殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#121 寄生虫が動き出す

 

 

 

 

 トールビットが糸鋸で胸骨を切断しながら、横にいるマッドパンクと向かいにいるウィザードに言葉を放つ。

 

「今から解剖して発見する囚人の殺害装置だが……大体の場所の()()()は付いている。魔法なんてトンチキが関わっていなければ、だけど」

「ふうん。一応聞いてもいい?」

 

 切断した胸骨を回収してトレーに乗せるウィザード。

 手術の真似事をした経験はないのだろう。少したどたどしい手つきだが、内臓が露出した死体相手に一切ビビっていない。助手としてならそれだけで十分だ。

 

 目標の胸骨をあらかた切除したトールビットが、糸鋸を傍の台に置いて言葉を吐く。

 

「件の殺害装置は緊急時に囚人を即死させるために、『即効性』が強いものだと思う。そうでもないと、装置が作動して囚人が死亡するまでに何人か道連れにされるかもしれないからな……」

「うん……うん。そうだね、私もそう思う」

「しかも、例のリング以外で死亡した囚人は殆ど外傷がなかったんだろう? だから、その装置は生命維持に重要な内臓だけを傷つけて即死させたんだと思う」

 

 メスに持ち替え、トールビットが開胸して露出した心臓を示す。

 死亡からそこまで時間が経っていないため、まだ内臓の色はさほど変色していない。濃い血の香りがするだけで腐敗臭はまだしないのが幸いだ。

 

()()()、その他生命維持に重要な器官は上半身に集中している。だから今回の解剖は上半身をメインに進める。……超常現象を引き起こす魔法が死亡原因だった時は分からん」

「そうだね……ここら辺で私の知見を言っておくと、『魔法』の可能性は低いんじゃないかな?」

「……そうなのか?」

 

 トールビットがそう聞き返す。マッドパンクも興味ありげに視線を上げる。

 そんな二人の疑問に答えるようにウィザードが口を開いて語り始めた。

 

「『魔法』の効き目って個人差がヤバいらしいんだよね。例えば体質で効きにくい奴もいるし……魔法が得意な奴は特に魔法が効きにくいんだって」

「…………」

「けどこの刑務所にはきゃるとる~ぜみたいな魔法強者もいる。全ての囚人に等しく効果がある殺害装置を付けるなら、個人差が大きい魔法はあんまり使わないんじゃない?」

 

 ……意外にもキチンとした知見だった。

 根っこがサイコでイカレてしまっているが、素が優秀なことが節々に現れている。

 未来革命機関のボスとして長く活躍した経歴もあり、裏社会についての知識量は比肩する者がいないだろう。

 

 トールビットは静かに頷き、殺害装置の正体が魔法である線を限りなく薄くする。

 魔法でないとするのならば……必然的に『遠隔操作可能な機械』の線が濃厚になってくる。どんな異世界製の機械が使われているのかは分からないが、ウィザードとマッドパンクという優秀な技術者が揃っているなら、何かの手がかりくらいは掴めるはずだ。

 

「……まず心臓を見てみよう。ウィザード、明かりを強く」

「はい」

 

 心臓をメスで斬り、軽く開く。

 ……特に異常は見当たらない。前の世界の資料や手術で何度も見た、動きが止まっている以外は至って正常な心臓だ。

 おかしなものがある様子もないし……心臓は外れかもしれないな。

 

 

 そんな風にトールビットが考えた時。

 彼女とは全く異なる意見をマッドパンクが口から吐いた。

 

『ん……ああ、これか。はいはいそういうことね。小賢しいな~』

「? 何か見つけたのかい、マッドパンク……?」

『うん。どうやら僕の妹も気づいてるみたいだけど、これはまあ……マトモな医療知識を学んだ人間だと逆に気づけない奴だね』

 

 トールビットがウィザードの顔に目を向ける。

 彼(彼女?)はルーペ越しにギュッと目を細めながら、手に持った鑷子の先を切開した心臓に突っ込んだ。

 そのままグチグチと弄り回し、少し経ったあとに鑷子を引き抜く。

 

「なにこれ~。裏でも見たことない……」

『極小の虫型の機械……『バグズ・ロボット』って所かな。寄生虫の線虫がモデルか』

 

 ウィザードの握る鑷子の先には、長さが5ミリもない小さな線虫のようなものが掴まれていた。

 ルーペで拡大して確認すると、小さな金属製の虫が鋭い刃の付いた口をパクパクと開閉させているのが見える。小さいが人間の心臓に穴を開けるくらいは簡単だろう。

 

