「ぐごご、ご……」
「はぁ、はぁ、こいつ……本気で起きねえじゃねえか。南区の薬でもキメたのか……?」
知雫は少し息を荒げながら、顔を真っ赤に腫らしながらも寝続ける俊介を見下ろした。
狸寝入りを決めているようには見えないし、そもそもここまでビンタされるのを我慢してまで朝の点呼を拒む必要がない。
「チッ! 点呼に出ないと同室の私まで色々言われるし、あーもう、めんどくさいな……!」
彼女は軽く舌打ちをしたあと、胸元から黒い墨で奇妙な文字が書かれた紙のお札を取り出した。
その札を俊介の額にペタリと貼り付ける。
「この札一枚は貸しだぞ……」
誰にも聞こえない独り言をつぶやきながら俊介の背中側に手を回し、肩を貸すようにして無理矢理立ち上がらせる。
そして明らかに眠ったままの俊介を力尽くで歩かせ、朝の点呼のために廊下に出た。
廊下には既に他の囚人達が点呼の為にずらりと並んでいる。
そして監房から出てきた知雫のすぐ前に電子端末を持った看守が仁王立ちしていた。
看守が強い声色で言葉を放つ。
「遅いぞ、223番と224番!」
「はいはい。スミマセンデシタ」
明らかに謝罪の意思など籠っていない適当な返事をする知雫。
看守は苛つきげな雰囲気を漂わせるも、無言で知雫と眠ったままの俊介から目を逸らした。
「……225番から点呼の続きだ!」
「ぐご、ごぉ……」
俊介ががっくりがっくりと頭を揺らしながら眠っているのに、看守は一切気に留めず点呼の続きを行おうとする。
そんな看守を見た知雫は蔑むように鼻を鳴らす。
(一番低級の幻術すら見抜けない間抜け看守め。
彼女は背中に隠した手で『幻術の札』を起動させる手印を結び続けていた。
点呼の為に並ぶ五十人ほどの囚人の中で幾ばくかの囚人は知雫の幻術を看破したのか、怪訝な視線を眠りこける俊介に向けている。
だが見つめるだけで何のアクションもしてこないので、知雫も無視して俊介の体を支え続けた。
ある程度肉弾戦もできるように体を鍛えているので、一般的な男子高校生を支えたまま立つくらいなら造作もない。むしろ知雫は『闘技場で見せた強さのわりに筋量が少ない』と俊介に対しての評価を下した。
「――――これで朝の点呼を終了する! 刑務作業希望者は担当の看守の元に行くように!」
そんな風に手印を結んだままぼうっと立っていると、看守が点呼終了の声をいなないた。
ほうっと気怠さを込めた息を吐く知雫。
点呼を終えた囚人達が各々好きな方向に散っていく中、彼女は俊介の体を支えたまま監房の扉を開ける。
二段ベッドの一段目に俊介の体を荒く降ろす。
ベッドの外に飛び出した足がだらしない。足首を掴んでベッドの中に戻す。
「…………」
知雫は一向に起きる気配のない俊介の体に手を触れ、服の裾をまくり上げる。
それから手印を結んだ手を俊介の額に当て、聴診器で体を探る医者のように目を閉じながら体のあちこちに手を当てながら動かす。
(……注射痕もないし、体内の
手を離してパチリと瞼を開き、組んだ指を解く。
そして俊介の体をごろりと壁の方に動かし、一段目のベッドに軽く音を鳴らして座り込む。
右手でべちべちと俊介の太ももを叩いてみるが、ピクッと軽く体を震わせるだけで全く起きる気配がない。
自分の周囲に侍らせるのには充分な実力者。初心な反応でからかい甲斐のある子供。
しかしここまで熟睡して反応が全くないとなると、何をしてもあまり面白くはない。
「……フン」
知雫は不機嫌そうに鼻を鳴らし、俊介から顔を逸らして頬杖を突いた。
何もないコンクリート張りの壁を見つめながら、今日の予定を頭の中で綿密に組み立てていく。
この異世界プリズンに収監されたのは予定外だった。
だがどんな場所に行ったって自身のやることは変わらない。
刑務所の外だろうが中だろうが、目指すのは『高み』だ。
もちろん物理的な高さの話ではない。
あまねく全ての人間が目の前で頭を垂れるような『圧倒的な権力』のことを指す。
元の世界と同じように、全ての人間が私に羨望の目を向ける力。
それを手に入れるために私は……。
「……ッ……」
ふと、思い出したくもない記憶が脳裏をよぎった。
顔を歪めながら額を手で押さえる。
(頭の中に、『あの女』がチラつく……)
強い苛立ちで思わず奥歯を噛みしめてしまう。
……毎日夢に見るのだ。
自身の全てを賭して得た『皇子の婚約者』の座と、それを朱雀に飄々と奪われる光景。
――――そして。
朱雀の台頭に関わらず、栄枯必衰の摂理に従って滅びへの暗い道を歩んでいた故国。
そんな故国が戦争に負けて朱雀が公開処刑されたあの日の光景。
憎き怨敵の醜態をあざ笑おうと、危険を承知で身を隠して見物しに行き、最も目にしたくなかった物を目にしてしまった日。
最も目にしたくなかった物。一番気づきたくなかったこと。
「――――チッ!」
思考をかき消すように大きく舌打ちをして、勢いよく立ち上がる。
胸の上に落ちていた髪を背中側に回し、前髪を軽く手ですいて整える。
(朱雀がなんだ。奴もこの世界に来て、この国にいるんだ! あんな女が大人しく生きてる訳がない、いずれ犯罪者としてこの刑務所にきっと来る……!)
