殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#107 あの日の元凶

 

 

 

 北区の闘技場。昨日のあれこれで復旧中らしいので試合もやっておらず大して行く意味はなさそうだ。闘技場の前に色々水商売的な店もあったが、そんな所に行って仲間を探すなんてとんでもない。

 

 そして南区。詳細は分からないがきゃるとる~ぜがライブをやっているらしい。

 ここに来た時のバスでは南区にも色々建物が立っていた気がするが……。流石に昨日の今日できゃるとる~ぜのいるであろう場所に近づく気はない。ちなみに件のチラシは既に捨てた。

 

 となると、残っているのは東区と西区。

 じっくり探索することを考えると両方の区を今日中に調べる、というのは難しいな。

 どっちを調べるのがいいか……。

 

「……ま、悩んでる時間の方が無駄か」

 

 どうせ今日選ばなかった方の区も明日探索するのだ。大して差はない。

 俊介はそう思い直し、すぐ近くにあった廃材らしき棒を拾う。何処の建物から外れた物かは知らないが、どうせ使わないならここで再利用してしまおう。

 

 少し歪に曲がった棒を地面に垂直に立てる。

 そして手を離すと、支えを失った棒はやや東の方角に向いてパタリと倒れた。

 

「よし。今日は東区だな」

 

 方角決めに使った棒を元の場所に置き直すと、俊介は東区の方に向いて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くの間よく分からない建物に挟まれた道を進んだ先で、唐突に視界が開ける。

 俊介はきょろきょろ辺りを見回しながら静かに呟いた。

 

「……そうか。ここが東区だったのか」

 

 目の前に広がっていたのは、何もない()()だった。

 この異世界プリズンに来るときに乗っていたバスから繁華街を見た時、建物が一切建っていないポカンと空いた空き地。その時は囚人達が何やらよく分からない運動をしているのが見えた。

 東区とは、この繁華街が建つ土地の元の役割である『運動場』の役割を唯一残した空き地がある場所なのだ。

 

「結構広いな~……この広さなら、野球を三試合くらい同時に出来るんじゃないか?」

 

 そう呟きながら、運動場の外縁を歩き始める。

 運動場の中央付近で囚人達が集まってサッカーらしき球技をしているのが見えた。魔法を使っているのか、一部の囚人が炎を纏いながら相手にタックルを決めている。サッカーって何だっけ……?

 

 俊介が謎のサッカーを行う集団を見ながら歩いていた時、突如として二人分の笑う声が聞こえてきた。

 

 

「――――あーっはっはっはっは!!」

「――――はっはっはっはっは!!」

 

 

 心の底から愉快そうに笑う二人分の男の笑い声だった。というか、片方は実に聞き覚えのある声である。

 俊介は声の聞こえてきた方向に顔を向ける。

 

「そりゃあ悪かったね『()()』! まあここは運が悪かったってことで一つ!」

「別に元々怒ってなどいませんよウィザード。私が成功したのも今ここにいるのも全ては時の運によるもの。ゼロから組織を立ち上げる辛さと楽しみをもう一度味わうのもまた一興です」

 

 運動場の外縁部。

 地下空間の天井のライトから降り注ぐ光を遮るように作られた屋根の下にあるベンチで、二人の男が手をパンパンと叩きながら愉快そうに会話していた。

 片方は未来革命機関のボスであるウィザード。金髪の髪と甘い顔が特徴的な男である。

 

 その反対側に座っているのは、黒髪をワックスか何かでオールバックに纏めた男。

 右目に金色の片眼鏡(モノクル)を掛け、囚人服の首元のボタンを一番上まで丁寧に閉めている。片眼鏡から伸びる金色のチェーンは襟の部分にクリップで止めている。

 一見クールで知的な人間という印象を受けるが、囚人服に薄っすらと筋肉のラインが浮かび上がっているのが見えた。明らかに鍛え込んでいる体付きをしておりそこそこの武闘派であることも外見からうかがえる。

 

 そして何より俊介が注目したのは、その男が『厭勝』と呼ばれていたことだ。

 その名はゼロツーが刑務所の要注意人物に上げていた人物の一人。

 確か、巨大人身売買組織の『ダンク・パンカーズ』を率いていたボスであるとか……。そんな組織、ゼロツーに話を聞くまで影も形も知らなかったが。

 

「……ん? おっ!」

 

 その時ウィザードがパッと顔を上げ、俊介がすぐ近くに立っているの気付いた。

 にやにやとした表情を浮かべながら立ち上がり、ずんずんと大股で近づいて勢いよく肩を組む。

 

