殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

109 / 158
#104 ゼロツーの計画

 

 

 この刑務所は繁華街にあるタワーを中心に120度ずつ分けるように線を引いた三方向にA棟、B棟、C棟の入口がある。ちなみに並ぶ順番は時計回りにABC。

 俊介はジャンに連れられ、繁華街を通り抜けてC棟の入口の前に来た。

 

「…………」

 

 C棟の出入り口からは年齢が明らかに15歳にもなっていないような少年少女が頻繁に出入りしている。

 彼らは出入口前にいる俊介達にチラリと視線を向けるが、すぐに興味をなくしたように歩いて行った。

 

『今までC棟の囚人を何人か見てきたが、やっぱり全員小さいな。C棟ってのは小さい奴が収監される棟なのか……?』

 

 ヘッズハンターが隣で呟く。

 彼の予想は遠からず当たっているだろう。

 なぜなら。

 

「なんか天井、低くね……?」

 

 俊介の前の前にあるC棟の出入り口。扉がないのだけはA棟と同じだが、明らかに天井がA棟の物より低い。

 A棟の出入り口は高さが目測で大体3メートル近くあるが、C棟の物は2メートルと十数センチくらいしかない。

 そして出入口をくぐった先にある廊下の天井も大体2メートルと少しの高さだ。170センチの俊介が手を上に伸ばせばさらさらと天井を触れてしまう。

 左右にある監房の扉も電子錠のリーダーが低い位置に設置されていて、身長が低い者が使いやすいようにされている。

 

 この刑務所の囚人にはシスター・イートのように身長が2メートルを超えるような者もいる。そんな大きな体の持ち主が暮らすことが一切想定されていない設計が節々に見える。

 やはりC棟は小さな体の持ち主や年齢が低い囚人が暮らすために作られた棟なのだ。

 

(……それにしても……)

 

 ジャンが勝手知ったるように入口をくぐり廊下の先へツカツカと歩いて行く。

 その後を付いて行きながら、俊介は周囲の様子を観察した。

 

(A棟より明らかに雰囲気が淀んでるな……。危険な香りが強い、って言うのか……)

 

 先ほど『年齢が低い囚人が暮らす』と言った。

 それはつまり『10歳の宿主の体を即座に乗っ取り、その上で人対に捕まるような犯罪を行った』者達の集まる場所ということである。

 新しい人生においてもすぐに犯罪を犯してしまうような危険人物、もしくは犯罪ジャンキー。

 そんな者達が大量に集まっているのだからA棟より空気が淀んでいるのは必然とも言える。

 

 

 そしてジャンが暫く監房エリアを歩き続ける中、ピタリととある部屋の前で足を止めた。

 扉には『C-081/C-082』という白地に黒い文字のプレートが貼られていた。

 

 ジャンは右手を丸く握り、ガンガンと鋼鉄の扉を叩く。

 

「ゼロツー! 起きろ、ゼロツー!」

 

 そうして待つこと三十秒ほど。

 扉の中から微かにドタバタと動く音が聞こえた後、ピピッ!という電子音と共に扉が開いた。

 

「うるさいな、そんなに強く叩かなくても起きてるっつーの! というかお前あの日高俊介って子にちゃんと謝って……んあ?」

 

 中から出てきたのは、艶のある黒い髪を肩の辺りで切り揃えた少年。

 恐らく年齢は11歳か12歳くらいだろうと伺える145センチくらいの身長とあどけなさが残る童顔。その顔は俊介が思わず驚くほどの美形であり、刑務所の外で少年アイドルとして今すぐテレビに出れそうなほどに整っている。

 

 ゼロツーと呼ばれた彼は眠たげな目をこすりながら、ジャンの後ろにいる俊介の姿を見る。

 そして状況がよく理解できていないのかこてんと首を傾げた。

 

「…………? えっ、お前何でその子ここに連れて来てんの?」

「バレちゃった☆」

「は? 何、どこまで?」

「ゼロツーと話してるのいつの間にか察知されてたみたいで、まあいいかと思って計画のあらましまで話しちゃった☆」

「…………??? いや計画のことはお前がバラしてんじゃん。えっ、どっ、寝起きだから頭回ってないよ今」

 

