殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#105 危険な奴ら

 

 

「この刑務所には特に関わるべきじゃない奴らがいる。……仲間探しの足しになるかは分からないけど、一応知って置いて損はないと思う」

 

 そう言いながら、ゼロツーは両手で六本の指を立てた。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――A棟囚人『ウィザード』。囚人番号A-100。

 

 つい先日ここに来たばっかで、裏でトップクラスに大きかった『未来革命機関』っていう巨大武装テロ組織を率いてたボスだよ。

 特にピュアホワイトって幹部がヤバいって話で、小国の軍隊を笑いながら叩き潰したとかいう逸話もあったくらいでさ。

 その他にも強力な上級兵士に重武装をした大量の下級兵士ってな感じで、武力面においては明らかに他の組織より頭一つ以上抜きんでてたね。

 その圧倒的な武力を支える資金源は、裏で生きる奴なら絶対見たことがある『反重力バリア装置』。こいつの販売元が未来革命機関で、それによって莫大な利益を得ていたんだ。まあ転売屋も多くいたけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――A棟囚人『厭勝(えんしょう)』。囚人番号A-002。

 

 巨大人身売買組織『ダンク・パンカーズ』を率いてたボスの男だよ。こいつも数日前にここに来たばっかだ。

 武力面なら未来革命機関には敵わないけど、組織の規模の広さならこっちの方が大きかったんじゃないかな。世界中に支部と人間売買用の『市場』を持ってたらしいし。

 そしてこの厭勝って男を語る上で外せないのが『極度の女嫌い』ってこと。ダンク・パンカーズのボスと交渉するときには絶対交渉人を女にするなってのが裏での暗黙の了解だったくらいにね。

 もし交渉人が女だったらどうなるかって? その場で交渉人を撃ち殺して、相手の組織を丸ごと潰して吸収するんだとさ。実際数年前くらいの成長途中のダンク・パンカーズに交渉人を女にした組織が何個も潰されたって話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――A棟囚人『皆殺し屋赤ずきん』。囚人番号A-123。

 

 裏では有名な傭兵兼殺し屋だった大男だよ。頭に赤いフードを被ってたから『赤ずきん』って通称が付いた。

 銃弾が飛び交う戦場の中、ゴツイ片手斧を両手に持って暴れ回るんだ。その余りの暴れっぷりに殺し屋じゃなくて皆殺し屋なんてあだ名がついて、『皆殺し屋赤ずきん』になったわけだな。

 裏で名を上げるだけあってその強さは相当な物だそうだ。単独で中堅どころの裏組織を壊滅させるなんて事を何度もやってるらしい。

 金を渡せばどんな仕事でもするが、逆に言えば金を貰えばどんな状況でもこっちを殺しに来るってことだ。

 うまく利用できればいいけど、金を持ってないなら危険なだけだし近づかない方がいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――B棟囚人『シスター・イート』。囚人番号B-110。

 

 刑務所の外じゃ殆ど無名だった人食い女だよ。君が昨日戦ってた口縫い女だな。

 あんまり詳しいことは知らないんだけど、何でも外で修道女のふりをしながら孤児院を経営して、その孤児を食ってたとか何とか……。

 まあ外じゃ無名だったけどここじゃ有名人だよ。刑務所の闘技場に度々現れては人間を食い殺して帰っていくんだ。闘技場相手に借金こさえて首が回らなくなった奴が無理やりシスター・イートと戦わされたりもしてる。

 表側は品行方正な面をしてるけど、裏側は立派な食人鬼だ。もし闘技場に出る用事があってもシスター・イートが出ない試合にしときな。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――B棟囚人『エミンバルルー・シャーロット』。囚人番号B-001。

 

 『血瑠璃(ちるり)教』っていうヤバい宗教組織の教祖だった女だよ。

 宗教組織って銘打っちゃいるけど、実際はただの薬物売買組織だ。しかも売ってたのは大麻とかじゃない、飲むだけで気持ちがいいまま死ねるって言う『安楽死の薬』だよ。

 そんで薬を売った相手の綺麗な死体を自分達で回収して、怪しい人体実験とかを行っていたらしい。その人体実験で生み出された他の薬も売ってたらしいけど、『眼を増やす』とか『なくなった腕がグチャグチャに生える』とか妙な効果ばっかだったそうだ。

