殺人鬼に集まられても困るんですけど!   作:男漢

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#126 おはようございます

 

 

 

「……この辺りかな……」

 

 俊介は先ほど蒼炎が吹き上がった地点までやって来ていた。

 近くの建物には大きな何かが無理やり通ってきたような大穴が空いており、明らかにこの場所で何某かの事件があったことを伺わせる。

 

 だが、他の囚人達は一目でトラブルが起きたと分かるこの現場を平然と通行していた。

 ……さすがこの刑務所に来るだけあって、多少のトラブルはなんとも思わないくらい肝が据わっているらしい。

 

「とりあえず、近くの誰かに聞き込みをしてみようか?」

 

 アルが懐の木刀に手を添えつつそう言う。

 なんで聞き込みをするのに木刀に手を添えるんだよ。どんな聞き込みをする気だ。

 

 俊介は彼が木刀を抜こうとするのを手で諫めつつ、首にもう片方の手を当てる。

 

「いやいやそういう物騒なのは……。とりあえず、こういう魔法に詳しい奴が中にいるから聞いてみますね」

「中? ……ああ、人格のことか」

「そうですそうです。……あー、悪いキュウビ、ちょっと聞きたいことあるから出てきてくれ」

 

 静かに中に呼びかけると、何の音もなく唐突に姿を現すキュウビ。

 死に様ですら衆人を魅了したと言われるその美貌と凛とした雰囲気……が欠片もない、地面にだらんと寝そべった状態で目の前に現れた。仰向けになり、地面に打ちあがった魚のような目を浮かべている。

 

 俊介は首から手を離し、地面に転がる彼女に声をかける。

 

「何寝転がってんだよキュウビ」

『…………』

 

 

 声をかけた瞬間、キュウビが地面に寝たままゴロゴロと足元まで転がってきた。

 俊介はちょっとだけビクッとしつつ、身をかがめて足元のキュウビに顔を近づける。そして静かな声で彼女に問いかけた。

 

「さっきさ、キュウビの道術と同じような蒼炎が吹き上がっただろ? それについて少し聞きたくてさ。もし出来るなら、知雫の居場所を追跡したり……」

『……わらわ、協力したくない』

「え?」

 

 彼女の口から飛び出した否定の言葉。殺人鬼のみんなへの要望をこうもきっぱりと断られることはとても珍しい。

 俊介は小首を傾げつつ、彼女に話の続きを促す。

 

「なんで協力したくないんだよ、何かあったのか?」

『だってアイツが助かったら、また狭い監獄で俊介と知雫の男女二人生活が再開するわけじゃ。なら、奴にはこのまま消えてもらった方がわらわは嬉しいのう。じゃから協力する義理はないのぉ~』

「はぁ? お前……何拗ねたこと言ってんだ」

 

 俊介は呆れたような声色でそう言う。

 

 今の返答で彼女は協力したくないと言っていたものの、さっきの蒼炎を吹き上げた主が知雫だと断定するような言い方をしていた。蒼炎の主が知雫だと分かっていないと『知雫にはこのまま消えてほしい』なんてワードが言えるはずもないし。

 おそらくだが、キュウビには知雫の居場所が分かる方法があるんだと思う。だからキッパリと協力を拒んでるんだ、自分が協力すると確実に知雫が助かってしまうから。

 

 ……このまま口八丁で彼女が協力してくれるように持っていけるといいんだけど。

 そんな俊介の淡い思いもつゆ知らず、キュウビは声を荒げて言葉を返してくる。

 

『拗ねてなんかないわ~い! なんで俊介までわらわを否定するんじゃあ!!』

「否定してないって。後でいくらでも付き合うから今は協力してくれよ」

『いやぁ~いやじゃぁ~~ッ!!』

 

 キュウビは両腕を大きく振り回し、声のボリュームを一気に上昇させる。

 

 

『やだやだやぁ~だぁあ~!! 協力したくなぁい!! あの知雫クソのせいでわらわはもう頭の髪の毛が全部禿げ上がりそうなんじゃ!! 狭い監獄で俊介と生活を共にするわ、俊介に魅了の術をかけようとするわ、挙句の果てに俊介のファーストキスを奪いやがったんじゃぞ!! 協力なんて嫌じゃ嫌じゃ、嫌と言ったら嫌なんじゃ!! もう、むっきぃぃい~~~ッ!!!』

 

 

 身長約180センチの傾国の美女が、地面に寝転がって髪を振り乱しながら本気で駄々をこねている。

 しなやかな足でバンバンと地面を叩き、長い両腕と細い指を空中をかき混ぜるように振り回す。あまりの暴れっぷりに体が大きく左右に揺れ、目は完全に血走っていた。

 

