殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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一万二千文字あります。長いです。
時間のある時にお読みください。


#125 訓練

 

 

 

 

 

『ま……無事に一人目勧誘成功、ってところか』

「だな」

 

 知雫を脱獄計画の仲間たちと会わせる会議を終えたあと。

 俊介はヘッズハンターと同調を行い、引き続き勇者アルティアス……略称アルの勧誘を行うために動いていた。

 

 ……まあ、勧誘に動くと言っても、そう小難しいことはしない。

 

 

 ゼロツーは『アルティアスがあまり信用できない』と言っていた。

 勇者として過去の話を聞く限り、大事な局面で正義感に駆られて計画に支障が出る行動をしかねないと。

 まあ、脱獄なんて正義とは真逆の行為だからその心配も当然ではある。

 

 そして、アルの罪である『殺人未遂』について。

 過去で正義感に生きた勇者が、子供の体を奪い、挙句に殺人未遂を犯した……。

 正義感とは真逆すぎる行動の理由がいまいち分からず、そこもまた信用できない理由だと言っていた。

 

 

 俊介はアルがいる裏路地先の広場に向かう中、ヘッズハンターに言う。

 

「ぶっちゃけ、ゼロツーの言うことも間違ってはないと思うんだよ」

『…………』

「でもさ……『殺人未遂』ってところに、あの人なりの理由があったんじゃないかなって。元の世界からいきなりこの世界に来たら、自分が自分じゃなくなるくらい混乱してもおかしくないしさ」

 

 ゼロツーは、アルを最終的に勧誘するかの判断は俊介()に任せると言った。

 それはつまり、彼が計画中に何か問題を起こしたら俺が勧誘した責任になってしまう……ということになる。

 

 だからこそ、なぜ『殺人未遂』をしてしまったのかを知りたい。

 もしそれが納得できる理由なら、俺は信頼できる仲間として勧誘したいと思う。

 全く理解できない狂人の所業なら、勧誘はしない。

 

 

 

 ……というわけで。

 『そう小難しいことはしない』という最初の話にここで戻る。

 

 今はまず、その『殺人未遂』の理由を聞けるような信頼関係をアルと作りたい。

 そのために、今は彼のところへ顔を見せに向かっているというわけだ。毎日顔を合わせて挨拶した相手とは仲良くなるってどこぞで見たような記憶がある。

 

 この間、一応会話のきっかけは作ったし、このまま関係を築けばいつか話してくれる……はず。

 

 

 

 俊介がそう思っていると、ヘッズハンターがぶっきらぼうに言葉を吐いた。

 

『ま、俊介が思う通りにしたらいいんじゃね? それで上手くいくだろ』

「なんつー投げやりな答えだよ」

『殺人鬼13人堕とした奴にアドバイスなんて俺にはおこがましくて出来ないね』

 

 『堕とした』って言い方はなんかアレだ。

 ちょっといやらしく聞こえるから嫌だな。

 

 若干唇を尖らせながらヘッズハンターの方を睨む。

 そしてふと思い出したように、彼に問いかけた。

 

 

「そういや、最近忙しくてみんな(殺人鬼たち)と会えてないんだけど……最近俺の中で何してんの?」

『ん? あいつらが何してるか、って?』

 

 ヘッズハンターがそう聞き返してきた。

 

 最近は脱獄計画を進めたり仲間の勧誘をしたりで、たった数日だが殺人鬼のみんなと顔を合わせる頻度が減ってしまった。

 ニンジャが『俊介の判断に行動をゆだねる』ってのを提唱したから、みんなついつい口出しするのを自粛するために余計に出てこないし。

 

 同調するヘッズハンターや勝手に出てくるキュウビとかはともかく、ガスマスクとかは生真面目な性格だからホントに外に出ないんだよなぁ……。

 

 そう思っていると、ヘッズハンターは誇張気味に肩をすくめた。

 そして安堵させるような声色で言葉を吐く。

 

『何してるって言っても……別に好きに過ごしてるけどな』

「好きに、ってのは?」

『俺たち人格しかわかんない感覚だけどさ。俊介の中に入った後、こう……映画館で映画を見るみたいに、外で俊介が何をしてるか大体わかるんだよ』

「うん」

 