想起するのは、朱雀が囚人服を着てこの刑務所にやってくる姿。
(その時に、刑務所で成り上がった私は、奴のことをあざ笑ってやるんだ……!)
元の世界ではスラム上がりの下賤な女と油断した。だから権力闘争に負けた。
二の轍は踏まない。次は完璧に叩きのめす。
そして腹立たしいことに、私個人の戦闘力は朱雀に負けているが……そんなのは些末なことだ。
至極単純な話、自分より強い者を配下にすればいいだけのことである。国家元首が国で一番強い人間である必要はない。
闘技場でシスター・イート相手に優勢に暴れ回った男が同室というのは実に幸運で都合がよかった。
肝の太さだけは強さに見合ったものを持っているが、それ以外は殆ど女慣れしていない初心なガキである。篭絡の容易さという意味ではこれ以上の相手もいまい。
……まあ、そんな青臭い男がこんな場所に収監されているのには、少し妙なものを感じるが……。人格犯罪者なんてのは大体難儀な事情を抱えているものだ。
その辺りの面倒くさい事情を呑み下せば、朱雀を叩き潰してあまりある戦力が手に入る。
デメリットを危惧して捨てるには惜しすぎる戦力だ。
それに、この刑務所で『強い』というのはかなりの価値がある。
そんな男を篭絡して手下にすれば私の発言力も格段に跳ね上がるだろう。
朱雀を叩き潰し、私の地位も向上させる。ついでに初心で愉快。
まさに鴨がネギを背負ってきたような男だ。
「……けど、どうにも魅了の術の効き目が薄かったんだよな……」
知雫は俊介の顔を見下ろしながらそう呟いた。
裏の世界では、金を払えば精神汚染系の術に対する防衛手段を手に入れることができる。
そういうのを手に入れて使っているのかもしれない。
「……時間は……」
腰ポケットに入っている時計を出し、時間を確認する。
今日は闘技場の運営と食事をする予定が入っているのだ。篭絡した相手を配下として扱い続けるには適度に相手をしてやるのが肝要なのである。
しかし、運営の男と食事をするのは昼だ。
今は朝の点呼が終わったばかり。時間はまだたっぷりとある。
知雫は先ほど頭の中で組み立てた予定を思い出し、数瞬考えた後、午前の些末な予定を全て消した。
今はどうでもいいことに時間を使うより、同室のこいつに時間を割く方が有用だ。
「…………もっと効き目の強い術を試してみるか」
横向きで眠る俊介の体を動かし、仰向きに変える。
知雫は靴を脱いで俊介の腹の上に軽くまたがり、自身と俊介の胸元のボタンを全て外した。
人差し指の腹を軽く噛み千切り、親指で強く押して血を出す。
そして血をインクのように使い、晒した鎖骨と胸の間に五芒星と別の図形を組み合わせたような妙な印を描く。
同じ印を俊介の胸元にも描き、知雫は腰の位置をずらして上体を前に倒す。
『待てキュウビ! お前何俊介の体奪おうとしてんだ!』
「よっ、と……」
『胸押し付けてんじゃねーッ! ぶっ殺すぞ知雫!!』
軽く声を漏らしながら、知雫が俊介と額を弱くぶつける。
頭部と心臓に近い位置を繋げることで精神汚染の威力を強めた、知雫が使用可能な魅了の術ではかなり強力な部類の術だ。
『止めんなヘッズハンター! わらわ、コイツ、コロス!!』
『馬鹿か! あの精神的にタフすぎる俊介が明らかに同調の反動で寝込みまくってんだぞ! 夜寝てる時に体奪っただけでも翌日数十分くらい動くのが辛いほどの頭痛が起きんのに!』
これ以上の術となると、それこそ生殖行為のような更に深い繋がりを必要としたり、命を削る禁術という風なものになってくる。
知雫としてはあまりやりたくないが、それほどのコストを掛ける価値が俊介の強さにはある。
が、準備が多少面倒なので、この術すら効き目が薄かった時に試すことにする。知雫はそう考えていた。
『寝込みを襲うというのは些か下品だが、俊介に精神汚染系の術が効くとは思えないな。私の声を七年間聞き続けてもケロッとしているほどだし』
「ぶっちゃけ、性行為自体が術関係なく篭絡の手段になるしな。意識のある時にやった方が得だ。…………さてと、やるか」