「…………」

 

 そんな彼女を見て俊介は完全に引いていた。眉間にしわを寄せ、思わず一歩後ずさっている。

 昔からメンヘラというか何というか、面倒くさい気質はあったけど、ここまで荒れているのを見るのは初めてだったのだ。

 恥も外聞も捨て去ったそのみっともない姿に、傍にいたヘッズハンターが思わず言葉を漏らす。

 

『今日は一段と酷いな、このメンヘラ狐野郎』

「メンヘラ狐って呼び方は……うん……その、あんまり良くないとは思うけど……」

『でも当たってるだろ』

「…………」

 

 俊介なりの無言の肯定だった。

 地面で暴れ狂うメンヘラ狐とはまさに言いえて妙である。狐とかわいらしい呼び方をするにはいささか体躯がデカすぎるが。

 

 しばらく彼女を静観していた俊介とヘッズハンターだったが、どこから体力が出てくるのか、一向に収まる気配がない。

 二人は互いに顔を見合わせて肩をすくめる。

 そして俊介が意を決し、再び彼女の近くでしゃがみこんだ。

 

「おいキュウビ。俺たち以外には見えてないけど、もう恥ずかしいからやめろって。見てる方が辛いよ」

『うぇぇ~!! いやだいやだ、俊介が今すぐわらわに熱いキスをしてくれないと嫌じゃ~ッ!!!』

「人格体のキュウビに俺は触れないんだって」

『気合で何とかしてくれたも~ッ!!』

「無茶苦茶言うなよ……うん?」

 

 俊介がふと気配を感じ、顔を上にあげる。

 そして突然言葉が止まった俊介に異変を感じ、キュウビがパチリと目を開けたその瞬間。

 

 

 

 ――――ドゴォンッ!!!

 

 

 

 キュウビの顔面があった場所に勢いよく拳が突き刺さった。

 間一髪で拳を回避したキュウビはすぐさま立ち上がり、拳を放った主に対してマジ切れする。

 

『おまっ、()()()()()、殺す気かぁッ!!』

『ええ、もちろん』

『普通に即答するなッ!』

 

 彼女の怪力の拳がキュウビに当たっていれば確実に顔面が陥没していただろう。それくらい本気(マジ)の一撃だった。

 エンジェルは翼をパタパタと動かしながらゆっくりと拳を抜き、顔に血管をピキピキと浮かばせながらキュウビを睨む。

 

『俊介がせっかくあなたに頼んでいるのですから、大人しく協力しなさい。でないとストレスで禿げ上がる前に私が髪の毛を全てむしりますよ』

『嫌じゃッ! わらわは俊介との未来のために、知雫を見捨てると決めたのじゃッ!!』

『いいえ、知雫など子細どうでもいいのです。俊介のお願い()()()大人しく聞けと言っているのですよ、このメンヘラ狐ッ!!』

 

 拳を強く握りこんだエンジェルがキュウビに殴りかかる。

 瞬間、彼女の拳をガードしようと炎の盾の術を発動したキュウビ。

 

 だが炎の盾を余裕でぶち抜いた拳が顔面に突き刺さり、メンヘラ狐は遥か彼方へ吹っ飛んでいった。

 

 

 …………。

 

 

「いや、キュウビを殴り飛ばしちゃダメじゃん! 今から協力して貰うんだから!」

『あ』

『何が『あ』だよ。キュウビと同レベルのことしてんじゃねえって、エンジェル』

『わ、私としたことが…………』

 

 表情が一瞬で悲壮感あふれるものに変わり、両手を地面について落ち込むエンジェル。めっちゃ落ちこんでる。

 そんな彼女からヘッズハンターは目を逸らし、キュウビの飛んで行った方を見た後、俊介に耳打ちする。

 

『俊介。あの一撃じゃあキュウビの奴完全に気絶しちまってるよ。しばらくは起きてこないな』

「マジかよ。……仕方ない」

 

 一番の頼りだったキュウビが殆ど人為的な事故で沈んでしまったが……まあ仕方ない。見たことないくらい荒れててあれ以上協力してくれそうにもなかったし。

 

 

 

 

 

 俊介は頭を横に振りつつ、近くにいたアルに申し訳なさげに話しかける。

 

「すみません。ちょっと魔法に詳しい人格に相談してみたんですけど……その、あんまりいい結果が得られなくて」

「そうか。まあそれはいいんだけど……なんか大丈夫か? 随分揉めてるように見えたが」

「大丈夫です。ヘラってただけなんで」

「ヘラ……? ま、まあ大丈夫ならいいんだが」

 

