殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#124 知雫の加入

 

 

 

 

 

 

 ――――嗅ぎなれない匂いが鼻孔をくすぐる。

 

 煙草の紫煙に似たえぐみを感じさせながらも、どこか柔らかな甘みをも感じるような香りだ。その他にも複雑な匂いが無数に入り混じっており、一嗅ぎしただけで繊細に作られた高級料理を口に放り込んだような情報量が頭に走る。

 

 俊介はその匂いの正体を探るために、まどろみの中から意識を起こす。

 目をこすりながら身を起こすと、その香りの正体はすぐに視界の中に入った。

 

「ん……今日は自分で起きたか」

 

 知雫が木製の椅子に座りながら、黒い地に舞い散る桜の柄が美しく刻まれた棒? を吸っていた。煙が先っぽから出ているあたり、多分煙草の類なんだろうと思う。

 しかし、ドラマの探偵が吸っているようなパイプ煙草……にしては吸ってるパイプの部分が長すぎる。何を吸っているんだろう。

 そんなささやかな疑問が眠気のせいか、深い思考のフィルターを通すことなく口から飛び出す。

 

「なにを吸っているんだ? その、長いパイプみたいなの……」

「ん? これは『煙管』だよ。見たことないか?」

「いや……ないな」

「ふーん……」

 

 知雫が煙管を口につけ、軽く息を吸い、呼吸を止める。

 そして椅子から立ち上がり、いまだ若干寝ぼけたままの俊介の顔にふぅ~っと煙を吐いた。

 いくら煙草のようにえぐみ一辺倒の嫌な臭いではないといえど、煙を顔面にぶっかけられたらさすがにせき込む。

 

「ぶほっ、げほっ……何すんだ!!」

「寝ぼけ頭を覚ますにゃこれが一番効くだろ、くくく……。改めて、おはようさん」

 

 くつくつと口の中で笑みを噛み殺しつつ、知雫が煙管の先を机にある灰皿のふちでコツコツと叩く。

 まだ微かに燃える草が灰皿の中に落ちジジッと音を鳴らす。線香の煙のように薄い白煙が天井に立ち上る。

 しかしそれに知雫は目もくれず、煙管の先を布で軽く拭いた。

 

 そして綺麗になった煙管を左手に持ちながら、木の机の一番上の引き出しを開ける。

 その中にあった黒い箱……おそらく煙管専用のケースに丁寧に煙管を入れ、再び引き出しの中にしまいなおした。

 

 彼女にしてはやたら慎重に煙管を扱うその様を見て、俊介は問いかける。

 

「……ずいぶん丁寧に扱ってるけど、大切なものなのか?」

「あー……まあな、この世界に来てからずっと使ってる物なんだ。『特注品』でな」

「へえ~……」

 

 俊介が、興味があるのかないのかよくわからない声を出したその時。

 彼の足元からぶつぶつと囁くように、三角座りですっかり拗ねたキュウビが語り始めた。

 

『わしの世界では煙管は『贈り物』として割とポピュラーな品じゃった……。なにせ、煙草を吸うたびに用いるものじゃからのう。贈り主のことを自然に想起させる品としてうってつけじゃった……』

「…………」

『特に細い煙管に美麗な柄を刻んだものは高級品でのう。奴の持つ桜の煙管をわしの世界で買おうとするとそれは目が飛び出るような高級品じゃろうな……この世界ではそうでもないかもしれんが……。また煙草の煙を厄に見立て、それを口から吐くという行為から厄払い用の縁起がいい品としても考えられて……』

『大変だよお兄ちゃん。キュウビが雑学を話し続けるマシンになっちゃった』

 

 いつの間にか出てきていたドールが、知雫の寝る上のベッドからにゅうっと頭を出してそう言う。

 というか二人ともいつ出てきてたんだよ。それとキュウビはなんで雑学を話すだけのボットみたいになってるんだよ。

 ……いや、よく考えたらキュウビの奇行は今に始まったことじゃないか……。

 