『ほらなほらな! 知雫の術が効くわけないのは分かっとるんじゃ! でもこれ以上の威力の魅了の術って生殖行為が前提儀式になるんじゃぶっ殺す!』
軽く息を吐き、額を重ねたまま俊介の頬を両手で挟む。
その瞬間に知雫の瞳の色が燃えるような紅色に変化し、俊介の閉じた瞼の先にある双眸をじっと捉えた。
『ガスマスク、なんでいつも私の目を隠すの?』
『キュウビの痴態を含めて見る必要がないから、かな……』
『そもそもそんなに気にすることでござるか? 別にヤったヤられたの一回や二回程度じゃなーんも変わらんでござるよ』
『キュウビ的にはその最初の一回が大事なんじゃない?』
『ほおん。……ちなみにトールビット的にはどう思うんでござるか?』
『私ぃ? まあ……病気に注意してれば別にいいんじゃない? 年齢差がありまくるから今更恋愛どうこうって気持ちは湧かないしね』
『いつもより煙草を吸う速度が早いですよフライヤー。どうしたんですか?』
『別になんも。ぶっちゃけお前の翼がバタバタ動いてる方が気になるけど』
『おや。これはこれは失礼しました』
『でもぶっちゃけ寝込みを襲われるって結構怖いよね。まあ俊介がそんなことでトラウマを作るような弱い奴かと言われると絶対そんなことないけどさ。妹に襲われた僕の方がよっぽどトラウマ持ってそうだし。……お前はどう思う、ダークナイト?』
『( ˘•ω•˘ )』
『どういう感情だよそれは』
……少し時を遡った頃、C棟の入り口前。
独特なタトゥーを顔に刻んだ男は、C等の入り口前にいた少年に向かって慣れた声色で言葉を発した。
「おーっす。おはよーゼロツー」
「ん? おう、おはようジャン」
リングから表示されるホログラムを見ていたゼロツー。声を掛けられてジャンが近くにいるのに気付き、パッと顔を上げて挨拶する。
そしてゼロツーはジャンの姿を一瞥した後、きょろきょろと辺りを見回し、目の前にいるジャンに対して疑問を口にする。
「……
「なんか朝の点呼に遅れて出てきて、知雫と一緒に部屋に戻っていったよ」
「ええ? 知雫ってたしか黒髪の女の奴だろ?」
「うん」
ジャンからの超簡潔な報告に片眉を上げて悩むゼロツー。
朝の点呼に二人して遅れる。そしてすぐに二人で部屋に戻っていく。そして俊介と知雫は異性同士……。
「…………うん。まあ、いいや」
ゼロツーはそれ以上考えないことにした。
別に仲間が刑務所の誰かと男女の仲になったところでゼロツーの関与するところではない。
ここに来てまだ数日なのに手が早いなぁ……とは思ったが、口には出さなかった。
ゼロツーは俊介が学校で友達が一人もいないぼっちなのを知らず、人外すぎる実力に見合うくらいには女性経験があるだろうと勘違いしていたのだった。
仲間探しをサボんなよと思うフシは少しだけあった。
腕を組み、背中を壁に預けてゼロツーが言う。
「とにかく、あの子に働いてもらうにはまず僕様達が仕事しなきゃならん。ジャン、昨日話したこと覚えてるか?」
「アイ・アイ・サー!」
大袈裟に敬礼をしながら、ジャンは昨日の話し合いを思い出す。
アルティアスと俊介の会話が終わった後、ジャンとゼロツーは二人で今日の予定について話し合っていたのだ。
囚人に仕込まれた『リング以外の殺害装置』の謎。それを解明するには適切な知識を持った人間による解剖が必要となる。
そして俊介が解剖役の医者を用意できるならば、必要なのは解剖するための『部屋』と『死体』だ。
独房に死体を持ち込んで解剖するわけにもいかないし、繁華街の何処かに解剖用の部屋を用意する必要があった。死体は南区によく転がっているので自由に手に入る。
死体探しよりも部屋探しの方が難儀しそうなこの刑務所の治安にゼロツーは若干げんなりした。
ゼロツーは腕を解き、再び言葉を発する。
「僕様は力がないしな。そっちは頼んだぞ」
「はいよー」
リングの盗聴器があるため、お互いに明言は避ける。互いのやることは昨日の話し合いで理解しているのでこの程度の声掛けで充分だった。
今回の役割分担は『部屋探し』がゼロツー、『死体確保』がジャンという具合になった。
このような役割分担になった理由は単純明快。