 ゼロツーはくるくると目を回しながら状況を理解しようと少しの間考え込んだ後。

 とりあえず親指で自身の右方面の廊下の奥を指した。

 

「うん! とりあえず移動しない?! 歩きながら頭の中整理させて!」

「あ、はい……」

 

 未だに頭の上にハテナマークが浮かんでいるゼロツーの言葉を前に、思わず俊介は肯定の言葉を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 俊介を含む三人が集まったのは、C棟内にある図書室だった。

 しかし図書室と言えども蔵書の殆どは子供向けの絵本や道徳に関する小難しいことが書かれた本であり、娯楽として読むには少し退屈な物ばかりである。

 その証拠として、娯楽の少ない刑務所内なのに来ている囚人は俊介達を含めて10人も満たなかった。

 

 俊介達がいるのはその図書室の一番奥にあるテーブル。

 壁や柱の配置のおかげで人目に付きにくく、勝手に本棚を移動させれば普通の会話声くらいなら音漏れしないという、秘密の話をするには正にうってつけの場所であった。

 

 

 

「どうもー! 0と1で構成されるコンピュータのルールを超越した『02』!」

 

 

「人呼んで世界最強の大天才スーパーハッカー『()()()()』ってのは()()のことだよーん!!」

 

 

「…………」

 

 

 そんなわざわざ作り上げた秘密の場所の防音性を貫通する声を上げるゼロツー。

 そしてその後すぐに落ち着き払った様子に戻り、自身の左に座るジャンに問いかけた。

 

「それで……えっと、どこまで話したのジャン? 明るく自己紹介しただけで取り払えない程重い空気が流れてるよどうしてくれんだオラァン」

「『脱獄計画』の話があるから聞いてみませんかって言っただけ。詳細は話してない」

「当たり前だよお前。何も妨害してないのに詳細話してたら僕様がお前の目玉に指突っ込んでるよ」

 

 対面にいる俊介をチラチラと見ながら小声で話す二人。

 すぐにゼロツーが咳払いしながら座る姿勢を整え、机の上で両手をもみながら話し始める。

 

「さっき自己紹介した通り、僕様はゼロツー。外ではハッカーとして色々な企業にクラッキング……具体的に言うと第三者から依頼を受けて企業のシステムを破壊したり、抜き取ったデータを売り払ったりしてた。諸々込みで20億は稼いだかな」

「20億……?!」

 

 俊介が思わず声を上げる。

 財布の中の数百円が足りないことで偶に悲鳴を上げる俊介にとって、20億というのは想像もつかない程の大金であった。

 

「まあハッカーとしての腕は相当な物って自負してるんだけどね。ちょうど20億稼いだある日、『僕様は電子上でこんなに強いんだからリアルでも強い!』って調子に乗って、コンビニで万引きしようとしたのよ」

「はあ」

「そしたら普通に店員に捕まって、家にあるパソコンから色々バレて、人格犯罪者としてしょっぴかれちゃった」

「ええ……」

 

 アホかこいつ。

 どうしてそこで外に出て犯罪をしようとするんだよ。

 

 俊介が呆れた表情を浮かべていると、ゼロツーは懐から何やら妙な物を取り出した。

 アルミホイルに色々な電子部品らしきものが取り付けられた、自作感満載の妙な代物だった。

 

「それで、例の話を今からするんだけど……その前にこれだけ付けてくれない?」

「? 何だその……」

「あっダメダメ口に出すな。秘蔵のブツなんだから」

 

 彼は身を乗り出し、机の上にのせている俊介の両手首にあるリングに謎のアルミホイルをくるくると巻いて行く。

 そして自身とジャンのリングにも同じものを巻いた後、ふーと息を吐いた。

 

「そのリング、盗聴器が中に入ってるんだよ。今巻いたのはお手製の電波遮断兼ジャミング装置」

「盗聴?!」

「今看守には僕様たちが適当に会話してる声が聞こえてるはずさ。そういう風に作ってるから」

 

 俊介は自身の手首のリングに視線を降ろす。

 ホログラムの地図も表示できて、囚人を殺す何かも入ってて、その上盗聴器も仕込んでるなんて……。

 でもここの囚人の危険度を考えたら盗聴なんてやってて当たり前かもしれない。

 