「おい、いきなり肩組むなよ!」

「まあまあ! おーい厭勝~! この子がさっき話してた日高俊介君だよ! 私の未来革命機関を潰した子!」

「ほう……。ピュアホワイトを殺した子と言うからもっと厳ついと思っていましたが、案外普通の子ですね」

 

 ゆっくりとベンチから立ち上がり、近づいて来る厭勝。

 身長は大体175から180センチの間と言った所だろうか。十センチもない身長差だが、厭勝の体格がやけに良いのでかなりの威圧感を感じる。

 しかし彼は柔和な笑みを浮かべ、俊介に右手を差し出した。

 

「初めまして。人身売買組織『ダンク・パンカーズ』の元ボス、厭勝と申します。以降お見知りおきを」

「…………」

「ふむ、警戒されてしまっているようですね……。心配せずとも、ピュアホワイトを殺せるような人物に通じるような隠し玉など持っていませんよ。組織の力がない今私は一般人と殆ど変わりありませんので」

「…………」

 

 彼の弁明の言葉を聞いても無言のまま握手に応じなかった俊介。

 数秒後、厭勝は柔和な笑顔を浮かべたまま右手を引っ込めた。

 

「私は何か、彼に嫌われるようなことをしてしまったでしょうか?」

「そりゃあ私と仲良くしてる所を見られたら警戒されて当然じゃない?」

「おや。それもそうですね、はっはっはっは!!」

 

 パンパンと手を叩いて笑い始める厭勝。

 俊介は彼の笑い方を目の前でよく見て、少しだけうすら寒い物を覚えた。

 喉から飛び出す笑い声は酒で酔っぱらった者のように陽気で、誰が聞いても『楽しそう』という印象を覚えるだろう。しかし金色の片眼鏡(モノクル)の裏に潜む目は一切笑っておらず、むしろ冷淡な感情を浮かべて俊介を見つめていた。

 

 厭勝はしりすぼみに笑い声を弱めていき、軽く息を吐く。

 そして一歩下がり、くるりと踵を返した。

 

「いい塩梅に雑談もしましたし、私はそろそろお暇させて頂きますよ。後は二人でごゆっくりどうぞ」

「どうしたの、そんなに気を遣わなくていいのに。三人でちょっと話そうよ」

「いえいえ。ピュアホワイトを殺した人物とのお話など怖すぎて私の心臓が保ちませんよ。私が弱いだけですので、どうかお気になさらず」

 

 そう言いつつ、厭勝はゆったりとした足取りで俊介達から離れていった。

 そしてある程度離れた所で曲がり角を曲がり、全く姿が見えなくなったところでウィザードがため息を吐く。

 

「あーあ。厭勝の奴、恥ずかしがり屋なんだから……」

「ウィザード。お前一体こんな所で何をしてるんだ?」

「ん?」

 

 俊介はウィザードの腕を肩から外し、少しだけ距離を取って言う。

 彼は顔に浮かべた微笑みを外さず、先ほどまで座っていたベンチに近づいてドカッと座り直した。

 

「別に目的を持って何かしてたって訳でもないけどね。ただこの辺を散歩してたら、よく使ってた『取引先』のボスと会ったから話し込んでただけで」

「取引先……? どういうことだ? お前の組織が人身売買組織と取引なんて……」

「あれ? 分からない?」

 

 くすくすと笑うウィザード。

 人身売買組織と名乗るダンク・パンカーズと未来革命機関が何の取引をしていたのか。パッとは思いつかず首をかしげる俊介。

 そして俊介が答えに行きつくよりも早く、ウィザードが解答を吐いた。

 

「榊浦美優が大量に使ってた『実験台』。あの女達は全員ダンク・パンカーズから買ってたんだよ」

「……!!」

「金さえ払えば生きたままの優秀な実験台を何十人でも調達してくれるんだ。合計で300~400人くらいは厭勝の所から買ったんじゃないかな。世界中から集めてくれるから種類も豊富で便利だし。優秀な母体だからって何処かの大使館の人間を売ってきた時は私もちょっと驚いたね!」

 

 絶句した表情を心の内に隠しきれない俊介。

 あれだけ酷い目にあっていた実験台の人達全員を売っていたのがさっきの男の組織だなんて。この刑務所にはそんなヤバい奴も平然と捕まっているのか。

 ウィザードは運動場でサッカーをする集団の方に軽く目を向け、すぐに興味なさそうにそっぽを向き、口を開く。

 