 少しだけ小首を傾げつつも納得するアル。

 俊介は先ほどのキュウビの痴態をなるべく頭に思い浮かべないようにしつつ、彼女から得られた情報をアルに伝える。

 

「それと、ここで吹き上がった蒼炎の主は俺の思ってた『知雫』で間違いないみたいです」

「そうか。私の認識では、知雫って女性は闘技場の関係者ってイメージなんだが……」

「はい、その人ですね。昨日起きた事件を機に縁を切ったみたいですけど」

「…………」

 

 考え込む様子を見せるアル。

 そして数秒も経たないうちに顔を上げ、俊介に向かって言葉を吐く。

 

「証拠なしの予想だが、闘技場の面々が絡んで来たんじゃないか?」

「……やっぱり闘技場関連が怪しいですよね」

「縁を切ったと言っても昨日の今日だ。何か手を出してきても全くおかしくはないだろう」

 

 うーん。

 やっぱり今の知雫に絡んでくるとしたら、闘技場関係しかないよな。

 俺のまったく知らない勢力から恨みを買ってる可能性も考えたけど……。

 知雫の性格的に、そんな勢力を生かしておくわけがなさそうなんだよな。闘技場の後ろ盾があった時に粉みじんに叩き潰してそうだ。

 

 俊介は頭の中で色々考えるが……ただ考えるだけで立ち止まるより、さっさと行動したほうがいいと気づく。

 特に今の闘技場はド級の女嫌いで有名な厭勝が仕切っているのだ。

 今この場に死体は見当たらないが、どこかに運んで殺される可能性もある。

 

 …………。

 

 でも厭勝の性格的に、どこかに運んでから殺すなんて七面倒くさいことをやるだろうか?

 ウィザードから聞いた話の通りの性格なら、連れ去らずにその場で即殺しそうな気もするが……。

 

 ……いや、今は考えていても仕方ない。

 

「とりあえず、闘技場に突っ込んでみませんか。そこに知雫がいれば早いですし、いなければ他の人から話を聞き出せるかもしれません」

「そうだな。行ってみようか」

 

 俊介とアルは顔を見合わせ、闘技場のある北区の方へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『確かに今はそれが最善策なんだろうけど、あの二人も大概脳筋だよな……。要はあれ、闘技場に殴りこむってわけだしさ』

『私が……私が……』

『お前もいつまで落ち込んでんだエンジェル。さっさと立って走らないと壁にぶつかるぞ、足遅いんだから』

『私だって時速六十キロくらいで走れます……! あなた達が速すぎるだけです……!!』

『俺の十分の一じゃあなあ。ほら、行くぞ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――北区。

 

 

 闘技場のテントを越えて更に奥にある、闘技場の倉庫として使用されている一階建ての建物の中。

 参加者に貸し出される廉価な武器や、補修用の鉄網が乱雑に置かれている。照明は裸電球が天井からいくつかぶら下がっているだけで、部屋の中は足元が良く見えないくらいに暗い。

 

 そんな薄暗く狭い部屋の中。

 知雫は頭からどくどくと血を流しながら、ゴツイ鎖を幾重にも体にまかれ、柱に縛られていた。

 

 行動こそできないが、意識はハッキリしている。

 彼女は目の前で椅子に座っている、自分を襲った下手人をキッと睨みながら言葉を吐いた。

 

「あー、いって……。……よくもやりやがったな、赤ずきん」

「……それはこっちの台詞ダ」

 

 重い声でそう答える赤ずきん。

 そんな彼の左腕は酷く焼けただれていた。素人が一目見ただけでも重度の火傷と分かるほどの傷だ。

 空気に触れるだけで想像を絶する痛みが走るはずだが、赤ずきんは平然とした声色で言葉を紡ぐ。

 

「久しぶりダ。こんな反撃(カウンター)を食らったのハ」

「はっ。もう少し狙いがズレていれば頭も焼けたのにな」

 

 知雫は赤ずきんの一撃を食らう直前、カウンターで蒼炎の柱を撃ったのだ。

 僅かに狙いが逸れて彼の攻撃を止めることは叶わなかったが、左腕を焼くことには成功したのだった。

 

 知雫は体内で道術を使用するための魔力を回し、頭から流れる血を抑え込む。

 そして脱出の機会を窺いながら赤ずきんに話しかけた。

 

「一体誰に雇われた? ……ここは闘技場の倉庫だし、闘技場の関係者だろ」

「…………」

「でも厭勝ではないな。もしアイツの依頼なら、女の私は今頃真っ二つになってるはずだ」

「…………」

「となると……元ナンバースリーだったあの阿呆か? 私のすぐ下の序列だったあの無能。……今は私がいなくなったから、ナンバーツーに昇格してるか」

「ム…………」

 