「ここから先は『脱獄計画』の詳細の話をするからね。看守に聞かれる訳にはいかんのさ」

「いやでもさ、今までこのリングの盗聴を防ぐ前に何度も『脱獄』って言っちゃってたけど……」

「あー大丈夫大丈夫。ここの囚人共はよく『脱獄してやる』って無駄な啖呵切ってるから、僕様達のもその類だと思われてるはずさ。ただ詳細な計画内容を聞かれると流石に不味いんでね」

 

 どうやらここの囚人達は『脱獄』という言葉を気軽に話し合っているようだ。

 しかしゼロツーが言うように、それは一種の冗談として言っているだけで、本気で考えている訳ではないらしい。

 

 話し始めようとするゼロツーを前に、俊介は疑問を一つ問いかける。

 

「というかさ。なんかトントン拍子で何の障害もなくここまで来たけど、脱獄計画に参加するか決めてない俺に詳細まで話して良いのか?」

「参加してくれないと困ります。こっちは既に君に命運を賭けてるぜ!」

「ええ……?」

 

 なんで知りもしない脱獄計画の命運を勝手に賭けられてるんだよ……?

 

 困惑する俊介を前に、ゼロツーが言葉を発する。

 

「それで、僕様達の脱獄計画なんだけど……まず初めに最終目標を言っておく。そこが一番君に協力してほしい点でもあるから」

「『最終目標』……?」

「うん」

 

 こくんと頷いたゼロツー。

 俊介が続きを促すより早く、彼が言葉を吐いた。

 

『警察庁地下サーバー』にある『人格犯罪者の全データ抹消』。そして僕様達の犯罪歴のリセット。それが『最終目標』だよ」

「ッ?! ()()()ォ……ッ!?」

 

 全く予想だにしない言葉が出て来て、思わず面食らう俊介。

 俊介の傍に居る人格達も急にスケールの大きくなった話にほんの少しだけ驚きを見せていた。

 

「警察庁って、そんなの無理だろ! 警察の本丸だぞ……?! 脱獄より遥かに難しいじゃんか! 霞が関だぞ霞が関ィ!」

「まあ普通なら無理だね。だって確実に『人対』が三人揃って出てくるから」

「人対……そりゃそうだ、警察の本当の中枢なんだから」

 

 俊介は人対の三人を脳裏に思い浮かべる。

 警察庁という警察の本当の本部に攻め込むとなればあの三人は確実に出張って来るだろう。そして脱獄者相手に以前のような情けを見せる訳がない、今度こそ本気で殺しに来るはずだ。

 そんな風にゼロツーの言い出したあまりに突飛な最終目標に困惑する俊介。

 そこに腕を組んで様子を見守っていたニンジャが、至極当然と言った風な声色で言葉を発する。

 

『というかでござるな。人格犯罪者のデータが警察庁の地下サーバーにしか保存されていない訳がなかろう。他の所にバックアップがあって当然、そこから復旧されたら警察庁に行くだけ無駄足でござる』

「そ、それもそうだ……。警察庁の地下サーバーとやら以外にも、人格犯罪者のデータなんていっぱいバックアップが保存されてるだろ。いや情報工学的なのは全然分かんないけどさ……」

 

 そう俊介が言った瞬間。

 ゼロツーは目をキラキラ輝かせながら、ぺちっと掠れた音の指パッチンを行った。

 

「そこがこの計画の『時期が良い』点なんだよ! この脱獄計画は本当に鮮度ありきなんだ!」

「鮮度……?」

「この国、いや世界各国が人格犯罪にどういう扱いを取ってるかは知ってる?」

「ん……」

 

 彼の問いに俊介は顎を抑えて考える。

 そして頭の中を整理しつつ、少しだけ蛇口を緩めた水道の如くとろとろと吐き出すように答えた。

 

「確か、人格犯罪は何でもかんでも隠蔽してるんだっけ。浮遊人格統合技術の悪い点を隠して人々に疑問を持たせず、10歳の子供に浮遊人格統合技術の注射を受けさせてずっと人格ガチャし続けるために」