「厭勝は基本的に世界中を飛び回ってる奴なんだ。まあ組織が世界規模だし仕方ないけどね」

「……でも、厭勝って男はつい最近ここに来たって話じゃ……。人対は日本に来る人格犯罪者しか捕まえない、というかそれ以上捕まえてたら絶対パンクするし……」

「おっ? どうやらそっちも独自の情報網を手に入れたみたいだね~。おめでとう! 組織作りの一歩目は人脈だよ!」

「うるせえ」

 

 暴言を吐き捨てる俊介とは対照的に、実に愉快そうな表情のウィザード。

 膝に肘を置いて頬杖を突きつつ、にやにやと笑いながら声を放つ。

 

「ダンク・パンカーズってのは『特定の人物が欲しい』って依頼も受けてくれるんだよ。だから未来革命機関名義で『()()()()()』をずっと頼んでたんだよね」

「!!!」

 

 その瞬間俊介の脳裏に思い浮かんだのは、もう随分も前のように感じる出来事。

 偶々誘拐されかかっている夜桜さんを見かけ、油断している時に背後から殴りかかられてしまい、共に誘拐されてしまった記憶。

 その時はサイコシンパスとハンガーの力を借りて誘拐犯たちを全員締め上げたのだが……。

 

「あの時の誘拐犯の奴らの元締めが、今の『厭勝』って奴なのか……!!」

「おっとっと。その言いぶりはつまり、ダンク・パンカーズの刺客を撃退してたのは君ってこと? あっはっは!! 厭勝も本当にツキがないね!!」

 

 ベンチの上に寝転がり、腹を押さえながらじたばたと暴れるように笑い転げるウィザード。

 俊介は怒りを堪えるように鉄のように硬く拳を握る。

 

「今の話が、あの厭勝って奴が今この刑務所にいる理由と何の関係があるんだよ……!」

「関係大ありだよ。えっとね、ダンク・パンカーズは滅茶苦茶デカい組織なんだけど……日本は人対が絶対的治安維持組織として君臨してるから弱い兵隊しか置けないんだよね。強い奴だと目立って捕まっちゃうし」

「…………」

 

 黙って話を聞き続ける俊介。

 

「でも雑魚い兵隊じゃ夜桜の誘拐を何時まで経っても達成できなかったらしくさ。未来革命機関はダンク・パンカーズのトップクラスの取引先だし、信頼をこれ以上失わないためにボスの厭勝が兵隊連れて直々に日本に来たんだと。夜桜誘拐をするためだけに随分大がかりだよねぇ」

「…………」

「そしたらさ! その時偶然、人対が未来革命機関の捜索に本腰を入れてた時でね! 未来革命機関がよく取引してたダンク・パンカーズが日本に大所帯で来たってのがすぐバレて、厭勝は人対の牙殻に捕まっちゃったんだってさ。いやホント運がないよね!」

 

 最後まで黙ったままウィザードの話を聞き続けた俊介。

 そして少し気になったことを問い詰めるために口を開く。

 

「その、人対が捜索に本腰を入れてて、厭勝を捕まえた時って言うのは……」

「うーんそうだね。うちのピュアホワイトが夜桜を誘拐した少し後くらいのことじゃないかな?」

 

 その時期は、ちょうど俺が未来革命機関の拠点を見つけるために奔走していた時のことだ。

 

 人対も日本に入って来た未来革命機関を全力で捕まえようとしていたのに、翠さんと白戸の姿しか見かけず、牙殻さんは一体何処で何をやっているのだろうと思っていたが……。たった一人で未来革命機関と繋がりがある危険な組織のボスを見つけて逮捕をしていたんだな。

 大使館の人間を攫うという国への挑発行為を行いながらも平然と存在している巨大人身売買組織だ。そんな奴らの兵隊とボスを相手にしながら未来革命機関の捜索なんてしていたら、姿を見かけなくて当然だろう。

 

 俊介は日本という国をたった三人で守る人対の強さと大きさを改めて思い知る。

 

「可哀そうだよね厭勝も。裏組織のボスってのはさ、一度姿を消したらすぐにボスの座をすぐ下の幹部に奪われちゃうんだ。連れてきた兵隊もここにはいないらしいし、厭勝は今本当に組織の力がないんだよ。あそこまでデカい組織を作ったのにねえ……」

「何が可哀そうだ。そんな訳あるか!」

「あら手厳しい」

 

