殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#123 理屈

 

 

 

 

 

 

 

 ――――折川旅館の女将。

 

 

 

 

 今年のゴールデンウィークの連休に訪れた温泉街にある『折川旅館』の女将だ。

 俺はその旅館で牙殻さんや坂之下風華さんと共に殺人事件に巻き込まれる。

 事件の犯人は宿泊客の一人である真下と思われた。が、実は女将が『人間を操る()』で真下を操り被害者を殺害した、というのが真相だった。

 

 女将が殺人を犯した理由。

 

 折川旅館とは、女将が先祖代々受け継いできた大事な旅館だったらしい。周辺の山の土地含めて女将の家系が所有していたそうだ。

 そしてある時旅館に湧く温泉の中から不思議な成分が見つかり、渦島製薬が興味を持った。

 

 渦島製薬は折川旅館の土地を買って調査しようとする。

 しかし女将は先祖代々受け継いだ旅館と土地を売ろうとしない。

 業を煮やした渦島製薬は旅館に営業妨害を含む嫌がらせを行い、経営不振に陥れて女将が自分から土地を手放そうとするのを待った。

 

 そんな渦島製薬の所業に女将が怒り、土地の買い取り交渉に来た真下を使って殺人を行った。

 

 

 ……というのが、事件のあらましだったはずだ。

 

 

 その後。

 女将の殺人がトドメとなり、元々経営不振に陥っていた折川旅館は完全に潰れた。

 ご主人と娘さん(折川結城)は旅館と土地を手放し、今は別の場所で暮らしている。

 

 多分……旅館の土地は渦島製薬に買い取られたんだろう。

 結局はあの会社の目論見通りになってしまった、というわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ。折川旅館なんて懐かしい話を出して……」

「…………」

 

 知雫は手の平に浮かぶ蒼炎を握りつぶし、怪訝な顔を浮かべる。

 言葉をかけられた俊介は掘り起こした記憶から顔を上げ、彼女の方を見た。

 

「……お前の言う女将さん。というより、その娘さんと関わりがあってな」

「ああ、そういうこと。なんつーか……その娘さんは気の毒だったな」

 

 彼女は木の机に腰を掛けたまま、感情の籠っていない声色でそう吐いた。

 俊介がその物言いに少しだけムッとした様子で眉間にしわを寄せ、知雫を睨む。 

 

「『()()()』……? お前、あの事件に関わってたのにその言いぶりは流石にないだろ。しかも女将に妙な禁術を教えたっていう、わりと元凶側だし」

「知らねえよ。私が直接殺ったわけじゃないし……そもそも、あの女将が人を殺したのも()()()だっての」

「……『()()()』?」

 

 知雫は軽くうなずく。

 

「たしかに私はあの女将に洗脳の術を教えたさ。色々目論見があったからな」

「目論見ってなんだよ」

「あの旅館の土地……っていうか、あの土地の地下に眠る『強大な力の源』が欲しかったんだ。何かはわからんが、温泉にうっすら神の気配が混じってた辺り……マジで神の欠片でも埋まってるのかもな」

「…………」

 

 脳内に想起する、かつてマオから聞いた言葉。

 元魔王の彼女曰く、折川旅館の温泉には妙な気配が紛れているという。

 その気配の元はおそらく、旅館の地下にある源泉付近に異世界から飛んできた『魔神の肉片』が潜んでいるのではないかと。そんな予想を立てていた。

 

 渦島製薬が狙っていた『温泉に混じる新成分』ってのも、多分その肉片が原因なんだろう。

 でもマオも『魔神の肉片もあくまで予想』ってだけで、実際に穴を掘って確かめたわけではないとは言っていた。

 一体、あの地下にはなにが眠ってるんだろう……。

 

 そんな俊介の内心もつゆ知らず、知雫は言葉を続ける。

 

「その『力の源』を私が食えば術の威力が数十倍に跳ね上がる。もし売ったら億は下らん値になる。だからそれが眠る土地が欲しかったんだが……面倒なことに、私と同時期にその土地に目を付けた奴らがいた」

「……それが()()()()か?」

「そうだ。国内の浮遊人格統合技術の薬の大半を製造してる、国や榊浦ともパイプが太い大企業だよ」

 

