殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#103 問い詰め

 

 

 

 

 腹を満たした俊介は食器を片付け、自分の監房に戻る。

 そして自分のベッドに転がっていた支給品のナップザックから歯ブラシを取り出し、掃除したばかりのトイレの洗面台で歯を磨いた。

 それらの所用を終わらせ、監房のベッドに腰掛ける。

 

「…………」

 

 先ほど闘技場にて姿を現した知雫は帰ってきていない。

 なぜ突然あの場所に現れたのかは分からないが、彼女のおかげできゃるとる~ぜの『ライブ』とやらに巻き込まれなかったのは確かだ。

 一言くらいお礼を言っておいた方がいいと思ったんだけど……。

 

「まあ夜10時には監房に帰ってくるんだし、その時でいいか」

 

 そう呟きつつベッドにごろんと寝転がる。

 ちょっと時間つぶしにスマホでも触ろうかと思ったが、スマホなんて持っている訳がない。闘技場が娯楽になるくらいだし刑務所の中に楽しめる物が少ないと言うのは本当なんだな。

 

 けど娯楽がないくらいじゃないと、刑務所で罪を償ってるとは言えないからな。

 まあここの刑務所の連中は罪を償ってんのか重ねてんのか分からないけど……。

 

 スマホもなく、ゲームもなく、本もないとなればいよいよすることがない。

 仕方なく晩御飯の時分まで軽く寝ようかと思ったその時、はたと気付く。

 

「ヘッズハンター。今から寝るから、ちょっと同調やめるわ」

『おー、分かった。……やめ方分かんの?』

 

 ヘッズハンターの問いに俊介は身を起こして答える。

 

「前回は牙殻さんに気絶させられていつの間にか同調切れてたからな。まあなんかこう、良い感じにやれば……フンッ!」

 

 頭の中でヘッズハンターと繋がる細い糸をイメージし、それを空想のハサミで切る。

 すると先ほどまで嘘のように冴えていた勘が鈍くなっていき、身体能力が元の一般男子高校生のそれに戻っていくのが分かった。どうやらこの感覚で良いらしい。

 

 俊介はヘッズハンターに顔を向ける。

 

「じゃ、俺はね、ね、ねねねねね…………」

『?! どうした俊介!』

「何じゃこりゃ……おっぉ、馬鹿みたいに強い眠気が……」

 

 同調を切った瞬間、授業中に襲い来る強烈な睡魔を何十倍にも強めたような眠気が襲い掛かって来た。

 視界がぐるぐると渦巻く中、ぐわんぐわんと頭を前後左右に揺らし、最終的に枕の上へと頭を倒す。

 

「おや、すみ……」

 

 そう呟きながら目を閉じた瞬間、俊介の意識は一瞬で暗闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………い、おい。いい加減に起きろ! これで二回目だぞ!!」

「ん……?」

 

 ゆさゆさと体を勢いよく揺すられる感覚で目が覚める。

 俊介の体を揺らしていたのは知雫であった。

 

 彼女は目を覚ました俊介の顔をじとっと見た後、ふんと鼻を鳴らす。

 

「なんであんなデカいベルの音が鳴ってるのに目が覚めないんだお前は。もう朝の点呼だぞ」

「え……あ、朝?」

 

 重い瞼を擦りながら俊介は立ち上がり、監房の扉の外に出る。

 そこには以前の点呼時と同じように囚人達がずらっと自身の監房の前に並んでいた。

 

(ちょっとの昼寝のつもりだったのに……。えっと飯食った後に寝たのが大体昼の2時とか3時だったから、朝7時の点呼まで大体16時間寝てたのか……。……16時間!?

 

 いくら眠たかったとは言え流石に寝すぎだろう。

 しかも先ほど知雫に起こされていなかったらもっと寝ていた可能性もある。

 前日に徹夜して動いていたとかならともかく、刑務所に来たばかりの一昨日はたっぷりと睡眠は取っていた。流石に何かが妙だと一目で分かる。

 

(やっぱりここまで深く眠ってたのは、あの昼寝前に来た強烈な眠気のせいか……? でもあの眠気は確か同調を切ったすぐ後に突然来たよな……)

 

 俊介は眠たげな頭を徐々に覚醒させながら考える。

 

(試行回数が少ないから分からないけど、あの『強烈な眠気』は『同調』の仕業の可能性が高いな。まあでも、よくよく考えりゃあそれくらいの問題があって当たり前だよな……)

 

 素の身体能力はあくまで平均的な男子高校生レベルしかない俊介。

 殺人鬼の面々が起こした面倒事のあれこれにより常人以上に勘は冴えてる方だが、それでも遠方からの銃弾を事前に察知して回避なんて出来るほどには優れていない。

 

 そんな俊介がヘッズハンターと同調するだけで、時速600キロで移動しながら銃弾をホイホイ回避する人外に変貌するのだ。

 これほどの技にデメリットがない方が逆に恐ろしい。

 寧ろ目に見えて分かりやすい問題点があって助かったと思うべきだ。

 

(恐らく同調を『自分から切る』か、『気絶もしくは睡眠』をすると『ほぼ強制的に長時間寝てしまう』って所かな……?)