『よくよく考えると、キュウビの世界の風習だからこの世界では雑学ですらないかも……』

『わしは高級な煙管を毎日折っても余るくらい持ってたんじゃ……ふえん』

 

 俊介はぶつぶつと声を出す地蔵になってしまった彼女から目を逸らし、知雫の方を向く。そして彼女が煙管を入れた引き出しを指さしながら声を出した。

 

「てか、ずっと使ってるってことは……刑務所に収監される時から持ち込んでたのか。よく持ち込めたな、身体検査で引っかからなかったの?」

「あん? ……!」

 

 『どうやって持ち込んだか』。

 それを聞かれた知雫は少しだけ目を逸らして考えるような仕草を見せた後、にやりと悪戯心をまったく隠さない笑みを浮かべた。

 

「なんだおい、私がどうやって煙管を持ち込んだか聞きたいのか? 女の囚人がブツ隠して持ち込むっつったらどうするのが定石だと思う?」

「……いや、多分なんかの術を使ったんだろ? 煙管が入った箱が見えなくなる術とか、そんなの」

「…………」

 

 そう言った瞬間、知雫の顔から愉快そうな笑みがふっと消える。

 そして軽く舌打ちしたあと、実につまらなさそうな瞳を浮かべながら顔を逸らした。 

 

「当たりだよ、つまんね」

「今の受け答えで俺が悪いところあったか……?!」

「悪いところがないからつまんないんだよ」

「さすがに理不尽すぎるだろ……」

 

 不満で頭をがしがし掻きながらも、俊介はベッドから降りて立ち上がる。

 もうすぐ点呼の時間だ。最近は眠気でぼーっとしまくったりしてたが、同調の反動がほとんどない今日は真面目に参加しよう。

 軽く髪を整えて監房の扉を出ようとしたところで、知雫の方に振り返って言う。

 

「あ。点呼の時間が終わったら、ちょっと会って欲しい奴がいるんだ」

「ん? ああ……ジャンか?」

「いや、俺たちのリーダー。ゼロツーって言うんだけど」

「知らん。外でも聞いたことがない。……てっきりお前かジャンのどっちかが頭かと思っていたけどな」

「ジャンはともかく、ただの高校生の俺に人を纏めるのなんか無理だって」

「ただの高校生……? 冗談キツイな」

 

 そんな風に会話していた時、ちょうど朝の点呼の時間を知らせる放送が鳴り響く。

 二人はそこで会話を切り上げ、監房の扉の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝の点呼では何かのトラブルが起きることもなく、つつがなく終了する。

 俊介は知雫を連れ、同じA棟であるジャンとウィザードの二人と合流。

 そしていつも通りC棟の図書室奥にある秘密の会議室に集まり、顔を突き合わせていた。

 

「……という訳で、昨日勧誘に成功した知雫さんです」

 

 俊介が手のひらで、隣に座る彼女の方を示す。

 その簡素すぎる紹介に対する他のメンバーの反応はそれぞれであった。

 

 ゼロツーは腕を組んで何かを考えこむように、そしてほんの少しだけ警戒しながら知雫を見ている。

 脱獄計画のリーダーとして、昨日の厭勝が闘技場の運営を殺した事件の騒ぎが自分たちに波及してこないか心配しているのだろう。知雫は闘技場の運営に深く関わっていた人物だから。

 

 それとは対照的に、ジャンは若干の歓迎ムードを体から発していた。

 元々彼自身も知雫を仲間に誘おうかと考えていたのだ、今回の結果に余り不満はないのだろう。しかし前日の騒ぎが彼の頭に少し引っかかっているのか、完全な手放しでの歓迎ムードとはいかないらしい。

 

 最後のウィザードは……少し不気味だ。

 机に頬杖を突き、なんとも言えない笑みを浮かべてひらひらと知雫に手を振っている。

 いや、不気味なのはいつもだから、ある意味この反応もいつも通りか……。

 

 