 とにかく、依存性の薬物を売ってただけの可愛い薬物売買組織じゃない。悪いことは言わないからあんまり関わるな。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――C棟囚人『魔法少女(スター)きゃるとる~ぜ』。囚人番号C-315。

 

 この国の外で300人近く殺してる自称アイドルだよ。

 きゃるとる~ぜが配ってるチラシを読んだことがあるなら分かると思うが、『瞬きした瞬間に殺す』っつーヤバいライブを街中で突発的に始めたりしてたんだと。

 けどアイツがどんなライブをしてるかを知ってる奴は誰もいない。参加した奴は基本的に全員死ぬからな。

 魔法に長けた戦闘強者でもあるし、根っからぶっ壊れた狂人でもある。この刑務所の大半の奴に嫌われてるよ。

 南区の方でいつもライブやってるから、南区にはなるべく近づくな。もし巻き込まれでもしたらマジでヤバいからな。

 

 

 

 

「話を聞いただけで危険な感じが伝わって来るだろ? 改めて、シスター・イートが参加してる試合に乱入させてしまった件は本当にすまなかった」

 

「この他にも僕様が知らないだけで、実力がありながらも身を潜めてる奴が刑務所にいるかもしれない。危険だと思った奴には警戒を怠らない方がいい」

 

「そしてもう一つ伝えたいことがある。既に気付いてるかもしれないけど、この刑務所のABCの囚人番号の分け方には規則性があるんだ。看守は口にしないけどね。それも一応伝えておくよ」

 

 

 

 

 A棟の連中は……特筆することはないな。

 

 どいつもこいつも危険な犯罪者なのには変わらないが、体格が平均的か平均以上で、精神的に安定してる奴が多い。

 突然妙なことを叫んで暴れ出すような精神異常者が殆どいないんだな。話が通じる奴が大半だ。

 だからと言って完全に安全な訳じゃないぞ。精神的に安定してて頭のキレる犯罪者が収監されるから、必然的に大きめの裏組織のボスだった連中が多くなるんだ。組織のボスってのは裏でも表でも精神がおかしい奴に務まる仕事じゃないってことだな。

 

 

 

 B棟の連中は一言で言うと『異常者』だ。

 

 刑務所で突然妙なことを叫んで暴れ出すような奴がいたら大抵ここの棟の連中だな。まあでも、単純に精神が壊れてる奴なら可愛いもんだよ。

 一番問題なのは『見た目は冷静なのに根本がぶっ壊れてる』奴だ。シスター・イートなんかまさにそうだろ。口の糸を除けばまるきり修道女なのに、ひとたび闘技場の試合に出れば余裕で人を食いやがる。

 B棟の奴らと話してて『案外普通』だなんて思っちゃダメだぞ。むしろ見えないところが壊れてる奴が一番怖いんだ、何処でスイッチが入るか分からないから。

 とにかく囚人服にBが入ってる奴は初手で警戒するのが最低限だと思った方がいい。何時でも殴れるようにするのがちょうどいい距離感だ。

 

 

 

 C棟の連中は僕様含めて『子供、もしくは体格が子供に準ずるほど小さい』奴らだな。

 

 C棟の中は全体的に小さく作られてる。まさに子供サイズって奴だよ。小さめの僕様にとっては比較的過ごしやすいけど、A棟とB棟の体格が大きい奴は動きづらいだろうな。

 まあ気付いてるかもしれないけど、子供の体のままここに来るってことは宿主に宿った瞬間に体を奪って犯罪を犯して、そして人対に捕まった連中ってことだ。

 何らかの犯罪を起こさなければ気が済まない中毒者、犯罪ジャンキーってところか? 実際B棟の連中と同じくらい頭がぶっ壊れてる奴もよく見かけるよ。きゃるとる~ぜとか。

 でも中には普通の奴もいるよ。頭のおかしい奴と普通の奴が入り乱れてるのがC棟のもう一つの特徴って言えるかな。

 ……C棟の連中は成長して体格が大きくなるとA棟とB棟に移るんだけどさ。時折A棟にもB棟にも行かずに忽然と姿を消す奴もいるんだ。まあ何処かで殺されただけかもしれないけど、妙な話だよ。