 人間の心臓に寄生する線虫は存在するが、平均して凡そ数センチ以上の長さはある。

 だがこれは……あまりにも短すぎる。

 

「あの、これって今お兄ちゃんも見てる? この小さいロボット、どう思う?」

『まぁ見た感じ……多分医療用の虫ロボを魔改造してんなぁ。このサイズだと大抵の臓器に潜れるだろうし、内臓のがん切除が本来の目的かな。トールビット、妹にそう伝えて』

「……医療用のロボットを改造してるかも、って兄が言ってるよ」

 

 マッドパンクの代わりにウィザードがそう伝えると、彼は鑷子で摘まんだロボを近くにあったアルミのトレーに置いた。

 そして興味深そうにメスでコンコンとつつき、虫がミーミーともがくのを観察しながら呟く。

 

「やっぱり元は医療用だよね~? でも裏で見たことないってことは、国認定の人格持ちが医療用に作ったのを殺人用に魔改造したってことかな? 面白いもんだねぇ」

 

 目をキラキラと輝かせながら虫を観察するウィザード。

 ……元は技術者畑の出身だから、ああいうのにも強い興味がそそられるのだろうか。

 

 マッドパンクも興味はあるようだが、気色悪い寄生虫が俊介の体にいる不快感の方が勝ったらしい。虫を観察しに行くことはせず、トールビットと顔を合わせて議論を重ねる。

 

『あれくらい小さいなら、食事に混ぜられると全く気づかないな。刑務所の食事で盛られたか?』

「いや、こんな小さい機械が胃液を通るのはリスクが大きいと思うね。そもそも消化管から心臓に虫が通れそうなルートはないし。可能性があるとすれば……手首のリングから手首を通る太い血管に注入されて、心臓まで辿られたかな?」

『……そっちの方が可能性高いな。あ~マジでキッショ!』

 

 顔を歪めながらそう言うマッドパンク。

 トールビットは新たに手に持った鑷子で心臓を再び弄りつつ、言葉を吐く。

 

「けど、あんな小さな虫が一つ暴れても即死は無理だろうね。心臓にあと十数匹はいそうだし……このサイズで脳に入るのは無理そうだけど、脳幹辺りには辿り着いてるんじゃないかな?」

『チッ、取り除くのが面倒な場所ばっかに……。暴れさせなくても変な影響が出そうだけど、まあ、こんな刑務所の囚人のその後は知ったこっちゃないってか』

「そういうことだろうね。……ホラ、さっそくもう一匹見つけた」

 

 鑷子の先にもう一匹の虫を摘まんで心臓から引き抜く。

 そして逃げられないように深いプラスチックの容器に入れる。うねうねと動く様子が気持ち悪い。

 マッドパンクが頭をガシガシと掻きつつ、眉をひそませて呟く。

 

『手術で一匹一匹取り除くって言っても、そんな技術も設備もない。何か対策考えないと』

「……対策を考えるにも、まずサンプルが必要だろう? 原因は分かったんだから今は一匹でも多く採取しておこう。ウィザード!」

「ん、ああごめんごめん。よーしバンバン取っちゃうぞー」

 

 自分で取った虫を観察し終え、トールビットと同じ容器に入れるウィザード。

 そして二人で心臓を弄り回しつつ、豆掴みのような気分で虫を取り続けること10分……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……互いの息遣いだけが響く集中が張り詰めた空間。

 それを破るように、部屋に唯一ある木の扉がゆっくりと開かれた。

 

「無事か?」

 

 扉を開けて入って来たのは、つい少し前に出て行ったゼロツーだった。

 やけに息を切らし、顔から汗を流している。

 ウィザードは鑷子を動かす手を止め、体をぐぐっと伸ばして彼の方を見た。

 

「一体どうしたの? そんなに息を切らしながら扉を開けてさ」

「いや……さっき外で騒ぎが起きてな。念のため無事かと思って見に来たんだ、邪魔してごめん」

 

 息を乱したゼロツーの後ろから、周囲に警戒を巡らせながら部屋に入ってくるジャン。近くにあった盗聴妨害装置を手首のリングに巻き付け、大きな息をほうっと吐く。

 

 

 そんな二人の様子をトールビットは肩越しにチラリと振り返る。

 しかしすぐに視線を手元に戻し、グチグチと湿った肉が擦れ合う音を鳴らしながら言葉を吐いた。

 