 そんな、互いの反応を確認し合う静かな空気を破ったのは知雫だった。

 彼女は微塵も容赦のない鋭い視線をウィザードに向ける。

 

「まさか、未来革命機関のボスまでいるとはな。どういう風の吹き回しだ?」

「ん~? 今の私はそこの日高君にご熱心でね、ついつい仲間になっちゃったのさ」

「…………」

 

 にっぱりとした笑みを浮かべながらそう言うウィザード。

 そんな表情を見た知雫は気味の悪いものを見たように眉をしかめた。そして隣にいた俊介に顔を近づけて耳打ちする。

 

「おい。お前何やったんだ。かなり昔に一度見たときはもっと威厳のある奴だったぞ。今はなんかこう……ちょっと女っぽくなってないか?」

「俺は何もやってない」

「あの機関のボスが熱心になるなんて、何かやらないと無理だろ……」

 

 やきもきとした気持ちを抱えた知雫は顔を離す。

 やたらとにまにましたウィザードが気持ち悪いが、ここは一旦無視するしかない。構っても余計増長してくるだけだ。

 

 そんな風に思考を改め、彼女はちょうど正面にいる『ゼロツー』なるC棟の囚人の方へと顔を向けた。

 

「……改めて、A棟囚人の知雫だ。よろしく」

「ああ。日高から聞いているとは思うが、C棟囚人のゼロツーだ。一応この集団のリーダーって感じの役割をしてる」

 

 端から見ると、まるで大人と子供が向き合っているかのような光景だ。

 いや……ゼロツーの体格はほとんど子供と変わらないから、『ような』は適切ではないか。

 聞いたことないけど、実際何歳なんだろうな。

 

 俊介がぼーっとそんなことを考えていると、知雫がゼロツーに向かって言葉を放った。

 

「不躾だが、一応いくつか質問をしていいか? ジャンとウィザードと横のガキンチョはともかく……あんたのことは全く知らないんでな」

「いいよ。外でも有名なタイプじゃなかったし、僕様を知らないのも無理はないからね」

 

 軽い声色でゼロツーがそう声を返す。

 知雫は軽く微笑みながら頭を下げ、聞き取りやすい声で質問を始めた。

 

「じゃあまず、あんたは外で何をしてここに捕まったんだ?」

「クラッキングとかだね。細かく言うと、銀行の数字を改ざんしたり、どっかの企業の機密情報抜いて売ったり……大体二十億くらい利益あげたかな。愉快犯で適当にシステムをぶっ壊したりもしたよ」

 

 その答えに、知雫は頭の中で咀嚼するようにうなずきながら言葉を吐く。

 

「つまり、サイバー犯罪者ってことか。どんな企業の情報を抜いた?」

「どんな……って言ってもな。色々やりすぎて詳しく覚えてないよ」

「警察とかは?」

「抜いたね。まあ抜くっていうより見ただけって感じ」

「そうか……単独犯か?」

「まあね。一人で事足りるし」

「なるほどな。単独で二十億も稼げれば大したもんだ……」

 

 返答を聞き終わり、知雫は少し考えこむような素振りを見せる。

 数秒そうした後、パッと顔を上げ、再び軽く頭を下げた。

 

「変な質問をして悪かったな。もう十分だ」

「もういいのか?」

「ああ。これ以上聞いて、本題を先延ばしにしてもしょうがないしな」

「……ま、本人がそう言うなら、こっちも本題に入ろうか」

 

 そう言うと、ゼロツーは懐から取り出したものを知雫の前に投げた。

 俊介にとっては非常に見覚えのあるブツが机に転がる。手首につけたリングの盗聴器を妨害する装置だ。

 

「? なんだこれは」

 

 当然、今日ここに来たばかりの知雫が知るはずもない。

 しかしジャンやウィザードが慣れた手つきで装置を付けるのを見て、彼女は俊介の方に目を向ける。

 

「これは……?」

「まあまあ。付けないと話進まないから」

「……そうか。付け方教えてくれ」

 