 

 

 

 

 

「……ちょっとは足しになったかな?」

「また聞きたいことがあったらいつでも来てくれよ。刑務所の外じゃ情報通を気取っててね、人対に関する情報も幾つか持ってる。あの牙殻と戦うのに情報は知ってて損なんてことはないだろうし」

「じゃ、頑張って。…………と言いたいところだけどさ」

 

 

 

「刑務所に来てから一度でも風呂入った? 申し訳ないけど、少し臭うから……A棟の大浴場に行って来た方がいいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俊介は部屋にあった支給品のナップザックから入浴に必要な物を取り、ホログラムの地図を見ながら歩いていた。

 そしてすぐ傍にいるヘッズハンターに静かにぼやく。

 

「面と向かって臭いと言われるとちょっと心に来るものがあったな……」

『まあ仕方ないだろ。ピュアホワイトと戦ったり、シスター・イートと戦ったりしても風呂に入らず寝まくってたんだから。スポーツってレベルじゃない運動の連続だぞ』

「うっ……まあ、そりゃそんなことしてたら臭いわなぁ。仕方ないか」

 

 A棟の食堂の横にある階段を下り、更に地下へ地下へと降りていく。

 刑務作業をするエリアを超え、更に降りる。

 そして最後の階段を下り切った時、俊介の目の前に大浴場の扉が現れた。

 

「さて、ここの風呂はどんなもんかなと……」

 

 大浴場の扉を開けると、まるで刑務所の外の大衆浴場に来たような脱衣所が広がっていた。

 木製の鍵付きの棚がいくつも並んでおり、適当な所に荷物を詰め込むタイプのようだ。

 ちょうど脱衣所には誰もおらず大浴場の方にも人の気配は感じない。夜の風呂には早すぎるし朝風呂には遅いという隙間の時間だからだろうか。

 

 これ幸いと脱衣所の中を遠慮なく歩き回りながら何処の棚に荷物を置くかを考えていた時。

 俊介はちょっと外側が汚れてしまっている洗濯機を見つけた。ドラム式の洗濯機だ。ボタンや機械の横側に吊り下げられた説明書を見ていると、驚くべきことが記載されているのを発見する。

 

「洗濯機もあるのか……うわすご。洗濯と乾燥セットで三十分以内に終わるのか……どんな異世界の超技術だこれ?」

『そんな所で異世界の超技術を感じるんじゃない』

「いやでもほんと凄いよこれ。これならちょっと長めに風呂入ってる間に洗濯終わるな」

 

 洗濯機の近くの棚を開き、荷物をそこに置く。

 そして身に着けていた衣服を全て脱ぎ、洗濯機の中に放り込んでスタートボタンを押す。

 

『きゃっ。お兄ちゃん大胆♪』

「いや見慣れてるだろ俺の裸くらい……七年もずっと一緒にいるんだし。だけどわざわざ外に出て見に来ちゃいけません」

『はーい』

 

 何故かドールが外に出てきて、一瞬で帰って行った。揶揄いたかったのだろうか。

 一応体を洗うためのタオルで股間を隠しつつ、大浴場の中に入る。

 

 大浴場は石の溝付きタイルの床に、コンクリートで出来た壁。

 鏡とシャワーは左右にそれぞれ15台ずつ、合計30台ある。プラスチック製の椅子と桶がそれぞれの鏡の前に置かれている。

 浴槽は床や壁と同じ石材で出来ており、ゆらゆらと水面から湧き出る湯気がそこそこの広さの大浴場に煙を立ち込めさせていた。

 

 俊介の初印象は『普通の大衆浴場みたい』だった。

 普通の刑務所なら『数日に一度シャワーだけ』みたいな話も聞いたことがあるのに、何時でも自由に浴槽に浸かれるとは。

 改めてこの異世界プリズンが一般的な刑務所とは違うのだなと思い知らされる。

 