「そうそうそうなんだよ!! つまり国は人格犯罪は危険って分かってるけど、絶対に人格犯罪のことを表に出す訳にはいかないんだ!!」

「はあ……」

 

 いまいち要領を得られず、生返事を返す俊介。

 興奮したゼロツーがまくしたてるように言葉を続ける。

 

「というか世界の大国がガッチリ肩組んで人格犯罪を隠してるからさ、一つの国が人格犯罪のことをうっかり表に出しちゃうとまあ大変なことになるのよ!」

「えっと……どうなるんだ?」

「今はSNSで情報が一気に拡散される時代だからね。例えば『きゃるとる~ぜ』の人格犯罪のデータなんか表に出てみろよ、一気に拡散されて浮遊人格統合技術のメリットなんか頭から全部吹っ飛ぶぞ? そうなりゃもう雪崩式に全ての国でガラガラ崩れるだろうね、浮遊人格統合技術の天下の時代が!」

「うん……まあ、そうかも」

 

 三百人近く殺してる魔法少女の人格犯罪が外に出回ったら、それはもう大事件だろう。

 だって三百人も人を殺してて、尚且つ国がその事件を隠蔽してたなんて知れたら……。

 まだ比較的温厚な日本なら大きなデモが大量に起きるだけで済むかもしれないが、海外だとマジで武力で政権打倒なんて事態が起きてもおかしくないんじゃないだろうか。

 

「つまりさ。『人格犯罪が表に出る』っていうのは浮遊人格統合技術の時代が終わる最初の一押しなんだ。その一押しを何処の国も、当然この日本って国も絶対に避けようとしてる。そんな事したら確実に世界中から恨み辛みで制裁されるのが目に見えてるからね」

「そう……か? 寧ろ人格犯罪が明るみになって、色々感謝する人もいそうだけど……」

「まあそういう人もいるだろうね。でも最初の一押しをしてしまったその時、政権に深く関わってた人間は確実に死体で上がるだろうね。他の国の偉い方からの殺し屋の手によって」

「ああ……なるほど」

 

 少しだけ話が掴めてきたぞ。

 つまり人格犯罪を最初に表に出してしまった国。その時に国の舵を取ってた偉い人達は確実に他国の偉い人達の恨みによって殺されてしまうわけだ。

 それを避けるため、偉い人達は必死に人格犯罪のことを隠し続けていると。

 

 なんか……アレだな。

 浮遊人格統合技術の利益を上手く吸い上げるつもりが、いつの間にか世界中でお互い雁字搦めになって逃げられなくなってるんだな。

 哀れだ。同情はできないけど。

 

「でも別に、僕様達は人格犯罪のことを表にバラす訳じゃないからね。あくまで消しに行くだけだから。もしバラしちゃったらマジで国が殺しに来るだろうし」

「まあそうかも。けど……さっきまでの話が、警察庁の地下サーバーの件とどう繋がるって言うんだよ?」

「えっとね。僕様が刑務所の外にいたとき、『いっちょ人格犯罪でも世界にバラしてやるか』と思って警察のサーバー全部調べたんだよ」

「は?」

 

 さっき言ってたことと全然違うこと言ってるじゃねえか!

 人格犯罪を表にバラしたら国が本気で殺しに来るって言ってたのに何やってんだよ!

 

「いや、『そろそろこの浮遊人格統合技術の時代を終わらせてぇ~!』って思っちゃって」

「思っても実行していいことはこの世にはそんなに多くない」

「まあまあ。でもその時いくら調べても警察には人格犯罪のデータが全くなくてさ……でもね、警察庁の地下に入ってそうなサーバーがあるって言うのは分かったんだよ。外部から完全に遮断されてる物がね」

「なるほど……なるほど?」

「国が絶対に隠したい情報を置くとなれば、一番安全な警察庁の中で外部から完全に遮断されたサーバーに置く。だからそこに入ってると()()んだよね」

「『思う』だと?」

 

 ゼロツーの言葉に、俊介が思わず眉間にしわを寄せた。

 そして秘密の会議室の防音性を通過しないように声を潜め、それでも少し大きめの声でゼロツーに言った。

 