 

 と、そこまで考えたが。

 同調し続けていれば眠気は来ないし、寝るときも安全な場所に行けば寧ろぐっすり熟睡できるのだ。

 問題点と言えば問題点だけど、恩恵の割にはデメリットと言う程ではない気がする。

 

 そんな風に俊介が深く考え込んでいると。

 目の前に突然暗い影が現れ、咄嗟に顔を上げる。

 

「223番! 聞こえているのか!」

「へっ、あっ、はい!!」

「聞こえているなら最初から返事をしろ!!」

 

 看守は大声でそう怒鳴った後、点呼の続きを始める。

 どうやら深く考え込みすぎていて点呼の声を聞き逃していたらしい。周囲の囚人の視線が痛い。

 

「ぷっ、くく……」

 

 一人の囚人がこらえきれずに若干声を漏らして笑っているのに気付く。

 それは昨日俊介を嵌めて闘技場の試合に乱入させた張本人であるジャンだった。

 

(――――ぶちのめす――――)

 

 俊介はこめかみに青筋を立てながらそう決意した。

 そして看守の点呼が終了し、刑務作業希望者の挙手が終わり、囚人達が一斉に動き始める。

 

 その瞬間に俊介は首に手を当ててヘッズハンターを呼び出した。

 

「ヘッズハンター。同調」

『ああ』

 

 人外の身体能力を身に宿しながらジャンのいる方向に歩く。

 ジャンは自分の方に俊介が向かってくるのを予想していたのか、逃げることなく監房の前で立ったまま待機していた。

 俊介はジャンの前に立つ。

 

「お前、昨日はよくもやってくれたな……」

「あーあー俊介っち、怖い顔しないでって。クールダウンクール―――っごッ!?」

 

 看守が見ていないのを確認し、俊介はジャンの腹に軽く掌底を決めた。

 そして彼の右手首を掴んでジャンの監房の扉を開け、そのまま顔面を掴んで中に引きずり込む。

 

 ジャンの監房にも同居人がいる様子はあるが、今は外に出ているらしい。

 部屋の作りは俊介の監房と丸きり同じだが少しだけ物で散らかっている。しかしそんな事は今はどうでもよく、二段ベッドの下の段にジャンの体を放り投げた。

 

 俊介は眉間にしわを寄せ、ジャンに低い声を放つ。

 

「昨日はシスター・イートやきゃるとる~ぜなんて奴らが出て来て、危うくとんでもない事になるとこだったんだぞ。それを『クールダウン』って馬鹿にしてんのか?」

「ごほっ……いや、マジでメンゴメンゴ。まさかシスター・イートが順番抜かしたり、きゃるとる~ぜが来たりするなんて俺も思わなくてさ~。正に予想外――――いったぁ!?」

 

 ジャンの右頬に軽く平手打ちを入れる。

 時速600キロで動ける者の軽くは軽くで済まない気もするが、ジャンはそれなりに頑丈なのか痛がっているだけで済んでいる。

 俊介はさらに低い声で脅すように言葉を発した。

 

「いい加減にしろ。お前何が目的であんなことをしたんだよ?」

「うーん……それはもう、前も言った通り賭けで……」

「いいや違うな。俺を参加させて戦わせること自体に意味があったんだろ? ……そんな内容を『ゼロツー』って男と話してたみたいだしな」

「!!」

 

 俊介が『ゼロツー』という名を出した瞬間、ジャンの表情が明らかに驚愕した物へと変わる。

 瞳がぐるぐると部屋中の隅をなぞるように動き回った後、大きくため息を吐いた。

 

「ふぅ~。まさかそこまで情報を手に入れてるとは……少し驚いたな……」

「観念したか?」

「まあねえ~……」

 

 ジャンがベッドの上で少しだけ身を動かし、監房の中にある古い木製の机に手を伸ばす。

 そして引き出しから紙製の煙草とライターを取り出し、口に咥えてからシュボッと着火した。

 大きく煙を吸い、吐き出した紫煙が監房の排気口に音もなく吸い込まれていく。

 