 彼女は憎々し気な顔を浮かべる。

 土地をかっさらおうとした渦島製薬がそんなに鬱陶しかったのだろうか。

 

「その渦島製薬の登場はわかるけど、女将に禁術を教えた理由は結局なんなんだ?」

「……私が渦島と戦っても金の積み合い勝負では勝てないし、実力行使は人対が出てきてお陀仏だ。そもそも黒い噂も多い会社だし、あまり表立って戦いたくはなかった」

「…………」

「だから、女将に洗脳の術を教えて自分自身で追っ払ってもらおうとしたんだ。そして渦島がいなくなった後に土地をいただけば何も問題はない……って考えてたんだがなぁ」

 

 そう言い終わったところで、大きくため息をつく知雫。

 そんな彼女に俊介は問いかける。

 

「洗脳の術で追っ払うって、そんなのできるか……?」

「いや、それは普通にできるだろ。というか」

 

 知雫は自分の指を折りながら「スキャンダルをでっちあげるとか」、「会社の準違法行為を吐かせてマスコミに送りまくるとか」……とつぶやいた。

 具体的な案を上げられれば、確かにそうだと感じる。

 

 そしてけだるげな表情のまま、彼女は言葉を紡ぐ。

 

「渦島が関わるのをやめるくらいの小さい嫌がらせを続ければよかったんだ。なのにあの女は何考えてんのか、殺人なんぞドでかいことしやがって……」

「じゃあ……ホントに女将さんが人を殺したのは予想外だったんだな」

「当たり前だ。社員が殺されたら渦島だって本気でキレるし、あの土地を絶対に諦めなくなる。結果、私が手を出す隙も消えてフィニッシュだ」

「…………」

 

 黙りこくる俊介。

 

 

 

 

 

 知雫の話を簡単にまとめると、こうらしい。

 

 折川旅館の土地を欲しがった知雫は女将に禁術を教えた。

 その禁術とは『洗脳の術』。人を使用者の意のままに操れる術だ。

 

 それを女将に教えたとき、知雫は『軽い嫌がらせ』に使うだろうと考えていた。

 渦島製薬が本気で怒らず、それでいてこれ以上関わるのを嫌がるような、ちょうどいい塩梅の嫌がらせだ。

 そして渦島が手を引いたあとに、ゆっくりと土地をいただこうと考えていたらしい。

 

 しかし女将の激情は知雫の予想を超えていた。

 

 女将は術を使い、旅館に来た渦島製薬の社員を殺害。

 そしてたまたま宿泊しに来ていた俺が事件を解決した。……が、牙殻さんも泊まっていたところを見るに、俺がいなくても事件は解決されていただろう。

 

 その結果、渦島が本気になって土地を手に入れ、知雫の目論見は消え去った。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 知雫が殺人に関わっていたのは確かだ。

 『洗脳の術』という犯罪がバレにくい手段を用意したのも彼女である。

 しかし、最終的に殺意を持って()()を実行してしまったのは、女将本人……。

 

 そんな風に、ベッドの上に腰掛けたまま考え込む俊介。

 知雫はその姿を見た後、座っていた木の机から降りながら言う。

 

「まあ、理屈は分かっても感情で納得できないってんだろ。わかるさ」

「…………」

「……今、私が何言っても逆効果だろうが……私もそういう経験がある」

 

 彼女は机にある一番下の引き出しを開く。

 そこには500mlのペットボトルが十数本、ビニールの包装に包まれた状態のままで入れられていた。知雫は指先に灯した炎でビニールの包装を焼き溶かし、一本だけ取り出す。

 

「私も前世で『()()』って大嫌いな女がいた。貧困街(スラム)のどん底から、貴族階級が暮らす宮殿のトップまで這いあがってきた成り上がり者だよ」

「朱雀……」

「……前に風呂場で言ったことがあるっけな。今でも腹わたが煮えくり返りそうなほど憎い奴でな」

 

 パキリ、と小さな音を鳴らしてキャップを開く。

 そして少しだけ水を飲み、唇を軽く潤してから再び話し始める。

 