ゼロツーに死体を運ぶだけの腕力がなかった。それだけである。
(……さーて、どこら辺に用意できそうかな。僕様もそんなにコネある訳じゃないし、どうしたもんか)
ジャンと別れ、一人で繁華街の大通りを歩きながらそう考えるゼロツー。
部屋を用意すると言っても、何処でもいいわけではない。
リングの機能には囚人の位置を把握したり、盗聴したりと言った厄介なものがある。
まあそれらを防ぐための妨害装置は既に作った。しかしリング以外の、体内の何処かにそういった類の何かがないとは言い切れない。
まあ盗聴器を体内に仕込んでも音が殆ど拾えないので多分ないとは思う。だが犬猫のような位置把握のためのGPSとかは自分なら確実に埋め込む。
よって、不測の事態に陥った時に逃げることができ、尚且つ人ごみに紛れられるような位置。
つまり大きな商店街がある西区に用意する必要がある。
(西区、西区、西区かぁ~……。裏路地に入ったところにも店があったりするし、空き家とかは殆どなさそうだよな。金握らせて部屋を借りるのも手段だけど、あんま信用できないしな)
金を握らせて黙らせた奴は、更に高額の金で軽々と口を割る。そこからもし看守にでもバレたら計画が全部ぶっ壊れてバッドエンドまっしぐらだ。
この刑務所に来てまで金稼ぎするほどお金が大好きな奴に信用できる奴なんかいるか! って言われたらまあそりゃそうなんだけど。
確か繁華街が潰されそうになったとき、看守を血祭りにあげたのも西区と南区の奴らが連合組んでやったって話だし。
(そこまでやるほど金稼ぎが大好きなのかね……)
そんなことを考えながら、西区のあちこちをキョロキョロしながら歩き回る。
人通りが多ければ身を隠しやすいが、死体を隠しながら搬入するときのルートのことも考えないといけない。実際に見てからじゃないと気づかないことも結構あるものだ。
裏路地ならば死体を一人分隠して運べるだろうし、南区から少し近い所の方が便利かもしれない。
そう考えながら、裏路地に少しだけ近づいて顔を覗かせた時――――
「――――ッ!?」
突然裏路地の影から生えてきた手に首と肩を掴まれ、無理やり路地の中に引きずり込まれる。
素早く壁に押し付けられ、抵抗するより早くナイフを首に突きつけられる。
刃の切っ先から身が凍えるような冷たさを感じる中、ゼロツーを拘束する人物が微笑みながら声を出した。
「初めまして。可愛いC棟の囚人さん」
「!! ッ……!」
「私のことを知っているか……なんて聞く必要がないくらい分かりやすい顔をしているね」
「当たり前だ、裏の世界じゃ知らない奴がいないほど有名だろ。未来革命機関のボス、『ウィザード』……!」
彼を拘束するのは、金色の髪から嗜虐的な瞳を覗かせるウィザードであった。
鋭いナイフをゼロツーの首に押し当てたまま、まるでカフェで友人と仲良く会話するような声色で言葉を発し続ける。
「この刑務所はとても狭いね。手に入れようと思えば、誰が何処で何をしているかなんて情報はすぐに手に入ってしまう」
「…………」
「おっとっと、すまない。回りくどく話すのは嫌いそうな顔だね。単刀直入に言おうか」
こほんと咳払いをするウィザード。
ナイフの刃を更に立てていつでも首を掻っ切れるようにしながら、飄々とした声色で声を放つ。
「日高俊介と最近……っていうか昨日からよくつるんでるよね。何してんの?」
「…………」
「なんか言ってよ。ね」
ゼロツーは首に突きつけられるナイフを感じながら、ごくりと生唾を飲む。
なんて耳が早い奴なんだ。そもそもこの刑務所に来てまだ数日なのに、どうやってそこまでの情報網を作り上げたのだろう。
やはり未来革命機関という巨大組織を作り上げただけあって、その優秀さが行動の端々からにじみ出ていた。
「結構調べたけど、何してるのかまでは分からなくて……ああ、やっぱいいや。こうしよっか」
ウィザードはゼロツーの耳元に口を近づけ、悪意の籠った声で囁く。
「
「はぁ……!? な、何言ってんだお前……!」
「自分で言うのもなんだけど、結構優秀だと思うよ? ここで断られちゃうと、私、全力で邪魔をしたくなっちゃうかもだし……」