「作業しながら聞くから、何があったのか内容を聞かせて」

「ん? ……ああ、人格と変わってたんだったな。雰囲気全然違うから分かんなかった……」

「私も気になるから聞かせてよー。早く早くハリーハリー」

「ああ、悪い、わかった」

 

 ウィザードがトールビットの助手をしながら声を出す。

 それにゼロツーが軽く頷きながら返事をし、先ほど見た料亭での出来事を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――曰く。高級料亭で闘技場の運営が殺害されたこと。

 

 

 

 

 ――――曰く。赤ずきんを雇い、運営を料亭のスタッフごと皆殺しにしたのは厭勝だということ。

 

 

 

 

 ――――曰く。刑務所全体がより物騒になり始めるかもしれないということ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神妙な顔つきでゼロツーがそれらを語り終わったあと。

 ウィザードは必死に噛み殺していた笑みを我慢できないと言った様子で、堰を切ったかのように笑い始める。

 

「ぷっ……あっはっはっはっは!」

「近くで大声を出さないでくれ、音で鑷子の先が震える……」

「あ、ごめん。くく、いやぁでも、ついに動き出したって感じだね……厭勝ってそういう奴だし」

 

 そんな風に言うウィザードに、ゼロツーが問いかける。

 

「厭勝とは仲良しなのか? 僕様は厭勝がダンク・パンカーズのボスで、ド級の女嫌いってことしか知らないんだけど……何か弱点とか知ってるか?」

「仲は良いけどさ。弱点なんか知ってたら今頃潰してるよ」

 

 静かな声で問いかけに答えるウィザード。

 

「組織を作るってのは、必ず()()が必要なんだ。『人脈』とか『お金』とか『知能』とか、とにかく人より優れた何かがないといけない。私の場合は『反重力バリア装置』を売りまくって得たお金だね」

「……突然何の話?」

「まあ聞いてって。それで、ダンク・パンカーズを作った厭勝はね。裏社会で『()()』を元手に成り上がった男なんだ。噂話じゃ、総合格闘技の世界チャンプの女性を自分でボコして調達したとか、ビルを素手で倒壊させて敵組織を皆殺しにしたとか……」

「……はあ?」

 

 ゼロツーの口から困惑の声が漏れる。

 ウィザードが発した話の内容が上手く呑み込めず、思わず声が出てしまったのだ。

 

「いや、世界チャンプを調達ってのはまだ理解できるけどさ。素手でビルを破壊って何それ? 流石に尾ひれ付きすぎだろ」

「ただの噂話だよ。調査しようとした情報屋が100人近く消えちゃった、根も葉もない噂話」

「……マジ?」

「ホントホント。調査に数千万も使って手に入ったのは裏付けのない噂話だけってね。笑っちゃうよマジで」

 

 あっけらかんと、桁外れの調査金を暴露するウィザード。

 ……ダンク・パンカーズと未来革命機関は元々親密な取引相手だった。二者はお互いに裏社会のトップを競うレベルの組織である。

 

 だから、ウィザードが多額の金を使って厭勝のことを調査しても何ら不思議ではない。

 相手の弱点の情報を手に入れることは、裏社会のトップに王手を掛けることに繋がるかもしれないからだ。

 

 

 まあそんなウィザードの必死の調査も、組織の金を無駄に浪費するだけに終わったのだが。

 

 

「……厭勝は強いよ。相手が格闘技のプロでも余裕で叩きのめせるのは事実だね。世界チャンプの件は裏が取れたし」

「まあ料亭でのアレを見たら、それくらいできてもおかしくはないと思うけど……」

「でもさっきのビルを素手で破壊するっていう……『人外染みた強さ』に関する話はほぼ完璧に隠してる。噂話が限度で確たる証拠が全く出て来ない」

 

 そこで、ウィザードとゼロツーの会話にジャンが口を挟む。

 組んだ腕を解いて顎を手で押さえ、眉をひそめながら言葉を吐く。

 

「でも、どうしてそんなに強いことを隠す? 裏社会なんて強さを誇示してナンボだろうに」

「私の予想だけど……多分、『人外染みた強さの正体』は厭勝の『()()()』なんだと思う」

「切り札?」

「厭勝がマジで強いだけかもしれないし、異世界由来の隠し武器かもしれない。もしかすると、昔から従ってる側近が厭勝の代わりに暴れてるだけかもしれない。……自分の命を守る最後の砦だから、誰にも事前対策が取れないように徹底して隠してるんだ」