「性格はクソを凝縮したような奴で、スラムから宮殿に上がってくるまでも大量に殺してるし……宮殿に入ってからも殺しまくってる。歴史に名を残す悪行っぷりだ」

「えぇ……」

 

 何してるんだあいつ。

 いや、一応殺人鬼だしな……。

 

「でも、素質と才能はピカイチだった。あいつは瞬く間に、私が本来座っていたポスト……皇子の婚約者って立場まで奪った」

「……それって奪えるものなのか?」

「普通は無理だ。皇子との婚約ってなると、家柄と国が絡んだ『契約』になる。生まれる前から決まってる契約だ。……私は皇子のことを愛して()()けどな」

 

 そこで言葉を区切り、もう一度水を口に含む知雫。

 

「愛していた……が、国が滅んだあとの放浪で、好きだ嫌いだの恋愛感情は消えた」

「放浪……? キュ……いや、朱雀が国を滅ぼしたってことか?」

「違う」

 

 知雫が首を横に振る。

 

「元々滅びかけていたんだ。皇太妃の朱雀が立て直そうとしたし、実際あと十年あれば立ち直る芽もあったが……その前に周辺国家が戦争を仕掛けてきて、すり潰された」

「…………」

「朱雀のせいか、それともおかげか……私はその頃には宮殿内ですっかり落ちぶれて影が薄くなっててな。戦争のどさくさに紛れてピューッと逃げられたわけだ。その代わり、私以外の家族は全員死んだがな」

 

 口角を少しだけ上げてあくどい笑みを浮かべつつ、遠いところを見るような眼差しを浮かべる。

 その表情にはどこか寂しさも混じっているように見えた。

 

「帝王一族もろとも朱雀は捕縛。既に皇帝や皇子は処刑されて、次は皇太妃の公開処刑がなされるってときだ……。私は多少の身バレのリスクを負いつつも、あいつの死に顔を拝んでやろうと処刑場に行った」

「…………」

「そう、私は行ったんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――朱雀の処刑が始まるまであと少しか……』

 

 知雫はつい数か月前までは着たこともなかった薄汚い衣服を身に纏い、処刑場の中にいた。

 貴族の頃にしていた化粧は全て落とし、顔を隠すために深めの帽子をかぶっている。

 

 この世界では、まだ公開処刑が娯楽として行われていた。

 そして敵国の重要人物の処刑ともなれば、まるで祭りでも始まるかのような熱気に包まれる。凡庸な犯罪者の処刑とは違い、偉い人間が死ぬというのは処刑の花形なのだ。

 

 まあ、単純に良いものを食ってる偉い奴の方が見目が良く、小汚い犯罪者より見ていて楽しいという理由もあるが……。

 

『…………』

 

 処刑人たちが動き始めたのを見て、観衆達の熱気が一段と上がる。もうすぐ公開処刑が行われることを察したのだ。

 それを見た知雫は少しだけ動き、より処刑が見やすい位置に移動する。

 

『ふ……』

 

 もうすぐアイツの死にざまが見られると思うと、口からつい喜色を含んだ息が漏れる。

 ギロチン台に首をかけられたとき、朱雀はどういう表情をするのか。

 

 いつもの奴のように憎たらしい笑みを含んだ表情で顔を塗りつぶすのか。

 もしくは、全てのプライドをかなぐり捨てて必死に命乞いでもするのか。

 

 もしも後者なら、指をさして大笑いしてやれるのだが。

 そんなことを考えていると、監獄の中から処刑人たちがぞろぞろと歩み出てきた。朱雀が万が一にでも逃げないように警護している連中だ。

 

 しかし、その処刑人たちの様子が少しだけおかしい。

 重要人物の処刑ともなればそれなりに経験を積んだ者たちが務めるはず。いくら絶世の美女である朱雀とはいえ、人一人殺すことに動揺する連中は選ばないと思うが……。

 

 そんな風に考えていた時。

 

『――――ッ……!?』

 

 監獄塔の入り口から日の下に出た朱雀に、観衆達がどよめいた。

 

 ……普通、処刑前の人物はみすぼらしい監獄に収監される。

 