「おい、一番重要な所があやふやじゃねーか……!」

「いやでもホント、その地下のサーバーしかデータの置き場が考えられないんだって! だから僕様が警察庁の地下に行って直接ハックして消すんだよ!」

「バカヤローッ! 不確定すぎるわッ!」

「でもっ、もし成功したらこの国の表社会でもう一度綺麗に生きられるんだよ!? 試す価値はある話だって!」

 

 彼の放った言葉に、ピクリと俊介が声を止める。

 そして少しだけ俯き、机の表面の凹凸に視線を落とした。

 

「……表でもう一度、綺麗に、か……」

「この異世界プリズンには出所なんてない! 普通の刑務所みたいに刑期まで刑を償って出所なんてないんだよ! だからと言って無理やり脱獄したら一生裏で人対に怯えながらビクビク過ごさなきゃならない!」

「…………」

「表でもう一度綺麗に生きようと思ったら、これしかないんだよ!」

「っ…………」

 

 俊介は少しの間だけ黙りこくる。

 この異世界プリズンに来た諸々の理由、その原因は今まで自分がやって来たことだ。未来革命機関を倒したのだって夜桜さんを助けるためにやったことで、それ自体に一切の後悔はしていない。

 だからこの刑務所に来たのも頭の中である程度理解はしている。

 『仕方ないことだった』、と。

 

 

 ……それでも……。

 たとえ自分の今までの行いが一気に返ってきた自業自得だったとしても。

 

 

「家に、帰りたいな……」

 

 まだ17歳の高校生の俊介には、自分の家に帰って安心して寝たいという気持ちがどうしても捨てきれなかった。

 例え友達のいない虚し気な高校生活だったとしても、いつも通りの明日が来る日々に戻りたかった。

 でもそれは永遠に手の届かない遠い幻想だと思い、諦めようとしていた。

 

「もし脱獄しても、警察庁の地下にそのデータがなかったら……?」

「申し訳ないけどその時は全員で海外に逃げることになると思う。そこから新しく人格犯罪者のデータが入ってそうなサーバーを探す暇はないから」

「そうか……そっか……」

 

 危険な道のりではある。

 でも上手く行けば日常に戻れて、もし失敗しても海外で生きるという別の選択肢もある。

 多分警察庁の地下にまで行って上手く行かなかったら、その時は『仕方ない』と海外で生きると言う選択にもある程度納得ができるんじゃないだろうか。

 

 ……いや、出来ないだろうな……。

 きっと何か別の方法があったんじゃないかと引きずって生きていく羽目になる。

 

 それに、どう考えても人に褒められるような行いじゃない。

 犯罪者が罪を償わずに刑務所から脱獄するなんて、世界中の人からバッシングを受けるような行為だってのは理解してる。

 

 そうだ。

 こんな穴だらけの計画に乗るなんて正気じゃない。

 今すぐ机を蹴り上げてトンボ返りするのが正しい人間の判断だ。

 

 

 

 …………たとえ万人がそう()()()判断したとしても、俺は…………。

 

 

 

「家に帰れるなら……本当にそう出来るなら、俺は……」

「絶対に上手く行く保証は出来ない。けどもし協力してくれるなら、僕様だって命賭けるさ」

「…………」

 

 本当に元の生活に戻れる希望が一筋でもあるのなら。

 たとえ失敗したところで海外で生活という第二の選択があるのなら。

 

 俺は誰から非難されたって、この穴だらけの計画に乗ってみたい。

 

 

「条件を、出させてくれないか?」

「いいよ」

「人格犯罪者のデータを全部消去って言ってたけど、消すのは計画に参加した人間だけにしてくれ。きゃるとる~ぜみたいなのの罪が消えるなんて流石に容認できない」

「分かった。僕様達だけのデータを消して、そこに偽のデータを差し込む方向に変更する」

「……出来るんだな……そっか……」

 

 悩み切った俊介に、ゼロツーは落ち着いた声色の声を放つ。

 

「そう悩まなくても、条件はまた後で追加してくれても構わない。出来るかは分からないけど、なるべく叶えるつもりだ」

「そうか……悪いな」

「いや。僕様も君にかなり重い役目を任せるからお互い様だよ。この計画は君のような『圧倒的強者』がいないと成功しない」

 