 『中に入る』と言っても、その()を見たことがないからよくわからない。これは人格しか入れない世界であって、宿主の俊介にはどうしようもない。

 まあ、何もない黒い空間が広がってるとは聞いたことはあるけど。

 そういう空間のどこかに、映画みたいに外の俺を見れるモニターでもあるんだろう。俊介はそう解釈した。

 

『最近は、中にいる人格全員で俊介の行動を映画みたいに一喜一憂して見るのが流行(ブーム)だな』

「…………あ、そうなんだ……。まあ、みんな元気そうでよかったよ」

『まあな。……あー、でも、ダークナイトの奴だけは最近ちょっと変だな』

「?」

 

 俊介が疑問気に、眉間にしわを寄せる。言葉にはしないが暗に話の続きを彼に求める仕草だ。

 そして既に七年も付き合いのあるヘッズハンターはすぐに意味を理解し、ぽりぽりと頬を掻きながら言葉を紡ぐ。

 

『いつものダークナイトは俺たちと離れた所で寝てるか、俊介の行動を見てるかの二択なんだけどな。最近はずっと『()()()』してるんだよ』

「素振り……?」

『2メートル近くある大剣を両手に持ってずっとブンブン振ってんだ。俺ですら視認できない剣速だから誰も近づかん』

 

 その言葉にぎょっと目を見開きつつ、俊介が問う。

 

「……時速六百キロで動ける動体視力を持つヘッズハンターが見えないの?」

『うん。何なら剣先どころか振ってる腕すら見えないからな』

「えぇ……」

 

 一体なんで急に素振りなんかして……。

 ……いや、アレか。

 

「やっぱその、ダンケルクとの……」

『うん、多分そうじゃないか? ダンケルクがどれくらい強いかわからないけど、アイツなりに備えてるんだろう』

 

 俊介の言葉に頷きながら言葉を返すヘッズハンター。大体彼も同じことを思っていたらしい。

 牙殻さんの中に宿るダンケルク……。強いっていうのは分かっているけど、ダークナイトが本腰入れて素振りするほど警戒している辺り、本当に洒落にならないくらい強いんだろうな。

 

 ……なんかちょっと憂鬱になってきた。

 心配したところでどうにもならないけど。

 

 そんなことを思いながら歩いていると、ヘッズハンターがパッと顔を上げ、声を出した。

 

『おっ。話してたらちょうど例の勇者がいるところに着いたぞ」

「ん、もうそんなとこか」

 

 その声に呼応して顔を上げる。

 勇者アルティアスがいつも素振りをしている広場、そこにつながる裏路地の入口。ここからは狭い裏路地に耐えて道順を間違えなければすぐに着く。

 俊介が一歩踏み出して路地に入ろうとすると、ヘッズハンターが突然路地裏を防ぐように立ちふさがった。

 

『……ユウシャ サマ ハ コノサキニ イマスヨ』

「え? ……おい、何ふざけてんだ」

『トオリタケレバ オレ ヲ タオシテイケ!』

「うるせえ」

 

 片言でふざけるヘッズハンターをすり抜けて路地裏に入る。何やってんだ。

 すぐに背後からケラケラと笑う声が聞こえ、『すまんすまん』という声と共にヘッズハンターが追いかけてきた。

 意味不明な冗談を放った彼を無視して歩く。

 

 

 そして狭い裏路地を少し歩いた後、アルがいる広場の前にたどり着いた。

 耳を澄ますと、棒状のものが空気を素早く切る音が何度も重なるように聞こえる。アルは既に広場で素振りをしているようだ。

 

 俊介は少しだけ襟元を整えたあと、裏路地を進んで広場の中に入った。

 

「…………」

 

 

 広場の中に入ると、空気を切る音がより一層大きくなって耳に入る。

 アルは以前と同じように見惚れるような剣捌きで素振りをし続けていた。今回は木刀に魔法の炎を纏っていないが、見ているだけで肌に切創が付いたと勘違いするほどの圧を感じる。

 

 そして俊介が入ってきてからおよそ一分後。

 アルは木刀を勢いよく振り下ろして地面を叩き、ふうっと張りつめた空気をほどくように息を吐いた。

 木刀を杖に身を起こし、ゆっくりと俊介の方を見る。

 

「……私の剣が見えているよな?」

「え?」

「少し、鍛錬に付き合ってくれないか。……一人で素振りをするのも良いが、相手がいる方が身になる」

 