 おちゃらけた様子のウィザード。

 俊介はそんな彼の顔を見ながら、深く息をし続けて血の昇った頭から怒りと言う感情を少しでも排出しようと努める。

 そして冷静に目の前の男の頭から足を観察し、思考を回し始めた。

 

(……仲間探し。ウィザードの奴は仲間として……いや、確実にないな)

 

 ウィザードはマッドパンクの血縁者である。なのでマッドパンクが必死に説得すればある程度大人しく言う事を聞くかもしれない。

 未来革命機関という巨大な組織を率いていたのもあって、総合的なスペックは非常に優秀な部類だ。

 だが強さの方は未知数であるし、戦力として期待できるかは分からない。夜桜さんには負けていたらしいが、今の夜桜さんは殺人鬼達の大半は真正面からなら負けるというくらいの強さだから物差しにはならない。

 

 総評として、強さは未知数だが、総合的に見ると人類トップクラスの優秀さを誇る。

 元が研究者らしいので、人対とかち合う役目以外にも、ゼロツーの警察庁地下サーバーハッキングの補佐すら充分担える。

 

 このようにウィザードという輩はスペックだけ見ると非常に優秀なのだ。

 流石に未来革命機関という巨大組織を率いていただけはある。

 

 だが……それら全てのメリットを凌駕するほどに。

 ウィザードという男は『凶悪』なのである。

 

(こんな奴の罪が消えてもし自由になったら……確実にまた何処かでヤバい犯罪を起こす。俺の勝手な判断基準だけど、ウィザードを仲間に誘うのだけはしたくない……!)

 

 俊介はウィザードを仲間に誘う気など微塵も起きなかった。

 そして俊介が黙りこくったことで、話し合いたいことがなくなったのか、ウィザードがベンチから立ち上がった。

 

「まっ、私はそろそろ別の場所に散歩しに行くよ。この刑務所で一緒に過ごしてるんだしまた会う機会もいっぱいあるでしょ。……じゃあまたね、昨日闘技場で大暴れしてた日高君♪」

「…………」

 

 去り際に鬱陶しい言葉を吐いて行くウィザード。どうやら昨日の闘技場での一件の情報は既に耳にしていたらしい。いやアイツなら当然手に入れていただろうと思うべきか。

 ウィザードは先ほど俊介が歩いて来た道のりを辿るように、俊介の後方にゆったりと歩いて行った。

 

 奴の姿が豆粒くらい小さくなるほど離れるまで、警戒の視線を向け続ける。

 そして曲がり角で曲がってウィザードの姿が見えなくなったところで、俊介は顔を前に向けた。

 

 

 再び歩き始めた俊介は、足を進めながらも首に手を当てる。

 そして中にいる人格達に意見を求めた。

 

「厭勝か……誰か、何か思う事はあるか?」

 

 鈍い俺でも明らかに怪しいと分かる男、厭勝。

 ニンジャの提示した提案曰く、宿主の俺が『怪しい』と思ったならば人格に意見を求めるのはセーフなのだ。

 

『む。拙者から一つ』

「お前かい」

 

 まさかあの『俊介になるべく判断を任せよう』と言ったニンジャ自身が出てくるとは。

 俊介は少しだけ呆れたように目を細めるが、ニンジャの目がいつもよりやけに真剣なのを見て、思わず目を見開いた。

 

『あの厭勝という男……本質的な所が()()()()()匂いがするでござる』

「ニンジャと同じ? つまり……内心はふざけてるってことか?」

『……言葉で表現し辛いでござるな。だがとにかく妙な輩には違いない。ああいう手合いは一切関わらないか、早急且つ徹底的に叩き潰すのが最善でござるよ』

「そうか……」

 

 まさかニンジャが真剣な表情で警戒する程の男とは。

 厭勝……見た目からは知的な感じがしたけど、本当はどういう奴なんだろう。

 これからは一切関わらないか、徹底的に叩くか……今はまだ決めかねるな。

 

「ありがとうニンジャ」

『ん。では拙者はこれで』

 

 短く返事をすると同時に、ニンジャが中に帰っていく。

 そして俊介はまた口を閉じ、静かに歩き始め――――――――

 

 

 

 

 

「――――――――あぶなーーーいッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 ――――――――ガッッシャァァアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――な、何が飛んできた……!?」

 

