俊介は残った謎の白い袋の料理を全てジャンに譲る。
そして横で水だけこくこくと飲みながら、件の『C-111』の囚人について尋ねてみた。
「C-111って囚人を見つけたんだよ。実力もありそうで中々よさげなんだよね。でも話しかけても思いっきり無視されて……何か知らない?」
「うーん……」
もぐもぐと料理を食べながら唸り、瞼を強く瞑って頭のデータベースを探るジャン。
長い間そうしていた後、ごくりと口の中の物を飲み込んでから言葉を吐いた。
「そうだな。そいつは多分、夜時間の二時間前……夜8時くらいから毎日図書室に来てる奴だな……」
「図書室って、C棟の奴? しかも毎日って……いつも何をしてるんだ?」
「当然本を読んでるんだよ。けど読んでるものが少し妙でね。明るい言葉だけを羅列してる啓発本とか、あと最後がハッピーエンドで終わる勧善懲悪ものの童話……たしか『桃太郎』って言ったっけ? そんな感じの本を何度も読み返してるんだ」
「ええ?」
あの図書室には道徳に関する本や、子供向けの童話しか置いていなかったはずだ。
そう何度も読み返すほど内容が詰まっている面白い本はないはずだけど……。それにジャンの言った通り読んでいる本のラインナップもちょっと妙だし。
「変わった奴だとは思ってたけど、まさか俊介っちが見込むくらい強いとは……。俺も眼が甘いな」
「いやまあ、ホント偶々見つけたって感じだし、そんなに落ち込むほどじゃないと思うけどな」
「そうか? じゃあ落ち込まない!」
……ここで謙遜せずに堂々と胸を張るのは、まあ、別に嫌って思う程じゃないな。
相手に謙遜を強要するってなんか厭みったらしいし。
むしろ海外じゃこういう時に謙遜する方が珍しいって怪しいネット記事に書いてた気がする。価値観が違うからって何でもかんでも口に出してたらただの我儘になっちゃうしな。こういう所の塩梅も学ばないと。
俊介は空になったコップを大将に渡した後、口を開く。
「ところで……ジャンも今まで俺と同じことをしてたんだろ? なんか俺以外に良さげな人物は見つけてなかったの?」
「俺か? 俺は俊介っちと同室の『知雫』って奴が良さげかな~って目を付けてたね」
「知雫、か……」
そうか、ジャンも知雫を候補に考えてたのか。
知雫ってこの刑務所で結構有名人なんだろうか? ゼロツーが上げた危険人物の名前には入ってなかったけど……。
俊介がそんな風に考えてると、ジャンはあっけらかんとした声色の言葉を放つ。
「おっ、もう知り合い? ていうか同室だし既にヤっててもおかしくないけど」
「おい気軽にそういう下ネタ振るのやめろ! 言い方がマジっぽいんだよ!」
「おおごめん。マジっぽくそういう事を言うのも駄目なんだな」
別に冗談めかして言ったらOKという訳でもないけどな。
俊介は大将が新しく水を注いだコップを受け取り、ジャンに更に知雫について問う。
「それで……なんで知雫に目を付けてたんだ? もしかして有名人なのか?」
「つい数週間前くらいに入ってきたばっかだけど結構有名人だよ。『魔女』って」
「魔女ぉ?」
「魔性の女ってこと。ほら、闘技場できゃるとる~ぜが乱入してきた時にさ、知雫が闘技場の司会者兼運営の男を連れて止めに来ただろ?」
そういえばそうだったな。
あのままだときゃるとる~ぜの言う『ライブ』が始まって、一体どうなっていたか分からない。
