足音を鳴らしながら歩いて行った。

 会話が終わり、ヘッズハンターは俊介に問い詰める。

 

『どうしていきなりあんなことを……? 今のはクッキングの話か?』

「ま、そうだ」

『人殺しが宿ってるってバレたくないんじゃなかったのか……。少し考えなしすぎる行動じゃないか』

「……そりゃ黙ってる方が良かったんだろうけど、何となく……何となくな」

 

 

 クッキングから前世の話を少しだけ聞いたことがある。

 その時から多少思っていたのだ。

 戦争で人を食わせなければならない程に食べ物が減った中、クッキングを殺した孤児院の子供達は果たしてその後生きていけたのだろうかと。

 

 もしかすると、いやほぼ確実に、子供達は『餓死』してしまったのではないだろうかと。

 

 この俊介の予想が正しいなら、子供達は人を食った経験がありながらも飢えで苦しんで死んだことになる。

 だからと言って、人の味を知りながらも餓死した者が食人を好んで行うようになるかと言われれば、必ずしもそうとは言えないが……。

 

「…………」

 

 シスター・イートに突然クッキングの過去の話をした理由は殆ど勘によるものだ。

 ヘッズハンターの同調によって引き上げられた第六感がそれとなく反応してしまい、つい行動してしまった……という感じである。

 

 俊介は脳裏で彼女の放った言葉を思い出しながら、ポソリと呟く。

 

『そんな『()』の方は知りませんよ。どうしてそんな話を突然されたのですか?』

「……俺、性別までは言ってないけどな……」

 

 彼女があてずっぽうで『男』と言った可能性はある。彼女の異世界では『料理人が男』なのが常識で、そのままつい男と言ってしまった可能性だ。

 

 ……だがもし、シスター・イートがクッキングの前世での関係者だった場合。

 本当にそうだったとしても。

 ()()()()()()()()()()()と殺人鬼になったシスター・イートを会わせてあげるべきなのか、俊介には分からなかった。

 

 それが本当に幸せな再会になるかどうかは、それこそ『神だけが知る』という奴なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






まあシスター・イートの言う神(別世界の奴)を殺してる奴が作中に二人も登場してるんですけどね
なんだコイツら?!



――――――――



Q.『魔法少女☆きゃるとる~ぜ』はなんでここまで怯えられてるの?
A.シスター・イートは観客には手を出さない。試合に参加した者もしくは乱入者だけ食べるし、お腹いっぱいになったら満足して大人しくなる。
 きゃるとる~ぜは観客をライブに参加させようとする。参加すると基本死ぬ。


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