 そういうと、アルは広場の隅に歩いていく。

 そして壁に立てかけてあった数本の木刀のうちの一本を持ち、こちらに渡してくる。おそらく予備に用意している木刀なのだろう。彼が持っているものと全く同じだ。

 

 ヘッズハンターと同調して身体能力が跳ね上がっているため、木刀を振るのには何ら支障はない。むしろ軽いくらいだ。

 しかしいきなり剣を握って戦うのは、ちょっと心持ちが……。

 

 木刀を握りながら持ち手を見つめていると、アルが少し悲しそうな声色で声をかけてくる。

 

「嫌か?」

「……いえ、大丈夫です。お付き合いします」

 

 彼と視線を合わせ、力強い声でそう返す。

 ここで引いては信頼関係を築くなんて夢のまた夢だ。それに顔を見せて会話するだけより、訓練に付き合った方が信頼関係を築くスピードは速いはず。

 そして……俺も、彼が実際どれくらい強いかには興味があるし。

 

 アルは広場を軽く見渡したあと、こちらに向けて声を放つ。

 

「ここは二人で訓練をするには少し狭い。運動場の方に移ろう」

「じゃあ、裏路地の方を戻って……」

「いや、運動場の方に続く近道がこっちにある。そっちから行こう」

 

 彼が広場の壁の一部の板をつかみ、横にずらす。

 そこには大人が身をかがめて通れるくらいの穴があり、その先に新たな道が伸びていた。そこが彼の言う近道なのだろう。

 俊介はアルの背中を追い、運動場へと移動する。

 

 

 

 

 ――――そして、一分も経たぬうちに運動場へと到着する。

 

 今日は謎の魔法サッカーをする一団はいないようだ。

 時折あてもなく散歩をしたり、何かのスポーツをやっていたりする人影は見える。それでも運動場のスペースは大きく空いており、俊介とアルが二人で訓練をするには十分なスペースがあった。

 

 

「…………」

 

 アルが無言のまま木刀を正面に構える。

 ……正面に立つと、思わず生唾を飲み込んでしまう。それほどまでに隙が無い立ち姿だ。

 

 俊介も自己流で木刀を構えつつ、彼に声をかける。

 

「る、ルールはどうしますか?」

「……お互い、殺すのはなしにしよう。これは一応訓練だから」

 

 殺すのがなしなのは当然だろ……。

 

「だが、多少の怪我は付き物だ。私も力を入れて振るし……もちろん、君も本気で振ってくれて構わない」

「……いいんですか?」

「軽い自己治癒の魔法くらいは使える。心配はいらない」

 

 調子に乗ってるわけじゃないが、ヘッズハンターと同調している今は俺も時速六百キロ近くで動くことができる。そんな速度で振った木刀なんて、当たり所が悪くなくても死ぬ可能性がある。

 ピュアホワイトだって殆どついてこれなかった速度だ。

 

 アルが本気で振っていいというのは、俺の速度を知らないからか。

 あるいは、こっちが本気で来ても全く問題ないほどの強さだからか。

 

 

 …………。

 

 

「さて。ラスディアノ家を倒した実力がどれほどか……見せてもらおうか」

 

 アルがそう言いながら、視線の鋭さを強めた瞬間。

 先手必勝のことわざに従い、木刀を振り上げながら全力で切りかかる。

 

 真上から真下へ一直線の切りおろし。

 時速六百キロで動ける身体能力から繰り出されるそれは、常人では視認する暇もなく頭がかち割れる一撃。

 

 しかし。

 アルは真上からの振り下ろしを見切っていたように、俊介の木刀を地面へと受け流した。

 

(――――ッ!? 初見で受け流された、マジか!!)

 

 俊介も、万が一のために寸止めできるように手加減していた節はある。

 しかしここまで易々と受け流されるのは予想外だった。

 

 すぐに足に力を籠めて飛び下がり、距離を取る。

 冷たい汗を流す俊介に対し、アルは追撃する素振りを見せず、冷静にその場で木刀を構え直した。

 

 ……ゾッとするような威圧だ。

 ピュアホワイトの暴力的な威圧とは違い、肝の底から冷えあがるような畏怖が湧き上がってくる。

 これが戦うしかない時代で勇者になった人の雰囲気なのか。

 

(……前からが駄目なら、後ろから……!!)