 暫く悩む俊介。

 それが十数秒の事だったのか、それとも十数分の事だったのか分からない。

 頭の中で何千回もこの行いが正しいのか問いかけ続け。

 それでも尚、自分のただひたすらに我儘な欲求のために、今だけは倫理観を捨てて社会に反する行いをすることを決めた。

 

 

「俺は何をすればいいんだ?」

「……ありがとう。本当にそれしか言葉が見つからないよ」

 

 ゼロツーはただひたすらに感謝の気持ちを込めた言葉を吐いた後、真剣な面持ちを浮かべる。

 そして俊介に向けて手の平を向け、三本の指を立てた。

 

「君には僕様が警察庁の地下に行ってる間、確実に来る人対の相手をしてほしい」

「…………」

「と言っても、一人で人対全員の相手をしろとは言わない」

 

 ゼロツーは三本の指のうち、二本の指を下げる。

 そして最後に残った一本の人差し指。

 それはナンバーワンを表すハンドサイン。

 

「『人格犯罪対処部隊最強牙殻 零次(がかく れいじ)。この怪物を抑えないと僕様達の計画は絶対に成功しない」

 

 今まで何度も相対した人物。

 人対最強という称号を持つ男と本当の意味で向き合わなければならない時が来たのだ。

 俊介が思わずその名を呟く。

 

「牙殻、さんか……」

「昨日の闘技場での試合を見た。こちらのジャンが無理やり乱入させてしまってすまなかった……けど、君の強さを実際に見たかったんだ」

「あそこまで無茶なことをしたのは、俺が牙殻さんと戦えるラインにいるかどうか確かめるためだったってことか」

「そうだ。でもジャンには『信頼を失うような行為をするな』って、謝るようにもきつく言ったんだが……」

 

 謝られてないな。

 ……まあ、そこは今はいいや。

 俊介は話の続きをゼロツーに促す。

 

「牙殻の中にいる『ダンケルク』。牙殻の怪物的な強さを支える最強の人格だ」

「ダンケルク……殆ど名前だけしか聞いたことはないけど……」

「噂じゃあ強さを疑った警察上層部の前から少しの間だけ消えて、その後に一握りの石ころを投げたって話だ」

「石ころ……?」

 

 怪訝な顔を浮かべる俊介に、ゼロツーは立てたままの人差し指で図書室の天井を指さした。

 いやその指の先は刑務所の天井ではなく、地下を超えて雲を超えて更に上の方を指し示していた。

 

「その石ころ、『月の石』だったんだってさ」

「月……!?」

「眉唾な話だけど、これがもし本当ならダンケルクはもはや宇宙怪獣だ。でも幸い牙殻はダンケルクを殆ど出さないらしい。出した相手は全員ミンチになって死んだって話だけど」

「…………」

 

 一度だけダンケルクと相対したことのある俊介が思わず身震いをする。

 確かに恐ろしい強さだったのは感じ取ったが宇宙まで行けるような怪物だったかは分からない。

 だけどもし本当に月まで行ける怪物なら、ダンケルクはヘッズハンターと同調した状態でも手も足も出ないだろう。

 

 恐らく牙殻さんがダンケルクと交代した時、こっちでマトモに戦えそうなのは……。

 こっち側の最高戦力である『ダークナイト』だけだ。

 

(ダークナイトの完全交代か……。しかもそれで本気で戦うとなったら、どうなるんだろうな……)

 

 最善はダークナイトを出さずに牙殻さんを抑えきること。

 しかしもし、牙殻さんがダンケルクを出して来たら……その時は……。

 

(……ダークナイトを出すタイミングと場所、みんなと相談してきっちり作戦考えておかないと)

 

 この事は後で人格と相談しようと決意した。

 ダークナイトはまさに俊介の核兵器にも近い切り札なのだから、生半可な状況でやけくそに出す訳にはいかない。

 絶対に周囲に被害が及ばない状況で出す。それを考える。いざという時の為に。

 

 

 最強兵器を切る場面について云々悩む俊介に、ゼロツーが更に声を掛ける。

 

「悪いけど、君に頼みたい役割は二つあるんだ。一つは『人対の牙殻を抑えること』。そしてもう一つは『仲間探し』だ」

「仲間探し?」

「ああ」

 