 その監獄の中で与えられるものは最低限生存に必要な量の食事のみ。衣服は使い古したような麻でできたもの。

 死ぬのが確定した状況の中、そんな惨めな環境で過ごせば、誰だって幽鬼みたいな様相になる。

 

 

 ――――しかし。

 

 

 あいつはなぜか……全身を華美な装飾で包んでいた。

 

 まるで神に設計されたかのような美しさの顔に、一分の隙もなく施された化粧。

 その圧倒的な美しさには同じ女ですら気圧され、心が奪われてしまうほどの艶めかしさがある。

 

 身に纏う衣服は国で一番の職人が手掛けたものだ。

 赤を基調とした最上級の服は一片を切り取っただけで平民の一生分の暮らしに必要な金銭が賄えるほどの価値を持つ。

 この世の全ての花と宝石の美しさを散りばめたようなそれは、直視するだけで目を細めてしまうほどの輝きがある。

 

 そして……当の本人の朱雀は。

 処刑台に向かう途中だというのに、まるでこれから散歩にでも出かけるような。

 平然とした顔と足取りで歩みを進めていた。

 

『…………』

 

 処刑を見に来た観客の誰もが言葉を失っていた。

 その全てを隔絶するほどに圧倒的なその美に。気品の高さを全身から漂わせるその姿に。

 

 しかし、私はその二つ以外の……もう一つの事実に頭を侵されていた。

 おそらく処刑人たちも気づいたからこそ、動揺していたであろうその事実。

 

 

 ……朱雀が監獄内で化粧道具とあの衣服を手に入れるには外部から持ち込む必要がある。

 外部の協力者か、もしくは自分自身が直接外に出たか。方法はわからない。

 

 だが確実なのは。

 朱雀はその気になればいつでも監獄から逃げ出し、処刑を免れることができたということだ。

 その上で奴は、処刑の時をおとなしく監獄で待ち続けた。

 

 処刑人たちもそれを理解したからこそ、自ら死地に向かう朱雀に動揺したのだ。

 

『なんで……』

 

 クソみたいなどん底から這い上がってきた朱雀。この国に大した思い入れはないはずだ。

 少なくとも、生まれた時から国のためにあれと教育された私よりも。

 

 なのにアイツは。

 なぜかこの国の最後の姿を飾ろうとしている。

 今から観衆の目の中で死ぬという一番弱い立場のアイツが、今この場の全員を支配している。

 道術なんか使ってない。

 ただその姿だけで全てを圧倒している。

 

『私、は……』

 

 誰にもバレないように化粧を落とし、薄汚い衣服を身に纏う私と。

 美の権化とも言えるほど見事な化粧を施し、一層華美な衣服を身にまとうアイツ。

 

 自分が生まれ育った家と国を捨て、底辺に身を落としてまで生きようとした私と。

 底辺から這い上がり、気高いプライドを示しながら美しい死にざまを刻むアイツ。

 

 どちらが無様な姿なのかは、誰が見ても明らかだった。

 

 

『……クソ……』

 

 

 私が動揺を払う前に、朱雀は処刑された。

 奴の最後の表情を見て惨めに留飲を下げるチャンスすら逃してしまった。

 

 ……私は。

 最後の最後に、永遠に超えられない差を脳裏に刻み付けられたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女はペットボトルの中に入った最後の水を飲み切る。

 

「処刑の後、私は各地を放浪して……色々なものが擦り切れた。いつの間にか貴族然とした丁寧な口調も消えて、変な病気で死んで……今はすっかりこんな感じだ」

 

 水のペットボトルを手に持ちながら、道化のように肩をすくめる知雫。

 その表情には卑屈な笑みが浮かんでいた。

 だがすぐにその笑みを顔から消し、俊介から顔をそらす。

 

「朱雀が大人しく死んだのは、私に勝ち誇りたかったとかそういうんじゃないのは分かってる。どうせあいつ自身の見栄の問題だったってな。……でもどうしても、私の頭から『朱雀に負けた』って気持ちがぬぐえない」

「…………」

「でもな。理屈でわかってても、感情じゃあ納得できないんだよ。大事なことほど、そういうものなんだ」

 