 

 俊介は気持ちを奮い立たせ、再び全力で足を動かす。

 アルを中心として円を描くように背後に回り込み、一気に切りかかる。

 

 今度は振り下ろしではなく左から右への水平切りだ。

 相手はこちらに振り向きもしていない。確実に当たる。

 

 

 ――――と、思ったのもつかの間。

 

 

 アルは姿勢をかがめつつ俊介の水平切りを上に受け流し、勢いよく跳ね上げた。

 木刀が跳ね上げられたことで姿勢が崩れる俊介。

 

 その隙を達人である勇者アルティアスが見逃すはずもない。

 

 しゃがんだ姿勢のまま背後に振り返り、木刀を居合のように構える。

 まるで川を流れる清流のごときなめらかな動きだ。

 そして彼は、俊介の脇腹に向けて目にも止まらぬ居合切りを放った。

 

「かッ――――!!」

 

 ミキミキと俊介の筋肉に木刀の刃が沈み込んでいく。

 抗いようもないほどの、純然たる技量の差。

 

 しかし。

 技量で負けているのならば、こちらの得意な身体能力(フィジカル)勝負に持ち込むだけだ。

 

「う゛ぉおおっ!!」

 

 俊介は濁った声を出しながら全力で横っ飛びをする。

 その速度はアルの居合切りよりも速い。

 彼の木刀が筋肉を越えて内臓に食い込む前に、自分から吹っ飛ぶことで木刀を回避した。

 

 

「なっ……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 俊介の身体能力に任せたパワープレイすぎる所業にアルが一瞬瞠目する。剣が当たってから回避するなんてのは見たことも聞いたこともない。

 

 しかしそこは流石勇者と言うべきか。

 すぐに白黒した目を元に戻し、冷徹な表情で木刀を構え直した。

 

 

(……深く切り込みすぎると駄目だ。受け流されて体勢を崩される)

 

 俊介は足に力を籠めつつアルの姿勢をよく見る。

 一撃で仕留めようとすると、完璧に防御された上に姿勢を崩される。力を籠めれば籠めるほど崩された時の隙は大きい。

 

 だとするなら、取る手は一つ。

 

(軽く切るような攻撃を連続で、何回も、何十回も、いろんな方向から仕掛け続ける……!!)

 

 相手が追いつけない速度で何度も切り続けるフィジカル勝負に持ち込むしかない。

 真剣ならば軽く切っても傷ができるが、木刀ならばせいぜいあざができる程度で済む。

 

(……訓練ならば、それで十分……!!)

 

 足にチャージした力を解き放ち、こちらの本領である速度を十全に発揮する。

 

 瞬時にアルの後ろに回り、剣を一薙ぎ。死角なのに弾かれる。

 しかしすぐに別方向に移動して剣を当てる。再び流される。

 片足で吹っ飛ぶように移動しながら切りつける。片手で防がれる。

 

 上空から見ると俊介の残像で幾何学的な模様ができるほどの速度で切りかかり続ける。

 それでもアルは全ての攻撃をリズムゲームのように弾き続けた。

 

(――――ここまで弾かれると、ちょっと自信なくすな……ッ!!)

 

 俊介は内心でそう思いつつも切り続ける。

 今現在、俊介はおおよそ一分で百回のペースで切りかかっている。しかもその速度は徐々に上昇中。

 

「っ!」

 

 そして、あまりの連撃にアルの防御がやっと崩れる。

 

 

(――――今だッ!!)

 

 

 一度ピュアホワイトという強敵との戦いを終えた俊介。

 戦いの素人といえど、その明らかな隙を見逃すほど愚かではない。

 

 アルの左腕に木刀を水平に全力で叩きこみ、勢いよく振り切った。

 概算10歳前後の彼の体が軽々と浮かび上がり、二メートルほど横に吹っ飛ばされる。

 

「はっ、はぁッ……! よし……!!」

 

 俊介は息を切らしながら確かな達成感を味わい……そこで、ハッと我に返った。

 

「……あ!! す、すみません!! 大丈夫ですか!?」

 

 いくら相手が強いとはいえ、全く成熟しきっていない子供の体だ。

 ヘッズハンターと同調した今の身体能力で振るう木刀。それを全力でぶち当ててしまったのだ。もしかすると骨が折れてしまったかもしれない。

 