……そうだ、風呂で知雫に会った時にあの時のお礼言うの忘れてた。裸で風呂に入ってくるなんて異常事態ですっかり頭から抜け落ちてた……。
「俊介っち? 続き話して大丈夫?」
「あ、うん。悪い」
「いや別に。……んでね、知雫はこの刑務所に入って速攻で闘技場の運営の男を
「ふーん……だから『魔性の女』か」
恐らく運営の男を堕としたのはキュウビも使ってる『魅了の術』だな。それが通じなくてもあの美貌だ、魔術的な物を使わなくても普通に堕とした可能性もある。
「でも今の話からじゃ知雫を誘おうって理由が見えてこないけど?」
「んーとね。俺が調べた感じ、あの知雫って女は『色々な物を手に入れたい』とか『綺麗に着飾りたい』っていう欲望が滅茶苦茶強いんだよ。だからこんな刑務所の運営の男を射止めたくらいで満足しないだろって思ったんだ。実力もそれなりにあるらしいし」
ジャンが少し言葉を濁しながらこちらに伝えてくる。
『運営の男を射止めたくらいでは満足しない』……。それはつまり、知雫ならば更に先の『外に出たい』という欲求も強く持っているだろうという意味を含んでいる。
リングの盗聴器があるため『外に出たいという欲求を持っている』という明言は避けたのだろう。下手すると何かの計画に沿って脱獄仲間を探してるって看守にバレるしな。
こちらに伝わる程度の濁し方、ナイスワードセンス。
「知雫か……うん。実は俺も少しだけどうかなと思ってたんだ。ジャンも目を付けてたって言うんなら、俺から少し行ってみようかな」
「ほおん。やっぱ同室だから色々と分かっちゃったわけ?」
「別にそういうんじゃないけどね……。信用できるかは分からないけど、協力関係くらいなら結べるかもしれないから」
『おおいッ! 俊介駄目じゃ! あんなのを仲間に入れたらムグー!!』
キュウビが突然ジャンとの間に頭を突っ込んできたが、他の殺人鬼達によって口を防がれながら後ろに引っ張られた。
本当に知雫が嫌いなんだなキュウビの奴……。
後方に引っ張られていった彼女から目を逸らし、頭の中で何か他に聞いておきたいことがないかを探る俊介。そしてポンと手を叩く。
「あ……そういえば今聞いておいた方が早いか」
「ん?」
「この繁華街の北区には闘技場、東区には運動場。じゃあ西区と南区には何があるんだ? 南区できゃるとる~ぜがライブをしてるってのは知ってるけど……」
「おお、そうだった。ゼロツーが俺からこの刑務所の地理を教えてもらえって言ってたもんな」
コホンと咳払いをするジャン。
そして指で西区の方を指さしつつ語り始める。
「西の方にはとにかく色んな店があるなぁ。刑務作業で作った小物とか、外で売ってるような嗜好品も売ってたりする。そういえば料理屋もあったか……俺はあんまり美味いと思わなかったけど」
「ふむふむ」
ジャンが美味くないと感じたのか……。
どうやら西区の料理屋には結構期待してもよさそうだ。
「……というかさ。前から思ってるんだけど……ここの繁華街の料理屋とかって、どうやって食材手に入れてるんだ? 普通手に入らないだろ?」
「おん? そりゃあ勿論看守が外から持って来てんのよ」
「か、看守が? 囚人に外から物持って来て渡すなんて、やっちゃダメだろそんなの……」
俊介は改めてこの刑務所のモラルを案じるような、困った顔を浮かべる。
看守まで囚人に加担するような行為をしてちゃあ流石に不味いんじゃないだろうか。