 何かを噛みしめるような表情でそう言う。

 そして空になったペットボトルを握り潰し、手の中に出現させた炎で焼き消した。溶けたプラスチックの独特なにおいが漂い始める。

 手の甲に血管が浮かぶほどの力で拳を握りながら、知雫は憎々しげに言葉を吐く。

 

「私は、朱雀のヤローを今度こそぶちのめす為に、『()』が必要なんだよ……」

 

 手に爪が食い込み血が出るほどの力で拳を握る知雫だったが、突然ふっと力を抜いた。

 だらんと垂れ下げた手から床に向かってぽたぽたと血が垂れ落ちる。だがそれを気にするそぶりもなく二段ベットの上階に続く梯子に手をかけ、軽い動きで飛び乗った。

 

「性に合わない話をしちまった。もう寝る」

「…………」

「女将の件は悪かった。だが反省はしない。私が力を得るために必要なことだったからな。……もし私が憎いなら、今度一発くらいは受けてやるよ」

 

 そう言い終わったあと、彼女は寝転がったままとんと静かになった。

 そんなにすぐに眠れるはずはない。おそらく狸寝入りだろう。

 それは、今日はこれ以上話すつもりはないという彼女なりの意思表示であった。

 

 

 俊介も同じようにベッドに寝転がる。

 そして枕に頭を置いた瞬間、廊下の方からスピーカー越しに声が聞こえてきた。

 

『夜時間10分前です。夜時間に監房に入っていなかった者は脱獄者とみなし、殺害装置が起動します。今すぐ監房に戻ってください。繰り返します、夜時間10分前です――――』

 

 ……おそらく、これが夜時間前の警告という奴だろう。

 今までは同調のデメリットで早寝ばかりしていたせいで聞く機会がなかった。

 

 

 警告の声が鳴り終わったのを感じた後、ゆっくりと目を閉じる。

 

 

 知雫は確かに女将が殺人を犯す原因の一端にはなったかもしれない。

 彼女の思惑がどうあれ、『洗脳の術』という異世界の魔法は……女将に『人を殺してもバレないかも』という感情を湧かせたかもしれない。

 殺人をしても仕方のない状況は揃っていたのかもしれない。

 

 だけど……。

 最後に殺人という取り返しのつかない引き金を引いたのは、女将さん自身だ。

 

 その引き金を引いてしまった部分だけは。

 俺は、同情はしたとしても、決して許されることではないと思う。

 

 だって。

 人を殺すのを全く厭わないし、例え殺しても完璧に隠蔽できる人格たちが俺の中に宿っている。

 それでも俺は。

 まだ人を殺していない。

 

 でも……。

 女将さんだって俺と同じように、人を殺せる環境が揃っても、実行には恐怖を感じる普通の人間のはずだ。

 それでも、人を殺してしまうほどの怒りがあったのかもしれない。

 

 女将さんにとって先祖代々の土地は何よりも大切なものらしい。

 俺にとって何よりも大切なものといえば、殺人鬼のみんなや、母さんと父さんに、夜桜さんだ。

 

 それが第三者の悪辣な手によって奪われようとしていたら。

 その時、俺は……。

 

 

「…………」

 

 

 難しいことを考えすぎて痛み始めた頭を手で押さえる。

 

 女将さんは、俺にとって結局はほとんど他人……。

 もし親しい仲だったら、理屈を考える暇もなく知雫に掴みかかったかもしれないが、それだけの関係性はない。

 

 別に自分が正義感の強い男じゃないってのは分かってるけど。

 殺した殺されたの事件に、ほぼ無関係の人間だからって感情が強く湧き立たないのは……。

 なんだか、段々と薄情な人間になっていくみたいで苦手な気分だ。

 

 そんなことを取り留めもなく思いながら、暗いまどろみの中へと意識を落としていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――()()?」

 

「闘技場の前の運営者の女……ふむ……」

 

「ふむ……あの時事務所にいなかったということは、私を察知して逃げたのでしょうが……」

 

「まあ、いいでしょう。子細は任せます」

 

 

「――――()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





短くて申し訳ない
先の展開が思いつかなくてサボってたらいつの間にか三週間以上たってました
年内完結とは……?
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