 こくんと頷くゼロツー。

 

「怪物の牙殻は君に抑えて貰うとしても、白戸と翠だって滅茶苦茶強い。でもこの二人は何度か倒されたって話もあるし、徒党を組んで戦えば十分抑えきれる」

「……つまり、その二人と戦う人間をこの刑務所から見つけろと?」

「そういうことだ。こっちのジャンは僕様が仲間に誘ったんだけど、その他は全く振るわなくて……」

「俺も色々動いてるんだけどさっぱり仲間が見つかんなくてさ。やっと見つけたのが俊介っちだったってわけ」

 

 なるほど。

 そういえばジャンがこの刑務所の人間は殆ど見たと言っていたが……あれは性的な意味ではなく、仲間探しという意味だったんだな。

 でもジャンの性格じゃあ仲間探しは厳しいだろう、だって人をいきなり闘技場の試合にぶち込むし。

 仲間探しの一歩目としてはありえない行動だろあれ。勇者が仲間の戦士を探す為にダンジョンのボス部屋へ叩き込むようなもんだぞ。信頼失うわ。

 

「とにかく、この刑務所には大体千人近くの囚人がいる。その中には強くてある程度信頼できる奴もいるだろう。肝なのは完全にお互いを信頼する必要はないってこと、利害関係でもいいから協力してくれる人間が欲しい」

「ん~……見つけられるかは分からないぞ? 俺口下手だし……」

「ジャンよりはマシ! 僕様とジャンは脱獄準備の方を進めるから、君には仲間の方をお願いしてもいいかな?」

 

 

 …………仲間、か。

 

 

 人対の牙殻さんがダンケルクを出してきて、こっちもダークナイトを出した時。

 もし白戸や翠さんと同時に戦っていたら二人を瘴気に巻き込んで殺してしまうからな。

 

 こちらと離れた所であの二人と戦ってくれる人がどうしても必要だ。

 

「分かった。この刑務所の中で色々と探ってみる」

「よし。脱獄計画に乗ってくれそうな囚人がいたら僕様の所に連れてきて。盗聴器を妨害して詳細を話すから」

「俺も協力しようか?」

「ジャン! お前はマジで一回ちゃんと謝れッ! あ、その子に刑務所の地理だけは教えてあげといてね」

 

 コロコロと表情が変わるゼロツー。

 穴だらけの計画を立ててそれを先導するリーダーだが、一先ず今の所は付いて行ってもいいかもしれない。

 俺が絶対必要というのも、牙殻さんを抑えられる人物が他にいないからって理由だし。とりあえず牙殻さんと戦うまでは裏切られる心配はなさそうだ。

 

「んじゃ、短い間だけどよろしくね。この世ではお互い契約が締結した時に握手をするんだろ?」

「いや社会人じゃないから知らんけど……まあいいか」

 

 ゼロツーがテーブル越しに差し出してきた右手に、俊介が右手を重ねる。

 そしてお互いにガッチリと握り合い、ぶんぶんと手を振った。

 

「おわーっ?!」

 

 力加減をミスってゼロツーの体を上に吹き飛ばしてしまった。

 そういえばヘッズハンターと同調して身体能力あげてたんだった……。

 

「ご、ごめん!」

「どうして僕様より腕っぷしが強い奴はこうも傍若無人なんだ……自分の力の強さくらい知っとけよぉ……」

 

 顔面から地面に落ちたゼロツーがしくしくと泣きながらそう言った。

 

 

 

 




遂に自分から明確な犯罪行為に手を染める決意をした俊介。
時速六百キロで動ける人間が犯罪とか怖すぎる。


相変わらず会話文ばっかですね。
ごめんなさい……誤字報告も読者様方にいっぱい任せてごめんなさい……



――――――――

Quest.
・仲間を探せ!
・ダークナイトを出す計画を立てろ!




~~~追記~~~
本作のタグが『現代/日常』と設定されていたのですが、先ほど『現代/冒険・バトル』に変更いたしました。
というか何で今まで日常タグにしてたんだ……? 異世界の人類最強の騎士と戦うのが日常なわけないだろ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。