 適当に目を付けた場所の椅子を引き、ゆっくりと座る。

 どうせ誰もいないので別に何処のシャワーを使ってもいいのだが。

 

「人もいないし……体洗いながらで悪いけど、ちょっと今後について話すか」

『最近よく話し合ってるけど……ま、今日は特に大きく状況が動いたしな。いいんじゃないか』

 

 俊介が髪を石鹸で洗いながら、中から殺人鬼のみんなが出てくるのを待つ。

 数日風呂に入っていなかっただけで全く髪が泡立たない。こんなに汚れてたのか……。

 

『ういーっす。中から見てたぞー』

 

 真っ先に出てきたハンガーを皮切りに、ぞろぞろと人格達が出てくる。

 さっきまで静かだった大浴場が一気に賑やかになってきた。

 

『なんだか随分スケールの大きな話に乗ったなぁ。何処の世界にもああいうことを思いつく馬鹿っているんだな』

『傍から聞いていただけでも穴だらけの計画でしたがね』

 

 ハンガーとエンジェルが言葉を放つ。

 中から聞いていた人格達も俊介と同じように、ゼロツーの計画に穴が多くあるのが否めないという感想を抱いているようだ。

 

「そもそも、ジャンが言ってた『囚人達が脱獄を諦める理由』……それも聞きそびれたしな」

『そうだな。あの話以外にももっと色々と聞くべきことはあった。些か早急に返事をしすぎた点は反省するべきだな俊介』

「うっ」

 

 ガスマスクの指摘に、頭を洗っている途中の俊介が苦しい声を漏らす。

 わしゃわしゃと泡立てる手を止め、視線を床に向けながら自身の浅慮故の行動を恥じるように重く息を吐いた。

 

「やっぱもっと話聞くべきだったよな……。一旦話持ち帰ってみんなと相談してから答えるべきだったか……」

『まあ答えてしまったものは仕方ない。今からでも断るという手はあるが……やる気は?』

「悪いけど……それはやらない。浅はかなのは分かってるけど、でも……」

 

 俊介が言葉を続けようとしたところをガスマスクが手で宥めるように優しく遮る。

 そして腕を組み、ニンジャの方をチラリと見た。視線を向けられたニンジャがきょとんとした顔を浮かべる。

 

『ん? 拙者?』

『いや昨日の夜にお前から言い出したんだろ』

『ああ……あの話でござるか』

「?」

 

 髪の毛から垂れる泡を手首で拭いつつ、疑問気な顔を浮かべる俊介。

 それに答えるようにニンジャが言葉を紡いだ。

 

『昨日の夜に軽く拙者達で話し合ったんでござるよ。俊介が()()()()を乗り越えて成長しようとしてるんじゃないか~的な話をね』

「デカい壁……?」

『人間生きてれば大小問わず壁にぶち当たるものでござる。この異世界プリズンが俊介にとってまさに大きな壁、だからそれをどんな形にせよ乗り越えた時、俊介は大きく成長してるでござろう』

「はあ……つまり?」

『『今回の刑務所の件ではいつも以上に俊介の判断に任せようぜ? じゃないと折角成長できる大きな壁が台無しじゃん』という話をしたんでござるよ』

 

 台無しってお前。

 こっちは今その壁のあまりの大きさに心を蝕まれてる最中なんだけど。

 刑務所の脱獄の後に人対と戦うって超イベントも発生したし。壁って言うかもはや崖なんですけど。

 

 そんな風に口を開けたまま固まる俊介に、ニンジャが声色を明るくして声を発する。

 

『ま、ぶっちゃけ俊介の判断に委ねるのが面白そうって思っただけなんでござるけどね!』

「おい!」

『大丈夫大丈夫。こっちから勝手に口を出す機会が減るだけで、相談には乗るし力も貸すでござる。一人で考えるのも、誰かに相談するのも、全部ひっくるめて俊介が判断するだけでござるよ』

「…………」

 

 全部自分で判断、か。

 未来革命機関の件とかも殆ど自分で考えていたような気はするが、思い返せば所々で人格のみんなのフォローを受けていた気がする。

 けど今回の異世界プリズンでは本当に一から自分で考えなければならないのだ。

 誰が怪しそうとか、これはもしかしたら騙されているかもしれないとか。そもそも相手が怪しいと思わなければみんなに相談すらできないのだから、相手を注意深く観察しながら話すことも覚えなければならない。