「……ゼロツー。今から会いに行くけど……一緒に会うか?」

「俺が一緒に? 会わせてどうするつもりだよ?」

「ぶっちゃけその辺りはゼロツーに聞いた方が早いな。『計画』のリーダーも、成功に大事なキーを握ってるのもゼロツーだし」

「『計画』……?」

 

 俊介が聞き返すも、ジャンは答えない。

 ……恐らく闘技場に無理やり乱入させられたのも、その『計画』というのが関与しているのだろうけど……。

 チラリとヘッズハンターの方に向けるが、

 

「一緒に行くかどうかは、その計画とやらの内容にもよる。また闘技場の件みたいに危ない事に巻き込まれても困るしな」

「ふ~ん……ま、そうやって警戒心を持つのはいいことだと思うぜ。なんたって宇宙『海賊』の言うことだからな、一から十まで信用しちゃあ上手く行かねえよ」

「自分で言うな」

「それもそうだな、あっはっは!!」

 

 ジャンが煙草を持ちながら大笑いする。

 そしてもう煙草を口に咥えてもう一度大きく吸い、煙と共に言葉の続きを吐いた。

 

「……誰もが成し得なかった『()()()()()()()』……興味ないか?」

「!!」

 

 目を見開く俊介。

 しかしすぐに瞼を細め、怪訝な視線を向ける。

 

「ここの囚人はみんな脱獄を諦めるってお前が言ってただろ……」

「この先の話はゼロツーと会って聞きな。俺から話しすぎて変な誤解をさせちまってもよくないしよ。ただ……計画の詳細を聞けば、俺が俊介っちを闘技場に乱入させた意味も分かる」

「…………」

 

 脱獄……。

 ジャンは確か自分からここにいる囚人の大半は脱獄を諦めると言っていた。その理由を闘技場で探そうとしたが、闘技場は結局ぶっ壊れて情報集めどころじゃないし……。

 

 何かは分からないが、ジャンは囚人達が脱獄を諦める理由を知った上で脱獄を目指しているんだろう。

 けどその計画と俺を闘技場に参加させたことに何の関係性があるんだ?

 分からないな……。

 

『分からないなら分からないなりに飛び込んでみるのも一興ではないでござるか?』

「ぅぉ」

 

 いつの間にか外に現れていたニンジャがすぐ傍でそう言ってきた。

 

『なんとかキュウビも大人しくなって、やっと拙者らも動けるわけでござるし。なあキュウビ?』

『ほほほ。そうですわね』

「…………」

『ほらキュウビもこう言ってるでござる』

『ほほほ。そうですわね』

 

 ニンジャと同じくいつの間にか現れていたキュウビ。

 しかし何時もと雰囲気が違うというか喋り方がおかしいというか。普段は気の強そうな吊目の要素が強い狐目がとろんと垂れ気味の目になっている。どうなってるんだそれ。

 

「それでどうする? 俊介っち?」

「…………うーん……」

 

 キュウビがちょっと変だけど大人しくなって、俺より頭のキレる面々がやっと自由に動けるわけだし……。

 同調もしてる状態だからそうそう武力行使になったとしても負けることはないだろう。

 多少の危険に飛び込まなきゃ、何も判断できないか……。昨日の闘技場は確実に危険すぎたけど……。

 

「……よし」

 

 俊介は覚悟を決めたように声を出す。

 そしてジャンに言葉を返した。

 

「そのゼロツーって奴に会って話を聞く。ただ変なことしようものなら殴るぞ」

「よっしゃ、オッケー! そんじゃ早速行こうか、ゼロツーは別の棟に収監されてるからな」

 

 ジャンは嬉しそうに立ち上がり、火の点いたままの煙草を素手で握り潰した。

 ぐちゃぐちゃになった煙草を机の上にある灰皿に捨て、監房の扉を開く。

 

「何処の棟に収監されてるんだ?」

 

 俊介が聞き返すと、ジャンは肩越しに振り返り。

 

「きゃるとる~ぜが収監されてる『C()()』だよ」

 

 少しだけ低い声でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうもー! 0と1で構成されるコンピュータのルールを超越した『02』!」

 

 

「人呼んで世界最強の大天才スーパーハッカー『()()()()』ってのは()()のことだよーん!!」

 

 

 

 

「…………」

 

 予想と全然違う奴が出てきた。

 

 

 

 

 

 





あんまり話が進んでないところで切ってしまった……。



――――――――



すみません、ちょっとリアルでの色々な用事が溜まってきているので明日の投稿をお休みします……!
明日で一気に片付けて明後日からまた更新再開したいと思います。
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