 手斧の焦げを指で落としていた赤ずきんがピクリと反応し、声を漏らす。

 それを見た知雫はせせら笑うような声を口から出した。

 

「はっはっは……お前、わっかりやすい奴だな」

「……腹芸は苦手ダ。やはり、俺には金と殺しだけが似合っていル。それしか取り柄がなイ……とも言えるがナ」

 

 赤ずきんがポリポリと後頭部をかきながらそう言う。

 そして焦げを落とした手斧を腰のホルスターにしまい、左腕の肩のあたりを右手で掴む。

 

「ムッ……!」

 

 彼が低く声を漏らしながら力を込めた瞬間、焼けただれた左腕の表面ががぼこぼこと沸騰したように泡立ち始める。

 そして焼けた皮膚の泡が弾けるたびに、その下から綺麗な皮膚が顔を出す。

 

「……おいおい、なんだその再生力は……」

 

 知雫が思わず声を漏らし、目を見張る。

 十秒も経った頃には、赤ずきんの真皮まで至っていた火傷が影も形もなく完治していた。

 彼は軽く左腕を動かして調子を確かめた後、何事もなかったように腕を組む。

 

「…………」

「なあ赤ずきん。今からでも私に雇われないか? ちょうど今、お前に頼みたい仕事があるんだが」

「仕事の遂行中に他の仕事は受けなイ。俺のポリシーダ」

「はいはい、お堅い奴だな。だから信頼されて仕事が来るんだろうけどよ」

 

 知雫は大きく息を吐く。

 頭から流れる血は次第に止まり始めていた。他人の治療はできないが、自分自身の止血くらいなら何とか可能なのだ。……流石に腕が千切れたりするとどうしようもないが。

 

 ようやく出血が止まったことで頭の中がクリアになり、脱出に向けて頭を巡らせ始める知雫。

 

 体を拘束する鎖を焼き切るのは不可能ではない。

 だが目の前にいる赤ずきんが厄介だ。焼き切ろうとしている間に頭をぶん殴られるのがオチだろう。

 

 かと言って、拘束された状態で赤ずきんを仕留めるのも難しい。

 今回は私の生け捕りが依頼っぽいが、普段はこの刑務所内で殺しの依頼がいくつも舞い込んでくるような男だ。動けない状態で倒せるほど甘い相手ではない。

 それにさっきの再生力を見るに、一発全身を焼いたところで余裕しゃくしゃくで動いてきそうだ。

 

 

 ……悔しいが、赤ずきんがいる限りどうにも行動はできないか……。

 私の力不足か……。こんな体たらくじゃ、朱雀の奴に勝つなんて夢のまた夢だな……。

 

 

 ……誰か助けに来てくれるかな?

 

 

 馬鹿が。

 そんな期待をするだけ無駄だって、前の世界でも、今の世界でも思い知ってるはずだ。

 結局、どの世界でも『力』を持ってないと何にも果たせないって……。

 

 

 

 

 知雫が無念さで静かに歯噛みしていると、建物の扉が静かに開いた。

 顔を上げると、そこに立っていたのは見知った顔の男。……元々闘技場の運営として、自分の直下で働いていた男だ。

 名前は『フラヴェ』。……とにかく間抜けな男だ。

 

「これはこれは、知雫さんじゃないですか……。随分なお姿ですねぇ?」

「やってくれたな……フラヴェ。赤ずきんに依頼するだけの金を何処から工面した?」

「ナンバーツーともなれば、それなりにお金は用意できるんですよ。それに今回は()()()直々の仕事ですからねぇ、予算はたっぷりです」

 

 言葉の語尾から無能さが漏れている奴がよくナンバーツーになれたもんだ。

 こいつはいずれ厭勝に粛清されるな。

 

 それにしても、厭勝から直々の仕事か……。

 それなら赤ずきんに依頼するためのバカ高い金を用意できたのもうなずける。元ナンバーツーの私がうろちょろ生きてるのも鬱陶しいだろうし、新しいボスの厭勝からすれば私を殺す動機は十分だ。

 

 

 知雫は赤ずきんの動向に気を配りつつ、必死に脱出の方法を探る。

 フラヴェは間抜けだ。赤ずきんさえどうにかできれば脱出はできる。

 

 殺されるまでの時間稼ぎのため、フラヴェに話を続けさせるような言葉を吐く。

 

「……厭勝から『私を始末しろ』とでも言われたか。にしては、私を生かしてる理由が見当たらないが?」

「そんなの、たった一つしかないじゃありませんか。……おいお前ら、入ってこい」

「…………」

 