 

 ある種これは、七年間一緒に過ごしてきた皆からのテストみたいな物かもしれないな。

 俺一人で出来ることは限りなく少ない。だとしても、俺自身の判断力なんかが成長しないとみんなの力を上手に活かすことはできない。

 これまで以上に強くなるにはやはり俺のあらゆる面が成長するのが不可欠なのだ。

 少し怖い気持ちはあるけれど、これが殺人鬼のみんなで納得して与えてくれた試練なら、俺も本気で頑張らないと。

 

 

 と、そんな風にニンジャの言葉に納得しかけていた時。

 キュウビが突然地面に仰向けになるように転がり、身長180センチから来る細長い手足をじたばたと暴れさせながら地団駄を踏み始めた。

 

『いやじゃー! いやじゃー! 俊介はもっとわらわにベタベタ甘え続けて欲しいんじゃー! わらわの意見を素直に聞いてくれる可愛い俊介のままがいいんじゃー!』

『うーん。まあ俊介がこのまま成長しなければあの駄々っ子狐にいずれ溶かされるだけでござる』

「全力で頑張ります」

 

 流石にベタベタに甘えるだけの人間まで溶かされるのは御免被りたい。

 それにしても、ホントにどうしたんだよキュウビ。若干幼児退行を起こしかけてるぞ。

 そんなに知雫とのアレが辛かったのか……? 別に俺がちょっとぶちゅっとされただけなのに。

 

 

 俊介はガスマスクに無理やり体を持ち上げられるキュウビから目線を逸らす。

 そして髪をガシガシと荒く洗い、シャワーで泡を洗い流してから声を発した。

 

「今回の件で俺は倫理的に問題のある行動をするかもしれない。ぶっちゃけた話……宿主の体を奪い取ってる人格と協力するのに、少しだけ思う所もある」

 

 頭の中に思い出すのは、『星野』の一件。

 あれは人格が宿主の体を奪い取った事件の中でも中々たちの悪い部類に入る物だった。

 しかしこの異世界プリズンにいる囚人の大半は星野と同類の奴らだ。宿主の体を奪っている時点で一人の人生を確実に強奪しているのだから、どれだけ善人に見えても悪人であることに違いはない。

 

「俺は元々善人じゃないし、むしろ悪人よりの人間だと思ってる。漫画のヒーローみたいに困ってる赤の他人を思わず助けたくなるような性格はしてない。自己中で頑固だし。それでも普通の生き方をしていこうと頑張って来たけど……」

 

 俊介は手をもむように弄びながら、言葉の続きを喉の奥で探る。

 そして絞り出すように声を出した。

 

「今回だけは、俺は普通の生き方を目指すのを止める。そして少しの間だけ悪事を行った人間と協力する。許される行為じゃないけど、俺はどうしても今回の一件を成功させたいんだ。……もう一度夜桜さんと会うためにも……」

『ほお……』

 

 俊介の言葉に誰かが思わず声を漏らした。それが殺人鬼の誰だったかは分からないし、もしかすると全員の声だったかもしれない。

 感嘆したのは、俊介の強い決意。

 その目に宿った黒い意思とも言える、決して常人には宿せないような物。平穏な世界で生きているような者には絶対に出来ないようなどす黒く硬い決意。

 今の俊介は確かに、13人の殺人鬼を宿すに相応しい宿主の瞳を浮かべていた。

 

「でも、何でもかんでも悪事に手を染めるって訳じゃない。人を殺さないのは今まで通りだし、仲間にする人間もなるべく好意的な奴を選びたいと思ってる。その『好意的』ってのは俺の勝手な価値観で判断するけど」

『いいんじゃない? そういう線引きを自分で決めておくのは大事だよ』

 

 トールビットが微笑みながらそう言った。

 他の面々も少し嬉しそうに頷く。全員がド級の殺人鬼で倫理観が壊れているため、俊介が『犯罪を行う』と言っても特に何も感じたりはしない。むしろ俊介が『気に入らないことを飲み込んで、自分なりに折り合いを付けながらやりたいことをする』という意思を見せた『ある種の成長』に心嬉しく思っていた。