 急いでアルの元に駆け寄ろうとする俊介。

 それに対するアルの返答は。

 

 ()()()()()()()()()()()()だった。

 

「なッ!?」

 

 眼前に迫る火球を既のところで回避する。

 大きさはおよそバスケットボール大。当たれば確実に大やけどだ。

 

 俊介がバッとアルの方を向くと、彼は剣を杖にして立ち上がっているところだった。

 彼は手のひらに再び火球を生み出しながら言葉を吐く。

 

「『心配は必要ない』と最初に言ったはずだ。それに……やっと、君の()()を見つけたところだからな、ここで終わるのは私も少し悔しい」

「……弱点……?」

「終わった後で話そう。今は続きだ」

 

 

 言い終わった瞬間、アルが手のひらの火球の火力を一気に上げる。

 そして腕を大きく二回振って火球を無数に投げ、俊介の周囲に隕石のごとく火球を降らせ始めた。

 

「む、無茶苦茶やるな……!!」

「よそ見している暇はないぞ!!」

 

 素早い動きでアルが切りかかってきた。

 それを木刀で受け止め、つばぜり合いになる。

 

(かなり素早いッ、多分時速百キロ以上は軽く出てる……! でも、ピュアホワイトよりは遅い!)

 

 俊介は体重を前にかけ、アルの体を前方に弾く。

 そこを木刀で切りつけようとするが、それよりも早くアルが無数に火球を生み出して投擲してきた。 

 

「ちょお、やばッ!!」

 

 戦闘機のフレアのように煙を吐きながら迫ってくる数十発以上の火球。

 当たらないように勢いよく飛び下がるが、吹き上がる煙のせいでアルの姿を見失う。

 

(ヘッズハンターの超人的な勘のおかげで攻撃のタイミングと方向は分かるけど……!)

 

 上空から降り注ぐ隕石火球を避けつつ、アルの姿を探す。

 煙が広がりつつあるのに一向に姿が見つからない中――――左の脇腹に向かってチリッと焦げるような感覚が走った。

 

「後ろだッ!!」

 

 俊介は身をねじりながら、背後から迫る攻撃を防御する。

 

 

 ――――が。

 

 

「……はッ!?」

 

 攻撃は軽いが、防いだのは木刀には違いなかった。

 しかし、なぜか。

 

 木刀の持ち手を掴む()がいなかった。

 なぜアルが木刀を持っていない? なぜ?

 

 

「なにが――――ぐぉォッ?!」

 

 

 困惑した一瞬の隙。

 その瞬間、後頭部に向けて勢いよく何かが飛んできた。

 

 前方に思いきり吹っ飛んで、顔面から地面にキスする前に地面を叩いて姿勢を直す。

 

「なんだ?!」

 

 咄嗟に背後を振り返ると、そこには飛び蹴りを決めた体勢のままのアルがいた。

 彼はすぐに着地しながら地面に落ちた剣を取る。

 

 そしてこちらに向かってくることはなく、再び無数の火球を投げてきた。

 その火球はぶすぶすと煙を吹き出し、再度彼の姿は深い白煙の中に消える。

 

「クソ、なんつー戦い方だよッ……!!」

 

 俊介は後頭部をさすりながら、火球を避けるためにバックステップする。

 空から降ってくる隕石火球もまだまだ大量に残っており、こちらのアドバンテージである速度が次第に回避一辺倒に使われるようになる。

 

(『速度を封じられると弱い』ってのが俺の弱点なのか……!?)

 

 アルが『こちらの動きを阻害するために火球を大量に投げている』と予測する俊介。

 彼の火球はやたら多いわ、煙を吹き出しまくって視界を防ぐわで最悪である。

 

(だが……!!)