そう思っているとジャンが「んー」と漏らしながら話の続きをする。
「俊介っちさ、人格犯罪が世界で隠されてる理由諸々ってゼロツーから説明受けてたから知ってるでしょ?」
「ああ。そうだな」
「じゃあ分かると思うけどさ、この異世界プリズンって絶対に世間にバレちゃいけない場所じゃん。だから看守はここの存在を知った時点でもう『看守』以外の仕事に逃げられないんだって。そんでもって囚人の言う事を聞かなきゃ見回り中に殺されてもおかしくないから、仕方なく言う通りにしてるんだと」
「ええ……」
普通の刑務所と完全に力関係が逆転してるじゃないか。
ドラマとかなら乱暴な看守が囚人をボカスカ殴ってたりするのに、ここでは囚人の言う事を聞かないと看守が殺されてしまうのか。でも繁華街を壊そうとした看守達の数人が拷問の末に死体で見つかったって所長も話してたし、多分本当なんだろうな。
「……でもそんなことになるなら、看守ってどうしてここに働きに来ようと思ったんだろうな? ぶっちゃけ人格犯罪者の巣窟なんて関わらない方がいいに決まってるのに」
「それは分からないなぁ……。囚人のことは結構調べたけど看守のことなんて殆ど調べたことないし。正直考えても仕方ないしね」
ジャンの言葉に俊介がそれもそうかと納得する。
もしかすると国が無理やりここに看守を連れてきたのかもしれない。もしくは看守が自ら好き好んでこの場所に来たのかもしれない。他にも全く思いつかないような理由でここに来たのかもしれない。
看守達それぞれに何らかの理由はあるだろうが、それを推察したところでどうにもならないのだ。いくら考えた所で脱獄計画に看守が手を貸してくれるわけがないのだから。
お互いの言葉がちょうど止まった所で、俊介は話を切り替えるために親指でとある方向を指す。
それはきゃるとる~ぜがライブをしているという南区の方角だった。
「じゃあ南区について、何か知ってる?」
「きゃるとる~ぜ。ライブ。危険」
「いやそれは知ってる」
ジャンが真顔で三単語だけ口にする。俊介が思わず突っ込むが、みんなが口をそろえて南の方角はきゃるとる~ぜがヤバいという辺り、本当に危ないのだろうと再認識する。
「あ~……おすすめはしないけど、きゃるとる~ぜのライブっていつも昼を少し過ぎたくらいに終わるんだよ」
「そうなの?」
「だからこの前きゃるとる~ぜが闘技場に乱入してきたのも昼を過ぎた時だったでしょ? 多分ライブが終わった瞬間直行してきたんだよアイツ」
苦々し気な顔を浮かべつつそう言うジャン。
そう言えばここに来たばかりの時、きゃるとる~ぜがライブをせずにタワーの前で待ち構えていた。
あの時は昼過ぎまで続いたライブを終えた後だったからあの場所にいたのか……。もう少し朝方に入所していたら奴はライブをしていたままで遭遇することはなかったかもしれない。不運だ。
「だから南区に入りたいなら、そうだな……。せめて昼過ぎから三時間は時間を空けて行くべきだね。行った所で俊介っちに用があるかって言うと微妙だけど……」
「でも何かしらはあるんだろ? この刑務所に来る時のバスで建物がなかったのって東区の運動場だけだし。建物が建ってる以上何かはあるんじゃ……」
「あー……そういう意味じゃなくてさ。ぶっちゃけ普通に『
「治安が悪い?」
全域が常にレッドアラート状態のこの刑務所で、特に治安が悪いって言われる場所だと?