 

 そして俊介は空気を入れ替えるように、少し声色を明るくした言葉を吐く。

 

「それじゃ、これも絶対相談しなきゃいけないと思ったんだけど……ダークナイトをどうしようか?」

『…………』

 

 チラリと、少し離れたところで腕を組んだまま立っているダークナイトに目を向けた。

 今まで考えるのが恐ろしくてわざと頭を消していたが、ダンケルクにやられた日からやたらとダークナイトが大人しい。

 俊介が一撃で気絶させられたなんて、ダークナイトがいの一番に怒って体を奪いに来そうな案件であるのにも関わらずだ。

 

「ダークナイト? 大丈夫か?」

『ギャオ……』

 

 俊介が声を掛けると、鎧のこすれ合う音を鳴らしながらゆっくりとこちらを見た。

 

「あのさ。牙殻さんがもしダンケルクを出して来たら、多分こっちもダークナイトじゃないと太刀打ちできないと思うんだ」

『ググ……』 

「単刀直入に聞くけど、『勝てそう』?」

 

 そう聞くと、ダークナイトは手の中に黒い魔力で小刀を作り出した。

 そしてその刃先を自身の鎧の腹部に向け、ギリギリと嫌な音を立てながら文字を掘っていく。

 何時ものようにやたらと凝った感情表現をする顔文字ではない。ダークナイトは短く、そして純粋な気持ちを込めた三文字を深く刻んだ。

 

 

『 こ ろ す 』

 

 

 ダークナイトが静かに持っていた大量の殺意がみちみちに籠っている文字だった。

 しかしその一言を書くために時間を掛けてしまっていたり、いつもの無邪気な雰囲気ではなく真剣な物を漂わせていたりする所を見るに、ダンケルクに『確実に勝てる』とは言い切れないようだ。

 未来革命機関の拠点でダークナイトがダンケルクの事を警戒していた辺り、やはり牙殻さんの人格はただ者ではないのだろう。

 

 だがダークナイトで勝てないのなら、それはもうどうしようもない。

 俊介達はひとまず『ダークナイトがダンケルクと戦うにはどうすればいいか』という事について話し合い始めた。

 

「ダークナイトに全身を交代するなら例の瘴気が確実に出るよな。でも俺はダークナイトに人を殺させたくない。どうすればいいだろう?」

『その霞ヶ関って所の人達全員を先に何処かに移動させちゃうのはどう?』

『無関係の人間を逃がしたとしても、結局警察庁の地下でゼロツーが作業をするんだろう。瘴気に巻き込まれるかもしれない以上、そもそも警察庁の近くで戦うのはやめておいた方がいいな』

 

 ドールの言葉にサイコシンパスが反論を返す。

 確かにゼロツーがもし死んでしまったら何もかもおしまいだ。それに人対の翠さんや白戸も、それと戦う仲間も瘴気に巻き込むかもしれない以上、牙殻さんと俺だけ遠くに離れるのが理想だ。

 

「となると……何もない山の中とか?」

『それもどうかしら。ダンケルクって言うのはダークナイトと勝負になるような相手だし……もし戦いの最中にダークナイトが街中にでも吹っ飛ばされたら、その時点で数えきれない人が死んじゃうわ』

「ああ、確かにそうだ……うーん」

 

 クッキングの言葉に俊介が納得し、再び腕を組んで考え込む。

 どうすればダークナイトの瘴気が人々を巻き込まず、ダンケルクと戦えるだろう……?