 

 空から降り注ぐ火球、視界を防ぐ白煙。

 普通ならば、速度に頼るだけの奴は下手に動こうとはしなくなるだろう。

 

 しかし、こっちにはヘッズハンター譲りの『()』がある。

 これさえあれば、例え万全に動けなくてもカウンター狙いで勝つことができる。

 

「ふぅーっ……」

 

 俊介は木刀を上段に構え、いつでも振り下ろせる体勢を取った。

 そのまま視界を防ぐ白煙を睨み、アルの攻撃を待ち続ける。

 

 そうして数秒ほど周囲を睨み続けていたとき。

 全身に危険を察知する、チリリと焦げるような感覚が走った。

 

「――――ッ!!」

 

 俊介は咄嗟にその場から飛び上がる。

 その数瞬後、先ほど立っていたところを無数の火球が高速で通過した。あそこにいたら全身火傷になっていただろう。

 

 そして再び、全身がチリチリ焼けるような感覚に襲われる。

 この感覚は上空――――いや!!

 

「上空と、真正面かッ!!」

 

 空から迫る火球に気を取らせ、真正面から煙を切り払いつつ突っ込んでくるアル。

 全身に走る危機感知の感覚に騙されかけるところだった。

 

 既にアルは木刀を振っており、今から回避は間に合わない。

 しかしこちらも木刀を上段に構えてすぐに振り下ろせる体勢だ。

 たとえ後手に回っても、相手の攻撃を打ち落とすくらいなら十分間に合う!

 

 

「ちぇ、りゃああああああああッ!!」

 

 

 俊介が木刀を勢いよく振り下ろし、アルの刀にぶち当てた瞬間。

 

 

 

 ――――ボキッ

 

 

 

 何の手ごたえもなく、アルの木刀が真っ二つにへし折れた。

 あまりに抵抗がなさすぎて思いきり空ぶったように姿勢が崩れてしまう。

 

(……は?)

 

 何度も打ち込みすぎて木刀に疲労が来てたのか?

 いやそんなレベルじゃない。あまりに簡単に折れすぎている。

 

 まるで元々細工でもしていたかのように――――

 

 

 ――――と、そこで気づく。

 

 

 へし折ったアルの木刀の断面が少し焦げていることに。

 まるで、『熱でその部分だけ焼いて弱くしていた』みたいな……!

 

 

 

「お、おまッ――――グボッ!!」

 

 

 

 空ぶって隙だらけになった顔面にアルの拳が突き刺さる。

 そのままアルは拳を食い込ませながら腕を真下に振り下ろし、俊介の体を地面に叩き落とした。

 

「――――グッ!! ぐぅぅっ……!!」

 

 ドンッ!! という音と共に背中を強打し、痛みでゴロゴロ転がり回る俊介。

 そのうち鼻血も出てきて、バッと両手で鼻を押さえる。

 

 

 

「おー……大丈夫?」

 

 魔力で発生した煙と火球を消しながらアルが近づいてくる。

 俊介は鼻血が出る鼻を抑えつつ、身を起こして抗議した。

 

「ぼ、木刀使ってないじゃん……!」

「折れるように細工しただけだ」

「ちゃんとした使い方じゃないじゃん!!」

「元の世界でも割と剣を投げたり折ったりしてたし。まあ流石に斬るのがメインだけど」

 

 勇者って剣を軽々投げたりするものなのか……!?

 もっと、こう、聖剣的なのを後生大事に使ったりとか……。

 

「魔王だって市販の鉄の剣で斬ったら殺せたし」

 

 聖剣なんてものはなかったらしい。

 夢が一つ壊れた。

 

「まあそれはともかく、さっき突いて見せた君の弱点の話なんだけど」

 

 アルが折れた木刀を手の中で焼き消しつつ、俊介の方を向く。

 

 

 

「君、めちゃくちゃ勘がいいだろう? 自分に襲い掛かる攻撃は死角でも全部感知できるレベルで」

「え……」

 

 バレてたのか。

 しかし、それが一体弱点と何の関係があるのだろう。

 勘の良さは確実に利点のはずなのに。 

 

 そんな俊介の思考とは裏腹に、アルが言葉を返す。

 

「でもその()()()()……いや、正確には()()()()のがまずい」

 

 アルは燃えカスになった木刀を捨て、俊介に手を差し伸べた。

 その手を見て悔しさで一瞬逡巡しつつも、素直に手を掴んで立ち上がる。

 

 俊介の顔を見て、アルは軽くうなずきながら言葉を紡ぐ。

 

「私が火球を大量に投げていたのは、君の勘を色々な方向に散らして脳のリソースを使わせるためだ」

「脳のリソース……?」

 

 そう呟くと、アルは右手の指を五本立てた。

 