闘技場がある黒いビニールシートの区画もそこそこ治安は悪そうだけど……。
「南の方はさ、B棟の出入り口が近いんだよね」
「B棟の出入り口……。たしかB棟ってヤバい狂人がいっぱい集まってる棟だっけ?」
「そうそう。アイツらが南区によく
「ふむ」
南区に詳しくない奴はきゃるとる~ぜのライブに万が一にでも踏み込んでしまう可能性があるから、ライブが終わるまで近づかない方がいい。
でもB棟の奴らは南区の構造に詳しいから、ライブに踏み込まない場所に集まってる。
それでジャンが治安が悪いというのは、単純にB棟の奴らがヤバい奴らばっかりだから……ってことかな。
俊介は聞き取った情報を頭の中で整理する。
その間にジャンは皿に乗った白い袋を食べ進め、すぐに皿を空にしてから俊介の方を向いた。
「まあでも俊介っちの強さなら杞憂かな? あそこで受け取った飲み物や食べ物を食わなければ大丈夫だと思うよ」
「飲み物や食べ物? なんで?」
「普通に薬物とかの混ぜ物入ってるから。ワンチャン血瑠璃教の安楽死の薬入ってるかもしれないし」
「ヤバいじゃん……」
「いやホントにヤバいよ。食事中に悪いけど、
ここの治安はどうなってんだよマジで。
つか当たり前のように外で違法の薬物を刑務所内で使ってんじゃねえ。
思わず冷や汗を流す俊介の顔を見て、ジャンが慮るような声色の声を出す。
「俊介っち、もし南区に行くなら俺も付いて行こうか? ゼロツーと色々準備することはあるっちゃあるけど、それくらいなら時間あるし」
「そうだな……じゃあお願いします」
「はいよ~。じゃあまた適当に誘ってね」
別に喫緊で南区に行く用事はない。B棟のヤバい囚人達を仲間に出来るかどうかというと怪しい面もある。
だが俺達は近いうちに脱獄を考えているのだ。
もし脱獄を行う時、初めて行った南区で迷子になって脱獄失敗しましたなんてのは冗談でも笑えない。他の仲間とはぐれなければそんな事はそうそうないと思うが、万が一を考えての下見だ。
でもまあ、今日は別に南区には行かなくていいかな……。
怖いし。
「……うん。聞きたかったことはこれで終わりかな。想像以上に色々聞けて良かったよ」
「お、役に立ったなら良かった。……でも最後に俊介っち、一つだけ言っておきたいことがあるんだ」
「……? 何?」
立ち上がった俊介に対し、真剣な面持ちを浮かべるジャン。
そして体全体を俊介の方に向け、瞼を細めた鋭い眼光と共に言葉を吐いた。
「俺がこの刑務所で一番危険だと思ってるのは『血瑠璃教』教祖の『エミンバルルー・シャーロット』だ」
「…………」
その並々ならぬ気迫に俊介は一瞬だけ押し黙る。
しかしすぐに思考を回転させ、口から言葉を捻り出す。
「『エミンバルルー・シャーロット』ってゼロツーが言ってたB棟の奴か。でも何で?」
「C棟からA棟やB棟に移る囚人が消えたり、あと刑務所内のいざこざで死んだ囚人の死体がなくなったり……。色々な噂を集めていくと、あの女が根城にしてる南区の方へ全部運ばれて行ってるって話なんだ」
「…………」
「それに表で死体相手とはいえ人体実験ばっかやってたイカレ女なのに、なぜか一部の看守と懇意にしてるって話もある。あの女の周りにある話はどうにも変な裏があるように思えて仕方ないんだ」
刑務所の外で死体相手に人体実験を繰り返してた女が、また死体を集めてる……?
たしかに、妙な話ではあるな……。
「分かった。そのエミンバルルー・シャーロットには一層気を付ける」
「いや、隙を見て『殺してほしい』くらいだ。それくらい嫌な予感がする」
「ッ!」
明らかな殺意の滲んだジャンの言葉。
恐らく殺せるチャンスがあるならジャンは躊躇いなく実行する。そんな覚悟を確かに感じさせるほどの眼光をしていた。
しかし俊介は『人を殺さない』という決めごとを自身に課している。だからこそジャンに感じ取れるほどの躊躇の表情を見せてしまった。
「……ごめん。流石にそれは性急すぎたね俊介っち。そもそもこの世界じゃあ人を殺すのも普通じゃなかったんだっけ」
「いや……それは、まあ……」
「あーあー気にすんなって。そういう物騒なことは俺がやるわ。食事時に悪かったね」