 彼女の言葉にこくりと頷く俊介。

 そして自分のリングに装置を付ける様子を見せ、知雫のリングにも妨害装置を設置する。

 

 そしてしっかりと装置を付けたことを確認し、俊介はゼロツーに目配せを行った。

 合図を受け取ったゼロツーがこくりと頷き返し、口を開く。

 

「……それじゃあ、僕様たちの計画について話そうか」

 

 

 

 ――――そこからは、大体俊介が知っている通りのことがゼロツーから語られた。

 

 

 

 

 このメンバーは刑務所からの脱獄をするために集まった者たちであること。

 

 最終的な目標は警察庁に襲撃し、自分たちの犯罪歴を消してまっさらな一般人に戻ること。

 

 その為に、必ず襲ってくる人対の足止め要員として『強い人間』をスカウトしていること。

 

 

 

 

 これらの事柄を簡潔に話し終わるまで、おおよそ十分。

 話を最後まで聞き終わった知雫は再び驚愕の感情を顔に浮かべていた。

 

「……脱獄までは分かる。でも、警察庁に襲撃して人対まで相手にするって本気か? 正気の人間が立てた作戦とは思えないな……」

「勝算はある。僕様のハッキング技術なら、データ消去まで三十分も時間を稼げば十分だ」

「三十分ね。なかなか無茶なこと言ってるって自覚あるか?」

「……それを通す為に、今は仲間を集めてる」

「…………」

 

 数秒の間、知雫とゼロツーが静かにお互いの瞳を睨み合う。

 しかし先に根負けした知雫が顔をそらし、肩をすくめながら大きく息を吐いた。

 

「はぁ~。ま……この話を聞かせた時点で、どうせ私を逃がすつもりはないんだろ?」

「ああ。断られたら、計画実行まで口を利けないようにはするつもりだった」

「ふっ。素直に言ってくれるな……。そういうのは嫌いじゃないけど」

 

 彼女は鼻を鳴らし、口角をわずかに上げる。

 一瞬だけ俊介の方に視線を向けた後、すぐにゼロツーの方に視線を戻し、睨み上げるような体勢で言葉を吐いた。

 

「翠と白戸か片方の相手は務まるかもしれん。だが牙殻は100%無理だ、期待もするな。それでいいな?」

「ああ。牙殻の相手は日高が請け負う」

「……そうか。ならまあ、お互い計画成就までは仲良くやろうか」

 

 なめらかな動きで、机の向かい側のゼロツーに向かって腕を出す知雫。

 それに応じようと腕を出すゼロツーだったが……。

 

「す、すまん。もう少し腕を伸ばしてくれないか?」

「……ああ」

 

 体格が小さいゼロツーでは向かい側にいる知雫にまったく腕が届かなかった。

 仕方なく知雫が腕を目いっぱい伸ばすが、それでも届きそうにない。

 

 結局、ゼロツーが膝まで机に乗るという不格好すぎる体勢をとることにより握手は成された。

 

 

(普通に机を回ってから握手しろよ……)

 

 その光景を見ながら、俊介は心の中でそう言葉を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――1時間後。

 

 

 

 

 会議を終えた知雫は様々な用事を果たすべく、刑務所内にある街を歩いていた。

 歩いているのは西区。様々な店が並ぶ区画である。

 

 知雫はそこらの店を散策しつつ、解散前に言われた頭の中にゼロツーの言葉を思い出す。

 

『今は日高に仲間探しをやってもらってるんだ。知雫にも同じ役目を頼むよ』

 

 ここで言う仲間とは、単に人手を集めろということではない。

 白戸や翠と戦える武闘派の囚人を勧誘してこいという意味だ。そして『強さ』だけではなく、『計画に従う理性』も持ち合わせていなければならない。

 

(……しかし、この刑務所の囚人は強い奴ほど頭の吹っ飛び具合も強いからな。強さと理性の両方を兼ね合わせてるというと……『赤ずきん』あたりか?)