「空から降る火球。私が投げる無数の火球。視界を阻害する白煙。それに加えて私本人が攻撃しにくるという緊張状態……君の脳のリソースは、気を付けるべき事柄が増えるほど減っていく」

 

 アルが徐々に指を畳んでいき、一本の人差し指だけが残される。

 おそらく指の数は脳のリソースを表していて、いろいろな攻撃が増えるたびにリソースが減っていったことを、指を畳んで表しているのだろう。

 

 そして今一本しか残っていないということは、俺は最後の時点でごく少ない脳のリソースしか残っていなかったということ。

 

「そんな時に私が不意打ちを入れると、君は脳のリソースがゼロになって混乱。思考が止まって隙ができる」

 

 最後の指が畳まれ、アルの指の数はゼロになる。

 そして握りこぶしになった右手をトンと俊介の胸に当てた。

 

 

「結論をまとめると、脳のリソースを無意識に圧迫する『勘の良すぎさ』が君の弱点だ。」

「……で、でも、勘は鋭ければ鋭いほど良いんじゃないのか? 脳のリソース云々は俺の頭が悪いだけで……」

 

 思わず反論してしまう俊介。

 この勘が自分の力なら何も言わずに受け止めていただろう。しかしこれは元はヘッズハンターの力だ。

 それが悪く言われているような気がして、思わず口から言葉が漏れてしまった。

 

 しかし、これは優しく指摘してくれているアルにとって失礼に値するかもしれない。

 口にしてからそれに気づいてハッと口を閉じる。

 

「うん。君の言う通り、『勘が良い』のは戦闘に於いてメリットに働くことが多い」

 

 しかしアルは一切気にせず、微笑みを携えながら言葉を紡ぐ。

 

「でも、メリットがデメリットを含まないとは限らない。全てが『良いこと』で完成された存在なんてこの世にはないんだよ」

「…………」

「それは逆もしかり。一から百まで『悪いこと』で完成された物もね……」

 

 少しだけ、何かを憂うような顔をしたアル。

 しかしすぐに顔を元に戻し、口角をほんの僅かに上げた表情を俊介に見せる。

 

「ていうか君、さっきから畏まった口調が崩れてるよね」

「え? ……あ、すみません」

「いや気にしなくていいんだよ。勇者って言っても、元は小さな村の男の子だしね。敬語で畏怖される方が苦手な性分なんだ」

「そ、そうすか……」

 

 アルは俊介に対してそう言うが、俊介も彼に同じことを思っていた。

 なんというか、訓練をする前に比べて少しだけ雰囲気が柔らかくなったような……。

 

 これは、少し仲良くなれたということで良いんだろうか。

 ……わからん。

 

 

 

 俊介がそう思っていると、アルがぐぐっと準備運動をしながら言葉を吐く。

 

「それで、どうする? さっきの弱点踏まえてもう一回やろうか? 今度はもう少し火力上げるけど」

「いや……流石にこれ以上は運動場が」

「え?」

 

 きょとんとした声を出しながら周囲を見渡すアル。

 先ほどアルが火球を投げたり降らしたりしたせいで、運動場のあちこちからぶすぶすと煙が吹き上がっていた。一部は熱のせいで砂がガラス化しているところもある。

 こんな状態の運動場でもう一回訓練なんかしたら、もっと大変なことになってしまう。

 

 周囲を見渡し終わったアルは頭を掻きつつ苦笑する。

 

「……この刑務所で本気で暴れるとまずそうだね。昔よりだいぶ弱くなったから、そんなに火力出てないと思うんだけどさ」

「そんなにって……。ていうか前より弱くなったって、それ前世の話ですか?」

「ん? うん」

「……前は今よりどれくらい強かったんですか?」

 

 基本的に、人格は宿主の体を操るとき、前世より弱くなる。

 それは人格と宿主の適合率という奴が関係しているらしい。

 適合率が低ければ低いほど、人格の身体能力は宿主の身体能力に引っ張られるんだとか。

 

 アルの体はどうみても10歳前後の少年だし、前世の勇者アルティアスとは比べ物にならないくらい貧弱なんだろう。

 適合率如何でアルの身体能力はガクッと下がるわけだ。

 

「んー、前は今と比べて、そうだな」

 

 アルが少し逡巡した様子を見せた後。

 

「大体、今は昔の三割……いや二割くらいの動きかな」

「……二割?」

「うん。だから体の鈍さに慣れるためにずっと素振りしてるんだよね」

 

 

 ……ちょっと待てよ。

 大体……今のアルが、時速100キロ……いや150キロくらいで動いてたかな。

 

 そして、昔のアルに比べればそれは二割程度の速度だと。

 

 じゃあ昔のアルの動きは……『およそ時速750キロ』?