 俊介は死角の左後方から突然飛んできた物を勘で察知し、頭を屈めて回避した。

 その飛来してきた物は右前方の建物に突き刺さり、木で出来た一階建ての建物を物言わぬ瓦礫に変貌させていた。

 一体何が飛んできたのかを見極めるより早く、後ろからタッタッと人が走ってくる音が聞こえてくる。俊介が振り返ると、走ってきた人物が声をかけてきた。

 

「ごめーん!! そこの人、大丈夫か!!」

「危ないな! 何飛ばして来たんだよ!」

「知らないか? この世界の『サッカー』っつうスポーツをやってたんだよ!」

「サッカーだと?」

 

 俊介は再び瓦礫と化した建物の方を見る。

 その建物の中には、確かにサッカーボールのような大きさと色合いをした球らしきものが転がっていた。……尤もさっきの衝撃で割れてしまって完全にぺちゃんこになっているが。

 

「あんな威力でボールを蹴るのがサッカーな訳ないだろ!」

「最近習った魔法を使いながらやってるけど、れっきとしたサッカーだぞ!」

「魔法を使うサッカーなんて聞いたことが…………ん。『()()()()()』?」

 

 引っかかる単語を聞き返す俊介。

 まさかこの刑務所の中に『魔法を教える教室』みたいなものがあるのだろうか。刑務所の外では信ぴょう性に乏しいオカルティックすぎる教室だが、魔法を使える人格が大量にいるこの異世界プリズンならあってもおかしくない。

 するとボールを飛ばしてきた囚人が首を傾げながら言葉を吐く。

 

「まあ習うって言うか、見て盗むって言うか……さっきのお詫びに教えようか?」

「……じゃあ、教えてほしい」

「いいぞ。それで魔法使えるようになったら一緒にサッカーやろうな!」

 

 いや多分やらないかな。危ないし。

 俊介は心の中で呟いたその言葉を口に出すことはなく、静かに目の前のA棟の囚人の話を聞く。

 

「この運動場の近くの狭い路地をぐねぐね通ったちっちゃな空き地でさ。一人のC棟の囚人が木刀に炎や雷を纏う魔法を使いながら、ずっと何かの型らしき技を振り続けてるんだ」

「へえ……」

「そのC棟の囚人がぶつぶつ言ってる魔法の詠唱を一から暗記したら、なんかボールとか体に炎を纏えるようになったんだ。だからサッカーして遊んでたんだよ」

 

 『だから』の前と後の言葉が繋がってねえよ。

 何で学んだ魔法を使う先がまずサッカーなんだよ。馬鹿かこいつら。

 いやまだこの刑務所の囚人の中ではマシな方の馬鹿か……。

 

 俊介のそんな呆れにも気付かず、目の前の囚人は話し続ける。

 

「近くでずっと見てても文句言ってこないし、魔法を覚えたいなら行ってみたら? 俺達も偶々辿り着いたような空き地だし、場所はサッカーしてる俺達とそのC棟の囚人しか知らないんじゃないかな。今ならマンツーマンで観察し放題だぜ」

「ふむ……」

 

 ……ちょっと興味があるな。

 一体何の為にそんな場所で木刀を振り続けているんだろう……。

 

「何処にあるんだ? その空き地って……」

「ああ、えっとな。この先の道を曲がってすぐ左手に見える路地裏を右左右右左……」

 

 

 ……まるで呪文のような路地裏の曲がり方を全て覚えた後、ボールを飛ばしてきた囚人と別れる。

 それにしても、C棟の囚人か。

 ゼロツーはイカレてる奴と普通の奴が入り混じっているのが特徴と言っていたが、果たしてどんな人物なのだろうか……。

 良い人そうで仲間に出来そうなら仲間にしたい。

 そして俺も魔法を使えそうなら魔法を使いたい。一度キュウビに教わったことあるけど、キュウビが天才肌すぎて上手く理解できなかったし……今度こそ再チャレンジだ。

 

 

 そんな少しばかりの男子高校生らしい憧れを胸に、俊介は先ほど教えてもらった道順を忘れないよう口ずさみながら件の空地へと向かった。

 

 

 

 

 

 






運動場で魔法使いながらスポーツやってる囚人達。
彼らが最初やってるのは『ラクロスもどき』にする予定だったんですよ。木刀と似た感じの長さのラケット(?)を使ってますし。話の理屈も通ります。

なのにどうして頭の中に突然超次元サッカーが浮かんでしまったんだろう……しかもどうしてそっちに変えてしまったんだろう……
プロットに影響はないと信じたい
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