「……なるほど」

 

 

 裏社会で強さを誇示することは確かに大事だ。

 しかしそれ以上に、自分の命を守ることこそが一番優先すべきことである。

 

 厭勝はダンク・パンカーズという組織を作り、充分地位を高めた。

 そして、ほとんと頂点に至った状態では『強さ』を誇示しすぎる必要はない。むしろ強さの正体を隠し、自分の命を守る最後の切り札を隠すことを厭勝は選んだのだ。

 

 

 ウィザードの返答に納得するジャン。

 ……しかしダンク・パンカーズについて考えるうち、一つの疑問が頭をもたげるようになった。

 

「……俺も、外でダンク・パンカーズの日本支部に何度か銃を売ったことがあるよ」

「そうなのか? ジャン」

「大きい組織で値切りもしないから良い取引先だったんだ。でも昔から一つだけ不思議に思ってる事があるんだよ。……厭勝ってド級の女嫌いだよな?」

「うん。厭勝=女嫌いってくらい有名な話じゃん。……それで、不思議に思ってることって?」

 

 

 

 

 

「…………ダンク・パンカーズの日本支部の副支部長って『()()』なんだ。あれって一体どういうことなんだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――北区・闘技場裏。

 

 

 闘技場の運営のボスは先ほど厭勝に殺された。

 しかし、数百人近い囚人を入れる闘技場がたった一人で運営されている訳がない。

 殺されたボス、その側近の知雫の下に複数の配下がいる。

 

 そんな運営組が働く事務所が闘技場の裏に存在した。

 

 窓すらない木で作った小さな小屋の中、突き合わせた事務机で十数人が作業を行う。

 囚人なのに囚人らしからぬ真面目な働きを見せる彼らは、ある意味この刑務所で最も更正に近づいていると言っても過言ではないかもしれない。

 

 そんな風に、先ほどボスが殺されたこともつゆ知らず。

 ボスと知雫がいない事務所で、彼らが必死に翌日の闘技場の準備をしていた時――――。

 

 

 

 

 ――――カチャリ。

 

 

 

 事務所にある唯一の扉が静かに開かれる。

 中にいる人間たちが、ボスか知雫が帰って来たのかと一斉に扉の方を向くが……。

 

「初めまして」

 

 入って来たのは初対面……しかし名高い悪名だけは知っている男。

 人身売買組織ダンク・パンカーズのボスである厭勝だった。

 

 彼は血の付いたオレンジの囚人服を隠そうともせず、にこやかな笑顔を顔に張り付け、当たり前のように事務所に入ってくる。

 突然の出来事に一瞬固まる運営側の人間たち。

 彼らが冷静さを取り戻すよりも早く、厭勝は事務所の中に足を踏み入れ――――。

 

 

 

 ――――ビビビッ!!

 

 

 

 扉を開けた手とは逆の手に持っていた、三本の小ぶりの投げナイフ。

 それを一瞬のうちに投げ飛ばし、事務所の中にいた三人の女性の首に直撃させた。

 

 ナイフの刃先は寸分たがわず女性たちの頸動脈を裂き、鮮血がシャワーのように部屋中に舞う。

 倒れ伏した彼女たちの姿は誰が見たって致命傷だ。助かる見込みはない。

 

 厭勝は全てのナイフを投げ終わったあと、部屋の奥で顔を青ざめる四人目の女に目を向けた。

 

「三本も持って来れば充分と思っていましたが……女を四人も雇っていたんですね。もう一本買うべきでした」

「ひっ……!」

「お、お前、何やってんだッ!!」

 

 突然の出来事続きで固まっていた運営達の一人がやっと冷静さを取り戻した。厭勝と同じくらいの体格を持つ黒髪の男だ。

 女囚人と厭勝を繋ぐ直線に体を割り込ませ、そのまま厭勝に殴りかかろうと近づく。

 

「ふむ……あまり散らかしたくはないのですが」

 

 殴りかかろうとしてくる男を見た厭勝はため息を吐き、近くにあった事務机を片手で持ち上げる。

 それを勢いよく、男囚人ごと女の方にぶん投げた。

 

 様々な書類が入った事務机の重さは60キロを下回ることはない。

 そんなものを至近距離から受けた男は耐え切れず、背後にいた女ごと事務所の壁を突き破り、外に吹っ飛ばされた。

 

 

「ぐ、く……っ!」

 

 机を受けた右腕の骨がベキリと折れてしまったものの、まだ生きている男。

 その背後にいた女も足首を捻挫したが息はある。

 

(このままここにいるのは不味い……二人とも殺される!)