 

 は、はえぇ……!

 ピュアホワイトより余裕で速いじゃん。

 

 いや待て、むしろなんでヘッズハンターが割と追いついてるんだよ……。

 ヘッズハンターって現代日本的な世界で生まれた人間だろ?

 

 あれ、本当におかしいのは勇者とヘッズハンターのどっち?

 

「なんか、魔力で身体強化できるとか聞いたんすけど、そういうのは……」

「いや……よく分からないからやってない。後の時代では魔力で身体強化とかできるようになったかもしれないけど、私の時代ではね」

 

 素の身体能力で時速750キロだったか……。

 

 ……オリンピック選手が人間の限界だと思ってたけど、案外人間って頑張れば時速三桁キロで動けるものなんだなぁ。

 いや、そんなわけねえだろ。

 

 いやでも、同調の力で時速六百キロで動いてる俺もいるし……。

 

 な、なんか頭こんがらがってきた。

 

 よくよく考えたら俺ヤバい速度で動いてないか?

 新幹線より速く動くってそれもう……何?

 

『シュンスケ ハ コンラン シテキタ!』

 

 うるせえ。

 ヘッズハンターが今一番混乱してる原因なんだわ。

 ファンタジー世界の住人の身体能力がインフレするのは納得できるけど、現代社会で暮らしてる人間が時速六百キロで動けるようになるって何をどうしたらそうなるんだよ。

 

「頭痛くなってきた……」

「ん? ごめん、強く殴りすぎた?」

「いやその痛みじゃ――――」

 

 

 

 ――――ゴォォォオオオオオオオッ!!!!

 

 

 

 瞬間。

 

 視界の端で蒼炎の柱が轟音と共に吹き上がった。

 それは一秒と経たずに消え、後には何もなかったかのような静寂が広がる。

 

 

 俊介は頭の中を瞬時に切り替え、炎が吹き上がった方を見た。

 同じくアルも炎の方をじっと睨むように見つめている。

 

「……あの炎は、キュウビみたいな色の……」

 

 赤い炎ではなく、それより火力が高い蒼炎の火。

 そんなものが突然繁華街の中から柱と吹き上がった。

 明らかに科学的ではない魔法の火。

 

 キュウビと同じような系統の魔法を使える者と言えば、頭に思い浮かぶ人物は一人しかいない。

 

「まさか、知雫に何か……?!」

 

 彼女は昨日闘技場を一抜けしてきた身だ。残党に狙われてもなんらおかしくない立場である。

 念のため一緒に行動しないかと誘ってみたが、知雫自身が『子供と行動するのはごめん』と言ったし、実際彼女はそれなりの実力があるから大丈夫だと思ったが……。

 

「くそ、俺のせいだ……!」

 

 俊介がすぐに炎の吹き上がった場所に向かおうとする。

 

「待て!」

 

 それをアルが後ろから止めた。

 アルは腕を組みつつ、俊介の顔をじっと見つめる。

 

「少なからず訓練で消耗しているだろう。今一人で向かうのは危険かもしれない」

「そんなの全く問題ないレベルです! 今すぐ向かって……」

「いや、訓練に誘ったのは私の方だ。だから……」

 

 言葉を言い終わる前にアルはゆっくりと歩きだす。

 そして俊介の手から折れていない木刀を優しく取り、懐に収めた。

 

「力になれるかは分からないが、私も一緒に行こう。君の消耗分くらいは補えると思う」

「……ありがとうございます!」

 

 俊介はアルに向かって頭を下げる。

 そして二人は小走りで炎の吹き上がった場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








戦闘描写久しぶりに書いたけど難しすぎる……!!

勇者は勇者らしらかぬダーティーな戦い方だし
当てた攻撃の三分の二が木刀じゃねえじゃん

戦闘書くのがめんどうくさすぎなので次はでっかいビームでドーンくらい簡単なのにしたいです
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