 

 と、その時、

 意外な人物……フライヤーが煙草を吹かしながら手を上げた。

 

『俺に良い案がある。……ニンジャがあれこれ言ってたから、言うかどうか迷ったんだが……』

「いや、まあセーフだろ多分。今は相談中だし」

『そうか。なら遠慮なく言うぜ』

 

 フライヤーは俊介の前に大股で歩いて近づく。

 そして彼女は、先ほど水を張ったばかりの桶を指さした。

 

『『』だ。ダークナイトが本気で戦うならそこが一番だと俺は思う』

「海か……東京湾ってこと?」

『いやそれじゃ街に近すぎる。ヘッズハンターと同調した今の俊介なら水の上も走れるし、日本から遠く離れた『太平洋』まで移動すれば、ダークナイトが多少戦闘で移動しても瘴気の影響は少ないはずだ』

「太平洋……マジか」

 

 霞が関って何処にあるかあんまりイメージ付かないけど、太平洋に出るまでは結構距離があるんじゃないか?

 多分数十キロとか……そんな距離を牙殻さんと戦いながら移動し続けるのか。

 

「い、行けるかなあ? そんな遠くまで……いや時速六百キロで動けるから、行けなくはないかもだけど……」

『それ以外にも利点はあるぞ。海の上なら俺の『』を全力でぶちかましても自然消火される。ピュアホワイトだって嫌がる威力の炎だ、ダンケルクに交代する前の牙殻を倒せる可能性は充分あるはずだ』

「……あ、そうか……!」

 

 ハッと気付く。

 今までは牙殻さんがダンケルクに変わった後の話をしていた。しかし彼がダンケルクを出すのは極限まで追い詰められた時だけだろう。

 ならば彼がダンケルクという切り札を切る判断をする前に、超強力な攻撃で倒してしまえば……そもそもダンケルクと戦う必要がないのだ。

 ゲーム的に言うと、第一形態時のボスキャラにHPバーをゼロまで削り切れるような必殺技を放ち、第二形態を無視してそのまま倒すというバグ技にも近い行為である。

 

「なるほどな。その二つのメリットがあるなら、太平洋まで長い距離を移動するデメリットがあったとしてもやる価値は大きいかも」

『だろ? 俺の脳みそも中々捨てたもんじゃないな』

 

 くつくつと煙草の先を揺らしながら笑うフライヤー。

 まあ問題はその太平洋まで牙殻さんをおびき寄せながら戦うのが無茶苦茶難しいってことなんだけど。しかもやんのは多分ヘッズハンターと同調した状態の俺だし。

 

(俺もヘッズハンターの速度を十二分に生かせるように、鍛えといた方がいいかな……?)

 

 仲間探しの合間に、更に自由に動けるように鍛錬しておくべきかもしれない。

 他のみんなと腕だけ主導権を渡すタイミングも練習しておいた方が良さそうだ。

 

 

 さて、まだまだ話し合うことはいくつかある。

 次は仲間探しのことについて――――――――

 

 

 

 

 ――――――――キィィ

 

 

 

 

「ん……?」

 

 俊介の耳に入る、サビた鉄の扉を開けるような音。ヘッズハンターと同調していなければ捉えられないような微かな音が脱衣所の方から聞こえてきた。

 その方向に耳を傾けると、人がトントンと歩くような音も聞こえてくる。

 

「誰か風呂に入りに来たか……。仕方ないみんな、一先ず話し合いはここで終わり」

 

 俊介は小声で殺人鬼達にそう言いつつ、体を洗うためにボディソープへと手を伸ばす。

 そしてもこもこと泡立てていた時、脱衣所と大浴場を繋ぐ扉がカララと音を立てて開いた。

 

「ん」

「…………!?」

 

 扉を開けて入って来たのは一糸纏わぬ女性だった。音に反応して一瞬だけ視界に収めてしまったが、その一瞬見ただけでまるで作り物のように整えられたボディラインをしていたのが分かってしまった。

 彼女は体の前面をタオルで隠すような事は一切せず、本来隠すべき場所の全てをあけすけにしながら俊介の方を向き、短く声を上げた。

 

「お前……同室の奴じゃないか」

「か、隠せよッ……!!」

 

 俊介が咄嗟に手で彼女の体を見えないように隠す。

 入って来た人物は他ならぬ、俊介と同じ監房に住む『知雫』その人だった。

 

 

 

『!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?』

 

 

 

 キュウビの表情と顔色が恐ろしいほどの速度で変化し始めた。

 

 

 

 




相変わらず会話文ばっかじゃねえか……
俺は止まらねえからよ……(?)
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