ジャンがにへらと口角を上げながらそう言う。
……やはり彼は俺とは全くもって違う場所で生きてきた人間なのだ。価値観の違いをお互いにすり合わせて許容していったとしても、どうしても衝突してしまう場所があるかもしれない。
世の中の社会人はそうなった時、どうやって対処しているんだろうか。
俊介には分からなかった。
刑務所内の某所。
木の板で乱雑に防がれた窓から一筋の光だけが差し込む暗い部屋の中。
「……ふぅ~……」
黒い髪を腰辺りまで伸ばした白い下着姿の女が褐色のパイプを片手に紫煙をくゆらせていた。
赤いソファーの上であぐらを掻き、下着の白地に負けないほどに透明感のある肌を恥ずかしげもなく晒している。両目の下に泣きぼくろがあるその顔は天女を思わせるほどの美貌であり、口から白い煙を吐く姿は一つの絵画のような美しさを持っていた。
しかしそれほどの美貌を持っているにも関わらず、長い髪の先はブツブツとハサミで適当に切ったような直角の断面をしていた。明らかに自分で適当に切ったという風な感じの切り方である。
息を呑むほどの美しさを持っているのに見た目にはどこか無頓着。まるで堕天した天使の様相を思わせるような女だった。
そして、そんな彼女の前には。
首と頭に無数のメスが突き刺されている人の形を少しだけ残した異形の肉塊が、長机の上に置かれていた。
女は目の前にそんな惨い死体があるのにも関わらず、パイプ煙草の煙を心地よさそうに揺蕩わせる。
その時、部屋に唯一ある扉がゆっくりと開いた。女は下着姿の体を一切隠そうとせず、開いた扉の方をじっと見る。
「……終わったか」
入って来たのは全身に重武装をしている看守だった。声は野太い男の物、体格はそこそこの人物である。
その看守を見た女は端麗な顔を醜悪な笑みで歪める。
そして自身の胸に手を当て、わざとらしいくらいに恭しく頭を下げた。
「これはこれは看守殿。儂の実験が終わるまでお待ちいただきありがとうございます、とでも言うべきかのう?」
「黙れ。……
看守が脅すような低い声でそう言う。
しかし女は一切怯える様子はなく、むしろ心の底から愉快そうに喉を鳴らして笑った。
「かっかっか……! 儂を誰だと思うておるのじゃ。そう急かずとも数日中には準備は完了する。しばしの間、煙草の煙でも吹かしながら待つことじゃな……」
「ふん。そうか」
ぶっきらぼうにそう言い放つ看守。
それを見た女が揶揄うようににやにやと笑みを浮かべつつ、更に絡みつくような妖しげな空気を纏った言葉を吐く。
「おうおう、えらく冷たい童じゃのう。もっと仲よくしようとは思わんのか? それとも血瑠璃教のありがた~い経典でも説いて心を癒してやろうかの?」
「口を閉じろ、イカレ女が……! 今回の件がなければお前など既に撃ち殺している……!」
「かっかっか! 小童がよく吠えるわ! 儂に定期的に死体を持ってきている時点で、主も儂と同程度の悪人だと言うのにのう?! ええおい!!」
女を強く睨む看守。
しかし女は顔に浮かべた醜悪な笑みを決して崩さない。パイプの先から出る煙が静かに天井へと揺蕩う。
そして暫く険悪な空気を崩さずににらみ合っていたが、飽きた女がふいと顔を逸らした。
「ま、儂としても今ここで主に裏切られるのは避けたいしのう。ここらでやめておくとするかの」
「…………」
看守は無言のまま踵を返し、先ほど入ってきた扉に手を掛ける。
そして一度だけ肩越しに女の方を見た後、静かに扉から出て行った。
再び一人だけになった部屋の中。
女はパイプの煙草を再び吹かしながら、ゆっくりと立ち上がる。
「人対に捕まったのは想定外じゃが、重畳重畳。結果よければ全てよしじゃ。寧ろ今なら理想的な閉鎖環境でデータが取れる……全くもって儂は天運が付いておるのう」
にやにやと笑みを浮かべながら女は木の板で塞がれた窓に近づく。
そして両腕に付けられたリングの盗聴妨害装置を外しつつ、窓の外の景色を見る。
「かっかっか……。はてさて、この世界ではどういう結果になるかのう……?」
眼下に広がる南区の景色を眺めながら、エミンバルルー・シャーロットは不気味に微笑んだ。