 

 男は折れていない左腕を支えに体を起こす。

 その瞬間に見た景色は。

 

 何度も見覚えのある、職場仲間の私物が乗った事務机が二つ。

 刑務所の外から仕入れた貴重なポロライドカメラで撮った写真が挟まれた、思い出のある机。

 

 それらが、先ほどの投擲速度が止まって見えるほどの速度で、二人の頭部に迫ってきている光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――私の初業務は事務机の調達ですか……ま、仕方ないですね」

 

 

 厭勝は事務所の外にある、地面と事務机に頭が挟まれた二つの死体から目を逸らす。

 むせ返るような血の臭いが充満する部屋の中、残った運営たちに向かって厭勝はにこりと笑った。

 

「今日からここのボスになる厭勝です。皆さんの元ボスは先ほど殺しました。どうぞよろしくお願いします」

 

 そう言った後、厭勝がぺこりと頭を下げる。

 

 ……返事など出来るはずがない。

 今まで何度も会話をし、共に苦難を乗り越え、親交を深めてきた相手が一瞬のうちに五人も殺されたのだ。

 彼らも凶悪な犯罪を犯してここに来た囚人達だが、『本物の悪人』を前に呼吸すら忘れるほどの緊張を感じていた。

 

 頭を上げた厭勝が、両手を広げて部屋の中を見回す。

 

「さ、私に異議のある方はいらっしゃいませんね? 沈黙は肯定と見なしますよ」

「…………」

「……素晴らしい。では明日から頑張って働いていきましょう。今日はそこら辺の死体を片付けて終業です、お疲れ様でした」

 

 笑顔を顔に張り付けたまま、先ほど入ってきた扉から出て行こうとする厭勝。

 扉のドアノブを手で握ったあと、肩越しに部屋の中に振り返った。

 

 肩から覗く表情。

 それは見た者に命の危険を想起させるような、何処までも冷たい表情が浮かんでいた。

 

 

「明日はキチンと出勤してくださいね。自分で言うのもなんですが、私は少し厳しめですので」

 

 

 声量は控えめながらよく通る声色でそう言い放つ厭勝。

 いや、無意識ながらに全神経が耳に集中していたのかもしれない。一字一句聞き漏らした瞬間に殺されると本能が察知したのかもしれない。

 

 緊張で呼吸が止まり、冷や汗を流し続ける運営たちから視線を外す。

 そして厭勝は表情を変えぬまま扉から事務所の外に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北区から出てすぐの所にある、混み入った裏路地の中にある二階建ての建物。

 今は誰も使っていない場所だ。

 

 二階には東側に窓が付いた、古い畳が張られた四畳程度の部屋がある。

 

 厭勝はつい数日前にここを見つけた。それ以来仮の拠点代わりに使用している。

 勝手知ったる足取りで二階に上り、古臭い畳の香りに一瞬のノスタルジーを感じながら、部屋の隅に保管してある水のペットボトルを一本取る。

 そして窓から刑務所の天井にある落書きのような青空と太陽代わりのライトを眺めた。

 

 

 ……そのまま、人の気配のない部屋の中でぽそりと呟く。

 

 

 

 

「楽しそうな刑務所だと思いましたが……誰も彼も平和に生き過ぎて、牙を抜かれてしまっている。張り合いがなくて少し退屈ですよ」

 

 

 

「刺激的な日々だった外が恋しいですよ。……()()()も、私と同じことを思うでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ねえ、『()()()』?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








解剖シーンをもっと詳しく書きたかったですが、流石に医療ド素人の作者が深く突っ込んで書くのは無理でした。生者ではなく遺体の解剖シーンとはいえ、こういうので知ったか知識を書くのは少し怖いです。
一発目で殺害装置の場所と正体を当てるご都合展開ですがここはマジで勘弁してください。


ちなみにダンク・パンカーズの日本支部副支部長っていうのは、本編二話目に出てきた女性のことです。夜桜を誘拐してた人ですね。
でも覚えてなくても全然大丈夫です! 必要になったらまたキッチリ描写し直します!


……刑務所編始まって二十数話目でやっと起承転結の転の一歩目辺りには来れたかな……?
展開が遅い!

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