 

 赤ずきんは金さえ払えばキッチリと仕事を果たすタイプである。

 ただ、基本は皆殺しや半殺しの依頼だけを受ける奴だ。『脱獄計画を手伝え』なんていう小難しい依頼を受けてくれるかどうか……。

 

(日高の奴は一人アテがあると言ってたな……。私も無名の囚人の中からそんな感じの奴を発掘してみるか?)

 

 もしかすると、武闘派でありながら息を潜めている奴もいるかもしれない。

 

(そんな奴は稀だろうけどな……)

 

 ここにいる奴はもれなく一端の重犯罪者で、強さを誇示したがる奴らばかりだ。

 強い奴は自分の強さを余すことなく誇示する。弱い奴は隅で身を縮こまらせて息を潜める。

 これがこの刑務所の基本だ。

 

(ま、実力があっても大人しくするような気性の奴はそもそもこんなところに来ないってのもあるけどよ)

 

 知雫は内心で微笑みつつ、店を散策する。

 わざわざ店をいくつも見ているのは、戦闘で使えそうな道具がないかを探しているからだ。

 

 人対と真正面からことを構える以上、準備はいくらしてもし足りない。

 デパートの時は装備なしの翠を一方的に叩きのめせた。しかし今度ばかりは向こうもフル武装で来るだろう。

 人格犯罪者を狩る部隊の本領……。あまり想像はしたくないな。

 

 

(……それにしても……)

 

 あれこれ店を見つつ、知雫は静かに思う。

 先ほど会った『ゼロツー』という男について。

 

(……あいつ、何か隠してやがるな……)

 

 会議の前にゼロツーに質問をしたのには、二つの意図があった。

 

 まず、ウィザードを仲間にするような奴がどういう男なのか単純に知りたかったのがひとつ。

 そして、前回の闘技場の運営のように『堕とせる』タイプの奴なのかを調べたかったのがひとつ。

 

 だが……あの時点で質問をしたことにより、余計にゼロツーに対しての疑念が深まった。

 

(二十億……。確かに個人で稼いだにしちゃ立派だが……ほんの少し、罪が軽い気がするな……)

 

 この刑務所は()人格犯罪者が来る場所だ。

 大抵の奴は殺人とか、放火とか……。

 まあ普通の裁判なら懲役何十年、無期懲役、もしくは死刑を受けるような罪を犯した奴らばかりだ。

 

 ウィザードは当然。

 ジャンだって銃を何万丁も密輸しまくった奴だ。この刑務所に来る資格は十分ある。

 日高は……まあ、あの強さなら罪が軽くてもここに来るだろう。ほかの刑務所じゃ収容できないだろうし。

 

 そしてもちろん、私もここに来るに値する罪を犯してる。

 

 

 だがゼロツーの語った罪は、この刑務所に来るにはいささか罪が軽いように思える。

 となると……。

 

(日高の奴みたいに、犯した罪とは別の『()()』が重要視されてここに送られたか……?)

 

 その()()の正体は分からない。ゼロツーの奴の隠し方がかなり巧妙だからだ。

 質問でそれとなく探ってみたが、糸口は掴めなかった。

 単純に関係が浅すぎるというのもあるが……。

 

 

「……ふぅ」

 

 いや……ちょっと、気にしすぎかな。

 いちいち目くじら立てて暴く必要もない、しょうもない隠し事の可能性もある。

 

 それに。

 いずれ骨抜きに魅了してしまえば、自分から話すだろう。

 

 

「……さて、と……」

 

 うんと伸びをしつつ、辺りを見渡す。

 今の居場所の確認は大事だ。万が一にも、今は厭勝が牛耳っている北区に近づくわけにはいかない。

 

 そう思いながら、一歩踏み出そうとした瞬間――――。

 

 

 

 

 

 

 ――――ドゴォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

「――――あ?」

 

 

 振り返って見た景色の中には。

 奴のトレードマークである()()()()()がちらりと映っていた。

 

 

 

 

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