そこで言葉を切り、刃先でゼロツーの首の皮膚を薄く切る。
ゼロツーにはウィザードの今の行動がどういう意味なのかすぐに理解できた。
目の前のウィザードを仲間にしないとこちらを全力で邪魔しに来る。
その第一手として、まず
(……ヤバいな。僕様が断ったら、脅しとかじゃなくマジで殺す気だ)
危険な人間は目で分かる、という。
ウィザードの瞳は常人が見ても危険と分かるような色をしていた。自らの手で人を殺しても何の罪悪感も抱かない気質なのが一瞬で理解できた。
「で、どうするの?」
「…………」
ゼロツーは表情を歪め、頭を全力で働かせる。
自分が必要な役割は脱獄した後の警察庁のサーバーハッキングだ。最悪自分がここで死んでも、脱獄計画自体はジャン主導で進めることができる。脱獄した後に日本で暮らすことは叶わないが海外でつつましく生きることはできるだろう。
もしウィザードを計画に引き込むと何をされるか分かったものじゃない。最悪刑務所からの脱獄すらできないほどに計画が引っ掻き回される可能性がある。
それくらいこの野郎は危険だ。未来革命機関はピュアホワイトの話ばっかされるけど、あんな組織のボスだったこいつが危険じゃないわけがない。
だけど断ったら断ったで全力で邪魔をしてくるという。
なんてめんどくせー奴なんだ。
(……そもそも日高俊介が絶対賛同しないだろ……。僕様達の計画が成功したらこいつが無罪でもう一回解き放たれるんだぞ。流石にヤバいだろマジで)
常識よりの考え方を持っていて、かつ未来革命機関とバチバチにやり合ったという俊介。
そんな奴がウィザードが仲間になることを許容し、無罪で生き直すことを容認できるとは思えない。
だけどここで断ったら自分が首を掻っ切られて殺される。
そうなると俊介ごと脱獄した後に無罪で生きるという話はパーだ。
「………………」
恐らく人生で一番と言っていいほどにゼロツーは汗を流していた。
自分の命を天秤に賭けるくらいの覚悟はしている。だがやはり、できることなら死にたくはない。
死んでもいいと思うくらいなら外に出て無罪で生きる計画を立てたりなどしない。
コンピューターのように全てを合理的に判断できるようになれればいいが、中々そう上手くはいかないらしい。
ゼロツーは苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべながら、喉奥から絞り出すような低い声を出した。
「……わ……わかったよ……」
「おっ、そうかそうか。良い選択をしてくれたみたいで私は嬉しいよ」
ウィザードがナイフをゼロツーの首から離し、馴れ馴れしくぽんぽんと肩を叩く。
肩を叩かれるゼロツーは一目で作り笑いと分かるような表情を顔に貼り付けながら、目だけでウィザードを睨んだ。
(今は仲間として扱う……でも、いつか殺さないとマジでヤバいな。いずれ隙を見て…………はあ、あんまり仲間扱いした奴にこういうこと考えたくないんだけどな)
犯罪者のゼロツーといえど、表社会の人間を殺し過ぎるウィザードが解き放たれたらどうなるか、なんてことを考えると胸にもやもやしたものが発生する。
未来革命機関と同じような組織を作るのが手に取るように分かる。道徳の物語では人は反省できるだのなんだの言うが、犯罪者の中にはどうあっても更正できない奴が一定数存在するのだ。
だからいつか、ジャンと隙を見て抹殺する。
刑務所から出してはいけない奴を外に出してしまったのなら、それは紛れもない僕様の責任だから。
(ただ今は、とりあえず……)
この後に待ち受ける俊介への説得のことなどを考えながら、ゼロツーは胃に走るキリキリとした痛みに顔を歪めた。
知雫からは見えていませんがキュウビは憤死して知雫を殺そうとしてます
でも同調の反動的なアレで異常に爆睡してる俊介の体を無理やり奪うとどんな悪影響が出るかわからないため、他の人格達に取り押さえられてます
キュウビに次いで好意を露わにしてるハンガーとかは最後に自分の元にいればいいラオウメンタルなので特に何も思いません
ドールはガスマスクに顔を隠されてます