 フラヴェが合図した瞬間、扉から数人の男たちが入ってくる。

 赤ずきんには及ばないものの全員それなりに体格がいい。知雫も身長が170後半くらいあるが、それより頭半分くらいは大きい奴らばかりだ。

 

 そして入ってきた男たちは全員、下品な欲望の入り混じった視線を知雫に向けている。

 その視線を察した知雫は、つまらない未来を予測してため息を吐いた。

 

「まったく……厭勝の仕事のついでに、私を辱めてから殺すつもりか? いい趣味してるな」

「フフフ。あなたはボスの愛人としてお高くとまっていましたからね……死ぬまで存分に楽しませていただきますよ」

「ハッ……」

 

 乾いた息を吐きつつ、知雫は内心でほくそ笑む。

 汚い男どもに体を許すのは癪だが……奴らが私を凌辱する合間のどこかで隙ができるはず。そこを突いて逃げ出せばいい。

 

(……チッ。朱雀の野郎なら、体に指一本触れさせずに上手くやるんだろうがな……)

 

 内心でそう吐き捨てつつ、体に触れられる覚悟を決める。

 

 

 そんな風に、知雫が体を許す覚悟を決めたのに興奮のボルテージが上がったのか。

 フラヴェは周囲の男たちと顔を見合わせ、笑みを漏らしながら話を続ける。

 

「いいですねぇ、その顔。あなたのそんな顔が見たくてこの催しを企画したんです」

「……催しだぁ?」

「そうですよ。あなたが辱められながら死ぬまでの姿を、()()()()()()()()()()()と思いましてね! あのお方は女性嫌いですから、あなたが苦しみ死ぬまでの姿を喜んで見てくださるでしょう!!」

「…………」

 

 

 …………?

 

 

 ちょっと待て。

 今こいつ何て言った?

 

 

「おい、この間抜け。お前今、私が辱められる姿を厭勝に見せるって言ったか……?」

「厭勝()ですよ」

「良いから答えろよ」

「ですから、さっきも言った通りですよ。あなたが苦しみながら死ぬまでの姿を厭勝様に見せる催しを企画したと。是非とも楽しい姿を見せてくださいね? お前たちも、存分にやりなさい」

 

 フラヴェはニマニマとした顔を見せながら、連れてきた男たちにそう指示する。それを聞いた男たちは我慢できないと言ったように息を荒げ始めた。

 

 

 

 ……それとは対照的に。

 

 

 

 知雫は困惑が一周通り越し、頭の中が真っ白になりながら、口から言葉を漏らす。

 

 

「…………はあ…………?」

 

 

 ド級の女嫌いの厭勝の前で、私を辱める?

 こいつ何言ってんだ。

 馬鹿なのか。

 そんなことすりゃ、どんな結末を迎えるかなんて小学生のガキでもわかるだろうに。

 

 

 知雫はあまりの馬鹿さ加減にカッと頭まで血が上る。

 そして先ほどまで考えていた脱出への打算など頭からすべて吹き飛び、口からフラヴェに向けての罵詈雑言が飛び出した。

 

「この生きる価値もない生ゴミ以下の馬鹿が……! お前がそこまで頭の回らない無能だとは知らなかったよ!」

「はぁ? 何を言って……」

「分からないか? このままだとお前は厭勝の特大の地雷を踏みぬいてぶち殺されるって言ってんだよ。私もろともな!」

 

 困惑した様子のフラヴェ。さっきまで一方的に殺す側だと信じ込んでいた自分が、もしかすると殺されるかもしれない側に回ったのだ。

 少し考えれば気づくようなことに気づかない阿呆に苛立ちながら、知雫は言葉を吐く。

 

「今すぐ私を解放しな。そうすりゃこの場から逃げてやる。じゃないとお前、マジで殺されるぞ」

「そんなの……!」

「さっさとしろって言ってるのが聞こえねえのかこの間抜け!! 自分の命がかかってんだぞ、さっさと判断し――――」

 

 

 

 

 ――――知雫の吠えた声もむなしく。

 

 

 絶望の足音と共に、フラヴェ達の後ろにある扉がもう一度、静かな音を鳴らして開く。

 

 

 

 

 

 

 

「――――皆さん、おはようございます」

 

 

 

「私に是非とも見せたい催しがあるという話ですが……一体何でしょうか、フラヴェさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






めんどくせぇ女のキュウビ

なぜか超級女嫌いの男の前で辱め殺すために捕まえられた知雫

何も知らされずに朝っぱらから倉庫に呼び出された厭勝
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